ソウルアーカイブ/N   作:ゼロシータ

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ノノミに耳かきをされている最中、校舎の外から銃撃が響く。そこで待ち受けていたのは、先生の抹殺を宣言する謎のロボット兵だった。
先生の指揮のもとで、ノノミが応戦するが……?


守るノノミと守られる合理主義先生|第二話「運命共同体」

1.不可視の影

 

 教室を飛び出し、薄暗い廊下を駆け抜ける。

 

 コツコツと響く足音が妙に大きく耳に残った。

 ついさっきまで耳かきされてたヤツとは思えねぇな、俺。

 

 十六夜は黙って俺の背後を付いてくる。銃が重いのか、走りのテンポがどうにも遅い。仕方なく歩調を合わせてやる。

 

 コイツが両腕で抱えているリトルマシンガンⅤ──可愛げのある名前だが、その外見は戦場の主砲。ずっしり構えたその姿を見れば、走るテンポが落ちるのも当然か。

 

 廊下を駆けながら、ちらっと後ろを振り返ると、視界に入った十六夜の手には指抜きグローブが無かった。

 戦闘時は必ずはめていたと思うんだが……焦って出てきたのか?

 

 玄関から外に出ると──足元のタイルが抉れており、それが銃痕だと一目で分かった。

 風は静かで、周囲に人影は無い。

 

「十六夜、周囲の警戒を怠るな。明らかに様子がおかしい」

「は、はい……!」

 

(先生、姿は確認できませんが……グラウンドの中央付近に得体の知れない気配を感じます。気をつけてください!)

 

 十六夜に用心を促しつつ、俺は脳内でアロナに問いかける。直接声を出さずとも、この『シッテムの箱』を通じてなら意識するだけでやり取りが可能だ。

 

(おいアロナ、近くに怪しいヤツがいないか調べてくれないか?)

 

(はい、先生。周囲をスキャンするので、ちょっと待ってください──)

 ほんの数秒だが、やけに長く感じる沈黙が訪れた。

 

 アロナの警告を頭に入れながら、注意深くグラウンドの中央へと足を踏み入れていく。

 一歩踏み出すたびに、異様な静けさが強く俺達を締め付けてくる。

 

 グラウンドを見渡しても、玄関には銃痕が残っていたというのに──ここには足跡すら見当たらない。両端にはサッカー用のゴールポストが設置されているが、人影はどこにも無かった。

 

 一体どういう事だ……? まさかとは言わねぇが……幽霊の仕業か?

 いや、そんな馬鹿な──俺はオカルトなんざ信じないタチだが、この状況を合理的に説明する術が無かった。

 

 俺達の間に、しばし重苦しい沈黙が流れる。

 十六夜も言葉を発せず、ただ不安そうに俺の隣で息を潜めていた。

 

「せ、先生……」 

 十六夜の小さな声が静寂を破る。

 その瞬間──

 

 [b:パァンッ。]

 

 乾いた銃声がグラウンドの空気を切り裂いた。

 放たれた銃弾は右側のゴールポストに跳弾し、カツンッという鋭い音が鳴り響く。

 

 突然の銃声に驚き、反射的に左を向くと──約30m先、もう片方のゴールポスト付近に一体の軍用ロボット兵士が立っていた。黒鉄の装甲を身に(まと)い、微動だにせずこちらを睨んでいる。 

 

 グラウンドには誰もいなかったはずなのに、今目の前にいるって事は……本当に幽霊なんじゃねえか?

 

「……お前、何者だ? なぜここにいる?」

 俺はその不気味な兵士に問いかける。

 

「ヘイローの無い人間……貴様が先生だな」

 金属が擦れるような低い声を響かせ、無言のままアサルトライフルの銃口を俺に向ける。

 

「任務は一つ──貴様には、この世界から消えてもらう」

 その宣告に、流石の俺でも動揺が隠せなかった。

 

「私を消すだと……? 誰に命令された? 何が目的だ?」

「……」

 ロボット兵は一切応じず、今にも引き金を引きそうな殺気を放っている。

 

「先生を傷つけることは絶対にさせません……! 私が守ります!」

 十六夜が俺より前に出て、武器を構え臨戦態勢をとる。

 

「先生は危ないので後ろに下がってください! ここは私が食い止めます!」

 

「……ああ、頼んだぞ十六夜!」

 俺は拳を握りしめるしか出来なかった。

 

 張り詰めた空気の中、次の一手を待つ時間だけが流れる。

 十六夜が前に出たのを合図に、俺は静かに一歩身を引いた。

 俺はこの世界の住人みてぇに、銃弾を食らっても平気──なんて真似は出来ねぇからな。

 

 キヴォトスの連中は、銃弾を食らってもせいぜい『ちょっと痛い』程度で済むほど異常に身体が頑丈。でもって、銃撃戦が日常的に行われているというアウトローっぷり。

 

 一方で、よその世界からやって来た俺は当然そんな強靭な耐久力を持っちゃいない。 

 銃弾一発が心臓部分に当たれば即アウト。

 

 だからこそ、戦闘時はシッテムの箱の機能を活用し、俺は先生でありながら指揮官として生徒に指示を出している。

 

 つまりだ──俺はこの世界で、戦闘に直接関われない。

 学生に頼りきりの、どうしようもなく情けねぇ脆弱野郎ってワケだ。

 

 そして今、その俺の命は──たった一人、『十六夜ノノミ』という生徒の手に委ねられている。

 

「ならば、その邪魔な小娘を先に片付けてやる」

 

 十六夜の表情が一瞬だけ強張る。

 それでも視線だけは外さず、じっとロボット兵を見据えていた。

 

 それにしても、あのロボット兵の強気な態度がやけに気になる。

 

 黒鉄の装甲のアレは──ブラックマーケット専属の治安部隊、マーケットガード。

 ブラックマーケットは連邦生徒会すら手が出せない、暴力と金が支配する無法の闇市だ。

 普段は徒党を組んでくる連中だが、単独なら十六夜が後れを取るとは思えない。

 

 そもそも、なぜマーケットガードがアビドス校内に現れる? 

 闇組織の陰謀を追って対策委員会とブラックマーケットの銀行へ殴り込んだ件はもうとっくにケリが付いたはずだ。

 

 しかも単独での侵入──状況が異常すぎる。

 

 

2.切り裂かれる常識

 

 10秒近くの緊迫した睨み合いの末、十六夜が意を決したように先手を取った。 

 銃身が高速で回転を始め、轟音と共に無数の弾の嵐が放たれる。

 

 だが──弾丸が装甲に命中した瞬間、衝撃が吸い取られたかのように、弾は力なくその場に落ちていく。まるで威力が伝わっていない。 

 

「どうして……? 確かに当たっているのに……! お願いですから、効いてください……!」

 十六夜は必死に銃弾を浴びせ続ける。

 

 結局その努力は全く報われず、敵は微動だにしない。

 それどころか、反撃する素振りすら見せない。

 

 カチッ。

 

 乾いた空撃ちの音。弾はもう尽きていた。

 それでも十六夜は、現実に抗うようにトリガーから指を離せない。

 

「動いて……お願いです……! まだ、撃てるはず……!」

 引き金を引くたび、リトルマシンガンⅤからは虚しくカチカチという音だけが響き続ける。

 十六夜の肩が小さく震え、指先にも力が入らなくなっていく。

 

「そんな……これでは、先生を守れません……!」

 十六夜の表情が次第に力を失う。

 逃れようのない絶望が、静かにその瞳を曇らせていった。

 

「どうした? それが全力か?」

 それきり沈黙を保っていたロボット兵が再び口を開いた。

 

「終わりだ、小娘」

 そう言い放つと、アサルトライフルを無防備な十六夜の肩口へ向け──

 

 [b:バンッ!!]

 

 確実に命中した瞬間、十六夜の身体が衝撃で小さく揺らぐ。

 致命傷ではないものの、ダメージ自体は確実に通っているようだ。

 銃弾自体にはさほど大きな威力が無いのか?

 

「あれ……? 力が入りません……」

 魂を吸い取られるかのように、十六夜の動きが急に鈍くなっていく。

 その直後、十六夜の身体から淡い光が滲み出し、それをロボット兵が吸い取っていった。

 

 ロボット兵は俺の方へ一歩ずつ、ゆっくりと近づいていく。

 

 ──何なんだよコイツ。あれだけ撃ってもノーダメージなんて、バケモンそのものじゃねぇか。

 ここまで来ると、もう十六夜を置いて逃げるしかねぇのか? 標的は俺なんだから、コイツを無視して攻撃してくるはずだ。

 

 アロナの防護機能を使えば、あの程度の銃弾なら余裕で防げる。

 だが……本当にそれでいいのか?

 どうせ逃げても後悔しか残らねぇ。

 だったら俺は──

 

(アロナ、あのロボットのCPUをハッキング出来るか?)

(はい、至近距離まで近づけば、できるかもしれませんが……)

 

(なら、俺が近づくから護衛を頼む。お前のバリアでヤツの銃弾を防いでくれ)

(わ、分かりました……。ですが、危険を感じたらすぐに下がってください!)

 

 この状況を打破する方法はこれしかない。そう考えて、俺は黒鉄の怪物の元まで一歩ずつ近づく。

 

「貴様、何がしたい? 気でも狂ったのか? ならば──すぐあの世に送ってやる!」

 

 アサルトライフルの連続射撃が襲い掛かるも、アロナの物理演算により弾は全て俺の身体に当たらず、すり抜けていく。

 

(先生……この銃弾、威力自体はそれほどでもないですが……バリア使用時の電力消費が予想以上に激しいようです。長くは維持できません……!)

 

 俺はアロナの報告を聞いた瞬間、思わず拳を固く握り込んだ。

 ここでしくじれば後がねぇ──その焦燥感が俺の意識を鋭く研ぎ澄ませた。

 全速力で敵の方へ駆け出す。時間がねぇならスピード勝負だ。

 

「くっ……貴様も銃が効かないのか……!?」

 

 ロボット兵はペースを緩めず射撃を続ける。

 俺は敵の命中を下げる為、わずかに蛇行して読めない軌跡を描く。

 そして懐まで近づき──

 

(今だ! ハッキングしてくれ!)  

 

(はい、やってみます──先生、このロボットのCPU……おかしいです! 構造が普通じゃなくて、しかも特殊なプロテクトがかかってます……。短時間での解析は難しいかもしれません……!)

 

「チッ、ここまでかよ……!」

 ある程度は予測していたものの、想定以上の状況に一瞬頭が真っ白になる。

 これじゃあ、解析を待ってるうちにアロナのエネルギー切れでやられちまう。

 

「まともに戦えない貴様がここまで接近するとは愚かな……至近距離なら避けられまい!」

 

 殺意を瞬時に感じ取った俺は、敵の間合いを開けるべく相手を背にして疾走するも──

 5メートル近く離れた所で発砲音が鳴り響き、銃弾が俺のジャケットを僅かに掠めた。

 更にもう数メートル離れた地点でも銃弾が掠り、次の瞬間にもまた一発──

 

 何とか十六夜の所まで辿り着き、靴底で砂をザザッと捻って勢いよく敵の方へ振り返った。

 

(先生、すみません……バリアを維持するのがそろそろ限界です……。このままだとOSがシャットダウンしてしまいます……)

 

 ハハッ、とうとう終わりか……。

 ここまで手の打ちようがねぇと、逆に笑えてくるぜ。

 

 そんな俺のそばで、十六夜がか細い声を震わせ始めた。

「先生、ごめんなさい……。私がもっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかったのに……」

 

 ……クソッ、何も言い返す言葉がねぇ。

 

 だがな十六夜、決してお前のせいじゃねぇ。

 あんな怪物相手じゃ──対策委員会のリーダーにして、キヴォトス最高の神秘・小鳥遊(たかなし)ホシノですら手も足も出ねぇさ。

 

「どうやら回避も限界のようだな。これ以上の抵抗は無意味だ。大人しく消えろ」

 無慈悲な弾幕がこちらを容赦なく叩きつけてくる。

 

(先生、もう……ダメです……)

 銃弾を次々に受け、ついにアロナもシャットダウン。

 ──今度こそ……本当に終わったな。

 

 目をつむり、最期を受け入れるしかないと腹を括ったその時──

 ロボット兵が引き金を引いた瞬間、『カチッ』という乾いた音だけが響く。

 弾切れ、だと?

 

「命拾いしたかのような顔をしているが……残念だな。予備はまだある。これでトドメだ」

 腰のマガジンポーチから新しい弾倉を取り出す。

 

「……おい、最後に教えろ。なぜ俺を消そうとする?」

「答える義務は無い。お前の生死に理由など無関係だ」

 

「お前……誰かに操られてるな? マーケットガードの兵が自分のシマを飛び出すなんて、どう考えてもおかしいだろうが」

 

 返事は無い。

 ただ一瞬だけ動きを止めたが、すぐに冷酷にリロードを続ける。

 

 正直、最初からどうにもならねぇ気はしてた。 

 それでも、もしかしたら──なんて、一縷(いちる)の望みに賭けてみたが……。

 結局、全部ムダだったな。

 

 俺は神なんて存在を信じる気はねぇ。

 だがもし存在するのなら、こう問い詰めてやりたい。

 『おい神の野郎。こんな運命、あまりにも理不尽すぎんだろ』ってな。

 

 ──何だったんだろうな。ここでの人生は。

 何か大きな事を成し遂げた訳でもない。

 戦闘では、生徒に守られるだけで指揮しか出来ず、まさにお荷物。

 とてもじゃないが、プレイヤーとしての実感が薄すぎる。

 

 カチン、と金属が噛み合う音。

 ロボット兵は銃のリロードを終え、照準をこちらに合わせる。

 

 その時、不意に時間が凍り付いたような錯覚に陥った。

 ……これが走馬灯ってヤツか。

 過去の記憶を巡る中、『第二の古則』が頭をよぎる──

 

 『理解できないものを通じて、私たちは理解を得ることができるのか』、か……。

 俺にとって理解出来ねぇ存在は、目の前のバケモンもそうだが──それ以上に、この『十六夜ノノミ』ってヤツだった。

 

 俺は最後まで、このお人好しの本性を掴む事は出来なかった。

 何か裏があるんじゃないかって勘ぐってたが、それも分からず仕舞い。

 もし『相手の心の声を読める力』でもあれば、こんな悩みも無かったんだろうな。

 

 ……なんて、死ぬ間際で何余裕ぶってんだ。

 この世界の事だから、死んだら死んだで別の世界があるのかもしれねぇが……。

 にしても情けねェな。何も出来ずに終わるなんて、これ以上にムカつくコトはねェ。

 

 [b:俺に力があれば……。]

 [b:このどうしようもねェ怒りを、力に変える事が出来れば──]

 

 

3.世界の胎動

 

 すると突然、バッテリー切れのはずのシッテムの箱が、ジャケットの内ポケットから不自然に輝き出した。

 その瞬間、周囲の空間が急激に色褪せ、灰色の静寂に包まれた。

 

 これも走馬灯の一種か? いや──今度ばかりはそうじゃねェ、と直感的に確信した。

 

『シッテムの箱の所有者に対する生命的危険を検知しました。AIクリエイションモード起動。所有者の願望を解析し、最適なシステムを自動設計・実装します』

 

 無機質で平坦なイントネーションの人工音声が脳内に直接響く。

 明らかにアロナとは違う、合成されたような声だった。

 

『──所有者の願望を認識。〈[b:第二の古則の解明]〉と〈[b:感情を力に変換する機構の実装]〉』

 

 ……ん? それが俺の願望……?

 さっき俺が頭の中で考えてたコトじゃねェか……?

 

『周囲に存在するオブジェクトと上記の情報に基づき、新たなシステムの設計を行います』

 

 そう告げられた後、物音一つしない時間が続く。

 辺りを見回すと、時間が完全に凍りついているとハッキリ分かった。

 

 ロボット兵は銃をこちらに向けたまま、微動だにしない。

 より異様なのは十六夜。

 両膝と両腕を地面に突き、うなだれた姿のまま、呼吸すら感じられないほど静止している。

 

 俺だけが、別の世界に取り残されたような感覚に陥る。

 

 ──数分が経過したような感覚の後、人工音声が沈黙を破って再び脳内に響く。

 

『システムの設計が完了しました。システム名:〈[b:ソウルリンク]〉。起動コンポーネント:所有者、十六夜ノノミ。両名の精神をリンクし、結合強度に応じてエネルギーを生成。感情と思考の共有が可能となります。〈感情の強度〉〈相互の理解度・信頼度〉〈感情・思考のシンクロ率〉〈思念の具現化能力〉が高まるほど、システムレベルも直接向上します』

 

 ちょっと待て。

 情報量が多すぎて、どういうコトだかサッパリ分からんぞ。

 俺と十六夜の精神がリンク、だと……?

 ははッ…………冗談だろ?

 

『最終フェーズに移行します。対象コンポーネントをリンク契約へ移行。システム起動の対価として、[b:契約は一方が死亡するまで解除不能]とします』

 

 は? 解除不能? 今とんでもねぇコト言ったよな……!?

 

『システム構築開始──30%──50%──80%──90%』

 

 構築率が90%に達した瞬間、音声が唐突に途絶えた。 

 辺りは再び、息苦しいほどの静寂に包まれる。

 この間に心の整理をしろってか? 短時間で状況を理解しろってのが無理な話だ。

 

『──100%。システム構築完了。所有者の精神力は最低起動値を満たしています。対象者である十六夜ノノミの精神力不足を検知したため、起動条件を満たす値まで補正。ソウルリンクを発動状態へ移行し、AIクリエイションモードを終了します』

 

 途端に、世界が色彩を取り戻す。

 静止していた時の歯車が、再び動き始めた────

 

 ……で、一体何が変わったってんだ? 

 自分の手足や胴体を軽く見回してみたが、目に付く変化は見られなかった。

 って、俺は敵に狙われてるんだったな。こんな事してる余裕はねぇ。

 

 しかしロボット兵は一向に俺を撃ってくる気配が無く、銃を向けたまま動かずにいる。

 よく観察すると、俺の姿を見て驚いているようにも見えた。

 

「まさか、貴様達がそのような奥の手を持ち合わせていたとはな。……だが、そんなこけおどしが通用するか!」

 

 貴様……達……? 俺と十六夜って事か?

 あの無敵野郎には何が見えてんだ? 

 ロボット兵はすかさず銃を構えて射撃を繰り出す。

 ここで本当に殺される、と思いきや──

 

 不思議な事に、銃弾の動きが遅く見える。

 俺は迫り来る弾を、体が勝手に動くまま(かわ)していた。

 自分でも信じられない。

 

 ……弾を避けるなんて、人間辞めちまったのか……?

 ──もしかして、コレがソウルリンクの力……!?

 

「ば、馬鹿な……!」

 ロボット兵の声に、初めて動揺が混じった。

 

 余裕が出たせいか、俺の視線は十六夜の方へ向いた。

 すると──何やら半透明の太い紐状の光が、その背中、丁度心臓がある位置から伸びているのが見えた。紐は俺の方へ真っ直ぐ繋がっている。

 

 ……いやマジかよ。俺と十六夜が何かに縛られてるみてぇじゃねぇか。

 

 ってか、さっきの機械音声は『相手の思考や感情を共有出来る』とか言ってたが……全然分かんねぇぞ、アイツの。

 何か発動トリガーがあるのかもしれねぇ。例えば相手の心を読もうとしてみる……とか?

 

 試しに、十六夜の心を探るつもりで意識を向けてみると──

 

≪先生が銃弾を避けた……!? 一体、何が起きているのでしょうか……≫

 

 直接口にしている訳でもないのに、十六夜の肉声が頭の中で聞こえてきた。 

 ──まさか、コレがコイツの心の声だとでもいうのか?

 とりあえず、思考の読み方は何となく掴めた気がする。

 

「おい貴様! どこを見ている! 銃弾を一発避けたからと図に乗るな!」

 ロボット兵はムキになったのか、ライフルのマガジンを空にするような勢いで無茶苦茶に撃ちまくってくる。

 

 ──何度やっても結果は同じ。こんなもん相手にならねぇ。

 敵からすれば『今度こそ当たる』と思った瞬間、また外れてる──そんな感覚だろうな。

 

「どうした? テメェの射撃スキルはその程度かよ。もっとやってみろよ」

「ええい、ちょこまかと! なぜ当たらん!」

 ロボット兵は俺を撃ち抜こうと必死だ。

 

 だが、どれだけ撃たれても全て避け切り、ついには空撃ちの乾いた音が響く。

 ざっと三十発は躱したか。

 

「くっ、もう空か……予備のマガジンは残り二つ、弾切れには気を付けなければ」

 想定外の事態にたじろぎながら、ロボット兵はリロードの動作を始める。

 

 恐らく今後は慎重に撃ってくるだろう。俺の扇動作戦はもう通用しねぇ。

 さて、どう動く?

 

 弾を避けるほどの身体能力はあるとは言え、相手にダメージを与えられなければ意味がねぇ。

 銃撃を無効化する相手に拳が通用するか? 普通に考えれば無理だ。

 

 ──いや、待てよ? ソウルリンクって能力自体が、この場を乗り切る為に生み出されたモンだとしたら、もしかすると……。

 

 だが、本当に身体が強化されてるかどうかも分からねぇ状況だ。

 あの装甲を素手でブン殴って、こっちがケガしたらシャレにならねぇ。

 それなら──

 

 俺は十六夜のいる所まで一気に駆け寄る。

 激しい動きはしているはずなのに、全く体は疲れていない。

 それどころか、羽が生えたように身体が軽い。

 

「十六夜、君の武器を貸してくれ。秘策がある」

 いつもの『先生モード』で声を掛ける。

「えっ……? ですが、もう弾は残っていませんが……?」

「問題ない。借りるぞ!」 

 

 返事も聞かずに、十六夜の横に転がっていたリトルマシンガンⅤを拾い上げた。

 右手で引き金の付いた上向きのグリップを握り、左手で中央の四角いハンドルを掴む。

 

「そんな重い物を抱えたままでは、今までのようにはいくまい!」

 

 タイミングを見計らったかのように、ロボット兵がトリガーを連続で引く。

 俺は構わず、棍棒のように武器を両腕で軽々と振り回し、銃弾を弾き飛ばしていく。

 

「あ、あり得ん……こんな事があってなるものか……!」

 

「重い武器で動きが鈍ると思ったか? 残念だったな。ソウルリンクの力をナメんじゃねェよ」

 俺は皮肉めいた笑みを浮かべる。こんな面白れェ状況で、もう『先生ごっこ』なんてナシだ。

 

 そういや、この武器はこうやって撃つんだったか? もしかしたら弾が出たりしてな。

 俺はリトルマシンガンⅤを構え、右手でトリガーを引いてみると──

 

 ガガガガガガッ!!

 

 バレルが回転するとともに、白く発光する弾丸のような物が勢い良く何十発も放出された。

 それは距離が伸びるにつれて光が弱まり、ロボット兵に命中すると破裂して(ちり)のように消えていく。

 

 しかし、装甲には浅い傷が残る程度で、あまりダメージを与えられたようには見えなかった。

 

「少しは効いたが……その程度か? ソウルリンクと言ったな。すばしっこいだけで、力はからっきしのようだな!」

 

 クソッ、どうなってんだよコレ。

 攻撃が当たったにしろ、こんな豆鉄砲みてぇな弾じゃ意味ねぇんだよ。

 

 ……それにしても、背中を伝うエネルギーの感覚がじわじわと弱まってきている気がする。

 嫌な予感がして十六夜の方を振り向くと、明らかに様子がおかしい。口を僅かに開けて肩で息をしている。どう見ても余裕は無さそうだ。

 

「おい十六夜、息が荒いぞ。大丈夫か?」

 

「あ……はい、大丈夫です! 少し体調が悪いだけですので……☆」

 多少掠れた声だが、いつもの元気な調子で返事をする。当然笑顔も忘れていない。

 

 明らかに怪しいな、コイツ。

 前と同じ要領で、もう一度心の中を覗いてやるか──

 

≪先生に心配をかけちゃいけません。何事もなかったように、しっかり振舞わないと……!≫

 

 やっぱりか。

 ったく、変に強気ぶってんじゃねーよ。

 十六夜の息切れから考えると、この光の弾を出す時は何かしらのエネルギーを消耗するのかもしれない。

 

 まぁいい。弾が出ねぇ事を最初から想定していた。

 俺がこの武器を利用する本当の目的は──

 

「そうか、分かったぞ。その力が二人で成り立つのであれば、もう『片方』に攻撃すればいいだけの話だ!」

 突然ロボット兵が声を上げ、十六夜に照準を合わせる。

 

 十六夜は地面に膝をつき、ただ俺の戦いを見守っていた。

 戦闘態勢なんざ取れるはずもない、その姿に向かって──トリガーを引いた。

 

 銃弾は十六夜の二の腕に当たり、同時に俺にも針で刺されたようなチクッとした感覚が走った。

 ──まさか、俺にもダメージが……!?

 

「いたっ……! でも、この程度なら全然平気です!」 

≪あらっ……? さっきは力を吸われた感じがしたのに、今は痛いだけ……?≫ 

 

 どうやらソウルリンクのお陰で、さっきみたいに力を吸われる現象は無くなっているようだ。

 だがそんなコトより、俺はコイツのやり口が気に食わねぇ──

 

「……おいテメェ、何してくれてんだ。俺を殺すのが目的だろ……?! 関係ねぇコイツに銃撃たァ、ふざけた真似してんじゃねェ!」

 

 怒りが爆発した瞬間、体の奥底から熱いモノが湧き上がってきた。

 感情がマグマのように煮えたぎり、全身を熱く満たしていく。

 手に持っているマシンガンすら、木製バットのように軽く感じる。

 

「クッ、化け物め! さっさとくたばれ!」

 ロボット兵は俺の形相に怯えているのか、でたらめな位置に何度も射撃を続ける。

 

 こんなモン避けるまでもねぇ──

 が、運悪く一発だけ俺の膝元に直撃してしまう。

 軽いジャブをモロに食らった程度の痛みがしたが、弾は身体を貫かず出血すら無い。

 

 この耐久力……俺もキヴォトスの連中みてぇな身体になったってコトか……?

 

「よし、当たったぞ! 馬鹿め、油断したな!」

 しくじった、こんな雑魚相手に俺が……!? 油断しすぎたか……!

 となるとアイツも……?

 

 横目で十六夜の様子を窺い、意識を向けてみる──

≪っ……どうしてこんな激痛が……!? 苦しい……でも我慢しないと……≫

 苦しさを隠して顔をほんの少しだけ歪めつつ、必死に耐えている十六夜。

 

 この程度のダメージでなぜここまで……? 

 ……いや、今はそれどころじゃねぇ。

 光の紐越しに伝わってくる感覚はほんの僅か。ソウルリンクも長くは持たないかもしれない。

 

 右手一本でマシンガンの取っ手だけを掴み、足で地を蹴り上げて一気にロボット兵へ迫る。

「貴様、まさか──」

 

 [b:銃が撃てねェなら──鈍器代わりにしてブン殴るッ!!]

 

 俺はマシンガンを片手でフルスイングし、ロボット兵の腹部めがけて渾身の力で叩き込む。

 装甲の一部が大きく凹み、グラウンドの端まで一直線にかっ飛んでいく。

 そのままゴールポストに豪快に激突し、支柱ごと大きくズレ動いた。

 

 『カーン!』という金属音が、戦いの終わりを告げるように響き渡る。

 ロボット兵はうつ伏せのまま、微動だにしなかった。

 

 しばらくすると、装甲を覆っていた黒いオーラがスッと消えた。

 装甲の損傷も、まるで最初から何も無かったかのように元通りになっていく。

 ……一体、俺達は何と戦ってたんだ……?

 

「先生……ご無事で……よかった、です……!」

 弱々しい十六夜の声に続いて、ドサッと倒れる音が耳に届いた。 

 

 何事かと背後を見てみると、横向きに倒れている十六夜の姿があった。

 

 その瞬間、俺達を繋いでいた『光る紐』がふっと消えた。

 右手のリトルマシンガンⅤが急に重くなり、思わず腕ごと下へ引っ張られる。

 

 ──何だコレ、めちゃくちゃ重いじゃねぇか……!

 両手で必死に持ち上げても、支えるので精一杯。

 とてもまともに撃てる重量じゃない。

 

 普段からこんなのを平然と扱ってた十六夜、ある意味コイツもバケモンなんじゃねぇか……?

 まぁ、さっきまで片手でブン回してた俺の方がよっぽどバケモンだけどな。

 

 いや、ひょっとすると──コレがキヴォトスの『普通』なのかもしれねぇ。銃で撃たれても平気な連中だしな。

 

 ……っと、コイツをよく見てみれば、あれだけ乱暴に扱ったのに傷一つ付いちゃいねぇぞ。

 こりゃ、身体だけじゃなく武器も同時に強化される仕組み……かもしれねぇな。

 

 そんな事を考えていると、ガシャリと金属音が響いた。

 音のした方へ振り返ると、さっきまで気絶していたロボット兵が、何食わぬ顔で上体を起こしてこちらを見ていた。

 

「あれ……? なぜこんな所に……?」

「アビドス高校のグラウンドだが、何も覚えていないのか?」

「……何も、記憶が……いや、これはまずい。持ち場に戻らなければ……!」

 

 ロボット兵は武器を手に取ると、地面にくっきりと足跡を残しながら、真っ直ぐ校門の方へ駆けていった。

 この反応を見るに、操られてたのは間違いねぇな。

 

 となると、黒幕がどこかにいるって事になるんだが……。

 ロボット兵一体でさえギリギリ倒せたレベルだし、正直ソウルリンクって仕組みも分からねぇ事だらけだ。

 何となく力が出たってだけで、どうすればもっとモノに出来るのかサッパリ掴めてねぇ。

 

 次に似たようなヤツらとぶつかったら、コレを使いこなせてない『俺達』がやられるだけだな……。

 

 

4.ゆるふわ女子の介抱

 

 で、現状の問題は……ここでブッ倒れてる十六夜をどうするかだ。

 頭上にあるはずのヘイローが消えてるって事は、恐らく今は意識が無いんだろう。

 

 この世界の生徒には必ず『ヘイロー』っていう天使の輪っかに似たものが頭上に浮かんでいて、形は生徒によって様々で個性がある。

 ただ、これ自体は光みたいなもので、物理的に接触する事は出来ない。

 つまり、ホログラムみたいなモンだと思っときゃいい。

 

 十六夜のヘイローは、黄緑色の二重丸と、外側に葉っぱ状の飾りが三つ──左右と下に付いてたはずだ。正直細部まではあやふやだが、大体そんな所だろう。

 

 とりあえず、コイツを対策委員会の教室まで運ぶとしてだな……もしかして、背負うしかねぇのか?

 仮に放置したとして、この状況を誰かに見られちまったら説明するのも面倒臭ぇし……やるしかねぇか。

 

 両手に抱えたリトルマシンガンⅤを一旦手放し、十六夜の方へと向かう。

 一応何度か揺すってはみるも、起きる気配が一向に無い。

 ……そう都合よく起きてくれるワケもねぇか……。

 

 俺は十六夜の両腕を自分の首元でクロスさせ、太ももの下に腕を回して一気に立ち上がる。 

 その瞬間、背中の上辺りで妙に柔らかい何かがグニッと押し潰される感触が、ズッシリとした質量ごと伝わってくる。

 

 ……いくら年が離れてるとは言っても、流石に意識せざるを得ねぇな。

 背中のムズムズした感覚に苛立ちながら、俺はさっさと目的地に向かって歩き出した。

 

 ──十六夜を背負ったまま対策委員会の教室に入り、ソファの上に降ろして仰向けで寝かせてやる。ヘイローはまだ消えたままだ。 

 ったく、ショッピングの荷物運びに続いて、こんな重労働までやらされるとは思わなかったぜ……。

 

 見れば、砂埃で服も髪もだいぶ汚れてやがる。

 汚ぇまま放っておくのも何だし、少しは綺麗にしてやるか。

 

 何か拭くモンは……と、教室の出入り口付近にある引き出しを漁る。ちょうど良さそうなタオルを発見。それを手に取り、十六夜の身体を拭いてやる。

 

 こういう汚れ、一度目に付いたら気になっちまうんだよな。

 拭き終えたタオルを見ると、砂色でビッシリ。雑巾みてぇになっちまった。

 

 しっかし、一向に目覚める気配がねぇ。まさか死んでるとかねぇだろうな。

 一応、確かめてみるか……?

 

 俺は十六夜の胸元に目をやる。さっき自分の背中に当たってた物体の正体を思い出し、『そりゃあ、あの質量感になる訳だ』と納得してしまう。

 

 そっと顔を寄せて、心臓の辺りに耳を当ててみる。

 フニっとした柔らかい感触の奥から、ドクンドクンと確かな鼓動が聞こえてきた。

 ……なんだ、ちゃんと生きてるじゃねぇか。

 問題無さそうだと判断し、顔を離した。 

 

 大テーブル近くにあるパイプ椅子の向きを反対にして座り、十六夜の様子を観察しながら頭の中で現象を整理する。

 本当はアロナに色々聞きたい事があったが、こんな時に限ってシッテムの箱はバッテリー切れだからな……。

 

 ソウルリンク──元々この世界には無く、シッテムの箱によって即興で生み出された力らしい。

 あの時突拍子もなく、今目の前で寝込んでいる十六夜と無理やり『リンク契約』なんて物騒なのを一方的に押し付けられた。

 

 それと引き換えに、銃弾を避けたりリトルマシンガンⅤを片手持ちしたりと、短い間だが人間離れした力を得られた。

 

 だが、生成されたエネルギー弾は威力が低く、敵にほとんどダメージを与えられなかった。

 確か、あの機械音声は『感情の強度はシステムレベルの向上に直結する』って言ってたが……コレと関係あるのか?

 

 俺がブチギレた時は、体の奥底から灼けるような熱が一気に溢れ出してきて、あの鉛みたいに重いマシンガンでさえ棒切れのように軽々と振り回す事が出来た。

 

 つまり、キレればキレるほど強くなるって寸法か? 

 いや、単純に怒ればいいってだけじゃなさそうだ。 

 

 感情の『種類』で力の出方そのものが変わるって可能性も考えられる。

 悲しみ、不安、喜び、怒り……感情なんて挙げ出したらキリがねぇしな。

 だが、それよりも気になるのは──戦闘が終わった途端に十六夜がブッ倒れた事だ。

 

 キヴォトスの人間は俺よりかはずっとタフなはず。それなのに、なぜか俺自身は何とも無い。多少疲れは残ってるが、日常のくだらん業務と変わらないレベルだ。

 

 俺がとんでもない潜在能力を持ってるから平気なのか、あるいは別の原因なのか……。

 ダメだ、これ以上考えても分かんねぇ。

 

 結論として、ソウルリンクの力を引き出すには『感情の強さ』が関わってるのは分かった。

 それだけでも上出来だろ、初回にしちゃあな。

 

 ──で、いつまで寝てるつもりだ?

 十六夜を横にしてから2時間近く経つってのに、まだピクリとも動かねぇ。

 もう日が暮れそうだし、そろそろ帰りたいんだが……。

 ……チッ、起きるまでじっくり待つとするか。

 

 この『お人好し』みたいなヤツそのものには興味はねぇが、感情を利用した力には興味がある。

 ソウルリンクの謎を暴く為だ。明日からお前をしっかり利用させてもらうぜ。

 

 ひとまず軽くつねってみれば反応するんじゃないかと、十六夜の手に指を伸ばす。

 

 

5.奇妙な関係の始まり

 

 その指先が触れた瞬間──不意に目を覚ましたコイツとバッチリ視線が合う。

 

≪私、あのとき倒れて……目の前にいるのは先生……?≫

 十六夜の心の声らしきものが聞こえてくると同時に、どこか少しだけ冷たくて落ち着かない、水の中でグルグル渦巻くような感覚が流れ込んできた。

 本能的に嫌な予感を察知して、十六夜の手を離す。

 

「ここは、対策委員会の教室でしょうか……?」

「ああ、君があの後、突然倒れ込んだからな。グラウンドからここまで運んで来たんだ」

 

「先生が私を……? ご、ごめんなさい! ご迷惑をおかけしてしまって……!」

 十六夜はおどおどしながらも、すぐに頭を下げる。

 

「なに、別に余計な事は考えなくてもいい。生徒を助けるのが先生としての務めだからな」 

「あの……先生がいてくださって、本当に助かりました……。ありがとうございます」

 十六夜は控えめに微笑んだが、その視線はどこか後ろめたさを感じているようにも見えた。

 

「ところで、だ……十六夜。君が目覚めた時、何か違和感は無かったか?」

 

「違和感……ですか……? えっと……それは……」

 十六夜は口ごもった後、視線を下に落としたまま黙り込んでしまった。その仕草から、何か隠している事は明らかだった。

 

「遠慮するな。正直に話してくれ」

「はい、分かりました……。あの、私……聞こえたんです……。頭の中で、先生の声が……」

 チッ、ビンゴか。厄介な事になっちまったな。

 

「……どんな言葉が聞こえてきた? 正直に言ってくれ」

 動揺する様子を見せず、普段通りの調子を維持する。

 

「えっと……『こんなお人好しに興味はないが、ソウルリンクの謎を暴くために利用させてもらう』って……。で、でも……! 私、疲れているだけだと思うんです……。先生がそんなこと言うはずがないですし……」

 

「そうか。他に何か感じなかったか?」

「はい、先生が近くにいるはずなのに、まるで別の人みたいに冷たくて……。私を遠ざけているような、そんな感じがしました」

 

「ふん……それで?」

 

「ですが、それが先生の本心じゃないと信じてます。先生は、本当は優しい方だと思うので……」

 俺はふっと小さく笑って『取り繕った教師』という仮面を外し、腹の底に隠していた本音をそのまま顔に出す。

 

「……そうか、そうかよ。ホント、とびっきりのお人好しだな、お前」

「……えっ……先生……?」

 十六夜は丸い目を大きく見開いたまま、今しがた俺が口にした言葉が本当に現実なのか、信じられないといった表情でこちらを見ている。

 

「優しいだと? 笑わせんな。俺はお前を利用する価値のある人間でしか見ちゃいねぇ。モモトークで誘いに乗ったのも、単にお前がどんな人間なのかを観察する目的ってだけだ。……だが、結局はつまらねぇヤツだった。俺の退屈すら満たせねぇ程度にな」

 

 心の声が共有される仕組みがある以上、どうせいつか本性はバレちまう。

 なら、今ここで全部言ってしまった方が合理的だと俺は判断したが、これでもう──

 

「……私、それでも構わないです」

「なッ……!?」

 ここまで突き放したにも関わらず、この返事は一体どういう神経してんだ……?

 

「たとえそんな風に思われても……私、先生のお役に立ちたいんです」

「……お前、正気か?」

 常識的に考えてありえねェ。自分にとってのメリットも無く、損を引き受けるヤツがどこにいるんだよ。

 

「それに……やっぱり先生は、悪い人じゃないと思うんです。以前、教室の掃除だって一緒に手伝ってくださいましたし、今日は倒れている私をここまで運んでくださったんです。そんな先生が、どうしても悪い人には見えません。きっと、先生には過去に辛いことがあったんじゃないかなって思うんです。私、そういうのを抱えて過ごしている人を見てきましたので……」

 

「クッ……ハハッ! お前、なかなか面白れェ事言ってくれるじゃねェか。ここまで言われても俺を信じるとはな。──だがその諦めの悪さ、逆に気に入ったぜ」

 

「……そうですか! 先生に気に入っていただけて、本当に嬉しいです! そう言ってもらえるなんて、思ってもいませんでした☆」

 その声からは、明らかに十六夜のテンションが高くなっているのが感じられた。

 

「おいおい、そんなに喜ぶコトかよ? 別に褒めるつもりで言ったワケじゃねェんだぜ? ……まあいい。そんなに嬉しそうにしてんなら、ついでに新しい呼び名でも考えてやるか」

 

「えっと……私の呼び名、ですか? 対策委員会のみんなからは、『ノノミちゃん』や『ノノミ先輩』みたいに下の名前で呼ばれていますが……」

 

「それだとありきたり過ぎてつまらねぇな。十六夜だから『イザノノ』ってのも悪くねぇが、ちと長ぇ。『イザっち』や『ノノっち』は……俺がそんな呼び方したら気持ち悪ィから却下。もっとマシなのは……」

 

「あの……先生……?」

 きょとんとした顔で俺を見つめているが、俺はそんな十六夜の反応など気にも留めない。

 

「よし、ノノだ。今後はそう呼ばせてもらうぜ。短いし呼びやすいってのもあるが、こっちの方が面白ェだろ?」

 

「わぁ☆ 素敵な呼び名を考えてくださって、ありがとうございます☆ 『ノノ』って少し幼い感じもしますが……逆に特別感があって、とってもいい響きですね☆」

 

 適当なノリで決めただけだってのに、よくもまぁこんなに嬉しそうに出来るもんだ。

 こんな時にこそ、さっきみてぇに念じるだけで心の声が聞こえりゃ、コイツが本気で喜んでるかどうかが分かって便利なんだがな……。

 

「……さて、本題に移るぞ。数時間前のマーケットガード兵との戦闘中、俺達の間で不思議な力が発動しただろ? あれはソウルリンクと言って、俺とお前専用のかなり特殊な代物らしい」

 

「えっと、『ソウルリンク』ですか……」

 

「とは言え、現状はコイツについて分からねぇ事だらけだ。なんせ、マニュアルと言えるモンも無さそうだからな。……んで、能力解明の為に明日から色々検証していくって訳だ。ビシバシ付き合ってもらうから、よろしく頼むぜ」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします! 先生のお役に立てるよう、頑張りますね☆ ……それに先生、これからは隠し事はなしですよ? だって私たち、『ソウルリンク』で特別に繋がった運命共同体なんですから☆」

 ウインクまで添えて、心底嬉しそうに笑みを浮かべてくる。

 

「あぁ、そうだな」

 『運命共同体』、ねぇ……。確かに言い得て妙だな。コイツにしては冴えてやがる。

 つっても、こんなヤツと運命を共にするなんてあり得ねぇ話だぜ。

 

 こうして、俺とノノ──超合理主義者と超お人好し──どう考えても相性最悪な二人の奇妙な関係が始まった。

 

「……っと、肝心なのを忘れてた。グラウンドにお前の武器が放りっぱなしだったな。取りに行くぞ、ノノ」

 

「はい! 先生☆」

 

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