もはや”雷帝の遺産”なんて言えばなんでも出てくるでしょ 作:らんかん
◻️チーム・シャンバラ
◻️正義実現委員会
仲正 イチカ……正義実現委員会
遠く、遠く並ぶ車達。
トリニティなのでクラクションが聞こえないがエンジン音が立ち込める街はどうにも息苦しい。
「あっちゃー、これ検問?」
「らしいな。書類はあるし、大丈夫だろ」
シシュウはだるそうにしながらも、どこかで拾った雑誌を読んでいる。
アビドスから帰ってきて、数日経った彼女達は休暇がてらに遠くへ遊びに行ってトリニティのセーフハウスへ帰るところ。
近頃はゲヘナが不穏な空気を放っているのがゆっくり伝わっているのか、いろいろな学園が少しずつ臨戦体制……とまでは言わずとも、緊張感が染みるように日常へ食い込んでいるのを肌で感じた。
扉を叩く音。
「どうも〜、私正実の仲正イチカっす。検問の時間っすけど身分証お願いしまっす」
「ああどうも」
ナダレがルームミラーに掛けていた二つの学生証を出す。
「あらー、片方ゲヘナからじゃないっすか。いやあ大変っすよね」
「ナダレとは知り合いだったのでもし不安なら一度こちらにって誘ってくれたんです。イチカさんみたいな強い人に守ってもらえるならこちらとしても有難い、心情に配慮できないことだけは申し訳ない」
「いやあ気にすることないっすよ。先生のおかげでトリニティ生もようやくジョークで済むレベルの差別を覚えたし」
「それはいいことなのか……?」
確認したイチカは学生証を返却し、運転手であるナダレへと話しかける。
「あんまり詮索はしたくないっすけど荷物とか見てもいいっすか?」
「気兼ねなく探してください、今後ろの扉を開けました」
「助かるっす」
彼女は後ろから装甲車へと入って調べる。
この装甲車はバギーの車体をベースにフレームの増設などを行いキャンピングカーよりは小さいサイズの秘密基地らしい車に仕上がっている。タイヤは強固にしようがないがそれでも車輪などを太めにして、小回りが効く黒い要塞という存在感を発揮。
「いやあ随分と改造しましたねえ、これでも車検通ってるってんだから驚きっす」
「書類も確認するとはマメなことだな」
「それも仕事っすからね。あ、武器の方も確認するっす」
「仕様書などはラックの下の小棚に入ってますよ」
警察用の用意がいいというのは不気味だが、そうするだけの理由があった。
彼女達は雷帝の遺産を巡って獲得競争をしているハンターであるのだが、眉唾物の上に政治的に言及も多少危ないようなものに関わっているのだからバレたらどんな学園でも危険なことには変わりない。
無論それらを治安機関の人間が笑い飛ばすのもあり得る話だが、しかし対策する必要は変わらなかった。
シシュウの持っている
『なんとか偽装しないとな』
『じゃ裏の顔を持ってるミレニアム生に言い訳用意してもらおうか』
二人は【雷雨】を手に入れた後、それを解析してデータ提供することを条件にミレニアムの工場を持っている人間に製造元偽装を頼み
無論、細かい検査に引っ掛かったら白状するしかなくなるが____
「これあれっすよね、アリスちゃんの光の剣ってやつ」
「レールガンだな。紹介されたミレニアムの技術者に作ってもらったアタッチメントだ」
「あっほんとだ。丁寧に連絡先も書いてあるっすね……あっ契約書もある」
契約書。
これは隠れ蓑ではあるのだが、武器のデータ収集を目的として使用できる権限と仕事を与えるというもの。報酬金関係の契約も一緒にクリップしてある。
「うーん怪しいところはないっすね。写しがこんなに完璧に揃ってるのがちょっと怖いっすけど」
「仕事関係で必要なものがそのまま身分証明などで見せるしかないですからね……」
「なるほど、とにかく怪しいものじゃないっすね。通っていいっすよ」
書類を綺麗に戻した後で、イチカは何かを書き始める。
それが終わると一部を切り取って、ナダレにそれが渡った。
「これは?」
「しばらくはゲヘナの一件でこういう検問が続くっす。これがあったら次からスキップ……なんてことはないんすけど、一応これがあると協力料として提携店などで少しお安くなるっす。一枚につき各店舗一回しか使えないので気をつけるっすよ」
「ありがとうございます〜、いやあ余裕があるとはいいことですね」
「これがあれば何かいちゃもんつけられても問題ないっすからね」
ともかく正義実現委員会を盾に……というほどではないにしろ、このトリニティにおいて悪意がないと判断される証拠の一つが手に入ったと言っていい。
「よし、仕事は終わりっす。とは言ってもまだ、時間が掛かりそうっすね」
「どうして?」
「検問、あっちが仮設ゲートなんすけど……」
指さされた方を、窓から顔を出して見るシシュウ。
問題ありそうな車は傍に寄せたりなどしているが、どうやら問題ない車がいてもその数が多すぎてチェックが終わってない車が詰まってる様子。
とは言っても作業してないわけでもないので、急かしたりするマナー違反はできず、でも強行突破もできないという停滞に甘んじる必要があった。
「少しばかり休憩してもいっすか」
「どうぞ」
車の後部であぐらかいて休むイチカ。
「いやあ最近暑くって、倒れそうなんすよ」
「コーラありますよ。一本どうぞ」
「お、いたただきます」
冷蔵庫のコーラは補充したばかりで、黒い密林を樹立している。
「ぷはーっ! うまいっす!」
「それはよかった」
「にしても、これだけ武器をかけてる車見たことないっすよ。なんかの特殊部隊だったりするんすか?」
「いや、私達はフリーの不良狩りだ。近場の自治体と話し合って、金もらってる」
ラックには宝具以外にもロケットランチャーやグレネード、普通のアサルトライフルやサブマシンガンが積まれている。
特段特殊な銃はそれこそ【雷雨】ぐらいのものだが、にしても二人の少女が使うには少し多い貯蓄なのには変わりなかった。
「ゲヘナとトリニティの二人組ってのも含めて、すごく仲がいいんすね」
「幼馴染だからな。私は生憎ツノも翼もなかったが、まあそれはそれ。お互いに仲良くやってる」
嘘ではない。
エデン条約が始まる前から二人とも雷帝の遺産に興味があって、調べていたら偶然出会った。戦力と技術、体力と資本、ともかく同じ宝を目指すものとして彼女達はお互いに出せるものを出し合って支え合いながら冒険している。
【チーム・シャンバラ】というのも、その過程で結成されたものだ。
「不良狩りって結構儲かるんすか?」
「クライアントによるとしか言いようないな、そこがあまりにも力がない場合は金を取れない場合もある」
「その場合タダ働き?」
「いや、そういう自治体は空き家が多かったりするからキヴォトス中を移動する拠点としてもらったりするんだ。そこに武器置いて訓練場に改装すれば自治体そのものも力をつけれるし、その過程で私達の仲間が増えたりもするからな。シャーレの先生ほど大掛かりではないけれど、彼に倣って関係性を大きく増やすことを目的としてる」
シャーレは多学園の生徒で構成された組織で、それを束ねる先生はまさしくグローバリズムの手本と言うべき存在なのはトレジャーハンターでも知っていること。
彼女らは全て一人で用意して獲得しているわけでもないのは当たり前。
所属関係なく、生徒かどうかも関係なく、子供も大人も頼れる関係性を築き上げて強力なネットワークを得ることは結果的に彼女達の得にもなる。
「イチカさんは先生のことよく知ってるとは思うんだけれども、彼にとっての困難は必ず彼だけで乗り越えてきたわけじゃないんだ。あなたは勿論、他の生徒達と分け隔てなく関わり育ててきた絆が最後に物を言う。自分達は感化されたところで生き方が大きく変わるわけではないけど、それでもいつかは同じように芽を見せると思ってます」
実際はあまりに悪辣な遺産ハンターや、遺産の横取りを狙う不良達を仕留め続けてる彼女らはあくまで自分たちの取り分を守るために排除している面が強い。
副産物として治安の維持に貢献しているだけだったが、折角ならその平和を維持・発展させるため、そして自分達の探索圏拡大のために着実に人脈という根を張る彼女達に感謝している人間もいる。
イチカは平和がどれだけ大事かを知っていて、だからこそこの緊張の終わりを祈る少女として肯定。
「そうっすね。先生だってきっと今、ゲヘナで頑張ってるっす。頑張ってこの時間が終わるように、よかったら祈って欲しいっす」
悲痛ではないが、遠くを見つめる願いも二人は肯定した。
「……ああ」
「自分達も、みんなが無事のまま終わるように祈っていますよ」
「ありがとう……っす」
少しだけ声が掠れた彼女は、近づいていた正実の子に合図を貰う。
彼女は元気な声で、二人へ促した。
「そろそろ通行できるっすよ! 今日はゆっくり休んで、また明日に備えるっす!」
「ありがとう、じゃあ失礼するぞ」
「こっちこそ付き合ってくれてありがたかったっす。これは貰っていくっすよ」
「どうぞ! そのために過剰に用意してるまであるんですから」
お互いに別れの言葉を言って、それぞれのことに専念する。
車の流れが動き始めて公用車も私用車も関係なく高貴な街にタイヤで踏み込み、シシュウとナダレを乗せた装甲車もその流れに乗って検問を抜けていく。
いつかゲヘナが悪として栄えようとも、もしくは滅んだとしても、遺産ハンターの二人の生活は変化をそのまま日常へと取り込みながら過ごしていくだけかもしれない。先生と関わっていない以上は、滅亡を甘んじることもあるだろう。
だからと言って旅を辞める理由はないし、例え最初からこの度の結末が分かっていたとしても二人は旅に出てるはずだ。