「ハジメさーん、こことかどう?」
アビドス郊外の市街地……のその端っこ。
人の姿がほぼなく、横を向けば砂の世界が視界一面に広がる。
強い日差しが砂に反射して眩しい。
そんな場所で俺とホシノさんは家探しのために色々巡っていたわけなのだが……
「……どこからどう見てもただの廃墟じゃねぇか!」
目の前にある建物は外壁が崩れ落ち、割れた窓から砂が入り込んでいる。
いや、建物と呼んでいいのか?
それすら怪しいが、まぁ到底人が住む場所ではないのだけは分かる。
自慢げにおじさんに任せてよ〜なんて言っておきながらのこれである。
嫌がらせだろうか。
「いやいや、屋根もあって壁もある。風を凌げて中を少しきれいにしたら住めると思わない?」
「一部だけな?屋根と壁があるから良い、とはならねぇよ?」
「でも身分証持ってないんだったら正攻法で住む場所を探すのは無理だよ?」
「だからって限度があるだろ。もう少し人並みの生活を送れるだな……」
「……注文の多いお客さんだぁ」
「最低条件だよ」
うへ〜、と肩を落とし、別の場所へ歩き始めるホシノさん。
次はどんな物件を紹介されるのやら……そう不安に思いながらも後をついていく。
「あ、そうだハジメさん。はいコレ」
「ん……水筒?」
「今日暑いでしょ〜?おじさんはおじさんの分持ってるから、遠慮せず飲んでね〜」
「……おう」
……それにしても。
昨日あれだけ俺を避けていたのに、ホシノさんは今日はやけに関わってくる。
朝から縛り付けたり、家探しを手伝うと言ったり……行動がチグハグすぎる。
俺のことを知る、なんてのも大層な嘘だろう。
何が目的なんだか。
「さーて、次はこちらの物件だよ〜」
「……また廃墟じゃないだろうな」
「今度はちゃんとしてるからさ〜ほらほら、こっちこっち〜」
「ちょっ!?」
ガシッ、と勢いよく腕を掴まれる。
そのまま思いっきり引っ張られ、足がもつれ、踏ん張る間もなく砂の上へ転がる。
……一体その小柄な身体のどこにそんな力があるんだか。
「ごめんよ〜、おじさん、力加減があんまり分かってなくて〜」
「……わざとじゃねぇなら別にいいよ」
「そう?じゃあ……はい」
ホシノさんから手を差し出される。
俺の手より二回りほど小さな手。
掴めばその手はただ柔らかいだけではなく、銃を日常的に握っていることがその硬さから嫌に伝わってくる。
「……」
「どうしたの?」
「……いや、銃を握っていても女の子なんだなぁって」
「……」
ホシノさんの動きがピタリと止まる。
……あー、くそ。失言だった。
「すまん。差別的に言ったわけではなくてだな……」
掴んでいた手を離し、弁解する。
……何言ってんだ、俺は。
取り繕う気満々じゃないか。
何を焦っているんだか……そんな風に思っているとホシノさんが口を開く。
「……おじさん、狙われてる?」
「ちげぇよ!!」
「ほっ……良かったぁ。おじさんみたいなの、ハジメさんが口説くわけないもんね〜」
「そもそも口説く気がねぇんだよ」
張り詰めた空気が解ける。
ホシノさんのヘラヘラとした態度を見て、胸を撫で下ろす。
言葉にはもう少し慎重にならないといけないな。
「……おじさんには魅力がないってこと?」
「そうは言ってねぇよ!?」
……言葉にはもう少し慎重にならないといけない。
────
──────
「うーん、結局いいところは見つからなかったね〜」
「ほぼ廃墟しか紹介されなかったからな」
それから一日中郊外を巡ったがいい場所は見つからず、そのまま夜になってしまった。
今は物件巡りを止め、二人で市街地をブラブラと歩いている。
……本当に朝帰りになりかねない。
「うへ〜、だってハジメさんの理想が高すぎるんだよ〜」
「最低条件だっつってんだ」
「野宿するぐらいの気概はあるくせに」
「野宿と廃墟で過ごすのとは話が別なんだよ」
「変なこだわりだぁ……」
「悪かったな、変なこだわりで」
……なんてことのない言い合い。
今日一日、ホシノさんと付き合っていて分かったのは、何も分からないということだけだった。
隠すのが上手いというより、避けるのが上手い。
のらりくらりと、その性格のように。
隠し事をするのは悪いことではない。
言いたくないことを無理に明かさせるほうが悪い。
それでも、昨日のあの反応だ。
……詰めるべきか、否か。
ぐぅ〜〜
そんなことを考えていると、ふと横から可愛らしい音が聞こえた。
音の主へ目を向ければホシノさんがなんとも気まずそうな顔をしていた。
「うへへ……さすがにお腹空いたね」
「いい時間だろうしな……飯でも行くか」
「おっ、ハジメさんのおごりー?」
「なんでそうなる……」
「今日一日のお礼……みたいな?」
「それ言われたら断れねぇじゃねぇか……はぁ、分かったよ」
「よし!」
コイツぅ……
◇
「いらっしゃい!……お、昨日の兄ちゃんじゃねぇか」
俺の知ってる唯一の飯屋。
それはもちろん柴関ラーメンだ。
新しい店を開拓するのもいいが、やっぱり知っているところが一番安心する。
「どうも大将。ラーメン二つで」
「あいよ!適当な席に座って待っててくれな」
大将に言われた通り適当な席に座る。
辺りを見回すが、今日はセリカさんはいないらしい。
店には大将と俺とホシノさんの三人だけだった。
……貸切みたいだな。
「へぇ、ハジメさん、大将と知り合いだったんだ〜?」
「ちょうど昨日の晩飯をここで食ったんだよ」
「……ふ〜ん。そっか」
「聞いておきながらなんだよ、そりゃ……」
……やっぱり何考えてんのか、わかんねぇ。
「あいよ、ラーメン二丁お待ち!」
「はっや!え!?ちょ、大将、早くない!?」
まだ席に着いてから一分も経っていないぞ!?
「ん?まぁ今は兄ちゃんたちだけだしな。そりゃ提供も早くなるってもんよ」
「だとしてもさぁ!」
「まぁ細けぇことは気にすんな。ほれ、麺が伸びちまうぜ」
「えぇ……?」
なんだか納得いかないが……とりあえず。
「……いただきます」
……うん。やっぱり美味い。
醤油の効いたスープが中太の麺とよく絡み合う。
喉越しもいい。
トッピングのチャーシューも薄すぎず厚すぎず。
ちょうどいい歯応えだ。
箸が止まらない。
「いい食べっぷりだなぁ、兄ちゃん!」
「そりゃこんなにうまいラーメンを前にしてがっつかない奴はいないですよ」
「お、言ってくれるねぇ。昨日はあんなにだったのによ」
「昨日のことは言わんでくださいよ……」
「へ〜?昨日何かあったんだ?」
「聞いてくれるな」
「そう言われると気になっちゃうなぁ。教えてくれない?」
「絶対にヤダ」
「え〜、ハジメさんってばケチ〜」
「はいはい。なんとでも言いやがれ」
ホシノさんを適当にあしらいながら、麺をすする。
お店に迷惑かけたから思い出したくないし、なにより人に弱みを見せるのはごめんなんだ。
「もう、からかい甲斐がないなぁ。今日一日手伝ってあげたのに」
「ほとんど廃墟だったじゃねぇかよ!」
「だからそれはハジメさんの理想が高すぎるから〜」
「まずあれを世間一般で家とは言わないんだよ」
「おじさんは住めるよ?」
「じゃあ住んでこいよ」
「それはやだ」
「おい?」
「だっておじさん、ちゃんと家あるし〜」
「テメッ……!……はぁ。年下相手に何ムキになってんだよ、俺は。いいから食うぞ。麺が伸びる」
「はいはーい」
それからしばらく、二人して黙々と麺をすする。
時折店の外に目を向けるが、新しい客が入ってくる気配はない。
聞こえてくるのは麺をすする音と大将が厨房で作業する物音くらいだ。
静かで居心地はいい。
……だが、ラーメン屋としてはもう少し騒がしい方が好みなんだけどな。
「ごちそうさまでした」
いっぱいになった腹をさすり、満足感を噛みしめる。
やっぱり美味しい物を食べると気分がいい。
家は見つかってないが、まぁ明日でいいだろう。
そんなふうに考えながら、会計のために席を立つ。
「大将、お勘定……ん?」
振り返ると、ホシノさんは席に座ったままじっと丼を見つめていた。
よく見れば、丼の中身はほとんど減っていない。
スープを吸った麺でいっぱいだった。
「……口に合わなかったか?」
「……うぇ?そ、そんなことはないよ?とっても美味しい」
ホシノさんは慌てたように麺を口に運ぶ。
あ、そんなにがっついたら……
「んぐっ!?……げほッ、ごほッ!?」
「言わんこっちゃない……ほれ、水」
「…………っ、ぷはぁ……」
「大丈夫か?」
「うへへ。ごめんね、ありがと」
「……なにか、考え事でもしてたのか?」
「……ッ」
ふいと顔をそらす。
……分かりやす。
「まぁ、言いたくないなら言わなくてもいいさ」
「……聞かないんだ」
「聞いてほしくなさそうだからな。無理やり聞くほど俺は鬼じゃない」
「……」
ホシノさんは振り返り、俺の顔を見つめる。
「なんだよ」
「いやぁ……やっぱり似てるなぁって」
「は?似てるって……」
「今は内緒。もっとおじさんの親密度上げてからね〜」
よいしょっと、と席から降り、お店の入り口へと歩き出す。
「おい、親密度ってなんだよ」
「自分で考えたら〜?」
ひらひらと手を振り、そのまま店の外へ消えていく。
「……ったく」
「ずいぶん振り回されてたな、兄ちゃん。昨日とは大違いだ」
「やめてくださいって……」
「わりぃわりぃ。それより、ホシノちゃん結構兄ちゃんのこと気にいってそうだったな」
「知り合って二日目ですよ。信用されてませんって」
「そいつは兄ちゃんから見て、だろ?ホシノちゃんからしたら違うかも知んねぇぜ」
「……だったら、少しは信用されてると嬉しいんですけどね」
ははっ、と乾いた笑いが出る。
自分でも似合わないことを言ったと思う。
「及び腰だなぁ兄ちゃん。だったらもうちょい自信持ちな」
「言わんでください。自分でも分かってますから」
「へへ……あ、そうだ。兄ちゃん家探してんのかい?」
「あー……聞こえてました?」
「そりゃあ他に客もいなかったしな。嫌でも聞こえてくるってもんよ」
「あはは……」
「まぁ今のアビドスでちゃんとした家を探すのは結構難しいからなぁ。そんで大体が高ぇ。兄ちゃん、他の自治区から来てたんだな」
「他の自治区?」
「違うのか?てっきりゲヘナとかトリニティから来たのかと思ったんだが」
……また知らない名前が出てきた。
ほんとどこなんだよ、ここ。
「……まぁいいか。いや、実はですね?」
────
──────
「……なんだそりゃ。気づいたら砂漠に突っ立ってて、身分証もなくて流れでアビドスを手伝うことになった?どんなファンタジー小説だ」
「まぁそうなりますよねぇ……」
「でもそうか……ううん……」
「まぁなんか話せてスッキリしました。今日はごちそうさまでした」
「うぉい、ちょっと待て!」
そのまま店を立ち去ろうとすると大将から呼び止められる。
……ちゃんと代金は支払ったぞ?
「家がねぇならどうやって寝るつもりだ!?」
「え?どうって……野宿ですけど」
「……もしかして昨日も野宿したのか?」
「?えぇ」
「馬鹿野郎!そういうことは早く言いやがれ!」
と、俺を怒鳴ると腕を組んで考え始める。
「……上の部屋が空いてたか」
「上?」
「店の二階だよ。使ってねぇ部屋が一つあってな。軽く掃除はしてるから寝る分には困らねぇはずだ」
「え、いやでもそれは大将に申し訳……」
「申し訳ねぇと思うなら野宿なんかすんじゃねぇ。それにただ使わせるだけじゃねぇ」
「え?」
「タダより怖いもんはねぇからな。兄ちゃん、仕事もねぇんだろ?ウチで住み込みで働きゃあいい」
「……」
言葉が出なかった。
昨日知り合ったばっかの、それもただの客にそこまでするか?
大将の顔を見るが冗談で言っているようには見えない。
「願ってもないですけど……本当にいいんですか?」
「いいって言ってんだ。気分が変わる前に決めな」
根っからの善人、なんだろうな、この人。
……人?
いやこの際どうでもいいか。
「……じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとうございます」
「うし、じゃあ改めてよろしくな。えーと、じゃあ兄ちゃんの名前を教えてくれるか?」
「……糸冬ハジメ、って言います。これからよろしくお願いします、大将」
「おう!よろしくな、ハジメ!」
◇
「アヤネさーん、これどこ持っていけばいい?」
「あ、それはあっちの倉庫に……」
「りょーかい」
「あ、ハジメ」
「ハジメさん、おはようございます☆」
「おう、シロコさんにノノミさん。おはようさん」
「今日はずいぶん大荷物ですね?」
「私たちも手伝おうか?」
「いや、これくらいは一人でも大丈夫だ」
「そう?何か困ったことあったらいつでも言ってね」
「私もお手伝いしますからね~」
「サンキュ、二人とも」
「ハジメ~~!!」
「セリカさん!?急になんだよ!?」
「アンタ昨日校庭の掃除さぼったでしょ!砂がたまってるんだけど!?」
「さぼってねぇよ!一日もあったら積もるに決まってんだろ!」
「はぁ!?」
「あぁん!?」
……あの人──ハジメさんがアビドスにやってきて数日が過ぎた。
たった数日。
それだけしか経っていないはずなのに。
「……あの二人、またやってるなぁ」
こんな感想が出るくらい『私たち』に馴染んでる。
アヤネちゃんに頼まれたら荷物を運んで、シロコちゃんとノノミちゃんには笑って挨拶を返す。
セリカちゃんとはああ見えて一番うまくやってる。
悪い人じゃなさそう、ということはあの日一日で分かった。
だからって警戒を解くわけじゃない。
あの人は、大人。
心の底では私たちを騙して、良いように利用する悪い大人たちと同じかもしれない。
信用はまだできない。
それに……
「ホシノさーん、そこ掃除するんでどいてもらってもいいかー?」
そんなことを考えていると、当のハジメさんが箒片手にやってきた。
口元にマスクを着けており、声が少し聞き取りづらい。
「うへ~、ハジメさんてばおじさん使いが荒いよぉ」
「すぐに終わるからさ、すまんね」
うつ伏せていた机から体を離し、軽く伸びをする。
パキパキと子気味いい音が鳴る。
わざとらしくないように目をこすり、あくびをする。
窓際に移動し日光をこれでもかと浴びながら、細めた目でハジメさんを観察する。
椅子を机に乗せる。
その机を移動させる。
床を掃く。
その動作の一挙手一投足を頭の中で整理しながら、怪しいところはないかと目を凝らす。
「……おい」
見る限り怪しいところはないが、だからこそ見張らなければならない。
こういうやつが一番怪しいのは経験上分かっている。
掃除しているふりをして、いつ私たちを襲おうかと考えているかもしれない。
私たちに入り込んでアビドスを奪おうとしているかもしれない。
そんなものはないけど、金品を探しているのかもしれない。
そんな『もしかしたら』が、頭の中を駆け巡る。
「ホシノさん?」
不意に声がかけられる。
「……うぇ?」
「いや、掃除終わったから。寝てもらっても大丈夫だぞ」
……失敗した。
ちゃんと監視しているつもりだったのに、いつの間にか掃除が終わっていた。
「あ、あぁそう?じゃあもう一眠りさせてもらおうかなぁ」
勿論、寝るつもりは毛頭ない。
少しきれいになった机にうつ伏せになろうとすると、廊下からバタバタと忙しない足音がこちらに近づいてくる。
……セリカちゃんかな。
「ちょっと!!ホシノ先輩をさぼらせちゃダメだって!」
「ん。今日中にやることがいっぱいある」
やっぱり足音の主はセリカちゃんで、シロコちゃんと一緒に私のさぼりを咎めに来た。
今日中にやることって言ったって、掃除は私がいなくても進んでるよ?
ここにいるハジメさんが全部……
……私は今何を考えた?
ハジメさんが全部やってくれるだろうって?
そんなの信用していることと同義じゃないか。
私だけはダメなんだ。
ハジメさんを見定めなきゃいけないんだ。
あの人じゃないって、自分に言い聞かせなきゃなんだ。
「ほーら、ホシノ先輩!行きますよ!」
「じ、自分の足で歩けるからぁ。放してセリカちゃぁん~!」
────
──────
それから今日一日中、校舎内でハジメさんを見かけては監視、というのを続けていた。
……と言っても特に何もなかったが。
監視すればするほど、ハジメさんには裏があるようには見えなかった。
……今のところは。
それにしたって、校舎のあちこちでハジメさんを見かけるせいで働きすぎではないか、とは思った。
確か、以前ハジメさんは言っていた。
アビドスを手伝うのは
『シロコさんに助けられたから』
『命を救ってもらったから』
だと。
ここまでは分かる。
私だって誰かに何かをしてもらったらそれを返そうとする。
……それでも
『アビドスの現状を知ってしまったから』
この理由に関してはまるで理解ができない。
知ってしまったから?だからなんだ。
部外者で、他人。
アビドスのことをよく知らないハジメさんがそこまでする意味がわからない。
あの時聞こうとしたけどちょっと無理だったし、ノノミちゃんも教室に来たから話はうやむやになっちゃったし。
まぁ流れで一日、ハジメさんがどういう人なのか大まかに知ることはできたけど。
……いっそのこと聞いてみるべきか?
そう思い顔を上げる。
「よっし、今日も一日終わり!みんなお疲れ!」
「はい、お疲れさまでした!」
「お疲れさまでした~☆」
「ハジメ!明日こそちゃんと校庭の掃除しなさいよ!」
「ちゃんとやってるわ!!」
「ん。さぼりはダメ」
「シロコさんまで!?さぼってねぇって!」
みんなの騒がしい声が心地いい。
窓から差し込む夕日に照らされ、教室は橙色に染まっている。
「あ、ホシノ先輩起きた」
「ちょっと先輩!もう下校時刻なんだけど!」
「うへ〜ごめんねぇ。おじさん体力なくてさぁ」
うへへと親しみやすい笑みを浮かべる。
……いつもの誤魔化し方。
尊敬する大好きな先輩を模した、私の化けの皮。
でも、時折それが嫌になる。
「……ホシノ先輩?どこか体調悪いですか?」
「ん?そんなことないよ~?ぐっすり眠って元気いっぱいだよ〜」
「それならいいのですが……」
「……」
危ない、危ない。
変な心配をかけるのは先輩としてだめだもんね。
気丈にふるまわなきゃ。
「よーし、それじゃあみんな解散!お疲れさま!」
「は、はい!お疲れさまでした!」
セリカちゃん、アヤネちゃん、ノノミちゃん、シロコちゃん。
みんなが手を振りながら教室を後にする。
今この教室に残っているのは私とハジメさんだけ。
聞くにはちょうどいい。
「……ねぇ、ハジメさ「なぁホシノさん」」
私は目を丸くする。
……まさか同じタイミングで話し始めるなんて思ってもみなかった。
「……なにかな?」
平静を装い、聞き返す。
ハジメさんが聞きたいことはある程度見当がつく。
どうしてそんなに距離を取るのか……とかそういうところだろう。
それならいくらでも取り繕った答えが出せる。
「おじさんに答えられることなら何でも答えちゃうよ〜?」
「じゃあ……」
「ホシノさんは、なんで自分を偽ってるんだ?」
……は?
なんでバレた?
なんで分かった?
ずっと一緒に過ごしてきたみんなにも気づかれたことないのに?
それがここ数日だけのやつに?
「……答えたくなかったらいいんだ。忘れてくれ」
「待てッ!」
教室を出ようとするハジメさんを呼び止める。
いつもの私らしくない声だったからだろう。
ハジメさんは驚いた顔をしていた。
……何も、知らないような呆けた顔。
「ホシノ……さん?」
「……いつから」
「え」
「いつからなんですか」
「いつから、私が私を偽ってるって気づいたんですか」
昔のような話し方。
乱れた感情を前に取り繕うことは不可能だった。
「他の誰にも悟られたことはなかった……なのに、数日の付き合いなだけのハジメさんに気づかれるなんて」
ふらふらとハジメさんのほうへ歩み寄る。
不思議と思考はすっきりしている。
静かに尋ねる。
「ハジメさんも隠し事の一つや二つ、ありますよね」
「……あぁ」
当たってほしくない予想を頭に浮かべながら聞く。
「私だけ秘密をさらすのはフェアじゃないですよね?」
「……あぁ」
言ってほしくない言葉を頭に浮かべながら聞く。
「……ハジメさん、あなたは──」
──■■、なんですか?
そう、聞こうとした瞬間だった。
「クックックッ……まさか戻ってきているとは思いませんでしたよ」
「やはりあなたは私の想像を良い意味で裏切ってくれる……ねぇ?ハジメさん?」
隠し事ってどうやってもバレますよね。
点数が悪いテストだったり、やっちゃいけないことだったり。
隠していても何故かいつの間にかバレちゃってて親に怒られる、なんてよくあることですよね。
先生が親に言ったのか、それとも友達の親を経由してバレたのか……
なんでなんでしょうね?
あ、文体とか空行の入れ方とか模索していますので、こっちのほうが読みやすい!とかありましたら是非教えてくださるとありがたいです。参考にさせていただきます。