一方で顔文字に好意的な感想もいただき、おそらく「うんうん俺の中のアインズ様もこんな顔してるw」的な楽しみ方をしてくださったのかなと思います。なので1回きりのおふざけとしてそのまま残しておく方向で、ご容赦いただければ幸いです。
「アルベド。今回の働き、見事であった。
褒美を取らせよう。何か望みがあれば言ってみよ」
「では、わたくしを妻に!」
祈るように両手を組んで、ずいっと近寄るアルベド。
レベル100のその動きは、同じレベル100のデミウルゴスの動体視力をして見失うほど素早かった。
しかし、さすがはアインズ様。魔法職であり肉弾戦はそこまでお得意でないはずであるにも関わらず、接近するアルベドを完璧なタイミングで迎撃し、その脳天にチョップを加えられた。
「却下だ。
デミウルゴス」
「はい」
「言ってやれ。厳し目にな」
ため息をつくアインズ様。
アルベドに困っておられるご様子。
これはだいぶ色々やらかしているようだな。
先程の超反応も、すでに慣れきっているゆえか。
「では。
アルベド。アインズ様の妻になりたいというのは、褒美でもらうようなものかね?
もしそれが叶ったとして、それはアインズ様からの愛をいただいたと言えるだろうか?」
「わかっているわ。言ってみただけよ」
「そうかね。
だが頭で理解しているのと、心で理解しているのは違う。
君がどこまで分かっているのかは、あえて問うまいよ。
だが、どちらにせよ、だ――君はアインズ様と気安く会話するようになった私が羨ましいのだろう。君はアインズ様から愛されていないように感じて淋しいのではないかね?」
あえて煽るように言うと、アルベドの表情が不快そうに歪んだ。
「そうだとしたら? それの何が悪いというの? 私に『愛せ』と命じておきながら、愛することを許してくださらないアインズ様が悪いのよ!」
アルベドは俺に向かって言う。不敬な発言だと分かって、それでも言っているのだろう。アインズ様に言っているのではない、というアルベドなりのギリギリの我慢が、俺に向かって固定された視線に表れている。絶対にアインズ様の方を見ない。
これはアルベドの悲鳴だ。
アインズ様は「う……む……」と小さく唸って縮こまってしまわれた。
「何一つとして悪いことなど無いとも」
俺は微笑んで言った。
デミウルゴスの顔で微笑んでも、なにか企んでいるように見えてしまいかねないが。
そこは仲間同士、見分けがつくものと信じたい。
「それは『自分もアインズ様と親しくなりたい』という、アインズ様への好意が確かにあるがゆえの事ではないかね? その気持ちは大事にしたまえ。
だが、焦ってはいけない。そこだけが君の悪癖だ。小さな病に劇薬を使うのは毒だと、前にも言ったでしょう?」
「でも……!」
俺は食い下がるアルベドを手で制した。
そしてアインズ様を振り向く。
「アインズ様。
アルベドはこのように拗ねております。女が男を慕って拗ねているのです。かわいいものだと笑ってお許しください」
「「デミウルゴス……!」」
アルベドから感動したような声が上がった。
同時にアインズ様から苦渋の声が上がった。
「アインズ様。アルベドの求愛に応えるには御身に肉がないとお悩みでしょうか? それならば気持ちだけでも応えてやらないのは、どうしたことでしょう?
それともご友人の娘であるから、と躊躇っておられるのでしょうか? しかしアルベドが真剣に御身を慕っているのは、お分かりでしょう?」
アルベドとシャルティアは、同じようにアインズ様に迫りまくるが、その行動原理は少し異なる。
シャルティアは死体愛好癖・両刀遣いという設定があり、配下のバンパイアブライドと致しているらしい発言もみられ、web版ではフォーサイトのフルトを調教している様子もみられる。アニメ版ではバイコーンに乗れないアルベドと言い争って「同性経験ならある」と発言したシーンがあったはずだ。デュラハンであるユリに唾を付けようとする様子もみられ、非常に恋多き女だ。設定のどこかに「ちなみにビッチである」的なことが書いてあるのだろう。
一方アルベドは、アインズ様以外に性欲を向けない。極端すぎる感情表現のせいでアインズ様に引かれてしまっているが、フラットに見ると非常に一途だ。
ではアインズ様は、どちらが好みなのだろうか。「使う前に無くなった」と述べるシーンがあったので童貞だろう。2人に迫られて、うまくあしらえずに困るあたり、女性に慣れていない様子も見られる。従って、仮にハーレム願望があったとしても、アルベドやシャルティアに迫られて困る経験から「自分には無理だ」と考えておられるだろう。
一方でアルベドの設定を書き換えて、自分を愛してくれる存在を求めた。またユグドラシルに固執し、ギルメンが誰も来なくなっても他のゲームに移ることはなかった。さらに各自の事情に理解を示しつつも「簡単に捨てるなんて」と怒りを覚える。つまりご自身も一途であり、相手にも一途を求める性質がある。
そうしてみると、アインズ様の好みに合うのは、シャルティアよりもアルベドだろうと推測される。
「それにあの日、アルベドに手を加えたのは御身ではございませんか」
いい加減に責任とれよ、アインズ様。
アルベドが拗ねるたびに、どうにか理屈をこねてなだめすかす俺の身にもなってくれ。
このままだと禿げてしまいそうだ。ジルクニフと並んで跪けばいいのだろうか。
「それは……そうなのだが……。
うん? なぜお前がそれを知っている?」
「なんか態度が違うなーと思ってアルベドにカマかけたら引っかかりましたので」
第1話参照。
「Oh……」
アインズ様は声を漏らして顔を伏せ、ちょっと伺うように俺のほうへ顔をわずかに上げられた。
表情もなければ眼球もない。だが「マジか、こいつ……出来すぎじゃね?」みたいな感情を向けられているのは分かる。
「アインズ様は、アレでしょう?
どのような形で愛してよいか分からないのですよね?」
そう訪ねると、アインズ様は数瞬固まった。
それからポンと手を打つかのように声を漏らされた。
「ああ……」
腑に落ちた、という声だった。
そうしてまじまじと俺を見たあと。
スッ、とアルベドへ向き直られた。
「そう、それだ。
すまぬ、アルベド。漠然としかつかめていないのだ。私自身が何を求めているのか、分かっておらん。ゆえに、お前をどのように扱いたいのか分からぬ。だというのに漠然と『私を愛せ』と命じてしまった。漠然としすぎて、お前もさぞや困ったことだろう。どうしてよいか分からぬ、と」
アインズ様はゆっくりと首を左右に振った。
自分自身にあきれている様子だ。
「アインズ様……」
同じくアルベドもゆっくりと首を横に振った。
そんなことはありません、と否定して差し上げたくとも、それをすれば己の気持ちが嘘になってしまう。
困っていた。真剣に向き合おうとするからこそ、どうしてよいか分からないことに困っていたのだ。
その気持ちを、口先だけでも否定するなど、できるはずもない。ましてやその気持の向かう先であるアインズ様に対しては。
「すまないが、待ってくれ。
お前に甘えたいのか、頼られたいのか、それすら分からぬ。
今わかるのは、とにかく大切にしたいということだけだ」
「アインズ様……ありがとうございます。
お気持ちが定まるまで、わたくしは、いくらでもお待ちいたします」
アルベドの雰囲気が急に落ち着いた。
いきなり精神年齢が何十年も飛び越えたような印象だ。
安心したのだろう。
「すまぬ……」
静かに頭を下げるアインズ様。
いつもなら慌てて頭を上げていただこうとするところだが。
その声は上がらなかった。
さて、このあッまァ~い空気、どうしてくれよう。
もうこのままシモベたち全員でこっそり退出したほうがいいんじゃないかというほどの空気感である。
しかし俺はまだアインズ様のご命令を完了していない。
すなわち、アルベドが求めるに適した褒美とは何かを提案することだ。
「……ということで、アルベドへの褒美には、なにか約束の証になるような品物を与えるというのはいかがでしょうか。
さしずめ指輪などがよろしいかと愚考いたしますが」
「考えておこう」
「指輪のデザインを、ですね?」
「ああ。今は手持ちに適したアイテムがない」
「アインズ様」
「うん?」
「そういうところです」
「なにがだ?」
「言葉が足りません。
考えておこう、だけでは『与えるかどうか考えておく』と受け取られかねず、アルベドを不安にさせる可能性がございます。
口に出さねば伝わらないものもあるとご認識ください」
「あー……」
アインズ様は天を仰いだ。
それから深いため息とともに、うなだれた。
「すまぬ。
ダメだな。本当にダメな男だ、俺は……。
すまんが、皆、私は今日『支配者』を休ませてもらう」
シモベたちは無言で一礼した。
支配者を休むと仰ったのだから、これは命令ではないのだ。
さて、そうなるとこの場に支配者は居ないということ。それはアインズ様が外出なさっているのと同じ状態だ。
シモベたちは各自の仕事に戻っていった。
アインズ様はゆっくりと玉座から立ち上がった。
もはやそこに座る理由がない。
「アルベド。一緒に第6階層へ行かんか? ぼんやり湖でも眺めて過ごしたい気分だ」
「はい、どこへでも」
◇
「パンドラズ・アクター。今回の働き、見事だった。
褒美を取らせよう。何か望みがあれば言ってみよ」
「んではっ! 父上! と、お呼びしても?」
しゅばっ!
しゅばばっ!
「父上、だと……?
う、うーむ……たしかにお前は私が創造した、私の息子とも言うべき存在だが……し、しかし……」
こいつを、かぁ~……。
と黒歴史を見るアインズ様。
「アインズ様、よろしいでしょうか?」
「デミウルゴス……一応聞こう。
この前のようなのは勘弁してほしいところだがな」
一礼して、俺はパンドラズ・アクターに向き直る。
「パンドラズ・アクター。
今からする質問が、君にとって許しがたい無礼であったなら、先に謝っておくよ。すまない」
「……何を、お聞きになりたいので?」
いつものうるさい動きは鳴りを潜め、パンドラズ・アクターは静かに首を傾げた。
つるりとした卵のような顔にある3つの穴は、まるで深淵がこちらを覗いているようだった。
俺は今から、その深淵に踏み込む。
「君は、もしアインズ様がナザリックを捨てて去るとしても、それを応援できるのではないかね?」
他のシモベでは不可能だ。
何としても引き留めようとするだろう。
なぜだか「一緒に出ていく」という発想は無い。
もともとナザリックから外に出られない仕様だったせいだろうか?
しかし今は外に出られるし、出て任務もこなしている。なのに、誰もその発想に至らないのは奇妙なことに思える。
ギルド拠点のNPCとして、許容されたレベルの中で作成されたからではないだろうか。おそらく「ギルドレベル」とか「拠点レベル」のような概念があって、それに応じて作れるNPCの合計レベルが決まっていたのではないか――いくつかの記述と俺自身のゲーム体験から、そのように推測している。そしてNPCたちは、創造主を慕うのと同じように、ギルド拠点を慕っているのではないだろうか。なぜなら自分たちの存在の根源だから。
しかし、パンドラズ・アクターならば、あるいは。
「Wenn es meines Gottes Wille(我が神の望みとあらば)」
やはりだ。
やはりパンドラズ・アクターは、存在の根本が違う。
「答えてくれてありがとう。
アインズ様。ギルド、アインズ・ウール・ゴウン。その至高の御方は、42人いらっしゃるはずだった……というのは事実でしょうか?」
「うむ……まだナインズ・オウン・ゴールだった頃のことだ。
1人だけ離脱してしまってな……」
「パンドラズ・アクターを創造なさったのは、それより後ですね?」
「そうだが……何が言いたいのだ?」
「パンドラズ・アクターが変身できる至高の御方は、41人。
その離脱なさった方は、含まれない。
なぜなら離脱後にパンドラズ・アクターを創造なさったから。
なぜパンドラズ・アクターに至高の御方に変身する能力をお与えになったのか……その時からすでに、再びどなたかが離脱したら、とお考えになっていたのでは?」
「ああ……そうだとも。パンドラズ・アクターはギルメンの皆の姿を保存すること、そのために作ったNPCだ。
だからパンドラを創ったときに、皆に無理を言ってデータを貰って……」
「アインズ様。
そうであれば、パンドラズ・アクターの存在意義とは、アインズ様の御心を慰撫すること。
ナザリックを守ることではなく……ひたすらアインズ様の御心をお慰めするために存在するシモベ。それがパンドラズ・アクターではございませんか?」
あれだけ主張が激しいパンドラズ・アクターが、初登場まで――呼ばれるまでは静かに宝物殿で待っていた。
奇妙なことだ。自分から飛び出してきそうなものなのに。
だが存在意義が異なるとすれば、パンドラズ・アクターの出番は本来、アインズ様が「さみしい」と感じたとき。
だから、それどころではなかった転移直後は、飛び出してくる必要もなかった。
「それが本来の役目であるとするなら、父と呼びたいというのは、その一環でしょう」
「…………」
「私は部屋を出ておきます」
この先はもう、親子の会話だ。
いや、より正確に言うなら、アインズ様がご自身の心と向き合う時間だ。
俺はここに居てはならない。
◇
「よぉ~こそっ! 我が守護領域、宝物殿へ!
歓迎いたします――デミウルゴスの中のお方。
ああ、怖がらないでください。あなたを害そうなどとは思っておりません。
なぜならあなたが見抜いた通り、私の存在意義は父上の心を慰撫すること。
そう――あなたがやってくださっている事そのものです。
役割を奪われたなどと悲しんではおりません。もちろん怒ってもおりませんとも。
私はあなたに感謝しています。あなたは父上の心を慰めてくださった。しかも私がやるより効果的にっ。素晴らしい成果です。
嫉妬? いえいえ、とんでもない。父上の心を慰めることこそ我が存在意義。
あなたが仰った通りです。
私は、もし父上がナザリックを捨てて去るとしても、それを応援いたします。新たな門出をお祝いいたします。私自身を『もういらぬ』と仰っても一向に構いません。いいえ、むしろそれこそが我が望み! なぜなら私が不要になるとき、父上の心は満たされている。
ですから、どうぞご存分に。父上が心を擦り切らして私を見るのもつらいと宝物殿に押し込めたまま顔を見せてくださらなくなった事に比べれば、今同じように宝物殿に安置され見向きされないことの何と幸せなことか。私は役目を遂げたのです。あなたがそうしてくださった。
ですから――もし、あなたの正体が露見したとき、誰かがあなたを害そうとしたなら、私はあなたを守りましょう。それが父上の心を守るためならば、私はナザリックの守護者達と戦うことになっても一向に構いません。
本日は、それをお伝えするためにお招きしました。お帰りの際は足元にお気をつけて。散らかっていて申し訳ありません。なにしろこれだけの数のアイテムがございますから。ええ、収納する場所が足りず床に置きっぱなしにしてあるのです。たとえばこれなどはモモンガ様がウルベルト様とともにお出かけになった際の……おや? 順応が早いですね。いえ、構いませんとも。ではせっかくですので聞いてください。このアイテムは――
パンドラはパンドラで、しっかり狂気を宿している。
という話でした。
中の人「ぎゃあああ! バレたあああ! ……あ、え? なんかうまくいった」
誤字報告をいただきました。
佐藤東沙様
ありがとうございます。
見向きされない→見向き「も」されない
これは、実はわざとなんです。「も」が入ると、少し「放置される」ニュアンスが強まるように思うんですよね。もちろんパンドラはそれが目標だと本気で思っているのですが、同時に「慰める」という役目は「慰めている間」でなければ果たせない。慰め終わって元気になったら、もう出来ることがないんです。シモベの共通認識として「お役に立ちたい」があるので、「侵入者ヨ来イ」と思ってしまうコキュートスと同じく「慰めが必要な状況」が欲しいと感じてしまう自己矛盾が起きると思うんです。それがポロっと出ちゃったという描写ですね。
最後の」がない
これも実はわざとなんです。まだ会話が終わっていないという事を表すためのもので、その後「中の人」がパンドラの話を聞いたのだということを、」を書かないことで表現しています。
そこに違和感を感じた、ということ。
バッチリ気づいてくれて、嬉しく思います。
作者「目ん玉」に石を投げますか?
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めっちゃ投げる!ふざけんな!
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ちょっと1発投げさせろ
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う~ん……
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いやいや、投げない投げない
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チョコラータする。よーしよしよしよし