あれは嘘だ。
まあエピローグ的なやつですね。
ご笑納ください。
溶岩地帯に改造されたカッツェ平野。
ほぼ一年中、霧に覆われているはずの場所は、溶岩の熱気で上昇気流が発生し、いつもよく晴れているようになった。
その上昇気流に流されて上空へ浮いていった霧は――熱気で「霧」から「水蒸気」に変わって消えたように見えるが、水分そのものが消滅したわけではない。従って上空の冷たい空気に触れると冷やされ、再び結露して霧となる。
気象学的には、地面に触れていないものは「霧」ではなく「雲」と呼ぶわけだが、それはここでは重要な点ではない。
「ぶはぁ! なんて熱気だ! 死ぬかと思った!
ちょっと炎ダメージ入ったぞ!?」
「船長、周りを見てください! 空です!」
「ああん? ……なんじゃこりゃあああ!?」
カッツェ平野の幽霊船。
霧の消失とともに姿を消したそれは、霧の再出現とともに空へ転移していた。
「――ていうのを発見したんだけどさ、モモンガさん、冒険に行こうよ」
「……ペロロンチーノさん、雲の中に突っ込むのって、怖くないですか?」
「飛行機と違って、乱気流で墜落するとか、他の飛行機にぶつかる心配とかは、無いと思って……」
物理的な揚力で飛ぶわけではないから、横風とか乱気流とかの影響で飛行能力そのものが低下するということはないわけだ。思わぬ方向から風の抵抗を受けるので、自由に飛び回るのは少し大変かもしれないが。
「まあ、飛行機はないでしょうけど……え? ぶつかったんですか」
「うん。幽霊船にクリーンヒットしてね。船体の土手っ腹に穴あけちった」
「え……てことは……」
「あいつら、めっちゃ怒って追ってきてる」
「ペロロンチーノぉぉぉ!?」
◇
独自解釈というより、やや捏造設定です。
「モモンガ様、天地改変についてお尋ねしたい事がございます」
「なんだ?」
「ナザリックを含むギルド拠点は、アリアドネによって最奥まで1本道でつながっていなければならないのですよね?
であれば、ギルド拠点に天地改変を使って、溶岩・氷河・水没といった具合にフィールドを変更してしまえば、侵入する前に内部の敵を殲滅して、その後に悠々と制覇できるのでは?」
「それは無理だ。
そうならないようにギルド拠点には何重もの防御を敷いているからな」
「では、そのような防御がない構造物なら可能なのですか?」
「ああ。水没しているダンジョンで天地改変を使って水没していない状態に変更することで、水中装備なしで攻略するとか、水中特化の敵モンスターを楽に倒すといった事は、一時期ダンジョン周回の定石だったな。
天地改変がナーフされる事はなかったが、代わりに構造物のほうが防御済みで実装されるようになって、事実上のナーフだった。それで結局は対応する装備を集めるしかなくて、それ用のガチャを買わされるわけだ。
まったく、クソ運営め」
「なるほど……そうなりますと、カッツェ平野に使った天地改変では、構造物は消去されないわけですね」
「……その言い方だと、ユグドラシル産の構造物があるように聞こえるが?」
「ええ……ねこさま王国のギルド拠点があるとかないとか……」
「原作知識というやつか?」
「すでに荒らされているのか、それともまだ無事なのか……いずれにせよ、溶岩地帯に変更なさった事で、今後はそのまま保存できるかと」
「よし、行くか」
「冒険にですか?
蒐集にですか?
墓守にですか?」
それぞれで、やるべき事が異なる。
冒険なら好きなように動いていただけば良いし、蒐集なら取りこぼしのないように捜索を、墓守ならば逆に手を付けないで記録だけ取る。
ただの事務手続きとして尋ねた俺に、モモンガ様の答えは重たいものだった。
「全部だ。
彼らとは交流があった。荒らされるのも失われるのも惜しい。
それに、多少は『まだこれから転移してくる』という可能性もあるだろう?」
「はい、それはたしかに。
全員が同時に転移したとは限りませんので」
「なら、守ってやらないとな」
王の風格とでもいうのか、背負う覚悟はガンギマリだ。
これこそがモモンガ様の魅力なのだろう。
俺は静かに頭を下げた。
「御心のままに」
◇
「ん~~~……! あー、よくねた」
その目覚めに、待機していたソリュシャンは滂沱の涙を禁じ得なかった。
待ちに待った目覚めだ。
かける言葉を色々と考えていたのに、全部吹き飛んでしまった。そして、当たり前の言葉だけが口を出る。
「おはようございます、ヘロヘロ様」
「おは……あれ? ソリュシャン?」
「はい。ソリュシャン・イプシロンでございます」
「わお……喋ってる。え? 口も動いて……涙? 会話スムーズすぎじゃ……? どういうこと? アプデ入った?」
「ここは異世界でございます。
原因不明の転移現象に巻き込まれ、ヘロヘロ様はこの世界に転移なさいました。
ナザリック地下大墳墓とシモベ一同、およびモモンガ様を筆頭に至高の御方々も――」
「いs……は? え? マジで?」
ヘロヘロ様は大急ぎでメッセージを使われた。
「もしもし、モモンガさん? あ、はい。おはようございます。……じゃなくて、異世界って……え? マジですか……うわぁ……あとで話聞かせてください。はい。一旦切りますね」
つづけて「遠隔視の鏡」を操作なさった。
そして周辺が見知らぬ土地になっていて、NPCとは思えない動きをする現地人たちの、ゲームとは思えないほどリアルな生活の様子をご覧になった。
それからソリュシャンの胸にタッチして18禁行為が可能であることも確認した。アニメ版では盗賊の案内役にポロリしていたソリュシャンが、ここでは少し恥じらったのは、意識の違いゆえだろう。
「……マジか……」
「戸惑われることと存じますが、至高の御方々も居られますし、我らシモベ一同も誠心誠意お支え――」
「やったああああ!」
「あ……え?」
「仕事から解放されて、ナザリックで好きなように過ごせるってことだよね!
とりあえずスパ行こう、スパ! おっふろ! おっふろ! スチームバスしか無いリアルと違って、ここのお風呂はお湯たっぷりだもんね! ひゃっほーう!」
5分後……
「マナーを守らない輩に風呂に入る資格はない!」ズゴゴゴゴ……
「るし★ふぁーめぇぇぇ!」
◇
「愚弟ぇぇぇ!」
ドカーン!
「ぎゃあああ!?
姉ちゃん、なんでいきなり殴るのさ!?」
「聞いたぞ、オマエ! ワイバーンライダーの部族で女の子口説きまくってたって!?」
「いいじゃん、別に! ただモテただけだよ? 何が悪いのさ!」
「ふんっ!」
「ぎゃふんぬす!」
「人生引き受ける覚悟もないくせに! この! この! 愚弟が!」
「ぎゃあああ! モモンガさん助けてー!」
「ははは。いつもの光景だぁ。うわ~懐かしいな~。泣けてくる~。……骸骨だから涙腺ないけど」
「あっ、はい……」
「ずっとインできなくてゴメンナサイ……」
「いいんですよ~。うふふ……もっとやってください。どうぞどうぞ」
「うぐう……あの笑顔が痛々しい……骨だから表情ないけど」
「モモンガさん……ずっと1人でナザリックを守ってくれてたなんて……」
「うう……申し訳ない……申し訳ないよぅ……」
「愚弟……お前にも『申し訳ない』って概念があったのか……」
「ちょ、姉ちゃん!? そこでそっち行く!?」
「モモンガさんには申し訳ないと思うのに、なんで女の子たちには申し訳ないと思わないんだ、この愚弟め! 他人の人生変えちゃうんだから、やってる事同じだよ!」
「やめ……! ああっ!? HP半分切った! やばい、やばいって! 姉ちゃん! 死ぬ死ぬ死んじゃう!」
「死ね! いっぺん死ね、この愚弟!」
「ひいいい!」
「あっはっはっ! 殺すのは勘弁してあげてください。
ギルメンやシモベの復活は検証できてないので、もしかすると死んだら終わりかもしれません。
六大神だの八欲王だの、過去のプレイヤーは死んでるみたいですし」
「あー……よし、わかった。
回復させてもう1回殴ろう。モモンガさん、ペス呼んで」
「やめて!? HP残っても精神的に死ぬやつ!?」
「あっはっはっ!」
「モモンガさーん! 笑ってないで助けてよー!」
◇
ニューロニストは今日も暇を持て余していた。
「仕事が無いわぁん……」
「邪魔するよ」
「あら、あなたは……ようこそ、真実の部屋へ」
「暇だろう? 君にはすまない事をしたと思ってね」
「いいのよん。モモンガ様がお喜びなのでしょう?」
「ええ。他の至高の御方々にも申し訳が立ちました。
あなたと餓食狐蟲王を犠牲にして、ですが」
「犠牲だなんて思っていないわよん。
私がモモンガ様のお役に立つ時が来たら、それは他の御方々に話せない内容になってしまうものねぇん。
そのあたりは弁えているわよん」
「その通りです。
そしてアルベドやシャルティアのようにワガママを言わない。
あなたは本当に……本当に、良い女ですね」
「あら、やだ。口説いてるつもりかしらん?
お生憎様。私はモモンガ様一筋よん」
「そこも素敵です。
これで外見さえ外の世界に合えば、最も推せる后候補なのですがね」
アルベドのように一途で、シャルティアのようにワガママを言わず、アウラよりも難しい話についていける精神年齢の高さ。
陰口を叩くところがあるのも、社交界を見据えれば悪くない。言い負かされてそのままではナザリックが嘗められるのだから。
こうやって、外見を無視して考えると、非常に理想的な精神だ。
もしも外の世界がニューロニストを美人だと感じる種族にあふれていたなら、最も后に適する人物である。
「そればかりは仕方ないわねぇん。
私はこの姿でお創りいただいたのですものぉん。これが最良でしょう?」
「ええ、それは間違いなく。
その姿だからこそ、特別情報収集官として万全なのでしょう」
「それで? 何か用があるんじゃないのん?」
「あなたと友情を結びに来たというのも重要な用事ですよ。
もうひとつ用事があるのも事実ですがね」
「何をすれば良いのかしらぁん?」
「話が早くて助かります。
もちろん特別情報収集です。犯罪者に対する、捜査のための情報収集ですね。記憶操作を使えば簡単ですが、魔力の消費が多く、数をこなすには向きません。
そこで、あなたの出番です。といっても、実際に拷問するのではなく、似たような刺激を与えて脅かす程度ですが」
「似たような刺激?」
「人間というのは神経が脆弱で、限界を超えた刺激は通常と逆転した反応を示します。怒りや悲しみがすぎると笑いだし、愉快でも笑いすぎると苦しむという具合にね。
それで、たとえば熱した鉄の棒を押し当てると、最初は冷たいと感じるのですが、ご存じですか?」
「いいえ? そうなのん?」
「嘘です。いえ、知らないというのが正しいですね。
でも、そう言って氷でも押し当ててやれば、かなり脅せるでしょう? 後ろでステーキでも焼きながら音を聞かせてやると、いっそう効果的でしょう」
「なるほどねん。
それにしても、犯罪捜査なんて始めることにしたのん?」
「ほんのお遊びですよ。ウルベルト様にご提案する遊戯です」
ダークヒーロー的な在り方をなさっているので、暇つぶし程度に遊んでいただけるだろう。
あまりやりすぎて現地の当局を困らせてはいけないが。
「ああ、なるほど。いいわよん。暇も潰せて御方にお喜びいただける。いい話だわぁん。
噂通り、あなた、やるわねぇん」
「お褒めにあずかり光栄です。
いずれ、ピッキーのバーでご一緒しましょう」
杯を傾ける仕草をすると、ニューロニストは頷いた。
「楽しみにしてるわよん」
◇
「お邪魔します、デミウルゴス様」
「あなたですか……」
苦い顔をされた。
攻撃する意思こそ無いものの、俺に対する苦手意識のようなものが根付いてしまったらしい。
セバスみたいなものだろうか。
「できれば仲良くなりたいと思いまして」
「私の肉体で好き勝手して、何を今さら……」
「まったくその通りで、返す言葉もありません。
ただ、御方々のために――その点だけは、デミウルゴス様と一致するかと」
「腹立たしい事に、全くその通りです。
しかも私より……私たちより、正確に御方々のご意思を読み取っている。
ナザリックで作られていないあなたが……!
屈辱ですよ。あなたが存在するだけで、我々シモベは一段劣った存在になってしまうのですから」
「デミウルゴス様、それは違うと思います」
「どう違うと?」
「理解とは、知ることから始まります。
きっと相手はこうだろう、と決めつけて見る間は、まだ『知る力』が足りません。いえ、『知る姿勢ができていない』と言うべきでしょうか。
私はナザリックで作られていないからこそ、御方々を自分より優れた存在だと思っていないのです」
「不敬な……」
「ええ。ですが、憧れは理解から最も遠い感情です。
そして、レベル1の私が、レベル100の御方々に敵うはずもありません。
分かりますか?
たとえば直接戦闘では守護者最弱のデミウルゴス様は、1対1では守護者最強のシャルティア様よりも劣った存在なのでしょうか? 武器攻撃で最強のコキュートス様よりも劣った存在なのでしょうか? 防御力最強のアルベド様よりも劣った存在なのでしょうか?
私は違うと思います」
「言いたいことは分かったよ。
君は先入観がないのだね。それに多角的に見ている」
「はい。いえ、先入観を捨てて物事を見ようと努力しているだけです。
忠誠を尽くすべき相手、創造主……そのようなフィルターをお持ちでいらっしゃる守護者の皆様には、少し難しいかもしれませんが、成長できるはずですから、不可能ではないと思います」
「たしかに君は忠誠を尽くしてきた。
……なぜかね? ナザリックで作られていない君が」
守護者は御方々を理解できるようになる、から、俺が忠誠を尽くしてきた、では「たしかに」という接続が成り立たない。
会話がいくつか飛んだようだ。なんという頭の良い話だろう。
「忠誠とは、従う心ではなく、慕う心からこそ本物が生まれるかと」
「我々は慕っていないとでも?」
「いいえ。ですが、混同なさっているのではないかと思います。慕っていない状態で従うというのが、どういうものか分からないのでは? だからこそ、従わずに慕うという事も理解できないのだと思います。
その点、私は慕っていない状態から始まって、慕うようになりましたから」
「……参考にさせてもらうよ」
「ええ。御方々のお役に立つために……いえ、御方々にお喜びいただくために、是非そうなさってください」
「それが『従う』と『慕う』の最たる違いだろうね」
理解が早い。
俺は黙って頭を下げた。
出来るかどうかは、シモベたちの努力次第だ。
こんなところで、今度こそ終わり――
――と思ったのですが、ありがたい事に、続きを書けと言ってくださる方々がいらっしゃるので、目ん玉の文章力ていどでよろしければ、思いつき次第書こうと思います。
つきましては、誰と誰の会話が見たいとか、どんな場面が見たいとか、感想にでも書いていただければ幸いです。←ガイドライン違反でした。活動報告にでも書いていただければ幸いです。とりあえず活動報告書かなきゃ……。
ただしご要望いただいたものを必ず書くとはお約束できません。
それと、目ん玉は筆が遅いので、原作のない部分を作るのは難しく、毎日更新は無理だと思います。そこもご理解いただけますと幸いです。
石を投げるアンケートを前話で終了しました。
代わりに別のアンケートを今回は入れてあります。
目ん玉は、あらすじ欄は小説の商品説明だと思っているので、こだわりの製法を書くならここしかないと思っていますし、作者のプライドとして証明できなくてもAI使用疑惑は否定しておきたいのですが、そこに書くことじゃないという評価をいただきました。目ん玉の感覚で言うと、これは「商品説明欄に商品説明を書くな」という意味の分からない主張なのですが、ハーメルンの文化に合わないのでしょうか?
無視でもいいかなと思っていましたが、よくよく考えるとわざわざ評価を入れてまで主張するのは相当つよいこだわりを持って言っていることではないかと思い至りまして、確認を取らせていただこうと思った次第です。
あらすじにAI不使用の説明があるのは気に入らない?
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気に入らない
-
別にええやろ