ヒーローを守りたかっただけなのに、魔法少女になった   作:冷凍マカロン

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教えて!アストラ!

 

その日の午後。

 

 天城ハヤトは、自分の部屋で数学の問題集を前にしていた。開いてから十五分。一問も進んでいない。原因は数学ではなかった。

 

「……なあ、アストラ」

 

『はい』

 

「ブレイヴって、なんなんだ?」

 

 机の脇に置いた端末が淡く光る。

 

『質問の意図を確認します』

 

「そのまんまだよ。ブレイヴ。俺が変身してるやつ」

 

『BRAVE SYSTEMによって構築される戦闘形態です』

 

「それは聞いた」

 

『では、どの情報が必要ですか』

 

「そこなんだよな……」

 

 ハヤトは椅子の背もたれへ身体を預けた。ここ数日を順番に思い返してみる。魔獣に襲われた。死にかけた魔法少女を見つけた。謎のAIと契約した。女になった。魔獣を殴り倒した。翌日また戦った。その次は銀髪の研究者に追い回された。

 

「……改めて考えると、濃すぎない?」

 

『何がですか』

 

「俺のここ数日」

 

『通常時との比較であれば、事象発生数は増加しています』

 

「そういう冷静な分析が欲しいんじゃない」

 

 ハヤトは机へ頬杖をついた。

 

「なんかさ。ずっとその場その場で動いてたから、ちゃんと聞いてなかったんだよ。お前のことも、ブレイヴのことも」

 

『質問してください』

 

「じゃあまず、BRAVE SYSTEMって何?」

 

『契約者を戦闘可能状態へ移行させる統合戦闘システムです』

 

「……うん?」

 

『理解しましたか』

 

「単語は」

 

『では簡略化します』

 

「頼む」

 

『あなたをブレイヴにするシステムです』

 

「簡単にしすぎだろ!」

 

 思わず身を起こした。

 

「逆に詳しく教えてくれ」

 

『必要であれば』

 

「分かりやすく頼むわ」

 

 アストラは少し間を置いた。

 

『変身、身体構築、装備形成、戦闘補助。それらを統括するシステムです』

 

「なんとなくな」

 

『今後その説明を使用します』

 

 ハヤトは立ち上がり、冷蔵庫から麦茶を出した。コップへ注ぎながら続ける。

 

「じゃあ、変身した時の身体は?」

 

『戦闘用サブボディです』

 

「サブボディ」

 

『はい』

 

「つまり、俺の身体が女に変形してるわけじゃない?」

 

『厳密には異なります。BRAVE SYSTEM起動時、契約者情報を基準に戦闘用身体を構築し、意識および感覚系を接続します』

 

「……ん?」

 

 麦茶を飲む。

 

「いや、待て」

 

『はい』

 

「じゃあ、あれって俺なの?」

 

『契約者本人です』

 

「でも身体は別?」

 

『はい』

 

「俺だけど俺じゃない?」

 

『表現が不正確です』

 

「分かってるよ!」

 

 自分で聞いていて頭が混乱してきた。ハヤトはコップを机へ置く。

 

「じゃあさ」

 

『はい』

 

「今、変身してもいい?」

 

『可能です』

 

「家の中で」

 

『問題ありません』

 

「天井吹っ飛んだりしない?」

 

『通常起動時に爆発機能は存在しません』

 

「通常起動時って言い方やめてくれない?」

 

『異常起動時にも存在しません』

 

「なら最初からそう言えよ」

 

 ハヤトはカーテンを閉めた。窓と玄関、それから念のため鍵も確認する。

 

『何を警戒していますか』

 

「いや、もし近所の人に見られたら説明できないだろ」

 

『何を』

 

「男子高校生の部屋に知らない銀髪女子がいる状況をだよ!」

 

『本人です』

 

「世間はそこまで理解が早くないの!」

 

 部屋の中央へ立つ。深呼吸。

 

「よし」

 

『BRAVE SYSTEM』

 

 腰へ赤い光が集まる。

 

『Stand by』

 

 何度か聞いた音。ただ、今日は戦場ではない。魔獣もいない。誰も死にそうになっていない。

 

「ブレイヴ・イン」

 

 赤い光が全身を包んだ。視界の高さが落ちる。身体の幅が変わる。首筋へ何かが触れ、反射的に手を伸ばした。銀色の髪だった。

 

 黒銀の戦闘装束が身体を覆い、最後に赤いラインが淡く灯る。

 

『Type Striker』

 

 光が消えた。

 

「…………」

 

 ハヤトは部屋を見回した。ベッド、机、教科書。脱ぎっぱなしの制服。床のスーパー袋。そのど真ん中に、銀髪赤眼の少女が立っている。

 

「……浮いてんなあ」

 

『何がですか』

 

「俺だけ世界観違う」

 

 姿見の前へ立つ。

 

「…………おお」

 

 声が漏れた。

 

『身体状態は正常です』

 

「いや、ちょっと待って」

 

 鏡へ寄る。

 

「俺、こんな顔だったんだ?」

 

『ブレイヴの標準外観です』

 

「分かってるけど」

 

 右を向く。左。前髪を持ち上げる。頬を引っ張る。

 

「痛っ」

 

『痛覚は正常です』

 

「確認したかったわけじゃねえよ」

 

 銀髪を一房摘まむ。

 

「すげえ。サラサラだな」

 

『毛髪状態に異常はありません』

 

「これシャンプー何使ってんの?」

 

『質問の意味を理解できません』

 

「俺も言ってから分かんなくなった」

 

 髪を離す。さらりと肩へ落ちる。

 

「へえ……」

 

 首を左右に振ると、髪が遅れて頬を撫でた。

 

「うわ、くすぐった」

 

 もう一度。

 

『何をしていますか』

 

「長髪体験」

 

『目的は』

 

「ない」

 

 鏡へ向き直る。顔。肩。腰。脚。自分のはずなのに、知らないところばかりだった。いつもの感覚で立ってから、鏡に映る脚を見て、なんとなく少し閉じる。

 

「…………」

 

『どうしました』

 

「なんで俺、自分相手に気遣ってんだろ」

 

『意味を理解できません』

 

「俺も分かんない」

 

 声も気になった。

 

「あー。あー」

 

 高い。

 

「天城ハヤト、高校二年生です」

 

 どう聞いても女子だった。低い声を作ってみる。

 

「天城ハヤト、高校二年生です」

 

「…………」

 

『発声機能は正常です』

 

「無理だ。全然俺の声にならん」

 

『現在の発声器官に適した音声です』

 

「いや、そりゃそうなんだけど」

 

 ハヤトはまた鏡を見る。

 

「…………」

 

『契約者』

 

「なに」

 

『先ほどから長時間、顔面を確認しています』

 

「見てるだけ」

 

『何を』

 

「顔」

 

『顔です』

 

「その返しさっきもやっただろ!」

 

 少し黙る。そして、もう一度見る。

 

「……普通にさ」

 

『はい』

 

「かわいくない?」

 

『評価基準を指定してください』

 

「ほら! それ!」

 

『何でしょう』

 

「一般的に!」

 

『一般的、という基準は曖昧です』

 

「クラスにいたらモテる顔してるだろ!」

 

 言い切ったところで、ハヤトは固まった。

 

「…………」

 

『契約者?』

 

「今のなし」

 

『記録済みです』

 

「消して!」

 

『必要性を確認できません』

 

「俺にはある!」

 

 鏡から離れた。耳が妙に熱い。

 

「もう次! 装備!」

 

『了解しました』

 

「ガントレット出せる?」

 

『可能です』

 

「どうやる?」

 

『展開意思を明確化してください』

 

 ハヤトは右腕を前へ出した。

 

「来い……ガントレット!」

 

 何も起こらなかった。

 

「…………」

 

『…………』

 

「いや、今の違うな」

 

 もう一度。

 

「顕現装備! ガントレット!」

 

 何もない。

 

「恥ずっ」

 

『音声入力ではありません』

 

「最初に言えよ!」

 

『質問されていません』

 

「察せよ! 恥ずかしいこと二回やっただろ!」

 

 戦場でガントレットを必要とした時の感覚を思い出す。もっと重い一撃が必要だった。強い拳。その感覚へ意識を寄せると、赤い粒子が両腕へ集まり始めた。

 

「おっ」

 

 装甲が噛み合っていく。前腕を覆い、さらにその上へ大型装甲が重なる。

 

『Manifest Equipment』

 

「来た来た来た!」

 

 両腕に巨大ガントレットが完成した。

 

「うおお……!」

 

『声量を抑えてください』

 

「いやこれ! 家で見るとめちゃくちゃデカいな!」

 

 拳を持ち上げる。軽い。見た目から想像する重量がない。

 

「すげえ」

 

『負荷補正は正常です』

 

「これ俺、昨日振り回してたんだよな」

 

『はい』

 

「そりゃ相手痛いわ」

 

 鏡の前で右拳を構える。左を前へ、右を引く。

 

「いや、こうか?」

 

『何をしていますか』

 

「構え」

 

『戦闘訓練ですか』

 

「半分」

 

『残り半分は』

 

「カッコよさ」

 

『戦闘効率には直接影響しません』

 

「夢がねえな!」

 

 少し角度を変える。銀髪の少女が巨大な拳を構えている。

 

「……でもこれ、結構いいな」

 

『何がですか』

 

「見た目」

 

『先ほどは「かわいい」と評価していました』

 

「それとこれは両立する!」

 

 ガントレットの後ろを見る。ブースター。

 

「これ、ちょっと吹かせない?」

 

『室内使用を推奨しません』

 

「ほんのちょっと」

 

『推奨しません』

 

「ケチ」

 

『安全管理です』

 

「じゃあ外なら?」

 

『安全を確保できる場所であれば可能です』

 

「今度やろ」

 

『遊戯目的での使用は推奨しません』

 

「訓練だって!」

 

『先ほど「今度やろ」と発言しました』

 

「言葉尻拾うなよ!」

 

 ハヤトはガントレットを眺めた。口元が勝手に緩む。

 

「……やっぱカッコいいな、これ」

 

『評価を記録します』

 

「そこ記録する必要ある!?」

 

「で」

 

 顕現装備を解除したハヤトは、そのままブレイヴ姿でベッドへ座っていた。

 

「Type Strikerって、この形態の名前なんだよな?」

 

『はい』

 

「なんでわざわざTypeって付いてるの?」

 

『複数の戦闘形態が存在するためです』

 

「…………」

 

 ハヤトの顔が上がった。

 

「今なんて?」

 

『複数の戦闘形態が存在します』

 

「他にもあんの!?」

 

『はい』

 

「マジで!?」

 

 さっきまでベッドに座っていたのに、もう立っていた。

 

「何!? どんなの!? 剣とか!? 銃!? もっと速いやつとかある!?」

 

『現在、使用条件を満たしていません』

 

「いや使えなくてもいい! 名前だけ!」

 

『開示できません』

 

「ええええ!?」

 

『条件未達です』

 

「ちょっとくらいいいだろ!」

 

『不可です』

 

「画像!」

 

『不可です』

 

「シルエット!」

 

『不可です』

 

「ヒント!」

 

『不可です』

 

「ケチ!」

 

『システム仕様です』

 

「仕様に文句言ってんの!」

 

 アストラは沈黙した。ハヤトはしばらく不満そうにしていたが、すぐまた食いつく。

 

「じゃあ、どうしたら増える?」

 

『戦闘データ、契約者の適合状況、取得した魔核由来データなどを基準として判定されます』

 

「魔核って、倒した後に回収してたやつ?」

 

『はい』

 

「じゃあ、魔獣倒したら新しい装備増える可能性ある?」

 

『あります』

 

「フォームも?」

 

『あります』

 

「武器も?」

 

『あります』

 

「おお……」

 

 声が低くなる。今度は興奮を隠そうとしているのが丸分かりだった。

 

「……いいじゃん」

 

『何がですか』

 

「なんでもない」

 

『心拍数が上昇しています』

 

「言うなって!」

 

 新しいフォーム。新しい武器。新しい装備。昨日まで自分を勝手に戦場へ放り込む厄介なシステムだったものが、ほんの少しだけ違って見える。

 

「Type Strikerはやっぱり、拳がメイン?」

 

『近接戦闘を主眼とし、両腕ブースターおよび顕現装備を使用します』

 

「蹴りは?」

 

『使用可能です』

 

「じゃあ脚も使えるな」

 

『はい』

 

 ハヤトは少しだけ考えた。ここではさっきまでの浮ついた声が落ちる。

 

「フェンリルの時、拳だけじゃ追いつけなかったし。相手が近距離で腕を潰してきたら、何もできないのはまずい」

 

『戦術判断として妥当です』

 

「なら次はもうちょい足も使う」

 

『記録します』

 

「そこはしていい」

 

『外見評価も保存されています』

 

「そっちは消してくれって!」

 

 さっきの真面目さはすぐ消えた。ハヤトはため息をつき、鏡の前へ戻る。

 

「この状態で普通に生活もできる?」

 

『可能です』

 

「飯」

 

『可能です』

 

「寝る」

 

『可能です』

 

「風呂」

 

『可能です』

 

「学校」

 

『身体機能上は可能です』

 

「社会的に無理だろ」

 

 銀髪の知らない女子が教室に入って「天城です」と名乗る光景を想像する。

 

「いや絶対騒ぎになるわ」

 

『本人であることは事実です』

 

「戸籍と見た目が追いついてないんだよ」

 

 冷蔵庫を開ける。麦茶を飲む。

 

「味同じだな」

 

『味覚は正常です』

 

「腹減る?」

 

『はい』

 

「トイレ行きたくなる?」

 

『はい』

 

 ベッドへ戻る。少し落ち着いた。

 

「なあ、アストラ」

 

『はい』

 

「お前、BRAVE SYSTEMのこと全部知ってるの?」

 

『いいえ』

 

「……え?」

 

 ハヤトの声から、さっきまでの軽さが消えた。

 

「知らないの?」

 

『私が保持している情報には制限があります』

 

「お前が管理してるんじゃないのか」

 

『管理可能領域と参照不可能領域が存在します』

 

「誰が作った?」

 

『回答可能な情報がありません』

 

「何のために?」

 

『BRAVE SYSTEMの現在の基本目的は、契約者の戦闘および生存支援です』

 

「現在の、じゃなくて。最初に何のために作られたのか」

 

『回答可能な情報がありません』

 

「……じゃあ、なんで俺が使えた?」

 

『適合条件を満たしました』

 

「その条件」

 

『参照できません』

 

 ハヤトは黙った。鏡を見る。銀髪。赤い目。数分前までは、格好いいとか可愛いとか、そんなことばかり考えていた。

 

 でも、誰が用意した身体なのか。誰が作った装備なのか。なぜ自分が使えるのか。そのどれも分からない。

 

「じゃあ」

 

 少し間を置く。

 

「なんで女なんだ?」

 

『現在利用可能な戦闘用サブボディが女性型だからです』

 

「それは分かった。なんで女性型なの?」

 

『回答可能な情報がありません』

 

「男の身体は?」

 

『現在使用可能なサブボディには存在しません』

 

「追加予定」

 

『確認できません』

 

「選べない?」

 

『選択機能はありません』

 

「キャラメイク」

 

『ありません』

 

「性別変更」

 

『ありません』

 

「…………」

 

『…………』

 

「そこだけ妙に完成度高く詰んでるな」

 

『戦闘機能には問題ありません』

 

「俺が気にしてるの戦闘機能じゃないから」

 

 とはいえ、いつでも元へ戻れる。それだけでかなり違う。

 

「まあ……この見た目嫌いじゃないけど」

 

『先ほどより評価が変化しました』

 

「独り言拾うな!」

 

 ハヤトは顔を覆った。

 

「本当にこういうの全部記録してんの?」

 

『はい』

 

「俺が死んだ後とか絶対誰にも見せるなよ」

 

『死亡後の記録公開予定はありません』

 

「そこ真面目に返されると怖いんだよ」

 

 少し笑う。そこで、別の疑問が浮かんだ。

 

「俺が大怪我したらどうなる?」

 

『損傷状況によります』

 

「変身解除したらリセット?」

 

『いいえ』

 

「だよな」

 

 フェンリル戦の翌朝を思い出す。身体中が痛かった。

 

『戦闘時の損傷は無条件に消失しません。疲労、疼痛その他の影響が契約者へ残る場合があります。また重大損傷時、解除を制限する可能性があります』

 

「……つまり?」

 

『安全な状態へ移行するまで、サブボディを維持する場合があります』

 

 ハヤトは眉を寄せた。

 

「怪我治るまで、この姿のまま?」

 

『状況によっては』

 

「…………」

 

 しばらく考える。

 

「学校どうすんの」

 

『欠席を推奨します』

 

「正論!」

 

 思わず笑った。でも、その後には少しだけ嫌なものが残った。

 

 戦えば痛い。下手をすれば戻れない。便利なヒーロー変身じゃない。ちゃんと失敗する。ちゃんと怪我をする。

 

「……俺、今まで結構危ないことしてた?」

 

『はい』

 

「即答かよ」

 

『フェンリル戦では複数回、致命傷となる可能性のある攻撃を受けています』

 

「そこまで詳しく言わなくていい」

 

『リザードナイト戦でも――』

 

「もういいもういい!」

 

 ハヤトは両手を上げる。

 

「分かった。次から気をつける」

 

『記録します』

 

 戦う時くらいは浮かれない方がいい。ブースターが楽しいからと突っ込めば、本当に死ぬ。それくらいは、もう身体で分かっている。

 

 ハヤトは鏡の前へ立った。

 

「最後に一個」

 

『はい』

 

「俺って、魔法少女なの?」

 

 銀髪。赤い瞳。女性型の身体。魔獣と戦う。世間から見れば答えは一つしかない。

 

『BRAVE SYSTEMに「魔法少女」という分類は存在しません』

 

「……じゃあ違う?」

 

『少なくとも私は、契約者を魔法少女として定義していません』

 

「…………」

 

 ハヤトの目が見開かれた。

 

「よっしゃ!」

 

『何を喜んでいるのですか』

 

「いや、だって俺、魔法少女じゃないんだろ!?」

 

『はい』

 

「じゃあセーフじゃん!」

 

『何がですか』

 

「全部!」

 

 胸を張る。

 

「俺は魔法少女じゃなくて、ブレイヴ!」

 

『その認識で問題ありません』

 

「そうだよ! 最初からそう言ってくれればよかったんだよ!」

 

 上機嫌で鏡を見る。

 

「…………」

 

 銀髪美少女が立っている。黒銀の戦闘服。赤い瞳。

 

「…………」

 

『どうしました』

 

「いや」

 

 腕を組む。

 

「見た目の説得力がゼロだなって」

 

『一般的な魔法少女との誤認可能性は――』

 

「それ以上言わなくていい」

 

 ハヤトは天井を見上げる。

 

「誰かに聞かれたら何て説明すんだよ。『魔法少女じゃありません。正確には戦闘用サブボディです』って?」

 

 口に出してみる。

 

「怪しいわ!」

 

 赤い光の中で変身を解除する。銀髪が消え、視界がいつもの高さへ戻った。鏡には、見慣れた男子高校生がいる。

 

「……戻った」

 

『はい』

 

 頬を触る。黒髪。いつもの声。いつもの身体。少し安心する。

 

 けれど、鏡の中にさっきまでいたブレイヴの姿も、妙に鮮明に思い出せた。

 

『再変身しますか』

 

「しない」

 

『了解しました』

 

「また今度な」

 

 アストラの光が静かに瞬く。

 

 ハヤトはため息をついて、机へ戻った。開きっぱなしの数学が待っている。

 

「……で、これ」

 

『はい』

 

「お前、数学教えられる?」

 

『基礎教育課程であれば対応可能です』

 

「マジで?」

 

『はい』

 

「アストラ」

 

『はい』

 

「今日一番すごい情報、それかもしれない」

 

『BRAVE SYSTEMの説明より重要ですか』

 

「赤点取ったら普通に困るからな」

 

 シャープペンシルを持つ。問題文を見る。五秒もしないうちに置いた。

 

「……その前に飯食お」

 

『冷蔵庫にもやしがあります』

 

「知ってるよ」

 

『消費期限は明日です』

 

「それも知ってる!」

 

 結局、ブレイヴが何なのか全部は分からなかった。誰が作ったのか。なぜ自分なのか。どうしてあの姿なのか。謎は残った。

 

 けれど、戦場でしか知らなかったブレイヴを、今日は少しだけ自分のものとして見られた気がした。銀髪も、ガントレットも、あのやたら格好いいブースターも。

 

 そして、自分が思ったより気に入ってしまっていることも。

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