side:Rin
H.D.Dシステムのアップデートはつつがなく終わり、私は当日の内に、お兄ちゃんはその翌日、ライカンさんとリナさんを護衛にホロウへと足を踏み入れた。
市長さんからの正式な依頼であり、内容はホロウ内に設置されたデータスタンドのトラブル改善。
正直、ナラカを疑っているのは許せないし、未だにムカッ腹が立っているけど、報酬は流石の市長様といった感じだった。むふふふ。
そして、市長さんからの依頼がもう一つ。
それは治安局の回収し、新エリー都で最も厳重なセキリティが敷かれたラボから盗み出されたサクリファイスのコアの回収。
どのサクリファイスのものかと言えば、私達が最初に接触した一体。
工事現場のモニュメントに隠され、白祇重工の皆とクレタのお父さんが残した特殊重機で打ち倒したやつのもの。
と言うか、他にコアは残ってないんだよね。ブリンガーのものも雅さんの一閃で消滅、スターループに現れたサクリファイス変異体もナラカが粉砕しちゃったし。
兎も角、そのコアがどういう訳だか、上流階級──TOPS関係者主催のオークションに出品されるものの中に埋め込まれているのだとか。
一体、何処の不届き者が何を考えてそんな馬鹿な真似をしたのか。
それを調べるのは市長さんの仕事だからいいとして、私達にはオークションに出場して件の品を競り落として欲しいのだとか。
立場上、市長さんはそんな場に出ていくわけにもいかないし、私達も先生の真意と旧都陥落の真実を知るための手掛かりになる可能性がある以上、受けない選択肢はなかった。
ただ、問題はあった。
オークションは招待制。TOPSが絡むとなると、いくら市長さんでも簡単には招待状を入手はできない。
だけど、私達は伝説のプロキシ「パエトーン」、持っているコネを使えばちょちょいのちょい。
まあ、実際はつい最近であったばかりの自称収集家ヒューゴさんのお手伝いをして招待状を用意してもらったので、完全に運だったけど。
何はともあれ、今はオークション会場の休憩室で小休止。
ビビアンという娘と思いも寄らぬ出会いもあったし、こういう経験も悪くないかもね。
そんなことを考えながら、お兄ちゃんと一緒にライカンさんの入れてくれたお茶を口にしていると────
「おや、ライカン君ではないか」
「これは……ご無沙汰しております、エドモンド様」
「意外だな、君がこのような場にいるとは。ああ、何処ぞの誰かに雇われた……という雰囲気でもないな」
「………………」
サングラスをかけた長髪の男の人が話しかけてきた。
むむむ、相当な美形さんだ。
お兄ちゃんといい勝負と見た! ふ、だけど漢の色気ではナラカが圧勝かな!
銀色の長髪に、仕立ての良いスーツ。
何よりも目を引くのは、額に輝く宝石のインプラント。
立ち居振る舞いといい、着こなしといい、只者じゃない。
ライカンさんの反応は普段と変わらないように見えるが、僅かに空気がピリついている。
「お二人とも、ご紹介が遅れ申し訳ございません。こちらは朽峰グループの総帥、エドモンド様です」
「朽峰グループ……!」
「高志グループと肩を並べるっていう、あの……!?」
「ははは、初心な反応だ。ますます雰囲気にそぐわない。となると、我らが友メイフラワーのお気に入りかな……? 何はともあれ、よろしく頼むよ」
名前を聞いて驚いた。
朽峰グループと言えば、TOPSの中でも上位に位置する企業。その総帥ともなれば、TOPSの重鎮といっても過言じゃない。
市長さんとTOPSの仲は決してよろしくない。
ライカンさんが警戒心を強めるのも頷けた。私達の名前を敢えて口にしなかったのも、そういう理由だと思う。
取り敢えず、挨拶だけでもとお兄ちゃんと一緒に立ち上がろうとしたが、エドモンドさんに片手で制される。
挨拶は不要という意味。私達の名前を覚えるつもりはないという冷淡な反応ではなく、単純な気遣いみたい。
TOPSの人と付き合いなんてないけど、この気さくさは意外と言えば意外かな。
「エドモンド様は、市長閣下とTOPS側の代表として様々な協議や取引を行っており、私にも目をかけて頂いておりまして……」
「目をかけるどころではないさ。本音を言えば、君ほどの執事であれば、青天井で金を積んで引き抜きたいところだよ」
「…………御冗談を」
「そういうところだ。金に見向きもしない忠誠心は、得難いものだからね。……言っていて、ますます惜しくなってきたよ。私には金しか提示するものがない以上、諦める他ないが」
何処まで本気で、何処まで冗談なのか、全く分からない。
TOPSなんて魑魅魍魎の巣窟みたいなもの。相手を煙に巻く腹芸なんてお手の物ってことかな。
私とお兄ちゃんは、取り敢えずだんまりを決め込んでおく。
正直、TOPSだってこの街で暗躍する側。下手をすれば、旧都陥落に関わっている可能性だってある。悪目立ちして、彼等の目を引く必要はない。
「ふむ…………しかし、らしくないな」
「────と、申されますと?」
「こちらの二人の服装だ。何処の誰かは紹介もしてくれないので分からないが、君とメイフラワーには物申したい」
「…………あ、あー、いえ、市長さんやライカンさんが悪い訳では。僕達がこの場に似つかわしくないのは理解していますけど……」
「そうではない。君達がこの場にいることに不満があるわけじゃない。オークションが招待制である以上、君達はどうあれ権利と共にこの場にいる。だが、此処へ送り込んだのはメイフラワーだろう? ならば、その場にあった服装をさせるのは奴の責務だ」
「……そ、そういうものですかね?」
「そういうものだとも。全く、恥を掻くのも周囲に舐められて苦労するのも君達だと言うのにな。気遣いが足りないのではないかね、ライカンくん?」
「……仰る、通りかと。私としたことが、申し訳ございません。お二人には、後ほど改めて謝罪とお詫びを」
エドモンドさんの言葉は市長さんとライカンさんへの牽制や嫌味、というよりも、純粋に私達を憐れんでの苦言に見えた。
うーん。これは凄まじい。流石はTOPSの重鎮だ。
本心は相変わらず分からないが、思わず彼の言葉全てを信じ込んでしまいそうになった。
お兄ちゃんも、その自覚があったのだろう。エドモンドさんの人心掌握術──と呼ぶほど上等な物かは判然としないけど──に、改めて表情を引き締める。
「ところで、君達の名前を聞いても? 無論、無理に、とは言わないが」
エドモンドさんの問いに、思わずライカンさんを見た。
名前だけならと思わないこともないが、相手はTOPSの重鎮。些細な情報から、何処まで掘り起こされるか分かったものではない。
ライカンさんも、エドモンドさんの本心を測りあぐねているようで。
けれど、目上の人間から問われた以上は、答えない選択肢はないようなものだった。
「僕は、アキラです。その、しがないビデオ屋でして」
「…………ほう?」
「えっと、私はリンです」
「………………成程、まさかとは思っていたが」
お兄ちゃんと私の名前を聞き、エドモンドさんは眉を顰めた。
露骨に何か思い当たる節がある、といった様子を隠そうともしない。
多分、……多分だけど、私達の素性に気付いたのだと思う。
何せ、エドモンドさんと付き合いがあるであろう高志グループの中には、私達とヘーリオス研究所との繋がりを知る者がいるはずだ。いない筈がない。だって、彼女は────
「ふむ、やめよう。私には興味も関心もない事柄だからな。どうせなら、オススメの映画でも聞いておこう」
「…………?!」
「オススメの映画、ですか……?」
「ああ、ビデオ屋なのだろう? マルチタスクは得意でね、仕事をしながら見ることもある。見るかは分からないが、参考にはしたい」
「え、えーっと、じゃあ好きなジャンルとかは……」
「そうだな。…………笑われるかもしれないが、“ヒーロー物”が好きだ。アレは中々心が躍る。如何せん、周りが敵だらけだからな。そうしたヒーローを、私も求めているのだろうね」
「では、ダークナイトの三部作などは……?」
「すまない、それは視聴済みだ。だが、最初にそれを進めてくるとは。アキラ君、君もなかなか通と見た」
「ははは、ビデオ屋ですから。個人的に思い入れもありまして……」
お兄ちゃんもヒーロー物は結構好きなので、共通の話題で徐々に盛り上がっていく。
正直、驚いた。ライカンさんも、同じ感想らしい。
TOPSだってヘーリオス研究所の情報は何でも欲しいはずなのに、エドモンドさんからそれ以上の追及はなかった。
その態度が個人のものなのか、それともTOPS全体の意向なのか、判然としない。
けど、少なくともエドモンドさんの本心には違いないようで────あー、もう! ワケワカンナイヨー!
お兄ちゃんとエドモンドさんのヒーロー映画談義が終わった後、オークションは再会された。
今は私達の目的の品、「勇者の外套」の競りが行われている。
もっとも、私達が求めているのは外套そのものではなく、襟に取り付けられた宝石──サクリファイスのコアだけど。
競りはお兄ちゃんに任せて、私は一歩引いた位置から状況を見守っている。
競ってきているのは、TOPS傘下のレイヴンロック家当主ハルトマン氏。相手の資金力を考えると、分が悪いかも。
そんなことを考えていると、ふと目に入ってきたのはエドモンドさん。
競りを見つめる視線は酷く冷ややかだった。ハルトマンさんは同じTOPSのはずだけど、応援しているわけでもないようで。
サクリファイスのコアに気付いていないはずはない、と思うけど、本当に興味がないみたい。オークションに姿を現したのは、ただの義理なのかな……?
「…………ッッッッ!!」
その時、私に電流奔る……!
そう、エドモンドさんの冷ややかだった視線が、一瞬だけ熱を帯びるのを見たからだ。
こ、これは……!
そ、そんなことがあるの……?! で、でも、エドモンドさんも人間! しかし、TOPSは……!
悩みに悩んだ末、私は誰にも気づかれることなく、エドモンドさんの隣へすそそそそと移動する。
(おや、リン君。どうかしたのかね。兄君が健闘している最中だが、構わないのかな?)
(いえ、資金力には限界があるので……)
(ふむ、それもそうだ。ない袖は振れないか)
(そんなことよりも……)
(…………?)
(………………エッチですよね、ライカンさんのO・SI・RI)
(…………ッッッッ!!)
私の言葉に、分かりやすい動揺を見せるエドモンドさん。
ふふふ、この反応は、年頃の娘が何てことを言うんだという動揺……ではない!
まさか、まさかだよ。
こんなところで、同志と出会うことになろうとは……!
(……スゥーーーーーーーーーーーッ)
(お兄ちゃんのお尻も、なかなか素敵じゃないですか……?)
(ふ、ふふふ、面白いことを。私がそのような目で他者を…………うぉッ、彼もなかなか(チラチラッ)
(でしょう……? ちなみに、私は女の人のお尻もいいと思います。リナさんとか、ぺぇもデカくて素敵すぎる……!)
(…………ッ。どうやら、君も語れるようじゃないか。まさか、アキラ君も……?)
(無論……!)
(…………ッッッ!)
周囲に悟られることなく、私とエドモンドさんの心の距離は急激に縮んでいく。
立場だの利益だの、小賢しいにもほどがある。そう、エッチさの前では人は皆平等にひれ伏すしかないの……!
(お尻は……?)
(引っ叩きたいが、そこはぐっと堪えて愛でるもの)
(エロの前には……?)
(すべては瑣事。そして紳士淑女としての嗜みを忘れてはならぬ)
(よくない目で人を見る者は……?)
(自らもまたよくない目で見られる覚悟をすべし……!)
瞬間、私達の脳内に溢れ出す、存在しない記憶。
そう、性癖を晒け出した瞬間に、過去は勝手に捏造されて仲良くなれるもの。
同志であるのならば、これくらいの不思議現象は起きて当然……!
(ふ、ふふふ、地元じゃ負け知らず、ですね……)
(どうやら我々は“親友”のようだな……)
(因みにライカンさんを引き抜きたいのは……?)
(執事としての実力は認めている。ただ、ライカン君とリン君を並べて、後ろ姿を眺めながら仕事がしたい。効率を十倍にする自信がある……!)
(ひゅーーーーーー! 流石は同志!)
(君達兄妹とは、立場や目的は一先ずおいておこう。TOPSとして手を貸してはやれないが、同志として性癖談義といこうじゃないか、“
(是非……!)
やはり、エッチは世界を救っちゃうんだよねーーーー!
リン
エドモンドが同志であると見抜く。TOPSだろうが同志と見れば懐に飛び込んでいく剛の者。
アキラ
あとから聞いて驚いたが、勿論にこにこになった。エドモンドさんかい? もう親友さ。
ライカン
なんかエドモンド氏とプロキシ様が仲良くなっているのですが!? 何故!? 頭を抱える苦労人。
市長
その話を聞いて、胃が痛くなった。やめてくれないか親愛なる子供達。彼もTOPSなんだが!?
ナラカ
アキラとリンからその話を聞いてドン引き。
その後、冷静になって市長閣下殿は頭抱えてんだろうなー、あいつらがテメーの思う通りに動くわけないだろ、と爆笑した。
エドモンド
「銅輪」。原作にもほとんど出てきてないのでほぼオリキャラ。
原作と違って血統主義ではなく、かなり気さく。ただ、「
ビリーのヒーロー像が戦隊・仮面ライダー、アキラが親愛なる隣人、力がなくとも手を差し伸べられる名前のない誰か、とするならば、彼の求めるヒーローはウルトラマン。
小説の視点はどちらが読みやすい?
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一人称
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三人称