二人きりのランチを楽しんだ後、先生はノノミと共に、二人を結ぶ特殊な能力『ソウルリンク』の実験を始める。
まだ誰にも明かせないその力を、二人はどこまで解き明かせるのか──
1.二人きりの優雅なランチタイム
アビドスを出て、シャーレへ向かう電車に乗る。
車内は思ったより空いていた。
窓の外では、砂に埋もれかけた住宅地の跡が少しずつ後ろへ流れていく。
今でこそ寂れた場所に見えるが、以前はキヴォトス最大の学園都市と呼ばれていたらしい。
隣に座るノノは、武器を入れた携行ケースを空いた座席に立てかけ、眉を少し下げて気まずそうに笑いながら俺に話しかける。
「えっと、ホシノ先輩たちに嘘を言ってしまったのは、ちょっと気まずかったんですが……これでよかったのでしょうか……」
「むしろそれ以外にマシな言い訳があると思うか? いきなり『ソウルリンク』なんて伝えたら話がややこしくなるだろ」
「そ、そうですよね! もしそのまま伝えたら混乱させてしまいそうですし」
ソウルリンクの仕組みは俺ですら完全には理解出来ていないし、そんな情報を口外するのは現状リスクが高すぎる。
もし対策委員会との間で面倒な揉め事なんて起きてしまったら、それこそ都合が悪い。
「ところでお前、その武器ケースをさっきまで肩に引っかけて歩いてたが……重くて肩凝ったりしねぇのか?」
「いえ、慣れているので平気です! こう見えても私、けっこう力持ちなので☆」
……つくづく思うが、キヴォトスの生徒は謎が多い。
やたら身体が頑丈だったり、ノノのようにどう見ても筋肉質じゃねぇのに、力がかなり強かったり……。
もしかして、ヘイローが付いてるとそういう特異体質になったりするのか?
そんな疑問が頭をよぎった直後、車内アナウンスが流れた。そろそろシャーレの最寄り駅に着くらしい。
「そろそろ降りるぞ」
「はい! 忘れ物は……大丈夫そうですね」
電車のドアが開くと、俺達は駅のホームへ降りた。
──そのままシャーレの建物へ向かい、エレベーターで上階へ上がる。
しばらくして、見慣れたオフィスの扉の前まで戻ってきた。
ノノは俺より一歩遅れて部屋に入ると、ぱちぱちと瞬きをしていた。
「わぁ、先生のお仕事場、すごく素敵ですね! 今まで一度も来たことがなかったので、なんだか新鮮です~☆」
「別に大した場所じゃねぇ。一人で使うには無駄に広いスペースだが、置いてあるモンは必要最低限だ。来客用のソファやテーブルもあるし、一応寝泊まりは出来なくもねぇがな」
「先生は、ここで寝泊まりしたことがあるんですか?」
「いいや、一度も。残業なんてまっぴらゴメンだし、面倒な仕事はチャッチャと終わらせて帰っちまうからな」
そう言ってから、俺はノノの武器ケースに目を向ける。
「……で、さっきから肩に引っかけてる黒いの、降ろしちまえよ。長時間そのままなら、流石に身体に負担が掛かるだろ」
コイツが無理してるって可能性もゼロじゃねぇ。 疲労が蓄積して実験に影響が出たら、俺が困る。
「……あ、はい。ありがとうございます☆ えっと……このケース、どちらに置けばいいでしょうか?」
「そこの壁際にでも立て掛けておけ。どうせすぐ使う訳でもねぇからな」
「分かりました! では、こちらに置かせていただきますね☆」
ノノは言われた通り、ケースを壁際に立て掛ける。
なぜかその表情は、先ほどより少し柔らかくなっていた。
時計を見ると、時刻はちょうど十二時を回っていた。
「もう昼か。そろそろ飯に──」
「あっ、先生! それでしたら、お昼にしませんか?」
俺が言い終えるより先に、ノノが待っていたように口を開く。
「実は、先生と一緒に食べられたらと思って、少し準備してきたんです☆ そろそろ届く時間だと思うので、一度1階の玄関に向かいますね」
「『届く』って、何がだ? まさかお前、出前でも頼んだのか?」
「はい! せっかくですし、美味しいお食事でもと思いまして☆」
「……ああそうか、じゃあ取りに行ってこい」
「それでは、少し行ってきますね!」
ノノは軽く頭を下げると、どこか弾むような足取りでオフィスを出ていった。
コイツ、ここまで気を利かせてきやがるとは……。
あれだけ『お前を利用する』と強く言ったのに、一体どんな神経してんだ?
ソウルリンクの同調モードを使いたいトコロだが、どうにか俺の心の声まで共有されない方法がねェものか……。
少しして、ノノが大きめの灰色のビニール袋を提げてオフィスに戻って来た。
「先生、特注のお弁当を持ってきましたよ☆ あちらのソファで食べても大丈夫でしょうか?」
「好きに使え。俺は自分のデスクの上で食う」
「あの……先生も、もしよろしければソファの方で召し上がりませんか? デスクだと、お仕事の邪魔になってしまうかもしれませんし……」
「別に邪魔になる事はねぇが。こっちの方が食いやすいと思ってな」
「そうですよね……! 先生の背丈ですと、ソファだと少し食べにくそうですよね……」
ノノは柔らかく笑っていたが、ただ納得しただけの顔には見えなかった。
「……と、思ったが、ソファで食う事にする。ソファとデスクの位置は離れてるし、会話するにもやりづれぇからな」
「ごめんなさい、私のわがままみたいになっちゃいましたね……。それでは、一緒に食べましょうか☆」
ノノは袋をテーブルの上に置き、中から弁当を取り出す。
出てきたのは、黒い箱に収められた、やたら高級感のある弁当だった。
蓋を開けた瞬間、バターとハーブの香りがふわりと広がる。
黒い箱の中には金色の仕切りがあり、まず目についたのは、殻ごと豪快に盛り付けられたロブスター。
その隣には、薄く切られたローストビーフが何枚も重ねられ、赤い断面に黒胡椒とソースが添えられている。
他にも、彩りの良い野菜のサラダやクリームチーズ、スモークサーモン、マッシュポテトまで入っていた。
端の仕切りには、小さなデザートまで詰められている。
……弁当って、こんなに貴族みてぇな食い物だったか?
「先生のお口に合うか分かりませんが……せっかくなので、デパートで一番高いお弁当を選んでみたんです。フレンチ風のオードブルみたいで、すごく華やかだったので☆」
「お前、普段からこういうの食ってんのか?」
「いえ、一人ではここまで豪華なものは食べません。普段は、ホシノ先輩たちと[[rb:柴関 > しばせき]]ラーメンに行くことが多いんです。セリカちゃんがバイトしているお店ですし、みんなで食べると楽しいので☆ それに、こういうお弁当は、特別な時に誰かと一緒に食べる方が素敵だと思いまして……。今日は先生と二人きりなのもありますし、少し奮発してみました☆」
別に誰かと食おうが食わまいが、味なんて変わらねぇと思ったが……突っ込むのはやめておくか。
「ほう、そうか。わざわざ手配してご苦労なこった。てか、見た所だと飲み物が無さそうだが……冷蔵庫にある備蓄の水でいいか? あいにく、高級ミネラルウォーターなんてモンは備えてなくてな」
「いえいえ、そんな……! お水で大丈夫です。先生がそうやって気にかけてくださるだけで、私には十分特別ですから☆ ……えっと……すみません、飲み物のことまで気を遣わせてしまって」
「……ま、ミスなんて誰にでもある。そもそも、お前に弁当や飲み物を用意しろって指示してねぇからな。じゃ、ちょっと待ってろ」
俺はソファから立ち上がり、オフィスの隅に置かれた冷蔵庫の方へ向かった。
冷蔵庫のドアを開けると、中には透明なペットボトルだけが何本か並んでいる。
その中から500ミリのペットボトルを二本取り出してソファ前のテーブルまで戻り、弁当の横に置いた。
「ほら、これでいいだろ。飲みモンも揃ったし、そろそろ食っちまうか。お前も立ってねぇで、さっさとそこに座れ」
そう言って俺はソファに座り、高級フレンチ弁当を食べ始める。
フレンチらしく、カトラリーはプラスチック製のナイフとフォーク。少々食べづらいが、貴族気分を味わうには持って来いだろう。
まずはローストビーフを一枚、口の中に放り込む。
噛み締めるたびに赤身肉の旨味が溢れ、程良い柔らかさで舌の上でほろりとほどけていく。
『こりゃ上モンの肉だ』と、数口噛んだだけですぐに分かった。
「……どうでしょう、美味しいですか?」
少し不安そうに見えなくもない笑みで、こちらの反応を窺ってくる。
「……めちゃくちゃうめェじゃねえか。やるな、お前」
あまり褒めるつもりは無かったが、予想外の味の良さについ口に出てしまった。
「本当ですか? よかったです! 先生にそう言っていただけるなんて、選んだ甲斐がありました☆」
ノノは、ほっとしたように表情を緩めた。
「普段こんなモン食ってなかったからな。こりゃ10分もしないうちに食い終わりそうだ」
そう言った直後、俺は会話そっちのけで弁当を食い始める。
本当に美味い食い物を口にすると、思わず無言になってしまうのはよくある事だ。
──食い始めてから少し時間が経った所で、ノノの方を見てみる。
ずっと俺の方を見ているが、さっきから全く弁当に手を付けていない。
「お前、食わねぇのか? もしそうなら貰っちまうが」
「あっ……すみません、先生の反応が気になって、つい見入ってしまいました☆ 私、今日はあまりお腹が空いていないので……もし足りないようでしたら、私の分も少し召し上がりますか? このお弁当、見た目は豪華ですけど、量はちょっと控えめですし……」
「いいのか? じゃあ遠慮なく貰うぞ」
確かに、言われてみればボリューム感は少なめだ。
米やパンなどの主食が無いので、腹持ちはあまり良くないかもしれない。
「このお肉、もしよかったら、全部取っていただいても構いませんよ☆ 先生が美味しそうに食べてくださっていたので」
「全部は要らねぇよ、お前も食え。腹減ってなくても栄養は補給しとけ。貴重なタンパク源だ」
「……うんうん、そうですね☆ 午後のために栄養補給は大事ですし、私もちゃんと食べないとですね。……えっと、他にも食べたいものがあれば言ってくださいね?」
「いや、後は大丈夫だ。もし食い切れなきゃ残しとけ。冷蔵庫に保管しておいて後で俺が食う」
「はい、分かりました☆ お気遣いありがとうございます」
それから、俺は残りの弁当を黙々と食い進めた。
俺の方は、宣言通り10分弱でほとんど空になる。
──最後に水を一気に飲み干し、ペットボトルをテーブルの上に置く。
「ごちそうさん」
「ごちそうさまでした☆」
ノノの弁当を見ると、まだ7割近く残っていた。
「もう『ごちそうさま』なのか? 冷蔵庫に入れちまうが、いいんだな?」
「はい、大丈夫です! 食べない分は最初から分けてありますので、手は付けていません。先生がよろしければ、後でゆっくり召し上がってくださいね」
……最初から俺に回すつもりで分けてやがったのか。
なぜそこまでして俺に食わせようとするのかは分からねぇが、ありがたく晩酌のアテにでもするか。
冷蔵庫にしまう前に中を確認すると、ロブスターには全く手が付けられていなかった。
「そろそろいい時間だな。今は12時50分か。13時丁度にはここを出る。トイレに行くなら今のうちに済ませておけ」
「13時ちょうどですね。では、少しお手洗いに行ってきます」
──食後の休憩を挟み、13時を迎える。
いよいよ、お待ちかね『実験』の時間だ。少しだが俺の好奇心が[[rb:疼 > うず]]いてきた。
「時間になったんで、これから1階の射撃場に移動する。武器を持っておくように。実際に使うからな」
「武器、ですか……? とりあえず、持っていけばいいんですね」
「そりゃ疑問に思うだろうな。説明は移動後にしてやる、行くぞ」
俺とノノはオフィスを出て、そのまま射撃場へ向かった。
2.射撃実験
エレベーターで1階まで降り、中央のエントランスから射撃場へ入る。
防音材に囲まれた室内には、射撃レーンと標的がいくつも並んでいた。
人の気配は無く、実験をするには都合がいい場所だ。
ノノは武器ケースを抱えたまま、少し落ち着かない様子で辺りを見回していた。
「……誰かに見られたらどうしようって、少し心配していたんです。ソウルリンクのことは、まだ秘密なんですよね?」
「念のため、射撃場はメンテナンス中って事にして人払いしてある。もちろん嘘だがな」
「そうだったんですね……。ありがとうございます、先生。……でも、メンテナンスじゃないのに『メンテナンス中』って言ってしまって、大丈夫なんでしょうか……?」
「気にすんな。あんまりココを使う生徒はいねぇし、バレるリスクは低い。それより、さっさと実験を始めるぞ」
「はい、よろしくお願いします。……それで、私は何をすればいいんでしょうか?」
「前みたいにソウルリンクを発動させてぇ所なんだが……まずは発動前の状態を確認したい。基準が分からねぇと比較も出来ねぇからな。という訳で、普通に撃ってみろ」
「分かりました。まずは普段通りに撃てばいいんですね」
ノノはリトルマシンガンⅤを軽々と両手で構え、標的に向けてトリガーを引く──バレルの高速回転と同時に10発近い弾が一気に放たれるが、的に当たったのは数発程度。
やはり、反動で狙いが定まりにくい武器なのかもしれない。
「あら? おかしいですね……いつもはもっと命中するはずなのに……。グローブがないからでしょうか……」
「お前昨日もしてなかったが、無くしちまったのか?」
「はい……昨日から見当たらないんです。今朝も探してみましたが、見つからずじまいで……。グローブを着けていると、手元が安定するといいますか……滑りにくくなるんです。指先は出ているので、トリガーの感覚もちゃんと分かりますし……」
「それなら後で俺が買っておいてやる。アビドスからだと、まともに買い物出来る店は遠いんだろ? シャーレ近くの店に売ってそうだし、指抜きグローブくらいなら大した出費にならねぇ」
「いえいえ、そんなの申し訳ないです……! 自分で買えますし、先生にご迷惑をおかけするわけにはいきませんので……!」
「そうか? まぁ、お前の手のサイズが分からねぇから、自分で買った方がまだ合理的か。……それは置いといて、ノノ、お前の武器を撃ってみてもいいか?」
「えっ、私の武器を……ですか? 慣れていないと、先生にはちょっと重いかもしれませんが……」
「いいから貸せ」
俺はノノからリトルマシンガンⅤをぶんどった途端、重みがズシンと身体全体にのしかかる。
クソッ、あれだけ軽々と持てたってのに……なぜか負けん気が頭をもたげる。
何とか武器を構え、右手でトリガーを引くと──凄まじい反動に腕を持っていかれ、銃口が上下に暴れてしまう。
的どころか、天井や床に着弾する始末。
「先生、あまり無理をなさらない方が……」
心配そうな顔で俺の方を向くノノ。今の俺にとっては憐れみの目にすら見える。
「……いや、これでいい。ソウルリンクの発動前後で、どれだけ武器の撃ちやすさが変わるかを検証したかっただけだ」
とは言ったものの、負けず嫌いな俺のプライドは多少なりとも傷ついていた。
どう見てもがっしりした体格じゃないノノが、あんな重い武器を汗一つかかずに扱える。
どこにそんな力が詰まってんだ? もしかしたら、アイツのやたらデカいモンの中に──
ふと、ノノの顔から下へ視線が落ちる。
「先生、どうかしましたか?」
「……いや、何でもねぇ。次の実験に移るぞ」
流石にそれはねぇか……くだらねぇ。あるとしたら、あのヘイローってヤツの力だろう。……確証はねぇが。
「次といいますと……ソウルリンクの発動ですか? ですが、昨日みたいにうまくいくでしょうか……」
「発動条件については解析済みだ。どうやら、『肌の接触』と『闘志を持つ事』が条件らしい。今は敵がいねぇ訳だが……あの的を敵だとイメージすれば、この二つを満たせるだろ。多分な」
「……分かりました、やってみます!」
ノノは真剣な顔になって返事をする。心の準備は出来ているようだ。
「よし、早速だが手を出せ。肌の接触なら、こうした方が早い」
「手、ですよね……。えっと、その……」
ノノは突然顔を赤らめ、モジモジし始める。
……何をそんなに躊躇ってんだ? コイツ。
「おい、どうした。俺の手に触れるのがそんなに嫌か?」
「そんなわけじゃないんですけど……! ちょっと、恥ずかしくなってしまって……」
「恥ずかしい? 何言ってんだお前。いいからやるぞ」
「は、はい……!」
俺は、ノノの指先を軽くつまむ。
目の前の的を敵だと思い込もうとするが──何も起こらない。
「おいノノ、ちゃんとイメージしてんのか?」
「してはいるつもりなのですが、あの的を敵だと思うのが難しくて……」
「じゃあこうしろ。あの的を昨日の敵に見立ててみろ。何も出来なかった時の感覚を思い出せば、少しは敵として意識しやすくなるんじゃねぇのか?」
「それなら、なんとかできそうな気がしますが……手が触れたままですと……」
「ったく、めんどくせェな……。だったら、一旦手を放してやる。そんで、お前はさっき俺が言った通りに意識してみろ。準備が出来たら俺に声を掛ける。これなら出来んだろ?」
「す、すみません……。はい、それなら集中できそうです。お気遣い、ありがとうございます」
俺が手を放すと、ノノは少しだけ名残惜しそうに指先を引っ込めた。
だが、すぐに表情を引き締め、標的へ視線を向ける。
先ほどまでの照れは、もう残っていない。
その代わり、昨日の戦闘を思い出しているのか、口元がわずかに固く結ばれていた。
「……先生、準備できました」
「よし、そのまま的だけ見てろ。俺を見ずに、手だけこっちに出せ」
ノノは小さく頷いた。
標的から目を逸らさないまま、そっと右手を差し出すと──互いがうっすらと輝き、活力で全身が満たされていくのを感じる。
ノノの背中に目を向けると、昨日も見えた光る紐が伸びているのが分かった。
鎖みたいな形ではないが、俺達を繋ぎ止めてるって意味では似たようなものだ。
なら、『ソウルチェーン』とでも呼んでおくか。
「ソウルリンク、発動成功したな。もう手を放していいぞ。次は、この状態で同じように撃ってみろ」
「はい……! 昨日と同じ感じがします。さっきより、身体が軽いです……。撃ってみます」
ノノは差し出していた右手を引き戻し、リトルマシンガンⅤを構え直す。
グローブが無いという点では、先ほどと同じ条件だ。
だがトリガーを引いた瞬間、その差は明らかとなった。
反動で銃口がブレる事なく、連射された弾は標的の中心付近へまとまって着弾していく。
「先生、撃ってもほとんど反動を感じません! ソウルリンク、すごいですね☆」
ノノは軽く跳ねながら、キャッキャと声を弾ませている。
不思議な力を実感したからか、珍しく子供みてぇにはしゃいでやがる。
ガキっぽいのか大人っぽいのか分からねぇのが、コイツの面白い所なのかもしれねぇな。
「これで力を実感できたろ。次は俺の番だ、貸せ」
「はい、どうぞ♧」
ノノから手渡されたリトルマシンガンⅤを、片手でヒョイと持ち上げる。
先ほどまで身体全体にのしかかってきた重さによる負担は、今や微塵も感じられなかった。
俺は銃口を標的へ向け、そのままトリガーを引く。
連続した銃声が射撃場に響き、装填されていた『実弾』が次々と標的へ叩き込まれていくが──手元に返ってくる衝撃は拍子抜けするほど軽い。まるでエアガンでも撃っているような感覚だった。
やがて最後の銃声が響き、掃射が途切れた。
「ここからが本番だ、よく見ておけよ。今ので弾は一発残らず撃ち尽くした。だがソウルリンク発動中なら、エネルギー弾みてぇなモンをコイツから撃ち出せる。お前も昨日見ただろ?」
「はい。昨日、先生が弾のない状態で撃っていたのは見ました。でも、あれって先生の身体に負担はないんでしょうか……?」
「負担があるかどうかも含めて検証する。見とけ」
昨日は半ば思いつきで引き金を引いただけだった。
弾が無いはずなのに、白く光る弾丸のような物体が飛び出した。
なら、今やるべき事はその再現だ。
弾切れになったこの武器から、もう一度あの白い弾が出る──そう頭の中で決めつけるように意識を向けたまま、トリガーを引いた。
バレルが回転を始めると、銃口から白光の塊が次々と飛び出す。
光弾が標的へ着弾するたび、パァンッ、パァンッと乾いた音が射撃場に響いた。
プレートの表面には亀裂が増え、中心部から蜘蛛の巣状に広がっていく。
そして、連発された光弾が同じ箇所を撃ち抜いた瞬間──バコーンッ!! という一際大きな破裂音とともに、標的が耐えきれずに砕け散る。
標的を失った残弾は、そのまま後方の防護壁へ次々と叩き込まれ、壁面を大きく抉っていった。
「……すげェ破壊力だな。あん時とは大違いだ」
「ふふっ、これなら、向かうところ敵なしですね☆」
と、調子に乗っているノノへ目を向けると、息が少し荒くなっているのが分かった。
「お前、疲れてんのか? ソウルリンクの影響か?」
「えっ……? ……いえ、大丈夫です。ちょっと、びっくりしてしまっただけなので……。それより先生の方こそ、大丈夫ですか?」
そう言って笑っているが、呼吸はまだ少し整っていない。
「俺は何ともねぇが……とりあえず、休憩するか。これまでの実験結果を整理したい。あんまりぶっ通しでやっても、かえって逆効果だからな」
「それでしたら、先生が整理している間に、少し甘いものを用意してきますね。シャーレ内のコンビニなら、すぐ買ってこられると思いますし。それに、頭を使うときは糖分があった方がいいと思いますので☆ あと、何か確認したいことや欲しいものがあれば、すぐ言ってくださいね」
「買い物は別に構わねぇが、お前も少しは休めよ────って、待て。コレ、どうやって解除するんだ……?」
「先生……もしかして、ご存じないんですか……?」
「ああ、知らねぇ」
ノノの息は、先ほどよりも僅かに荒くなっている。
戦闘モードの発動中は、何もしなくても精神力を消費するらしい。
……いや、冷静に分析してる場合じゃねぇぞ、俺。
このままだと、結構マズいんじゃねぇか?