もはや”雷帝の遺産”なんて言えばなんでも出てくるでしょ 作:らんかん
◻️チーム・シャンバラ
ゴスペル……雷帝の遺産の一つ、遺跡ハンターのAI。
雷帝の遺産の中には精神に関するものがあるのは諸氏の知るところであるが、遺産ハンターはそれを利用することも、掘り起こしたとしても持っていくことすらない。
例えばの話、そういった遺産をハンターが手に入れたとして、果たしてその人間には集団を統一するような指導力・計画性があるだろうか? 聞き心地の良い話を聞かせた後で、それを達成できるプランは? プランを実行したとしてその数や予測の精度は? カバーしきれない不測の事態が起こった時のアドリブ力は?
政治家を通してもそこまで万能に恵まれた人間はいないだろう。恵まれたとしても結局外国がある時点で下ぶれることはしょっちゅうだ。
まして現在のキヴォトスは学園の上層部というものになれるほどの存在になったとて、シャーレという目障りな”強制外交”を避けて通ることは不可能。
「なるほどなるほど、これが本?」
「魔導書か? 眉唾物だな」
故に、賢い遺産ハンターの間ではこういう生存バイアスがあった。
『心を支配する魔の手は必ず焼け』
絶対の鉄則。
火力兵器などは見ればある程度の使い道がわかる上、危険性も露呈しやすいのだから最悪見つかっても治安機関による対処で確実に解決する。
だが精神を操るもの、それに類するものは必ず”最悪の結果”だ。
弱者にとっては社会に虐げられた結果からなる
『迷信というものは笑うべきことであっても、人を動かす上に考慮に入れなければならない要素だと私は思う。(中略)ベテランの水夫たちが金曜日の出航は危険だと思っているのなら、それを強行させるのはまちがいだと思う。このような迷信というものは不慮の作用となり得るものである。こういうものを信じている人たちはちょっとした危険に際してすぐに浮き足立つものであるから』
かの、名前を安易に呼べぬ独裁者がこう述べたように、迷信やそれに連なる魔法などの影響は
これを理解している人間がどれだけいるかは分からない、しかし理解している者こそが真にハンターとして生きていける理由であったのには違いない。
________シシュウとナダレはライターを持ちつつも、その魔導書の中身を知っているであろうゴスペルに話を聞くことになった。
「ねえゴスペル、これ分からない?」
《読ませよ。シシュウ、トリニティの輩に触らせる気か》
「別に良いだろ私らの仲なんだから、はいよ」
サーバーを改良して、十センチ四方に収まるような二足歩行のカメラのようなロボットにホログラム機能をつけて新登場した。
呼ばれた少女はあんまり覗き込まないようにページをめくる。
《普通に魔導書だな……いや、これあれか……?》
「なんだよ」
《宮遣いが喋るでない、捲れ》
「はいはい……」
ここで逆ギレせずに呆れてるだけなのは、シシュウが随分器が広いのかそれともどうでも良いと思ってるのか。
少しばかり古い文体、だが文字や本の状態は数年経ったものと変わらない。
《ふむふむ、ほうほう、これは随分頑張ったものだな。抜け目がないあたりは我が主》
「あ、あの、なんだったの?」
《説明しよう。シシュウ、本を閉じろ。中身を開き続けても特に意味はない》
「ああ」
ここはゲヘナ校区の外れであり、トリニティとはまた違う領土の境目。
廃墟が点在する区域であるが、周辺は黒煙がよく空へと伸びていた。
無論シシュウの使う
《これは【
「話だけは知ってるぞ。ベアトリーチェやそいつが使役する大型の何かだろ」
《それに類する力で防御魔法が使える、と思ってもらって構わない》
「強いね!?」
一般生徒が持っていて良いものかは不明だが、ともかく便利。
車を守りながら走らせることのできる、なんて想像しただけでワクワクする。
が、それでもナダレは冷静だ。
「でもそれに類する力ってことは、要は神秘がないと使えないんでしょ? 例の魔女とかホルスさんならともかく自分らでは使えなくない?」
《よく理解しているな、エネルギーが足りないがそのエネルギー事態が数値化できるようなものではない以上使えない》
「ハズレってこと?」
《そうでもない》
ゴスペルは近場にあった廃墟の机に座って、語る。
《勇者達の魔導書、とあるようにそれの真価は防御力や邪道の類ではない。寧ろお前達にとってはあった方がいいだろう、特にナダレにとっては》
「自分に?」
《その魔導書を持つ者は”精神を保つことができる”ようになっている。ゲーム風に言えば洗脳耐性、だな》
「京極サツキの『NKウルトラ計画』の類が一切効かないのか」
《あれ自体はそもそも雷帝も計画していたものだ》
雷帝も洗脳系ASMRとか作るんだなー、なんてばかな発想をするシシュウ。
《しかし雷帝はそのNKウルトラ計画を完成・運用する際に相手にも同様の計画が伝わって自分を嵌めようとする存在を危惧した。兵器を作ったなら制御装置もセットで作らなければならない、人類史は放射能汚染の対策がないままに核物質を使い続けているがそれではいけないと彼女は考えた》
「それが【勇者達の魔導書】なのか」
己の主だった少女を思い出し、頷く彼女は続ける。
《もし、自分が同じ手口で罠にハマってしまったらいけない。だが自分が持っていてはその対策も取られてしまう、故に彼女はこんなところに隠しておいた。そもそもがNKウルトラ計画自体がちゃんと完遂したかどうかは我には分からぬ》
彼女は信じていたのだろうか、自分を倒せる勇者達が現れることを。
もしくは計画していたのだろうか、NKウルトラ計画自体をブラフに誰かを魔王に仕立て上げた上で、自分が勇者として殺し政治家としてドラスティックな麻薬をもたらす事を。
いずれにせよ、この魔導書は勇者達のためにあった。
「で、それをなんで私じゃなくてナダレが持つといいって言ったんだ」
《お前はどんなに歪んだところで結局”今”が一番楽しいと思っている。ナダレに対する性愛はなく、誰かを愛することもなく、今この時代を生きていることが己の個性になっている。そう言う人間はいずれ”老害”として朽ち果てていくだろうが、枯墨 シシュウとは名の通り冒険譚で墨枯れてこそだろう。墨は黒だ、そうなれば誰にも染まることはない》
「あれか? ナダレは真っ白いお嬢様だから染まるって言いたいのか」
《そうではない。ナダレにとってはなくてはならない状態になる、そう言っているだけだ》
どう言うことだ、とゴスペルに詰め寄るシシュウだが何も答えらしい答えは返ってこない。
《ナダレそのものに問題があるわけでもない、彼女にとっての絶望はもう崩れて消え去った。だがその絶望は誰かにとっての甘い蜜、覆りようもない偏愛であった》
「……人の心を覗くなんて感心しないよ? それも魔導書の効能かい?」
《壁は腐食し決壊した、その起因が我とお前の繋がりだ》
彼女は目を閉じて宥める。
《安心しろ、その因果は我を殺しかねないほどのもの。我の命は握られていても、お前の命は握れまい。故に我は従っているのだ、お前らに》
「おい私を置いて行くな、ちゃんと一から十まで説明しろ」
《お前に説明する義理も理由もない。そして説明したところでお前は何も変わりはしない》
「なんだお前!」
シシュウを見つめる、かつてゲヘナを統治するはずだったAIは問いを口にした。
《では聞こうではないか。お前はナダレのなんだ》
「友人だ」
《彼女が絶望している時、何をする》
「一緒にいる」
《一緒にいて何をする》
「知るか!」
問われてる方は少しばかり怒るように声を張る。
「ナダレが『少し一人にして』って言ったらそうするしかないし、何か思うところがあって『こうして欲しい』って要望があったらできる範囲で叶えるし、思い詰めすぎて『死にたい』とかほざいたら第二の絶望になっても生かし続ける!」
「遺産ハンターとして生死を共にしておいて今更離れられるかよ!」
彼女達は、かつて夜のアビドス校区の廃墟で知り合った。
ナダレが廃墟から出てきたと同時に偶然入ろうとして知り合って、そのまま仲良くなっている。
なし崩し的に深い付き合いになっておいて、互いに切り捨てようなんて思い至るはずもなし。
装甲車も、初めて見つけた【雷雨】も、二人のつながりを証明するものだ。
《……なら、いずれ必要な時に、必要な試練が、お前に訪れると同時に真実を口にする》
ゴスペルはそんな横暴・冒険に殉じるような青春を口にした、自分にとっては未来のゲヘナ生徒を見て満足した。
《忘れるな……『真実が自然と拠ってくる人間はその真実を抱えた者にとって英雄である』事を》
「私が、英雄か」
《英雄というのは、物語に救済を齎すものだ。誰かの人生を物語として喩えるならば
自分が、英雄であるのか。
己の手を見、その手が何をする未来を想像できないシシュウは、廃墟の中で数秒ほど呆然とした。
だが、彼女達にとっては長居するべきところではない。
勇者達の魔導書の他には何もないのだから。
「そろそろここから離れない? 外には君が倒した遺産ハンターのハンターが倒れっぱなしで居心地悪いし、この本だってそのまま持って返ったらイチカさんに迷惑かけるかもしれないし」
《ナダレの言う通りだ、離れよう。我もそろそろバッテリーが切れそうだ、セーフモードならまだ持つが》
「ああ、そうだな。帰ろうか、二人とも」
ゴスペルはもう立派な仲間であり、ナダレは言わずもがな。
ハンター三人衆は外へ出て装甲車に乗り込み、ミレニアム近くのホテルまで走り出した。
黒煙から覗く太陽の赤は濃く、終末とも言えるように空を染める。
終わりを認識させるのは、赤が終ぞ人に死を告げる色から脱せなかった表れだろうか?