メイドインダンジョン   作:博多ハト

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『成れ果て村』

「あーもう!ほんっとに寒かったー!何なのあの寒さ!寒いを通り越してすっごく痛かったんだけど!?もうモンスターに噛まれた方がマシだよあれ!」

「ええ、そうね。氷河の領域とはいえ限度あるでしょ全く。あのクソ海ヘビ、氷河の中に引きずりこみやがって…」

「あの、それなら火精霊の護衣だけじゃなくてもう少し厚着してきたほうが良かったんじゃないですか?」

「何言ってんのレフィーヤ!厚着なんかしたら動きにくいじゃん!」

「ええ。ダンジョンで戦うってのに厚着なんかしてられないわ」

「えっ、これ私が間違ってるんですか?」

「気にせんでいいぞレフィーヤ、アマゾネスの着衣の感性なぞ気にしたところで無駄じゃ。こやつら昼の砂漠でも真冬の雪山でも最低限整えたら基本的に薄着しかせんからな」

 

「みんな、そろそろ到着だ。もう安全圏とはいえここはダンジョンだ。張り詰めろとは言わないが、最後まで気を抜きすぎないように。いいね」

 

 団長の声に皆が応じた。

 

 そんな雑談をしながらダンジョン深層域を歩いているパーティはロキ・ファミリアの遠征隊である。【勇者】フィン・ディムナ、【九魔姫】リヴェリア・リヨス・アールヴ、【重傑】ガレス・ランドロック、【怒蛇】ティオネ・ヒリュテ、【大切断】ティオナ・ヒリュテ。レベル7の三首領とレベル6の幹部ヒリュテ姉妹という、第一級冒険者の中でも上位に位置する錚々たる顔ぶれの冒険者たちだ。そして後に続くのは【超々凡夫】ラウル・ノールド、【貴猫】アナキティ・オータム、【千の妖精】レフィーヤ・ウィリディスに、アリシア・フォレストライト、ナルヴィ・ロール、クルス・バッセルの6名。レベル4のレフィーヤを除いて全員がレベル5に到達した二軍上位の構成員である。

 

 現在、ロキ・ファミリアは未到達領域であった62階層への遠征を終えて地上への帰路についており、50階層にたどり着いていた。50階層以下への遠征であれば団員を待機させて中継の仮拠点を設けておくのが鉄則であるはずの安全階層50階層に他の団員は誰一人おらず、僅か11名で遠征を行っている。

 

 深層50階層から地上に帰還するのは多大な労力と時間を要する命がけの道程であるというのに、遠征隊の面々はまるでもう戦う必要はないと知っているかのような安堵に満ちた声で話していた。モンスターの攻撃が急所に直撃しようが掠り傷にすらならない中層以上ならいざ知らず、50階層は異常事態が頻発する深層域である。例えレベル7を要するパーティであろうが、モンスターが生まれない安全階層であろうが、気を抜いていい領域では決してない。オラリオ第二位の探索系ファミリアとしてあってはならない致命的な油断である。

 

 ただし、それが当てはまるのはここがゼウスとヘラの時代のダンジョンであった場合の話であり、現代のダンジョンでは事情が少々異なっていた。

 

 50階層にたどり着いたロキ・ファミリアの眼前にあるのはダンジョンにありえざる人工物、縦横5メドル程のサイズのオリハルコン製の扉だ。壁に埋め込まれる形で造られた飾り気のない質実剛健な扉は深層域の強化種であろうと突破不可能な強度を誇り、地上世界と地下世界の境界を別つ下界で最も頑丈な最硬金属の門である。

 

 そして門前に歩み出たフィン・ディムナは扉に向かって呼びかけた。

 

「レグ!キリーニア!僕たちの遠征が終わった!開けてくれ!」

「かしこまりました。お帰りなさいませ、ロキ・ファミリア。あなた方の生還をお祝いいたします」

 

 門の内外を繋げる伝声装置から鈴が転がるような声が響く。そうして門がひとりでにゆっくりと開き、安全回廊の門番を務める少年型と少女型の干渉器がロキ・ファミリアを回廊内へと迎え入れた。

 

「ただいまレグ!キリーニア!」

「おかえり、ティオナ。君はいつも元気だな、深層への遠征直後だというのに…」

「おかえりなさい、ティオナさん。遠征が上手くいったようでなによりです」

 

 屈託のない笑顔で帰還の挨拶をするティオナに応じたのは、少年型のレグと少女型のキリーニア。レベル7相当の能力を有する第一級戦闘型干渉器である。彼らは回廊を通じてモンスターが地上に出ないようにするための門番であり、深層域の異常事態にも迅速に対応、鎮圧が可能な超戦力だ。

 

 そんな和気あいあいとした挨拶を終えて、キリーニアはフィンに話しかけた。

 

「フィン・ディムナ。氷河の領域を担当する同胞の共有記憶を通じて見ていましたが、大変な冒険でしたね。皆様、随分と疲労の色が濃いようですが、街でお休みになられますか?」

「そうだね。流石に今から50階層分の階段を上るのは億劫だし、利用させてもらうよ」

「かしこまりました。それではメポポポンさんに連絡して宿を手配しておきますので、ごゆるりとお過ごしください。遠征お疲れ様でした」

 

 そう言ったキリーニアにフィンが礼と別れを告げ、遠征を終えたロキ・ファミリアが扉を越えた先には千人は暮らせるほどの大規模な街があった。武器屋、雑貨屋、薬舗、治療院、宿泊施設、ダンジョン資源の買取所や研究施設など。50階層前後の攻略に相応な質を誇り、冒険に必要なありとあらゆる設備が完備されている。まさに冒険者の冒険者による冒険者のための街だ。

 

 だが、その街で生活する住民の多くは人類ではない。ウォーシャドウ、リザードマン、ルー・ガルー、ヴィーヴル、ハーピィなど、ほとんどは人ならざる人型に成った、純ダンジョン産モンスターへの成れ果てたちである。人型以外には小動物であるカーバンクルや大型蛇であるワーム・ウェールの成れ果てもいたが、人型に比べれば圧倒的に少数派だ。そんな第一世代の成れ果てのみならず、第二世代以降の改造種や融合種と思しき成れ果てたちの姿もあった。

 

 ―――ここは安全回廊第四門前街『成れ果て村』。ダンジョン50階層に直結する門の前に造られた世界最深の地下街にして、世界で最も強者が集まるダンジョン攻略の最前線である。




・安全回廊(セーフティルート)

 闇派閥が千年かけて勝手に建築していた大規模違法地下建築物クノッソスを解体、資源流用し建設されたダンジョン第二の出入り口。ダンジョンをぐるりと囲う形で造られた螺旋階段であり、50階層までに存在する4つの安全階層にオリハルコン製の扉が一つずつ設置され、門前には冒険者が集う街が造られた。ダンジョンへの刺激を最小限にするため、安全階層以外につながる扉は存在しない。
 また、安全回廊は白笛が経営、管理しており、サービスの質は値段相応でぼったくりの類は一切ない。そのため安全回廊完成に伴い、高い・危険・質も低いの三拍子揃った18階層リヴィラの街は需要が完全にゼロになり自然消滅した。
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