こんな所でよろしいでしょうか?
ご笑納ください。
ネム・エモット。
幼いせいなのか、物事に先入観がない様子の彼女は、モモンガを率直に称賛して、気に入られた。
加えてその姉エンリが、モモンガも知らないゴブリン将軍の角笛の本当の効果を発見。
さらにさらに、エンリに思いを寄せるンフィーレアは祖母とともに紫色のポーションを開発し、ユグドラシル産ポーションの再現に1歩近づいた。
それらの功績を踏まえ――
「君たちをナザリックに……私の家に招待しよう」
モモンガはそのように決めた。
一応、事前に相談したが、ギルメンからの反対意見は出なかった。
「条件を満たさないと加入はできないものの、やまいこさんの妹のあけみさんとかも遊びに来てたし。いいんじゃない?」
「来客は許されてきたからね。今更だね」
「しかも曲者揃いのアインズ・ウール・ゴウンで『和を以て貴しとなす』をナチュラルに実行できるスーパーギルド長のお墨付きですからね。間違いないでしょう」チラッチラッ
「おうコラ、誰が曲者揃いだ、たっち、てめー」
「自覚がないんですか。困った人ですね。
ああ、いえ、犯罪者はみんな自覚がないんでした。覚悟ありで犯罪する人なんて、ほんの一握りですからね」
「かっちーん!
俺に『覚悟がない』と言いやがったな!? それは冗談じゃ済まねーぜ、たっち。
買ったぞ、その喧嘩」
「まあまあまあ。たっちさんから仕掛けるとは珍しいですね。何か悪いことでもありましたか?
ウルベルトさんも、八つ当たりに付き合わせてしまってすみません」
「うっ……すみませんでした。ちょっとリアルのことを思い出して」
「ちっ……しょーがねーな」
「「そういう所だよ、モモンガさん」」
あんた見る目は確かなんだから、とギルメン一同の意見は満場一致だ。
今さら反対する理由はない。
そしてネムがナザリック地下大墳墓に招かれた。
「すごーい!」
目から何かキラキラしたものが出まくっているネムは、大はしゃぎした。
もともと語彙力がないネムの語彙力は、あまりの光景に絶滅していた。
だが無理もない。王城や帝城でも真似できない神々の居城だ。田舎の平民が「すごい」だけでも口に出せた事のほうが、むしろ凄いまである。
エンリやンフィーレアは、言葉を失って呆然としていた。これが普通の反応だ。
なんだこの凄まじい豪華さと完璧なまでの調和は。金ピカでもなければ宝石だらけでゴテゴテしているわけでもない。豪華でありながら落ち着いているのだ。まるでそこにあるのが当然のように、見たこともない高級そうな素材が存在している。きっと自分たちが踏んでいる床でさえ、とてつもない高級素材だろう。なんかもう畏れ多くて、汚さないように浮いていたい。
……と、文章にするなら、こんなところか。
しかし一瞬で湧き上がる膨大な感情――感動に次ぐ感動。言葉として口に出すには、あまりにも間に合わない。受け取った情報量の多さに対して、口に出せる言葉の情報量の少なさよ。この感動をどう表現していいのか分からないまま、案内されて進んだ先でさらなる感動が待ち受けているという事実。莫大な処理を要求されたエンリとンフィーレアの脳みそは、まったく追いつかずにフリーズしていた。
「うわー! 凄い凄い! すごーい!」
ネムだけが、語彙力がないゆえに追いつく。
いや、ネムでも追いつけないというべきか。
言葉だけでは足りず、ネムは走り回った。全身で表現しなければ、体がはちきれそうだ。
「あっ! こら、ネム!」
走り回るネムを止めようとするエンリ。
しかしモモンガは素直な称賛が心地よく、止めるのは惜しいと思った。
「構わないとも。子供は元気が一番だ。
ネム。そんなに凄いかね?」
「凄いです! ここはモモンガ様が創ったんですか?」
「ここは私と私の仲間たちが力を合わせて創ったのだよ。
仲間たちは私と同じく姿がちょっと独特なので、今日は隠れているがね。
君たちをびっくりさせては申し訳ない」
「すごーい! モモンガ様もお仲間の人達もすごーい!」
異形種だから驚かせてはいけない、と姿を隠していたギルメンたち。
しかしネムの反応にキュン死が続出である。
「いや〜ん! かわいい!」
「何あれ? 何この子? 超かわいいんだけど!」
「1個ほしい! むしろ3個ほしい! 愛でる用と布教用と保存用に!」
ピンクの肉棒やら、ずんぐりむっくりの異形やらが飛び出して、ネムを囲んで撫でくりまわす。
ネムは突然のことにキョトンとしたが、すぐにモモンガの仲間たちだと理解した。
「えへへ〜……ありがとうございます」
ニコニコのネム。
空気になったエンリとンフィーレア。あまりの事態に、どう動くべきなのかも分からない。
そんな中、たっち・みーが深いため息をつく。
「はぁ〜……リアルに残してきた妻と子供を思い出すなぁ……」
ネムかわいい。
我が子かわいい。
かわいいつながりで思い出してしまったたっち・みー。
いや、それ以前からだ。ウルベルトに八つ当たりしたのは、それが理由である。
「ああ、たっちさんは妻子がいましたもんね」
心配ですねと気遣うモモンガ。常識人である。
だが、そんなメンバーばかりではない。
「心配する相手がいるなんて贅沢だ! リア充爆発しろ!」
「そうだそうだ! 爆発しろ!」
「モモンガさんもこっち側でしょうが!」
やいのやいの言うギルメンたち。
嫉妬マスクを配布されながら、カップルプレイヤーを狩りまくっていた連中は覚悟が違う。
だが、たっち・みーは乾いた笑いを漏らすだけだった。
「ははは……怒らせて元気づけようとか、みんな気遣いがうまいですね」
「うっ……!」
「だ、ダメだ、今日のたっちは強敵だぞ……」
この騒動に、知らん顔をするギルメンが1人。
ペロロンチーノだ。
彼はそれどころではなかった。
「ネムちゃん、かわいいよ。ネムちゃん」
「愚弟、不審者かお前は」ガスッ
「痛い! 殴ることないのに!」
「たっちさん、こいつです!」
「お巡りさんこの人ですみたいに言うのやめて!?」
◇
帝国魔法省――
「私が第7位階を修得するには、どうすれば良いと思いますかな?」
教授――死獣天朱雀の膨大な知識量に感服したフールーダは、己の技量を高める方法を相談してみることにした。
教授にしてみれば、レベル100になっていない者はすべて初心者である。フールーダの相談は、攻略wikiも見ないで頑張った初心者が、行き詰まって相談しに来たような感覚だった。
「ん~何回か死ぬのが早いですね。
試行錯誤したのが見て取れる寄り道ビルドですから、無駄な職業レベルを削って整理すれば、第7位階には手が届くはず。どうかすると第8位階でも修得できるでしょう。魔法位階上昇で擬似的に第8位階にするとかの方法もありますし。
ただ、実戦経験が足りませんね。レベル不足で第9位階から先は難しいかと」
帝国の重鎮になってしまった事で、逆にカッツェ平野にアンデッド狩りに出かけるようなフットワークの軽さは失ってしまった。
フールーダは歯噛みする。
「なんと……! ぐ、具体的には、どうすれば……?」
「フールーダさんは魔力系魔法詠唱者ですから、使う系統を絞るべきです。
何でもかんでも修得すると器用貧乏になりますから、1つの系統をメインに据えて、それを補強する魔法を選んだり、通用しない場合にどうするか考えるというのが良いでしょう」
「おお……!」
フールーダは、魔力系魔法・精神系魔法・信仰系魔法の3つの系統を修めているが、信仰系魔法は大したものではなく、自ら教育することが出来ないことをジルクニフに謝罪している。無駄が多いというのは、フールーダ自身も感じているところだ。
研鑽を積む時間を稼ぐために3つの系統を複合した儀式魔法で寿命を伸ばしているが、そのせいで逆に自分の限界を低くしてしまった。なんという残念ジジイ。魔法の腕を磨こうとすると、やる事なす事いちいち誰得である。
「あなたは……あなたのその眼力は、いったい……!?
もしや、第9位階やそれ以上の魔法を修得しておられるのでは!?」
「ええ、まあ……」
教授は、強さに関する情報が少ないものの、精神系魔法詠唱者のオンミョウジを修得していて、魔法による幅広い対応を得意とする。
「師よ!」
フールーダは突然ガバっと土下座した。
目は爛々と輝き、顔には狂気の表情が宿っている。
「全て! そう、私の持つ全てを御身に支払います! 深淵の主! いと深き御方!
どうか私に魔法の深淵を覗かせていただきたい! どうか! どうか……!」
自分より上の位階を習得している。
それはもうフールーダにとって、千載一遇のチャンスだった。
「いやー……」
教授はためらった。
教え甲斐のある生徒は、教える側としては望むところだ。
ではその「教え甲斐」とは何か?
教わろう、学ぼうという熱意があること――それは確かに1つの条件だ。しかし「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉がある通り、フールーダの熱意は明らかに過剰だった。
それに、教えたら吸収が早いというのも「教え甲斐」の1つだ。フールーダは無駄が多いせいで、教えてもあまり吸収できそうにない。年齢的にも、もう先は長くないし。
もうちょっと若くて常識的だったら、良い弟子になるのに……とは本人に向かって言いづらい。
「……と、とりあえず、ひとつ教材を貸しましょう。
それを解読してから、また考えるということで」
教授はナザリックに戻ることを決めた。すでにたっち・みーやウルベルトに再会していて、ナザリックの場所を探し中だったし、その場所もすでに突き止めていた。あとは向かうだけだ。しかし何となく帰りづらかったので、ナザリックに戻らず、帝国魔法省で教鞭をとり続けてきた。
だが、いつまでもこのままというわけにはいかない。ちょうど良い機会なのだろう。
最古図書館にはギルメンが持ち寄った膨大な書籍データがある。転移した今、それは本当に「本」として存在している。
その中には、設定魔のタブラ・スマラグディナが持ち込んだものもあるはず。神話大好きのタブラなら、なんかそれっぽいデータをぶちこんでいるだろう。適当に漁って、この残念な老人に渡しておこう。
教授は、それが原作のモモンガと同じ対処法だったとは知る由もないが、もちろん俺は介入した。
「あ、それなら司書に写本を作らせて、そっちを渡すようにしてください。
きっと借りパクするので」
「借りパク……」
ちょっと考えてから、教授は諦めたように深いため息をついた。
◇
ホワイトブリム。メイド大好きで、メイド服は俺の全てと豪語して憚らない彼は、ネムのナザリック訪問には間に合わなかった。
帰ってきたのは、それより後。
ゆえにネムの話に興じるメンバーを見つけたときは、のたうち回った。
「ネムちゃん可愛かったよね~」
「ね~。また来ないかな~」
「ネムちゃんって誰です?」
「かくかくしかじかで……」
「私、あの時の動画あるよ」
「見せてください」
凄いすごーい!
モモンガ様もお仲間の人たちもすごーい!
「おお……! なんとなんと……!
これはメイド甲斐がありそうな子たちですね」
「メイド甲斐……?」
「なにそれ? どういう概念?」
「この2人にメイド服を着せましょう。そうしましょう。ぜひそうするべきです」
「でも呼ぶ理由がないんだよね~」
「ナザリックはこの世界で宗教団体だし。ていうかモモンガさんが神様だし」
「くっ……! なるほど……! そう何度もホイホイ招いては、神様としての格が……という事ですか……!」
「ていうか向こうが萎縮するかな、って」
「エンリちゃんは常識人みたいだったしね」
「んぎいいいっ……! そんな……! なんてことだ……!
姉妹でお揃いのメイド服とか、共通する意匠ながらちょっと違いがあるやつとか、色違いのペアみたいなやつとか、色々デザインできるのに……!
残念です……! それは非常に残念ですよ……! くうううっ!」
「泣くほど!?」
「そこまで!?」
「当たり前じゃないですか!」
「「当たり前なんだ……」」
ギルメンたちはドン引きした。
彼のこだわりは、なかなか理解されないようである。
◇
ネムはあくまで一般人であり、それゆえ簡単にはナザリックに招待できない。
一方で、ネイアは外部協力者という立ち位置だ。
ナザリックとの関係性でいうと、俺に近いものがある。むしろ同類といっていい。外回りのネイアと、内勤の俺である。広報課と総務課といってもいいだろう。いや、総務課というより秘書課か? まあそれはどうでもいいけど。
「シズ。聖王国での働き、見事であった。
お陰で引き込めたネイア・バラハは、ナザリックにとって非常に有用な働きをしている。
その影響を鑑み、遅くなったが褒美を取らせる。何か望みがあれば言ってみよ」
「では……ネイアを、ナザリックに……招待したい、です……」
働きを称えて、褒美という形で――可能だ。獲得した信者の数と、その増加率は凄まじい。
進捗状況を確認する名目で――可能だ。ついでに把握している情報とのすり合わせもできる。
今後の方針を相談する名目で――可能だ。エルフ国に派遣して布教してもらうのも良いだろう。
「それを褒美とするには、いささか小さすぎる望みだな。
デミえもん。知恵を」
「その呼び方、定着させるおつもりでしょうか?
なんだかデミウルゴス様に申し訳ないので、ご遠慮したいのですが……」
「いいから知恵を貸せ」
「はい。
ではシズさんに休暇を与え、ネイアの案内を任せるのはいかがでしょうか」
「よし、案内役をシズに任せよう」
「ノータイムで!?
もうちょっと考えましょうよ、モモンガ様!?」
「うるさい。考えるのはお前の仕事だ」
「ヒドイ!?」
「何を言うか。考えるのはお前で、決断するのが私の仕事だ。
そして、たいていの場合、早いほうが有利になる。
即断即決とか、兵は拙速を尊ぶというような言葉がある通り、な」
「くっ……! それはそう……!」
石橋を叩いて渡るという言葉もあるが、やってみてダメだったら方法を修正するというのが「兵は拙速を尊ぶ」の核となる部分である。つまりは石橋を叩いている段階なので、やっている事は同じとも言える。
「シズ、下がってよい。招待する日取りを決めたらまた連絡する」
「はい、モモンガ様……」
そして数日後、ネイアはナザリックに招待された。
神々の居城に驚き、至高の御方々に驚き、驚いてばかりで忙しいネイア。
シズは分かる者にしか分からない微妙な変化で、自慢げに案内して回った。
その中で、モモンガが他の御方々が不在の間も1人でナザリックを維持してきたことを話して聞かせる。
「おお……! なんという……!
やはりアインズ様……いえ、本当のお名前はモモンガ様でしたか。やはりモモンガ様こそ正義なのですね!」
世間的には「アインズ・ウール・ゴウン」は神の名前で、モモンガという名前は知られていない。
それが本当は集団の名前で、メンバーを探すための偽名だったと知れたのは、ネイアにとって世界の秘密を知ってしまったような衝撃だった。
しかしそれはそれとして、仲間のために家を守り続けた孤独な戦い、なんてのは英雄譚の匂いしかしない。正義だ。大正義だ。やったね。ばんざーい。
「そう! まさにその通りです、ネイアさん!」
正義降臨の文字を背負って、たっち・みーが躍り出る。
やたら正義を掲げたがるネイアの言葉は、正義にこだわるたっち・みーにぶっ刺さった。
「我らの居城を守ってくれていたモモンガさんこそ、我らのリーダー! 唯一無二のまとめ役!」
しゅばっ! とモモンガの横で片膝ついて両手を斜め上に伸ばしてモモンガを示すようにする。
やっている事が悪の組織の幹部っぽい――いや、むしろ下っ端っぽい?――のは、しっかりアインズ・ウール・ゴウンである。
「善神も悪神もまとめ上げる、至高の神とはモモンガさんのことだ」
ぬらり、と現れたウルベルトが悪ノリする。
ヤギの頭に鋭い爪。いかにも悪魔な姿が、雰囲気に拍車をかける。
ネムのときは女性陣に独占されたような形だったので、今度の来客には面白がってちょっかいをかけてきたのである。
「ふおおおおお……!」
ネイアにとっては、神々の居城で神々が至高神を称えている神話的光景にほかならない。
限界オタクの言葉にならない悲鳴みたいな変な声が漏れた。
ぽん、とネイアの肩を叩くペロロンチーノ。
エロゲー大好きな彼は、立派なオタクである。
「受け止めきれないよね」
「はいっ!」
「しんどいよね~」
「ああっ……! なんという事でしょう! これが神の啓示……!
この感動を表す言葉は、まさにそれでした!
あっ……!? ですが、それは称賛の言葉としてはあまりに斬新です……! どうすれば……いいえ、これこそが神の試練……!? 神々の言葉を世の人々に伝えるのは、まさに私のような者の役目では……!?」
なんかトリップし始めるネイア。
それを見たぶくぶく茶釜がペロロンチーノに詰め寄る。
「おい、愚弟コラ」
「あっ、姉ちゃん。……あれ? なんか怒ってらっしゃる???」
「正統派の宣教師として活動してもらうはずのネイアちゃんに、限界オタクの変態語録をぶち込んでどうする。
ナザリックが宗教からサブカルになっちゃうだろ。
バカなのか、お前は? いっぺん死んどくか?」
ゴスッ、ゴスッ、ゴスッ!
「あっ、ちょっ、やめて! ダメージ! ダメージ入ってるから!
あれっ!? どこで間違えた!? ちょっと気遣っただけなのに!?」
三者三様。
カオスになってきた現場に、モモンガのため息がひとつ。
「……どうすんの、これ……?」
ネイアの案内どころではなくなって、モモンガは事態の収拾を諦め、天を仰いだ。
活動報告にてリクエストを受け付けています。
誤字報告をいただきました。
ギアスター様 tino_ue様 都壱様 もとちか様
ありがとうございます。