ソウルアーカイブ/N   作:ゼロシータ

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合理主義者の先生を待っていたのは、ノノミが用意したデパートで一番高い特製弁当。
二人きりのランチを楽しんだ後、先生はノノミと共に、二人を結ぶ特殊な能力『ソウルリンク』の実験を始める。
まだ誰にも明かせないその力を、二人はどこまで解き明かせるのか──


デパートで一番高い弁当を用意したノノミと、その真意が読めない合理主義先生|第四話「共犯」

1.二人きりの優雅なランチタイム

 アビドスを出て、シャーレへ向かう電車に乗る。

 車内は思ったより空いていた。

 窓の外では、砂に埋もれかけた住宅地の跡が少しずつ後ろへ流れていく。

 今でこそ寂れた場所に見えるが、以前はキヴォトス最大の学園都市と呼ばれていたらしい。

 

 隣に座るノノは、武器を入れた携行ケースを空いた座席に立てかけ、眉を少し下げて気まずそうに笑いながら俺に話しかける。

 

「えっと、ホシノ先輩たちに嘘を言ってしまったのは、ちょっと気まずかったんですが……これでよかったのでしょうか……」

 

「むしろそれ以外にマシな言い訳があると思うか? いきなり『ソウルリンク』なんて伝えたら話がややこしくなるだろ」

「そ、そうですよね! もしそのまま伝えたら混乱させてしまいそうですし」

 

 ソウルリンクの仕組みは俺ですら完全には理解出来ていないし、そんな情報を口外するのは現状リスクが高すぎる。

 もし対策委員会との間で面倒な揉め事なんて起きてしまったら、それこそ都合が悪い。

 

「ところでお前、その武器ケースをさっきまで肩に引っかけて歩いてたが……重くて肩凝ったりしねぇのか?」

「いえ、慣れているので平気です! こう見えても私、けっこう力持ちなので☆」

 

 ……つくづく思うが、キヴォトスの生徒は謎が多い。

 やたら身体が頑丈だったり、ノノのようにどう見ても筋肉質じゃねぇのに、力がかなり強かったり……。

 もしかして、ヘイローが付いてるとそういう特異体質になったりするのか?

 

 そんな疑問が頭をよぎった直後、車内アナウンスが流れた。そろそろシャーレの最寄り駅に着くらしい。

「そろそろ降りるぞ」

「はい! 忘れ物は……大丈夫そうですね」

 電車のドアが開くと、俺達は駅のホームへ降りた。

 

 ──そのままシャーレの建物へ向かい、エレベーターで上階へ上がる。

 しばらくして、見慣れたオフィスの扉の前まで戻ってきた。

 ノノは俺より一歩遅れて部屋に入ると、ぱちぱちと瞬きをしていた。

 

「わぁ、先生のお仕事場、すごく素敵ですね! 今まで一度も来たことがなかったので、なんだか新鮮です~☆」

「別に大した場所じゃねぇ。一人で使うには無駄に広いスペースだが、置いてあるモンは必要最低限だ。来客用のソファやテーブルもあるし、一応寝泊まりは出来なくもねぇがな」

 

「先生は、ここで寝泊まりしたことがあるんですか?」

「いいや、一度も。残業なんてまっぴらゴメンだし、面倒な仕事はチャッチャと終わらせて帰っちまうからな」

 

 そう言ってから、俺はノノの武器ケースに目を向ける。

「……で、さっきから肩に引っかけてる黒いの、降ろしちまえよ。長時間そのままなら、流石に身体に負担が掛かるだろ」

 コイツが無理してるって可能性もゼロじゃねぇ。 疲労が蓄積して実験に影響が出たら、俺が困る。

 

「……あ、はい。ありがとうございます☆ えっと……このケース、どちらに置けばいいでしょうか?」

「そこの壁際にでも立て掛けておけ。どうせすぐ使う訳でもねぇからな」

「分かりました! では、こちらに置かせていただきますね☆」

 

 ノノは言われた通り、ケースを壁際に立て掛ける。

 なぜかその表情は、先ほどより少し柔らかくなっていた。

 

 時計を見ると、時刻はちょうど十二時を回っていた。

「もう昼か。そろそろ飯に──」

「あっ、先生! それでしたら、お昼にしませんか?」

 俺が言い終えるより先に、ノノが待っていたように口を開く。

 

「実は、先生と一緒に食べられたらと思って、少し準備してきたんです☆ そろそろ届く時間だと思うので、一度1階の玄関に向かいますね」

「『届く』って、何がだ? まさかお前、出前でも頼んだのか?」

「はい! せっかくですし、美味しいお食事でもと思いまして☆」

 

「……ああそうか、じゃあ取りに行ってこい」

「それでは、少し行ってきますね!」

 ノノは軽く頭を下げると、どこか弾むような足取りでオフィスを出ていった。

 コイツ、ここまで気を利かせてきやがるとは……。

 

 あれだけ『お前を利用する』と強く言ったのに、一体どんな神経してんだ?

 ソウルリンクの同調モードを使いたいトコロだが、どうにか俺の心の声まで共有されない方法がねェものか……。

 

 少しして、ノノが大きめの灰色のビニール袋を提げてオフィスに戻って来た。

「先生、特注のお弁当を持ってきましたよ☆ あちらのソファで食べても大丈夫でしょうか?」

「好きに使え。俺は自分のデスクの上で食う」

 

「あの……先生も、もしよろしければソファの方で召し上がりませんか? デスクだと、お仕事の邪魔になってしまうかもしれませんし……」

「別に邪魔になる事はねぇが。こっちの方が食いやすいと思ってな」

 

「そうですよね……! 先生の背丈ですと、ソファだと少し食べにくそうですよね……」

 ノノは柔らかく笑っていたが、ただ納得しただけの顔には見えなかった。

 

「……と、思ったが、ソファで食う事にする。ソファとデスクの位置は離れてるし、会話するにもやりづれぇからな」

「ごめんなさい、私のわがままみたいになっちゃいましたね……。それでは、一緒に食べましょうか☆」

 

 ノノは袋をテーブルの上に置き、中から弁当を取り出す。

 出てきたのは、黒い箱に収められた、やたら高級感のある弁当だった。

 蓋を開けた瞬間、バターとハーブの香りがふわりと広がる。

 

 黒い箱の中には金色の仕切りがあり、まず目についたのは、殻ごと豪快に盛り付けられたロブスター。

 その隣には、薄く切られたローストビーフが何枚も重ねられ、赤い断面に黒胡椒とソースが添えられている。

 

 他にも、彩りの良い野菜のサラダやクリームチーズ、スモークサーモン、マッシュポテトまで入っていた。

 端の仕切りには、小さなデザートまで詰められている。

 ……弁当って、こんなに貴族みてぇな食い物だったか?

 

「先生のお口に合うか分かりませんが……せっかくなので、デパートで一番高いお弁当を選んでみたんです。フレンチ風のオードブルみたいで、すごく華やかだったので☆」

「お前、普段からこういうの食ってんのか?」

 

「いえ、一人ではここまで豪華なものは食べません。普段は、ホシノ先輩たちと[[rb:柴関 > しばせき]]ラーメンに行くことが多いんです。セリカちゃんがバイトしているお店ですし、みんなで食べると楽しいので☆ それに、こういうお弁当は、特別な時に誰かと一緒に食べる方が素敵だと思いまして……。今日は先生と二人きりなのもありますし、少し奮発してみました☆」

 

 別に誰かと食おうが食わまいが、味なんて変わらねぇと思ったが……突っ込むのはやめておくか。

 

「ほう、そうか。わざわざ手配してご苦労なこった。てか、見た所だと飲み物が無さそうだが……冷蔵庫にある備蓄の水でいいか? あいにく、高級ミネラルウォーターなんてモンは備えてなくてな」

 

「いえいえ、そんな……! お水で大丈夫です。先生がそうやって気にかけてくださるだけで、私には十分特別ですから☆ ……えっと……すみません、飲み物のことまで気を遣わせてしまって」

 

「……ま、ミスなんて誰にでもある。そもそも、お前に弁当や飲み物を用意しろって指示してねぇからな。じゃ、ちょっと待ってろ」

 

 俺はソファから立ち上がり、オフィスの隅に置かれた冷蔵庫の方へ向かった。

 冷蔵庫のドアを開けると、中には透明なペットボトルだけが何本か並んでいる。

 その中から500ミリのペットボトルを二本取り出してソファ前のテーブルまで戻り、弁当の横に置いた。

 

「ほら、これでいいだろ。飲みモンも揃ったし、そろそろ食っちまうか。お前も立ってねぇで、さっさとそこに座れ」

 そう言って俺はソファに座り、高級フレンチ弁当を食べ始める。

 

 フレンチらしく、カトラリーはプラスチック製のナイフとフォーク。少々食べづらいが、貴族気分を味わうには持って来いだろう。

 

 まずはローストビーフを一枚、口の中に放り込む。

 噛み締めるたびに赤身肉の旨味が溢れ、程良い柔らかさで舌の上でほろりとほどけていく。

 『こりゃ上モンの肉だ』と、数口噛んだだけですぐに分かった。

 

「……どうでしょう、美味しいですか?」

 少し不安そうに見えなくもない笑みで、こちらの反応を窺ってくる。

「……めちゃくちゃうめェじゃねえか。やるな、お前」

 あまり褒めるつもりは無かったが、予想外の味の良さについ口に出てしまった。

 

「本当ですか? よかったです! 先生にそう言っていただけるなんて、選んだ甲斐がありました☆」

 ノノは、ほっとしたように表情を緩めた。

 

「普段こんなモン食ってなかったからな。こりゃ10分もしないうちに食い終わりそうだ」

 そう言った直後、俺は会話そっちのけで弁当を食い始める。

 本当に美味い食い物を口にすると、思わず無言になってしまうのはよくある事だ。

 

 ──食い始めてから少し時間が経った所で、ノノの方を見てみる。

 ずっと俺の方を見ているが、さっきから全く弁当に手を付けていない。

 

「お前、食わねぇのか? もしそうなら貰っちまうが」

「あっ……すみません、先生の反応が気になって、つい見入ってしまいました☆ 私、今日はあまりお腹が空いていないので……もし足りないようでしたら、私の分も少し召し上がりますか? このお弁当、見た目は豪華ですけど、量はちょっと控えめですし……」

 

「いいのか? じゃあ遠慮なく貰うぞ」

 確かに、言われてみればボリューム感は少なめだ。

 米やパンなどの主食が無いので、腹持ちはあまり良くないかもしれない。

 

「このお肉、もしよかったら、全部取っていただいても構いませんよ☆ 先生が美味しそうに食べてくださっていたので」

「全部は要らねぇよ、お前も食え。腹減ってなくても栄養は補給しとけ。貴重なタンパク源だ」

 

「……うんうん、そうですね☆ 午後のために栄養補給は大事ですし、私もちゃんと食べないとですね。……えっと、他にも食べたいものがあれば言ってくださいね?」

 

「いや、後は大丈夫だ。もし食い切れなきゃ残しとけ。冷蔵庫に保管しておいて後で俺が食う」

「はい、分かりました☆ お気遣いありがとうございます」

 

 それから、俺は残りの弁当を黙々と食い進めた。

 俺の方は、宣言通り10分弱でほとんど空になる。

 ──最後に水を一気に飲み干し、ペットボトルをテーブルの上に置く。

 

「ごちそうさん」

「ごちそうさまでした☆」

 ノノの弁当を見ると、まだ7割近く残っていた。

 

「もう『ごちそうさま』なのか? 冷蔵庫に入れちまうが、いいんだな?」

「はい、大丈夫です! 食べない分は最初から分けてありますので、手は付けていません。先生がよろしければ、後でゆっくり召し上がってくださいね」

 

 ……最初から俺に回すつもりで分けてやがったのか。

 なぜそこまでして俺に食わせようとするのかは分からねぇが、ありがたく晩酌のアテにでもするか。

 冷蔵庫にしまう前に中を確認すると、ロブスターには全く手が付けられていなかった。

 

「そろそろいい時間だな。今は12時50分か。13時丁度にはここを出る。トイレに行くなら今のうちに済ませておけ」

「13時ちょうどですね。では、少しお手洗いに行ってきます」

 

 ──食後の休憩を挟み、13時を迎える。

 いよいよ、お待ちかね『実験』の時間だ。少しだが俺の好奇心が[[rb:疼 > うず]]いてきた。

 

「時間になったんで、これから1階の射撃場に移動する。武器を持っておくように。実際に使うからな」

「武器、ですか……? とりあえず、持っていけばいいんですね」

「そりゃ疑問に思うだろうな。説明は移動後にしてやる、行くぞ」

 俺とノノはオフィスを出て、そのまま射撃場へ向かった。

 

2.射撃実験

 エレベーターで1階まで降り、中央のエントランスから射撃場へ入る。

 防音材に囲まれた室内には、射撃レーンと標的がいくつも並んでいた。

 人の気配は無く、実験をするには都合がいい場所だ。

 ノノは武器ケースを抱えたまま、少し落ち着かない様子で辺りを見回していた。

 

「……誰かに見られたらどうしようって、少し心配していたんです。ソウルリンクのことは、まだ秘密なんですよね?」

「念のため、射撃場はメンテナンス中って事にして人払いしてある。もちろん嘘だがな」

 

「そうだったんですね……。ありがとうございます、先生。……でも、メンテナンスじゃないのに『メンテナンス中』って言ってしまって、大丈夫なんでしょうか……?」

「気にすんな。あんまりココを使う生徒はいねぇし、バレるリスクは低い。それより、さっさと実験を始めるぞ」

「はい、よろしくお願いします。……それで、私は何をすればいいんでしょうか?」

 

「前みたいにソウルリンクを発動させてぇ所なんだが……まずは発動前の状態を確認したい。基準が分からねぇと比較も出来ねぇからな。という訳で、普通に撃ってみろ」

「分かりました。まずは普段通りに撃てばいいんですね」

 

 ノノはリトルマシンガンⅤを軽々と両手で構え、標的に向けてトリガーを引く──バレルの高速回転と同時に10発近い弾が一気に放たれるが、的に当たったのは数発程度。

 やはり、反動で狙いが定まりにくい武器なのかもしれない。

 

「あら? おかしいですね……いつもはもっと命中するはずなのに……。グローブがないからでしょうか……」

「お前昨日もしてなかったが、無くしちまったのか?」

 

「はい……昨日から見当たらないんです。今朝も探してみましたが、見つからずじまいで……。グローブを着けていると、手元が安定するといいますか……滑りにくくなるんです。指先は出ているので、トリガーの感覚もちゃんと分かりますし……」

 

「それなら後で俺が買っておいてやる。アビドスからだと、まともに買い物出来る店は遠いんだろ? シャーレ近くの店に売ってそうだし、指抜きグローブくらいなら大した出費にならねぇ」

 

「いえいえ、そんなの申し訳ないです……! 自分で買えますし、先生にご迷惑をおかけするわけにはいきませんので……!」

「そうか? まぁ、お前の手のサイズが分からねぇから、自分で買った方がまだ合理的か。……それは置いといて、ノノ、お前の武器を撃ってみてもいいか?」

 

「えっ、私の武器を……ですか? 慣れていないと、先生にはちょっと重いかもしれませんが……」

「いいから貸せ」

 

 俺はノノからリトルマシンガンⅤをぶんどった途端、重みがズシンと身体全体にのしかかる。

 クソッ、あれだけ軽々と持てたってのに……なぜか負けん気が頭をもたげる。

 

 何とか武器を構え、右手でトリガーを引くと──凄まじい反動に腕を持っていかれ、銃口が上下に暴れてしまう。

 的どころか、天井や床に着弾する始末。

 

「先生、あまり無理をなさらない方が……」

 心配そうな顔で俺の方を向くノノ。今の俺にとっては憐れみの目にすら見える。

「……いや、これでいい。ソウルリンクの発動前後で、どれだけ武器の撃ちやすさが変わるかを検証したかっただけだ」

 

 とは言ったものの、負けず嫌いな俺のプライドは多少なりとも傷ついていた。

 どう見てもがっしりした体格じゃないノノが、あんな重い武器を汗一つかかずに扱える。

 

 どこにそんな力が詰まってんだ? もしかしたら、アイツのやたらデカいモンの中に──

 ふと、ノノの顔から下へ視線が落ちる。

 

「先生、どうかしましたか?」

「……いや、何でもねぇ。次の実験に移るぞ」

 流石にそれはねぇか……くだらねぇ。あるとしたら、あのヘイローってヤツの力だろう。……確証はねぇが。

 

「次といいますと……ソウルリンクの発動ですか? ですが、昨日みたいにうまくいくでしょうか……」

「発動条件については解析済みだ。どうやら、『肌の接触』と『闘志を持つ事』が条件らしい。今は敵がいねぇ訳だが……あの的を敵だとイメージすれば、この二つを満たせるだろ。多分な」

 

「……分かりました、やってみます!」

 ノノは真剣な顔になって返事をする。心の準備は出来ているようだ。

 

「よし、早速だが手を出せ。肌の接触なら、こうした方が早い」

「手、ですよね……。えっと、その……」

 ノノは突然顔を赤らめ、モジモジし始める。

 ……何をそんなに躊躇ってんだ? コイツ。

 

「おい、どうした。俺の手に触れるのがそんなに嫌か?」

「そんなわけじゃないんですけど……! ちょっと、恥ずかしくなってしまって……」

「恥ずかしい? 何言ってんだお前。いいからやるぞ」

 

「は、はい……!」

 俺は、ノノの指先を軽くつまむ。

 目の前の的を敵だと思い込もうとするが──何も起こらない。

 

「おいノノ、ちゃんとイメージしてんのか?」

「してはいるつもりなのですが、あの的を敵だと思うのが難しくて……」

「じゃあこうしろ。あの的を昨日の敵に見立ててみろ。何も出来なかった時の感覚を思い出せば、少しは敵として意識しやすくなるんじゃねぇのか?」

 

「それなら、なんとかできそうな気がしますが……手が触れたままですと……」

「ったく、めんどくせェな……。だったら、一旦手を放してやる。そんで、お前はさっき俺が言った通りに意識してみろ。準備が出来たら俺に声を掛ける。これなら出来んだろ?」

 

「す、すみません……。はい、それなら集中できそうです。お気遣い、ありがとうございます」

 俺が手を放すと、ノノは少しだけ名残惜しそうに指先を引っ込めた。

 だが、すぐに表情を引き締め、標的へ視線を向ける。

 

 先ほどまでの照れは、もう残っていない。

 その代わり、昨日の戦闘を思い出しているのか、口元がわずかに固く結ばれていた。

 

「……先生、準備できました」

「よし、そのまま的だけ見てろ。俺を見ずに、手だけこっちに出せ」

 ノノは小さく頷いた。

 標的から目を逸らさないまま、そっと右手を差し出すと──互いがうっすらと輝き、活力で全身が満たされていくのを感じる。

 

 ノノの背中に目を向けると、昨日も見えた光る紐が伸びているのが分かった。

 鎖みたいな形ではないが、俺達を繋ぎ止めてるって意味では似たようなものだ。

 なら、『ソウルチェーン』とでも呼んでおくか。

 

「ソウルリンク、発動成功したな。もう手を放していいぞ。次は、この状態で同じように撃ってみろ」

「はい……! 昨日と同じ感じがします。さっきより、身体が軽いです……。撃ってみます」

 

 ノノは差し出していた右手を引き戻し、リトルマシンガンⅤを構え直す。

 グローブが無いという点では、先ほどと同じ条件だ。

 

 だがトリガーを引いた瞬間、その差は明らかとなった。

 反動で銃口がブレる事なく、連射された弾は標的の中心付近へまとまって着弾していく。

 

「先生、撃ってもほとんど反動を感じません! ソウルリンク、すごいですね☆」

 ノノは軽く跳ねながら、キャッキャと声を弾ませている。

 

 不思議な力を実感したからか、珍しく子供みてぇにはしゃいでやがる。

 ガキっぽいのか大人っぽいのか分からねぇのが、コイツの面白い所なのかもしれねぇな。

 

「これで力を実感できたろ。次は俺の番だ、貸せ」

「はい、どうぞ♧」

 ノノから手渡されたリトルマシンガンⅤを、片手でヒョイと持ち上げる。

 先ほどまで身体全体にのしかかってきた重さによる負担は、今や微塵も感じられなかった。

 

 俺は銃口を標的へ向け、そのままトリガーを引く。

 

 連続した銃声が射撃場に響き、装填されていた『実弾』が次々と標的へ叩き込まれていくが──手元に返ってくる衝撃は拍子抜けするほど軽い。まるでエアガンでも撃っているような感覚だった。

 やがて最後の銃声が響き、掃射が途切れた。

 

「ここからが本番だ、よく見ておけよ。今ので弾は一発残らず撃ち尽くした。だがソウルリンク発動中なら、エネルギー弾みてぇなモンをコイツから撃ち出せる。お前も昨日見ただろ?」

 

「はい。昨日、先生が弾のない状態で撃っていたのは見ました。でも、あれって先生の身体に負担はないんでしょうか……?」

「負担があるかどうかも含めて検証する。見とけ」

 

 昨日は半ば思いつきで引き金を引いただけだった。

 弾が無いはずなのに、白く光る弾丸のような物体が飛び出した。

 なら、今やるべき事はその再現だ。

 

 弾切れになったこの武器から、もう一度あの白い弾が出る──そう頭の中で決めつけるように意識を向けたまま、トリガーを引いた。

 

 バレルが回転を始めると、銃口から白光の塊が次々と飛び出す。

 

 光弾が標的へ着弾するたび、パァンッ、パァンッと乾いた音が射撃場に響いた。

 プレートの表面には亀裂が増え、中心部から蜘蛛の巣状に広がっていく。

 

 そして、連発された光弾が同じ箇所を撃ち抜いた瞬間──バコーンッ!! という一際大きな破裂音とともに、標的が耐えきれずに砕け散る。

 標的を失った残弾は、そのまま後方の防護壁へ次々と叩き込まれ、壁面を大きく抉っていった。

 

「……すげェ破壊力だな。あん時とは大違いだ」

「ふふっ、これなら、向かうところ敵なしですね☆」

 と、調子に乗っているノノへ目を向けると、息が少し荒くなっているのが分かった。

 

「お前、疲れてんのか? ソウルリンクの影響か?」

「えっ……? ……いえ、大丈夫です。ちょっと、びっくりしてしまっただけなので……。それより先生の方こそ、大丈夫ですか?」

 そう言って笑っているが、呼吸はまだ少し整っていない。

 

「俺は何ともねぇが……とりあえず、休憩するか。これまでの実験結果を整理したい。あんまりぶっ通しでやっても、かえって逆効果だからな」

 

「それでしたら、先生が整理している間に、少し甘いものを用意してきますね。シャーレ内のコンビニなら、すぐ買ってこられると思いますし。それに、頭を使うときは糖分があった方がいいと思いますので☆ あと、何か確認したいことや欲しいものがあれば、すぐ言ってくださいね」

 

「買い物は別に構わねぇが、お前も少しは休めよ────って、待て。コレ、どうやって解除するんだ……?」

「先生……もしかして、ご存じないんですか……?」

「ああ、知らねぇ」

 

 ノノの息は、先ほどよりも僅かに荒くなっている。

 戦闘モードの発動中は、何もしなくても精神力を消費するらしい。

 ……いや、冷静に分析してる場合じゃねぇぞ、俺。

 このままだと、結構マズいんじゃねぇか?

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