霧、時々晴れ   作:Aya0

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プロローグ

ノックの音が、部屋に響いた。

「旦那様、お時間を少々いただいてもよろしいでしょうか」

「……入れ」

視線を書類から外して答えると、扉が開き、執事が静かに一礼した。

珍しい。
私の仕事中に、彼がわざわざ声をかけてくるとは。

「どうした」

「……それが……庭に人が倒れていると、庭師から報告がございまして……」

「何? 人が、か」

「はい」

2月の庭に、人が倒れている。
迷い込んだ者か。事故か。あるいは、もっと面倒な何かか。

いずれにせよ、使用人任せにする話ではない。

「……私が行こう」

「お願いいたします」

 

執事を伴って外へ出ると、冷気が頬を刺した。

庭には、昨夜の雪がまだ残っている。
薄く白く覆われた小径の先に、人影が立っている。庭師だ。

そして、その傍らの芝の上には、確かに人が倒れていた。

 

長い黒髪の、東洋人。

女だ。

日本人か? 日本人であれば、亜双義が役に立つ。

いやしかし、それよりもーー

この女、腕をほとんど露わにしている。

薄い、白い布地の上衣。胸もとには、大きな青い図柄があるが……。

ボタンもない。襟もない。縁飾りの類も、一切ない。

袖は、肩からわずかに腕を覆うばかりだ。

この季節、この寒さ、この雪の上で身につけるものではない。

硬そうな厚手の生地の、青いズボンも見慣れない。

それに、身体の線が出すぎだ。

全体として、女性が公の場に現れる服装ではない。

(……なんだ、これは)

死んでいるのか。

一瞬そう思ったが、

「ぅう……」

女が、かすかに呻いた。

生きている。
だが、とうてい安堵はできない。

この女、一体どうやってここまで来た?

 

「まず、毛布を。医師にも使いを出せ。

客室の暖炉に火を入れて女を介抱しろ。

この奇怪な服は寝巻きにでも着替えさせろ。

脱がせた服は私の手元へ。私が見る。

女が目を覚ましたらすぐに知らせろ」

一礼して、執事は足早にこの場を後にした。

必要な指示は出した。

人が来るまで、見られるものは見ておこう。

女のそばに膝をつく。

東洋人の女は、これまで1人しか見たことはないが……

少なくとも彼女は、こんなはしたない格好はしていなかった。

どこか、私のよく知らない国の人間なのだろうか?

季節感のなさを別にしても……あまりにも、異質だ。

…………。

…………………………。

…………………………………………………。

(……何も、わからぬ)

匙を投げたところで、駆けつける使用人たちの気配がした。

ひとまず、命がある。

今わかることがあるとすれば、それだけだった。

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