こんな所でよろしいでしょうか?
ご笑納ください。
クレマンティーヌとカジット
アインズ様――時期的に「アインズ」と名乗っている頃だ――が関わったのは、死の螺旋を準備していた時である。クレマンティーヌは叡者の額冠を盗んで法国から逃走し、カジットは死の宝珠を片手に死の螺旋を起こそうと準備を進めていた。冒険者モモンとナーベは、まだカッパーである。
時期的に精神の変容はまだ自覚できていない。とはいえ原作知識があるから、当然俺は漆黒の剣を襲うくだりに対策した。
冒険者モモンの名声を高めるのに必要なのは死の螺旋を解決することなので、漆黒の剣が死ぬ必要はない。
ンフィーレアをポーション研究のために引き込むのも、エンリを助けて正体を悟られたことで既に達成しているので、ここで攫われる必要はない。
リイジーが恩に着る度合いは少し軽くなるだろうが、紫ポーションの開発はンフィーレアの功績なのだから、さして問題はないだろう。
というわけで、メッセージで相談だ。
「アインズ様。街に到着したところでハムスケの従魔登録のために一旦別行動をお考えかと思いますが、ハムスケのパワーと器用さのテストとして荷下ろしを手伝わせるのはいかがでしょうか?
結果次第ではナザリックに連れ帰ったときにも、トブの大森林に残したままでも、できる事が増えます。カルネ村の農作業や防壁建築を手伝わせる程度ですが」
「なるほど。面白い考えだ。確かに確認は必要だしな。試してみよう」
というわけでアインズ様は俺の提案を受け入れてくださった。
結果、バレアレ薬品店でクレマンティーヌと鉢合わせである。
「待ってたよ~。君がンフィーレア・バレアレ?
ちょっとお姉さんといっしょに来てくれないかな~?」
冒険者がポーションを買いに来ることは珍しくない。ンフィーレアは無警戒だった。
しかし、クレマンティーヌから漏れ出る狂気と殺気は、冒険者としてちゃんと場数を踏んできた漆黒の剣の4人にはバレバレだった。そもそも隠す気がない。
「特殊な症状への治療薬調合のご依頼でしょうか?」
患者が動かせない容態である場合、出向いて適した薬を調合してくれという注文が入ることはある。重体なら慌てているのが普通だが、石化のような慌てなくてよい場合もある。
なにしろ店主のリイジー・バレアレはエ・ランテル一番の薬師として知られる。その手の依頼は、他のどこより集まると言って良い。
「そういうのじゃなさそうだぜ」
「下がってください、ンフィーレアさん」
「彼女は危険である」
ニニャはすでに魔法の準備を始めていた。
クレマンティーヌがそれを見逃すはずもなく――
「魔法使いなんてスッと行ってドスッで終わりだよぉ~」
漆黒の剣は、その素早さにまったく反応できなかった。
原作では仲間がニニャを逃がそうとした事で嗜虐心を刺激されて痛めつけた。だが今回は、まだ逃がそうとしていない。クレマンティーヌは自らの戦術理論に従って、ニニャの即殺を試みた。
だがそのスティレットは、ニニャに届く前に止められた。
「無視は困るな」
モモンである。
突き出したスティレットは指の間を通り抜け、拳を受け止めたような形でクレマンティーヌの攻撃を止めていた。
だがその首から下げたプレートは銅。
「カッパー風情が、この私の速さに対応した……?
ただのマグレか、それとも登録したばっかでランクが実力に追いついてないパターンか……まあ、でも、このクレマンティーヌ様に敵うわけ――は?」
手を引っ込めようとして、しかし、びくともしない。
掴まれている――どころではなかった。
まるで岩の中に埋められたように、全く、1mmも動かない。
完全に、完璧に、空中に固定されている。
「この……! くそ! ふざけるな!」
原作での死の舞踏よろしく必死に抵抗するクレマンティーヌ。
だが、動かないものは動かない。
現地の人間では最強クラスの実力者とはいえ、しょせんはレベル30程度。
レベル100を相手にできるはずもないのだ。
「あまり暴れるな。
これ以上強く握ると、潰してしまいそうだ」
魔法を使えば眠らせるなり麻痺させるなりできるものを、戦士として活動している上に漆黒の剣が見ている手前、どうにもならない。
ちらっとナーベを見れば、御方かっけー! とキラキラした目をしながら御方のご活躍を邪魔するまいと控えている。いや手伝えよ。そういうとこだぞ。アインズ様の中でナーベラルの評価が少し下がった。
「……仕方がない。とうっ!」
なおも暴れるクレマンティーヌ。
モモンは掴んだ手を大きく引っ張った。
レベル差の暴力でジャイアントスイングみたいになったクレマンティーヌが、そのまま地面に叩きつけられる。
「ぎゃふん!」
顔から行った。めっちゃ痛い。
衝撃で一瞬朦朧としたところを、上から押さえつけられ、抵抗できなくなった。
腕をねじり上げるやつ、1回やってみたかったんだよな~、とか思っている事は誰も知らない。おお? 本当に動けなくなるんだ。すげー。
「誰かロープとか持っていませんか?」
縛って当局へ突き出そう、という事になった。
実害はないが、攻撃されたわけだし。
「……勝てるか、あんなの」
周辺への音漏れ防止のため隠れて魔法を使っていたカジットは、さっさと逃げることにした。
しかし、である。
原作を知る一般読者の俺がそのあたり見逃すわけにはいかない。シャドウデーモンを付けて動向を監視させる。
当局へ突き出されたクレマンティーヌを、シャルティアにゲートを頼んでこっそり回収。シャドウデーモンによる偵察を添えて、事前に正確な位置を特定してからの拉致である。現地人には「突然居なくなった」としか分からないだろう。
「やあ、突然すまないね。ようこそ真実の部屋へ。黒棺に案内するか迷ったのだが、取って食うわけにもいかないからね。こちらで拘束だけさせてもらったよ」
「んー!? んー!?」
ボールギャグも装着済みだ。
「ズーラーノーン、だったかな? 君、カジットとかいう男と協力して、死の螺旋とかいう儀式をやる予定だったろう? その混乱に紛れて逃走……という予定かな?」
「……! ……? ……!?」
「どうして知っているか? どこまで知っているか? かな?
まあ、答えるわけもないんだがね」
「…………」
「ああ、安心して良い。君に拷問などしないとも。
重要なのは『君がそう証言した』という情報だけだ。……言ってない? 関係ないさ。私がほしいのは、そういう情報を作れる『状況』だけなのだからね。
……とはいえ、状況を作るためには、少しの間、君にこの部屋で過ごしてもらわなくてはならない。しかし、ただじっと待っているのも退屈だろう?
そこで、だ……紹介しよう。こちらはニューロニスト・ペインキル。この部屋の主にして特別情報収集官だ」
「拷問官とも言うわねん。よろしく、お嬢ちゃん」
「ここにある拷……尋問道具の数々。その使い方や効能を、説明してもらおう。
君はなぶって殺すのが好きだろう? ここには君の知らない方法があるかもしれない。お役に立てれば幸いだよ。
では、ニューロニスト。あとはよろしく頼むよ」
「ええ、任せてちょうだい。
まずは、これから説明するわねん。これは私を創造してくださった御方が尿路結石というやつに苦しめられたことに敬意を表して、その痛みを再現・発展させるために考案した道具で――」
ナザリックの本気は、クレマンティーヌをしてなおエグすぎた。
解放するとき、クレマンティーヌはとてもニコニコしていたのである。
「お花きれい……」
ちょっと様子がおかしいような……?
まあ、喜んでもらえたようで何よりだ。
さて、「手に入れた情報」はアインズ様に報告する。
カジットはそのうち死の螺旋をやるだろうから、そしたら神の救済を見せてやる舞台として使わせてもらおう。
叡者の額冠とンフィーレアなしで取り組む死の螺旋は、だいぶ時間がかかるだろうけども。頑張れカジット。
……このあとウルベルト様がダークヒーローごっこに使われるとは、この時の俺は思いもしなかった。ズーラ―ノーン潰そうぜとか大好きなコンテンツでしょうね。仕方ないね。
◇
イグヴァルジ、格を思い知らされる
作者都合で時系列が混乱します。
ホニョペニョコが発生しないので、原作の通りの衝突は起きない。
しかし急激に出世したモモンらを恨めしく思い、チャンスがあれば蹴落とそう、悪い噂を流そうと画策している。
しかし2人は神の使徒で……
「あの噂聞いたかイグヴァルジ?」
「どの噂だよ?」
「冒険者モモンとナーベは、神の使徒だと」
「バカバカしい。ちょっと実力と運があるだけだろーが」
ところがゲヘナ作戦でヤルダバオトや大量の悪魔が登場する。
その情報は、エ・ランテルにも届いた。
「あの噂聞いたかイグヴァルジ?」
「どの噂だよ?」
「王都で悪魔が大量に現れたんだと」
「あれか。
ケッ、このエ・ランテルで起きてくれりゃあ、俺様の活躍を見せつけるチャンスだったってのによ」
「悪魔の群を相手に勝てるつもりかよ?」
「誰だと思ってんだ。俺様だぞ?」
「じゃあ、あの噂は聞いたかよ?」
「どの噂だよ?」
「ヤルダバオトってやつが悪魔たちの頭で、あの蒼の薔薇が遊ばれたんだと」
「ケッ、アダマンタイトなんて言ってもその程度ってこった。
俺様だって、もうちょっと鍛えて装備ももうちょっと良い物にすりゃ……」
「じゃあ、あの噂は聞いたかよ?」
「どの噂だよ?」
「そのヤルダバオトを、モモンが1人で撃退してみせたんだと」
ポロッ。
思わず落とした木製のジョッキが、テーブルの上に倒れて中身をぶちまけた。
撒き散らされた酒がテーブルの端から落ちて、イグヴァルジのズボンを濡らす。
しかし、そんな事を気にする余裕はもう無かった。
「……お……お、俺様だって……も、も、も、もうちょっと鍛えりゃ……へへ……」
「無理だろ」
「や、や、やかましい! 無理とか言ってんじゃねー! 諦めるなよ! なんでそこで諦めるんだ! 頑張れよ! もうちょっとだよ! あとちょっとで俺達もアダマンタイトに手が届くよ!」
「熱意だけでどうにかなるもんかよ。暑苦しいからちょっと落ち着け、お前は」
呆れる仲間たちに、ぐぬぬ……と唸るばかりのイグヴァルジだった。
口だけの賢者ならぬ口だけの勇者イグヴァルジ。
彼は何もしなかったので、生き延びた。
それもまた「賢い生き方」であったのだろう。少なくとも原作よりは。
◇
バルブロがいなくなった後のランポッサの反応
問いただして真実を見せられて意気消沈する様子
バルブロはカルネ村に向かって喧嘩をふっかけ、覚醒したエンリ大将軍に撃退されたあげく、ルプスレギナに殺された。
これについてはナザリックで証拠隠滅をおこない、カルネ村が王族殺しの罪を問われることを防ぐことにした。
部隊まるごと消息不明になり、カルネ村の人口(ゴブリン口?)が急増するも、ゴブリン将軍の角笛の本当の効果はモモンガさえ知らなかったので、王国側では何の関係があるか推測できない。
結局バルブロは時間経過で法的な死亡判定(失踪宣告)を受けることになった。
「陛下、今日でバルブロ王子の失踪宣告となります」
「……死亡扱いに、せねばならぬか……」
ランポッサは意気消沈した。
生きていると思いたい。だが絶望的だ。
生きていると思いたい。だが葬儀をせねばならぬ。
生きていると思いたい。だが死んだものとして扱わねばならぬ。
たとえ後でひょっこり生還したとて、今この瞬間、我が子の葬式を出さねばならぬ親の気持ちというものは……。
「表向きは病死と発表しておく。
だが、いつか生きて戻るとしたら……葬儀は小さめにおこなう事としよう」
問いただして真実を見せられて意気消沈する様子とのリクエストだが、ランポッサからナザリックに問いただすルートが存在しない。
ナザリックはラナーを見捨てている。
ザナック王子はまだ友誼を結んでいない。
もう少し後になればガゼフを使者として送ることになるが、ナザリックに対して「バルブロ殺した?」と尋ねるのは殺害容疑をかけるに等しく、非常に不敬で国益を損なう恐れが大きいため、実行できない。
何年たっても戻ってこないバルブロを待ち続け、一方でザナックとラナーが協力して王国をもり立てようとしてくれるのを嬉しく思いながら、ランポッサは少し早めに老け込んでいくことになる。
そうして数年後にバルブロの生還を諦め、ザナックに王位を譲ることになる。
第14話ショートショート詰め合わせに続く。
◇
アゼルリシア遠征
オラサーダルクの焼き土下座、クアゴアの主人替え、ドワーフの神様降臨
霜の竜たちの王オラサーダルク。
冒険に出たアインズ様(まだ他の御方々が戻る前であり、モモンガに戻っていない)が首都奪還のついでに対応――
「どれが王だ、ヘジンマール?」
「はい、偉大なりし陛下。
中央のドラゴンが、霜の竜たちの王オラサーダルクでございます」
「ヘジンマール! 貴様、どういうつもりだ!?
霜の竜ともあろう者が、スケルトンなぞ背に乗せおって!
……うん? よく見れば、なかなか良いものを身につけているな。
スケルトン! その服を置いていけば許してやろう!」
「……ハァ?」
アインズ様はイラッとした。
高慢な態度は、嫌な取引先を思い出させる。
仲間たちと一緒に鍛えて至ったオーバーロードを、最下級のスケルトンと一緒にされるのも腹が立つ。
かろうじて……かろうじて、まだ自分だけがバカにされているから我慢できているに過ぎない。もうすぐ帰還するであろう仲間たちに聞かせる、楽しい思い出を作ろうとして訪れたのだという事を加味しても、その奥にある狂気と憤怒と殺意が、ほんのりにじみ出てしまう。
背中にただならぬものを感じ取り、ヘジンマールは冷や汗が止まらなかった。
「まあ、一応『神様』やってるわけだし……デミウルゴスも殺戮はダメだと言っていたからな」
全生命の保護を打ち出しているので殺害はしないでおこう。
しかしオラサーダルクの態度は、つまり弱肉強食をルールとするようだ。
「オラサーダルクといったか。
お前はつまり『自分のほうが強いのだから死にたくなければ言うことを聞け』と言いたいわけだな?」
「よく分かっているではないか。
分かっているなら、さっさと――」
「絶望のオーラ、レベル1」
恐怖。
怯えることによって、ありとあらゆる動作に対してペナルティが与えられる。
「ひゃあああああ!?」
「お前、弱いだろう?
心臓掌握でも使ったら、強化なしでも即死させてしまいそうだ。
とはいえ一応、現地では強いほうではあるんだろう?
絶望のオーラ、レベル2。
どこまで耐えられるんだ?」
恐慌。
全力で逃げ出すことを要求される。基本的に戦闘行為が一切取れない。
できるのは「逃げるために邪魔なものを排除する」行動くらいだ。
「ぎぃやあああああああ!」
逃げ出そうとするオラサーダルク。
しかし魔王からは逃げられない。
がしっ、と尻尾を掴まれた。
オラサーダルクはレベル46なので、アインズ様から見ると雑魚である。恐慌だからという以前に、そもそも戦闘らしい戦闘にならない。
「お前は弱肉強食がルールなんだろう?
じゃあ自分より強い奴の言うことには従え」
イラッとしていたアインズ様は、その場でオラサーダルクの鱗を1枚ずつ剥がし始めた。
分からせるついでに、素材ゲット。うまー。しっかりゲーム脳である。
「まずは首都をドワーフに返すこと。
それと他の種族に迷惑をかけないこと。
財宝は欲しいんだろうが、自分たちの鱗でも売って稼ぐんだな。
ドワーフなら、ドラゴンの素材を喜ぶだろう」
上等な武具を作成できて、酒の購入資金をたっぷりゲットでニッコリのはずだ。
なお、クアゴアについてはゲートに押し込んでビーストマンの地域へ転移させている(主人を替えるのではなく失う形になる)。
ドワーフたちは、たった数人でクアゴアを残らず消してみせた時点で茫然自失である。帝国と足並みを合わせる必要もなくナザリックだけで訪れたので、作業にわざと時間をかける必要もなく、サクッと処理。掃除機でゴミを吸い込むような、あまりに非現実的な手際の良さに、喝采するのも忘れてポカーンとする。
「なんじゃ、あれは……?」
「意味わからん……」
「儂らは、何か悪い夢でも見とるんじゃろうか?」
「クアゴアが居なくなるなら、良い夢じゃないかの?」
喝采は起きなかった。
しかし戻ってきたアインズ様たちの前で、ドワーフたちは一斉に跪いた。
戦える者は騎士のように。
戦えない者は祈るように。
彼らは「主」を得たのである。
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