種族:人間 特性:異種族タラシ 〜人間ってだけで逆に警戒されるし、特性効かない厄介ぼっち娘は遠ざけても勝手に寄ってきて病むし〜 作:じゃらん
白黒の獣人娘はほとんど瞬きもせず僕に近づいてくる。
こいつも完全に目がイッちゃってるじゃん。腕の中のニナに負けず劣らず……って、え?
「っオッコぉ……! 寄らないでぇ、わたしのご主人さまに……!!」
ニナに優しく腕を振り解かれて、けどその表情は敵を前にした獣のそれ。おっとりした雰囲気が一転、牙を剥いて眼光鋭く睨みつける。
……あー、もしかしてこの子ら仲悪い?
「んー? おバカニナちゃん、まあたボコボコにされたいのかなぁ?」
「このっ、わたし、おバカじゃないからぁ!」
「アハハ、どうみてもバカじゃーん!」
「ぅう、このぉ!!」
白黒少女――オッコに突進しようとしたニナだけど、その直前。
「――待て、止まれニナ! お前ではオッコには勝てんし、そんなことをしている場合でもない! 今ここにはニンゲンが……ッというかニナお前、ニンゲンを主人と呼んだか!?」
「若ぁ……! わたし、もうオッコのむちゃくちゃに我慢できないんですぅ! 今度はエイカさんのこと奪ろうとしてくるしっ!」
「ッめ、目を覚ませニナ! オッコのことはともかく、そのニンゲンは我ら獣人へ混沌を招く邪悪な存在だぞ!」
「ねーもういい? あたしニンゲンって初めてだし、言い伝えがホントか確かめたいんだよねぇ。やぁっとこの村メチャクチャにできるかも……!」
なんか僕そっちのけで揉め始めたんだけど。というか村をめちゃくちゃにって、オッコって子も村人でしょ? なんでそんな……。
「おい、オッコ……! 今の発言、村の守り人としての義務を放棄するつもりかッ?」
「…………はぁ? ……まあ、そーゆーことになるかなぁ? あたし、契約でやらざるを得ないからやってるだけだしぃ。……――忌々しい」
「忌々しいってなんですかぁ! それでも守り人ですか!? ……わたし、ずっとあなたのことは気に食わなかったんですっ。それでもこれまでは我慢してたのに……今日という今日は!」
あ。ニナが飛び出して――
「――エイカさんは渡しませんっ!! わたしの――」
その瞬間だった。
牙を剥くニナを心底鬱陶しそうに見たオッコは、声も上げないまま拳を振り抜いた。交錯の瞬間、オッコの拳が突き刺さり、ニナの体がくの字に曲がる。
「っか……は、っ……!」
「なにがお前のって? 意味わかんないんだけどぉ」
ドサリ、と。そのまま地面に倒れてピクつくニナ。
ええ? バイオレンス過ぎるでしょ……。
「――オッコぉおお! 貴様、また村の仲間を!?」
「仲間ぁ? コレが仲間とか片腹痛いんだけどぉ。アハハ、見てほら、涎ダラダラきたなーい!」
倒れるニナを足蹴にしてハイになってる。この空気の中でよくそんな感じでいられるね。若もそれ以外の獣人も、一人残らず殺気がこもった目になってる。
ただ、僕が思ったのはそんなことよりも。
――オッコ、めちゃくちゃ強いな。さっきのカウンターとか速すぎてよく見えなかった。
……とりあえず一人この村で協力者を確保したいんだけど、もうオッコでいいのでは?
「ただ、最初の『殺して』って言葉の意味は分からないし、人格破綻してそうなのが怖いけど。……彼女も撫でたらいけるか?」
撫でた後のニナ凄かったし。僕の匂いとかも、もしかしたら猫にとってのマタタビみたいなものなのかもしれない。効きすぎて濫用はマズイ気もするけど。
ただ、どうもオッコは村を嫌ってそうだし、村人からも嫌われてそうだ。おまけに強い。とくれば好都合。
……よし。試してみるか。
「あの……そこの、オッコさん?」
「ん? どしたのおにーさん! あたしのこと気になる気になる? あたしもちょー気になってるよぉ!」
「うわっ、速、ちか……!」
一瞬で目の前来たんだけど! でもちょうどいい。この近距離だと当然匂いは嗅がれてるだろうし、手も届く。
よし、それじゃあ撫でを……。
僕を見上げているオッコの頭へ、おもむろに手を伸ばす。不思議そうに僕を見るけど、その白と黒が混じった髪へ手を置いた。
「!」
一瞬びくりと震える。構わず、優しく手を動かしてやる。
なでなで、なでなで。
……どうだ? 最初はちょっと強張ってたみたいだけど、しばらく撫でると体の力が抜けたように思う。
若たちも何も言わずに、固唾を飲んで僕らの様子を伺ってるみたいだ。オッコを厄介者と思ってるみたいだし、ニナの時とはだいぶ反応が違う。
そうして、頭を撫でさすることしばらく。
…………そろそろいいか? オッコはとんでもなく我が強そうだから、さっきのニナより長めにしたんだけど。
頭から手を離す。オッコは俯いていて表情が見えない。
効いたか?
「あの、オッコさん。どうです?」
「……」
返事はない。けど、反応はあった。
僕の言葉の直後、オッコは撫でられた頭に自分の手を当てつつ、ゆっくりと顔を上げる。そして――
「――――んん? い、いまの何? おにーさん……」
わずかに頬を赤く染めつつも、オッコの顔に浮かぶ感情の大部分を埋めるのは……おそらく困惑。首を傾げながら、少しだけ潤んだ瞳を向けてくる。
…………あれ? なんかニナの時とずいぶん反応が違う。あの、マタタビを前にした猫の中毒感みたいな、そんなのが一切ない。
というかありていに言えば、突然男に頭を触られ困っている女の子。
……………………ぜんぜん効いてないんだけど。
えっ、まずいな。じゃあ僕、いきなり頭撫でてきたヤバいやつじゃん。
オッコはかなり破天荒かつ手が早そうだし、「セクハラだ」ってぶん殴られたら僕一瞬で沈むよ。自慢じゃないけど体力ないんだ。
あー、見られてる見られてる。オッコだけじゃなく他の獣人からも。針の筵。
はやくなんか言い訳を……。
そうして、焦る僕が絞り出した理由が――
「あ、あの! ごめんなさい、いきなりで。ただ僕、オッコさんと――――そ、そう、友だちになりたくて!」
「えっ。と、ともだちぃ?」
「ええ! そうなんです! 知ってますか? 人間は仲のいい友人と身体的な接触を行うんです!」
「えー……ほんとにぃ?」
「ほんとですほんと! 今みたいに頭を撫でるのは序の口。もっと親しくなってくると、それこそハグしたりそれ以上も!」
まずい。オッコから疑わしげな目で見られている……!
「……わ、若、聞きましたか!? ニンゲンたちの習性を!」
「あぁ、なんて恐ろしいんだ……! 友好を示す行動の中で、我らを支配下に置こうとするなど! やはり油断するなよッ、気を抜けばさっきのニナの二の舞に!」
後ろのアホたちは信じてる。ごり押せばオッコもいけるか?
「あの、オッコさん……! いきなり獣人の方に人間の常識を当てはめた無礼は謝罪します! でも、やっぱり――――僕はあなたと友だちになりたいんです……っ!」
勢いだ勢い! 一気に言って、ガバッと頭を下げる。
ここで僕が気絶でもさせられようものなら、不審者として捕らえられるか、森に放り出されるか…………最悪殺される可能性だってある。もうなりふり構ってられるか……!
そんな覚悟を込めた僕の行動は果たして――
「ぇ、あの、……じゃあ……………………――――よろしくおねがいしよっかなぁ……? ぇへ」
目をガン開いたままはにかむオッコ。
……いややってみるもんだな、行けたよ!
「ぐわああああ! オッコまで陥落しただとぉ!?」
背後の悲鳴じみた絶叫をよそに、オッコは近距離で僕の目をガン見してくる。ギンっと開いた大きな黒眼で瞬きもせず、吸い込まれそうな……。
ほんとに瞬きぜんぜんしない。ちょっと怖いわ。
「…………初めてだぁ、ともだち……。え、ともだちってなにやっていいんだっけぇ? 持って帰っていいんかな?」
いやほんとに怖いから。なんだこの、人と分かり合えない悲しきモンスター感。お持ち帰りされてボコられたら笑えん……!
僕はオッコの妖しい表情を見て、こいつに取り入ろうとしたの失敗だったかなんてそんなことを思い始める。
しかし、これまたすぐに僕は考えを翻すことになる。
密かに身に迫る特大の危険が、僕たちの前へと姿を現すその時――
――ドゴシャア! と。物を壊したような轟音が村に響き渡る。
「なんだ……ッ?」
素早く視線を巡らせれば、音の正体はすぐに分かった。
村を囲う木の柵の一画が、まるで爪楊枝のようにバキバキに折れて壊れている。そして、そのすぐそばにいたのは――――とんでもなく巨大な、狼の化け物。
「や、やつが現れたぞぉ! 迎撃体制、急げえ!!」
若が号令をかけた直後。僕はオッコ、倒れるニナをほうって、獣人がみな一斉に体制を整える。
拳を構える者がいれば、剣を抜く者も、近くの家屋から盾や槍を持ってくる者も。
そして…………すぐそばから、鮮烈に放たれる威圧感――
「また出たねぇ。いいよぉ、あたしいま気分良いからさ! ともだちにご馳走様振る舞うってのも手だねぇ? ――引き締まったそのお肉、ちょーだい……!」