もはや”雷帝の遺産”なんて言えばなんでも出てくるでしょ 作:らんかん
◻️チーム・シャンバラ
ローエングリン……雷帝の宝具『
◻️チーム・ザッハーク
シャッテン・ディ・シフフェ……仮名、ワイルドハント三年。チーム・ザッハークゲヘナ方面司令官。
「ローエングリン!」
《はい!》
精巧な少女のアンドロイドから飛んでいく10本の対物ライフルは、不思議な力によって空を舞い、襲いかかってくる戦車を一切の容赦なく貫いて爆散させていく。
この日遺産の在処を新たに聞きつけたチーム・シャンバラは、再興委員会を指示していた一派と思わしき戦車中隊と交戦していた。
新たな遺産が見つかったと言われてやって来たら、罠だったのである。
「今どれくらい倒した!」
「うーんわかんない」
「だろうなあ!」
流石にライフルの銃弾は高価なものでもないから貫通力を期待できない、と踏んだシシュウも
ナダレに至っては元気に戦車の間を跳ね回っては砲塔を捻じ曲げてを繰り返している。
「あいつらいつまで経ってもへばる気配がない! 化け物か!」
「我々の戦力だけが確実に削られているぞ、あれが雷帝の遺産……」
「怯むな! 我々が倒せれば」
「
大声が響く。
片方は人数不足、もう片方は火力不足で一進一退を繰り返していたこの廃墟周辺に一切の澱みなく響く声。
「何時まで経っても独り立ち出来ぬ雑魚に振り回されおって! それでも遺産ハンターか貴様ら!」
「いったいどこから喋ってんだお前は!」
「ここだ!」
廃墟の広いところへ、一人の少女が着地した。
黒い燕尾服に、肩パッドに金色のチェーン、そしてでかい黒のマント。
金髪だが少し髪は短め、後ろに結んでいるが左右の髪は吊り橋のように余裕をもった状態。
「貴様が枯墨 シシュウか」
「その通りだ。お前は誰だ?」
「では余の名乗りを聞くが良い!」
ばっと手を広げポーズを取り、大声を張って名乗る少女。
「余はチーム・ザッハークゲヘナ方面司令官、シャッテン・ディ・シフフェである!」
「お前ザッハークの人間かよ!」
「余を属人のように言うでない!」
「君たちうるさいよ!」
ナダレの怒号が響いた。
「なんで君たち大声で張り合おうとするの! 音量調整って概念知らないの!?」
「いやシャッテンのやつこれくらいしないと聞こえないかなって」
「えっ余はそんな田舎のおばあちゃんみたいな扱いなの?」
「それで皇帝やろうとしてたのお株が知れるね」
彼女達三人で円を囲んで話をしようとすると、今度はローエングリンからの怒号。
「ご主人様! 早く戦ってください!」
「ああごめん! 戦いたいけどチームザッハークのやつが来てるから適当に戦車の山築いて防いどいて!」
「はっ、余を見損なうでない!」
どうやらチームザッハークの司令官は何かをするらしい。
戦車中隊も半分削れたところで、シャッテンは歩き出した。
「この世には雷帝の遺産というものがあったな。余はあくまでそれを収集して管理する連盟の1人に過ぎぬ」
彼女の腕には、黒い腕輪。
天使の輪のようだ、とシシュウは感じた。
「拾ってきた遺産を守り、己の力と過信し弄ぶような輩を倒す。盟主にもライメイにも申し訳なく思うが、どうやら余は選ばれたようだ」
シャッテンの三白眼が光る。
「“雷帝の宝具”にな」
チーム・シャンバラのメンバーが揃って彼女を見た。
ローエングリンでさえ彼女の後ろへと飛んでいき、それに敬意を持ったのか精巧なアンドロイドに軽く敬礼して積み上げられた戦車の残骸を登っていく。
「くそっ、戦車の砲撃がここからでは味方に引っかかる!」
「突撃銃を出せ! このままあのよく分からん少女を叩きのめす!」
「宝具なんてそう簡単に」
「
空には、水色と薄紅色の輝き。
その光に当てられた瞬間。
「な、なぜだ!」
「引き金が引けない!」
「なぜこんなに固いのだ!」
戦車中隊の面々が、引き金すら引けないことに困惑している。
あまりに異様な光景に、チーム・シャンバラのメンバーも混乱したが____
「大丈夫? 何か辛くない?」
「いいや、私は特に」
シシュウは【雷雨】の引き金も引ける上、宝具や遺産には何の影響もなく【雪霰】も正常に動いた。
問いを投げたナダレ自身も、持っていた安い銃を撃てる。
「そうか、宝具を持っている者には効かぬか」
光を集めた本人は、チーム・シャンバラの面子を見てまた前を向く。
「この宝具は貴様らが来る前に、忍び込んで取って来たものだ。名もなき神々から見て下等生物である貴様らの神秘を奪い、それをエネルギー化させたもの。何、安心しろ。貴様らを殺すつもりもないし殺せない。十数秒経てば元に戻るし、その際にようやく攻撃に転じれる。制御に手間取るのは、貴様らの影を集めて出来た
神秘の影送り、と言った方が正しいか。
空に映し出されたのは兵士としての側面でせいぜいの生徒達で生み出された同量の神秘。
「貴様らが動けぬ時間で定義してるのだ。それこそ本当に、
ブレスレットをいじり、混乱が収まらない中で銃が急に撃てるようになればその原理に理解が追いつかない戦車少女達を憐れむ王は言葉を続ける。
「貴様らの命運は決まった。人を騙し、財宝を奪うことを画策し、それに乗ってしまった者達の終わりはいつも”破滅”だ」
手を下ろす。
「受けるがいい! これが終末の一撃だッ!」
神秘の光は剣となり、その煌びやかな刃は地面をなぞるように落ちていく。
戦車によって渋滞した道はどこにも逃げ場がなく、かろうじて路地裏がある程度。
しかしその路地裏は当然人の波を受けきれるものではない。
「う、うわああああああああーっ!」
断末魔が重なり、泣き叫ぶ声が聞こえ、その声も指を2本数える頃には地を割る轟音にかき消された。
突如輝く地面の亀裂と、光の隆起。
「貴様らには相応しい末路だろう」
戦車の残骸をゆっくり降る彼女の姿勢は正しく、翻ったマントが歪まないほどに階段を降りるような感覚で倒した少女達の勇姿を足蹴に、チーム・シャンバラの元へと戻ってきた。
彼女のかっこよさに多少の華を持たせてやろうと残っている面々は下がるが、シャッテンは手で静止した。
「道を開けずとも良い、歩く道は貴様らまでの道のりだ」
そのまま戻ってきたチーム・シャンバラ。
「余と宝具を見て、手を出さぬのか」
「面倒な事から助けてもらっておいてそんなことをするのは遺産ハンターの名折れだよ。
それによく言うでしょ……”早い者勝ち”だって」
「礼儀が正しいな、羽付き。そこの女は?」
「私も、別にお前が宝具を持ってても大した障害はない。記念に取っとけよ」
シシュウは、少しばかり笑う。
「貴様も遺産ハンターで、宝具持ちなのだろう? なのに何故取ろうとせぬ。力が欲しくないのか」
「私が求めているのは力の独占や継承じゃない。遺物の保存だ」
三白眼と赤い眼が交互に視線を交わすが、そこに敵意はない。
有るのは敬意だ。
「雷帝は悪い奴として片付けられているが、私はゲヘナで言うなら『雷帝の時代』と『マコトの時代』が交互に来るのが人類史として健全だと思っている。人間は自由を極めれば統制を失い、一人の英雄から時代が再起して隆盛し、その時代を作るパワーが老衰すれば蓄えるための遊びの時代へと戻る……全てはその繰り返しだ」
「どの時代が欲しいか、はないのか?」
「私はゲヘナの一生徒でしかない。口を賄うことさえ出来ればルールに従うのもやぶさかではないんだ。
それでも、今得た自由で今こんなことをしているのには理由がある」
シシュウは、堂々と告げる。
「私にとって遺産とは『事実の一つ』なんだ。物があればよく観察できるし、観察した結果使い方が分かればそれが必要になる事象があったことが分かるし、そこまで分かれば発生原理を探ることだってできる。雷帝の遺産はユスティナの殺戮兵器達が残したものと何も変わらない。
だから残っていれば、誰の手に置いててもいい。いや、一人の手に全て収まってるのは好きじゃない、かな」
「シシュウ」
「ま、パワーバランス的な問題もあるけどな。絶対者なんてこの世に存在しないのは、痛い目を見た雷帝の末路でよく分かってるだろ?」
手に持った
「だからそれはお前が持ってろ。私達はそれまで貰うほど強欲じゃないし、先んじて手に入れた【雪霰】を渡されたのだってお詫びだったしな。ああでも、一つだけ頼み事をしていいか?」
「なんだ」
「ライメイへの伝言だ……『貰った遺産は扱いやすくて重宝してる』ってな」
仲間への伝言くらいは頼んでいいだろう、最もザッハークのメンバーが悪の組織のようにギスギスしていなければ、だが。
そんな頼みを聞いてもシャッテンは笑い、頷く。
「彼女にはしっかりと伝えておこう」
「じゃ、私らはこれで。気をつけて帰れよ」
「ああ、貴様らもな」
お互いに、手を振って別れる。
しばらくは黙っていたローエングリンもお別れに軽い言葉を残して十字架形態に戻り、シシュウの腰にくっついた。
振り向いて、チーム・シャンバラがいなくなった後。
シャッテンは考える。
「随分と気前のいい連中だ。しかし、妙だな。それでも戦力差は空いてるはずで、それを騙し討ちできるとも考えられないだろう。もしかすると政治的な意図を含んだ囮だったのか?」
小さい声で口にして、なお考えに耽る彼女。
(もしそうなら手を下したのが余で良かった。しかし、これで風紀委員や万魔殿の連中を巻き込んだ騒ぎになっては目も当てられん。シシュウとナダレはゲヘナとトリニティ、政治的なアクションを取りやすい関係になってしまった以上、一つ手を打っておこう)
自分が関与していたことをあえて見せることで、陰で渦巻く陰謀に釘を刺す。
(盟主にも早く知らせねばな)
そうして、彼女は自分の学生証を落とす。
『
彼女の、本当の名。
ただしその名前が呼ばれることは、シャッテンとして通す場では無いだろう。
シャッテンにとってその名こそ尊ぶべき本名だが、名前なぞ記号でしかない。
それが本人だと認識する時、人間は記憶によって構成された繋がりで確信を得るのだから。