感想と評価がありがてぇ、あったけぇ……!
モチベが爆上がりです! ありがとうございます!
「何だ、今日は随分静かだったな」
「ちょっと、昔を思い出してただけだよ」
普段であれば調理をしている最中も話しかけるのだが、今日は物思いに耽っていたので黙ったまま。
ナラカは心配しているのか、探っているのか。感情の読めない静謐な瞳で見つめてきていた。
しかし、それ以上の追及はない。
この一年で、ナラカが物事の本質を捉える力に長けていることに気づかされた。
野生の獣染みた直感力による賜物か、類稀な洞察力と思考力で構築された|技術〈わざ〉なのか。どちらなのかは、いまだに判然としない。
ただ、ありがたかったのは、捉えた上で必要以上に語らないことか。
見透かすような態度も取らず、その時その場で必要な分だけを語り、不要な分は黙して語らない。
今回も、そうかと一言だけ呟き、出来たばかりの注文品をカウンターに並べていく。
普段との違いは、単に気分の問題と結論付けたのだろう。
「ほらよ、塩ラーメンと半チャーハンセット、あと餃子。デブのもと三銃士だ」
「もー、やめてよね、それ。女の子相手に、デブとか不細工とか言うと簡単に病んじゃうんだから。禁句だよ、禁句!」
「よく聞けよ、お前をデブとは一言も言ってない。オレが罵倒してるのは料理の方だが?」
「……それはそれでどうなの? 自分で作った料理な上に売り物だよ?」
「自分で作って自分で売ってるんだから、いくら罵倒してもいい理屈にならないか?」
「理屈は分からないわけじゃないけど、この人ほんとどうしてラーメン屋台やってるんだろ……」
別にラーメンも其処まで好きじゃないし、楽して稼げるならラーメンでなくても別に……。
そう言わんばかりの、あんまりな態度にラミルは呆れ返る他ない。
ただナラカの料理は大したものだと思う。
「一期一会」のメニューは一通り制覇したが、どれも丁寧に作り込まれており、口で何と言おうとも手抜きは一切ない。
醤油、塩、味噌の主要三種は特別な食材を使っていないが、旨味の引き出し具合は抜群で、誰が食べても「まあ美味しい」と口を揃える出来になっている。
初めて食べた時、個性がない、パンチが足りないとは言ったが万人に向けるための創意工夫。
そして、そういった感想を抱く客に対する工夫も凝らされている。
まず屋台という選択。
通常の店舗とは異なり、常に場所を移動する屋台の性質上、知らずに出会えばレア感があり、場所によっては食べたくとも食べられない。
味はそこそこでも、いつも同じ場所なら“またでいいか”となるが、次にいつ出会えるのか分からない屋台ならば“食べていくか”という気分にさせる。
この辺りの経営の工夫はガウタマの入れ知恵だろう。
ナラカ自身の考えた工夫は────
「今日はどれにしようかなぁ♪」
カウンターに並べられた数々の味変調味料。
定番の黒胡椒の粉末と粗挽きから始まり、柚子胡椒、魚醤、ウスターソース、酢、ラー油、山椒、一味・七味唐辛子、おろし生姜、おろしにんにく、コチュジャン、豆板醤、等々。
通常のラーメン屋なら味変用の調味料は片手で事足りる程度だが、「一期一会」は桁が違う。どれもナラカが直々に試したもので、それぞれの容器にはどのスープに合うのかラベル付けされてる。
個性がない、パンチがない故に、多くの調味料と喧嘩にならない。
あとは客が自身の好みに合わせて味を変え、様々な組み合わせを試す楽しみも生まれる。
ラーメンの食事としての側面だけでなく、エンターテイメントとしての側面も上手く引き出した手法だった。
「やっぱり私はこれかな。うん、いい香り♪」
ラミルが手を伸ばしたのは、柚子皮のすりおろし。
容器に備え付けられた小さなスプーンに掬い上げ、山になった部分を落として平にする。
この量こそが黄金比。入れ過ぎては柚子の香り効きすぎる、少なすぎては鶏油の香りに負けてしまう。
と、心の中で通ぶってみるラミルなのであった。
「あれ? 何か増えてるね。これは……なに……?」
「辛子高菜。高菜って野菜を漬物にして、細かく刻んでゴマ油と唐辛子で炒めたもんだ。入れるんなら、塩だな。味噌も醤油もそこそこいける」
「漬物、かぁ。白米に合うとは聞いたことはあるけど、あんまり食べたことないなぁ。主食はパンだったし、野菜を食べるなら生の方が好きだし」
「生野菜とは味わいが違う。漬物は発酵させることで旨味が強くなんだよ。その分、摂れる栄養素は変わっちまうが」
「ほうほう。新しいものがあるなら試してみればよかったなー。うーん、でも今日はもう柚子と塩の組み合わせの口になってたし……」
「無理に合わせんのはオススメしねえな。ゴマ油と柚子の香りが喧嘩する」
辛子高菜の入った容器を見て、僅かに後悔が芽生える。目新しさ、とはそれだけで魅力となる。
ナラカが店先に並べたということは、間違いのない組み合わせ。きっと美味しいはず。
マイフェイバリットは塩と柚子の組み合わせで不動だが、それはそれとして新しい組み合わせも試してみたい……!
「おのれナラカさん……! どうして、どうして先に言ってくれなかったの……!」
「そこまで? そこまでか? ていうかオレか? オレが悪いかこれ?」
ラミルは悔しさから、親の仇のようにナラカを睨みつける。
これには流石のナラカも呆れ顔。
しかし、彼はすぐに無表情に戻ると、キュピーンと目を光らせた。
「そんなお前に朗報だ。ソイツはな、チャーハンと餃子にも、合うんだぜ?」
「────!!」
その言葉を聞いた瞬間、ラミルに電流奔る──!
そんな、これはラーメンの味変用のはず……!?
カウンターに置かれている以上は、ご自由にお使いください……ってコト!?
その発想はなかった。
衝撃を受けるラミルは震える手で容器の蓋を開けると、トングでそっと掴んだ辛子高菜をチャーハンと餃子の上に盛る。
濃さの異なる緑色の葉と茎、散りばめられた唐辛子の赤のコントラストは、ラミルにとって馴染みが薄い色合い。
だが、鼻腔をくすぐるゴマ油の香りが食欲を掻き立てる。
いつもならラーメンのスープから一口目が始めるのだが、今日ばかりはチャーハンから行こうとラミルは決意した。
それほどの魔力が、このチャーハンと辛子高菜の組み合わせからは立ち上っている……!
「じゃあ、いただきます……! あ~ん、はむぅっ────っ!!!」
一口目からガツンと来る卵とゴマ油の香り。
元々、ラーメンとセットで売るため、調味料少なく素材の味を前面に押し出したチャーハン故、辛子高菜が邪魔にならない。
ネギでは少々物足りない歯応えに高菜のシャキシャキ感が加わり、噛み応えもあり、噛む度にすべての素材が調和していく。
辛さはやや控えめであるからか、漬け込んだ高菜の旨味を存分に堪能しつつ、辛味がまた食欲を煽る。
「ん~~~~~~~~~~っ♪」
もぐもぐと小さい口で懸命に咀嚼しながら、ラミルのくりくりとした瞳に感動の輝きが灯った。
口にしたものの美味しさを言葉にすることさえ放棄して、笑顔で感嘆の声だけを漏らす。
暫らくの間は後味を堪能していたが、ふるふると首を振ってレンゲから箸へと持ち変える。
まだ餃子を堪能していない。
「一期一会」の餃子は皮から自家製の一品で、よく目にする焼き餃子に比べて一回り小さく可愛らしい。
その分だけ数が多く、一皿で十二個。値段と量を考えるとお得感はある。女性としては、大口を晒す真似をせずに済むのが嬉しいところか。
「あむっ♪ はふっ、はっ、もぐもぐ、んっ、ごくん……辛いけど、おいしいっ!」
口に含むとパリッとした羽の食感ともっちりとした皮の食感が香ばしさと共にやってくる。
続き、皮の内側から熱々の肉汁と野菜本来の甘味が溢れ、たっぷりのニラ、にんにく、生姜が食欲を促進する。
其処に辛子高菜の辛みと旨味が加わり、味を一段階押し上げていた。
「一期一会」の餃子のタネは、挽肉よりも野菜の方が多く、単体で食べると甘味を強く感じる。
普段は餃子のタレにラー油を一垂らしして楽しむところだが、辛子高菜もよく合った。
深みのある辛さが餃子の甘味を昇華させ、食感も邪魔になっていない。
「────ずる、ずるる……っ!」
そして、辛味と油で重くなった口を、柚子皮のすりおろしを入れた塩ラーメンで洗い流す。
塩ダレ以上に出汁の味が聞いたスープに、柚子の香りが加わることで、素材の味と風味がより洗礼されていく。
さっぱりとした後味に清涼感も加わり、箸が止まらなくなりそうだ。
「はぁ~~♪ 堪んない、この味。すっかり癖になっちゃってるなぁ。それに……」
「大げさだろ。それに、なんだ?」
「…………ううん、何でもない」
まだ食べている最中なのに、もう次に来た時には何を食べようか、と考えている自分に、ラミルは苦笑する。
自分に残さていたものは、償いようがない罪と果たさなければならない使命だけだと思っていたのに。
此処に来ると、腹を満たすという至福と共に、孤独と寂しささえ埋められてしまう。
確かな歓びと僅かな悔しさ。
こんな弱いつもりはなかったのに、と恨み言が漏れそうになる。
失われたもの、失ったもの、手にかけたものへの追悼を忘れたわけではない。乗り越えられてもいない。
けれど、生きている以上は懸命に。
どれだけ後ろ髪を引かれようとも、前を見て進むだけ。
────だから今日は、真実を一つだけ明かしてみよう。
嵐が過ぎ去ったロスカリファでの一幕
「アキラさんもそうだけど、ナラカさんからも視線を感じないんだよね。男の人からは大抵やらしい視線を感じるんだけど」
「それはレミエールの格好も悪いと思うよ。露出多すぎ」
「あ、はい。辛辣な意見ありがとう。でも翼のシリオンって大変なんだよぉ~」
「それはそうだよね。そんな翼あるんだもん。服も背中がばがばにしなきゃだし。でも甘い、甘すぎるねレミエール」
「え? どういう意味、リンちゃん?」
「私達家族はね、エージェントの皆をよくない目で見てるの」
「急に何を言い出すのリンちゃん?」
「お兄ちゃんと私はもう全員。ナラカはぺぇとお尻の大きい女の人を。恥ずかしながら、純粋な性欲と性癖で」
「本当に恥ずかしい理由だね!?」
「そして、私達は極めたの。皆を思う存分よくない目で見るために、相手に視線を悟られずに舐めまわすように見る技術をね!」
「聞きたくなかったぁ! 聞きたくなかったな、そんなこと!」
「だから、いいんだよレミエール。アンタもナラカをよくない目で見て(ポショポショ」
「────!?」
「ナラカ、エッチだもんね♥ 腕、血管、鎖骨に喉仏、プリティーなお尻にバッキバキの腹筋、でっけぇ雄っぱい、綺麗に逆三角形のか・ら・だ♥(ポショポショ」
「……ごくっ」
「ほら、自分の性癖に正直になって♥ ナラカの何処をよくない目で見てるの、レミエール♥」
「声と流し目(食い気味」
「認めよう、アンタの性癖を。今この瞬間からアンタは仲間だよ(キリッ」
「────ちなみに、リンちゃんとアキラさんと先輩もよくない目で見てるけど」
「深淵を覗く時、深淵もまたこちらを覗いている。だから他人をよくない目で見る者は、自らもまたよくない目で見られるものだからね。私はアンタを許すよ」
「ンナ……(ああ、この二人バカなんだ。ナラカとアキラもバカだからいいか……)」
「あいつら二人、仲良くなったなぁ~」
「嬉しそうだね、ナラカ」
「まあ、そりゃあな。憂いの一つも消えりゃ気分もよくなる。レミエールの件で、お前らに我儘を押し付けもしたしな」
「いいよ、家族じゃないか。ナラカが居てくれたから、辛い時も僕とリンは笑ってこれた。我儘を押し付けられたって、笑って応えるさ」
「そうか…………ところで、ガウタマにはもう言ったんだが、レミエールのあのぺぇと太ももの肉の乗っかり、これからはレミエール段差と呼ぶこととする(真顔」
「…………ッッッ!!! 天才。この二文字が、今日ほど君に相応しいと思った日はないよ!」
「ふっ、よせやぁい」
「照れ顔がエッチ過ぎる……!!!」
「ンナァァ!!(やっぱりこの二人もバカじゃないか! どうなってるんだこの家族は!!)」