もはや”雷帝の遺産”なんて言えばなんでも出てくるでしょ   作:らんかん

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この話に出てくるネームドキャラ
◻️チーム・シャンバラ
枯墨(かれずみ) シシュウ……ゲヘナ二年、遺産ハンターの1人。

◻️万魔殿
羽沼 マコト……万魔殿議長。


マコトとの面談

「よく来たな、待っていたぞ」

「なぜ私を呼んだんです?」

 

 シシュウがやって来たのはゲヘナ本校、それも万魔殿の仕事場だ。

 

「最近、例の遺産の影響で侵攻未遂をやらかして以降私たち以外にも異常がないか調べる必要が出てきた。そこで面倒だとは思うが、最近特に学校に来ていない生徒を対象に生徒会権限で面接をすることになったんだ。なに問題が無ければ数分で終わる」

「で、聞きたいことって」

「雷帝の遺産についてだ」

 

 互いの表情は変わらない。

 

「先生を巻き込んだ事件が二つあって、今や表でも話になるようになってしまった雷帝の遺産。最近は遺産ハンターとやらが活動しているのも知っているが、もしかしたらそういった情報を持っているのでは無いかとな」

「なるほど? ごめんなさい持ってないです」

「枯墨 シシュウ」

 

 名前を呼ばれるシシュウは、それでも態度が一切変わらない。

 

「私は知っているのだぞ。貴様が遺産を持っていること、それも複数。あのような事件あって尚集めている……自分が何やってるのか分かっているか?」

「ええ、私は一般市民なのでよく理解していますよ。正解は『アンティーク品の収集』です」

 

 マコトの狙撃銃がシシュウの眼を捉え、シシュウの【雪霰】(グラウペル)がマコトの喉を捉える。

 

「お言葉ですがね議長、私は遺産に対して思い入れもないし、雷帝にすら思い入れはないんですよ。当時中学生だったのもありますが、彼女の支配下にあって不自由したことは一度もなかった。ですがマコト政権時代でも私は不自由をしていない。故にどっちもどっちなのです」

 

 随分と、古風で、アニメチックな言い草で、彼女は語る。

 

「雷帝政権下でどれだけの人間が死に、傷ついたと思っている」

「知ったことではありません。差し詰め無能を大事にする政権下に生まれてしまった運の悪い天才か何かでしょう、五十嵐ショウコが有能が自由に動いて幅を効かせるシャーレ・グローバリズム時代に運悪く学生になってしまった無能の代表と同じです」

「私が無能を大事にしないと?」

「そうなっているものなのです。自由を愛する政権とは無能を低次元の産業の労働力として経済活動に組み込み、そうやって得た他人の金と時間を資産として換金する。雷帝の独裁政権下では必要なものを全ての人的資源を駆使して改革していくから、自由の無さ以外の全てが平等に手に入る」

 

 そのどちらもが悪いわけではない、と注釈が付け加えたものの互いの銃口は降りる気配がない。

 

「才能が抑制され国や文明が衰退していくのであれば、自由を保障して経済活動を強化できる天才が天下を取る。資本主義が極まって大多数の大衆が搾取されるサトウキビとなり上流階級以外が死にゆくだけの運命になったら、民衆の人権と資産の確保のために英雄が私腹を肥やす悪逆の権力者を倒す。その繰り返しが人類史だと、思っているのです」

「私は自由と経済と、天才の味方というわけか」

「ええ。その面においては、私の生きている範囲においては最高峰の政治家だと断言しましょう。雷帝はその逆を擁する政治の天才であるとも言いましょう」

「人類の傍観者を気取るつもりか、生きていれば叶わぬ夢だな」

 

 シシュウの発言があまりにも悍ましいものだと議長と呼ばれた少女は顔を歪めるのは、それが再興委員会のような”ある程度の志と目的によって達成されようとしている時代の再来”ではなく()()()()()()()()()()()()()()()()というある種雷帝よりも最低な人間として映っていたからだろう。

 

 なお、それを言われた本人は少しばかり不本意だとこぼす。

 

「傍観者とは失礼な。一市民として生きていてどうやってなれと」

「ならば何故雷帝の遺産などに頼り、集めている。アンティーク品といいながら力の残滓だけを蓄えている人間を、政府は侵略者の他にどう捉えろと」

「一市民でしょうに」

「詭弁だッ!」

 

 足を机に乗せ、額に銃口を突きつける。

 

 それだけに雷帝への忌避感と憎悪を持っている人間にしても、シシュウは一切動じるそぶりを見せない。

 

「知っているのか!? 雷帝は独裁者で人を大勢、私利私欲のために殺したんだぞ! 過酷な環境での餓死は勿論、実験台のために拷問した! 再興委員会の人間はその歴史を知らず、その上で遺産に頼る黒幕に踊らされたからまだいい! だがお前は力を求めた、結果が『保存』だと!?」

「では私はそれで何をしたと? 遺産を使って誰かを傷つけたり、操ったりしたのならいざ知らず、私は集めているだけです。あの遺産が本物だろうが偽物だろうが持っている力そのものが価値となる。その価値を使って、金を稼いだり、別のことをしたり。そういう生き方を肯定するのが天才たちの愛する自由を尊ぶ政治でしょう?」

 

 シャーレによって価値の保証されている上流階級には分からぬ話か______とは思うものの、そう言い返す少女の目に侮蔑が伴っていないのは、マコトによる政治もまた尊ぶべきものではあり、下手に壊すべきものではないという信念はあったからだと言っていい。

 

「貴女が万魔殿の皆や便利屋、風紀委員の有能さを認めてそれらが活かせる社会がいいと思っているなら私はそれを否定したり覆すような真似はしたくないのです。政治屋の玉座は大衆という砂を固めた椅子でしかないから、その椅子が耐え切れるようであればそれは大衆”も”望んでいること。私程度の人間が決めるべきものではない」

 

 それは雷帝の時代でも同じようなことを思ったからこそ、そんな冷淡な言い草しかできない少女になったのも事実。

 

「ですが、雷帝政権の皆が一丸となって偉大なゲヘナへと向かうのもそれもまた面白い政治でした。貴女にとっては不愉快極まりなく、そして貴女の人生の中では悪逆非道として映るものですが、それは雷帝とて同じこと。私は人類の存続にはそのどちらも欠損してはならない、と考えています」

「一市民として自称しておいて、人類史のために出来ることを言い出すのは滑稽極まると思わないか」

「自由と統制、数十年の政治形態の繰り返し、食事と排泄が交互に来るように、人間の文明は人間が思っているほどに擬似的な生命体となって今日まで生き永らえてきた。歴史が観察記録であり、ここからフィードバックしてまた同じことを、今度は同じミスで切り替わらないように、政治が体調管理しながら生きていく。数多の王国や学園が滅んできたように、デッドセルを排出しながら生きてきたのです。どの政治もいつかはくたばる、だからこそ人類はここまで歩んでこれた」

 

 自分から【雪霰】の銃口を降ろし、()()()()()はっきりと伝えるシシュウ。

 

「雷帝の遺産を掘り当てて管理、表面化するのはその活動記録の一環でしかない。だが、どの政治も切り替わる時に反省と進化がついてくるが、必ず前にやらかしたことをはっきりと見返せるから成長できる。雷帝の遺産はそれこそ記録の一つだ、貴女が政権を維持するためには遺産を破壊するしかないが、そうすれば人類は羽沼マコトを一切理解できないまま自由と統制のどちらを選ぼうが停滞し滅ぶ。私はただ、そうなってしまうことを防ぎ、そうやって滅亡を望むような者達の敵となる。それだけのことです」

「相容れぬ話だ」

「そうは思いません。貴女は過ちそのものの存在を消すべきではないとは思っていて、ただ消すべきと判断するのが視座が違うからこそ私と食い違っているだけです」

 

 彼女は、銃口を向けられ、なお笑顔で言う。

 

「貴女が丹花イブキを大事にしているのは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()でしょう?」

「……何故それを」

「風聞です。遺産ハンターのね」

 

 漸く、その一言でシシュウをあわや殺せるかもしれない狙撃銃も降ろされた。

 

「ブランドを重視する人間は、手に持っているものの価値をそこまで理解しているとは思えない。貴女の家族であるイブキさんも、私の【雷雨】たちも、雷帝の遺産であるけれど……結局全ての物は『どうやって生まれたか』ではなく『どう振るわれたか』によって決まる。例え雷帝から生まれても、もしどこかで人類を救うきっかけになれば結局それは良き力になるのだから、私は集めて己の信念によって振るうことに躊躇いはない」

「その結果が最悪だったとしてもか」

「私が過ちとして記憶されるだけですから」

 

 さて、と立ち上がる彼女。

 

「そろそろお暇してもいいですかね」

「待て、話は終わってないぞ」

「なら話を終わらせるために、少し取引をしましょうか」

 

 マコトは問う。

 

「いいのか? 我々に情報を教えれば首を絞めるだけだぞ」

「遺産ハンターが跋扈するまでは良かったのですが、少しそうも言ってられない事態になりましてね。この前チームザッハークのシャッテンとやらに助けられた時、戦車中隊に襲われたんですが……もしやそろそろ政治的な問題に発展しそうと思ったので」

「不祥事として公表するか?」

「……NKウルトラ計画の露呈を発端に、ゲヘナを脅かす影が生まれている。五十嵐ショウコはまだ社会が無能を救いきれてることの証明をした、彼女にとっては不都合でも、今の社会の有り様を示したのです。それを大義や改善なしに破壊しようとしている連中が、ゲヘナの軍事的組織の中にある」

 

 それが万魔殿にとってどれだけの被害になるか、分かった上で口にしているのだ。

 

「私は私の信念によってそいつらを、場合によっては殺すことになる」

「なるほど」

 

 話の内容をある程度理解したのだろう羽沼マコトは、改める必要なく紙を出してメモをし、そのままシシュウに握らせる。

 

「随分いい脚本を書くじゃないか。その話に乗ろう」

「ありがとうございます。では」

 

 そのまま二人は別れ、シシュウはゲヘナの校舎を歩く。

 

(随分と饒舌に喋ったものだな、これでは道化だよ。口数少ないとは思っていたが、それよりも熱を上げて語りすぎた。なれない丁寧語極まってて没落寸前の貴族か、私は)

 

 苛立つのを頭をかいて誤魔化しながら、奥へと消えていく彼女。

 

(随分と自我のない女だ、危ないな)

 

 見送っていく存在に、気付かぬまま。

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