種族特性:異種族タラシ 〜全種族に警戒されほぼ罪人扱い。特性効かない狂人・ぼっちばかり病んだ顔で寄ってくるのはなんで?〜 作:じゃらん
「――お、おい! それ以上は近寄るな!」
森の中の集落にて。
一帯を囲う木の防護柵を越えてすぐのところで、僕が中に入ってこれないようたくさんの人が立ちふさがっている。
彼らはみないちように――――頭から三角の耳が飛び出て、腰元からはふさふさの尻尾が伸びていた。
「ッさっさと、うちの村から出て行け! ここは……――お前のような耳のない『ニンゲン』がいていい場所じゃないんだ!」
先頭に立つあちこち毛がふさふさした男が、厳めしい表情でそう言った。
うーん……埒が明かないな。創作物じゃ、こいつら獣人みたいなやつは気のいい楽天家ってイメージだけど、こうも警戒心が強いとは。
ひとまず、もう少し芝居を打つしかないか。
僕は苦々しい思いを表に出ないよう苦心しつつ、なるだけ哀れに見えるように眉尻を下げる。そして、弱々しく口を開いた。
「僕は、その……見ての通り、着の身着のままなんです。ようやく見つけた僕以外の人がいる場所…………ここから追い出されたら、きっとそのまま力尽きてしまいます……ッ」
「そ、それは…………ッいや、それでもダメなものはダメなんだ! けしてニンゲンを村にいれるべからず――それが、この村に昔からある言い伝えなんだ!」
「そんな……。僕は武器も持っていませんし、きっと力だってみなさんより弱いです! この村に仇名すことはないと誓います……! そもそも……――いったいぜんたい、どうしてそんな言い伝えがあるっていうんですかッ」
「ニンゲンを村に入れてはいけない理由? そんなもの、決まっているだろ……!」
男は一瞬、鼻をぴくぴくと動かし、どこかうっとりとした表情になって。直後、ハッとなって言った。
「――――ニンゲンが、あまりにも魅力的過ぎるからだろうがッッ!」
…………。
え。理由って……それ?
困惑する僕に対して、男の表情は真面目そのものだ。まるで恐ろしい誘惑に抗っているような顔。
「ッなんだ、この心惹かれる匂いは! まるでお日様みたいな……」
「いやいや、違いますよ若! これはねえ……たまに行商が持ってきてくれる、こんがり焼けたパン! あれです!」
「ち、ちがいますよう! これ、きっと――――お母さん! お母さんの胸の匂いなんです!」
急にみんなして鼻をひくつかせながらの口論を始めたぞ。いくつも熱い視線が向けられてるし、飛び掛からんばかりなのをなんとか抑えてる者も。
…………ふむ。どうも、
彼ら獣人…………いや、人間以外のいわゆる異種族は――――――無条件で、人間に強い好意を抱くようにできている。
よし。じゃ、ちょっと僕からも誘惑を。
「気になりますか? 僕の匂い。いいですよ、もっと近くで嗅いでも。ほら」
「ききき、気になるものか……! お前みたいな全身つるつる、耳無し、尾無しのバケモノ! なのに、ックソ! なんでこんなに……!」
「ほぅら。今なら匂いだけじゃなく――――ナデナデもつけますよ? 僕、昔はペットの猫をよくこうして撫でてたんです。気持ちよさそうでしたよ」
「な、ナデナデ!?」
「若ぁ! い、いってもいいですかぁ? わたしされてみたいです、ナデナデ!」
「そ、それは………………ッダメだダメだ! そんなのダメに決まってる!」
あ。獣人たちの一人、ピンと立った耳の、クリーム色の女の子……釣れそうだったのに。
ッチ。若の警戒心が特に強い。異種族を虜にするっていう人間の特性があれば、彼らの協力を取り付けることなんて簡単だと思ってたのに。
――僕はまだ
まさか異種族に好かれることが逆に警戒を招くなんて。過去、誰か人間がこの特性を悪用してとんでもないことしたんじゃないだろうな。
……まあでも確かに。自分の意思とは関係なく急に他人に強烈な行為を抱くとか、普通に考えたら嫌か。
ただ…………けっこう、押したらいけそうな感じあったよね。
よし。やるしかない……か!
「ッあ、おい! なんだ!? 近寄るな!」
「いえいえ……そう警戒されずに。僕はけして、誰にも危害は加えません」
「や、止めろ来るなぁ! なんだそのとろくさい足遣いは! まさか俺たちを誘惑しようというのか!?」
「ははは、そんな」
なんて、そのまさかだよ。もう面倒だから、一人ずつ強引にでも堕としていこうかと。
笑顔で近寄る僕を見て、若は過剰なまでに震えてみせる。
「み、みんな……ッやつから離れるんだ! 捕まったらひどいことになるぞ!」
「うわあああ!」
「逃げろおおお!」
ひどいな。別にそんな、洗脳したり人格変えるみたいにたいそうな話じゃないのに。
……おっと。つまずいて転んで逃げ遅れた子が一人。
「あ、あわわ、あぁ……」
「さっきの……ナデナデに興味を持ってた子だね? どうかな。一回だけ体験してみるって言うのは」
「えっ! で、でもぉ……若がダメってえ」
「なにも、ケガさせたりするってわけじゃないんだよ? イヤだったらすぐやめるから」
「………………ほんとうですかぁ?」
おずおずと俺を見返す女の子。その顔には分かりやすく「興味あります」と書いてる。
「ッば、ニナのやつ……! なにをしようとしているか分かってるのか!? 戻ってこい!」
あーあー、うるさいぞ若め。
「はわ……いい匂い……。手もすべすべできもちよさそう……」
聞こえてないみたいだね。
それじゃあ、ニナちゃんだっけ? ちょいと失礼――
「――――よし、よし」
「!!」
腰を落として、僕の胸に抱えるようにして、やさしく頭を撫でてやる。一瞬腕の中でビクッと震えたけど、構わずにふわふわの髪をクシャクシャと。
ふむ。こうしてるとほんとに犬みたいだ。体温も人間よりちょっと高いか。
僕が昔飼ってたのは猫だけど、犬もかわいいよね。一人暮らしじゃなかったら飼ってたくらいには好きなんだ。
そんなことを考えながら、頭や背中にお腹を次々撫でさすってやっていると。
「――……どうかな? なにもまずいことなんてなかったでしょ……ッて、ええ!?」
ちらりと覗いたニナの顔。
「――――ぁ、ひい、あっ。いひひッ……うふ……!」
ドロドロに蕩けた瞳が、まるで薬物中毒者かなにかみたいに僕を見上げていた。その可愛らしい顔は歪んで、目には涙の玉が光り、弧を描く口の端から一筋の雫が垂れる。
頬は赤く紅潮して………………なんというか、ありていに言えば。
「――い……イッちゃってるよ目が……」
ええ? なんで? ただ撫でただけなんだけど僕は! こわ……。
「に、ニナぁああああ!」
「ダメです若! ニナはもう、やつの魔の手に……!」
「クソ、よくもニナをぉおお!?」
若たちの方は若たちの方で、なんかよく分からん盛り上がりを見せてるし。ま、まあ……とりあえず一人は味方につけられてそうだから良かった……のかな?
「あひっ…………ふぅ。――………………あのぉ……! お兄さん、お名前はなんと?」
「あ、え。僕? 僕は、エイカと言います」
「エイカさん……! わたし、わたし……あなたのこと、とっても好きになりました! エイカさんっ」
うん。よし(?)。
人間としての特性がうまく働いてることは分かったから、あとは他の獣人たちも。
そう、思った時だった。
――――突然。視界外から目の前に跳んできた人影が。
「アハハハハ!! ねえええ、おにーさん! え、おにーさんなに!? 耳ない、しっぽない! なにこれ!? もしかして――ニンゲン!?」
黒と白が入り混じる髪、手足の毛。頭のてっぺんから大きく垂れさがる耳。そして……がん開いた瞳に輝く好奇心。
ここに来て、新しい登場人物か。さっきのニナの顔も中々だけど……こいつ、最初っから大丈夫かって聞きたくなる顔と言動……。
まあ、すぐ近くに来てくれたのは都合がいい。次のターゲットを探してたんだ、悪いけど君を……と。そう思った直後。
「えー、なんでニンゲン? 絶滅したんじゃなかったのぉ? でもニンゲンならたしか……あ、じゃさ、じゃーさぁ! おにーさん――――――あたしを殺してぇ?」
な、なんだこいつ。やばいやつか……?