終末世界のラーメン屋台の店長さん   作:一反木綿豆腐

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なんか、ランキング入っとる……!
なんか、お気に入りが1000超えとる……!

閲覧、ありがとうございます!
これからも応援よろしくお願いします! 感想もお願いします!(乞食並感)

あと今回からちょっと実験。
色々と読んでみて、地の文よりも会話を多めにするのがトレンドかなぁ、と思ったので。



雲嶽山VS「一期一会」 腕相撲五番勝負!

 

 

 

 グループ、チーム、集団、組織。

 呼び方は何でもいいが、人の集まりは常に腐る。

 

 どれだけ高潔な理想があろうが。

 どれだけ優秀な首魁が居ようが。

 

 どんな清流の水でも長く留まれば、腐るように。 

 最後は必ず、思想も団結も腐れ堕ちる。

 

 権力と権威の獲得が理想を歪ませ。

 士気の低下が停滞と諦めを呼び込み。

 数多の無関心が基盤を崩壊させる。

 

 ただ腐るだけならまだよい。

 当然の摂理であり、人の性質《さが》が生む結果に過ぎないのだから。

 

 最悪なのは、腐り果てたまま存続すること。

 

 何時まで経っても腐ったまま。

 土に還ることもなく、腐臭と腐汁を撒き散らす。

 

 積みあがるは負債と犠牲。

 救われるものなど一つもない。

 

 己が生まれたのは、そういった場所。

 

 石の道具を使っていた時代に生まれた、ただ古いだけの間違った考え。

 それだけを支えに、存続を選ぶ腐れた世迷(よまい)ども。

 

 まったくもって反吐が出る。

 何時まで経ってもめそめそと、諦めることさえできない愚物達。

 

 情けないにもほどがある。

 いっそのこと、何処かで華々しく散った方がまだ救いがあった。

 

 だから、己は組織なぞに属さないし、属せない。

 そう、信じていたのだが、人生とはままならぬ。

 

 あいつらも。

 あいつらも。

 

 思いの外、気持ちの良い奴等ではあったか。

 

 惜しむらくは、腐れの運命からは奴等も逃れられぬこと。

 

 残念無念。

 堕ちるところまで堕ちたのならば。

 一切の情けも容赦もなく、合切終わらせてやるとしよう。

 

 願わくば。

 その瞬間が、永劫訪れませんように。

 

 

 


 

 

 

「師匠ー! 遅いですよー!」

「すまんな、思ったよりも長引いた」

 

 

 ルミナスクエアの一角。

 洋装が基本の街で、黄が主体の道着を纏った一団が集まっていた。

 彼女達は衛非地区を拠点とし、新エリー都の様々な組織と契約して活動する雲嶽山の一員である。

 

 

「たまの休日は楽しめたか、瞬光」

「勿論! 料理の本も買っちゃった。今度、師匠にも食べさせてあげるから、期待しててね……!」

 

 

 不機嫌にも見える無表情をした妙齢の女性が、両手で包めぬほどの大嶽から白く長い髪を掬い上げた。

 

 彼女こそ雲嶽山十三代目宗主、儀玄。

 虚狩りに匹敵する戦闘力と影響力を有する女傑である。

 

 瞬光と呼ばれた栗色の髪の少女は、買ったばかりだという料理の本を抱きしめている。

 今日は、普段は一人で山に籠る彼女のため、ガス抜きとしてルミナスクエアにやってきた。

 

 生憎、儀玄はホロウ調査委員会から急な依頼により参加できなかったが、残るメンバーと共に気晴らしはできたようだ。

 

 

「料理ならオレに聞いてほしいんだがなぁ……」

「潘、そう拗ねないでください。あなたは中華が中心です。瞬光が買ったのは洋食のレシピ本ですから……」

「そうそう! あたしは美味しいものが食べられれば満足です!」

「福姐はこれだものなぁ。料理番はオレなんだが……ま、これを機に洋食も勉強してみるのもいいかもな!」

 

 

 縦にも横にもひと際大きい大熊猫(パンダ)のシリオンは潘(ぱん) 引壺(いんふー)。

 眼鏡をかけた偉丈夫と呼ぶに相応しい青年は、瞬光の兄でもある葉 釈淵。

 最も長い付き合いであり、儀玄が最も信頼する虎のシリオン、橘(ちー) 福福(ふーふー)。

 

 三人もまた雲嶽山の一員にして、儀玄の愛弟子であった。

 

 

「さて、そろそろ行くとするか。私の奢りだ。潘も、今日ばかりは作り手ではなく食い手に回れ」

「作るのは勿論、食うのも好きだから嬉しいが、お師さん、金の方は……」

「案ずるな。調査委員会の連中、急な依頼だから、と色を付けてきてな。ほくほく、というやつだな」

 

 

 もっとも、向かうのは馴染みの屋台。

 儀玄にとっても、また四人にとっても顔馴染みの人物であり、雲嶽山にも彼を知る人物は少なくない。

 

 名はナラカ。

 旧都陥落から1年後、ふらりと澄輝坪に現れた男だ。

 当時はまだ少年と言っていい年齢でありながら家族二人を養いつつ、ラマニアンホロウに調べものがあるとかで日帰りでやってきていた。

 

 色々と縁があり、持ちつ持たれつの関係性。

 いや、恩があると言ってよい。少なくとも儀玄はそう考えている。

 

 店の場所は把握済み。

 「一期一会」のノックノックアカウントがあり、店でQRコードで登録したものはその日の営業場所を知れる仕組みだ。

 

 

「ねえ聞いてよ大将! あの人ったら酷いのよ! 私の体型よりも一回り小さいドレスを買ってきて、メッセージカードに『君がこれを着れる日を楽しみにしている』ですって!」

「そりゃ酷い。こんなとこでデブのもと食ってる場合じゃねえなぁ」

「た、大将までそんなこと言うの?!」

「とは言え、奪われた自尊心は復讐で取り返すしかねえ。相手が先に手を出したんだ、やられたらやり返せばいい。でなきゃ、ダイエットにも身が入らねえだろ」

「何かいい案があるのね……!」

「旦那のサイズより一回り大きいコンドーム買って、メッセージカードに『あなたがこれを着けられる日を楽しみにしてるわ』って書いとけ。男の自尊心なんぞそれでもうボロ雑巾よ」

「……な、なんて的確で冷静な嫌がらせなのっ?! こうしちゃいられないわ! 薬局に寄って帰らなきゃ! ごちそうさまっ!!」

「はいはい、お粗末さん」

 

 

 ルミナスクエアの片隅で店を出している屋台から一人の客が足早に去っていく。

 

 聞こえてきた会話は酷いの一言。

 客の旦那の行いも酷ければ、それに対してナラカが提案した意趣返しもなかなか酷い。

 

 しかし、普段からプレゼントを贈っていることを考えれば、旦那は客に惚れ込んでいるのは間違いない。

 客の溜飲を下げつつ、旦那に反省を促すという点で見れば、悪手とは言えないかもしれない。

 

 だが、下手をすれば夫婦仲が崩壊しかねない。

 ナラカのいい加減なのか、良い加減なのか分からないアドバイスに、儀玄は溜め息をついて首を横に振った。

 

 なお、同じ男である釈淵と潘は、顔を引き攣らせる。

 まだ相手などいない二人であるが、それをやられたら立ち直れないと言わんばかりであった。

 

 

 ──その時、儀玄とナラカの視線が絡み合う。

 

 

 瞬間、ナラカの表情が一瞬で変化する。

 

 もう作画からして違う。

 いきなり楳図か〇お作画に変化し、まるで化け物でも見つけ、ギャーと叫び声を上げそうな勢いである。

 

 

「……お前さんなぁ」

「どうだぁ!? オレ、ちゃんと化け物を見る顔できてるかなぁ!?」

「ええ、してますね。仮にも常連相手に、その顔は酷いのでは?」

「酷くねぇよ! 酷っでぇのお前らの方じゃい! 一人ひとりで来るなら兎も角、揃ってくるとラーメン屋なのに何故かラーメン以外作らされとんだぞこっちはぁ!」

「いやぁ、大将の料理は美味いからなぁ。オレは中華一筋だけど、大将は何でも得意だろ? ラーメン以外も食べたくなるのさ」

「へへっ、そんなに褒められたって嬉しくないんだからな! 帰れ! この雲嶽山の化け物客(モンスターゲスト)ども! 恐怖を覚えるモンスターはアキラとリンだけで十分なんだよなぁ!?」

 

 

 嬉しくない、と言いつつも、同じく料理に携わる潘による心からの賞賛には、にっこり笑顔を浮かべるナラカ。

 しかし、過去の記憶を思い返したのか、すぐさま不俱戴天の敵を見る顔付きに変化し、慌てて屋台から暖簾を外しだす。

 

 何を隠そう、儀玄は何か祝い事がある度に弟子達と「一期一会」を訪れている。

 それだけならばナラカも何も言わなかったのだろうが、ラーメンでは祝いに足りない時には別の何かを作らされるのである。

 

 

「まあ、私も悪いとは思っておるよ。無理を言っているのはこちらだからな。しかし、腕も味もよい店を新しく見つけるとなると…………面倒でな」

「お前、取り繕おうとして途中で諦めてんじゃねえよ!」

「はっはっは。お前さんと私の仲だ。頼まれてはくれないか?」

「アンタとは長い付き合いだってのは認めるが、嫌なもんは嫌でぇぇぇぇす!!」

 

 

 儀玄とナラカはもう10年近い付き合いとなる。

 彼女にしてみれば、福福と並ぶほど信を置く相手。

 

 きっかけはラマニアンホロウへ調べものに来たナラカが、過去の記録を多く持ち帰ってきたことにある。

 歴史的な価値のある物も相当数あり、中には旧都陥落によって失われた雲嶽山の秘術や伝承に関して記した書物もあった。

 

 

『アンタが何とか山の宗主か? アンタ等んとこらしい書物を見つけてな。悪いが、買い取ってくれないか?』

 

 

 ゼロからの再スタートで四苦八苦していた儀玄と福福の下を訪れたのが始まり。

 

 儀玄にとってありがたかったのは、ナラカが類稀なエーテル操作の才能、即ち雲嶽山でいう術方に極めて高い適正を持ち合わせていたこと。

 更には、何処か抽象的で寓話めいた語り口で綴られた書物から、筆者の背景や信念、思いに思考を巡らせ、その精髄を見出してのける始末。

 

 数多くの研鑽、数多くの試行においても、金を貰うついでと持ち前のエーテル操作の才を生かし、貢献してくれた。

 お陰で、全盛期とまで行かずとも、術法の数も種類もホロウ災害に抗せるまでに持ち直している。

 

 何度か雲嶽山の一員にならないか、と打診はしてみたものの、結果は取り付く島もなく。

 挙句、屋台なんぞをやり始め、儀玄にとっては勝手気ままで腹立たしい男であり、同時に頼りになる男でもあった。

 

 だからこうして今日も頼りにして訪れた。

 決して、いい店を探すのが面倒であったわけではない。決して。

 

 

「よしっ! どうせどんだけ駄々捏ねても帰んねぇんだろ!? もうこうなったら勝負だ! 勝負で決めよう!!」

「ふむ、勝負か。だがよいのか。五対一だぞ?」

「五人抜きすりゃいいんだろ!? バカ野郎お前オレは勝つぞお前! ですがハンデとして勝負の内容はオレが決めさせて下さいお願いします」

「ナラカさん、どうして急に弱気に……」

「勢いしかなかったから。天下無双の雲嶽山に勝てる自信なくなってきたから……」

 

 

 儀玄が愛弟子達を見やれば、自信満々の者もいれば、ナラカに対して疑いの眼差しを向ける者もいる。

 

 とは言え、このままナラカを納得させなければ、折角の息抜きが台無しになる。

 別の店を探すにしても、時間もかかれば、皆の好みと一致するとは限らない。

 

 小さく溜息をついた儀玄は、首を縦に振った。

 

 

「分かった分かった。お前さんの提案に乗るとしよう。で、勝負内容はなんだ……?」

「腕相撲でお願いします」

「成程、そう来たか。まあ、いいだろう」

 

 

 そうして始まる雲嶽山VS「一期一会」チキチキ腕相撲五番勝負!

 

 ナラカは客足が好調な時に出す組み立て式のテーブルとイスを二つ用意する。

 どっかとイスに座り、もはや勝負の変更は受け付けねえと徹底抗戦の構え。

 

 一番手は誰が行くか、と儀玄は見回すと、意気揚々と手を上げたのは一番弟子。

 

 

「はい、私が相手をしてあげます!」

「ほう、福福。いい度胸だ。ククク、オレにそんな細腕で勝てると思っているのか?」

「ふっふっふっ、ナラカさんの方こそ分かってるんですかねぇ。私達は五人で一人勝てばいいんですよぉ。ウチには潘さんがいますからね! 私達はナラカさんの体力を少しでも減らせばいいんです! 小さくとも虎のシリオン! あたしの剛力を舐めないで貰いましょうか!」

「あー、それは、そうなのですが……」

「福姐さん、オレを信じてくれるのは嬉しいんだがなぁ……」

 

 

 福福は自らの戦略を自信満々に口をしながら、席に着く。

 そして、ドンと腕を机の上に置く。

 その姿は妹弟子に当たる瞬光には、酷く頼もしく見えた。

 

 しかし────

 

 

「…………あれ?」

「おや、どうかしたのかい、福福さんや?」

「いや、あの……ナラカさんの手に、私の手が届かないんですけど。腕相撲なんて、どうやるんです?」

「おやおや、おかしなことを。勝負が成立しない以上は、オレの不戦勝ですねぇ」

「はぁ!?」

「えっ!? ちょっと待って?! これ私も届かないやつじゃ?!?」

「 知 っ て た 」

「汚いですねさすが大将きたない」

「大人げないなぁ……」

「黙れ、潘っ! オレはもう今日はお前らの異次元注文どころかチャーハンだって作りたくねぇんだよぉ!!」

「お前さんがチャーハンを作りたくないのは何時ものことだろうが……」

 

 

 残念ながら腕がそもそも届きませんでした。

 福福は手首と肘の半ばまで。瞬光であっても手首まで。

 

 はいオレの不戦勝で2連勝ー、と狙っていたナラカはへらへら笑いながらのガッツポーズ。

 汚ねぇ大人の汚ねぇ戦略を見せつけられ、福福と瞬光はただただ茫然とするのであった。

 

 

「で、腕力的には次はお前か、儀玄」

「まさか。お前さんに腕力で挑むほどバカではないさ。折角の日に、このか弱い細腕を痛めたくはない」

「「「か、よ……わい……?」」」

「お前さん達、あとで覚えておけよ?」

 

 

 儀玄も最初(はな)から勝負をするつもりはなく、席に着こうとさえせずに軽口で辞退する。

 

 それに反応したのは失礼千万な男ども。

 三人は目を見合わせ、疑問符と共にもっとも気になった部分を呟きながら儀玄に視線を集中させた。

 

 これには流石の儀玄も薄っすらと青筋を立て、ニッコリ笑顔で三人を威嚇する。

 

 

「んんっ、おほん……どうやら、私の出番のようですね」

 

 

 空気を換えるために釈淵は咳払いと共に、眼鏡を外す。

 それを瞬光に渡すと、勝負の席に着いた。

 

 だが、儀玄は知っている。

 うら若き乙女なら頬を染め、黄色い悲鳴を上げそうな愛弟子は、生粋のドシスコン。

 目に入れても痛くない可愛い妹に、いいところを見せたくて仕方がないお兄ちゃんでしかないと──!

 

 

「いざ尋常に、勝負──!」

「頑張って、お兄ちゃん……!」

「はーい、左に参りまーす」

「ア゛ァァァァ────!!!!」

「お兄ちゃん開始2秒で負けそうっ!!!」

 

 

 釈淵の甲高い悲鳴に、瞬光の悲鳴も同時に上がる。

 もう年下の頑張りをイジって遊ぶのが楽しくなっているのか、もうニッコニコのナラカに儀玄は呆れで首を振るしかない。

 

 

「おっ、でも釈淵、頑張るじゃーん! 鍛えてるだけあるなー!」

「あ、あまり舐めないで、頂きたい……! 今日は、瞬光のための休日、私が負ける、わけにはぁ────!!」

「かっこいいぜお兄ちゃん! はーい、右に参りまーす!」

「うぉぉ、何処までも、人を馬鹿にし腐って! はぁぁぁぁっっ!!」

「はい、どーん!」

「あぁ────っ!」

 

 

 わざと力を抜いて負けそうになりながら、一気に逆転。

 普段の彼からは考えられない性格の悪さだが、どうやら雲嶽山の無茶振りには鬱憤が溜まっているらしい。

 

 敗北を喫した釈淵はテーブルに突っ伏すと悔しさからか、ドンと拳を振り下ろす。

 そこまで悔しいか、と儀玄は思うが、福福と瞬光はよくやったとばかりに釈淵を労っていた。

 

 そして、更に釈淵の肩を叩く漢が一人。

 

 

「後は、任せてくれ……!」

「潘……! どうか、不甲斐ない私に代わり……後は、任せますっ!」

「ああ、皆の仇は、オレが取る……!」

「ついに来たな、本命がよ……!」

 

 

 雲嶽山VS「一期一会」チキチキ腕相撲五番勝負、最終戦が始まる……!

 

 もう今日はラーメン以外に作りたくない店主、ナラカ。

 雲嶽山の期待を一身に背負う漢・潘 引壺。

 

 

「汚い手を使ったかと思えば、大兄弟子を弄ぶ。絶対に許さないぞ、大将……!」

「くくく、ほざけ! ラーメン屋でラーメン以外を要求するバカどもが……!」

「それはそう……」

「ちょっと申し訳なさそうにするな……! 最後に言い残すことはあるか……!」

「オレが勝ったのなら、皆で美味しいものをたらふく食べたい……!」

「いいだろう、気に入った! “皆で”のところが特になぁ……! いざ、尋常に……」

 

「「勝負──!!」」

 

「なんだこの茶番は……」

「師匠はちょっと黙ってて!」

「そうですよ、師匠!」

「漢と漢の勝負に水を差すなど……!」

「……そうか…………そうかぁ……?」

 

 

 激突する腕力と腕力……!

 衝突するプライドとプライド……!

 

 もう白け始めていた儀玄であったが、ナラカと潘の勝負には目を見張った。

 本来であれば大熊猫のシリオンに、ただの人間が腕力で伍することなどありえない。

 

 だが、相手はラマニアンホロウを鼻歌交じりに散策しながら調べものに勤しんでいたナラカ。

 

 儀玄に驚きはなく、流石だなという感想しか出てこない。

 彼の強さは、手合わせを以て体験している故に。

 

 飄々と己の攻撃を躱すか、捌くかするだけ。

 図抜けた身体能力と動体視力に任せ、それらを成立させているように見えて、その実根幹には何らかの術理が見てとれた。

 

 

「だらだらやるのは趣味じゃねぇ、一気に決めてやる……!」

「ぐ、お、ぉぉ……!」

 

 

 勝負の天秤が徐々にナラカへと傾き始める。

 

 その姿は、かつて見た強さそのままであり、思わず儀玄も微笑む。

 しかし、このままでは潘が負けるだろう。それでは、折角の休日も台無しだ。

 

 さて、一計でも案じてみるか、と口を開こうとしたが、それよりも早く福福と瞬光が動き出していた。

 

 

「あ、あぁ~、師匠の胸の金具がー(棒読み)」

「これではどすけべデカパイがまろびでてしまいますねー!!!(大声)」

「マジで……!?」

「こんな手に引っかからないでください、このスケベ大将!!」

 

 

 神速。

 そう表現するしかない速度で、ナカラの首が稼働した。

 

 儀玄は自分に向けられた視線に、ギョッとして目を丸くする。

 福福の物言いには思うところがあったが、ナラカがそんな目を向けてくるとは考えてはいなかった。

 

 自身の胸と顔を何度となく見比べるナラカに、何だか無性に気恥ずかしくなり、儀玄は思わず両手で隠す。

 

 だが隠す対象が大き過ぎて、すべて無駄な努力。

 むしろ、腕に潰れされて形を変えるさまは、男の劣情を煽るほどだろう。

 

 

「…………助兵衛め」

(エッ、かわっ、エッッッッッッ!!!!!!)

「今だぁ────!!!!」

「……あぁん!」

 

 

 頬を染めて視線を反らした儀玄に、ナラカが思わず固まると隙を逃さず潘が全力で押し返す。

 

 ダン! と勢いよく手の甲が叩きつけられ、此処に勝負が決した。

 

 勝者、雲嶽山は潘 引壺。

 

 

「ウォォオオォ────!!」

「やったね、潘さん……!」

「これで美味しいお肉が食べられますー!!」

「流石です、潘……! よくぞ我々の仇を……!」

 

 

 勝利の雄叫びを上げる潘に、瞬光と福福はふくよかな毛並みに抱き着いて大喜び。

 釈淵も、薄っすらと涙を浮かべながら、弟弟子の健闘ぶりを静かに賞賛した。

 

 

「何だよもぉぉぉ! 男の純情弄びやがってよぉぉぉぉっ!! お前らなんかに、お前らなんかにぃ……!」

「……………………助兵衛め」

「…………美味いもんたらふく食わせてやるからなぁッッ!」

 

 

 





 ある日の気ぶり雲嶽山

「うーん……」
「あれ? 福姐さん? どうしたの?」
「あ、瞬光ちゃん。それに、釈淵さんに潘さんも」
「何か悩みですか?」
「オレ達も一緒に悩もうか? 何か解決策が見えてくるかもしれないしな」
「うん、そうですね。じゃあ、皆にも……」
「「「?」」」

「師匠の婚期、どう思います?」
「「「ヤバい」」」

「ですよね? ですよね!」
「結婚が女の幸せとは言わないけど、師匠には支えてくれる人が必要だよね……!」
「とは言え、当人にそのつもりがなければ、余計なお世話にしかならないでしょう」
「だなぁ。うーん、福姐が悩むのもよく分かる……」

「何だ、お前さん達、雁首揃えて」

「あ、師匠…………師匠はいい人いないんですか?」
(((ストレート過ぎる!!)))

「何だ、藪から棒に。おらんよ、お前さんなら知っているだろう。全く、他の連中もせっついてきおって」
「いやぁ、でも雲嶽山の跡継ぎとかもあるし……」
「元より雲嶽山は血縁で次代を選んでおらんさ。それに、修行しか知らんような女を娶ろうとする物好きもいまい」
「…………結婚願望などは」
「全くない、とは言わんがな。まあ縁に任すさ」
「じゃあ、男の知り合いとかは……」
「男、男か。となると、真っ先に思い浮かぶのはメイフラワーか。だが、正しいからと隠れて物事を進める奴は、な」
「あー、師匠はちゃんと相談して頼ってくれないと嫌そうですもんねー」
「他には、防衛軍のローランド大尉だが、高潔な男だとは思うが……」
(あの人は自己犠牲も厭わない方だから、高潔であれども師が安心はできないか)
「あとは、ナラカか…………………………うん、ない。ないな。いや、ない、か? むっ、ない、よな……?」

((((今の間は……!))))

(これは脈ありですね……!)
(ナラカさんなら、師匠を任せられる……!)
(いい加減だが、匙加減を間違えるご仁ではない……!)
(殺しても死にそうにないし、お師さん任せるには最適じゃないかこれ……?)


「皆さん……! 頑張りますよ!」
「「「おー!!!」」」
「何だ、急に円陣なぞ組んで」


 そんな本編よりも仲良し雲嶽山。
 釈淵ブチ切れで地獄の空気にもならないよ!

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