もはや”雷帝の遺産”なんて言えばなんでも出てくるでしょ 作:らんかん
◻️チーム・シャンバラ
◻️チーム・ザッハーク
チーム・シャンバラはこの日、別のチームと出会ってしまった。
噂が立つレベルで遺産ハンターというコミュニティが成立している以上はそういう出会いもあるだろうし、出会ってしまったが故の対立も免れない。
「くそっこいつら大手だったか!」
「これは仕方ないね〜。ほらっ!」
アビドス付近の砂漠化した廃墟で、彼女達が戦っているのはチーム・ザッハーク。
遺産ハンターでチームを組んでいる中でも最大手の一つであり、リーダーは不明。しかし、遺産ハンターの数が多いために弱小チームを狙って遺産を奪取したり、妨害策を講じたりなど悪名高い。
最もゲヘナの財産である兵器を荒らす盗人どもに秩序がある方がおかしいか。
「こいつら強いぞ!」
「くそっ、あたしらに遺産の使用許可を下さなかった上は何を考えて」
「静かにしろ!」
シシュウの
そうすると今度は大した武器を持っていないナダレに人が流れるが、それが大きな間違いと気づくには遅すぎた。
彼女は強い。
「はあっ! でりゃあ!」
銃を撃ってくるやつに近接戦闘を仕掛けに行って、そのまま銃を裏拳で弾いて相手の鳩尾に拳を深く入れて殴り飛ばす。それを見た相手は若干怯えるものの、すぐに気合を入れ直して突撃してくるのだ。
ジャンプしてくるやつにはスカートの裏を見せることすら躊躇しないハイキックを、重機を使った打撃で撃破を狙うやつには銃器の裏を挙げた脛で止めてのキックを、そしてさらに至近距離でタックルによるタッチダウンを狙うやつにはそいつよりも強く、勢いよく膝蹴りを当てて気絶しかねないほどの一撃を!
チーム・シャンバラの2人はシャーレの生徒ほどではないにしろ、危険なところに突っ込んで帰ってくるほどの強さはしていた。
「こいつら何体いるんだよ! 数えるのも馬鹿馬鹿しくなってくる!」
「自分の身体だってタダじゃないんだから歯ごたえないと嫌だなあ」
「そういう問題かよ!?」
レールガンモードに切り替えて、周辺にばら撒くように放つと建物の一部に穴が開くほどのビームが綺麗にナダレ以外を捉えて吹き飛ばす。
「わお!」
ナダレは軽く伏せてから立ち上がる。
さっきまで元気だった手下達は全員地面に伸び、音も消えた。
「よし、これで邪魔者は消えたはずだ」
「ざぁんねぇん」
「誰だ!」
これでようやく宝探しに励めるぞと意気込んでいたはずのシシュウに、少し上から声がした。
かつ、かつ、と靴の音が聞こえ、かちゃりと武器の音がする。
「そこに人がいるってことはぁ、私みたいな先に行った人もいる、ってことですよねぇ」
階段上がって2回の通路から見下げるような少女が1人。
腰に刀を二振り下げて、穴の空いた天井から差し込んだ月光は彼女の長い濃紫色のもみあげとポニーテールを見せつける。
目の色は赤と紫の中間といったところで、少なくとも味方になれそうな存在ではなさそうだ。
視線が鋭すぎる上、百鬼夜行の制服の上に黒くて硬そうな革ジャンを着ている。
「先客がいても不思議じゃなかったが無礼を働いたのはお前の手下だぞ」
「いやあ申し訳ぇありません。私もぉいつも通りの客だと思ってぇ始末するように言っちゃってぇ」
彼女は髪の毛を結い直し、そのまま話をし直す。前髪のロールが少しだけ、外からの風で揺れた。
「私ぃ、チーム・ザッハークのアビドス方面司令官の【
「私はチーム・シャンバラのシシュウ、隣にいるお嬢様がナダレだ」
「御存知してますよぉ。私もぉ、バカではないのでぇ」
シシュウが持っている武器を指差す。
「それ
「知ってるのか」
「はぁい」
目は永遠に笑ってない。
「雷帝の宝具の行方に関してまでは分かりませんでしたがぁ、種類はいくつか知ってまぁす。でもぉ、それを教えることは出来ないのでぇ、ごめんなさぁい」
「ま、だろうな。百鬼夜行らしく下げてる刀も宝具か?」
「これは違いますよぉ。対物刀の類でぇ、それぞれ【民主刀】と【共和刀】って名前が付いてますぅ」
「ソリダス・スネークの夢女なんて初めてみたよ」
煽られても一切刀に手を触れない辺り、何かの矜持によって引き抜くかを決めているようだ。
「違いまぁす。彼は面白くないですけどぉ、ネーミングセンスは面白かったのでぇ。それにぃ、私の見た目は全然別のものを参考にしてるのでぇ」
「ま、だろうな。その髪色で刀を持ってちゃ嫌でもわかる。いやそういう話をしに来たんじゃない、お前の部下に嫌な思いさせられたから埋め合わせを出来ればお願いしたい。戦いたくはないだろう?」
「私個人は戦ってもいいですけどぉ?」
「そうかな、そう思ってたらもう斬られてるはずだが」
シシュウは、少しばかり口元を緩めて続ける。
「今ここで戦っても益はない。例えば私たちはお前が雷帝の遺産を持っているかどうかは分からないから戦っても仕方ないし、お前自体も強いはずだから消耗して部下に奇襲されるのがオチだ」
「【雷雨】で殺せばぁ、いいと思うんですけどぉ」
「それを持っていてもお前に張り付かれたら出来ない。ナダレに任せてもいいが、斬られたらひとたまりも無い」
「この刀は人斬れないですよぉ、だってぇ、超強化されたギプスカッターみたいなものなのでぇ」
これで人を殴って嫌な気持ちにすることはできる、という旨を付け加えたライメイはしかし彼女達の煽りに近い分析に鞘を払う気配がない。
「だけどここまでやっておいて私達の口を閉ざさない真似をすれば、最悪烏合の衆が連合を組んで戦争になるシナリオも見えている。これだけ暴れておいて更に悪逆の非道を尽くした場合、どうなるか」
「人々は前提が悪である事を忘れ、善を見出して一致団結する。ですかぁ?」
「お前達にとっては同じ穴の狢だし、私たちもそう思う。だが」
「それ以上の言葉は結構ですよぉ、ちょっと口を封じたくなってきたのでぇ」
なお刀を抜かずして、それでもようやく手につけたのは拳銃だ。
「確かにぃ、最近こちらも遺産ハンターの急激な増加に嫌気が差してあちこち工作して回ってるのでぇ、そういう利益の分け合いという中途半端な共産思想で一致団結する可能性はありますよねぇ。私達は勝ちますけどぉ、ちょっと面白く無いなぁ」
「面白く無い? 君たちが勝ったらパイを独り占めできるのに」
「私個人の意見ですけどぉ、宝具持ちを手をかける必要があるのが面白く無いなぁと」
「今度は私か。ゴスペルのやつとかはナダレを特別視してたが」
少しばかり、くすくす、と笑みが溢れるライメイ。
「そもそも今回の目的もぉ、ハンターの狩りを目的としてたんですよぉ。だけどそこにやってきたのは宝具を持った少女でえ、無論それでも狩りして良かったのですがぁ、宝具を持った少女が誰であれ出会った以上は少し顔を見た程度で引こうと話が付いてたんですよねぇ」
「へえ、じゃあなんだ? あんたの敬愛するボスは私を認めたみたいに言うのか?」
「そう言うわけでは無いですけどぉ、でも、貴女が【雷雨】を手にする運命にあったなら……きっと宝具を使う少女達と惹かれ合うと思いまぁす」
大きな力は実物を見なくても、存在するのでは無いかという恐怖があるだけで社会を歪める渦になりかねない。核兵器もそうだ、経済もそうだ、それらを総括する政治は影響力の特異点だ……歴史が巻き戻っていけば神や宝具へと影響力の歴史は遡る。
つまり力の本質は”物理的な破壊力”ではない事を、ライメイは強く口にする。
「貴女がそれを手放さない限りぃ、巨大な力に吸い込まれた者たちの聖戦というのは必ず起こると思いまぁす。私達ぃ、チーム・ザッハークの誰かが宝具を持てば勿論貴女の【雷雨】を頂戴に行きますでしょうしぃ……ハンターでない誰かがその力を手に入れれば、いずれその周辺にいるであろう宝具の魔力に当てられた、選ばれなかった凡百の者たちを巻き込んだ事件が起こり続けまぁす」
彼女の瞳は、貫くような視線をナダレに浴びせた。
最も高低差と前髪の影響か、その視線をシシュウとナダレの2人が見えることはない。
「力とは全てぇ、特異点なんですぅ。それが強大であればあるほど、この
ライメイにとって確信した未来は、さりとてその未来を受け入れたナダレと、未来すら分からないからこそ今を生き抜くことに迷いのないシシュウには恐怖たり得ることはなかった。
それに満足したのか、手にした拳銃はシシュウの手へと投げ渡される。
「おあっ」
「それぇ、遺産っぽいんですけどぉ、使わないのであげまぁす」
「じゃ、これで手打ちってことで」
「お願いしまぁす。名前は
彼女曰く。
ロングスライド拳銃であるのだが、スライド部分は途中までしかなく、そこから先は特殊合金の内部サプレッサーを使用したものらしい。
それだけならカスタムした拳銃の領域を出ないのだが、特殊合金そのものがナノマシンで作られていて、スライドに入るマガジンであれば内部構造を変化させてどんな銃弾でも問題なく撃てるようにしたもののようだ。
「サイドアームのシステムウェポン計画を兼ねてぇ、ナノマシンの実験をしていたようですねぇ。ともかくそれ持ってるだけでも役に立つと思うのでぇ、差し上げまぁす」
「どうも」
「まあ、それでおあいこってことでぇ。私は帰りまぁす。騒ぎを聞きつけてぇ、暁のホルスに出会っても洒落にならないのでぇ。次会ってもぉ、会話で済むといいですねぇ。ではぁ」
いつまでも間延びした言葉で、ついぞ刃を晒すことはなかったライメイはその場を立ち去った。
空いた天井から綺麗に飛び去った綺麗さに見惚れていたが、時間が経てば今そこで転がしてる手下にまた襲われかねない。
「自分たちも帰ろっか」
「ああ」
チーム・シャンバラの2人は、そのまま歩いて廃墟を立ち去った。
夜も更けているがまだ朝日が顔を出す時間じゃない。
近くのセーフハウスに行っても、1時間以上はかかるだろう。
2人は気疲れしたのか、装甲車に戻ればため息をつき、そのまま走り去る。
彼女達を追う影は、幸いなことに一つもなかった。
(ところで今日更新だけど更新した後雷帝の遺産全滅エンドだったらこの作品は終わりだぜ)