もはや”雷帝の遺産”なんて言えばなんでも出てくるでしょ   作:らんかん

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この話に出てくるネームドキャラ
◻️チーム・シャンバラ
枯墨(かれずみ) シシュウ……ゲヘナ二年、遺産ハンターの1人。
虚遣(こづか) ナダレ……トリニティ二年、遺産ハンターの1人。

◻️その他
虚遣(こづか) クズレ……トリニティ三年、虚遣家次期当主、ナダレの姉。


ナダレが隠していた過去

 シシュウはお茶会へと誘われて出ることになった。

 

 ゲヘナ生がトリニティの魂とも呼べる時間に来てはいかがなものかと思われたので今まで誘われても行かず、次期当主からの名指しを受けても基本的に彼女は丁寧な返事を心がけてお断りを繰り返している。

 

 が、今日ばかりはそうはいかない。

 

「うふふ」

「これがこうで……」

 

 ナダレに頼み込まれてまた虚遣家の屋敷に滞在することになったので、そういうものから避けられない運命になったと言っていい。

 

 どうしてもゴスペル用にちゃんと調整したロボットを用意しないといけないらしく、わざわざ高いメモリを買ってきたり高いケーブルを買って配線を組んだりなどで大夢中。

 

『楽しくなるぞ〜!』

 

 尚、それに付き合えない以上暇を持て余すしかないのがシシュウだ。

 

 挙句。

 

『折角なら彼女と会話して生まれ変わらせてあげたいじゃん?』

『私はゲヘナに帰って暫く休暇だったりゲヘナ生徒としてちょっと顔出したりしたいんだけど』

『ん〜? 誰が自分を守ってくれるの?』

『お前なぁ!』

 

 なんて会話をした後では流石にナダレを置いていくのに少しばかり気が引けて、仕方なくトリニティの上流階級の大屋敷に居候することとなった。

 

 で、そんな哀れなゲヘナガールは屋敷でどんな扱いを受けてるか。

 

「ナダレちゃんの友達ってこんな子なんだ。ああ、お菓子はいる?」

「いや別にいらないです……」

「ゲヘナにしては随分と小綺麗、礼儀正しいし」

「初対面にはあんまり迷惑かけたくなくて」

 

 なんて当たり障りのない会話を繰り返しているシシュウに対して、トリニティのお嬢様は好感度が上がり続けている。

 

 ナダレがそれだけ本家筋で強い立場を持っていることもあったが、その友人が丁寧かつ偏見なしに接しているのが彼女達の心象を非常に良くしていた。虚遣家が自分達以外はちゃんと高品質で長く使うべき奴隷程度にしか思っていないので受け手側もある種の差別意識の無さがあったのが大きい。

 

 しかしこういう場は常に体裁を保つことが重要視されており、一定ラインから大きな品位の下りようをすればどんな扱いを受けるか。

 

「ごきげんよう」

「ああ、どうも」

 

 一人で座っていたテーブルに、綺麗な令嬢が入ってきた。

 

 虚遣 クズレ。

 

 農業や工業など第一次・第二次産業をトリニティが出来る前から弱い立場の人間を一手に引き受け大儲けしてきた虚遣一族の次期当主であり、何よりナダレの姉。

 

 ナダレ自体が相当白く、肌も羽も服も純白で、目立った色は目の色の緑。羽と背を少し大きくし、その上で目の色が赤色なのがクズレだ。

 

「一族の要人を相手し続けて、参ってるんじゃないかと思って」

「あまり親族の方を蔑ろにする発言をしたくはないのですが、いかんせんこういう場の振る舞いを学ぶ機会を得られなかった為疲れてしまって。正解があったら教えて欲しいものです」

「うふふ、正解は相手への侮蔑を持たないことだけですわ」

「細かな作法とか難しいな……いや大体なんであいつ来ないんだ。自分の家のことなのに失礼だと思わないのか」

 

 己の友人に対する苦言をつぶやく。

 

 いくら雷帝の遺産ハンターをやっていたとしても、ちゃんと身分があるならばその身分にもある程度真摯になるべきだろう、それが上流階級なら尚更だ。

 

「あの子はあんまり前に出ることはないのよ。それに、今は元気でもいつ体調を崩すか分からないから、皆あまり強く言えないの。でも、誰も悪くは思ってないわ」

「体調を崩す? あれが?」

 

 素直に聞き返すシシュウ。

 

「あなたとナダレは二人で色々な場所に遊びにいっているけど、体調を崩したことはなかった?」

「いや……?」

 

 互いに、怪訝な顔をしている。

 

 シシュウは思い出してみても、それこそ最初に出会った時ですら砂埃の廃墟からすっ転んで出てきたあの出会いの瞬間ですら体の弱さを感じることが一切なかった。

 

「あ、あの」

 

 恐る恐る、彼女は聞く。

 

「ナダレのやつは、何か病気を患っているのですか……?」

 

 言葉使いもちぐはぐになる程、震えた声。

 

「……はあ、あの子は隠していたのね」

「やっぱり何か」

「あの子はね、全体的に体が弱いの」

「内臓疾患の類、なんですか?」

 

 首を振るクズレ。

 

「内臓は問題ないの。ただ、人よりもすごく怪我しやすくて、血をよく流してしまう」

「は、はあ」

 

 ナダレを大事に思っている家族の一人は、ため息をついて説明する。

 

 彼女の体の弱さが発覚したのは、食器棚が執事の不注意で彼女の方へ倒れた時だ。

 

 本来であればそのまま潰されるが、ナダレはその時に避けたが避けきれず、足を複雑骨折した。

 

「複雑骨折……!?」

「ええ、そこまで重量のないものだったのですが、彼女は血を流し、動けなくなったのです」

 

 驚くのも無理はない。

 

 いつか諸氏、と投げかけた時の対象には当たり前の話だろう。食器棚が倒れてくる、中には食器が入っている、足に急な負担が掛かれば当然折れるし破片が刺されば血を流す。

 

 だが、この世界の人間は基本鉄骨が落下して当たっても死なないほどの頑丈さを兼ね備えているのだ。

 

 なのにナダレはそれを持ち合わせていなかった、と発覚したのがその時らしい。

 

「【神秘減衰症】という取り敢えず付けられた病状と向き合わなくてはならない。

 その後、皆で彼女の介護をし、幸い歩けるようにはなりましたが……それでも学校へ行って帰ってくることすら難しいと判断され、常にこの屋敷から出ないように厳重に見張って、外部から講師などを呼び教育していました。それでも、気を張っていなければ我々ですら傷つけかねないのですから、彼女に触れようとする者は減っていき……私のように近しいものしか、彼女と話せなくなったのです」

 

 話せなくなった、というのは対面でのことらしい。

 

 親族はどうしても彼女が寂しい思いをすることを苦慮し、文通という形で何度も何度も交流した。スマホが与えられるようになれば、当然電話でいろいろな人と会話できるようになったし、ビデオ通話は彼女を一人にさせないように皆がつながっている事を自覚させた。

 

「誰も嫌な顔をせず、というよりそんな考えさえ掠めなかったのでしょう。それは幸い、長女の(わたくし)が健康体かつ文武両道をそつなくこなせる程だったのが安心材料であったのが大きい」

「恵まれてるんだな」

「彼女が今の状態になったのは、数ヶ月前のことだったのです」

 

 その夜のことを、クズレは話す。

 

 どれだけ尽くしても自分達の手では彼女を元気な状態に戻すことはできないのか。

 

 トリニティ入学後もろくに通えないままに打ちひしがれていた時、事件は起こった。

 

 ナダレが何処にもいなくなったのだ。

 

「私達は夜中に消えたことを知り、できる限りの伝手を使って内密に探し始めました」

 

 ナダレの見た目はあまりに白く、夜行動するのにはひどく目立つ。

 

 正義実現委員会やトリニティ自警団、さらには公共交通機関を担当するハイランダーの駅員やバス運転手などに話を聞いたところ皆同様に『見た目が綺麗な子はアビドスに向かった』と言っていた。

 

 トリニティのお嬢様、しかも見た目も服装も高級品なのが災いしてしまい……犯罪を思わせる証拠が一切ない少女を前に、権力を振り翳して不利益を被ることを恐れたのかハイランダーの生徒達は誰も言及しなかったのである。アビドス行きが少し怪しいところだが、それでも再興してきている以上、前以上に怪しいと思うところはない。

 

「あの時の先が見えない絶望感は、今でも忘れません。探し回ってはいない、アビドスはそれこそ砂嵐による災害が原因でよく遭難する場所でもありますから、私達が行けば新たな被害を生む。ましてやアビドス復興委員会の方々に迷惑をかけるわけには、と悩んでた折に」

「ナダレが帰ってきたんだな」

「ええ。それも、今までの弱さが嘘のように」

 

 思い出して、震えるクズレ。

 

 だが、それ以上に震えて、己の心を隠すために紅茶を煽るのがシシュウだ。

 

 彼女はおそらくその時の夜、ナダレと初めて出会って遺産ハンターとして手を握った日。

 

「不思議なことにその日以降は普通に学校に行けるようになり、私の妹であることを存分に誇るように成績優秀で、授業を受ける必要もないほどに単位を取りました」

 

 シシュウに微笑むクズレ。

 

「そうしてフィールドワークに精を出すようになって、あなたをここに連れてきてくれましたね。親族以外で、初めて自分で手に入れた友達」

「大層な者でもないですよ、私は」

「いいえ。貴女は私達にとっても、そしてナダレにとっても新たな光でした」

 

 彼女の微笑みが痛々しさと、その時の喜びが染み込むように思い出されて涙まで浮かんでる。

 

「あの子が諦めなかったから、元気になれた。その元気によって自分から手を繋いだのが、貴女だった。そして貴女は、あの子のことを愛してくれている。ああ、それだけでどれほど救われたでしょう」

「そんなに褒めないでくださいよ、私の価値なんて高く見積もっても一番下の皿にあるキュウリサンドぐらいのものです」

 

 ふふっ、と笑みが流れた。

 

 キュウリサンドは当時あまり手に入らないもので、これがあるのは資本力の誇示でもあったらしい。

 

 ゲヘナ生故にきゅうりは安いものとして認識してたからの謙遜の発言だったが、それが的外れ________でもないのをクズレは理解していた。

 

 ナダレが初めて手に入れた外の友達が、それほどの価値を有するものだと本気で信じているから。

 

「まあでも……初耳でしたよ。あいつそういう肝心なことだけは話さないから」

「他のことは話しているのでしょう?」

「ええ。なんでも」

「良い仲です」

 

 ようやく自然と話せるようになり、笑みも固くは感じないほどに慣れてきたシシュウ。

 

 だが、その内心は少し前の会話を思い出させ、言葉を何度も反芻させた。

 

 

 

 

 

 

《ナダレそのものに問題があるわけでもない、彼女にとっての絶望はもう崩れて消え去った。だがその絶望は誰かにとっての甘い蜜、覆りようもない偏愛であった》

 

「……人の心を覗くなんて感心しないよ? それも魔導書の効能かい?」

 

《壁は腐食し決壊した、その起因が我とお前の繋がりだ》

 

《忘れるな……『真実が自然と拠ってくる人間はその真実を抱えた者にとって英雄である』事を》

 

 

 

 

 

 クズレの話したことが、ナダレが隠していることの大きさを想起させる。

 

 あの夜に出会い、遺産ハンターとして知り合ったあの日を境に変わったのなら。

 

 遺産が彼女を変えたことは想像に難くないが________

 

(ゴスペルの話やナダレの反応を見るに、大きな秘密なのは間違いない。一体あの夜、何が?)

 

 自分達が見つけたAIですら、意味深な反応を見せている。

 

《……なら、いずれ必要な時に、必要な試練が、お前に訪れると同時に真実を口にする》

 

 続く言葉も思い出せたシシュウは、虚遣一家の次期当主の前で笑顔を見せたまま口を閉じた。

 

 ________その日の茶会。

 

 クズレの感慨深い思い出に水を差すまい、自分の疑問やナダレへの思いを出してしまうまいと、終わるまでシシュウは沈黙を貫いた。

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