フリーレン「そうだ。社会主義革命を起こそう」   作:あっさーだ

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剰余価値論のアウラ➁

フリーレンは衛兵に黙って宿泊所を出た。見張りの衛兵は首を切り落とされてドアの前で死んでいたので、ばれようもないのだが。

 

 中央からの照会の返事はまだ来ていない。書類の真偽が確かめられるのを待っていたら、その前にこの街が落ちる。

 

 庁舎にはリュグナーとリーニエが残っていた。二人の魔族はフェルンとシュタルクに任せた。あの二人なら勝てる。勝てないようなら、どのみち間に合わない。

 

 月明かりが、静まり返った平原を青白く照らしている。街から十キロ離れたこの場所は、かつて魔王軍と人類が血を流し合った古戦場であった。

 

 飛行魔導を駆使して、フリーレンは丘の上へ向かった。向かう前から分かっていたが、丘に、途方もない量の魔力資本が滞留している。

 

「久しぶりだね。アウラ」

 

「そうねぇ。八十年ぶりかしら。フリーレン」

 

 少女は八十年前と同じ顔で、地面に立っていた。

 

 その背後に、数千。

 

 甲冑の擦れる音がする。革帯の軋む音がする。だが、息の音がしない。数千の兵がそこに整列していて、呼吸の音だけが一つもなかった。

 

 全員、首から上がないからだ。

 

 剰余価値。労働者が生み出した価値のうち、賃金として支払われなかった残余──党の教科書はそこまでしか書かない。

 

 アウラはその先を行った。

 

 人間が働くには食事も睡眠も治療も要る。いずれは故郷へ帰りたがる。彼女にとって、それらはすべて経営を圧迫する維持費だった。首を落とせば、維持費は零になる。首のない兵は食わず、眠らず、傷を治さず、帰りたがらない。ただ働く。

 

 賃金を払わないだけでは、剰余価値は労働者が生きる分だけ目減りする。生きること自体をやめさせれば、目減りは消える。労働者の生み出したすべてを「剰余価値」にできる。

 

 平原に並んでいるのは軍勢ではなかった。五百年ぶんの、支払われなかった総額である。

 

「この先の街に行くつもりでしょ。引き返してくれるとありがたいんだけど」

 

「嫌よ。私のほうが、圧倒的に優勢だから」

 

 アウラが笑う。彼女の目に、この数千の苦悩は映らない。見えているのは、彼らがまだ産み出せる価値の量だけだ。

 

「……見知った軍服がいくつかあるね」

 

 フリーレンは列の端に目をやった。八十年前、この平原で肩を並べた国のものだった。

 

「アウラ、やっぱりお前はここで清算しないとだめだ」

 

 杖を構える。

 

 放つのは破壊の魔導ではない。アウラが兵たちに書き込んだ契約を、外側から一枚ずつ剥がしていく作業だった。

 

 前列が崩れる。二列目が崩れる。倒れた体は、もう二度と起き上がらなかった。

 

「驚いたわ。私の支配が、こんなに鮮やかに解除されるなんて。……どうしてこんな回りくどいことをするの? 以前のように、派手に吹き飛ばして一括償却すればいいじゃない」

 

「後でヒンメルに怒られたんだよ」

 

「ならますます、こんなことする必要ないでしょ」

 

「──────────ヒンメルはもういないじゃない」

 

 悪意はなかった。死者は何も産まない。ゆえに考慮に値しない。彼女にとってそれは、足し算と同じ程度に自明な理屈だった。

 

「……そうか。よかった。やっぱりお前たち魔族は、人間性を排した化物だ。容赦なく殺せる」

 

 フリーレンの目がアウラを鋭く貫く。表情はほとんど変わっていない。しかし、纏う空気が一層冷えた。

 

「ふふ……。この私の前で、そんなに多くの魔力資本を浪費して大丈夫なのかしら?」

 

 アウラが、天秤を掲げる。

 

 『服従させる魔法』。

 

 服従の天秤。二つの魂を皿に乗せ、どちらがより大きな経済主体であるかを判定する装置である。判定は覆らない。軽いほうは、重いほうの資産になる。

 

 アウラの体から魔力が溢れ出した。五百年かけて他人から取り立ててきた分が、そのまま片方の皿へ流れ込み、鎖を軋ませて沈んでいく。

 

 アウラは唇の両端を吊り上げ、にたりと笑った。

 

「私の勝ちよ。後はこの私じきじきに、お前の存在を資産として接収してあげる」

 

 天秤が揺れる。アウラの皿がさらに沈み、フリーレンの魂を飲み込もうとした──その時。

 

 ガタン、と重い音を立てて、天秤は垂直に跳ね上がった。

 

 五百年の蓄積が、宙に放り出された。

 

「私の魂を天秤に乗せたな、アウラ。……正直、軍勢の物量で押されていたら危なかった。お前が自分の資本に絶対の自信を持っていてくれてよかったよ」

 

 アウラに困惑の表情が浮かぶ。

 

「……どういうこと。何が起きているの。私は五百年ものあいだ、誰よりも効率的に、誰よりも多くを蓄えてきたはずよ!」

 

「格付けは、申告された資産に対して行われる」

 

 フリーレンは静かに言った。

 

「私は千年間、自分の魔力資本を過小申告し続けてきた。制限特有の揺らぎも、ぶれも出さずにね。お前の天秤が量ったのは、私が帳簿に載せておいた分だけだ」

 

 アウラの表情が凍りつく。

 

「……そんなはずないわ。それならこの私が見逃すはずがない」

 

 魔族は人よりはるかに魔力の制御にたける。発される魔力がもし制限されていても、制限特有の不自然な揺らぎから見破るのは容易である──はずだった。

 

 フリーレンは魔族を殺すためだけに、ほとんどの時間を魔力を制限して過ごしてきた。それこそ、制限しているほうが自然になるほどに。

 

 魔族にとって魔力資本は地位や財産そのものである。資本を失ったものは労働者に墜ちる。ブルジョワジーでいるためには常に資産を誇示し続けなければならない。彼らに魔力資本を隠すという発想はない。

 

「……馬鹿じゃないの。なんでそんなわけのわからないこと」

 

「そうだね。馬鹿みたいだ」

 

「──でも、魔族には勝てる」

 

「……ふざけるな。私は五百年以上生きた大魔族だ」

 

 アウラの顔が歪む。今度は、恐怖で。先ほどまでの余裕はどこにも感じられない。

 

「アウラ。お前の前にいるのは、千年以上生きた魔導使いだ」

 

 針が振り切れた。

 

 その瞬間、アウラは理解した。自分が取り立てる側から取り立てられる側へ、資産を持つ者から資産そのものへ、落ちたのだと。

 

「……ありえない……。この私が……」

 

 涙が頬を伝う。フリーレンは、その怪物に判決を下した。

 

「アウラ。自己批判しろ」

 

 言葉は、彼女自身が魂に刻んだ服従の魔導と共鳴した。口が、勝手に開く。

 

「私は……。他者の研鑽を掠奪し、それを自己の資本と偽ることで、世界の発展を停滞させてきました……。私の不死の軍勢は、人間の労働から主体的意志を奪い、死せる機械へと還元する、最も卑劣な搾取の象徴に他なりません……」

 

 止まらない。自らの支配がどれほど脆い砂上の楼閣だったかを、自らの舌が暴いていく。

 

「五百年の月日は、私にとって、ただの略奪の蓄積に過ぎませんでした。千年の時を真に労働として積み上げた貴方の前で、私の魔力資本は何の価値も産まない、ただの負債です……」

 

 己の階級的立場を、己の言葉で断罪する。

 

「私は……。この市場にとって、もはや有害な負債でしかありません。……自己を清算する。それが、唯一の歴史的義務だと考えます」

 

 アウラは震える手で剣を抜き、自らの首に当てた。

 

 他人の命を数字と効率だけで測ってきた者が、最後に自分自身を同じ物差しにかけ、同じ結論を出した。

 

 剰余価値論のアウラと呼ばれた掠奪の象徴は、自ら下した判決に従い、夜の闇へと霧散した。

 

 

 アウラという略奪資本の崩壊は、平原に積み上がっていた死せる労働力の山を、一夜にして霧散させた。

 

 しかし夜明けとともに市に訪れたのは、安息ではなく、峻厳な政治的清算の空気であった。

 

 和睦の使者の受け入れは、グラナトが独断で決めたことだった。上申の記録は州党委員会にも中央にも残っていない。

 

 使者三人が街に入った目的は、明らかであった。内側から結界を解除し、一夜で街を落とす。それが最初からの段取りだった。

 

 街は落ちなかった。だが落ちなかったのは、たまたま特命全権代表が巡察の途上でこの街に立ち寄っていたからにすぎない。そして第一書記は、その特命全権代表を国内軍に組み伏せさせ、二日にわたって客室に留め置いていた。

 

 中央からの照会の返事は、明け方に届いた。書類は本物であった。同じ便で、公判の開廷を命じる電報も届いていた。

 

 裁判を行う旨が、街中の拡声器で流される。今度は、誰もが聞いていた。数日以内に、中央紙『プラウダ』でも大々的に批判されることだろう。「人民の敵」として。

 

 公判は労働者会館の円柱広間で行われた。招集は前夜のうちに済んでいる。各工場の職場委員、コルホーズの代表、教員組合、婦人部。傍聴席の割り当ては座席番号まで印刷され、朝には壁新聞用の写真班が三脚を立てていた。

 

 速記者が二人。書記官が三人。演壇の背後には、前夜のうちに掛け替えられたヒンメルの肖像。

 

 被告席に立たされたのは、この街の統治者だった男である。肩章も勲章も外され、襟の留め金だけが残っていた。

 

 その傍らで、特命全権代表補佐──事実上の政治将校としての任務を帯びたフェルンが、感情を排した声で罪状を読み上げた。

 

「被告人グラナト。貴公の行為は、プロレタリア国家の存立を揺るがす重大な利敵行為である。以下の三点をもって、貴公を弾劾する」

 

 広間に、フェルンの凛とした声が響き渡る。

 

「罪状一。階級的敵対者との密約。魔族という、人間性のない、略奪のみを目的とする存在に対し、『和平』の名による妥協を試みた日和見主義的行為。

 

 罪状二。職務妨害。党中央より派遣された特命全権代表フリーレン同志に対する不当な拘束、およびその遂行の阻害。

 

 罪状三。小ブルジョワ的感情主義。息子の死という個人的、感傷的な動機を優先し、市民全体の安全を担保に供した。これは歴史的使命を忘却した、許されざる私物化である」

 

 続いて、各職場からの決議文が読み上げられた。

 

 第二機械工場労働者集会、全会一致。市電車庫従業員集会、全会一致。第七学校教員会議、全会一致。文面はいずれもほぼ同一で、末尾も同一だった。曰く、人民の敵に最高刑を要求する。

 

 被告に発言が許された。グラナトはゆっくりと頭を上げた。その瞳に、かつての支配者の風格はない。ただ、己の矛盾を突きつけられた者の苦渋が滲んでいた。

 

「……私は、魔族が語る『自由な貿易』や『平和』という甘い幻影に、魂を売り渡しました」

 

 声は震えていたが、広間の隅まで届いた。

 

「息子の返還という個人的な欲望に目が眩み、ヒンメル同志が血を流して築き上げた鉄の規律を蔑ろにしたのです。私は、自らの感傷によって市民を死の市場に投げ出そうとした、卑しむべき日和見主義者です。……私に対するいかなる清算も、甘んじて受け入れます」

 

 その供述は、前夜のうちに調書として整っていた。彼が読み上げたのは、彼自身の言葉であり、同時に、彼が書いたのではない言葉でもあった。この国では、その二つはしばしば区別されない。

 

 傍聴席から声が上がりはじめる。処刑を、と誰かが言い、すぐに三十人がそれに続いた。

 

 その時、壇上の奥から、静かにフリーレンが歩み出た。彼女の瞳には、かつて理想を掲げながら現実の摩擦に消えていった数多の政治家たちの記憶が、地層のように重なっている。

 

「グラナト。君の罪は、アウラの配下を招き入れたこと自体じゃない」

 

 その声は、裁判官というよりは、歴史そのものが語りかけているかのように低く、重かった。

 

「アウラのような略奪資本の化身に、言葉一つ、感傷一つで君の理想を買い叩けると確信させてしまった。その隙を見せたことだ」

 

 フリーレンは一歩前に出て、高窓の外の街並みを一瞥した。煙突は、今朝も止まっていない。

 

「……とはいえ、君が維持してきたこの街の結界が、私たちが到着するまでの時間を稼いだことも事実だ。君の労働は、まだ完全には腐っていない」

 

 右手を挙げ、彼女は判決を宣告した。

 

「グラナト。君から第一書記および一切の特権を剥奪する。身柄は本日をもって党中央の管理下に置く」

 

 どよめきを制し、彼女は続けた。

 

「量刑。北方特別建設管理局への無期限配属。対魔族防衛魔導施設の建設労働に従事すること。恩赦の申請は認めない。功績による減免も認めない。貴公はそこで、一人の労働者として、自らが招き入れた脅威と対峙し続けなければならない」

 

 広間が静まり返った。

 

 三秒。長い三秒だった。

 

 最初に手を叩いたのが誰だったのかはわからない。二人目はすぐに続いた。三人目からは雪崩だった。

 

 判決の中身に納得したからではない。判決には拍手する。そういうものである。

 

 問題は、始めることではなく、終わることだった。

 

 一分。二分。掌が痛み、上げた腕が重くなる。それでも誰も先にやめない。最初に手を止めた者が、その判決に不満だったと読まれる。不満だと読まれれば、次に被告席に立つのは自分だ。

 

 後方の席では、叩く回数を減らし、力を抜き、音だけ合わせてごまかすことができた。だが壇上に近い前列にはそれができない。第二機械工場の職場委員たちは、隣の人間の手が止まるのを目の端で待ちながら、四分間、正しい速さで手を叩き続けた。

 

 止めたのはフリーレンだった。彼女が軽く右手を挙げると、広間は一斉に静まった。誰も、自分が最初にやめたことにならずに済んだ。

 

 そのあいだに、写真班のマグネシウムが数度光った。判決を読み上げるフリーレン。被告席。拍手する傍聴席。

 

 記者たちには開廷前から記事の原稿が配られていて、判決の箇所だけが空欄になっていた。速記者の一人が書きかけの字を消して書き直し、州機関紙の記者は空欄に短く書き込んだ。翌朝の一面の見出しは、前夜のうちに組まれていたものがそのまま使われた。人民の敵に、鉄の判決。

 

 それは即時の死刑よりも過酷な、生きた労働による償いであった。英雄として死ぬことを許さず、泥にまみれて妥協の代償を背負い続けさせる。それが、フリーレンの導き出した歴史的解だった。

 

 その晩、街のいたるところで、インクの蓋が開いた。

 

 三年前の州党活動者会議の記念写真、労働英雄の表彰式、結界工事の写真。壁から外され、卓に広げられ、ある人物の顔だけが、丁寧に黒く塗り潰された。

 

 誰も命じてはいない。所持しているのを見咎められた場合に、説明できないからである。判決は労働刑であって処刑ではなかったが、その区別に賭けるほど、この街の人間は楽観的ではなかった。

 

 

 数時間後。グラナトが連行され、党中央から派遣された管理官たちが街の接収を始めるなか、三人は再びエンデを目指すべく、巡察の支度を整えていた。

 

「……フリーレン様。あれで良かったのでしょうか」

 

 フェルンが、まだ納得のいかない表情で問いかける。

 

「党の規律に基づけば、もっと厳格な処分──物理的な清算が必要だったのでは」

 

 フリーレンは遠く北の空を見つめ、少しだけ目を細めた。

 

「いいんだよ。ヒンメルならそうした。『間違えた人間を殺すのは簡単だが、間違えた人間に、正しい歴史を作らせるのは、もっと誇らしい仕事だ』ってね」

 

 シュタルクが荷を背負い直す。

 

 駅へ向かう途中、三人は勝利広場を横切った。

 

 ヒンメル像は今朝も右手を上げ、北を指している。台座の脇では赤い腕章の子供が二人、五分交代の衛兵直に立っていた。交代の時刻が来ると、二人はぎこちなく足を踏み替え、次の二人と入れ替わった。

 

 フリーレンは一度だけ足を止めて、それを見ていた。

 

「行こう」

 

 三人は、像が指すのと同じ方角へ歩き出した。




ソ連小ネタ注釈


■ 語彙と階級

**ベドニャク(貧農)**
革命後、農民は貧農・中農・クラーク(富農)に区分され、クラークは階級敵として弾圧された。区分は収入や農具の有無で決まる建前だったが、実際には村の中の力関係で決まることも多い。

**「修正主義」「日和見主義」**
どれも実在の批判用語。理屈で反論しにくい語彙を先に貼りつけて、以後の議論をそこに固定するのが使い方である。

**同志**
革命後の標準的な呼びかけ。逆に言えば、「同志」と呼ばれなくなったときが危険信号である。


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■ 見せしめ裁判

**円柱広間での公判**
史実の大粛清期、最大の見せしめ裁判は旧貴族会館の柱の間で開かれた。第一話でハイターの遺体が安置された、あの部屋である。史実でも同じ広間が国葬にも公開裁判にも使われた。

**招集された傍聴席**
傍聴は自由ではなく割り当て制。職場ごとに人数が振られ、座席番号まで決まっている。反応も含めて演出の一部だった。

**職場集会の全会一致決議**
公判の前後に各職場で集会が開かれ、「人民の敵に最高刑を要求する」という決議が上がる。文面は上から配られるので、どこの職場でも同一になる。反対票はもちろん出ない。

**あらかじめ整っていた調書**
被告の「自白」は事前に作られ、本人はそれを読み上げる。抵抗すれば家族に及ぶ。

**自己批判**
自らの誤りを、党の語彙で、自らの口で述べる手続き。処分の前提であり、ときには処分そのものでもあった。

**「人民の敵」**
一度この語を貼られると、家族・同僚・友人まで連座の対象になった。中央紙で名指しされることは、社会的な死の宣告に等しい。

**終わらない拍手**
本編で四分間続く拍手は、史実のよく知られた挿話が元になっている。指導者への拍手を誰も最初にやめられず延々と続き、ついに手を止めた工場長が、その夜に逮捕された——という話である。ただし、この話は後世の創作の可能性もあり、真偽不明。

**先に用意された記事**
判決欄だけを空けた原稿が記者に配られ、見出しは前夜のうちに組まれている。報道は事実の伝達ではなく、決定の告知だった。

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■ 判決のあと

**北方特別建設管理局**
実在の強制労働管理機構がモデル。運河、鉄道、鉱山、都市建設が、収容所労働によって進められた。死刑ではなく労働刑という判決は、慈悲であると同時に、より長い刑でもある。

**写真の顔を塗り潰す**
粛清された人物は写真から消された。公式には修整済みの写真が配布され直し、百科事典には差し替えページが送られてきた(送られてきた側は、古いページを切り取って貼り替える)。

**恩赦の申請は認めない/功績による減免も認めない**
量刑そのものより、この二行の方が重い。制度の中で唯一残された希望の窓を、判決文が名指しで閉じている。

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■ 魔族の設計について

**剰余価値論のアウラ**
剰余価値とは、労働者が生み出した価値のうち賃金として支払われなかった残余のこと。「首を落とせば維持費が零になる」というアウラの発想は、その概念を極限まで押し進めた戯画である。食事も睡眠も治療も帰郷も、経営側から見れば労働力の再生産費でしかない——という視点を、そのまま怪物にしてみた。

**不可視の債務(ドラート)**
返せる額ではなく返せない額を貸し、返せないという事実で縛る手口は、略奪的融資と呼ばれる実在の問題。フリーレンの解法(債権者を消せば債務も消える)は、その比喩に対する最も身も蓋もない回答である。

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