もはや”雷帝の遺産”なんて言えばなんでも出てくるでしょ 作:らんかん
◻️チーム・シャンバラ
◻️その他
交番のお巡りさん……ヴァルキューレ一年。
ゲヘナによる侵略戦争勃発の危機の顛末は諸氏の知るところであり、敢えて語ることはない。
資本主義によって作られたお手元のうるさい文字のお弁当は”割と静かに終わった”と言ったところで、皆が勝ち取った自由を謳歌するべきだと感涙するものが耐えず、ゆえそのように彼女たちの話も運んでいる、とだけ伝えておこう。
「あーお姉さん」
「何だ」
いよいよ自由にゲヘナへ帰れる喜びに溢れていながらも、身分が身分なためにちゃんとした用意などをして戻ろうとしてたシシュウや久々のゲヘナ旅行を楽しみにしていたナダレの乗っている車は、シャーレの近くを通った際に警察の人に止められた。
赤い髪が薄紅色の髪の上でペンキのようにぶちまけられた、と見える少女に敵意なし。
「ここでは見ない装甲車でね。武器も持ってるらしいじゃないか、ちょっと中点検してもいい?」
「ああどうぞ、いつもご苦労様です」
悪い人ではなさそうだ、と思っているのか彼女たちも受け入れてみてもらうことにした。
変な人、といえばそうかもしれない。
「ご丁寧に書類まである」
「あ、見つかりました?」
「いいことだ」
点検している手際は正直素早く、ボルトの動作などを含めて点検スピードが実務的だった。
ただし、口元には電子たばこを加えている。
「最近はゲヘナ云々で緊張感が高まっていたからな、自衛用の武器を複数持つのもわかるし怪しいところはなさそうだ。武器の売買自体はしないようだし、するにしては動作が使い込まれたものだな」
「ミレニアムの人に手伝ってもらいながら自分達は不良達を撃退して金とか貰っているんです。この世界には荒事が絶えないでしょう?」
「そうだな」
武器をあらかた見た警官は【雷雨】を手に取り確認する。
偽造された仕様書をよく見ながら動かし、レールガン部分にはあまり触れずに基礎部分だけをチェック。
「珍しい武器だな。これがその報酬の一つか?」
「ああ。それで私たちはもらってんだ」
「なるほどなるほど。お巡りさんはヴァルキューレのケチさのせいでろくに武器持ってないからこういうのを見るとちょっと羨ましいかも」
「自分で武器を買ったりは?」
「それはないな」
電子たばことはいえ重度の喫煙者らしい、そんな少女が必要以上に武器に金かける理由はなかったようだ。
さて、案外ちゃんと調べているがヴァルキューレにしては法に乗っ取っている働きをしているこのお巡りさんは武器と書類を綺麗に纏めて戻して、持ってきていたタブレットにチェックをつける。
「君たちは随分品行方正だな。いいことだ、トリニティとゲヘナで手を取り合えるのがこんな小さなことでも、素晴らしいと私は思うぞ」
「ありがとうございます」
「急ぎでないなら少しだけ話に付き合ってくれないかな?」
「あっじゃあお巡りさんに飲ませるかあれ」
小さい冷蔵庫からコーラを取り出して投げ渡すシシュウ。
「おっありがとう」
「こんだけ暑い中外でやってたら冷たいもの一つ飲みたくなるでしょ?私らからの労いってことで」
お巡りさんはそのまま蓋を開けて飲む。
タバコのせいで随分レモンの香りが広まっていたのか、少しばかり変化球な味を楽しめた。
「やっぱ美味いね」
「で、話ってなんです?」
「なぁに、雷帝の遺産っていう眉唾物の話さ」
その言葉が出た時に、シシュウは少しだけ固まった。
ナダレに裏から軽く小突かれていつも通りに戻った彼女は、目の前のお巡りさんに対してその話を問う。
「雷帝の遺産って、あの噂の?」
「そう。NKウルトラ計画だとかで有名になったんだがいいものが手に入るかもっていって、最近色々なならずものが夜な夜な悪事を働いてはこっちの迷惑になってくれちゃっててね。君たちもそういう奴らに迷惑かけられたかい?」
「ああ、それは」
仕事の一環としておかしくないことだ、と考えた2人は話に乗った。
「自分達もそういう活動の一環でただ暴れ回っている不良達を相手にすることが最近増えてきたんです。ヴァルキューレはその運用形態上、自治区が乱立してるこの町での権利はそこまで強くないはずですが、それでも対応に明け暮れてるんですか?」
「痛いところを突くなぁ、でも正解。私達もそういう制約があって苦しんでいるのに、その制約下でもしないといけないことが多すぎるほど問題になっているんだ。私一応公安局所属でね、たまーに上に報告するときに嫌になっちゃうことも多いよ」
「そのストレスで禁煙を?」
「これは元来の趣味だ。タバコを悪く言うなんてやめてもらおうか」
自分の尊厳に関してはちゃんと怒る警官には、失言を謝るシシュウ。
「ま、それは置いとこう。
ともかくそう言うのに出会ったら、あんまり交戦しないで自治区の偉い人とか連邦生徒会の管理区画だったらちゃんとヴァルキューレに言うんだよ。もしかしたら異動になってそこで私と再開するかもしれないけど」
「しばくことで金もらってっからなあ、正直あなたの仕事を奪ってしまうかもしれない」
「それはそれでOK。公務員ってのは基本歩合制じゃないからね、君がしばこうが私がしばこうがタバコ代は賄える」
あくまで武器に割こうとしないヤニカスっぷりには引くしかないが、まあそう言う生徒もいておかしくは無いのだろうと思うのはチーム・シャンバラは思っていた。
「あっそうだ。そろそろ戻らないといけないんだけどさ、最後に一個頼み事しちゃってもいいかな」
「頼み事?」
「トリニティの子の方にね」
ナダレを見つめるお巡りさん。
「私が懇意にしているお嬢様が、トリニティ総合学園近くのパン屋さんを営んでいるんだよ。君だったらもしかして知ってるかもしれないと思ってね、確か君、虚遣 ナダレちゃんだったよね?」
「え、ええ。よくご存知で」
「だと思った。顔写真をそのお嬢様経由で見たことあるけど、随分見違えたね」
「色々あって……」
言及されるのが初めて嫌になったのか、ナダレは目をそらす。
それに気づかないはずもないお巡りさんであったが、彼女にとってはナダレの事情はどうでも良かった。
「ま、いいことだな。話の続きなんだが、非常に深い付き合いをしているそのお嬢様に伝言を頼みたいんだ」
「ちゃんと仕事をしてます、ってか?」
「シシュウちゃん、だっけ?その通りだ。私がちゃんと仕事をしているって」
「じゃ名前を」
《八番パトロール、長いです。何かありましたか?》
名前を言おうとした瞬間に、折悪く肩にかけていたトランシーバーに通信が入る。
「えー見慣れない装甲車の点検をしてました。問題はないです、どうぞ」
元気にトランシーバーに返事を返したお巡りさんは、手を振りながら離れる。
「じゃよろしく!名前は多分そいつに聞けばわかるから〜!」
「あっおい!」
シシュウの止めさえ聞かず、パトカーに戻ったお巡りさん。
変な仕事を押し付けられたものだが、これで長い職質は終わった。
何も被害はない。
「私達もさっさとゲヘナのセーフハウスの方へと帰ろう。騒ぎで壊れてないといいな」
「壊れていたらゲヘナの自由なクラフター達に金払って一緒に設計図から書いちゃおう」
「そんな体力はないぞ」
「いいもん。自分はあるから」
ナダレの少女然とした笑顔が、柑橘系のタバコの、甘ったるくて少し酸っぱい匂いが残った車内に咲く。
そもそもがガンパウダー臭くならないように対策はしているので、この匂い程度ではさして問題はない。
「そんなことよりも飯だ飯。何を食って何を飲むか決めないと」
「決まってるじゃないか!すっごく強いライチの炭酸に牛のステーキ!それにパン!」
「食い意地張ってるなあ!」
シシュウは相方の食い意地に若干引いてるが、それだけ自分の都合で振り回した挙句家に転がり込むことを許してくれた彼女に対して強く言うことはできなかった。
装甲車はそんな2人を乗せて、D.U.地区を走り抜けていく________
彼女達を見送ったお巡りさんは、その様子を眺めていた。
路地裏の奥から、かつ、かつ、と音がする。
「どうもぉ、元気ですかぁ」
「ああ、見ての通り。コーラも貰ったし、私は喫煙が許されてるから怒ることもない」
「いくらニコチンが無いとは言ぇ〜、やめた方がぁ、いいと思うんですけどぉ」
紫色の髪をした女。
碧我 ライメイだ。
「で、どうでしたぁ?直接お目にかかりたいとぉ、おっしゃっていたのでぇ……」
「彼女達は彼女達で、もしかしたら面白い事件に巻き込まれて、そして解決してくれるんじゃ無いかって思うところはあった。それに、ナダレちゃんだっけ?彼女を見たら頼もしかった後輩のことを思い出してさ」
「ああ、あの人ですねぇ。まあそれはともかくとしてぇ、言った通り
ライメイにとってはこのお巡りさんが相当の存在であることは理解していて、かつ、お巡りさんもどうやら部下を使い潰すような悪辣さを持ち合わせることが出来ないらしく、タバコがやめられないことを除いてはひどく優しく模範的な人間な態度を取った。
「そうだなあ、彼女達を追ったりすることは無しにしよう。出会って、そうだな、必要になれば戦えばいい。他のやつにもそう言っておこう、アビドス方面で出会った時は、ライメイの好きにしてもらって構わない」
「次出会ったらぁ、彼女達の命はともかくぅ、尊厳はぁ、なくなってるかもしれませんよぉ〜?」
「そこまでお前の思い通りに行くかな?」
お巡りさんは、爽やかな笑みを見せる。
「そうやって悪辣ぶってる人間がいる時ほど予測不可能な事態へと転がっていくものだ。だから、お前だって正義の味方をしなければいけない時に出会ってるかもしれないぞ」
「せめてぇ、助けられる側で無いことを祈ってまぁす」
「じゃ、そういことで。私はまだ新人扱いだからな、真面目に仕事をしなければ」
「お戻りになるまでにぃ、アイスを用意しておきますねぇ」
そう言って、互いに別れた。
いつまでも遺産ハンターの物語がただの冒険譚で終わらないだろうことは、この件に関わってる誰しもが予感せざるを得ない。
ただ、いつ来るのか、それがどんな形をしてるのか。
それもまた、知る者はいない。