エルフのリズレと薬屋アレン   作:飽きやすい創作隊

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エルフのリズレと薬屋アレン

月夜の薬屋

 

 森の奥には、人間の地図には載っていない小さな薬屋がある。

 

 店主の名はアレン。

 

 薬草を煎じ、傷薬を作り、時には魔物に噛まれた旅人まで治す変わり者の薬師だった。

 

 そして、そんな店に毎晩のように現れる客がいる。

 

「アレン、いい?」

 

 扉を開けて入ってきたのは、一人のエルフだった。

 

 銀色の髪。満月のように丸く光る金色の瞳。

 

 名はリズレ。

 

「……また来たのか」

 

「なによ、その嫌そうな顔は」

 

「嫌とは言ってない。ただ、エルフは長命なんだから、毎晩薬屋に来る必要なんてないだろ」

 

「必要があるの」

 

「どんな?」

 

「あなたの薬を飲む必要がある」

 

 リズレは真顔で言った。

 

 アレンはため息をつく。

 

「昨日も同じこと言ってたな」

 

「昨日の私は昨日の私。今日の私は今日の私でしょ」

 

「屁理屈だろ、それ」

 

 そう言いながらも、アレンは棚から小瓶を一つ取り出した。

 

「ほら。蜂蜜を入れた。前より苦くない」

 

「……覚えていたの?」

 

「何を?」

 

「私が苦い薬を嫌っていること」

 

「客の好みくらい覚えるさ」

 

 リズレは小瓶を受け取った。

 

 けれど、すぐには飲まなかった。

 

「どうした?」

 

「……なんでもない」

 

 エルフの耳が、ほんの少しだけ赤くなっていた。

 

 翌日。

 

 アレンが店の裏で薬草を摘んでいると、森の方からリズレが走ってきた。

 

「アレン!」

 

「どうした?」

 

「これを見て」

 

 差し出された手のひらには、一輪の白い花が乗っていた。

 

「月白草?」

 

「知っているの?」

 

「知ってる。珍しい薬草だ。傷を治す薬の材料になる」

 

「そう」

 

 リズレは嬉しそうに笑った。

 

「なら、あげる」

 

「いいのか?」

 

「あなたに使ってほしい」

 

「……ありがとう」

 

 アレンが花を受け取る。

 

 その瞬間、指先が触れた。

 

 二人とも、なぜか黙った。

 

 森を抜ける風が、二人の髪を揺らす。

 

「……アレン」

 

「ん?」

 

「あなたは、いつまでこの森にいるの?」

 

「ずっとだろうな。ここが好きだから」

 

「そうなんだ」

 

「リズレは?」

 

「私はエルフなんだから、森にいるのは当然でしょ」

 

「それもそうか」

 

 アレンが笑う。

 

 リズレも笑った。

 

 ただ、その夜。

 

 アレンは一人で店の窓を閉めながら、ふと思った。

 

 ――リズレが来なくなったら、きっと寂しい。

 

 そして同じ頃。

 

 森の中を歩くリズレも、月を見上げていた。

 

 ――人間は、どうしてあんなに短い時を生きるのだろう。

 

 長命なエルフにとって、人間との時間はあまりにも短い。

 

 だからこそ。

 

 リズレは明日の夜も、薬屋へ行くことにした。

 

 たとえ薬を買う必要がなくても。

 

 アレンに会うために。

 

 月が森を照らす。

 

 小さな薬屋の扉には、明日もきっと「開店」の札が掛かっている。

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