彩葉が学校に向かってからしばらく経った頃。暇だなぁ〜…と、思っていた頃が僕にもありました。お目付け役がもう大変で大変で……
「ねぇ兎呑〜!暇!どっか行こうよ〜……」
「こちとら何処ぞの月の姫様んせいで忙しいんだけどねぇ?」
「えーっかわいそ〜!」
コイッツ…!いっぺんシバき回したろかな…ていうか眠い、二時に彩葉に起こされて、また早朝に彩葉驚かすために叩き起こされて……マヂ無理もう限界ぽよ…おじいちゃんにはキツいのじゃ。
「すまん…僕もう眠いから寝かせて、変なことしないでよ……」
「りょー」
突っ伏すようにして倒れ、そのまま殺人級の睡魔に襲われ眠りにつく。
「おーきて!」
「んん……む…うるさっグハッ…」
僕を起こす声に耳を塞いでまた眠ろうとしていると、思い切り飛び込まれ体重をかけられ強制的に起こされる。めちゃめちゃ痛い…腰にダイレクト……
「出かけよっ!!」
「…はぁ!?ちょっ、ダメって言われたじゃ……力つよっ!やめっやめろー!!」
腕引っ張られ、勝手に彩葉の服を着せられて外に連れてかれる。シャツに黄色いカーディガン、それとジーパン、カーディガンもシャツも、彩葉の方が身長が高いためブカブカだ。
そしてそんまま、いつの間にか把握していたらしい学校まで連れてかれる。
「こういうのほしいな〜……」
校門の前で、猫をワシャワシャと撫でるのを呆れつつも見守る。はぁ…なんでこんなことに、怒られるの僕なんだから、もう少し我慢を覚えてほしいんだけどなぁ……
それから学校から出てきた彩葉を尾行することに。おいそこの通りすがり、「可愛い子達いる〜」じゃないんだが?というか僕はおじいちゃんなんだがなぁ……
彩葉を尾行していると、大きな建物に彩葉…と、彩葉フレンズ二人が入っていく。そして尾行する僕ら、マジで帰って寝たい……
「何あれ美味そーっ!行こっ!」
「ちょっ…引っ張るな腕痛い!」
抵抗しようにも、
もう諦めていると、彩葉とその彩葉フレンズ二人がいる席に直行し、まさかの彩葉のパンケーキを盗む。
「よっ!いろは!!」
「カワイ〜、パンケーキいる?」
じゃないんだよお前、ほれ見ろ彩葉固まってんじゃん。僕が怒られることを受け入れ仏の微笑みを浮かべていると、彩葉フレンズの内の一人がチョコ味と見受けられるパンケーキを差し出す。
「パンケーキ?これがぁ〜!?いろはのと全然ちがーう!!」
「彩葉の友達ぃ?」
彩葉が固まったままでいると、今度は茶髪の彩葉フレンズが話し出す。
「…あっいや友達じゃなくて〜……」
「月から来たの!」
「っちょぉぉい!!」
なんで正直に言ってんの!?月から来たってバレたらどうなると思ってんの!!ああもーっ…!怒りの視線を送っていると、悪びれもせずピースで返される。
「つきぃ…築地!私の従姉妹ー…」
「へー従姉妹〜、名前は?」
「な、名前…?」
そっかそういやコイツの本名地球だと聞き取り不可なんだった、僕の名前はお目付け役兼お世話係兼用心棒として、色々なところでも通じる名前だけど……
「かぐや!ねー、かぐや?」
「かぐや?かぐやかぁ〜……えへへ」
彩葉が咄嗟に付けたかぐやという名前を気に入ったのか、両手で頬を包みくるりと回る。それにしても、かぐやか〜、絶対竹取物語から取ったでしょ、彩葉。
「それと、かぐやちゃんの隣のもう一人の可愛い子は?」
「僕?僕は…白星兎呑。かぐやのお目付け…じゃなくて、まあ……兄?」
「えっ兄…?妹じゃなくて?」
ん…?あっ、そういえばそうだった。僕の容姿は女の子に近いんだったわ、まあ別に性別くらい大丈夫か。
「うん、兄。僕
「だって兎呑ちゃんの方が幼く見えるもーん」
はぁ、とため息ついて呆れていると彩葉がかぐやの手首と僕の後ろ襟を掴んで急いで店を出る。そして帰り道、かぐやはカフェのことを思い出し、楽しそうに語っていた。
「あの建物の中涼しかった〜、あれいろはの家でもできないの?」
眠気も吹っ飛んだ身体で歩を進め、かぐやと並列に並んで歩いていると彩葉に顔を詰められ怒られる。
「っ…!なんで出てきたの正体バレたらどうすんのぉ!!」
「だっていろはの家つまんないもーん」
「あのね、そんなんばっかりじゃ自滅するよ?時には我慢ってのを……」
彩葉が説教の途中で意味ありげな顔を浮かべてやめる。そして顔を離された後も後頭部に手を起き反省の色を見せないかぐや、マジでコイツの辞書に反省と言う二文字は乗ってるのか?と、以前聞いたところ「反省?何それ美味しいの?」と返された。ダメだこりゃ。
そして、かぐやは何か思い出したようにポッケに手を入れ小型の黒い機械を取り出し彩葉に見せる。
「ねーねーこれどうやって使うの?」
「私のスマコン?持ってきたの?」
「いろはのノート
「は!?」
「えっ」
そのかぐやの言葉に彩葉が驚き、急いでスマホを弄っている。そして何か見た後に背を向け、涙声ながらに文句を垂れる。
「死ぬ気で貯めたんですけど…死ぬ気で貯めたんですけど!」
その姿に、反省を知らないかぐやでも流石に焦ったようで慌てて声をかける。
「えーっと……銀行のデータ書き換えればウォレット?とか増やせたっぽいよ、やる?」
「ぜっったいやめてよ犯罪だから!!」
かぐやの犯罪紛い…というか普通に犯罪な提案に再度彩葉が顔を詰めて怒る、かぐやの倫理観が心配だよ本当に…いったい誰がこんな子に育てたんだ……僕か。
ようやく家に帰り、眠気も消えて暇…なので、スマコンの使い方を教えてもらおう。実際気になってはいる。
「付けた?」
「ま、まだ……」
いや、教えてもらいたい…んだけどさ。目に何か入れるの怖くない?えっえっ、しかもこれ機械なんでしょ?発熱したらお目々のミディアムレアできない?
かぐやに笑われつつもようやく付け終わり、スマコンを機動する。そしてかぐやは後でシバく。
「おお…」
なんか…すげぇなこれ、きれー。そんな子供じみた感想を思い浮かべていると、暗い景色は晴れて、水の上に立ち、鳥居が目の前に現れる。
そして…そうだ、彩葉の推しとか言っていた月見ヤチヨだ。だが……なんだろうか、既視感がある。
「月は上り、夜がやってきます」
ヤチヨがそう言えば、一瞬で昼から夜へと暮れる。なんとも綺麗な星々が流れる夜空、月でも幾百年に一度くらいしか見れない景色だ。
夜空に見惚れていると、ヤチヨがこちらに駆け寄る。夜空の写真、取りたかったなぁ…
「ツクヨミへようこそ!私は管理人のヤチヨ!そしてこっちがFUSHI!」
「ヤチヨが僕とツクヨミを作ったんだ!」
ヤチヨの肩で跳ねるウミウシ、シャベッタアアアアアアア!!!と、どこぞのハンバーガー屋のCMでもしてみれば良かっただろうか。
「まずツクヨミに行く前に、その姿じゃあつまらない!」
ヤチヨが指を鳴らすと、淡く光るウィンドウが浮かび上がる。どうやらこれでツクヨミでの姿を定めるようだ。
「ふむ…じゃあこれと、これ……これもあるのか」
しかしまあ、僕にセンスを問われても7000歳のセンスは渋い、とかぐやに言われたことがあるので、さっきかぐやに着せられた私服に姿を寄せる。うん、これくらいで良さそうだ。
あと……この黒い猫耳のついた防止が気になる、可愛いしこれもセットで付けちゃおう。身長も3cm盛ったのはナイショ。
「準備できた?それじゃ、いってらっしゃーい!」
選択完了の旨を伝えれば、ヤチヨに腕を引っ張られ鳥居に連れてかれる。すると、鳥居の中が光り僕に触れて波を打つ。
「わあぁああ!?」
鳥居の光るゲート?を通過すると、先程鳥居の向こうに見えていた景色ではなく別の景色が映る。そしてぶへっと転ける、隣からも声が聞こえ、見てみればかぐやも転けていた。
「金髪…ギャルいかぐや姫と可愛いお目付け役……」
顔を上げると、横から彩葉に酷似した人の、笑い混じりの声が聞こえる。というか彩葉なのだろう、お目付け役のことは彩葉しか知らないし。
「もしかして彩葉!?」
「というか、何それ」
「あっ、犬DOGE!連れてこれたんだ〜」
転けた拍子に取れた防止を被り直していると、犬DOGEが鳴く。そういやかぐやそんなの買ってたな、ツクヨミってそんなのも連れてこれたのか。
「ほら、行くよ二人とも」
「行こ、行こ」
綺麗な所だな、和風の建物がいっぱい建っている。けれど空では幾何学的な物が遊泳している、こういう和風なものと近未来なものが共存しているのも、僕は好きかな。
それから…しばらく経ち、パフェを食べながらゆったりとしている。中々に楽しいところだ、ここは。
「あむっ……味しなーい!」
「味とか、そんなんはまだまだみたいよ」
自分も一口食べてみれば、たしかに味がない。外見はこれほどまでに綺羅びやかで美味しそうなのに、味がないことは悲しきことよ。
「本物はないのー!?」
「家に届けてくれるのもあるけど…リアル並の値段で全然、私みたいなのじゃ、ゲームで小遣い稼ぎが関の山かな」
味がなくとも食べ物は食べ物なので、モッモッと爆速で食べていると彩葉に用があるのか、ついてくるように催促される。
しばらく歩いて数分後。大きな鳥居の前に着く、彩葉の手元を見れば「ヤチヨミニライブ」と書かれているものが浮かんでいた。そしてそれを見て、珍しくニヤニヤとした笑みを彩葉が浮かべている。
「ねえねえ、さっきヤチヨと話した〜」
「シッ…!あれはチュートリだから、今から見るのは本物」
そういや分身もできるとか言っていたか、恐らくそれを使っていたのだろうな。便利なものだよ本当に、僕も分身とかできたら良いのに……
ミニライブが近いのか、灰の髪を揺らし犬耳付けた者が出てきてカウントダウンが始まる。
そして、カウントダウンがゼロに近づくほど演出は盛り上がってゆき、ヤチヨが現れる。
「ヤオヨロ〜!神々の皆、元気ー!?今日も皆を
ヤチヨの挨拶に呼応して、歓声が上がる。彩葉も夢中になりかぐやの呼びかけにも上の空、こりゃ相当お熱なんだろうな。
かぐやを撫でて慰めていると、ヤチヨの歌声が響く。綺麗な歌声だ、聴き惚れていればヤチヨの動きに合わさり水が登り上がって観客もヤチヨも飲み込む。そして水の中でもヤチヨの声は綺麗で済んでいた。
「綺麗だな、演出も」
聴き惚れて数分。ライブも終わり、彩葉を見てみれば泣いていた、いや泣くほど?お熱にもほどがあるだろ。
大丈夫か、など声を掛けているとヤチヨのお知らせが始まる。ヤチヨカップと言い、期間内に最もファンを獲得すればヤチヨとのコラボライブを
「うっそコラボ!?」
「そんな凄いの?」
「凄いも何も…!今までコラボ配信は何度かあったけど、ライブは今まで一人だったんだよ!」
ふーん……そりゃ彩葉も驚くわけだ。そう思っていると、ふと視線に気づく。ヤチヨの方角からだ、ヤチヨを見れば、変化は少ないが瞳孔が開き「なんで」と、言いたげな表情。それは良い…のだが、何故僕に向けられたか。
僕はかぐやの用心棒でもあるため、視線には敏感だ。違う人に向けられた視線を僕が勘違い…なんてのはまずない。
不審に思っていると、後ろから何かが走ってくる音が聞こえる。虎車だ、虎が僕らの目の前で止まると、車が粉々に斬り刻まれて中から三人組が姿を現す。
「よぅ子ウサギ共、お前らの帝様が来たぜ!」
それから起こったのは、ブラックオニキスこと黒鬼のライブ映像と帝様とか言うやつのヤチヨカップの優勝宣言、なんとも強気だろうか。
そして黒鬼の宣言に何を思ったのか、かぐやがとんでもない行動に出た。
「ヤチヨー!!かぐや、ヤチヨカップぜっっったいに優勝するから!そして、いろはも…モゴゴ……」
「ああもーっ…!アンタって奴は毎度毎度…!!」
かぐやの宣言を、彩葉が口を塞ぎ中断させる。本当に自由奔放というか…考え無しというか……天真爛漫というか。
横で黒鬼の中のリーダーと見受けられる男の口笛が聞こえ、軽く睨み少しだけだが圧をかける。それに気付いた赤髪は僕にウィンクし、また虎車を走らせ帰っていく。
「はぁ…かぐやの暴走は止められなさそうだな」
「全くだよ……かぐやはやんちゃすぎて…こっちのことも考えてほしいっての」
そしてミニライブも終了し、ヤチヨがクルクル回り大量の分身を降らせる。握手券とやらのためだろうか。かぐやへのお怒りを示すために頬を両手で挟み怒りの睨みを送っていると、ヤチヨがこちらに歩み寄ってきた。
「お忘れかなぁ?ヤチヨカップの参加者はライバーのみだよ〜」
「そっか!じゃあかぐや、ライバーになる!ということで準備準備〜」
かぐやがログアウトし、僕の両手が
「すみませんね…身内があんなことしちゃって、一応、僕お目付け役なんですけど……どうにもかぐやはやんちゃっ子すぎて」
「ぜーんぜん大丈夫だよ!それよりも、ライブ楽しんでくれた?」
また、ヤチヨからの視線に違和感を覚える。懐かしむ視線だ、何故懐かしがられるのか。そこは僕にも分からない、ヤチヨとは初対面だ。しかしまあ…今考えても仕方がないだろう。
「そうですね、とても楽しかったです」
「うんうん、良きかな。それじゃまたね〜」
その言葉を聞き、僕もログアウトする。
7000代って年金貰えますかね……?