デミウルゴスに憑依した一般読者   作:目ん玉

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感想にいただいていたアレコレを書いてみました。
ご笑納ください。


ショートショート詰め合わせ その3

フールーダと教授の魔法談義

 帝国魔法省――

 フールーダ・パラダインには、2つの悩みがあった。

 1つは、師匠を持てないこと。独学で第6位階まで修得した天才だが、第7位階に到達するより先に寿命が来てしまいそうだ。寿命より早く魔法を……そのためには上達速度を高める必要がある。だからこそ師匠だ。しかし世界一の魔術師に魔法を教える師匠など居るはずもなく……。

 もう1つは、弟子が育たない。師匠が無理なら研究する時間がほしい。そのためには皇帝の要望を聞く身代わりが必要だ。第3位階程度ならフールーダより早く修得する弟子がいて、なんて羨ましい奴だ差分の寿命を儂に寄越して死んでしまえと思うほどだが、どいつもこいつも第6どころか第5位階にも届かないうちに死んでしまう。本当に死んでどうするバカめ。

 ところが状況は突如として変わった。

 死獣天朱雀と名乗る人物――肌を一切露出しないので、声から「そこそこの年齢の男性」とだけ分かる正体不明の人物だが。

 この男、魔法の根源に関する知識が非常に豊富なのだ。

 

「燃焼とは、物質が支燃物と激しく反応し、熱や光を発生させる化学反応です。この熱と光がまさに炎ですね。支燃物とは酸素を指すことがほとんどですが例外もあり、たとえばテルミット反応の場合には酸素そのものではなく金属酸化物です。そして反応の激しさが一定を超えると、体積の膨張速度が極端になり、大きな音や破壊を発生させます。これが爆発ですね。膨張速度が音速を超えないものは爆燃、音速を超えるものは爆轟と言います。ではファイヤーボールにおいて、燃焼する物質と支燃物は何でしょう? 魔力が燃えるのでしょうか? それとも空気中の物質を燃やす支燃物として魔力が作用するのでしょうか? これを確かめる実験として、閉鎖空間にファイヤーボールを撃ち込み、そこへ火のついたロウソクや松明を入れてみます。火が消えた場合は酸素が消費されて残っていない証拠で、酸素は支燃物ですから魔力が燃焼物質であるという事になります。逆に火が消えない場合は酸素が残っているので、魔力が支燃物であるという事になります。この違いは、たとえば洞窟や屋内でファイヤーボールを使った場合、酸欠になるかどうかという戦術的な差異が――」

 

 大学教授だった死獣天朱雀にとって、この程度のことは基礎知識と言っていい。中学・高校レベルの内容だ。面白くもないので講義は平坦な調子で淀み無くおこなわれる。

 聞いている生徒たちのほうは大変だ。自然哲学と科学はまるで別物。自然哲学のレベルにいる生徒たちにとって、22世紀の科学知識なんて全く知らない概念である。それが読経のように平坦に垂れ流されるのだ。どこが重要なのか判別することさえ困難で、ついていくのがやっと……というより、正直まったくついていけない。にも関わらず、あまりに平坦な調子で続く講義は、非常に眠くなる不思議な魔力を秘めていた。

 

「……むむ……!?」

 

 そこへふらりと通りかかったフールーダは、即座にドアに貼り付いた。

 未知の概念。知識の奔流。喉から手が出るほど欲しかった「導き」そのもの。

 血走った目で聞き入ったかと思うと、転移魔法でしれっと室内に侵入し、何食わぬ顔で生徒に混じって講義を受ける。

 眠気と情報の洪水とで精一杯な生徒たちは、フールーダが現れたことに気づきもしなかった。

 

「――によれば人間の存在とは、魂・霊体・肉体の3つが重なり合って存在する複合体であり、それは魂という本体が、霊体という下着を着て、肉体という上着を着ているような状態と言える。そして宗教等で諸説あるものの、肉体の死後も魂や霊体は残り続けるという点でおおむね一致する。しかし肉体が細胞の集合であり傷を負っても治るように細胞ひとつひとつが生命体といえるから肉体も複合体であると言える。同様に霊体も細かく分類することができ、それぞれの段階でその次元の肉体として作用するものと推測される。そうであるならば肉体が生命の躍動を運動や芸術など様々な形で発露するように、単純に言えば霊体や肉体は魂が何かを表現する媒体に過ぎない。それは神が世界を創り給うたことと構造的に同一であり――」

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「……であるならば……! であるならば、まさか! 魂とは神の一部……!?」

 

 興奮したフールーダがいい感じに合の手を入れてくるので、教授もだんだんノってきた。

 

「そうです。まさに人間こそが神の写し身と言えるでしょう。種族レベルが存在しない理由もそのあたりにあるのではないかと……すなわち万物の存在根源たる神は最も純粋な状態にある世界の幹細胞であり、それ以上付け足す必要がない純粋な『力』そのものであるがゆえ、その端末である人間には種族レベルという付け足す要素が存在しないのでは――」

 

「素晴らしい……! なんという叡智……!」

 

 生徒たちは、時間になったらさっさと席を立っていた。

 なぜか――?

 話がマニアックすぎて、ついていけないからだ。

 さらに話し込んで数時間が過ぎた頃、教室のドアは乱暴に開かれた。

 

「何やってるんですの、あなたたちは!?」

 

 スパコーン!

 フールーダの頭を引っ叩くレイナース。

 顔に受けた呪いを解いてもらった彼女は、それと同時に職業レベルを失って弱体化し、四騎士を降りて教授の手伝いをしていた。

 ……主にブレーキ役として。

 

 

 ◇

 

 

眠っている間のヘロヘロの悪夢

 

 ピピピッ ピピピッ

 目覚まし時計の音がして。

 それを止めたヘロヘロは起き上がる。

 着替えて、部屋を出て、歩きながら栄養ゼリーを流し込む。

 駅。

 満員電車に乗って移動し、異様に蒸し暑い中を耐えて降車。

 改札へ向かう途中に動き出した電車が風を送ってくれることに少しだけ清涼感を覚えて改札を出る。

 そこから記憶が飛ぶ。

 どうやって会社までたどり着いたのか、どんな仕事をどこまでやったのか、まるで覚えていない。とにかく忙しかった。昼食もとれず、休憩返上で働き、トイレに行きたいと思ってもそれを忘れるほど忙殺されて。

 気付けば夜だ。窓の外はすっかり暗くなり、時計の針はもうすぐ真上で重なり合う。

 

「今日も終電か……」

 

 まだ終わってない。

 でも今日はここまでだ。

 残りはきっと明日の自分がなんとかするだろう。

 そう思いたい。

 そう思って、積み重なった仕事が山のようになっているが、できないものは出来ないのだ。

 とにかく、今日はこれで終わり。

 

「やっと帰れる……」

 

 誰も居ないオフィスに別れを告げて、会社を出――

 ピピピッ ピピピッ

 ――目が覚めた。

 

「……くっそ……マジかよ。夢の中で働いて、起きたらまた働くのか……」

 

 働いた夢で疲れた体を引きずって動き出す。

 時計のアラームを止めて、起き上がり、着替えて出かける。

 栄養ゼリーを流し込み、満員電車に乗って、会社に到着し。

 記憶が飛んで、いつの間にか夜になる。

 時計の針はもうすぐ24時だ。

 

「今日も終電か……」

 

 終わっていない仕事は、昨日よりも増えている。

 だが、できないものは出来ない。

 

「やっと帰れる……」

 

 誰も居ないオフィスを後にして――

 ピピピッ ピピピッ

 ――目が覚めた。

 

「……嘘だろ……」

 

 ……ろ……ま……

 ……ヘロ……様……

 ……ヘロヘロ様……

 

「――はっ!? ……ソリュシャン?」

 

「大丈夫ですか? 何やらひどくうなされておいででしたが」

 

「あ、ああ……。

 ……ひどい夢だった……」

 

「では、こちらが本日分の仕事でございます」

 

「は……?」

 

 夢の続きの仕事が、どっさり積み上げられた。

 これも夢か。

 しかし目覚める方法が分からない……。

 

 

 ◇

 

 

たっち・みーとセバスのやり取り(帰還直後)

 

「聞いたよ。デミウルゴスを止めたんだって?」

 

「憑依していた彼を、と言うべきでしょうか。

 お話を聞く限り、本来のデミウルゴスは私の言葉では止まらなかったように思います」

 

「ああ、そうだね。

 しかし、止まった。重要なのはその結果だ。おかげでモモンガさんもナザリックも暴走せずに済んだ」

 

「幸いでした」

 

「もし暴走していたらと思うと……本当に魔王と勇者になったかもしれない」

 

「……それは……」

 

「考えたくもない事だね」

 

「はい、仰るとおりです」

 

「よくやってくれた」

 

 たっち・みーはセバスを抱きしめた。

 

「本当によくやってくれた。

 さすがは私の息子だ」

 

「……畏れ入ります。

 あまりに嬉しく……言葉もありません」

 

 セバスは男泣きに泣いた。

 

「あら」「まあ」「うふふ」

 

 腐女子が3人、これを目撃してしまった。

 ぶくぶく茶釜、やまいこ、餡ころもっちもち。

 揃いも揃って、カマボコみたいな目をしてニヤニヤしているではないか。

 

「たっちさんから行ったわ」

 

「たっちさんが攻め、セバスが受けってことね」

 

「意外と途中から逆転する可能性も……」

 

「あ~、ね。外見年齢からするとセバスのほうが上だし」

 

「言われてみれば、経験豊富そうな感じかも?」

 

 たっち・みーとセバスは顔を青くした。

 このままでは薄い本でも作られかねない勢いだ。

 

「ま、待ってください、3人とも! これは違いますから!」

 

「そうですとも! 冗談ではございません!」

 

「慌てるところが~……?」

 

「ますます怪しい~……?」

 

「みたいな~……?」

 

「勘弁してください! いや、ほんとに! マジで!」

 

「どうかお許しを! 私にはまだ早すぎる世界です!」

 

 その後、誤解を解くのに30分かかった。

 すっかりヘトヘトである。ヘロヘロではない。かろうじて。

 

 

 ◇

 

 

評議国での3人回収

 3人で集まったまま変容が進んだせいか、だいぶ腐女子になっていた。

 

「助けに来たぞー!」

 

 テンション高くやってきたモモンガ、ウルベルト、たっち・みー。

 しかし、ぶくぶく茶釜、やまいこ、餡ころもっちもちは気付かず、ひたすら討論していた。

 

「やっぱりウル×たちよ。日頃の言い争いはだいたいウルベルトさんから仕掛けるじゃない」

 

「何言ってるの? そこはたち×ウルでしょ。日頃の鬱憤がたまって、たっちさんからってのが萌えるんじゃない」

 

「あなた達、間違ってるわ。モモ×たちこそ正義よ。たっちさんに憧れるモモンガさん。憧れがエスカレートして……うふふふ……」

 

「たち×モモの間違いでしょ? たっちさんから迫られるモモンガさん。憧れに迫られて無いはずの心臓がトゥンクするのよ」

 

「私としてはモモ×ウルも捨てがたいわ。あの2人って意外と話が合うのよね」

 

「そこはウル×モモのほうがいいって。悪乗りはウルベルトさんの専売特許みたいなとこあるじゃない」

 

「意外とペロロン……」

 

「「それはない」」

 

「だよねー。ペロさんじゃ萌えないし」

 

「分かってるなら言わないでよ」

 

「あ~あ、興ざめー」

 

 掛け算の前と後ろで激論を飛ばし合っている。

 少し離れたところで、ツアーがとても困った顔をしていた。

 

「聞いたことない名前ばかりで誰の事だか分からないけど、4人とも男性だというのは分かったよ……」

 

 でかいため息をつくツアー。

 場合によってはこの巨大トカゲ野郎を討伐して――などと身構えていたモモンガたちは、毒気も戦意もやる気も元気も何もかもすっかり失った。

 

「「…………」」

 

 そーっと後ずさって、静かにゲートの中へ消えていく。

 ナザリックに戻った3人は、円卓の間で激しく議論し始めた。

 

「たっち、お前行けよ」

 

「いやですよ、ウルベルトさんが行ってください」

 

「なんだアレ……何なんだアレは……」

 

 覚悟を決めてもう1度。

 その覚悟をするのに、3人は3日かかった。

 そして3日後――

 

「だーかーらー! ウル×たちが良いんだってばー!」

 

「なんでよー! たち×モモのほうが良いってー!」

 

「ウル×モモ! 絶対ウル×モモだってばー!」

 

 相変わらず以上に言い争うぶくぶく茶釜たち。

 そこに現れるモモンガたち。

 

「うわ……激化してる……」

 

 モモンガたちはげんなりした。

 今からこいつらを連れ帰るのか……。

 しかし、もっとげんなりした声が響いた。

 

「あー……君たち、彼女たちの仲間かい? 早めに引き取ってくれると嬉しいんだけど」

 

 ツアーである。

 聞かされ続けたのだ。無理もない。

 しかも3人は飲食不要・疲労無効・睡眠無効の装備で休まず言い争い続けていた。

 さすがの竜王も精神力を著しく消耗し、SAN値がゴリゴリ削られていたのである。

 

「あっ、はい。ご迷惑おかけしました」

 

 反射的に謝ってしまったのは、人間としての倫理観や道徳観ゆえだろうか。

 とにかくこうしてツアーとのファーストコンタクトは意外なほど平和に済んだ。

 ……いや、これを「平和」と言って良いのだろうか……?




ネタ募集の活動報告を書きましたので、ご要望はそちらへお願いします。
毎日更新は難しいと思いますがご容赦ください。

誤字報告を頂きました。
ねぎま全盛期の大トロ様 Luxion様 佐藤東沙様
ありがとうございます。
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