デミウルゴスに憑依した一般読者   作:目ん玉

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本文中に差し込む場所がなかったので、ここで原作の設定を確認のため置いておきます。
ゼルンの王子は、物語を聞くのが趣味。
カルカは、美容に熱心。趣味というにはいささか熱が入りすぎている。
ケラルトは、人間観察が趣味。良くも悪くも。


聖王国への干渉

 聖王国への干渉計画は大幅に変更することになった。

 まずヤルダバオトが亜人連合を作るのは白紙撤回。

 ただしネイアを覚醒させるため、聖王国には「窮地に陥った」と感じてもらう。

 手順は以下の通り。簡単3ステップだ。

 

 第1ステップ。

 亜人の陣営を後ろから襲う感じに見える位置に、憤怒の魔将を送り込む。

 

「ふはははは! 我が名はヤルダバオト! お前達の命を喰らう者なり!」

 

 安っぽいセリフだが、わかりやすさを重視する。

 亜人もまた保護対象なので、ここでは「ふり」だけで殺害はしない。

 

「ふはははは! 逃げるがいい! 恐怖した魂ほど美味なるものは無いからな!」

 

 とか言って、適当に追い立てる。

 亜人は、自分たちより圧倒的にレベルが高く、炎をまとった怪物の姿を見て、格の違いに震え、逃げ出すだろう。

 風格をより強く見せるために、王国でも使ったゲヘナの炎を、演出として使用する。高さ30mに及ぶ炎の壁を、かなりの広範囲に展開できる。遠方からもよく見えるだろう。

 

「た、大変です! 突如、炎の怪物が現れて、腕の一振りでアベリオン丘陵を切り裂く巨大な炎の壁を作り出しました!」

 

「何を言っている? 突然そんな化け物が現れるわけがなかろう。

 何と見間違えたのだ? まったく……末端の連中は臆病でいかんな」

 

「ここからでも見えます! 直接ご覧ください!」

 

「やれやれ……。

 冷静にものを見るのだ。神々の言葉に、幽霊の正体見たり枯れ尾花というのが――よし、逃げよう。アレはダメだ。マズイ」

 

 などとやり取りしている亜人の指揮系統を、シャドウデーモンを使って監視させることでタイミングを図り、炎の柱を吹き上がらせて憤怒の魔将が突如現れる。

 ちなみにゲヘナの炎は熱を感じさせず、触れても特にダメージやデバフを受けることは無い。炎の壁の内側と外側は出入り自由。従って森を燃やしてしまうとか、関係ない野生動物を焼死させるといった環境破壊は起きないわけだ。

 

「ふはははは!」

 

「あびゃあああ!? 逃げろ逃げろ逃げろ! 脚がちぎれても逃げろォ!」

 

 ホラー映画とかでよくある「いきなり飛び出してびっくりさせるやつ」だ。ニグレドの演出を作ったタブラ・スマラグディナ様ならもっといい感じに怖がらせることができるだろうが、俺の頭ではこの程度が限界だ。

 そこで一応、うまく逃げてくれない場合に備えて、先日協力を取り付けたパンドラズ・アクターに頼んで、アインズ様に変身してこっそり絶望のオーラⅠを放ってもらえるように準備しておく。ハムスケを降参させた効果は、亜人にも効くだろう。

 効きすぎて即座に生存を諦め、逃げずに震えて殺されるのを待つという反応も予想される。そうならないように、パンドラズ・アクターには弱体化する装備なんかを見繕ってもらい、自分の判断でいい感じに調節するよう頼んだ。アイテムの効果については最も詳しいシモベだ。いい感じにやるだろう。

 状況を確認しつつ、タイミングを見てこれを各地で繰り返す。

 

 おっと、ゼルンの王子をさらっておかないと。

 別にひどい事なんて何もしないとも。

 ちょっと半ば強制的にお越しいただいて、歓待を受けてもらうだけだよ。

 ククク……。

 あ、その物語がお好きですか? 続きを持ってこさせましょう。この文字は読めない? 大丈夫ですとも。朗読させますので。いえいえ、遠慮なさらず。

 

 

 ◇

 

 

 第2ステップ。

 聖王国とアベリオン丘陵の境目にある全長100kmに及ぶ長大な城壁。

 アベリオン丘陵各地で段階的に発生した亜人の各種族による「大逃走」は、聖王国にとって運の悪いことに、この地で合流し、あたかも亜人が連合を組んで一斉攻撃に出たように見えた。

 

「あいつらが連合を組むとか、どうなってんだ……」

 

 絶望するオルランドに、九色の1人「夜の番人」「凶眼の射手」ことパベル・バラハは、その優れた視力で「違う」と見破った。

 

「あれは『連合を組んだ』なんて言えるほど統率のとれたものじゃないようだ」

 

 しかし、である。

 だから何だ、という話なのだ。

 

「統率がどうとかいうレベルの話かよ。あの数……」

 

「必死にやるしかないさ。いつもより忙しい。それだけのことだ。

 気合いを入れろ。俺は早く帰ってネイアの顔を見たい」

 

 そんな感じで原作に近い夜明けを迎えた大防壁。

 迫る亜人の大群を迎え撃とうと緊張する聖王国。

 しかし両軍の間に突如、巨大な炎の玉が落下する。メテオフォールだ。

 原作ではパベルの命を奪ったこの一撃を、ここでは大防壁の前の、誰も居ない平原部分に撃ち込む。

 そして炎の中から現れるヤルダバオト、という演出だ。

 

「ふはははは! 我が名はヤルダバオト! お前たちの命を食らう者なり!」

 

 魔王からは逃げられない。

 必死に逃げていたはずの相手が、いきなり正面に現れた。亜人たちは泡を食って反転し、脱兎のごとく逃げ出した。

 しかし聖王国側は、そうはいかない。地形的にも設備的にも、ここを失えば次に亜人が攻めてきたとき大損害が生じる。その最悪のケースが原作の通りだ。国土の半分を失って首都も陥落する。

 亜人どころではない新たな脅威の出現に、バベルらは必死に踏みとどまった。

 

「……ふん。誇りを持たぬ獣ふぜいでは、挨拶もできぬか。

 お前たちは楽しませてくれよ?

 今日のところは挨拶だけだ。では、またいずれ会おう。

 ふはははは!」

 

 という形で引き上げる。

 結果的に亜人連合は聖王国を襲わず、この場では死傷者ゼロだ。

 

 

 ◇

 

 

 第3ステップ。

 ヤルダバオトが現れた。報告を受けた聖王国は、その脅威度を見積もろうとする。

 

「結局、戦わなかったのね? どの程度の強さなのかしら?」

 

「どの程度だろうとカルカ様に仇なす存在はすべて斬り捨てるのみだ!」

 

「姉さんは黙って」

 

 ケラルトは冷静に、発生する損害の程度を計算する。

 過去に類を見ない大連合を組んで押し寄せていた亜人が、見ただけで即座に逃亡するほどの強さ。

 パベルは「連合を組んでいたわけではない」と感じたが、それはヤルダバオトの強さを推測するのにほとんど影響しない。結局は「亜人たちが見ただけで逃げ出すレベル」から変わらないからだ。

 その亜人たちに四苦八苦している聖王国にとって、ヤルダバオトは亜人より厄介な存在ということに違いはない。

 

「……今回は運が良かっただけね。

 私たちは、これからさらに苦しい状況に立たされる……」

 

 いったいどれほどの被害になるのか。

 腹黒と言われるほど計算高いケラルトは、これからの聖王国が被害甚大になるであろうことを予感し、歯噛みした。

 戦力が足りない。決定的に足りない。

 

 

 ◇

 

 

 このようにして、聖王国は「窮地に陥った」と認識した。

 ここで少し「寄り道」を挟む。当然それも演出のためだ。

 

「アインズ様、法国がザイトルクワエなる植物系モンスターを鹵獲しているとの報告を上げてまいりました。

 王国滅亡計画に使う予定が、アインズ様のお言葉で計画中止になり、亜人殲滅も禁止されたため、使い道がなくなったので処分してほしいとのことです」

 

「なるほど。

 で、それをどう使おうというのだ、デミウルゴス?」

 

「冒険者モモンがどれだけ強いか見せつけるため、ヤルダバオト以来の、もう1つの伝説を作っていただこうかと。まずアウラからの報告でザイトルクワエの強さは――でありますので、具体的な手順としましては――その結果、冒険者モモンは『また王国を救った』という事になります」

 

「――なるほど。それならば目撃者はいないという事だな。

 せっかくだから守護者たちの訓練に使おう」

 

 法国には、予定していた通りザイトルクワエを王国にけしかけるよう伝える。ただし人的被害を出さないように、また環境破壊(ザイトルクワエは周囲の植物を枯らす)も最小限にするよう指示を添えて。

 

「高さ100mを超える怪物が現れた。王城よりデカい。なんということだ!」

 

 王国は大慌てする。

 だが派閥争いに腐心するほど平和ボケした王国貴族は、直接見た者でなければ、そんなに巨大なモンスターなんて「存在する」とは信じられない。

 まずは確認のための調査隊を、なんてのんびりした事を考える。

 その間にも迫ってくる。高さ100mの存在がどれほどの速さで移動できるか――単純な1歩がどれほどの歩幅なのか――なんて事は、考えもしない。あまりにも巨大なため、ザナック王子やレエブン侯ですらうまく想像できない。

 唯一気づくラナーが、蒼の薔薇を雇う。

 

「理想は討伐。

 でも停止させれば、ひとまず十分よ。

 ただ、最低でも王都には来ないよう進路を変更させて」

 

 無茶を言ってごめんなさい、としおらしく演技するラナー。

 表に出る前にナザリックの存在に気づいた彼女は、ナザリックが法国から表に出たことで、自分は選ばれなかったと理解した。

 将来の保険として地味にアピールを続けつつも、それが無駄であろうと理解する。

 

「王都にはあなたが居るもの。守るわ。何としても」

 

 ラナーを友人だと思っているラキュースは、決意も新たに仲間を率いて出発する。

 だがレベル80相当でHPに至ってはアウラが「測定不能」と言うザイトルクワエは、蒼の薔薇では相手にならない。蒼の薔薇で一番レベルが高いイビルアイでも51~55程度だ。

 蘇生魔法を使えるラキュースは仲間たちに「最後の保険」として守られるが、それ以外のメンバーはなすすべもなく死亡または瀕死の重傷になるだろう。

 

 蒼の薔薇の犠牲――これは避けたくても避けられない。彼女らは彼女らで必死に抵抗する。死にたくない。死なせたくない。だから出撃を命じ、だから出撃を受け入れる。そして王国ではモモンはあくまで冒険者。蒼の薔薇に「動くな」と要請する手段がない。

 

 そんなわけで、あわや全滅という窮地に陥る蒼の薔薇。

 そこへ現れる冒険者モモンとナーベ。

 一流の薬師であるリイジー・バレアレが「神の血」と表現したユグドラシル産の赤いポーションは、たちまちラキュースを癒す。

 イビルアイにはモモンがこっそり「大致死」だ。偉大な戦士モモンが死霊系の魔法を使えることを、ラキュースは仲間を救われた恩と「例の病気」で好意的に解釈するだろう。

 

「秘密だぞ」

 

「はい!」

 

 モモンの言葉に目をキラキラさせるラキュース。

 心のなかで「ふおおおお!」とか雄叫びを上げているに違いない。どうかするとハムスケみたいな喋り方になって「デュフフフ」と笑いだすかもしれない。

 回復したイビルアイとラキュースが、傷つき倒れた仲間を回収する。

 しかし蘇生直後は、まともに話せないほど体が動かない。従ってその場で蘇生させるのはザイトルクワエや他のモンスターに襲われるリスクがあり、死体のまま安全なところまで運んで蘇生させることになる。

 

「私はあれを倒しに行く。

 君たちは下がって回復に専念するといい。

 ナーベ、1人運んであげなさい」

 

 ティナ、ティア、ガガーラン。

 ラキュース、イビルアイ、ナーベ。

 1人が1人を運ぶ形だ。

 

「はい、モモンさーん」

 

 ひょいとガガーランを持ち上げるナーベに驚くイビルアイ。

 ちなみにイビルアイもけっこう怪力で、単純なパワー勝負ならガガーランより上らしい。

 

「そいつは重いだろう。私が持つ」

 

「ふん。病み上がりは大人しくしておきなさい」

 

 少し丸くなったナーベラルが冷たく言い放つ。冒険者ナーベをやるたびに反省会と演技指導を繰り返してきた成果だ。

 たぶん創造主の弐式炎雷様は、このくらいのツンデレに設定するつもりで調整を誤ったのだろう。まさか異世界に転移して自我をもつとは思うまい。仕方ないことだ。

 しかも現地人が相手だとデレる理由がない上に、ナザリック至上主義も悪い方向に作用して、過剰なまでのツンしか無くなる。

 

「お力になれないばかりか、戦力を分断させてしまっては……!」

 

「なに、心配はないとも。

 あとは任せろ」

 

「「はい!」」

 

 自信たっぷり、どころか、なんでもない事のように言い切るモモン。

 自分たちの窮地をさらっと救う大英雄の姿に、目を輝かせたラキュースとイビルアイが、それぞれちょっと違う感情を宿しながら元気よく返事をした。

 ナーベラルがちょっとイラッとした。しかしナーベラルは我慢を覚えている。

 そのあと守護者だよ全員集合! からのザイトルクワエ相手にチーム戦の練習だ。

 

「ドノ程度マデ許サレテイルノカガ、ワカラン」

 

「格上を相手に戦う練習だからね。こちらの戦力を低くするほど効果的だよ。

 スキルと魔法はすべて使用禁止――発動を邪魔されたりレジストされたり反対の効果をもつスキルや魔法で中和・相殺されるなどして、全く通用しない、という想定でどうだろう?」

 

「それではシャルティアやコキュートス以外、強みがほとんど活かせないわ」

 

「だから良いんだよ、アルベド。

 シャルティアとコキュートスも、できるだけ弱い武器を装備したまえ。なんなら武具をすべて破壊されたという想定で当たってみるかね?」

 

「それではアインズ様に良いところをお見せできんせんえ」

 

「ワザワザ素手アルイハ弱イ武器ヲ使ウ……我々モ強ミヲ活カセナイ相手、ト想定スルワケカ」

 

 指揮官として戦った経験からか、コキュートスの理解が早い。

 

「コキュートスの言う通りだ。だからシャルティア、1人だけ強い武器を使って有利に戦っても、アインズ様はそれを『活躍』とはお認めにならないと思うよ。そういうのは、ただの『ズル』だ」

 

「そういうものでありんすか……」

 

 リソースについての勉強をさせた成果か、シャルティアも納得が早い。

 理解はいまいち出来ていないのが減点だが、それは言うまい。

 

「我々シモベは、至高の御方より劣る存在だ。

 だが、我々は至高の御方をお守りする存在だ。

 様々な状況を想定してそれぞれに能力や装備を与えられているが、それらは至高の御方々に与えられたもの。ということは、それらが通用する程度の相手なら、至高の御方でも対応可能であるに違いない。

 我々は単なる露払いのままではいけない。

 我々は成長しなければならない。

 我々は至高の御方々を守るためにある存在だ。

 たとえ至高の御方々が想定していない状況が起きても、むしろそういう場面でこそ至高の御方々をお守りせねばならない。

 我々は、我々に与えられた能力が一切通用しない相手……たとえばワールドエネミーのような強敵こそを相手に見据えなくては。そうではないかね?」

 

 ザイトルクワエはせいぜいレイドボス程度の存在で、守護者にとっては圧勝できる相手である。コキュートスなんかは明王撃でザイトルクワエを真っ二つにしかねない。

 だが、楽に勝てるからといって楽に勝ったのでは、何の練習にもならない。

 

「不敬を承知で言うけれど、至高の御方ですら敗北するような強敵が現れたとしたら、それこそが我々守護者にとって真にお役に立つべき局面だ。

 かつての1500人の大侵攻を思い出したまえ。我々は奮闘虚しく倒されてしまったが、それは各階層で個別に戦ったからだ。我々が力を合わせれば、あの程度の敵などに負けるはずがない。

 今回の訓練は、アインズ様がそう信じてくださるからこそ実施されるものだよ。そうでなければ、今まで通りで良いのだからね」

 

 その場は静まり返った。

 守護者たちに決死の覚悟が宿っていた。

 これなら実りある訓練になるだろう。

 

 

 ◇

 

 

 その後ザイトルクワエ討伐は無事に完了。

 冒険者モモンの新たな伝説が王国史に刻まれた。

 アインザックは密かに「アダマンタイト級の上のクラス」を創設するべきではないかと考え始めた。

 そうでなければ他のアダマンタイト級冒険者たちが可哀想だ。

 とはいえ「その上の金属」なんて知らないので、名称に悩むことになる。まさかモモンなら知っているなどとは予想もできない。アインザックの苦悩は続く。

 

 さて聖王国。

 南部でゲヘナ作戦の焼き増しをやって、南部貴族たちに危機感を持たせることに。

 ただし殺害はしない。

 悪魔系やアンデッド系のシモベを大量に用意して都市ごと取り囲み、兵糧攻めよろしくアリ1匹這い出る隙間もない包囲網で恐怖だけを与える。

 

「ふはははは! ゆっくりと絶望していくがいい!

 お前たちが絶望に染まりきった時こそ、その熟成された魂を美味しくいただいてやろう!」

 

 とか適当なことを言わせて、恐怖を煽ると同時に「絶望しなければ攻撃しない」という条件を示す。

 シャドウデーモンを放って、その避難所生活的な環境で横暴や悪事を働くような民度の低い人物は、さくっと拉致してその場から間引く。

 

「あの人、昨日まで居たのに……」

 

「食われたんだ……魂を喰われたんだ……」

 

「死体も残らないのはどういうわけだよ?」

 

「頭から丸ごと食われたんじゃないか?」

 

 横暴や悪事。避難所生活的な環境でそれを働く者は、残念ながら現実にも存在する。

 だが、そうした者たちの行動は「自分が有利になるため」ではない。

 少し冷静になれば、そういう振る舞いは周囲から嫌われ、自分の立場を悪くすると気づくはずだ。

 彼らは「安心」したいのだ。溺れる者が藁をも掴むのと同じく、わずかでも「他の人より有利だ」と思っていなければ不安でたまらないのである。

 

「……てことは」

 

「絶望したら魂を食う……あの悪魔の言っていたことは本当なんだ」

 

 そうして残った人たちは励まし合い、団結していく。

 ちなみに間引いた人間は、憤怒の魔将の前へ連れて行かせる。

 

「ヤルダバオト様、絶望した人間をお連れしました」

 

「どれどれ……うーむ、まだ青いな。もう少し熟成させよ。

 おい人間。もっと絶望しろ。お前の魂は美味そうだ。期待しているぞ」

 

 怯える人間を取り囲んで、悪魔たちがゲタゲタと笑う。

 そんな感じで脅して、別の都市へポイ。

 実際にはもっと絶望してしまうかもしれないが、なぜさらわれたのかは理解するだろう。目立ったからだ、と。

 そうして息を潜めて暮らすようになる。目立たないように。和を乱さないように。絶望していないと見せかけるために。

 なお更生しなかった場合は、同じ事を何度でも繰り返す。「だんだん熟成してきたな」「もう少しで食べ頃だ」とか言って脅しを強める。加えて、次第に故郷から遠い都市へポイするので、早く更生しないと故郷に帰れなくなるという寸法だ。

 そして都市封鎖によって北部に南部の情報が届かなくなる。

 

「南部貴族からの連絡が途絶えました」

 

「ヤルダバオトが南部に?」

 

「レメディオス。調査に向かってください」

 

「私が? カルカ様の守りはどうする?」

 

「ヤルダバオトの強さが想定通りなら、ですが……。

 並大抵の者では生きて帰れません。姉さんなら強いから大丈夫でしょう。

 それに、おそらく信じられないような光景を目にするでしょう。姉さんの言葉でなければ信じられないような……」

 

 レメディオスは普通の人間にあるような「自分の理解できる範囲に変換して理解する」というフィルターを持たない。「そんな事あるはずがない。きっとこれは〇〇だ」と思い込む性質がないのだ。

 だから聖棍棒にされたカルカの肉片を必死にかき集めるという行動に出る。「それ」がカルカであること、カルカに何が起きたか、という事は即座に受け入れたわけだ。彼女は現実を受け止められずに「嘘だ」とか言わない。

 その代わりに「誰も泣かない国」というカルカの理想を結論として「結論ありき」の言動をするわけだが。

 九色・白の地位にあって聖騎士団長を務め、聖王国最強の聖騎士という実力と、現実を歪めずに認識する精神構造。さらに聖王女カルカの親友で神官団長ケラルトの姉という信頼性。危険地帯への偵察任務に、これほど適した人物はいない。

 

 まあ、その間に首都はヤルダバオトに襲われ、包囲されるのだけどね。

 ククク……。

 ああ、カルカさん、その美顔器ローラーというのは、やればやるほど効くというものでは……あ、いえ、お好きにどうぞ。ケラルトさん、何を笑っているのですか? 人間に気圧される悪魔が面白い? はぁ……まあ、お好きにどうぞ。

 

 

 ◇

 

 

 首都陥落。

 いや、正確に言えば陥落ではなく包囲された状態のままだが。

 奪還できず、内部にいるかもしれない生存者と連絡も取れないという意味では、陥落したも同然だ。

 

「なんという事だ。私が不在の間に」

 

「かくなる上は、他国に応援を要請するしかありません」

 

「ぐぬぬ……」

 

 というわけでレメディオスたちは応援要請のために王国へ。

 しかしゲヘナ作戦で大勢の貴族が消えた王国はてんやわんやで他国に応援を出す余裕などなかった。

 

「そもそも王国兵は農民を徴兵しただけ……そんなの送っても無意味です」

 

「ヤルダバオトは数で倒せるような相手じゃないぜ」

 

「私たちも負けた」

 

「負けたっていうか遊ばれた」

 

「ヤルダバオトを倒せるのはモモン様だけだ」

 

 蒼の薔薇は言う。

 ヤルダバオトがもし遊ばずに蒼の薔薇を殺そうとしたら――直近でザイトルクワエ相手にその事を思い知った蒼の薔薇は、やや青い顔をしながら異口同音にモモンを頼れと言う。

 

「ええい、弱腰どもめ。ならば帝国へ――」

 

「無駄でしょう。毎年王国と戦争するほど敵対しています。

 帝国は地理的に、王国を通らないと聖王国に行けません」

 

 法国を経由してアベリオン丘陵の東側から亜人陣営の背後を襲うという経路もあるが、大軍が移動するのに丘陵地帯は適さない。

 しかもヤルダバオトが突然現れた場所であり、亜人も入り乱れた不意の遭遇戦になる可能性があり、ソウルイーターが巡回している。

 調べれば調べるほど、人間の軍隊が進むには適さない。

 

「ぐぬぬ……」

 

 という流れでモモンに接触するレメディオスたち。

 しかしモモンは要請を断る。

 

「申し訳ありませんが」

 

「なぜだ?」

 

「私はエ・ランテルの冒険者です。一介の冒険者に過ぎない。

 王国の王侯貴族からは、そのように扱われています。

 それが王国に国家として頼った後で、このような……もし私が応じれば、少なくともヤルダバオトを撃退はできるでしょう。実際この王国ではできたことです。しかしだからこそ、王侯貴族にとってはますます目障りになってしまう。

 せめて先にこちらへ相談してくだされば……この王国において、私には政治や権力といった方面への対抗手段がありませんので」

 

「強さを示せば、王国はお前を抱え込もうとするのではないか?

 それに応じれば、目の上のたんこぶ扱いもされないだろう?」

 

 自分なら強者は勧誘する、と聖騎士団長レメディオスは考える。

 ただし王国貴族が同じように考えた場合、すでにモモンを勧誘しているはずだ、とまでは思い至らない。アホの子である。

 

「私にその気がないのですよ。

 法国で我が神が仰った通り、私とこのナーベは、法国で闇の神と崇められるアインズ様の使徒ですので。他の誰かに仕えることは致しかねます」

 

 聖王国は四大神を信仰していて、六大神信仰の法国とは宗教的な溝がある。

 そして聖王国が信仰していない闇の神の使徒という設定。

 聖王国としては、これ以上強く言えない。「お前の神様なんて認めないけどお前の力は貸せ」というのでは、あまりにも図々しく自分勝手な話だ。

 しかし、そこに口を挟む少女が1人。

 

「あの……闇の神アインズ・ウール・ゴウン様は、スルシャーナ様から名前を変え、方針も変えて、人間を含む全ての生命を保護すると仰ったと聞いています。

 聖王国の人間は、その保護の対象に含まれないのでしょうか?」

 

「あなたは?」

 

「ネイア・バラハと申します」

 

「バラハ嬢。あなたは我が神のことをよくご存知のようですね。

 仰る通りです。

 そして、だからこそ、神出鬼没なヤルダバオトは、私が動けば隙ありとばかりに、このエ・ランテルを、あるいは近隣の王国の都市を襲いに来るでしょう。この王国の民もまた、我が神の保護対象なのです」

 

「では、聖王国を見捨てるわけではなく、モモン様に動いていただくのでもない、それ以外の方法で保護してくださるという事でしょうか?」

 

 そこへアインズ様が転移魔法で現れる。

 アンデッドであることを隠すため、仮面や籠手で骨は隠した状態で。カルネ村スタイルだ。

 

「私が行こう」

 

 あとは、だいたい原作の通りである。

 道中で亜人を蹴散らしながら進み――派手な攻撃魔法に見せかけた威力ゼロの魔法を煙幕代わりに使って、シモベが人海戦術で亜人を拉致。シャルティアがせっせとゲートを開いて、ソウルイーターの包囲網の中へポイする。

 ゼルンの応援要請を受けて王子を救出――このとき原作では国母とケラルトの頭を装備した頭冠の悪魔と遭遇戦になるので、頭冠の悪魔には遭遇するように待機していてもらう。

 ただし頭は装備しない。幻術で装備しているように見せかけた上で、実際には首がないとケラルトの魔法を使えないので、完全不可知化や位置取りによって隠れたままルプスレギナに魔法を使ってもらい、あたかもケラルトの生首を利用しているように見せかける。

 攻撃すると完全不可知化が自動的に解除されるが、そのあたりはプレアデスの1人である。レベルの高さでうまい事やってもらう。同行しているシズはガンナーなので、発砲すれば銃声やマズルフラッシュでいい感じに視線誘導できるだろう。マジシャンがよくやる手口だ。

 そしてヤルダバオトと戦ったアインズ様は、道中の消耗ゆえに敗北する。

 

「いやはや、お前たちがアレに魔法を使わせていなかったら、危ないところだった」

 

 などと発言させ、ネイアの覚醒を促す。

 ネイアは原作通りに自力で救助隊を組織してみせ、覚醒を果たす。

 だが捜索隊が出発する前にアインズ様は生還し、全回復した魔力で今度こそヤルダバオトを倒した。

 

「アインズ様こそ正義なのです! 地上に直接現れ、我々を救ってくださる! こんな神が他にいるでしょうか!? 犠牲なくヤルダバオトの脅威を取り除くことが、他の誰に出来るでしょうか!?」

 

 今日もネイアの演説が響く。




リザルト
死傷者:少数(蒼の薔薇や、首都へ向かう途中に蹴散らした亜人の一部、その亜人に襲われたり人質にとられた人間など)
ネイア覚醒 父パベル生存
南部貴族が危機感に目覚め、聖王国がまとまった
カルカとケラルトとゼルンの王子は秘密を抱えた。ヤルダバオト軍、めっちゃ歓待してくれた。実はいい奴らなのでは……? ほとんど実害が出てないし、国はまとまったし、あれ? 実はいい奴らなのでは……?? もちろん言っても周りは信じてくれません。

現地人の「ヤルダバオトって結局なんだったんだ?」の話
王国での時はアイテムを探していたし、犯罪者や貴族派閥の連中が消えた。
聖王国の時は「絶望した魂を食べる」という目的を口にしていた。
平民の予想:よく分からんが怖かった。居なくなったならそれで良い。神様ありがとう。
貴族の予想:正確な基準は不明だがおおむね「闇に染まった魂」的なものを集めていた。
ラナー:類似性を持たせているが別の方向に動いている。同一個体だとしたら貴族たちの予想通り「その先」の目的を持っていたはず。脅威はまだ根絶していない?別個体の可能性は?だとしたら共犯?出現時期の一致から偶然ではない。不仲のプレイヤー同士、あるいは暴走したNPCを処分したついでに名声を稼いで地位を確立した?計画の規模が大きすぎる。アインズ・ウール・ゴウンは国家を1つの駒として見るほどの、とんでもない知恵者か?

作者「目ん玉」に石を投げますか?

  • めっちゃ投げる!ふざけんな!
  • ちょっと1発投げさせろ
  • う~ん……
  • いやいや、投げない投げない
  • チョコラータする。よーしよしよしよし
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