もはや”雷帝の遺産”なんて言えばなんでも出てくるでしょ 作:らんかん
◻️チーム・シャンバラ
ゴスペル……雷帝の遺産の一つ、遺跡ハンターのAI。
この日、平穏が戻りつつあったゲヘナの一角で彼女たちはコミュニティの伝手で雷帝の遺産を鑑識するべくある建物へとやってきていた。
解体予定の、持ち主のいない屋敷。
「これか」
そこに置いてあったのは、大きめのライトマシンガンだ。
「いやあ、なめられたものだね。雷帝の遺産の概念はあったとは聞くけど、ここまでちゃんとふざけられるとまいっちゃうねえ」
「区別がつかない人生のほうが幸せだと思うぞ」
ただ彼女らは、遺産ハンターとしては上手な方。
箱を持ち上げるまでに重心が上の方にあり、持ち上げた際に下が空洞であったことを認識していた。
「ま、こう言う場合はあれだよな」
ライトマシンガンを取り出してから底を叩いて、ひっくり返して叩いてを続けると中底が出て、そこから書類が溢れ出る。
「まあこっちの方が遺産ってのはよく見るよな」
「ゴスペル〜」
二足歩行のカメラみたいなロボットが飛んできて、ホログラムで少女が生えてきた。
「これ読んでー」
丁寧に並べた紙を、目の前の少女に見せるナダレ。
《ほう? 読めないのか》
「こんだけ流暢じゃねえ」
医療の本場がどこかと言えばドイツを思い浮かべる人は多いのでは無かろうか。
最先端の技術はドイツ初の場合が多いのは産業革命以降ヨーロッパでは良く見ることではあるのだが、医者のカルテは流暢なドイツ語で書かれていることが多い。
トリニティのナダレが読める事はないし、かと言ってほぼ流水の波のような書き方をされてはシシュウも読めるはずがなかった。
《ふむ、読めるぞ。内容を読み上げても良いか》
「オッケーだ。一応依頼主からは周辺の警備を取り付けてあるし確認済みだからな」
《読むぞ》
「おねがーい」
そうして少女2人の願いに応え、ゴスペルは読み始めた。
『エインヘリャル計画』
語り始めに、シシュウとナダレは背筋を正す。
『この前進となる第一次システムウェポン計画では、現実の軍事計画と併せての兵器開発が急がれていた。ゲヘナは私がいれば余程のことがない限りは滅亡する事はないだろうが、私1人で世界を滅ぼせるほど狭くはない。システムウェポン計画の段階ではその名の通りシステムウェポンを開発することによって他国の政治的干渉を受けないこの時代で武器の企画や弾薬を統一化し、改良の土台も含めて広く安定することを目指した』
システムウェポン。
基本的な部品を核としてパーツを組み替える事で銃の種類を変化させ、必要な銃を不必要な銃から転換させて使用できる物のことを指す。
どうやら雷帝は“ゲヘナが工業で強くなれるうちに”軍事的な有利を取るために旅団制導入を検討、旅団制移行に際しその自由度を兵站によって削がれないよう武器兵器の柔軟さを目指したようであった。
『だが、システムウェポンを作れたとしても問題が残っている。そもそも兵器を開発したとてその銃弾は仮想敵の学園生徒を足止めできない。また、足止め出来たとしても致命打を与えるには政治的ダメージ以外に有効打がないこと。兎角事後諸葛亮の為に作られたこの世界では、最善策以外が全て下策となりえる』
システムウェポン化を推し進めたところで当たってしまった壁の一つが、その武器を使用したところで敵兵を倒せないことが起因した。復帰できなければ良いが、出来れば永遠に眠って貰えると嬉しい。
『なので私はシステムウェポンそのものの設計を後回しにし、戦争が政治的な意味を持つように“殺せる銃弾”を作る必要があった』
『それが【エインヘリャル計画】だ』
書類に付随していた日記は、ようやく本題の到来を示した。
『エインヘリャルは死んだ戦士の魂という意味を持つ。私は自分達が持つ神秘の防御を無効化できる手段を探した』
《シシュウ、その弾丸を見せよ》
「ん、これか?」
マシンガンの隣に纏められていた鋭い銃弾を拾って見せるシシュウ。
『もし、飛んでくる銃弾が
「うげえ」
シシュウは引く。
なんて事考えてんだこのアマ、と思っている上にもしそんなものが今手に持ってるものだったら正式運用された日には誰が殺してくるか分からない恐怖の時代が出来上がっていたことを想像するに震えてる。
『この銃弾には反逆者共を拷問し、過酷な環境下で殺した死体を加工して作ったものだ。死ぬまでいかなかったものが多いのは悔やまれるが、ともかくライフル弾サイズで30発作ることに成功した』
雷帝の反逆者が全員生きて帰ってきたわけではないのは良く理解している。政治への反逆者なんて末路がマシなのばかりじゃないのは世の常だ。
『この銃弾には“習合”と言う機能がある。私の考えでは、私達は正体不明の神々であると思っていて……それらがもし本当であれば死んだ者たちの物質には怨嗟と魂が宿っている。理論通りなら邪神と言って差し支えなく、これは神秘から見て反神秘、対消滅する反物質と同義だろう』
なんと言うことだろうか、シシュウが持っている弾丸はそれほど危険な者だと言うことを書いている。
ただ、触れているシシュウはなんともない。
「大丈夫なの?」
「ああ、平気だ」
《読み進めるぞ》
『外の世界ではラー・アトゥムを始めとし、ヘルメス・トリスメギストスなど神々の習合の例が見られた。これを実現すれば、私は名もない神に、名もない邪神をねじ込み、小さな身体にラグナロックを起こして命を奪える。そしてその始まりが少女として生きていた者の魂、故に
悪趣味どころではなく、邪悪極まる雷帝の所業。
何処まで羽沼マコトが知ってるかは不明だったが、ともかく存在を肯定できない。
『今度誰かが攻め込んでくれば使ってみるのも悪くない。今更独裁政権を敷いておいて、血を見ないわけにもいかないだろう。もしこれで成功すれば反乱分子を殺し、その血でまた魂の銃弾を仕立てて身に余る憎悪を縫い付けるだけだ』
『さあ、実験をしよう。この独白が歓喜に変わる瞬間を祈って』
《だ、そうだ》
「終わりか」
最後の一枚まで読み終わったゴスペルは肯定。
あまりに酷い内容でナダレは少し頭を抱えているが、シシュウの目に迷いはなかった。
「ゴスペル」
《なんぞ》
「今読んだ内容や書類のデータってその頭の中入ってるか?」
《ああ、残っているぞ。文章も出力できるが》
そうか、とただ返事をした彼女は持参していた【雷雨】のレールガン部分から少しだけ高電圧を放つ。
腐り落ちていた木に燃え移り、瞬く間に書類とライトマシンガン、銃弾まで燃やそうとしていた。
「ちょっと!?」
「いいかナダレ、こう言うのは存在しちゃいけないんだよ。こいつは間違いなく宝具だ、神々でさえ自由にできるほどな。でも……」
「でも?」
「人間や神様ってのは多少のルールはあった方が何倍も面白くなるんだよ。雷帝の遺産はそのルールの中での最強や偉業を目指せるかもしれないって言うからハンターやってるけど、こう言う何も考えてないようなものはぶっ壊すに限る」
もう用はない、とシシュウは武器を腰にかけて足早に出口へと歩いていく。
ナダレとゴスペルもそれに追随するように走っていくと、彼女たちが出たタイミングでその部屋は焼け落ちた木材や瓦礫によって塞がれる。
(私達の正気を保証する神が実在し、私達の行いを肯定する法があるとしよう。でもその者たちが私達だけでなくあのような遺物が奪われて悪意に晒されないように守り切るのは難しい。だったら、こうして無かったことにするのが一番だ)
チーム・シャンバラが出てきたタイミングで、慌ててやってきた地主の少女が駆け寄る。
「だ、大丈夫ですか……っ」
「運が良かったし、貴女は観察眼がある。勝手にやっていたらトラップで急にあちこち引火してたので我々を呼んで正しかった。警備員の方も無事のようですし、我々も多少の煤に晒された程度なのでお気になさらず」
屋敷の周りは草原で木はなく、草原の向こうは大きいコンクリートの道路。消防車が入ってきてそのまま消すだけの余裕はあるし、それをただ待つだけでも問題はない。
「じゃあ、我々はこれで」
「は、はいっ!」
「ちゃんと振り込んどいてくださいねー、追加料金はいらないのでー」
ゴスペルは人前に出ない主義なので、機械補助的なポーズをサーバーに取らせて皆装甲車に乗り込んだ。
黒煙は立ち上っているが、それ以外に危険な様子はない。
「ねえ、シシュウ」
「なんだ?」
ハンドルに手をかけたナダレが、隣の相棒に問う。
「自分達って正しいことをしたのかな」
「その判断は後世の人間にしかできないさ。歴史だってそうだろう、当事者が生きてる人生という世界の価値観と、皆が生きてる星の歴史という世界の価値観とが食い違うことなんてしょっちゅうさ。それは私達がいかに遺産ハンターとしての道を歩もうが変わらない」
問われた方はため息をつくが、冷蔵庫からコーラを取り出して飲むと少しだけ明るく振る舞う。
「でも間違ってなかったと断言できる。あれは政治どころか話し合いを許さない獣の理論で作られた極論の塊だ。私達人間の手に収めて良いほど上品なものじゃないぞ」
「……そうかも」
「哲学的な話は今度にしよう。少し暗いところにいて息苦しかったんだ、ちょっとは楽しいことをしに行こう」
「うん」
ようやく装甲車が走り始める頃には、近くの数台の消防車が駆けつけては消火作業に取り掛かっていく。
ハンター達にとってはお宝が大事であり、自分の手に余る狂気はそっと葬った。
故にこうした事も、たまに起こる。
たまに起こってしまうゲヘナの廃墟の発火事件の幾つかは……案外幽霊のせいではないのかもしれない。