マッドバッドダンジョン   作:syumasyuma

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わがままヒメと異界特別対策局

 

 目が覚めた瞬間、天井の染みが視界いっぱいに広がっていた。

 

 この安アパートに越してきてからずっと気になっている、雨漏りの跡らしき染みだ。輪郭がじわじわと広がっている気がするのは、気のせいだと思いたい。カーテンの隙間から漏れる光は、今日も鈍い灰色だった。

 

 ゴロゴロ、と寝返りを打つと、万年床の畳がギシッと軋んだ音を立てる。梅雨入りしてからというもの、布団まで湿気を吸い込んでいるようで、肌に触れる感触がどこか重たい。

 

 スマホを確認すると、昨日受けた七社目の結果が届いていた。件名を見なくても、もう分かる。

 

「……駄目だったわ、七社目も」

 

「そなたの見立ての方が正しかったか」

 

「その言い方はやめろ」

 

 ヒメが用意してくれた「ヒメの見立て」とやらは、結局今回も外れたらしい。まあ、元から根拠のない見立てだったので、驚きはなかった。

 

「せっかくボタンまで付け直したのに」

 

「ボタンと採否は関係ないと思うが」

 

「関係あるかもしれないだろ、縁起的に」

 

「縁起を語るなら、まずヒメに賽銭でも切らんか」

 

「五円で足りるか、それ」

 

「足りぬ」

 

 軽口を叩き合っているうちに、少しだけ気が紛れた。七社連続の不採用というのは、さすがに慣れてきた自分が少し怖い。

 

「ゴウ、そろそろ神秘を補給しに行かねばならぬ」

 

 朝飯のトーストをかじっていたら、唐突にそう切り出された。

 

 窓の外は、どんよりとした灰色の空だった。梅雨入りしてからというもの、こういう空ばかり見ている気がする。開けっぱなしの窓から入り込む空気は、じっとりと肌にまとわりつくような湿り気を帯びていて、寝間着の袖口がいつまでも湿ったままなのが不快だった。

 

「は? 神秘? なんだそれ、栄養ドリンクか何かか」

 

「もっと根本的なものじゃ。ヒメは、力を使うたびに神秘を消耗する。ネットに潜るのも、ただではないのじゃぞ」

 

「初耳なんだけど」

 

「言うタイミングがなかっただけじゃ」

 

 スマホをもう一度眺めてみたが、当然、状況が変わっているはずもなかった。俺は小さくため息をついて、画面を閉じた。

 

 ヒメはトーストのかけらをちゃっかりつまみ食いしながら、真剣な顔で続けた。パンくずを口の端につけたまま真剣な顔をされても、あまり説得力はない。トースターの中で、パン生地の焼ける甘い匂いがまだ燻っている。ジジ、と小さな音を立てて、電熱線の残り火が最後の熱を吐き出していた。

 

「神秘は、濃い場所に行けば補給できる。あの、そなたと出会った穴のような場所じゃ」

 

「また変な穴に行けって?」

 

「左様」

 

「金にも仕事にもならないやつだろ、それ」

 

「そなたの人生、そもそも金にも仕事にもなっておらぬではないか」

 

「言い返せない」

 

 正論というのは、時に人を無言にさせる。俺はパンの残りを口に押し込んで、渋々立ち上がった。噛むたびに、ザクッ、ザクッと耳の奥で音が響く。湿気のせいか、パンまでどこかしんなりしていた。

 

「そもそも、補給しなかったらどうなるんだよ」

 

「力が出なくなる。最悪、また前みたいに衰弱する」

 

 その一言に、俺は動きを止めた。あの雨の日、土手の穴で見つけた、今にも消えてしまいそうだったヒメの姿が脳裏をよぎる。

 

「……それは、まあ、困る」

 

「であろう。ならば、行くしかあるまい」

 

 妙に得意げな顔をされて、俺は釈然としないまま頷いた。

 

「まあ、いい。付き合ってやる。他に予定もないし」

 

「話が早いのう」

 

「予定がないだけだからな、これ」

 

 クローゼットから引っ張り出したジャージに袖を通す。

 

「なあ、その恰好で行くのか」

 

「動きやすい恰好の何が悪い」

 

「悪くはないが、探索者っぽくはないのう」

 

「探索者じゃねえよ、俺。ただの神秘補給の付き添いだろ」

 

 玄関で靴を履きながら、この間縫い直したばかりの靴底が、ちゃんと持つかどうか少し気になった。

 

 結局、俺たちは近所の別の空き地――最近になって開いたらしい、あの日出会った穴とよく似た、ぽっかりとした窪みへと向かった。この街にはこういう場所が増えている。テレビでも散々報じられているそれに、俺自身が足を踏み入れるのは、実はこれが初めてだった。

 

 外に出ると、生ぬるい風が頬を撫でた。どこかの庭先から、雨に濡れた紫陽花の匂いが漂ってくる。

 

 商店街を抜ける途中、電柱に貼られた一枚のポスターが目に入った。色褪せた顔写真の下に「行方不明」の文字。最近、こういう貼り紙をよく見る気がする。俺は特に気にも留めず、通り過ぎた。

 

「そなた、あれ、見なかったのか」

 

「見たけど、まあ、俺には関係ないだろ」

 

 我ながら薄情な返事だった。だが、この時の俺には、本当にそう思えていた。

 

 空き地は、雑草が伸び放題になった、何の変哲もない土地だった。その真ん中に、直径一メートルほどの穴が、ぽっかりと口を開けている。周りには誰もいない。近くの民家の窓に、簡素な貼り紙が見えた。「立ち入り禁止」――役所が慌てて用意したのだろう、印刷のインクが滲んでいる。

 

「おい、立ち入り禁止って書いてあるけど」

 

「規則は人間のためのものじゃ。ヒメには関係ない」

 

「俺は人間なんですけど」

 

「そなたはヒメの連れじゃ。よって問題ない」

 

「その理屈、絶対どこかで通用しなくなるやつだろ」

 

 穴の縁にしゃがみこんで覗き込むと、中は真っ黒で何も見えなかった。試しに小石を放り込んでみたが、跳ね返る音も、底に着く音も聞こえてこなかった。

 

「入るのなんて久しぶりだな」

 

 そういえば、最近やけに体が軽い。歩くたびに、ふわりと地面を蹴る感触が心地よい。靴底のすり減り具合まで確認したくなるくらい、妙な違和感があった。だが、それを深く考えるより先に、ヒメが穴の縁に立って手招きしていた。

 

「大丈夫じゃ、ヒメがついておる」

 

 言葉とは裏腹に、頼りになるのかならないのか判然としない相棒を連れて、俺は久々にあの独特の静けさの中へと足を踏み入れた。

 

 穴に一歩入った瞬間、外の音がふっつりと途切れた。まるで、世界そのものが一枚の膜で仕切られているみたいだった。

 

 中は思ったより広く、薄暗い通路のようなものが奥へと続いていた。壁はぬめりとした質感で、ひんやりとした空気が肌にまとわりつく。

 

「なあ、これ本当に神秘とやらが補給できるのか。ただの気持ち悪い穴にしか見えないんだけど」

 

「そなた、風流というものが分からぬ質じゃな」

 

「風流の問題か、これ?」

 

「万事、捉えようじゃ」

 

 目が慣れてくると、通路の壁には、ところどころ淡く発光する苔のようなものが張り付いているのが見えた。触れてみたい衝動に駆られたが、なんとなく嫌な予感がして、俺は手を引っ込めた。

 

「なんか、前より広くなってないか、ここ」

 

「気のせいであろう」

 

「気のせいで済ませるには、結構はっきり広い気がするんだけど」

 

「そなた、細かいところに気が回るのう」

 

「気にもなるだろ、こんな場所じゃ」

 

 気のせいにしては、随分としっかりした通路だった。だが、深く考えるだけの材料もなかったので、俺はそのまま奥へと進んだ。足元は所々でぬかるんでいて、踏むたびにグチュ、と嫌な音を立てる。

 

「なあ、ここって元々どうなってたんだ。前は普通の空き地だったよな」

 

「さあの。ヒメも、そこまで詳しくは知らぬ」

 

「頼りにならないな、おい」

 

「頼りにしすぎるでない。ヒメとて分からぬことは分からぬのじゃ」

 

 妙に正直な返事に、俺は思わず苦笑した。二十センチの神様にたしなめられるのも、慣れてきた気がする。

 

 しばらく歩くと、ヒメの体がぼんやりと淡く光り始めた。橙色にも、薄紫にも見える、不思議な色の光だった。その光に照らされて、彼女の周りだけ、通路の輪郭がうっすらと浮かび上がる。

 

「おお……満ちてくる……」

 

「大丈夫か、それ」

 

「大丈夫どころか絶好調じゃ。もっと奥に行くぞ」

 

「元気になるの早すぎない? さっきまで消耗してたはずだろ」

 

「補給とはそういうものじゃ。文句があるなら空腹の人間に説教してみるがよい」

 

「それは違くないか」

 

 俺の心配などどこ吹く風で、ヒメはご機嫌に先を促してくる。仕方なく、俺はさらに奥へと足を進めた。

 

 通路はどこまでも似たような表情を保っていて、進んでいる実感が薄い。

 

「なあ、この道、本当に合ってるのか。同じとこグルグル回ってるだけじゃないだろうな」

 

「ヒメを誰だと思うておる。迷うわけがなかろう」

 

「その自信、何回か裏切られてる気がするんだけど」

 

「気のせいじゃ」

 

 どこかで聞いた台詞だな、と思ったが、口には出さなかった。

 

 その時だった。

 

 通路の陰から、ガサッ、と乾いた葉擦れのような音がして、何かが飛び出してきた。

 

「うわっ」

 

 視界の端で、黒い影が跳ねる。猫ほどの大きさの、毛並みの悪いネズミらしきもの。よく見れば、口元からは不釣り合いなほど大きな前歯が覗いており、それがやけにゆっくりと迫ってくるのが見えた。

 

 考える暇なんてなかった。それなのに、頭の中だけは妙に冷静で、相手の動きが一コマ一コマ、コマ送りのようにはっきりと見えている。右足の踏み込み、肩の開き、拳を握る指の一本一本の感覚まで、いつもよりずっと鮮明だった。

 

 とっさに、体が勝手に動いていた。考えるより先に腕が上がり、飛びかかってきた何かを、拳の一撃で弾き飛ばしていた。

 

 ドンッ、と鈍い音が壁に響く。手の甲に伝わった衝撃に、少し遅れてジンジンと痺れが襲ってきた。

 

「……は?」

 

 自分の拳を見下ろす。相手は壁に叩きつけられて、そのままぐったりと動かなくなっていた。今のは、一体何だったのか。心臓が、ドクドクとうるさいくらいに脈打っている。

 

「やるではないか」

 

「いや、俺も何が起きたか分かってねえよ」

 

「なかなかの一撃じゃったぞ、今の」

 

「褒められても実感ないんだけど」

 

「実感がなくとも、結果は出ておる」

 

「結果って、目の前でぐったりしてる獣のことか」

 

「そうじゃ。誇るがよい」

 

「誇っていいのかこれ、なんか可哀想になってきた」

 

 本当に、無我夢中だった。気づいたら体が動いていて、気づいたら片付いていた。強いて言うなら、最近やたら体の調子がいい気がする、その延長線上にある出来事、というくらいの認識しかなかった。

 

 手のひらを開いたり閉じたりしてみる。ジンジンとした痺れは、もうほとんど引いていた。

 

「まあ、これも何かの力ってやつなのかもな」

 

「そうかもしれぬな」

 

「かもしれないって、他人事だな、お前」

 

「他人事ではないが、詳しいことはよう分からぬ」

 

 嘘をついているようには見えなかった。まあ、深く考えても仕方ない。俺はいつものように、それ以上追及するのをやめた。

 

「よし、ヒメはもう十分満ちた。帰るぞ」

 

 光を取り戻したヒメが、元気よく宣言する。その顔色は、さっきよりずっと血色がいい――というのも変な話だが、それくらいはっきりと違いが見て取れた。

 

「お前の都合で来て、お前の都合で帰るのな」

 

「文句があるなら置いていくぞ」

 

「いや、待って」

 

 来た道を戻ると、穴の外に出た瞬間、外の音が一気に戻ってきた。鳥の声、遠くの踏切の音、生ぬるい風。すべてが一斉に押し寄せてきて、俺は思わず一つ大きく息を吐いた。

 

 空を見上げると、さっきまでの鈍色の雲の切れ間から、ほんのわずかに西日が差し込んでいた。

 

 帰り道、自販機の前で足を止めた。缶の取り出し口に手を突っ込むと、冷たい炭酸飲料が転がり出てくる。プシュ、とプルタブを開ける音に、ヒメが目を輝かせた。

 

「それ、ヒメにも寄越せ」

 

「お前、飲めるのかよ、それ」

 

「飲む真似くらいはできる」

 

「真似って、味は分かるのか」

 

「分からぬ。じゃが、雰囲気は味わえる」

 

「その理屈、毎回無理あるよな」

 

 結局、律儀に半分ほど彼女の口元に傾けてやると、ヒメは満足げに喉を鳴らした――ような気がした。定かではない。

 

 アパートに戻る頃には、すっかり日も落ちていた。玄関の鍵を差し込むと、カチャリと硬質な音が響く。狭い部屋に踏み込むと、昼間の湿気がまだ籠っていた。

 

「シャワー浴びてくる。お前は勝手に待ってろ」

 

「勝手に、とは言うが、ヒメは大人しく待つ以外にすることもないのじゃぞ」

 

「贅沢言うな」

 

 シャワーを浴びると、頭からつま先まで、じんわりと血の巡りが良くなる感覚があった。鏡に映った自分の顔は、いつもと変わらない、冴えない顔だった。だが、心なしか、目つきだけは少しだけ違って見えた気がした。気のせいだろう、多分。

 

 髪を拭きながら部屋に戻ると、ヒメがちゃぶ台の上で、行儀よく正座して待っていた。今日一日の疲れなど微塵も感じさせない、元気そうな顔だった。

 

 結局、俺たちは何事もなかったかのように、その日常に戻っていった。妙な獣のことも、体が勝手に動いたことも、帰る頃にはすっかり日々の些事に紛れてしまっていた。

 

 最近、テレビであの手のニュースをよく見るが、今日みたいなことがあっても、俺はまだそれと結びつけて考えることはなかった。

 

 

 

 

 

 

 殺風景な会議室に、急ごしらえの看板が立てかけられていた。

 

「異界特別対策局」

 

 まだ塗料も乾いていないような、そんな新しさを感じさせる名称だった。

 

 招集された者たちの顔ぶれは、実に雑多だった。自衛隊出身者、警察官僚、行政のたたき上げ、そして、まだどう扱っていいか誰も分からない、覚醒者と呼ばれ始めた者たち。折りたたみ椅子が急遽並べられた会議室には、それぞれの出自を映すように、迷彩服の者もいれば、スーツの者もいれば、私服のままの者もいた。統一された制服も、共通の合言葉も、まだ何もない。

 

「――以上が、設立の経緯です」

 

 説明する担当者の声には、隠しきれない戸惑いが滲んでいた。無理もない。この組織の設立根拠は、法律でも、閣議決定でもなく、皇室に下された神託だという。行政の人間として、これほど扱いに困る根拠もそうはないだろう。

 

「率直に伺いますが」

 

 参集した一人が手を挙げた。

 

「我々は、何と戦うことになるのですか」

 

 沈黙が落ちた。

 

「……現時点で、明確な答えは持ち合わせておりません」

 

 担当者の返答に、部屋の空気がさらに重くなった。

 

「では、装備は。訓練は。指揮系統は」

 

 別の一人が畳みかけるように問う。

 

「順次、整えていく予定です」

 

「予定、ですか」

 

 皮肉めいた響きが、その一言に混じっていた。だが、誰も強くは咎めなかった。この場にいる誰もが、多かれ少なかれ同じ苛立ちを抱えているからだ。

 

 誰も、明確な脅威の姿を掴めていない。分かっているのは、各地で異変が広がっていること、行方不明者が増え続けていること、そして、これがまだ序章に過ぎないだろうという、漠然とした予感だけだった。

 

「一点、ご報告があります」

 

 担当者が、資料の束を掲げた。

 

「皇室を通じ、東京近郊で確認されている異変――これらの発生地点について、座標情報の共有がありました」

 

 どよめきが起きた。

 

「発生地点を、事前に把握できるということですか」

 

「はい。現時点で判明している分だけでも、この会議室に配布した地図の通りです」

 

 資料が配られると、あちこちで小さく息を呑む音がした。地図上には、既に報道されている場所だけでなく、まだ誰も気づいていないはずの地点にまで、印がつけられていた。

 

「加えて、二点の指示も伝えられています。一つは、これらの地点への一般人の立ち入りを禁止し、封鎖措置を徹底すること」

 

「もう一つは」

 

 担当者は、一拍置いてから続けた。

 

「制圧が完了した地点には、しかるべき規模の社――分社を設けるように、と」

 

「社、ですか。なぜまた」

 

 困惑した声が上がる。担当者も、はっきりとした理由までは説明できないようだった。

 

「詳細な意図までは、我々にも伝えられておりません。ただ、皇室の意向として、最優先で対応するようにとのことです」

 

 誰も、その真意を測りかねていた。だが、神託を根拠とするこの組織にとって、皇室の意向は、疑うべきものではなく、従うべきものだった。

 

「それでも、動かねばなりません」

 

 誰かが、静かにそう言った。

 

「分からないから動かない、では済まされない段階に来ています」

 

 その言葉に、いくつかの頷きが返された。

 

 自衛隊出身の一人が、腕を組んだまま口を開いた。

 

「装備も指揮系統も整っていない状態での投入は、はっきり言って無謀です。それでも、というなら」

 

 言葉を切り、一同を見渡す。

 

「せめて、命令系統だけは早急に固めてください。現場が一番困るのは、誰の指示を仰げばいいか分からないことです」

 

 その意見に、担当者は神妙に頷いた。

 

「ご指摘、承知しました。仮の体制でも構いません、早急に整えます」

 

 まだ制服も、装備も、明確な指揮系統さえも整っていない。あるのは、危機感と、それに突き動かされた雑多な人間の集まりだけだった。会議室の隅では、覚醒者出身と思われる若い男が、居心地悪そうに周囲を見回していた。自衛隊や警察の面々とは明らかに毛色の違う、まだ何者でもない自分の立ち位置を測りかねているような表情だった。

 

 これから、いったい何人の人間が、この局に人生を懸けることになるのだろうか。

 

 誰かがふと抱いたその疑問に、答えられる者は、この場にはまだ誰もいなかった。

 

 会議が解散した後も、しばらく席を立たない者たちがいた。書類に目を通しながら、あるいは黙って天井を見上げながら、それぞれが自分なりの覚悟を固めているようだった。窓の外では、いつの間にか雨が降り始めていた。

 

 

 

 

【謎】最近やたら見る変な穴、なんなの?【急増中】

 

112:名無しさん

 なんか最近「ダンジョン」呼びで定着してきたな

 このスレでもそう呼ぶ流れでいい?

 

116:名無しさん

 異論なし

 分かりやすいし

 

119:名無しさん

 勇者が実際に中入ってみたって書き込み見たわ

 正気か

 

123:名無しさん

 >>119

まじ?どうなった

 

126:名無しさん

 >>123

 無事帰ってきたらしいけど「二度と入らない」って書いてた

 中身は詳しく語ってくれなかった

 

131:名無しさん

 入ってみたい気持ちはわかるけどマジでやめとけよ

 行方不明のニュースと繋がってたらどうすんだ

 

135:名無しさん

 それな

 好奇心で命落とすとか洒落にならん

 

 

【謎の書き込み】あいつ今度は動物病院系のスレにいた

 

1:名無しさん

 例の古文口調、また新しい場所に出没してたぞ

 

4:名無しさん

 >>1

今度はどこ

 

5:名無しさん

 >>4

 動物系の質問板

 「犬に似た獣に殴られたようじゃが、後で祟りなど残らぬものか」って聞いてた

 

8:名無しさん

 殴られた、じゃなくて殴った側の話だろこれ絶対

 

10:名無しさん

 >>8

 主語が独特すぎて毎回解釈に困るんだよな、こいつ

 

13:名無しさん

 律儀に答えてる獣医師っぽい人もいて草

 「打撲程度なら心配ないですよ」とか大真面目に返してた

 

16:名無しさん

 なんの状況だよそれ、誰と誰が何をやってんだ

 

19:名無しさん

 もう深く考えるのはやめた

 出没するたびに和む、それでいい

 

 

【拡散】近所で行方不明者が増えてる件

 

95:名無しさん

 政府が対応組織作るってマジ?

 

99:名無しさん

 どこ情報?

 

102:名無しさん

 >>99

 知人が霞が関関係者で聞いたらしい

 「異界」なんとかって名前らしい

 

106:名無しさん

 やっと動いたか、遅すぎるけどないよりマシ

 

110:名無しさん

 今さら感は否めないけどな

 もっと早く動けなかったのか

 

114:名無しさん

 まあ前例のない事態だし、準備に時間かかるのも分かる

 気持ちはわかるけどな

 

118:名無しさん

 とりあえず期待して待つしかない

 

 

【体験談】家族が急に神社参りに目覚めた

 

1:名無しさん

 うちの母親、急に毎朝神社に参るようになった

 今まで信心深いタイプじゃなかったのに

 

6:名無しさん

 うちも似たような感じ

 おばあちゃんが「これは神様が動いておられる証拠だ」って言い出した

 

9:名無しさん

 >>6

 おばあちゃんの勘、馬鹿にできない気がしてきた最近

 

12:名無しさん

 全国的に参拝客増えてるってニュースでもやってたな

 潜在的な不安の表れなんだろうか

 

15:名無しさん

 >>12

 それもあるだろうけど、なんかもっと本能的な部分で

 みんな何かを感じ取ってる気がする

 

18:名無しさん

 うちの近所の神社、急に賽銭箱の中身が増えたって宮司さんが困惑してた

 

 

【海外】各国で同時多発、原因不明の陥没・失踪報告

 

97:名無しさん

 海外でも専門組織できるって話出てきたな

 アメリカとかヨーロッパの一部で

 

101:名無しさん

 やっぱりどこも同じような対応になるんだな

 

105:名無しさん

 対応早い国と遅い国、はっきり分かれてきてる印象

 

109:名無しさん

 >>105

 どこが早いの?

 

112:名無しさん

 >>109

 情報が錯綜しててはっきりしないけど、いくつかの国はもう組織立ち上げ完了してるって噂

 

116:名無しさん

 国際的な連携とかは進んでるのかね

 

120:名無しさん

 そこまではまだっぽい

 各国ばらばらに動いてる段階

 

 

【翻訳】海外の古語ノリ、今度は動物ネタで出現

 

1:名無しさん

 海外の質問掲示板にも、似たような口調で「獣を打ち据えた後の祟りについて」聞いてる書き込みがあったらしい

 

5:名無しさん

 >>1

 それもう日本のあいつと内容が同じすぎるだろ、世界共通なのか

 

8:名無しさん

 翻訳経由の情報だから確証はないけど、口調の癖まで似てるって話

 「古めかしい言い回しで、妙に律儀」って特徴が一致してる

 

11:名無しさん

 >>8

 これもう世界中に同一個体がいるとしか思えない

 

14:名無しさん

 いよいよ都市伝説の域を超えて来た

 誰か本気で調べてくれ

 

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