終末世界のラーメン屋台の店長さん   作:一反木綿豆腐

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スターズ・オブ・リラとリンと居酒屋メニュー

 

 

 

 年末を無事に超え、今は年明け。

 三が日──この街の人間には伝わらないが──も終わり、世間も日常へと戻り始める頃合い。

 オレは夕暮れ時にスーパーで買い物を終え、仕事場へと戻っている最中だった。

 

 結局、スターループの一件以後、オレにもアキラ達にも讃頌会からの襲撃もなく、周辺を探られている様子もない。

 朱鳶さんもちょくちょく顔を出してくれているが、捜査に進展はないそうで。

 

 分からないことは考えても仕方がないので、一旦保留。

 待っていれば相手の方からやってくるだろう。関わりたくないが、こちらに手を出すと言うのなら痛い目を見せてやろう。

 

 なんてことを考えながら、いつの間にか辿り着いた仕事場の外階段を昇っていると休憩室から笑い声が聞こえてくる。

 嫌な予感を憶えながら、玄関を開けると考えていた通りの連中がいた。

 

 

「あ、ナラカ、おかえりー!」

「お邪魔してるわ、大将♪」

「…………その、すまない。あがらせて貰った」

「ちょっと開けてただけなのになんかいる!」

 

 

 中にいたのはリンとアストラとイヴの女三人。

 しかもソファやカーペットの上に座って寛ぎ放題。嘘だろ、30分くらいで帰ってきたはずなんですけど……!?

 

 

「おい、ガウタマぁ! 何やってんだ、この役立たず……!」

「ンナナナナナナナッ!!(んほほほほほほほぉ、お金お金!)」

「コイツ買収されてやがる!」

「ンナナッ、ンナ!(ほらナラカ、お客様だよ、早く準備!)」

「ふざけんな! 何の準備だよぉ! 何のぉ!」

「今日はアストラさん達と女子会の予定だったんだ! ナラカ、料理お願い!」

「何も聞いておりませんがぁ!? 女子会って、飯作ったら出てけってのかお前ら! ここオレの仕事場ぁ!!」

「だから、今日は特別に大将を女子としてカウントするから、お願い!」

「おい、オレちゃんと怒った顔できてるかなぁ!?」

 

 

 何様だコイツら、ふざけやがって……!

 

 大体、金なんつったって高が────しれておりませんね、これは。

 先程からガウタマが手でペシペシ捲っているディニーは明らかにオレの一日の稼ぎよりも上。

 こんな金出すなら上等なバーでも行けただろうが、そっち行けよ……!

 

 と思って、イヴを睨みつける。

 

 あの一件後、治安局と司法取引をしたらしく、問題なくアストラの傍でこれまでの関係を続けているとアキラ達から聞いていた。

 オレもおーおーよかったな、などと思っていたのだが、こんな真似をされてはそんな考えも吹き飛ぼうというもの。

 

 で、肝心のイヴはと言えば、すっと目を逸らした。

 

 

「おい、ストッパー! お前がしっかりしねーとコイツ等止まらねーぞ!!」

「私も止めた。だが、お嬢様の人気は鰻登りだ。厄介なファンやパパラッチに追いかけ回されかねない下手な店を選ぶよりも、君の料理の腕は確かかつ傍ならば安全と判断した(キリッ」

「何キリッとした表情で言ってんだ! お前、押し切られただけだろうが……!」

「…………そうとも言うな」

「そうとしか言わんがぁ!?」

 

「「かんぱーい!」」

 

「もう飲み始めてる!?」

 

 

 


 

 

 

「おらよ、これで最後だぞ、っとぉ」

「ほほぉ~、流石ナラカ、美味しそ~」

「好きなだけ食え。カロリー計算してねーからデブのもとだ」

「もー、大将ったら辛辣ぅ。でも、今日は女子会だからチートデイも同然なので気にしません!」

 

 

 机の上に並べたつまみの数々に、リンとアストラは目を輝かせた。

 

 シーザーサラダ、枝豆、厚切りフライドポテトとディップの明太マヨと粗挽きマスタードソース。焼き肉のタレを使って焼いたウインナーのチーズ乗せ、刺身の盛り合わせ、タレと塩の焼き鳥。

 

 つい先ほどスーパーで買ってきた食材と家にあったもので作ったにしては、それなりに居酒屋っぽいメニューになったのではないだろうか。

 

 

「すまないな、何から何まで」

「そりゃどっちの話だ……?」

「ふふ。どちらも、だな」

「…………どちらも頼まれたからやっただけだ。謝罪も礼もいらねえよ」

「いや、礼は言わせて欲しい。本当に助かったよ、ありがとう。君がいなければどうなっていたことか」

「どうだか、讃頌会の介入なんて予想しようがない。いずれにせよ、収まるところに収まって何よりだ。これに懲りたら、失敗も秘密も素直に明かすことだな」

「耳が痛いな。激痛だ」

「痛みがなけりゃ覚えないのが人間だ。よかったな、二度と忘れんだろうよ」

 

 

 言葉とは裏腹に、イヴの表情は晴れやかだ。

 憑き物が落ちたかのようで、これならもう心配はいらないだろう。

 

 リンとアストラは安い発泡酒を飲んでおり、イヴも安物のワインを開け始める。

 

 グラスを差し出されたが、辞しておく。

 ぐでんぐでんに出来上がったリンの、下手をすればアストラの面倒まで見なければならない。別に酒も好きではない。どうせ、いくら飲んでも酔わないし。

 

 

「んー、シーザーサラダも美味しいし、ポテトもかりふわ、ディップも最高だわ!」

「むむ、このウインナーもいいね! 味が濃いかと思ったけど焦がしたチーズでまろやかになってる! 肉汁が堪んないよぉ~~~!!」

 

「「ごくごくごくぅ! ぷっはぁ~~~~♪」」

 

「これが年頃の女と歌姫の見せていい顔かよ」

「ふふふ、それだけ安心していると言うことだ。さて、私も頂くとしよう」

「刺身を食うなら、これ使ってみろ」

「これは……白醤油か?」

「いや、煎り酒。白身魚が多かったからな」

「いりざけ……?」

「なになに、大将! また私の知らない美味しいもの?」

「舌に合うかどうかは知らんが、まあそれなりには」

「へぇ~~~~、じゃあ私も……!」

 

 

 煎り酒は、酒に梅干し、昆布、鰹節を入れて、半量になるまで弱火で煮込んで作る万能調味料。

 ポイントは梅干しの種はえぐみが出るので取り出しておき、昆布が柔らかくなるまで火にかけないこと。

 

 相当古い歴史があるらしく、醤油が普及する以前によく使われたのだとか。

 ラーメンに使えるものが何かないか探している時に、文献で見かけたので再現してみた。

 

 興味津々の様子でアストラとリンも覗き込んできて、三人揃って刺身につけるとパクリと一口。

 

 

「……! ほう、これは醤油よりも塩気が少なくて、魚の甘味が引き立つな」

「梅干しの酸っぱさもアクセントになっていていいわね!」

「あ~、鰹節の香りと昆布の旨味も引き出されてて美味しい~!」

「塩分も少なくて酒のコクがあるから、何にでも会うぞ。豆腐にかけてもいいし、パスタにも使えるし、オイルと混ぜて使ってもいい」

「これはダイエットにいいかも! イヴ、今度作ってちょうだい……!」

「ふむ。塩分も控えめ、カロリーも少なくヘルシー。悪くないかもしれん、レシピを教えてくれるか……?」

「イヴリンさん、料理も出来ちゃうんだ。流石、出来る女~……!」

「ナラカのお陰だ。私に料理の師がいるとしたら、彼だからな」

「師ってほどでもないだろ。何処かの誰か達と違ってやる気と常識があっただけだな」

「お? ナラカ喧嘩売ってる? 売ってくれちゃってる?」

「あ~、大将、女なら料理くらいできて当然と思ってるでしょ! 偏見よ、偏見!」

「女云々じゃなくて、料理くらいできなきゃ恥ずかしいぞ、人として」

「「人として!?」」

 

 

 愕然とする二人を余所に、過去を思い出す。

 確かに、イヴに料理の手ほどきをしたのはオレだ。

 

 何があったのか、アストラに料理を振舞おうとして失敗したと聞いた。

 その意気消沈ぶりに見かねて、基本の基本を教えてやったことがある。

 包丁で切るときは抑える方は猫の手だの、加熱は焦がさないために弱中火からだの、適量は調整のためだから味見をしながらだの。

 

 その程度のものだったが、イヴは色々と思うところがあったのだろう。メキメキと上達していった。

 今ではアストラの食事を全て管理しているほどの、カロリー計算も栄養バランスも完璧の域。

 

 やはり何事もやる気だ。

 アストラはどうでもいいが、リンとアキラにもこのくらいは見習ってもらいたい。

 二人の腹を満たしてやるのがオレの役割だが、オレだって何時まで一緒にいられるか分からないんだから、それくらいは、なあ?

 

 ぎゃーぎゃーとオレの服を掴んで引っ張りながらみっともない言い訳を繰り返すリンとアストラは無視しておく。

 喧しい二人を微笑みながら見つめていたイヴだが、ふと思い出したかのように何かを取り出した。

 

 

「ああ、そうだ。スターループの件もあるが、他にも世話になっているからな。これは礼の品だ」

「品ぁ……? いや、別にそういうのは……」

「ナラカぁ、そういうプレゼントはちゃんと受け取りなよぉ!」

「そうよぉ、イヴの気持ちよ、気持ち!」

「見返りが欲しくて助けたわけじゃないし、好きにやっただけなんだが……」

「気にするな。大したものでもないからな。私がそうしたいから、そうしているだけだ」

 

 

 リンもアストラも、やんわり拒否感を示すオレを責めるように見てくる。

 

 いやだってなぁ、結局はオレの行為など何処まで行っても自己満足だ。

 勝手に割って入って、勝手に助けて。それで終わればいいが、そこで見返りを求めるのは醜悪の極みだろうに。

 

 チラリとイヴの顔を盗み見れば、微笑んでこそいたが美しい紫紺の瞳には僅かに不安の色が浮かんでいる気がした。

 この状況では、受け取らない方がイヴの好意を無碍にしたも同然か。あまり気乗りはしないが、受け取っておくことにしよう。

 

 

「何だか悪いな。ありがとう。ありがたく貰っておく」

「ちょっとぉ! さっと仕舞うなぁ! ちゃんと中を確認しなよ!」

「えぇ、こういうのはさぁ、貰った人間の前で開けるの失礼、失礼じゃねえ?」

「いや、開けない方が失礼よ! プレゼントした方は反応がみたいのよ!」

「そうかい。分かった、分かったよ。開ければいいんだろ、耳元でがなるな」

 

 

 左肩はリンが、右肩はアストラが掴み、押しては引っ張りを繰り返してきて、頭が揺れるシャツが伸びる。

 

 いい加減鬱陶しくなり、二人に促されるままイヴから渡された包みを開けていく。

 中には、箱が二つ。わざわざ二つも用意してくれるとは、申し訳なさがじわじわと滲んできた。

 

 

「これは、ライターね」

「おぉ、蝶のデザインと反対側は炎とナラカの兜になってる……!」

「いや、これは蝶じゃなくて蛾だな。触覚の形が違う。こんなデザインのジッポないだろ。わざわざ彫らせたのか? 高かっただろ」

「そうでもなかったさ。君が使っているものは随分と使い込んでいるようだったのでね」

「そりゃまあ…………」

「あ、もしかして私とお兄ちゃんに気を遣ってる? 別にいいよ、ほら飾り台も一緒に入ってるし、こっちに飾っときなよ」

 

 

 ポケットから古びたジッポを取り出し、リンの顔を見る。

 

 これはリンとアキラからのプレゼント。

 誕生日──と言ってもオレは誕生日の日付が分からなかったので二人と出会った日付だが──に受け取ったものなので、何か言われるかと思ったが、リンに気にしている様子はなかった。

 随分とガタは来ているが使えるし、メンテナンスも行っているからまだまだ使うつもりだったのだが。

 

 まあプレゼントをくれた張本人がそういうのなら、そうさせて貰おう。

 飾り台をテーブルの上に置き、炎の意匠が刻まれた古いジッポライターを添える。窓際にでも飾っておくか、インテリアになるだろう。

 

 イヴリンはこれも見越していたのだろう。

 気遣いを忘れる女ではなく、オレへのプレゼントを考えた上で、リンとアキラの思いを踏み躙らないようにしたらしい。

 

 ジッポの蓋を開き、持ってきたオイルを入れてみる。

 新品故の固さが残るフリントを回すと、問題なく点火。そのままリッドを閉じると重い音と共に火を潰した。

 通常のものより頑丈で厚みのあるアーマーモデルで、手に持った重みも増しているが、これなら取りこぼすこともなさそうだ。

 

 

「いいね、気に入った。大切にさせて使わせてもらうよ」

「そうか、喜んでもらえたようで何よりだ」

「で、もう一つの方は、ネクタイピンか……?」

「これも蝶……じゃなくて蛾、だよね……?」

「ライターの方は触覚があったから分かるけど、こっちは分からねえな……」

「そう言えば、科学的に蝶と蛾は分類上に明確な境界はない、って聞いたことがあるわね」

 

 

 オレがさっき言った触覚の形による見方も、例外はある。

 それだけ蛾も蝶も近しい生き物ということで、昆虫学者は今日も学術的な違いを見つけようと躍起になっていることだろう。

 

 いや、それよりも────

 

 

「オレ、ネクタイなんて持ってないんだが」

「何、それは本当か? フォーマルな服を持っていないのは、色々と問題があるだろう?」

「冠婚葬祭に立ち会ったことがないから、別にいいかなって」

「ちょっとぉ大将、ダメじゃない。リンとアキラが結婚した時にどうするつもりだったの?」

「そうは言ってもな。結婚式の予定どころか付き合っている相手もいないし、その時に買えばいいかなって」

「と言うか、ナラカは服装に気を遣わなすぎ! いっつも似たような服ばっかじゃん!」

「お前らも似たようなもんだろ」

「違いますー! ちゃんと可愛い奴も持ってますー! お兄ちゃんもスーツくらい持ってるんだから!」

「そっかー。なら、この機に買っておくか」

「ふむ、それならば私も付き合おう。私の休みに合わせてくれれば、だが」

「ああ、そう? スーツの知識なんかないし、知っている人間がいるのは心強いか。頼むわ、こっちは自営業だからいつでも休めるし」

「そうか。ついでと言っては何だが、普段着も見繕おうか?」

「オレにセンスはないからな、時間があったら頼むよ」

 

 

 オレの持ってる服なんてテキトーに買ったもんばかりで、珍しいのは甚兵衛や着流しくらい。

 その点、芸能界のマネージャーをやっているイヴなら流行やファッションにも詳しい上に、センスもあるに決まっている。

 金はかかるだろうが、任せてしまえるのならば任せてしまいたい。

 

 オレの返事を聴くと、イヴは何だか上機嫌になってワインを口元に運んでいった。

 

 

(アストラさん、イヴリンさんのネクタイピンって蛾だよね……?)

(そうね! 私はそう聞いているわ!)

(と、言うことは……!)

(そう、自分の気に入ったデザインをプレゼントとして渡しつつ、相手を染め上げる手法……!)

(そして、さりげなくデートの約束まで……!)

(やるわね! 流石だわ、イヴ……!)

(これはナラカが、どんどんイヴリンさんの好みになっていっちゃうやつですねー!)

 

(結局、君は蛾のデザインの意味を気にしなかったな。だが、私達は似た者同士と言ったのは君の方だからな。合わせても構わないだろう。君が誰を選ぼうと、何も言うつもりはないが、私を選んでくれるように、私も努力を惜しむつもりはないぞ)

 





 ナラカ
 気付いていないが、服装がイヴリン好みになっていく男。

 イヴリン
 しれっとした顔で、服装とか自分の好みにしていく出来る女。デートの後でバーとかに行く選択肢を選ぶと、そのままイヴリンルートに入る模様。

 リン&アストラ
 それを見ながら、私も真似しないと! と思う乙女達。

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