翌日の夕暮れ。
アレンが店先の薬草を片付けていると、森の向こうからリズレが姿を現した。
銀色の髪が夕日に染まり、その奥で、金色の瞳が静かに輝いている。
「アレン」
「今日は早いな」
「……そう?」
「いつもは月が出てから来るだろ」
「今日は、早く会いたかった」
「え?」
「…………」
リズレは自分で言ってから、しまったという顔をした。
「いや、違う。薬が必要だったの」
「薬?」
「そう」
「何の?」
「……心臓に効く薬」
アレンは首を傾げた。
「そんな薬、うちにはないぞ」
「そうだっけ?」
リズレは少し残念そうに目を伏せる。
金色の瞳が、夕暮れの中で寂しそうに揺れた。
アレンはしばらく考えてから、笑った。
「じゃあ、今日は薬の代わりに茶でも飲んでいけ」
「茶?」
「ああ。新しい薬草茶を試してるんだ。たぶん苦くない」
「……アレンが淹れてくれるの?」
「客だからな」
「私は客なの?」
「違うのか?」
リズレは黙った。
そして、ほんの少し笑った。
「……友人だと思ってた」
「それなら、なおさら飲んでいけ」
二人は店の奥の小さなテーブルについた。
アレンが湯を注ぐと、甘い香りが広がる。
リズレはカップを両手で包み込み、金色の瞳で湯気を眺めていた。
「なあ、リズレ」
「なに?」
「その目、本当に綺麗だな」
「……目?」
「ああ。金色だろ」
「エルフの中では珍しくないけど」
「でも、俺は好きだ」
カップを持つリズレの手が止まった。
「……そういうこと、簡単に言うの?」
「何で?」
「人間は、そういう言葉を軽々しく口にするものなの?」
「いや……」
アレンは困ったように頭を掻いた。
「思ったことを言っただけだ」
リズレはしばらく黙っていた。
やがて、ゆっくりとアレンを見る。
金色の瞳には、いつもの落ち着いた光とは違うものが浮かんでいた。
「……なら、私も言う」
「何を?」
「私も、アレンが好きだ」
「…………」
「…………」
「え?」
「冗談だよ」
リズレは顔を逸らした。
銀色の髪が頬を隠す。
その耳まで赤くなっているのを見て、アレンは思わず吹き出した。
「笑うな!」
「いや、ごめん。でも……」
アレンも少し照れながら笑う。
「嬉しいよ」
その言葉を聞いたリズレは、そっとアレンの手に自分の手を重ねた。
「なら、明日も来る」
「薬は?」
「いらない」
「じゃあ何しに?」
「……あなたに会いに来る」
窓の外では、森に夜が降り始めていた。
月明かりが差し込み、リズレの金色の瞳を淡く照らす。
その瞳を見つめながら、アレンは思った。
――この森で薬屋を続ける理由が、もう一つ増えたな。
そしてリズレもまた、同じことを考えていた。
――明日が来るのが、少し楽しみだ。
二人の小さな薬屋での時間は、まだ始まったばかりだった。