スクイスクワレ、アオイハル   作:舞うL

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マモリチカッタ、ヤルベキコト

 

──少し前。

 

「校舎の中も見事に砂まみれだな……俺は掃除でもすればいいのか?」

「ん、違う」

「違うのか……」

 

シロコさんに連れられてやってきたのは、砂漠の中に建つ学校だった。

 

……まぁ、普通の外観。

砂漠の中にあるのだから何か普通とは違うのかと思ったが、日本でもよく見る学校となんら変わりはない。

違うのは学校の外も中も至る所に砂が積もっている所ぐらいじゃないだろうか。

 

少し離れれば住宅街もあったし、先ほどの場所より砂に埋もれているものもなかった。

普通に木とか生えてたし。

 

手が回っていない、という方が正しいのだろう。

歩くだけで砂が靴に入り込んでくる、なんてことがないのは少しでも救いだろうか。

 

「ここ」

「……廃校、対策委員会?」

 

シロコさんが扉の前で立ち止まる。

部屋のプレートには上から『アビドス廃校対策委員会』と書かれた紙が貼られていた。

 

……廃校、ね。

 

詳しい話は学校で、と言われたがもしかしなくとも困りごととはこのことだろう。

……俺にできることがあればいいのだが。

 

そんなふうに思っているとシロコさんは扉を開け中へと入っていく。

 

「ただいま」

 

……考えても仕方ないか。

ここまで来てしまったのだから。

 

「……お邪魔しまーす」

 

中に入ると2人の少女の姿があった。

一人は黒髪ボブで長い耳を持つ女の子。

もう一人の女の子は同じく黒髪でツインテールを結んでおり、ピョコピョコと猫耳が揺れている。

 

……シロコさんもそうだが、ケモ耳と言うのか?それが普通なんだな。

常識が崩れ去る音がした。

 

「あ、シロコ先輩。おかえりなさ……!?」

「どうしたのよアヤネ。そんな驚いた声だし……だ、誰よアンタ!不審者!?」

 

黒髪ボブの子は驚きで固まり、猫耳ツインテールの子が警戒心を露わにする。

 

……まぁ、想像通りだよ。

 

「……シロコさん」

 

説明してもらえるようにと、シロコさんに顔を向ける。

 

「ん、ハジメは……何?」

「何って……」

「あ」

 

少しの沈黙の後、思いついたようにシロコさんが口を開く。

 

「砂漠で拾った」

「拾ったぁ!?」

「おい、俺は落としもんでも犬でもねぇぞ」

「似たようなもの」

「ふざけんな?」

「うへぇ、みんなどうしたのぉ?そんなに騒がしくしちゃって」

「何かあったんですか?」

「ホシノ先輩!ノノミ先輩!」

 

背後からの声に振り返ればそこには二人の少女がいた。

ベージュの艶やかなロングヘアでほんわかとしたお嬢様のような雰囲気をもつ女の子と、眠そうに目を擦るピンク色の髪をした小柄な女の子。

 

……個性豊かだなぁ。

 

「シロコ先輩が人拾ってきた!」

「人?もう、シロコちゃんたら落とし物はヴァルキューレに届けないと……」

 

だから誰が落とし物だっての。

 

そんなふうに思っているとピンク髪の女の子が俺を見て目を見開く。

黄色と青のオッドアイが揺れる。

 

「……」

「ホシノ先輩?どうしたの?」

 

シロコさんが女の子に声をかけるが、女の子は俯き、わなわなと身体を震わせるだけ。

 

「……んで」

「え?」

「なんで、今更……ッ」

 

 

……そう言って踵を返して部屋を出ていったのが、つい先程のことだった。

 

 

「……で」

 

時間は戻り現在。

 

「なんで俺は縛られてるんだよ!!」

 

女の子が出ていってからというもの、シロコさん以外の3人にはすっかり警戒され、ついには近くにあったロープで俺は身体を縛られてしまっていた。

 

「アンタに怪しさしかないからよ!身分証もお金も持ってないって何!?」

 

……ふむ、納得だな。

何も言い返せない。

 

「ホシノ先輩のあんな顔初めて見ました」

「もしかして知り合いだった、とかですかね?」

「そうなの?」

「知らん知らん知らん!!初対面だ!」

「初対面の奴にあんな態度とるわけないでしょ!」

 

それはそうだけど!

 

「いやでも、本当に知らないんだよなぁ……」

 

あんな派手なピンク髪は忘れようとしても忘れられないだろうし、そもそも異世界の知り合いなんていたことがない。

人違いでもされてるのだろうか。

 

「ところでえーと……ハジメ、さん?はどうしてアビドスに?」

 

ほんわか少女がおずおずと聞いてくる。

 

……床に転がされているせいか、目のやり場に困るなぁ。

 

「……何か困りごとがあるって聞いてな。何か手伝えることはないかと」

「……シロコちゃん、何処まで話したの?」

「ん、まだ何も」

「ちょ、こんな得体のしれない奴に私たちの話しちゃっていいわけ!?」

「アビドスは万年人手不足。得体が知れなくても使えるものは使う」

 

俺をなんだと思ってるんだ。

 

「シロコちゃんらしいと言えばらしいですけど……」

「この前も巨大企業の金庫を強襲すると言ってましたもんね……」

「ん、ハジメがいれば盤石」

「おい、聞き捨てならない言葉が聞こえたぞ。あと俺を巻き込もうとするな」

「私は反対!どこの馬の骨とも分からないやつの手なんて借りたくない!」

「セリカちゃん!」

 

猫耳ツインテールの子が教室から出ていく。

本当に歓迎されてないな、俺……

 

「わ、悪い子じゃないんです!ただ警戒心が強いだけで……」

「大丈夫だ。あの子の言う通りだからな」

 

俺だって見知らぬ人間が急に現れたら同じような態度をとるだろう。

……今この場にいる子たちは警戒心はあるもののそこまで俺を拒絶する雰囲気はない。

自己紹介から入るべきだな。

 

「俺は糸冬ハジメ。君たちの力になりに来た」

 

 

 

 

 

 

「改めまして、1年の奥空アヤネです」

 

縛っていた縄を解かれ、椅子に座り一段落していると、黒髪ボブの女の子──アヤネさんがそう名乗り、礼儀正しいお辞儀をする。

 

取り敢えず最低限の信頼は得られたようだ。

自己紹介って大事。

 

「こちらが2年の十六夜ノノミ先輩と砂狼シロコ先輩」

「よろしくお願いしますねっ☆」

「改めてよろしく」

「さっき教室を出ていった黒髪の子が1年の黒見セリカちゃん、最初に出ていったのが3年の小鳥遊ホシノ先輩です」

「アヤネさん、ノノミさん、セリカさん、ホシノさんね。覚えた」

「別にさん付けじゃなくても……」

「まぁ、癖みたいなもんだから。気にしないでくれ」

「そ、そうですか?」

「……ん?他の生徒は?」

「……これで全員です」

「は?」

「アビドス高校の全校生徒数は五人。私たちだけなんです」

 

アヤネさんのその言葉を聞いて俺は教室のプレートに貼られていた紙を思い出す。

 

……あー、廃校ってそういう……

 

周りは砂漠しかなくて、住宅街も閑散としていたからもしかしてとは思っていたが……

……しかし、こんなにデカい校舎に五人だけ、か。

 

「よく、頑張ったな」

 

無意識に口からそんな言葉がこぼれた。

 

「私たちがアビドスを守らなきゃいけませんから」

「……そっか」

 

笑顔で返されたその言葉を聞いて自然に口角が上がった。

 

「昔はもっと生徒数もいて、キヴォトスでも有数のマンモス校だったんですよ?生徒会長が七十人いた時代だってあったんですから☆」

「……うっそでぇ」

 

流石に生徒会長が多すぎる。

昔はどうか分からないがこんな砂漠に人が集まる道理が分からない。

利便性のかけらもないだろう。

もしそれが本当だとしたら全盛期はどれだけ生徒がいたんだ。

 

それに……

 

「そんな時代があったにも関わらず今は生徒が五人だけ。何か問題でも起きたのか?」

「……アビドスに人がいなくなったのは急速な砂漠化が原因です。ハジメさんも来るまでに見たと思いますが……」

 

アヤネさんが棚から資料を取り出す。

開くといくつもの写真が貼られており、どれもつい先程見た景色ばかりだった。

 

砂に埋もれた市街地。

根元から折れた電柱。

脱線した窓の割れた電車。

 

……まぁ人がいなくなる道理しかないよな。

 

「アビドスは昔から砂漠地帯でしたが、数十年前郊外に発生した砂嵐の影響で環境が著しく変化してしまったんです」

「そのせいで人の流出を止められなかった、と」

 

自然現象が原因なのだとすれば、それはもう人の手ではどうすることもできない。

俺にできることなんて──

 

「いえ、それは理由の一つにすぎないんです」

 

なん、だと……?

 

「何も対策しなかったわけじゃないんです。多額の資金を投じてでも砂漠化を阻止しようとしていたんです。それでも事態は好転することなく、借金だけが膨れ上がって学園の経営は悪化して……」

 

アヤネさんが袖を強く掴む。

その顔は辛く、苦しいものだった。

 

「……それでも」

 

シロコさんが口を開いた。

 

「今は私たち五人と、ハジメがいる」

「シンプルに俺を頭数に数えたな」

 

シロコさんがこてんと首を傾げた。

 

「だって手伝ってくれるんでしょ?」

「……人を呼び戻すのはなかなか難しいぞ。それに現状を見るに借金だって残ってるんだろ?その状態じゃ呼び戻してもまたすぐ出ていくかも知れない」

 

借金はいくら残っているんだ?そう聞くとその場にいた全員が一斉に下を向いた。

苦虫を噛み潰したような表情をしているのもいれば、バツが悪そうな顔をしているのもいる。

 

「……おい?」

「……」

「話してくんねぇと俺も何ができるか分かんねぇんだけど……」

「きゅ……」

 

アヤネさんが重々しく口を開く。

 

「きゅ?」

「九億、です」

「……はい?」

「正確には9億6235万円です……」

 

時間が止まる。

 

「……ごめん、帰ってもいい?」

「ん、逃さない」

 

ガシッと腕を掴まれる。

 

「離せぇっ!!一学校が抱えていい借金の金額超えてんだろ!!俺にできることねぇよ!!」

 

金庫を強襲するとか言ってた話、ぜってぇこれ絡みじゃねぇか!!!

 

「こ、これでも減ったほうなんですっ!!」

「一億も二億も変わんねぇよ!!減ったって言わねぇ!!」

「減ったのは三億です!!」

「変わんねぇって!!!」

「まぁまぁ、アヤネちゃんもハジメさんもそこまでにしましょう?」

「……すみません」

「……すまん。取り乱した」

 

ノノミさんにたしなめられ、クールダウンする。

 

……熱くなりすぎだ、馬鹿。

 

「確かに私たちの学校は多額の借金を抱えてます。毎月の利息を支払うだけで手一杯です。……それでも私たちはこの学校を守りたいんです。どうか、ハジメさんの力を貸してくれませんか?」

 

真っ直ぐに俺の目を見つめるノノミさん。

その目は一切揺らぐことがなかった。

 

「……分かった。元々その為に来たんだもんな」

「……!じゃあ!」

「俺にできること、何でもやらせてくれ」

 

あんなに真剣な眼差し向けられちゃあ、なぁ?

 

 

 

 

 

 

「俺に何ができるんだ……?」

 

校庭のベンチに座りながら呟く。

勢いで啖呵を切ってしまったが、彼女たちの目的はアビドスを守ることで俺はその手伝いをする。

言葉にすれば簡単なことだが、具体的に何をすればいいのか分からなかった。

 

彼女たちに聞こうにもあの後すぐにヘルメット団とかいう集団の襲撃に対抗する為に出ていってしまった。

学校には今俺1人しかいない。

 

学校を出ようにも砂漠な上に土地勘なんてないし、帰って来られる自信もない。

それでも何かできることはないかと学校の中を一通り回ってみたが、何処もかしこも砂が積もっているだけ。

一つだけ【立ち入り禁止】と張り紙がされた教室もあったが……まぁ、部外者の俺が触れていいものじゃないだろう。

 

気づけばもう夕方。

何もすることができないまま、無情にも時間だけが過ぎていく。

身分証さえあれば、何処かで働けたかもしれないのだが……。

 

「疲れた〜」

「皆さんお疲れ様です」

 

静かに流れていく雲を眺めていると、背後にある校門の方からセリカさんとアヤネさんの声が聞こえた。

どうやら今の今までヘルメット団とやらと戦っていたのだろう。

目を向ければボロボロになった5人の姿があった。

 

「おじさんもうヘトヘトだよぉ」

「ホシノ先輩、もう少し頑張りましょう!帰るまでが学校、ですよ☆」

「うへぇ、ノノミちゃんが鬼だよぉ。助けてシロコちゃん〜」

「ん、先輩ならまだ大丈夫」

「シロコちゃんまで〜」

 

……ああしてみるとホシノさんが3年生だとは思えないな。

まるでかわいがられる1年生……いやからかわれてる?

どちらにせよ和気あいあいとしていて見ていて気分がいい。

 

「あ、ハジメ」

 

そんなほんわかする空間を見ていると、シロコさんがベンチに座る俺に気づいたようで近づいてくる。

 

「ごめん。一人きりにして」

「気にしないでくれ。俺が付いて行っても邪魔になるだけだ……怪我とかはしてないか?」

「ん、少し擦りむいただけ」

「おいおい……全員か?」

「私は後方支援なのでそこまで……」

「私も大丈夫ですよっ」

「セリカさんとホシノさんも大丈夫か?」

「……私も少し擦りむいただけ」

 

セリカさんは返事をしてくれたが、ホシノさんは俺の言葉を無視して校舎に入っていく。

その横顔はやはり苦しそうに見えた。

 

……やっぱり、おかしいよな。

 

「あ、あはは……多分緊張してるんだと思います、よ?」

「だと、いいんだけどな。……あぁそうだ」

 

まだちゃんと言ってなかった。

 

「?」

「みんな、おかえり」

「ん、ただいま」

「ただいまですっ」

「た、ただいま!」

「セリカちゃんがちゃんと返事した!?」

「何よ!私が返事しちゃ悪いの!?」

「そんなことないよ!てっきりしないかと……」

「……ふ、ふん!アイツのこと信用はしてないけど、私たちのこと気にしてくれたから……た、ただそれだけなんだから!!」

 

セリカさんが顔を赤くしてピューと校舎へ入っていく。

 

……かわいいかよ。

 

「ツンデレセリカ」

「かわいいですねっ」

「お二人とも、からかっちゃ駄目ですよ?」

「……青春だなぁ」

 

深く、しみじみとそう思った。

……銃には目を伏せる。

 

 

 

 

──夜。

流石に閉校後の学校に寝泊まりするのは不味いだろうということでアビドス郊外まで足を運んでいる。

飲食店のある市街地は郊外の方にある、とシロコさんから聞いてここまで来たが、学校近くより発展しているとはこれ如何に。

 

でもまぁ……うん。砂漠で野宿よりは安心できる。

最悪路地裏で寝れる。

 

それと少額ではあるがシロコさんにお金を恵んでもらったのだ。

シロコさんには一生頭が上がらないだろう。

 

ぐぅ〜〜

 

安心感からか、ようやく空腹を意識した胃袋が主張を始めた。

 

「……そういやこの世界に来てから何も食べてないんだよな」

 

何処かにご飯屋はないだろうか。

ふらふらと歩いていると明かりのついている店を見つけた。

 

「ラーメン……か」

 

ラーメンなら……うん。

700円もあれば食べられるだろう。

醤油、味噌、塩……どんな種類があるだろうか。

ワクワクしながら、柴関ラーメンと看板の掲げられたお店の引き戸を開ける。

 

店の中は中々に広く、木造りの内装に赤提灯がいくつも吊るされていた。

厨房では大将が麺を湯切りしている姿が見え、テーブルとカウンターにはお客さんがちらほら見える。

 

そういえば驚いたことにこの世界では動物が普通に二足歩行して人間のような生活をしていた。

今ここにいるお客さんも大将も犬や猫といった動物だ。

……もうツッコむまい。

 

「いらっしゃいませ〜!何名様ですか?」

 

扉を閉めていると店員さんから元気な声がかけられる。

……ん?何処かで聞いたことのある声だ。

振り返ってみれば真っ先に目に入るのは特徴的な黒髪のツインテール。

ピョコピョコと揺れる猫耳にやや吊り目がちな赤い眼。

黒い制服に柴関と書かれたエプロンを巻いたその店員は──

 

「……セリカさん?」

「は……な、なんでアンタがここにいるのよ!?」

 

黒見セリカさん、その人だった。





高校での青春といえば、やっぱり文化祭とか体育祭とかバイトとか?あと下校時の買い食いだと思うんです。
やってはいけないことではないけど、なんというか……非日常感?を感じられるというか。

私は買い食いもしてましたが、よく家電量販店に行ってプラモデル買ってました。
無駄使いをするなと言われると弱いですが……
欲しいものは欲しかったんですもの。
欲張りですね。
でもそれも青春なんだと思います。
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