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今回は三人称でお送りします。
(ナラカの予想した通りだったか。中央制御室は既に黒幕の手中に堕ちていた)
イヴリンがアトリウムから離脱したのちに向かったのは、アキラとリンの下。
そして、合流した後は、スターループの中央制御室へ。
会場の監視カメラ映像が集中しているだけでなく、会場の航路やバランスを制御する浮上・推進制御システムも集約されている場故に。
三人が目撃したのは、制御を担っていたスタッフの倒れ伏した姿。
幸い、命に別状はなかったが薬でも使用したのか、コンサートが終了するまで意識を取り戻すことはないだろう。
それ以上に厄介だったのは、制御システムのディスプレイに表示されたカウントダウン。
イヴリンに確証はなかったが、ナラカの伝えた黒幕の思惑を考えれば、爆弾が起爆するまでの時間と見た方がいい。
実際、ナラカの言葉を聞いていないアキラとリンでさえも、カウントダウンに同様の連想をしていた。
更には、アストラを狙うフーガの手先の姿も。
通信回路が切断され、アストラの連絡も取れなかった三人の選択は役割の分担。
カウントダウンの停止はアキラが、アストラの安全の確保はイヴリンとリンが。
今は、先行したイヴリンがステージへとひた走る。
通路を駆け抜け、観客席へ至ると、客達は熱狂と困惑の中にいる。
エーテルエネルギーによって浮き上がるステージの中央では、アストラがフーガの手先を相手に大立ち回りを演じていた。
プログラムにはなかった演出、と勘違いした客はまだ自らの置かれた危機に気付いていない。
その中を、イヴリンは一度も立ち止まることなく観客席から飛び出した。
今まさにアストラの背後から殴り掛からんとする手先の腕にワイヤーを巻き付け、飛び掛かる────!
「お嬢様……!」
「ぶっへぁ──!?」
「すまない、遅くなった……!」
「イヴっ! 待ってたわよ!」
手先の顔面をヒールで打ち据え、ステージへと降り立つとアストラが顔を輝かせて近づいてきた。
周囲にはフーガだけではなく、“組織”の者や金で雇ったらしい荒くれ、ホロウレイダーらしき者達まで。
以前として、状況は好転していない。アストラを守り抜き、最悪の場合は彼女だけでも。
そう考えたイヴリンの前に、一つの影が舞い降りる。
「追いつきはしたが、状況はよくないらしいな」
「……君か!」
「ガウタマに、そのお尻……! 大将ね!」
(((……お尻?)))
巌のような肉体に、異形の兜。
ただ存在するだけで、襲い掛かろうとしていたフーガの手先達が二の足を踏む威圧感。
言うまでもなく、助けにやってきたナラカである。
アストラの奇妙な発言に、ガウタマ含めて首を傾げかけたが揃って黙殺する。
「予想していたより敵の数が多いぞ」
「高帝側の警備は、全員倒されたと見た方がいいようだ」
「フーガを一網打尽にするつもりで引き入れたようだが、数を見誤ったみたいだな」
「ンナッ!(それに、様子のおかしい人達もいるよ!)」
「様子のおかしい人達……? 全員様子はおかしいわよ、ライブ中にステージへ上がってきちゃうなんて!」
「それはそうだが……」
「うん、オレも本気で困惑してるんだが、説明は後にするか。まずは、こいつらからだ……!」
言うが早いか、ナラカは腕を交差させ、日天と月天からワイヤーを射出する。
腕の動きで軌道を捻じ曲げ、アンカーを突き刺すのではなく、手先二人の首へと巻き付けると同時に、思い切り腕を引く。
自然、その頭は引かれた方へと向かい、激突。
思わずアストラが顔を顰めるほど鈍い音が響き、手先二人はステージへと沈む。
「お嬢様、頭を……!!」
「はいっ……!」
「ふっ、はぁ────!」
「ぐっ、ぶああ……っ?!」
アストラの背後から迫る敵を見咎めたイヴリンの身体が翻った。
指示通り、その場にしゃがみこんだアストラの頭上に縄鏢を奔らせ、敵の首へと巻き付け、引き寄せる。
敵は体勢を崩し、攻撃も防御も奪われ、ただ倒されないように慌てふためく。
その無防備な額目掛け、地を蹴ったイヴリンの膝が叩き込まれた。
「二人とも息ぴったりね……!」
「ンナナッ!(アストラ、君も歌うんだ!)」
「よぉ~し! 頑張っちゃうんだから……!」
背を向けて戦う守り手の背後で、アストラは愛用するステージマイクの“ヘミオラ”をステージへと突き立て、その歌声と解き放つ。
アップテンポの曲調は、まるで戦いに舞う二人の鼓舞するかのよう。そして、歌姫もまた、思うままに舞い踊る。
縄鏢とワイヤ-射出装置。
よく似た武装を使うナラカとイヴリンは、戦い方は似通っているが対照的でもあった。
ワイヤーを用いて敵の動きを妨害し、或いは制限するところまでは同じ。
だが、手数と速度で敵手を翻弄するイヴリンに対し、ナラカは生じた敵の隙に重い一撃を捩じ込む。
イヴリンは速度の乗った蹴りとナイフを多用し、ナラカは拳や肘、膝で急所を抉る。
初めて共闘するにも関わらず、互いに視線を合わせることもなく、次々に敵を地に伏せさせていく。
そのさまはいっそ爽快であり、困惑していた客達でさえ、歌と武闘に熱狂へと天秤を傾けさせていった。
「おぉ、ぁぁ……?!」
「これで、最後だ────!」
「おがぁあ……!!?」
縄鏢を用いて体勢を崩した“組織”の粛清者の顔面にはイヴリンの爪先が、鳩尾にはナラカの肘が叩き込まれる。
粛清者は厚いヘルメットとプレートアーマーを纏っていたが、強烈極まりない両者の一撃は、その上から意識を刈り取った。
「ふふふ、彼の葬儀には相応しい余興だったわ……」
その時、ステージの周囲を回るリングの上に、一人の女が笑いながら姿を現した。
「……誰?」
「ディウィンター夫人。亡くなったヨラン・ディウィンターの奥方だ」
「確かヨランは自殺したんだよな? 旦那が自殺した未亡人を、コンサートなんかに呼ぶかね、普通」
「今回のコンサートは、ヨランの楽曲を使用させてもらってるの。だから、事務所が特別に招待したって……」
「悪趣味だ。放っておいてやればいいものを────ああ、そうか。アンタだな、今回の騒ぎの首謀者は」
「……そんなはずないわ、だって!」
「在り得ない。彼女は、一般人だ。このような真似……」
「帝高にも、フーガにも繋がりがある個人。復讐と考えれば動機も十分だ。必要なのは立ち回りと嘘だけ。実働は、全部フーガにやらせればいい」
「何処の誰かは存じ上げないけれど、聡明ね。そう、貴方の言う通り……」
ディウィンター夫人
テッサ・ディウィンターは、世の無常、ヨランが抱いたであろう無念を滔々と語り出す。
それらは、イヴリンの得ている情報と一致しているものであった。
若き天才ヨラン・ディウィンターの最後は、華やかな活躍と名声に反する自殺。
きっかけは、フーガから帝高に移籍したことに端を発する、二社間の利権争い。
楽曲の使用権、著作権を巡り、二社は激しく対立、現在に至るまで深い確執を残す結果となった。
利権争いの余波を受けたのがヨラン・ディウィンター。
自ら作詞・作曲した歌も思うままに歌うこともできなくなった現実は、彼の心にどれほど深い影を落としたか。
民衆は彼の今後を気にするどころか、インターノット上で無意味な論争とバッシングを繰り広げた。
無論、本気で彼を愛したファンもいた。だが、十の声援が、たった一つの罵倒に駆逐されることもある。
肥大化した欲望、数多の無関心が、ヨランを何処までも残酷に追い詰め、最後には────
移り気な街の全ては
だから、改めてヨランの葬儀を執り行う。彼を追い詰めた全てを巻き添えにして。
彼女の憎悪に塗れた声はイヴリンでさえ背筋を震わせ、観客も静まり返る。
「それを言うために、わざわざ登ったのか?」
「今それ言うの!?」
「そこは触れなくてもいいんだ!!」
「いや、だって危ないだろ、あんなとこ」
「………………っ」
テッサの語る動機を耳にしても、ナラカの様子は普段と変わらないように、イヴリンの目には映った。
思わずアストラもイヴリンも、余りにも場違いな気遣いに、悲鳴じみた声を上げる。
イヴリンにしてみれば、今回の事件の首謀者を刺激しないで欲しかったが、彼は情け容赦なく斬り込んでいく。
「要は死にたいのか、アンタ」
「……私の話を聞いていて?」
「この距離なら勿論聞こえているが、ヨランの葬儀など二の次なのだろう?」
「何ですって……?」
「アンタはヨランが身も心も弱っていくさまを見続けた。成程、確かにその原因を憎むのは当然だ。だが、本当に救う方法が一つもなかったとでも?」
「………………」
「アンタが殺してやりたいほど憎んでいるのは、ヨランを救ってやれなかった自分自身だろうに。葬儀の結果も見届けずに、一緒に墓石に入ろうとしているのがいい証拠だ」
「…………このっ」
馬鹿馬鹿しい、付き合っていられるか、とばかりにナラカは吐き捨てた。
余りにも無情で冷酷な結論は、復讐に酔っていたテッサの表情すらも酷く歪ませる。
けれど、反論の言葉は出てこない。
似たような経験をしたイヴリンには、彼女の気持ちがよく分かった。
人は芯を突かれ、自らの正体、隠していた本心、自身で気付いていなかった気持ちを暴かれれば、押し黙るものなのだ。
憎しみだけが籠もった視線を受けながらも、何一つ気にした様子のないナラカは次の言葉を紡ごうとして……
「いい加減に、しなさーい!!!」
「痛てえなバカヤロー!」
決定的な一言を止めたのは、アストラが彼の兜に向かって振り下ろしたヘミオラの一撃だった。
「大将、助けに来てくれたのは感謝するけど、其処まで言う必要があった?! 貴方には人の心ってものがないの!?」
「オレにそんなものを期待する方が間違ってると思う」
「そういう問題じゃありません! 大将の人でなし! 分からず屋! いいお尻!!」
((((……お尻?))))
アストラが、テッサのために本気で怒っていたのは、イヴリンには分かる。
意図しないままに庇われたテッサでさえも、余りの形相に困惑するほど。
それ以上は言ってはいけない。
テッサのためだけでなく、ナラカのためでもあるようで。
どのような名声を得ようと、どのような高みに至ろうと。
決して人を見下すことなく、心のままに動けることがアストラの魅力であり、それが空虚であったイヴリンを変えたもの。
アストラの形相に怖気づいたと言うよりも、その在り方を認めるかのようにナラカも溜め息をついた。
「そうかよ。どの道、アンタの言う葬儀ももう終わりだ。誰の予定通りにも進まない」
「何を馬鹿なことを、貴方に止められるとでも……?」
「いやオレじゃないんだよなぁ。言うのが遅くなってすまん。立て込んでたんでな。…………あの、なんか、讃頌会、来てる」
「「「────は?」」」
ナラカが視線を逸らしながら放った一言に、イヴリンだけでなくアストラもテッサも目を丸くした。
「しかも、なんかオレが狙いっぽい」
「どういうことなの?!」
「何故もっと早く言わない!」
「貴方なんてことしてくれてるの!?」
「そう言われてもオレにも心当たりがなくてェ。敵倒してたり、黒幕が現れたからそっち優先しちゃってェ。タイミング逃しちゃってェ」
「「「あっ」」」
ごにょごにょと見苦しく言い訳をするナラカを余所に、ステージ上へと飛び上がってくる三人の男達。
服装こそフーガが雇った荒くれと変わらないが、顔には白いペンキで彼等のシンボルが描かれている。
「おお……主よ、今こそ我が使命を果たします……」
「司教様の神託に従い、貴方への信仰と生贄を……」
「どうか、お受け取り下さい……」
『え? なんで讃頌会が?』
両手を広げ、天を仰ぐように各々の祈りを捧げる狂信者の姿に、会場の心は一つになった。
「「「始まりの主よ、再創を……!!」」」
利権争い、確執、熱狂、復讐、葬儀。
絵に描いたような混沌に、更には狂信さえも加わって。
事態は、最早誰もに終結を予想できぬほどに、加速していった。
讃頌会。
マジでこいつらだけ生き生きしてる。司教が中心になって、ヤヌス区の信徒が動いている模様。
テッサ・ディウィンター
復讐の邪魔をされるわ、ナラカに図星突かれるわの可哀想な人。え? なんで讃頌会が?
アストラ
え? なんで讃頌会が? というかなんで大将を狙ってるの!?
イヴリン
え? なんで讃頌会が? 何故君を狙っているんだ!?
ナラカ
讃頌会は生き生きとしていて羨ましいな。理由も言わずにオレ狙うのやめてもらっていいかな、マジで。
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