終末世界のラーメン屋台の店長さん   作:一反木綿豆腐

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市長さんと店長さん

 

 

 

side:Naraka

 

 

「ご無沙汰しております、プロキシ様、ナラカ様」

「あ、ライカンさんにリナさん。ひさしぶり!」

「店長様も御健勝のようで何よりです。そして、ナラカ様、お初にお目にかかります。私は、アレクサンドリナ・セバスチャンと申します。以後、お見知りおきを」

「こりゃご丁寧にどうも」

 

(デッッッッッッッッッッ!!!! 儀玄よりもデッッッッッッッッッッッ!!!)

(ふふふ、ナラカ驚いてる驚いてる。リナさんは新エリー都でも最大クラスのお胸とお尻の持ち主だからね!)

(リナさんは立派なものをお持ちだ。あの厚いスカートの下に隠されたお尻は今日も素晴らしいな……!)

(まあ、ナラカ様もライカンほどではありませんが、なかなかのお尻をしていますね。お二人が魅入られるのも理解できますわ)

 

 

 五分前、リンから突然の呼び出しを喰らい「Random Play」を訪れたオレは僅かに面を喰らった。

 ほとんど変わらないタイミングでやってきたのは、ライカンさんと、クラシカルなメイド服を着て空中浮遊しているメイド。

 ライカンさんの方はここ数ヵ月ですっかり常連客だが、もう一人のリナさんは完全な初対面。

 

 困ったな。今日は呼び出された理由を聞いていないから、何をするつもりなのか予想できない。

 バレエツインズのホロウで知り合ったそうだが、上流階級御用達の家事代行サービスと何をすると言うのか。

 

 

「本日は、重要な件でお伺いさせて頂きましたが、その前にお伝えしなければならないことがございます。我々がお仕えする方について……」

「君達の……? その様子では、単なる雇用主といった雰囲気ではないようだけど……」

「その通りです。我々ヴィクトリア家政がお仕えするのはメイフラワー家の現当主、即ち新エリー都の市長閣下であらせられます」

「おぉ、大物……思ったよりもヤバいの出てきたね、ナラカどうすんのこれ」

「オレに聞くな。そもそも、ヴィクトリア家政と先にあってんのはお前らだし、話あんのもお前らだろ。オレは関係ねえよ」

「いえ、ナラカ様にもご同席願いたく」

「オレもぉ……?」

 

 

 ヴィクトリア家政のバックについてるのは相応の権力者と思っていたが、まさかこの街の王だったとは。

 オレに同席しろということは、二人の保護者として────などではなく、讃頌会に関してか。

 

 やだやだ、権力者に目を付けられるとか何の得もないんだが。

 何よりも、この街のトップと言うだけで、オレにとっては疑いの対象なのだが。

 

 

「……ご安心を。私めの名誉にかけ、市長閣下には如何なる悪意の類もなく、お三方に責任を問うこともございません」

「それはよかった。いきなりの大物が現れたら、僕達も緊張するからね」

「閣下はお忙しい方ですので、失礼ですが、今回は通話とさせて頂きます」

 

 

 オレの変化に気付いたのだろう。

 ライカンさんはわざわざ名誉などを口にし、アキラはこちらに視線を飛ばしながら微笑んでみせた。

 

 これはだんまりを決め込んだ方がいいか。

 面倒に巻き込まれるのはゴメンだし、信用も信頼もできない相手と無理に会話をしてピリつく必要もない。

 

 ライカンさんは市長閣下殿に取り次ぐため、カウンターに携帯を置いてスピーカーに切り替えた。

 

 

『こうして君達と言葉を交わす機会を得られて、嬉しい限りだ。親愛なる子供達。…………ヘーリオス研究所は、暖かな場所だった』

「あっ……え、えほんえほん……! あの場所のことをご存じなんですか……?」

『もちろんだとも、君達の先生のこともね。カローレ君は、素敵な人だった……旧都陥落の責が彼女にあると聞かされた時は、何とも残念に思ったものだ』

「先生に関しても、ご存じなんですね。僕達は、何か裏があるものと考えています」

『そうであれば、どれほどいいか。ただ、旧都陥落が齎したものは、あまりにも大きかった』

 

 

 あ、もう無理です。

 オレ、市長閣下殿のことを信用も信頼もできなくなりました。

 

 裏で何をやっていたか分からない、というかほぼ確定で人体実験をやっていたであろうヘーリオス研究所を暖かな場所と呼ぶなんて、正気の沙汰ではない。

 

 何故、何も調べていないのに確定かって?

 アキラとリンの話では、H.D.Dシステムを埋め込まれたのは二人を含めて合計四人。ある種の成功例が4人もいるわけだ。それまでに、失敗例が一度も出なかったとでも? という話。

 そもそも、アキラとリンもシステムに関して仕様を把握していない状態で埋め込まれているのだから、その時点でかなり悍ましい所業と考えるべきでしょう、人として。

 

 まあ、それも話術の一環か。

 二人の緊張を和らげるために、共通の話題を出して心理的ハードルを下げるやり方かね。

 TOPSの魑魅魍魎とやりあっているのだから、それくらいはできるだろう。

 

 それよりも気になることを言った。

 

 旧都陥落の責がカローレ・アルナにあると聞いて、驚(・)い(・)た(・)で(・)も(・)信(・)じ(・)ら(・)れ(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)で(・)も(・)な(・)く(・)、残(・)念(・)に(・)思(・)っ(・)た(・)、だと?

 それはつまり、カローレ・アルナは旧都陥落を引き起こせるほどの力か技術を当たり前に有し、ある程度まで目的を把握していたことに他ならない。

 

 まるで、“ああ、君はその選択をしたのか”とでも言ったことでもあるような言い草だった。

 

 そして、それを詳しく語るつもりもない。

 駄目だこりゃ、コイツもイヴと同じで、この街の宿痾に冒されている。こんな街にした奴の血族なのだから、当然と言えば当然か。

 

 

『今回連絡に至ったのは、君達の目についてだ……』 

「僕達の目……H.D.Dシステムと知能水晶体について、ですね……?」

『ああ、私はカローレ君が生前遺したデータを発見した。君達の目のインプラント、その副作用を軽減する方法をね』

「副作用、ってことは、私達のエーテル適正に関して……?」

『その通りだ。カローレ君の遺したデータサンプルを基に、人員を雇い、システムのアップグレードプランが完成した。これならば、君達のエーテル適正は本来のそれに戻るだろう』

「なら、イアスを介さなくても……」

『そうだ。ホロウにも入ることができるだろう』

「えッ……?!」(……こいつ、アキラとリンの中で眠てる奴について聞いてないのか?)

『何かな……? すまないが、話の腰を折らないで貰いたい』

「すまん。どうぞ続けて?」(オレもいるのが分かるだけで、何かまでは分からんが、ホロウに入ったらエーテルの影響を受けて目覚めかねんぞ。……あー、そっちが目的なのか?)

 

 困ったものだ、市長閣下殿もオレを警戒……なんてレベルではなく敵視しているようで、言葉に棘がある。

 そりゃそうだ。旧都陥落以降に突然生えてきたみたいな経歴の輩が、ヘーリオス研究所の秘蔵っ子の傍にいるのだから。

 

 うーん、この字面の胡散臭さよ。

 

 いやぁ、オレも市長閣下殿もどっこいどっこいの胡散臭さじゃないですかねぇ……!

 

 

『こちらで把握している情報によると、君達の体内には新エリー都全土に影響を与えかねないものが隠されているかもしれない』

「それは、どういう……?」

『すまない、それはまだ確定した情報ではないんだ。君達を混乱させたくはない』

「そう、ですか……」

『新エリー都市長として、私にはすべての市民の安全に対する義務がある。君達を観察させて貰ったが、今のところ、ヴィクトリア家政の面々からは賞賛しか聞いていない』

「僭越ながら、リン様もアキラ様も、善良かつ誠実なお人柄でいらっしゃいます。ナラカ様も、お二人から絶大な信頼を得ている以上、同じく賞賛に値する方かと。このライカン、信じております」

『………………』

 

 

 市長閣下殿の言葉とオレに対する態度に、不信感を僅かに抱き始めたアキラとリンを諫めるよう、ライカンさんが口を挟む。

 執事として領分を逸脱せず尚且つオレの肩を持つ形で、市長閣下殿までも諫めている。うーん、ぐうの音もでない手腕だ。完璧すぎない?

 

 音声通話なのを良い事に、片手を上げて礼を伝えると、ライカンさんは無言で首を横に振る。

 あくまで自分は見たまま感じたままを伝えたまで、と言わんばかりの態度。

 リンとアキラに関して少し話したが、そんなにライカンさんの心に刺さっているとは思わなかった。

 

 

『…………そうか。ナラカ君、すまないがシステムアップデートのついでに二人にだけ話がある。席を外してもらえるだろうか』

「あー、はいはい。どうぞどうぞ。じゃあオレは仕事場で仕込みしてるから、二人ともアプデの影響で身体に異常が出たら連絡しろよ」

「うん、分かった」

『………………』

 

 

 オレがあっさりと引いたこと自体が驚きだったのか、市長閣下殿は困惑したように電話越しに息を漏らす。

 

 別に、こっちは二人に何を吹き込もうが構いやしない。その結果、袂を分かつことになったとしても、それは二人の選択でオレに口を挟む権利はないのだから。

 

 市長閣下殿は二人の選択を絞り込み、自分にとって──は言い過ぎか、街にとって有用な選択をしてもらいたいようだ。

 全く、それじゃあTOPSと何も変わらない。私益か公益かの違いで、他人の人生を利用する点では、傲慢であることに変わりはないだろうに。

 まあいいさ、そのしっぺ返しは市長閣下殿が受ける問題であって、オレは興味も関心もないからな。

 

 何があろうと、オレは街よりもアキラとリンを優先するし、常に味方をするだけだ。

 

 

 


 

 

 

side:Akira

 

 

 ナラカは手をひらひらと振りながら、裏口の方から出ていった。

 昔から僕達の選択に口を出さず、どうしようもなくなった時には必ず手を貸してくれる、変わらない姿に笑みが零れる。

 

 

『彼、……ナラカ君に関してだが、君達は何処まで聞いている?』

「何処まで、って……友達に誘われて街の外から来て、私達を拾ってくれたとは聞いてますけど……」

『つまり、君達にも自身の過去について話していない、ということだね……?』

「それは……!」

「リン、止すんだ。市長さんの心配も当然だよ」

「でも、お兄ちゃん……!」

 

 

 露骨にナラカへの警戒心を露わにするメイフワラー市長に、直情傾向にあるリンは不快感を露わにした。

 勿論、僕も同じ気持ちだ。大切な家族で、僕達が僕達らしく生きていけるように手を尽くしてくれた恩人を疑われて、いい気分にはならない。

 

 ただ、状況を客観視すれば、ナラカは誰の目にも正体も目的も経歴も分からない人物。

 直接関りのない人達にしてみれば、警戒して当然だ。

 

 

『それから、彼は讃頌会に狙われている、と情報を得ているが……』

「どうやら、そのようですね。ただ、僕達にも、ナラカ本人にも理由は分かりません」

「治安局からの情報もありましたが、捜査に進展はないようです」

『…………讃頌会との繋がりも、完全に否定できないわけか』

「…………ッ!」

 

 

 市長の深刻そうな言葉に、リンは再び口を開こうとしたものの、手を掴んで止める。

 

 成程、市長が意識しているかまでは分からないが、ナラカを僕達から引き離したい、或いは不信感を植え付けたいのかもしれない。

 僕達の中には街全体に影響を与えかねないものが隠されている、と言った。ヘーリオス研究所の悲願と重要な遺産かもしれないのだから、信用ならないナラカの傍にいるよりも、自分達の手元に置き、管理しておきたいのだろう。

 

 

『この10年、いや今は11年だったね。彼が、それだけの時間、君達を守ってきたことは理解している。だが、信用し過ぎるには、あまりにも不明な部分が多すぎる。君達を何らかの目的に利用しようとしている可能性も否定できない』

「そう、ですね……市長の仰っていることは分かります」

『不快な思いをさせて、すまない。だが、くれぐれも彼には注意するようにしてくれたまえ』

「分かりました。御忠告、感謝します」

『ライカン君、アップデートは一任するよ』

「ハッ、承知致しました」

『では、失礼するよ。親愛なる子供達』

 

 

 その言葉を最後に、市長は通話を終わらせた。

 

 市長が街のために動いていることを疑いはしないが、ナラカが僕達のために街に留まってくれているのも疑う余地はない。

 詰まる所、僕達にしてみればどちらも同じで、長い時間を共に過ごした以上は、どちらに信を置くかは言うまでもないことだ。

 

 そもそも、ナラカがこの場にいたら────

 

 

『疑うのは勝手だがね。オレがアキラとリンを利用する可能性を考えているのは、そっちが利用する算段があるからじゃないか?』

 

 

 ────これくらいは言っただろう。

 

 うん、言っただろうね。これくらいは皮肉交じりに確実に言う。

 普段からナラカの痛烈かつ辛辣なカウンターを見聞きしてきたリンは、市長の忠告に溜飲が下がらないのか、ムスッとした表情で黙っている。

 

 ともあれ、市長の思惑は分からない。

 最終的な目標は新エリー都の公益を目指しているのだろうけど、僕達をどうしたいのかのまでは不明なままだ。

 

 忠告はありがたく受け取るけれど、その上で僕達はナラカを信じるし、貴方の動向と目的を注意深く探らせてもらいます。

 

 

「申し訳ございませんでした。市長閣下に変わり、改めて心から謝罪させて頂きます」

「…………ライカンさんも、リナさんも、市長さんと同じ考え?」

「リン、二人を困らせるのはやめよう。市長も、間違ったことを言っていたわけじゃない」

「……でも!」

「…………私はナラカ様と初対面ですので、今ある情報からですと、まだ信用はできない、と申し上げるのが正直なところです」

 

 

 自分の信じた相手が、誰かに信じて貰えない。

 その事実が何よりも悲しいと、リンは不機嫌そうにライカンさんとリナさんに問い質す。

 

 対し、リナさんから返ってきたのは、誠実な言葉だった。

 現段階で自分の得ている情報から、どのような判断を下しているのか、嘘偽りなく伝えてくれる。

 そして、信用できないと言いつつも、“まだ”とつけたのは、ナラカの言動や行動次第では考えを改める、とも言外に伝えてくれていた。

 

 ライカンさんは、暫らく考え込んで黙っていたが、やがて意を決したように口を開く。

 

 

「私は、……信じたい、というのが最も近いかと」

「………………」

「ナラカ様と顔を合わせたのは偶然ではありましたが、その偶然を機に身辺調査の一環として、お二人に関してお聞きしました」

「それで……?」

「その言葉に、嘘はなかったと心から信じております。お二人がナラカ様をお慕いするのは当然かと」

「……うん、そうだね」

「ただ、不明な点が多いのもまた事実。信頼は容易く盲信へと変わります。私は、疑う行為自体が信頼を踏み躙るとは考えておりません。現段階では、先程申し上げた言葉に帰結します」

「そっ、かぁ…………ゴメンね、二人とも。困らせちゃった」

「いえ、お二人にとってナラカ様は大切な御家族。それを疑われ、良い気分になるはずもありません。改めてお詫び申し上げます」

 

 

 人として信頼はしたいが、まだ分からない部分が多すぎる。だから信じるのではなく、信じたいとライカンさんは言う。

 リナさんと同じく、彼もまた誠実だった。信じるべきと疑うべきを分けて考え、その上で伝えるべきを伝える。

 

 そこまで聞いてリンはようやく納得したのか、これまでの態度を二人に謝罪した。

 返ってきたのもまた謝罪で、僕は思わず苦笑する。参ったな、リンと一緒に僕も諫められていたようだ。

 

 その時、ライカンさんの後ろに立つリナさんに目を向けると──

 

 

(ご覧下さい……私達のライカンを……、こんなにありがたいことはございませんよ……)

(やるね、リナさん……!)

(くッ、僕達もナラカを推しておけばよかったか……!)

 

 

 彼女らしからぬドヤ顔を型作り、親指でライカンさんを指し示していた。

 

 流石はリナさんだ……!

 ライカンさんをよくない目で見ているだけのことはある……!

 

 彼女もまたアストラさんと同じく、僕達の同志。

 いや、それどころかヴィクトリア家政の皆は、もはや紳士淑女同盟の一員。

 

 よくない目で見ている相手は、推せる時に推さねば無作法ということか……!

 

 

「あの、お二人とも何か……?」

「いや、何でもないさ。気にしないで欲しい」

「そうそう。じゃあ、アップデートの方、お願いしてもいい……?」

「はあ、左様でございますか。では、システムの方に……」

 

 

 

 





 ナラカ
 市長閣下殿、胡散臭すぎてワロタ状態。過去を面倒臭がって話していないオレと知っている事実を隠しているアンタにどれほどの違いがあると言う。

 市長
 ナラカは信用も信頼もできるはずもなく。邪魔とさえ考えている節がある。立場上、そりゃヘーリオス研究所の遺児にちょっかいをかけられたら堪らない。

 アキラ&リン
 うーん、市長もナラカもどっちもどっち。なら、これまでずっと一緒にいてくれたナラカを信じますね?

 ライカン
 市長とプロキシの間で板挟み状態の苦労人。

 リナ
 あくまで中立。市長の肩を持つが、それはそれとしてアキラとリンの選択は尊重するつもり。
 そんなことよりもライカンやナラカ様のお尻について話しませんか? 尻は眺める派。

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