デミウルゴスに憑依した一般読者   作:目ん玉

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王国からの使者は舐め腐った態度をとり、帝国はうまくアインズ様を味方につけて戦争へ……というのが原作の流れでした。
さて、あらゆる生命と環境の保護を掲げたこの世界線では――


王国・帝国からの接触

 ナザリック地下大墳墓の場所が知られた。

 地理的には王国の南東部にある平原の一角。

 調査に向かったワーカーたちのうち、天武は1人も帰ってこなかった。竜狩りもアンデッドに遭遇して勝てずに撤退。話を聞くと、非常に高い戦力を有しているらしく、「天武」は調査に失敗して全滅したと推測される。

 死んだのがエルヤーだけで、奴隷のエルフ3人は第6階層へ、アウラとマーレ付きのメイドみたいな立場で住み着いているのだが。それを知るのはナザリック内部の者だけだ。

 ヘビーマッシャーが持ち帰った金貨は、鑑定の結果、コインの形をした純金インゴットとでも評するべき高純度。価値が高すぎて金銭としては使いにくいので、彼らは帝国の通貨に替えた。

 フォーサイトは持ち帰った財宝を秘匿していたが、調べてみるとフルト家が抱えた借金の返済にあてており、かなりの金額が一括返済されていた。

 

「こんな財宝があるなら、もっと取ってこさせよう」

 

「いいですね、旦那。でもどうやるんです?」

 

「あのバカ親父に貸し付けて、新しく借金をさせればいい」

 

 そうやって欲を出した高利貸しだったが、いざフルト家を訪れてみるとあてが外れる事になった。

 

「ひいいいっ!? しゃ、借金なんて絶対にしないぞ! 私はアルシェに恨まれたくないんだ! あっ……あっ……あっ……アルシェ、私が悪かった……! だから殺さないでくれ! もう二度と借金などしないから! 財産管理はすべてお前に任せる! 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない」

 

「アルシェ!? 今アルシェと言ったの!? ぎゃああああ! 許して! もうあなたに縁談を勧めたりしないから! いやあああ! やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてぇぇぇ!」

 

「は? え? 何これ?」

 

「アルシェってあの娘ですよね? ここまで親を怯えさせるような事をする奴には見えなかったんですが……」

 

「アルシェ!? アルシェだと!? ひいいい! やめて許して怖い怖い怖い怖い!」

 

「アルシェ!? アルシェと言ったの!? いやっ……! いやああああ!」

 

「……なんですか、これ? 完全にトラウマになってるみたいですけど……」

 

「わからん……」

 

 そこへアルシェがやってきた。

 

「ただいま」

 

「「…………」」

 

 とたんにピタリと停止する両親。

 まるでさっきまでの狂乱が嘘のように穏やかな笑みを浮かべ、貴族然とした仕草を残しながらも平民的な印象すらある「優しい両親」の顔になる。

 

「おかえり、アルシェ」

 

「無事に帰ってきてくれて嬉しいわ」

 

「あ、はい……。

 あれ? あなた達は……! もう借金は返したはず。何の用?」

 

「借金!? 借金なんてしないぞ! 二度としない! だから許してくれ! 私はまだ死にたくない! アルシェ! 許してくれ! アルシェ! どうか! どうか、頼む! 命だけは……!」

 

「いやあああ! アルシェ! 許して! やめて! アルシェ! アルシェ! ひいいいっ!」

 

「あっ、また壊れた……」

 

「……何やらご両親のご様子がずいぶんお変わりになりましたな。

 よほどよく話し合われたようで」

 

「私は何もしていない。あの墳墓から帰ってきたら、こうなっていた。

 きっと持ち帰った財宝に呪われて変な悪夢を見せられている。

 でも財宝はすべて借金返済に使った。これ以上の影響は受けないはず」

 

 両親の怖がりようから、かなり具体的な悪夢なのだろう、とアルシェは予想している。

 変わってしまった父と母。

 きっと、あの白銀の騎士と長爪の黒い人が、何かしたのだろう。

 しかしアルシェに恨む気持ちはなかった。だから持ち帰った財宝のせいだと誤魔化しておく。

 

「呪われた……?」

 

「あそこは神の居城で死者の楽園。呪いのひとつやふたつ、あって当然。

 でも解呪はしない。

 ちょっとうるさいけど、前よりずっとマシ」

 

 借金をしない。

 バカな縁談を進めてこない。

 妹たちを売ろうとしない。

 そして壊れていない時間は優しくなった。

 壊れたことに対しても、ほんのちょっぴり「因果応報だ」と思ってしまう。もちろん心配する気持ちのほうが強いけれども。

 もう家も親も捨てて妹たちを連れて逃げるしかないと思い詰めていたアルシェの冷淡な部分が、この状況はメリットしかないと告げてくる。そして温和な部分はそれに反論できなかった。だって明らかに妹たちはこのままのほうが幸せになれる。

 

「そうですか……」

 

 高利貸は諦めて帰ることにした。

 解呪しないと言い放つアルシェに、以前のような気弱さを感じなかったからだ。

 

「いいんですか、旦那?」

 

「あれは無理だ。諦めろ」

 

 何やら死線を越えてきたらしい。そういう手合いに、突き崩すようなやり方は通じないことを、高利貸はよく知っていた。

 狙うとすればアルシェ自身が金銭に困った時だろう。

 だが、去っていく彼らの影から、じっと悪魔が見ていることに気づく者はいなかった。

 

 

 ◇

 

 

 なお、この日アルシェがどこに出かけていたのかというと、帝城だ。

 皇帝ジルクニフの前で、ナザリック地下大墳墓の様子を報告するべく、ヘッケランたちと一緒に謁見していた。

 フォーサイトは唯一アインズ様の姿を見た。コロシアムにひしめく異形たちを見た。戦ったわけではないが、より広く浅く情報を持っているといえる。さらにいえば、たっち・みー様やウルベルト様といった重要情報にも触れている。

 ヘビーマッシャーに比べて明らかに多くの財宝を持ち出したのは調べれば分かること。天武・竜狩り・ヘビーマッシャーの行動と結果は、直接の依頼人として配役したフェメール伯爵から報告を受けている。その結果から考えるに、墳墓は無視できない戦力を抱えた潜在的な「リスク」であり、フォーサイトは墳墓の主に相当気に入られたに違いない。多くの情報を持っているはずだ――とジルクニフはフォーサイトを帝城に召喚したのである。

 そして話を聞いたジルクニフは、法国が神と崇める存在に手を出したことを理解した。

 

「失態だ……! まさかそんな奴の住処だったとは……!

 くそっ、法国の神なら法国にいれば良いものを……!」

 

 フォーサイトが帰った直後、ジルクニフは頭をかきむしる。

 帰ってこなかった天武エルヤーは、ガゼフと互角を自称する剣士。実力の高さは有名だ。同じくらい人間性の悪さも有名だが……まあそれはいい。

 ジルクニフの側近である四騎士は、ガゼフより弱い。複数で当たれば抑え込めるが。

 つまり四騎士とエルヤーはほぼ同格だ。四騎士が挑んでも、墳墓からは帰ってこられないということ。

 その四騎士は、家柄などは無視して実力のみを見込んで登用した4人である。政治的な事情で四騎士に採用できなかった人物がいる可能性はあるが、ほぼ「帝国最強の4人」と言って良い。

 大軍が通用しない地下遺跡という地形。四騎士が殺されかねない警備体制。さらに神と崇められるアインズ様は竜王国と聖王国を救い、その使徒である冒険者モモンとナーベは王国を2度にわたって未曾有の危機から救っている。その政治的な影響と発言力。

 はい詰んだ。

 帝国は神の敵と言っていい状況だ。

 

「どうしてこうなった……! 何か逆転の手は……はっ!? 『たっち』『ウルベルトサン』なる人物を確保すれば、あるいは……!

 探せ! 何としても見つけ出すのだ! 帝国の存亡がかかった事態だ! 草の根わけてでも探し出せ! 情報だけでも見つけてこい!」

 

 いや、先に誰かが見つけてしまったら意味がない。

 少し遅れて、ジルクニフはその事に思い至った。

 

「使者を送る。

 2人を探すことに協力する立場を伝えて、友好関係を結ぶぞ。

 それを足がかりにナザリック地下大墳墓を神の聖域として不可侵を約束し、その範囲を定める交渉をしよう。王国の一部には手を出せなくなるが、聖域の範囲外なら取れる」

 

 こうしてジルクニフは自発的にナザリックへ向かうことになった。

 アウラとマーレが帝城にやってきて地面を割るシーンは消滅。

 当然そこに巻き込まれるはずだった人たちは無事だ。

 犠牲になったのはジルクニフの胃と頭髪だけである。

 

 

 ◇

 

 

 帝国がなりふり構わず大捜索をおこなった結果、その動きは王国の知るところとなった。

 王城に集まったランポッサと貴族たちが、テーブルを囲んで話し合う。

 

「王国の国土に存在するということは、税などはどうなるのでしょうな?」

 

「その通りだ。何やら相当の財宝を蓄えている様子。王国税法に照らしてきちんと徴収しなければ他に示しがつかん」

 

 貴族の言葉にバルブロ王子が追従した。

 貴族派閥の貴族は消えたが、それでもバルブロ王子は第1王子だ。資質など問題ではない。血統こそが最優先――と考える貴族は一定数存在する。バルブロがアホでもその子供はまともかもしれないのだから、うまいこと制御しながら今だけ我慢するべきだ、という理屈だ。

 王派閥の貴族たちは、国王をもりたてる事で一致しているが、それは「国王を矢面に立たせれば自分たちは批判を浴びずに甘い汁を吸える」という考えに基づくもの。結局のところ貴族派閥と根本的には同じだった。

 違うのは、ローリスク・ローリターンか、ハイリスク・ハイリターンか、という方針だけ。王国の腐敗は根深い。ちなみにバルブロはリスクを理解できないただのアホである。そのアホの理屈でいうと、リターンが大きいほうを狙うのは当然ということになる。

 しかしローリスク・ローリターンの方針である王派閥の貴族たちは、その方針ゆえリスクを嫌う。反対意見が出た。

 

「法国が神と崇める相手から徴税を?」

 

「それはいささか危険でしょうな」

 

「法国が聖地奪還を掲げて攻めてくるやも」

 

「そうなれば帝国との二面戦争……それは避けたいところですな」

 

「然り。今は何かと忙しい」

 

 ゲヘナ以降、貴族の数が減って大変な状態だ。

 貴族教育を受けていなければ領地経営などまともに出来るはずもなく、この機会にガゼフに爵位を与えて領地を持ってもらおうなどと考えて貴族を増やしたところで、その領地が経営破綻する羽目になるだけだ。かといって貴族派の貴族のもとで働いていた文官を拾って補佐につけても、傀儡領主として新たに貴族派を形成されかねない。それでは元の木阿弥だ。

 国王派閥の貴族たち、およびその部下の文官・武官たちは、単純に領地が2倍になったような忙しさであった。それは「仕事が2倍忙しい」という意味ではない。引き継ぎなしでぶち込まれる大量のタスク。当人たちの体感では3~4倍、あるいはそれ以上の忙しさになる。当然そこから人を割くなんて出来ない。

 

「では、法国から徴税するのはいかがか?」

 

「なるほど、神から徴税するのは心苦しいゆえ、などと言っておけば戦争にもなるまい」

 

「神のために使うのだ。むしろ浄財であろう」

 

「神の居城とはいえ遺跡ひとつと比べれば、そのほうが利益は大きいか……?」

 

「しかし法国が素直に払うかどうか」

 

 うーむ、と考え込む一同。

 ゲヘナ作戦で貴族派閥の貴族がごっそり消えたことで、会議の場は王派閥が圧倒的に多数派だ。バルブロの意見は通りにくい。

 

「……チッ」

 

 バルブロ王子は歯がゆく思った。法国から徴税するよりナザリックから財宝を奪うほうが、強い武器とか得られそうだと思ったからだ。バルブロの頭では、面積が小さい=勢力として弱い=ゴリ押しすれば奪えるものが多い、という方程式が働いている。暴力しか取り柄がないバルブロは、その「暴」をさらに高めるものに興味津々である。

 だが、封建制度において兵士を出すのは貴族たちである。ゴリ押しするための兵力は貴族に借りるしかないが、ろくに賛成する貴族がいない中では、強硬な動きはできない。ボウロロープ侯が生きていれば、と小さく舌打ちするだけだった。

 そこへザナック王子が挙手する。

 

「ひとつ、よろしいか」

 

「どうされましたか、ザナック殿下?」

 

「徴税すれば二面戦争になる可能性、と言ったな。

 しかし二面戦争では済まないのではないか?

 私は三面戦争になると思う」

 

「三面……?」

 

 首を傾げる貴族たち。

 そこへレエブン侯が追従する。

 

「ザナック殿下の仰る通りかと」

 

「レエブン侯……法国以外にも敵に回す勢力が?」

 

「神の軍勢です。直接的に敵対するわけではないかもしれませんが。

 神の使徒、冒険者モモンとナーベ。この2人に王国は、2度救われております。

 ヤルダバオトの一件と、ザイトルクワエの一件ですな。

 そのように恩義を受けておきながら徴税をと言い出すのは、不義理がすぎるのではないか……と、法国はそのように反論してくるでしょう。

 それに対してこちらの論拠は、王国税法と立地のみ。『モモンらが冒険者として勝手にやったことだ』という主張を加えても、道義的な根拠にはなりません。

 法律は公共の福祉に適するように運用してこそ陛下の御威光が示せるというもの。それを法律を笠にきて道義を踏みにじるというのでは、陛下の御威光に傷がつきましょう」

 

 いかに王権が強かろうと、民心がすっかり離れてしまえば反乱あるのみ。

 そこに「我らが神の敵対者」という油を注いでしまったら、反乱の火はますます激しく燃え上がることになる。殉教とか聖戦とかに熱狂した人間は、不利になろうが敗北が確定しようが文字通り最後の1人まで徹底抗戦をやめない。島原の乱などは最たるものだ。

 

「なるほど、もっともだ。

 よく言ってくれた、レエブン侯」

 

 ランポッサが我が意を得たりとばかりに称賛する。

 レエブン侯は軽く会釈するにとどめ、さらに続けた。

 

「さらに言えば、何もない草原地帯にポツンと存在する遺跡ひとつ。何の生産性もございません。これから財貨を得るにしても、信者からの寄付が中心になり、さしたる利益はないかと」

 

 神の居城なんて言っても、所詮は移動できない拠点である。そこへ訪れることができる信者は、近隣の住民に限られる。公共交通機関なんてものは発達していないので当然だ。つまり信者から集まるお金は、たいした規模ではない。

 各地に出かけて寄付を募る可能性はあるが、そういう事をするには動き方が下手すぎる。あちこちで活動してみせ、フットワークは軽いが、逆に「軽すぎる」のだ。平民が寄付をするために集まる暇もないほどに。

 

「そうなると、いかに財宝を抱えていようと、その量は有限であるはず。

 奪えばそれまでです」

 

 総量はここまで、と示すような身振りを交えて、レエブン侯が言う。

 しかし――と続けた。

 

「一方で、徴税に反発した神が、あるいは使徒の2人が、他国へ拠点を移すという事になった場合、その損失は計り知れません。

 神の本拠地がある国というだけで法国から継続的にいくらでも援助を引き出せるでしょうし、帝国もエ・ランテルを狙うのは非常にリスクが高くなります。この利益は、将来にわたって無限に得られるものですから、限りある徴税と引き換えにするには大きすぎるでしょう。

 もしも神の機嫌を損ねれば神の軍勢と法国を同時に敵に回すことになりかねず、また当然我が国も国土防衛の観点から当事者であり……徴税しないだけで、帝国は三面戦争になります」

 

 つまり徴税すれば「神の軍勢」をも敵に回しての三面戦争になりかねない。

 ザナック王子の言葉を理解して、貴族たちが青ざめる。

 2つの国を救った「非常に身軽に動ける」「強力無比な」神の軍勢。

 仮に王国が安定していて今すぐ出撃可能だとしても、自分たちに同じ事ができるわけもない。毎年帝国との戦争を繰り返しているだけに、ある程度は現実が見えている。仮に救援の軍を派遣し、首尾よく両国を救えたとしても、かなりの犠牲を払うことになっただろう。

 神の軍勢はその犠牲を払わずに済ませるだけの強さがあるということ。それが単純に強いからなのか、何らかのトリックを実施する能力があるからなのか、それは問題ではない。実現できるという事そのものが問題だ。トリックだとしても、そのトリックを自分たちに向かって使われたら……という事である。

 そんなものは問題にならない、と強がれるのは、トリックを見破ってからだ。そして種も仕掛けもない純粋な実力なのだから、見破るべきトリックなど存在しない。

 

「となると、今年から帝国との戦争は様変わりする事になるな」

 

 誰かが言った。

 全員が押し黙る。

 王国・法国・神の軍勢。

 今年の戦争、帝国は圧倒的に不利だ。

 しかし関わる勢力が多いという事は、仮に帝国を完膚なきまでに叩きのめし、降伏させたとしても、その利益は3勢力で配分しなければならない。

 加えて王国には今、貴族が足りない。配分が多ければ多いほど、領主不足で困ることになる。

 そして神の軍勢が加わるとすれば、おそらく法国はその配分を神の軍勢に明け渡すだろう。つまり王国は派兵しただけ損失になり、帝国はまるごと神の軍勢の支配下に納まるということになる。

 来年から戦争がなくなるというメリットは大きいが、せっかく参戦しても得るものが無いというのは……。

 良くも悪くも、今年の戦争は変わるだろう。

 

「お父様。少しよろしいかしら?」

 

「おお、ラナー。どうしたのだ?」

 

「ガゼフ戦士長が以前カルネ村で法国勢力から襲われたときに助けてくれた方というのは、アインズ・ウール・ゴウン様ではなかったかしら?

 今のうちにガゼフ戦士長を使者として、ナザリック地下大墳墓へ送ってみるのはいかがでしょうか? 万が一同じ方でなかったとしても、仲良くしておくことに損はありませんよね」

 

「そうだった」

 

「それがいい」

 

「よし、そうしよう」

 

 失敗したらガゼフのせい。

 反対する理由がない貴族たちは、満場一致で賛成した。

 ここで反対と言えるならランポッサではない。そもそも反対する理由がない。

 

「父上、お待ちを。

 使者ならばこのバルブロが見事、務め上げてご覧にいれましょう」

 

 それは功績を焦るがゆえの言葉だった。

 後ろ盾だった貴族派閥の貴族たちを失って、次の王に推す貴族も少ない。

 チャンスがあれば功績を積まなくては。

 自分は次の王になる男なのだから。

 

「バルブロ……お前がか……」

 

 うーん、と考え込むランポッサ。

 子供に甘いランポッサも、それぞれの得意・不得意は把握している。

 バルブロは交渉に向かない。

 

「バルブロ殿下は、カルネ村の調査に向かうほうがよろしいのでは?」

 

 レエブン侯が言った。

 

「どういう意味だ?」

 

「カルネ村でガゼフ戦士長はアインズなにがしと接触しているわけです。その縁でもって使者に送ろうというわけですから、ガゼフ戦士長以外には務まりますまい。

 一方で、カルネ村がアインズなにがしと接触してどうなったか……滅亡を免れた彼らは、間に合わなかった戦士団よりも、自分たちを救ってくれたアインズなにがしを頼りにしているはず……平民というのは即物的ですからな。

 しかし、これは非常に具合が悪い。王国への帰属意識が薄れ、アインズなにがしの支配を受け入れるという事になりかねません。そこで、バルブロ殿下……第1王子が慰問に向かうことで、王国への帰属意識を改めて確認させようという事です。

 この慰問には『王国はお前たちを大切に思っているぞ』というメッセージが伝わることが肝要ですが、国王陛下では格式が高すぎます。かといって、第2王子であるザナック殿下では残念ながら……バルブロ王子の『次の王である』という立場こそが、適切かと」

 

「なるほど。よかろう」

 

 第1王子、次の王、と持ち上げられて気を良くしたバルブロ王子は、カルネ村へ向かった。

 そして原作通りにアホなことをして村人たちに反発され、エンリ大将軍が爆誕した挙句、人の破滅を見るのが大好きなルプスレギナに「アインズ様の実験場に手を出そうなんて不敬っす」とぶち殺されたのである。

 その報告をうけて俺はこう思った。

 プ〇ウスミサイルかよ。

 さすがにそこまでフィリップしてる奴のことは庇いきれない。いや今回の場合はレメディオスしているというべきだろうか。とにかく付ける薬がない。最高にバルブロしている。

 

「では使者の件は、謹んで承ります」

 

 そしてガゼフは使者を引き受けた。

 実はアインズ様から何くれと無く支援してもらって、すでにかなり誼を通じているのだが、これまで個人的な事だからと報告せずに居たあげく、受けた恩が大きくなりすぎて恩を返す方法がなく、言い出せなくなっていたガゼフは、この機会に少しでもアインズ様の利益になればと思った。

 そしてラナーはそんなガゼフの動向をバッチリ把握していた。

 

「無事に友誼を結べた場合に備えて、何か贈り物をする用意があると良いのではないでしょうか?

 逆にもし嫌われてしまった場合、その用意はそのまま対抗手段になるでしょうし」

 

 嫌われたら対抗手段なんて無意味だし、ガゼフは嫌われないだろう、とラナーは承知しているが、そこまでは言わなかった。

 貴族たちからすると、敵対した場合の備えとなれば手は抜けない。

 しかし実際には、それがそのまま贈り物になるのだから、ガゼフは一気に恩を返すことができる。

 この動きがラナーによるものだという事を、ナザリックは把握するだろう。選ばれなかったラナーは、それでも保身のために地味なアピールを続ける。あの連中を怒らせてはならない。王国もろともプチっと潰されかねないのだから。

 

「それは良いですな。

 今後も神から援助を受けることを期待でき、他国に神との友誼をアピールできる。さらに『神にお供え物をした』と主張できて法国への牽制にもなります」

 

「レエブン侯も賛成か。

 他に意見は? ……では、その方向で用意しよう」

 

 

 ◇

 

 

 そうして両国は、ナザリック地下大墳墓を「同時に」訪れることになった。

 実直なガゼフは帝国への牽制などという外向的なことは考えられないが、すでに誼を通じているアドバンテージがある。

 アインズ様はすでにガゼフとそれなりに親しくなっているが、一方でジルクニフとは初対面だ。保護対象のひとつである帝国を敵視するつもりはないが、骨しかない顔でそのことはジルクニフには伝わらない。

 会談の場は、ジルクニフの独り相撲になった。敵対的な関係を何とかしなければ、とジルクニフは必死に探りを入れながら関係を調整しようと試みる。この世界線でもジルクニフにはハゲる未来しか用意されていなかった。残念。

 

「……ふむ。この地を『聖域』として指定する、か。

 デミウルゴス。どう考える?」

 

 ジルクニフの行動は「遠隔視の鏡」でアインズ様といっしょに確認済みだ。

 ジルクニフの行動に対して「今のは支配者らしい感じですね」とか言えば、アインズ様は「ふむ、こうか?」とマネしてくださる。ノリノリだ。

 そして、どう対応するかも話し合ってある。

 

「良い案だと思います。

 それぞれが、それぞれの『理由』をつけて『要求』してくる現状、もしお互いに争い合いながら応援を要請されますと、どちらか一方を助ければ角が立つのはもちろん、両方を助けた場合や両方とも助けない場合には、被害甚大となり全生命の保護・環境保護という方向から外れます。

 しかしここで不可侵の聖域と定めておくことで、ナザリック地下大墳墓は国際的に独立自治領となり、どの国に対しても中立を貫くための根拠が固まります。すると中立の立場から、味方する・しないという方向を超えて、第5の提案ができるようになります」

 

「なるほど」

 

「帝国の狙いは、ナザリックがどちらにも加担しないことで、王国を狙っても神罰を受けない条件を確定させておくことでしょう。

 ですが、ジルクニフ皇帝。あなたの考えは甘い。

 全生命の保護を掲げるアインズ様が、戦争だの侵略だのといった蛮行を許すはずがないでしょう? もし実行したら、どのような結果になるか……今から見せてあげましょう。両国は毎年カッツェ平野で戦っているのでしたね?」

 

 国同士だったら無礼に当たるかもしれないが、ここはあえて高圧的にいく。いずれ王権を授ける神として振る舞う予定だから、このくらいで丁度いいのだ。

 ジルクニフは「見抜かれた!?」と驚くかもしれないが、見ていたのだから当然だ。小さなマッチポンプである。ナザリックのお家芸だ。

 そういうわけで、ガゼフとジルクニフを連れてカッツェ平野に移動。

 シャルティアのゲートで移動は一瞬だ。別にアインズ様がゲートを使ってもいいが、そこは格式というものがある。

 さて、カッツェ平野。ほぼ一年中霧が立ち込め、多数のアンデッドが徘徊するこの場所は、アインズ様の一撃で地獄に変わる。

 

「天地改変」

 

 現れたのは溶岩地帯。

 高熱による上昇気流で霧は消え去り、アンデッドはスポーンした端から溶岩に落ちて燃え尽きる。

 馬車1台がどうにかすれ違える程度の道幅だけ残して、あとは煮えたぎる溶岩湖だ。交易程度なら可能だが行軍は不可能。そしてその赤熱した溶岩は、夜でも周囲を照らすだろう。

 

「これなら人間が戦争などできまい。

 アンデッドが増える心配もないし、霧も出ない。

 私の魔法で整えたこの場所は勢いよく噴火することはないから、両国とも交易経路や観光資源として利用するがよい。戦争などするより、そのほうがよほど建設的だ。

 ジルクニフ皇帝。国を富ませるというのは、なにも周囲から奪うばかりが能ではない。よいな?」

 

 物理的に軍隊が踏破できない環境にされては、攻め込むもクソもない。

 ジルクニフは平和裏に使用された恐るべき魔法の威力に恐れおののきながら、頭を垂れるしかなかった。

 この世界線でもジルクニフの企みはものすごい角度から破壊される。だってアインズ様だからね。しょうがないね。常識とか通用しないんだもん、モウヤダー。ジルクニフ涙目である。

 

 

 ◇

 

 

「わはは! うまくいったな! 戦争を止めたぞ。しかも恒久的にだ。

 まあ、両国が仲良くしてくれるかは分からんが……それは私の考えることではないしな」

 

「おめでとうございます、アインズ様」

 

「うむ、デミウルゴス。お前のおかげだ」

 

「たっち・みー様もお喜びになるかと」

 

「セバス。そうだろう、そうだろう。きっとたっちさんもニッコリだ」

 

「ン~父上っ! これで両国に父上の名が売れました。

 遠からず! お二方のお耳にも届くはず! このナザリックに……いえ、父上のもとに、お戻りになる時は近いでしょうっ」

 

「ああ、待ち遠しいな。実に待ち遠しい」




たっち・みー様とウルベルト様は、異形種であることを隠すために、それぞれ対策をとっており、帝国の捜索は空振りに終わりました。
魔法かスキルかアイテムか……いずれにせよレベル100、ワールドチャンピオンとワールドディザスターまで獲得した超上澄みのプレイヤーがおこなう偽装を見破るのは、現地人が使える通常の手段では不可能でしょう。なんかそういうタレントでも持っていない限りは。

フルト夫妻に何が起きたか?
ウルベルト様は何もしていません。たっち・みー様が普通にお話されました。
しかしフルト夫妻があまりに身勝手なことを言うので、たっち・みー様はほんのちょっぴりイラッとしました。警察官として様々な「ダメな人たち」を見てきたたっち・みー様はかなりの耐性がありましたので、イラッとしたといっても幼子のワガママを見る親の気持ち程度のものです。
しかしレベル100でワールドチャンピオンのたっち・みー様が「ちょっぴりイラッとする」というのは、実力もないくせに吠えているだけの没落貴族にとってゴジラが「ぎゃおーん」と吠えたのを至近距離で見てしまったような心境です。蟻の王に睨まれたハンター協会の会長どころではありません。その強烈な殺気に晒されて、1発でトラウマになりました。
「たっちさぁ……これはやりすぎじゃねーの?」と呆れるウルベルト様に、何も言い返せないたっち・みー様なのでした。


誤字報告をいただきました。
tino_ue様
ありがとうございます。
カタカナの「ニ」だと見破るとは……すごい。あんた何なんだ。あんたの実力は計り知れん。
すんません。普通に間違えたまま全く気づいていませんでした。逆になんで分かったんだ……。

作者「目ん玉」に石を投げますか?

  • めっちゃ投げる!ふざけんな!
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  • いやいや、投げない投げない
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