一般メイドと「中の人」
俺は新しい肉体を得た。ホムンクルス。レベル1。
一般メイドと同じ種族、同じ強さである。
そしてホムンクルスという種族は、種族特性で食事量が多い。
「うンまァ~い!」
シホウツ・トキツの料理の腕前なのだろうか?
ナザリックの食材の品質なのだろうか?
とにかく経験したことがないほど美味い。
形のない栄養剤みたいなディストピア飯しか存在しなかったというリアルと違って、俺の前世は普通に飽食の時代だったにも関わらず。
「うふふ……美味しいですよね」
「あ、これはどうも。
騒々しくて申し訳ない。あまりに美味しいのでつい……」
一般メイドの1人が話しかけてきた。
長い金髪をストレートにしていて、メガネはかけていない。
この顔は……シクススだったかな?
「わかります。
何を食べてるんですか?」
「水です」
答えると、シクススが宇宙猫になった。
「……………………水?」
「はい、水です」
「水でそんなに感動を……?」
「消毒された水道水とは違う味わいですね。
癖のない単調な味は、それはそれで好きなのですが。
この芳醇な味わいは格別です。鉱物の味わい、土壌の風味、植物の香りまで豊かに感じられるような気がします。まるでワインのように味わい深い。
さすがはナザリック地下大墳墓。至高の御方々が本拠地。水ひとつでも半端ない味わいです」
ひとしきり感動したところで、さらなる気づきを得た。
「……このような水を使った料理とは、いったい……?」
「ふふふ……美味しいですよ」
俺はごくりとつばを飲み込んだ。
バイキング方式なので自由に食べて良いことになっているのだが。
「今日は水だけにしておきます」
「え?」
「覚悟が出来ていません。
こんな美味しいものを食べるなんて……覚悟がなければ気絶してしまいそうです」
俺は大真面目に言ったのに、シクススや周りの一般メイドたちには大笑いされた。
君たちは、こんな美味しいもの食べていて、よく平気だね?
ドリンクだけならピッキーのバーに何度か、デミウルゴスの体で訪れたが。あれはデミウルゴスに美味耐性か何かあったから耐えられたに違いない。
◇
ある日、ユリ・アルファが俺のもとを訪れた。
「手を貸してください、デミえもんさん」
「ユリさん……その呼び方は勘弁してもらえませんか」
「手を貸してください。お願いします」
「ええ、はい。どうしましたか?」
「ルプーのことです」
「ルプスレギナさんが、また何かやらかしましたか?」
「はい。あの性格をなんとかする方法はないものかと」
「うーん……他者の破滅を見て喜ぶ性格ですからね。
とりわけ希望にすがって、もう少しで助かるという時に破滅するのが大好きでいらっしゃる」
「ええ。そのせいで、あちこちに迷惑をかけているのです」
「万事つつがなく進行するのがお好きなユリさんとしては、気に入らないわけですね」
「その言い方は、少し……」
「ええ、あえて棘のある言い方をさせていただきました。
つまりユリさんがルプスレギナさんに不満を持つのと同じように、ルプスレギナさんもユリさんに『なんでそうも細かいことを口うるさく言われなくてはならないのか』と思っていることでしょう。
では、ルプスレギナさんは、どこで線を引いていると思いますか?」
「線?」
「ここまではやって良し、これ以上はダメ、という線です」
「……考えたこともありませんでした。
あの子の線……?」
「非常に極端な例をあげれば、ルプスレギナさんはナザリックを破滅させて喜ぶ人物でしょうか?」
「いえ、それはさすがに……」
「違うでしょうね。つまりナザリックの破滅は『やってはいけないこと』に分類されるわけです。
では、ナザリックが破滅するとまでは行かなくても、何かしら損害を与えることは?」
「それも無いかと」
「ナザリックのシモベたちが業務の続行は困難であると判断するレベルのことは?」
「……それも……そこまでは……」
「そうですね。
つまり実害は出ないレベルに抑えている。そこが『線』だと思います。
彼女のいたずらの結果、驚いて一瞬手が止まるとか、少しだけ面倒が増えるとか、せいぜいその程度でしょう。
要するに彼女は『かくあれ』と創造されているわけです」
「う……」
「至高の御方がそうお決めになったことを、シモベが勝手に変更するというのは、いかがなものでしょう。
とはいえ、それはユリさんにも当てはまることです。ルプスレギナさんを何とかしなければと奔走することも、御方によって『かくあれ』と定められている事であるはず」
「…………」
「そもそもチームワークというのは、具体的な行動にまで落とし込んで見れば、ほんの少し周りの人のために場を整えておいてあげる事。それだけです。まさにユリさんは、そういうふうに創られていますよね?」
「ええ……」
「ではルプスレギナさんは、チームワークに貢献しないのかといえば、それは違うでしょう。至高の御方々のために日々働くことは、緊張の連続です。とりわけ御方々がお戻りになりつつある今は、ますます緊張が高まっていきますからね。いっぱいいっぱいになって余裕を失うと、普段できる事まで出来なくなりますから……ルプスレギナさんの出番は、そういう場面で緊張を解すことではないでしょうか」
「もう少しルプーを許さなくてはいけないと……」
「精神的には、そうですね。
ただ、態度を改める必要はないかと。
先ほども申しました通り『かくあれ』と創られているのですから、現状維持こそが御方々の理想なのかもしれません。ただ、御方はシモベの成長も望んでおられますので……うーん、なんと言ったらいいのか……」
「御方々の定められた通りに存在しつつ、成長もしなければならない……?」
「ええ。つまりは、そういう事です。
プレアデスはなぜ姉妹なのか。
性質の異なる6人。能力の異なる6人。それぞれ役立つべき場面が異なるから――そして6人の総体として補い合って成果を上げることを期待されているから……という事ではないでしょうか?」
「いつでも動けるように、全員が万全の状態で待機するべき……という事でしょうか」
「ええ。しかも創造主に与えられていない部分を作り出しながら、という事ですね。
能動的現状維持とでも言いましょうか……。
ユリさんは、別にルプスレギナさんのことが嫌いなわけではないのでしょう?」
「それはもちろんです」
「やる事は今まで通り。緩めるルプスレギナさんと、引き締めるユリさん。
しかし心の中では、もう少し余裕を持つこと。それぞれの役割が異なるだけだ、と理解することです。
……さしあたって、このあたりではないでしょうか」
「少し分かったような気がします」
その後、ユリは妹たちへの態度が少しだけ軟化したらしい。
◇
ビルド
「ナザリックの参謀として、あいつに最低限の自衛ができるだけの職業構成を考えてやりたいと思うんですが」
円卓の間。
モモンガは集まったギルメンに相談を持ちかけた。
「あー。たしかホムンクルスの種族レベル1だけでしたっけ」
「方向性は?」
「参謀という点を考えると、指揮官系?」
「ぷにっと萌えさんと同じ系統かな?」
「自衛目的なら戦士系か魔術師系も必要でしょう」
「護衛なしで動くこともないのでは?」
「そしたら戦士系は無しだな」
「魔術師系ならバフも使えますね。神官系もいいかも」
「護衛ありが前提ならテイマーや召喚師ってのも……」
様々な意見が飛び交う。
そこへモモンガはさらなる情報を投げ込んだ。
「もう1つ、重要な情報があります」
「重要な情報?」
「現地人の中に、レベル30程度の忍者がいました」
ティナとティアのことだ。
アダマンタイト級冒険者として出会っている。
だが、彼女らの職業構成は、ユグドラシル的にあり得ない事だった。
「嘘だろ」
「バカな」
「レベル60以上じゃないと無理なはずでは?」
「でも確かに忍者なんです。
そこから推測できることは、現地人は前提職業なしで上位の職業を取れるのではないか、という事なのですが……」
「それを彼にも?」
「彼は現地人じゃないけど?」
「とはいえユグドラシルから来たとも言えない存在ではある」
「実験してみる価値はあるかも……」
「それに関して、もう1つ情報が」
「なんです?」
「現地人は、料理人の職業を持っていなくても料理ができるようです。
つまり職業を得てから職業スキルを覚えるのではなく、職業スキルを実行しているうちに、職業を獲得するという、逆転現象が起きているようなんです。
だから、もしかすると参謀として扱っているうちに、隠し職業が発現するかも」
「「おお~……!」」
プレイヤーにとって、それはロマンのある話だった。
方向性が正反対のために絶対取れない組み合わせが実現できるかもしれないというだけでロマンなのに、新しい職業を発見できるかもしれないというロマンまである。
どう育てるのが良いか。
わざと死んでレベルを下げることで職業を取り直すという方法はあるが、普通の神経でそう何度も耐えられることではない。
結局この議論は、決着を見ないまま終了となった。
◇
武人建御雷、弐式炎雷
「いやぁ、参った参った」
「流石の防御でしたね」
ボロボロになった状態でナザリック地下大墳墓に現れた2人。
地表部分の当番を務めていたナーベラルは、創造主の帰還に喜ぶよりも、そのボロボロの姿に驚き、オロオロするばかりだった。
「お、お、お帰りなさいませ……その御姿はいったい……?」
ひとつ分かることは、ガチ戦闘を好む2人がボロボロになるほどの強敵が存在したということ。
2人が負けるとは思っていないが、口ぶりをよく考えてみると、勝ったとも断定できない。
至高の御方にして愛しい創造主を、これほどボロボロにしたのは、いったい……?
その未知なる敵に激しい怒りを覚えながらも、レベル50前後のプレアデスでは勝てないだろう事に歯噛みする。
御方の仇敵を討つどころか、リベンジマッチの役に立つことさえ出来ない己の弱さを呪うばかりだ。
「おっ! ナーベラルじゃないか」
「弐式さんが創ったんでしたっけ?」
「そうそう。懐かしいな。
ずいぶんご無沙汰しちまって……なんというか……」
「ああ……」
「ナーベラル。モモンガさんは元気か?」
「はい。御方々も順次お戻りになり、日に日にお元気を取り戻しておられます」
「おゥ……」
「居なくなって元気なくなった時期はあった、と……」
武人建御雷と弐式炎雷は、視線を交わした。
そして、ナザリック地下大墳墓に踏み込む。
「「すみませんでしたー!!」」
モモンガの前で土下座する2人。
誠意を伝えるのに、これ以上の方法は知らない。
「あ……え? 何がですか?」
一方のモモンガ。
何を謝っているのか理解できない。
引退したことは頭では理解しているので、余計に「それ以外の理由で謝っている(でも思い当たる理由がない)」と理論を組み立ててしまう。
「ここまで案内してもらう途中にナーベラルから聞いたよ、モモンガさん」
「ずっと1人でナザリックを維持してくれていたって」
「やめちゃってごめん! モモンガさんを1人にするなんて、友達甲斐のない奴でごめん!」
「そのくせ、しれっと戻ってきてごめん! あわせる顔がない! 失墜する天空でも何でも撃ち込んでくれ!」
「待て、建やん。それは俺が死ぬ」
「いっぺん死ぬくらいじゃないと俺の気が済まん」
「それはそう! 畜生め! 戻ってきたのに死ぬしかないな!」
勝手に納得する2人。
モモンガは困り果てた。
「そんなに思い詰めなくても……。
俺は別に怒ってないですし」
「そうなの?」
「なんで?」
「やめるだけの理由があってやめた。それは仕方ないことです。
でも戻ってきてくれた。嬉しいことです。
何も腹を立てる理由なんてありませんよ」
「モ゛モ゛ン゛カ゛さ゛ん゛……!」
「ええ人や! あんたええ人すぎる人や!」
「ちょっとは怒ってくれてもええんやで?」
「そんなニッコリ受け入れられると、俺たち身の置きどころがないぜ」
「あー……じゃあ、とりあえず心臓掌握しときます?」
「「ぜひ!」」
「ちゃんと抵抗してくださいよ?」
抵抗すれば、即死はしないが、朦朧状態になる。
モモンガとしては、それで十分だった。
ダメージを与える理由などない。
「「…………」」
「ちゃんと抵抗してくださいよ!? 死んだら復活できるか未確認なんですからね!?」
「まあまあまあまあ」
「それはそれで。ね?」
「なにが『まあまあ』ですか!? この手で殺して復活できないとか、俺、病みますからね!?」
簡単に許されたくない2人と、既に許しているモモンガの攻防は、もうしばらく続いた。
「ところで、そのボロボロ具合は?」
「天空都市を偵察してきた」
「防御が固くて、ちょっと無理だったけどな」
「……無茶してからに。
まあ、お二人が無事で何よりでした」
感想・活動報告で色々とご要望をいただき、ありがとうございます。
できる範囲でちょこちょこやっていこうと思います。
なぜだか感想が一部消える怪現象が起きています。
新着感想通知があったので開いたら、たしかに感想をいただいている。しかし返信したら一部の感想が表示されない。
こんな状態です。返せてない方、ごめんなさい。
送信した感想をご自分で消しただけなら良いんですが……。