もはや”雷帝の遺産”なんて言えばなんでも出てくるでしょ 作:らんかん
◻️チーム・シャンバラ
ゴスペル……雷帝の遺産の一つ、遺跡ハンターのAI。
◻️チーム・ザッハーク
D.U.地区に遺産があると知ったチーム・シャンバラは、地下街へとやってきた。
都会によくある地下鉄と、そこから広がった地下街は都会の花が一つ。
「
シャンバラの面々は、そう名前が付いている遺産の在処を聞き、連邦生徒会管轄区域まで足を伸ばしたのである。
地下街の路地裏を通って、旧商店街区画の廃墟を通り、そこのある店だったところから引っ張り出して来たのが箱。
「随分大層な名前だと思ったけれど、やっぱりエインヘリャルみたいなものなのかな?」
「開けてみよう、話はそれからだ」
シシュウはそのまま、拳銃くらいしか武器が入るものではないはずのものの箱の蓋を取る。
出て来たのは書類の束。
「ゴスペルー!」
《なんだ》
また二足歩行のカメラっぽいロボットがやってきて、ホログラムも生えて来た。
エインヘリャルと同じく、流暢過ぎるドイツ語の文字で読めないらしい。
《また読むのか……ん?これは?》
「終焉の女帝、っていうやつ。もしかして知ってるの?」
ナダレを見ているゴスペルは、彼女に怪訝な顔を見せる。
だが、その見ている少女が何も言わない事から何かを察して、出て来た書類を読み始めた。
《丹花イブキは完璧な少女であり、彼女を教育すれば偶像でありながら絶対者として永きに亘り偉大なゲヘナを約束するだろう。しかしそれが永遠であるためには彼女は手の掛かる少女であり、コピーも容易ではない。今までの遺産に掛けたコストの何倍も掛けるのは目に見えている。故に彼女を”世界の終わりまで玉座に佇んでもらう“方法を考えた》
いきなり飛ばすな、と思うシシュウの顔は少しばかり辟易している。
《丹花イブキをある程度育てた段階でナノマシンによる彼女の身体能力の向上や思考ルーチンの保存など、彼女を内外からデータ化することで彼女は永遠の存在になる。だが、人間社会は不変ではない。大衆の意欲、関心、能力は大きく変動することもある。イブキを永遠の女帝にしてもいつかは大衆によって刺殺されるのが精一杯だろう》
人を道具としてしか見ていない辺りに雷帝を感じる面々だが、それでもナダレは話に興味を持っているのかちょっとだけ面白そうだと言う表情で聞いた。
《ならば、王や政治家としての選定を大衆に任せ、国の根幹や秘密に近付かざるを得ない王にゲヘナの主としての行動指針並びに国家の運営方針を”インストール“させた上で傀儡にすれば人々が自由を誤認し自分達の成果と威張りながら私の意志を継ぐ。イブキという究極の女帝を保存して、民衆が選んだ王という生贄にイブキを注ぎ、雷帝無き後も偉大なゲヘナとして君臨し続ける。世界が終焉するその日まで、ずっと生きながらえ、時の王を操りながら、永遠に私の影が世界に焼き付ける。玉座という王の象徴が王を定義する計画______》
それが【終焉の女帝】らしい。
二人はすごい話だ、とほうけるばかり。
「なんというかその、すごいね」
《まだ続きがあるぞ》
「頼む」
ゴスペルは、そのまま読み続ける。
《イブキは完璧に悪魔だ。羽があり、角もあり、尻尾もある。ゲヘナ生の大半はどれかが欠けていることもあるから、生態系としては微妙に異なる集団となるが、イブキならばどの要素も持っている。これはどのような人間が王になろうとも細胞単位で判別して干渉出来る素体として優秀。彼女に各種ナノマシンを入れて封印し、NKウルトラ計画よりも人体に作用する形で制御システムを作れば仮に見つかっても仕組みの不明さから殺すしかなくなる。そうすれば彼女が操っていたゲヘナは終わり、ゲヘナそのものの枠組みも消えるのを理解すれば、国境という拠り所をなくす恐怖から高官達は見なかったふりをするだろう》
《これはゴスペルのような無人AIに対する詭弁の反抗すら封じる手として、有用な政略とも言える。時の指導者を操り、誰しもが覇道を歩ませる力場。イブキを教育終了後、彼女の才能を与え、その際に私の躾で利用した思考ルーチンを調整しながら導入させれば羽沼マコトのような人間も生まれない。最初は真の玉座計画と名付けようと思ったが、そういえばある作品には文明選別の為に監視と干渉、破棄の為に使徒を生み出して人類を滅ぼす装置があったことを思い出したから》
「終焉の女帝、という名前になったんですねぇ」
話の途中で誰かが乱入してきた。
その誰かは、不良の髪を引っ張って引きずっている。
「ライメイ!」
「おやあ、覚えてくれてたんですかぁ?嬉しいですねぇ」
「君のような喋り方する人、そう簡単に忘れないよ。で、その人は何?」
「なんかぁ、入り口を張ってる人がいてぇ、峰打ちで半殺しにしたらぁ、醜くなっちゃってぇ」
チーム・ザッハークの悪名高いところが出てて内心震え上がるナダレ。
暗くてよく見えないのもあって顔面が歪んでるように見えたのも、きっと恐怖心を煽ったに違いない。
《此奴は誰だ?》
「ああ、そう言えば見せてなかったっけ。チーム・ザッハークの幹部みたいな人、ライメイだよ」
「よろしくお願いしますぅ、ゴスペルさぁん」
《なぜ名前を知っている?》
おやおや無粋、と思わなくもないライメイの目が、少しばかり光る。
「私達はぁ、遺産ハンターの中で最大手でぇ、有名な遺産くらいはちゃんと覚えてますよぉ」
《ありがたい限りだな、紹介の手間が省ける……終焉の女帝も知っていたのか?》
「話だけはぁ。ただぁ、少し引っかかるところがあるんですよねぇ」
彼女は疲れたのか近づけば刀を置き、不良を放り投げ、箱を触る。
書類と共に入っていた小さい箱を取り出して、その中に入っていた小瓶を観察していた。
「それがナノマシンなのか?」
「うーんにしては変ですねぇ、あちょっと燃やしますねぇ」
《記録しているから構わないが》
彼女は懐からマッチを取り出し、読み終わっただろう書類に勝手に火をつけて眺めてる。
小瓶の中身は銀色。
「銀色だ」
「こんなにナノマシンを用意するのも変な話なんですよねぇ。複数種類のナノマシンを使用するという話でしたからぁ、入るまではちゃんとした容器や機械に入れてた方が良くてぇ。小瓶に入れるような真似をするとはぁ、思えないんですよぉ」
ナノマシンは機械であり、機械らしい保存をしないというのは引っかかる。
そういうライメイは小瓶の蓋を開けて、手で煽って匂いを嗅ぐ。
「うーん変な匂いもしませんねぇ」
「何をやってるんだ。ナノマシンから匂いしたらすごく変じゃないか?」
「まあそれもそうですねぇ。でもぉ、変だと思いませぇん?」
彼女の冷淡な、月のように美しい肌と美麗な輪郭がチーム・シャンバラを……いや、この場合はシシュウを捉えた。
「ナノマシンって言うのはぁ、その名の通りナノ単位の機械なんですよねぇ。あぁ、駄洒落じゃないですよぉ」
「知ってるよ」
「この小瓶はぁ、せいぜい10mlくらいの容量のようですけどぉ、どれくらい入ると思ってますぅ?」
「そもそもナノってどれくらいの大きさか知らない」
「随分バカなんですねぇ」
「あぁ!?」
怒ろうとしたシシュウに手を伸ばして止めるナダレ。
みっともない切れ方はするな、と言う静止。
「ナノってのは10⁻⁹、分かりやすく言うなら10億分の1なんですよぉ。そのくらいの大きさの機械が10ml分もあるってことはぁ……大方ナノマシンが1000万くらいあると思ってもらっていいと思いまぁす。でもぉ、それだけあると毒だとぉ、思いませんかぁ?」
「なんでだ?」
「ナノマシンは基本血管に入れるんですけどぉ、それがぁ、これだけ見えるくらいの量を入れたらぁ、血管が詰まる血栓代わりになると思うんですよぉ」
そもそもが無理のある話だ、と彼女は言った。
どれだけ頑張って人を生かそうとしても、ナノマシンが機能するような温度や仕組みで人を生かそうとすればやはり細胞や汚れは蓄積するし栄養を入れる以上排泄もあるわけで、とにかく人間を生かすには大量のナノマシンを入れれば解決というわけではない。
周辺にも大量の機器が必要で、その機器も老朽化という概念からは逃れられない以上、やはり話の内容には欠陥があるとライメイは伝える。
真の玉座だろうが終焉の女帝だろうが、機器をメンテナンスする必要があるということは当然それ相応の人員を要するし、人員を要するということはヒューマンエラーを排することは無理であり、その結果露呈して丹花イブキを始末することだってあり得た。
「それにぃ、一番謎なのがぁ、こんなところにそんなもの置くかなぁと」
「……確かに」
シシュウも言いたいことを理解し始めた。
『なんかぁ、入り口を張ってる人がいてぇ、峰打ちで半殺しにしたらぁ、醜くなっちゃってぇ』
「待てよライメイ」
「なんですかぁ?」
「入り口に見張ってる奴がいて、こんな賑わってても高い機械が置けなさそうで、それどころか雑に木箱でナノマシンと書類が入ってて……妙だな」
「よぉく気づきましたぁ、これはぁ、罠なんですよぉ」
手を叩いて褒める彼女。
「そうでぇす、これは、罠なんでぇす。ナノマシンをちゃんとした研究施設なしで保管できるほど手軽なものではないのは今もそうでぇ、尚更雷帝の時代では貴重かつ厳重なものだっていうのは理解できますよねぇ?
それがぁ、こんなところにあってぇ、しかも入り口には変な奴がいてぇ……これはもう、ハンターを狙った悪質な行為であるとしか言えないんですよぉ」
どうせ長居しないだろうと、小瓶を燃やした書類に放り投げる。
と、同時のタイミング。
《こちらシャッテン。連邦生徒会管轄区域とゲヘナ領土での緩衝地帯で戦闘発生、応援求む》
「はいはぁい、向かいまぁす」
腰につけていた無線機からシャッテンの声が流れて、いつも通りの口調で返しながらライメイはチーム・シャンバラの方を向く。
「そろそろぉ、遺産ハンターもトレジャーハンターの類で終わらなさそうになってきましたねぇ。一緒にぃ、如何ですぅ?」
「……ああ、分かった。そっちの味方をしよう。ナダレたちもそれで良いか?」
ナダレとゴスペルは彼女を見るが、反対意見は無いようだった。
「いいよ、行こう。君はマコトと話したんでしょ?少しは良い顔しないとね」
《我はゲヘナのために造られた。誇りを忘れた狼藉を行う者を看過する気はない》
「ではぁ、走るのでぇ、ついてきてくださぁい」
ライメイは刀を腰に差し、素早く走り始める。それについて行くように、カッコ良くはないがチーム・シャンバラも同行。
ライメイの言う通りだろう。
ゲヘナの過去を暴こうとするハンター達は、眉唾物では居られない。
だからこそ、過去に向き合う覚悟を持った者は_______
偉大な神話で造られた道を、歩むことになる。