魔法少女演ってます ~魔法素粒子ルミナキャスト~ …のショー!?   作:砕(サイ)

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明治から大正の時代。
近代化の真っ只中、過去のヨシノの街で、
魔法素粒子界との交流が行われたと言う。

「確かに…うちの地元、洋館が目立つんだよね」

西洋建築。あれは魔法素粒子界由来のものじゃない?
そんな風にヨシノは考える。
以前見せられた、ホログラムの映像。
それにも近い要素は確かにあるのだ。

「それは関係ないよ」

即座にそれを切り捨てるゲッシー。
文明開化は、あくまで物質界の人間同士で行われた行為。
魔法素粒子界は明治以降の発展に寄与はしていない。
違うの?言葉の代わりに、ヨシノの瞳は訴える。

「その外国人の中に、僕らの世界の人が紛れ込んでいたのさ」

外国人宣教師などに紛れ込んだ、
異世界の錬金術師。
彼らがルミナストーンをはじめとした、
様々なオーパーツを持ち込んだ。

「それが、ペルソナクスがここに来たきっかけなんだね」

ヨシノの問いかけに、頷くゲッシー。
いい迷惑。ヨシノは過去の錬金術師に対して、
文句を言いつつ一息つこうとする。
しかし、すぐさま彼女は血相を変え、
ゲッシーに詰め寄る。

「ちょっと待って。この街ってあくまでロケ地になっただけだよね?」
「うん、だからちょっと史料とか改竄したんだ」

侵略者でしょそれ!?
ヨシノでなくとも絶叫する。まさしく暴挙である。
それを見越していたのか、ゲッシーは詳細を説明する。
要点を纏めると、改竄した内容。
それらは全て、ルミナキャストのロケに使用するのみ。

「番組の干渉がないところだと、普通の歴史が流れてるからさ…」

ヨシノの眼光に弱気になりつつも、ゲッシーは語る。
変わるのはヨシノの行動範囲の内だけ。
その外では通常の歴史が流れている。
実際のヨシノの地元。地球の歴史そのもの。
それらが歪むことはない。

「それ結局、私の周りは歪んでるんでしょ…」

ゲッシーの弁明を以てもなお、
不満そうな顔をするヨシノ。
やっている行為だけ抽出すれば、
文明を弄ぶのに他ならない。事前承諾もなく、
このような真似に踏み込む番組サイド。
ヨシノが呆れるのも無理はない。



第1話「ええ!?私がヒロインに!?」

「終わった?」

 

ベッドの上。スマートフォンを片手に呟くのは草之根ヨシノ。

好きな動画投稿者の企画の打ち切りだ。

彼女の思考の宇宙にとっては超新星爆発くらいには大事件。

制服に着替える手つきも鈍い。

宇宙の広さと比べたら、

星が一つや二つ消えたところで、大したこともない。

それでも、小さなヨシノの体に喪失を満たすには十分。

 

「よっす、元気?」

友人の声にも上の空。

とぼとぼと、アスファルトの上を歩くヨシノ。

朝の日差しに連なるような、

快活な声にも元気だよ…と弱々しく応じるのみ。

何があったんだと、校門で質問する友人。

節木凪(ふしのき なぎ)に事情を語る。

心を折るほどではないが、

ヨシノの心を萎えさせるには十分な出来事である。

そんな事情を聞き、

またいい企画が出来るよと励まし別れるが、いまいち元気がない。

実を言うとヨシノの喪失感のきっかけはもう一つ。先輩の卒業と友達の転校。

対局相手がおらず、所属クラブも宙ぶらりん。スマホ一つで会話は出来るが、

向かい合って碁石は打てない。席に座るなり、机を枕に突っ伏すばかり。

 

「凪は囲碁やらないもんね…」

 

そんな独り言を聞いて、優しく微笑む女の子。三鳥賢界(みとり のりか)だ。

星が吹き飛ぶ熱量を持て余すヨシノに対して、暇な時は私と対局してねと一言語る。

積もった雪の上の青空のように、暑さの代わりに穏やかさを持つ彼女の距離感の方が、

今は凪のような明るい日差しよりもちょうどいいのかもしれない。

ノートは取ったものの、授業は頭に入らず。そんなヨシノは既に帰路に立っていた。

私の名前はこの花から取ったんだよなと、

視界を横切る桃色の花びらに自らが感じる無常さを重ねる。

 

 

「うわ痛っ!」

「えっごめんなさい!」

 

ヨシノは足を運ぶ中に響いた唐突な叫び声に対して、思わず謝罪をする。何かにぶつかった?何かを踏み潰した?

ぼんやりとしていた思考の中で何があったのか。その声は下から響いた。下から?

ヨシノは疑問に思い、視線を落とす。そこから足元、

前方の順に地平を見ると、サッカーボール大かわずかに小さい程度の、

毛並みに覆われた球体が転がる。私はこの毛玉を蹴飛ばしたのか?

勿論、この世に喋る毛玉は存在しない。じゃあこれは何?

そんな疑問が解消するよりも早く、茶色いサッカーボールはその姿を解く。

丸いフォルムのぬいぐるみのような、デフォルメしたハムスター、

だが絶対に地球に存在しないようなサイズの生き物だ。

待ってました!と言わんばかりの期待と焦燥の混じった表情で、

奇妙なハムスターはヨシノに語りかける。

 

「キミの力が欲しい!」

 

この不思議な生き物と話している事を知られたら、何かに巻き込まれる。

あまりの事態に危機感を覚えたヨシノは、ひとまずハムスターを抱え、

道沿いにある屋根付きのベンチに座り、何なの君、と小声で語り掛ける。

本人曰く、「ゲッシー」という名前らしい。げっ歯類から採っているのだろうか。

性別は男。オスなんだね、とヨシノが言ったら動物扱いするなとムキになる。

彼の地雷をさっそく踏み、若干の困惑を覚えつつ、男の子なんだねとヨシノは訂正。

続けて、彼は「魔法素粒子界」という異世界からやって来たと自称する。

 

「これなら証拠になるかな?」

 

そう一言添えた瞬間、絵に描いたような煙と共に、

ゲッシーの右手にはタブレットが。それもカタログでは見たことのないような、

リンゴのような形状のデザイン。物は試しと、その画面から中世ヨーロッパの建物かも、

未来の建物かも見当がつかない。強いて言えば、ファンタジー系のゲームにでもありそうな、

見たこともない世界の立体映像を浮かばせる。これが魔法素粒子界のイメージのようだ。

 

「触れる…」

 

立体ながら、質感がある。それに対して、非売品だよ、

などと冗談めいた発言を行うゲッシー。非現実的。

喋る大きなハムスター。見たこともない魔法のような技術。

 

「ウソじゃないんだよね…」

 

マイナスにマイナスを掛けたらプラス。

ただの喋るハムスターなら「仕込み」を疑ったかもしれないが、

単なる女子中学生のヨシノを騙す理由など、彼女自身、思いつきもしない。

むしろ、ここまで突飛だと逆に現実味すらある。ありえない事にありえない事が重なる。

そうと来れば、ウソを言っていないだろうとヨシノは確信する。

 

「ルミナキャスト?」

 

ゲッシーの言葉を復唱するヨシノ。彼が言うには、

特殊なアクセサリーを使う事で変身することが可能な、伝説的な戦士だと言う。

何でも、ヨシノが住むこの世界の人間が特にその適性が強いとのこと。

それ故に、彼女の力を借りたいと言うのだ。

 

「何言ってんのさ。私には無理だよ」

「強制はしないよ」

 

ありえないが乗算されて、ヨシノの思考はマイナスに。

昔視聴していた、変身ヒロイン番組のような世界観が洪水のように流れ込む。

そんな不可思議な状況に、さすがにヨシノもついていけなかった。

ゲッシーが「ファイティングケア」という、謎の単語を一言つぶやき、

即座に訂正するといった不自然な様子も見受けられたが、

そんな事を気にする暇もなく話は切り上げられた。

 

「また見てね」

 

何を見るの、ゲッシー?別れ際におどけたまま、最後のヨシノの質問には答えず、

フッと消えたゲッシーであったが、ヨシノに戦う意思があればまた現れる、

といった旨をその直前に伝えている。

 

 

???「どうしたの、ヨシノ?昔のオモチャなんて引っ張り出して」

 

その晩、娘がステッキを軽く振る様に軽く笑うヨシノの母。

子供のころ、大好きだった番組の変身アイテム。当時のヨシノの宝物だ。

普段のヨシノとも様子が違うのは確かだが、自分の娘が

思い出に浸りたいと解釈したのか、あまり深くは干渉しない。

 

「パパ、今日も遅いんだって?」

 

ふと、父の様子が気になり母に尋ねるヨシノ。

営業係長も上や下や他の部署を気にしなきゃならないから大変なんだって、

と母は返し、ヨシノも微妙そうな顔で納得する。

このステッキを買ってくれた頃は、今より笑顔が多かったかも。

最近の疲れた父の顔を思い出しながら、思い出と比較する。

自室に入り、ヨシノは何となくテレビをつける。目と肌に馴染んだ

地方局のマスコットが手を振って笑っている。

黄色い星の子。この子の笑顔はいつも最高だ。

 

「ちょっと最近笑ってないかもなあ…」

 

齢十四にして、未来に不安を覚えるヨシノ。それにしても、

あのハムスターは何だったのだろうと思った瞬間、

 

「フフフ…」

 

しっかりと声に出してはいるものの、薄ら笑いと表現していいような、冷たく嘲笑う声。

悪趣味なほどに煌びやかな燕尾服が映り込む。背を向けているが、

声や体格からして青年から壮年の男性と言ったところか。

放送事故か?と思った矢先、その男は一言呟く。

 

「出てこい、ルミナキャスト。俺達はお前を迎え撃つ準備が出来ているぞ?」

 

ヨシノは絶句する。ゲッシーが言った戦士の名を男は語ったのだ。

その間にも、薄ら笑いをその声色で浮かべる男であったが、慌てたように振り向く。

白い仮面で素顔を覆って、その表情は窺えないが、手振りから、

困惑している様子は伝わる。もしかして、カメラの位置を把握していなかったのか?

呆れと緊張が入り混じった中、画面が切り替わり、

何事もなかったかのようにマスコットが微笑みかける。

即座にスマートフォンの画面を開き、SNSを一通り回るものの、

自身の地域において、この異常事態に言及するアカウントは一切ない。

ヨシノは確信した。

 

「私にだけ見えた?」

 

 

テレビを見た翌日。通学路の凪や教室の賢界、

近くの席の男子生徒などに、

昨日見た夢として仮面の男の話題をさりげなく振るも、

皆、心当たりはないようだ。

間違えて蹴ったり、自ら抱えたりしたゲッシーの質感。

あれは決して妄想や幻覚の類ではない。

本当に自分に「何かの素質」があるのだ、と

ヨシノは考える。

もしも、私が何かを救えるなら。それで誰かが笑えるなら。

私も今よりも笑える。そんな展望と一緒に。

同時に、こんな事を正直に話すわけにもいかない。

ヨシノは、昔見ていたテレビ番組の憧れのヒロインが、

正体を隠しつつ戦いに身を投じていたことを思い出す。

そして「ルミナキャスト」を知っているであろう、

ゲッシーにどう会うかを考える。

わざわざあんな話題を持ち掛けてきた以上は、

変身するためのアクセサリーの所在を知っているに違いない。

 

「力が欲しいって、どういう事だろう…」

 

誰にも聞こえないような声量で、ヨシノは呟く。

自分に助けを求めるという事は、現地民だけでは処理できないのだろう。

あの触れる立体映像を作れる技術がある中で、何故人間の力が必要なのか。

疑問は尽きないが、それはゲッシーが教えてくれるはずだ。

 

「げっ歯類だからゲッシーって、そんな名前あるのかな…」

 

放課後。ゲッシーを探す中、ふと呟いてみるヨシノ。

なんとなく、で流していた事を改めて疑問に思う。

仮定の話だが、哺乳類だから「ホニュウ」と名付けられる人間や、

ヒト科だから「ヒト」と親に名付けられる人間がいるとする。

名前のバリエーションが多岐に渡るこの時代。そんな現代を生きる彼女でも、

二度見や三度見をするだろう。あのハムスターにそんな名前を付けたのは、

一体どんな意図なのだろうかと思えて仕方ない。

 

「教育番組じゃないんだよ…」

 

確かに、ヨシノの言う通り、その名は分かりやすさを通り越して

説明の類に近い。思考と足と視線。それらを混線させていくうち、

普段は通学路として通らない、交差点付近に立っていることに気づく。

 

「これでゲッシーをさがして!って言えば楽かも…」

 

人も車もいないのを良しとして、視線を上げて、呟くヨシノ。

真上にある巨大なモニター。ちょっとしたビルの上に佇むこの大画面。

都会のそれには敵わないが、宣伝効果としては十分であろう。

 

「いや、何言ってんだ私!自分で捜そう」

 

ゲッシーを公にしたら騒ぎになる。

そんな常識を上書きするほど、不思議な状況とあてもなく歩く行為に疲れていた。

ふと我に返り、思い直すヨシノ。大して歩いていないのになあ…

と、自分の体力に嘆いた矢先。

 

 

「フフフ…」

 

ヨシノの疲れをも吹き飛ばす、薄ら笑いの形の仮面。

それに似つかわしい嘲笑う声。

昨晩のテレビに映った、燕尾服の仮面の男である。

モニターから響く静かな笑い声。あのモニター、普段は無音だよね?

思わず日常の延長線上で疑問を抱くヨシノ。

ふざけているわけではない。この現実離れした状況を処理できないだけである。

 

「何なの!?あなた!!」

 

頭がまとまり、感情を言葉に乗せるヨシノ。

確固たる声量。しかしながら、

腹から声を出すのには慣れてはいない。

喉を傷めつつ、彼女は叫ぶ。

 

「出てこい、ルミナキャスト。俺達はお前を迎え撃つ準備が出来ているぞ?」

 

昨日と同じ言葉。

この様子からして、モニターの仮面の男は、

ヨシノをルミナキャストとは思っていない。

と言うよりも、そもそも一方通行。

特定の個人に向けたメッセージではなさそうだ。

 

「ルミナキャストの適性…?」

 

ヨシノは一言呟く。ゲッシーの言う、伝説的な戦士。

その適性がある者にあの仮面の男が見えるのではないか。

クラスメイトに誰も心当たりがない。

SNSにも手掛かりがない以上、

今のヨシノはそう推測する他ない。

 

「フフフ…しょうがないなあ。なら強硬手段に出てやるよ」

 

強硬手段…?心の中、ヨシノは仮面の男の言葉をそのまま繰り返す。

そんな心の声に応える仮面の男。オペラ座ならぬ、

モニターの怪人は、懐から仮面を取り出す。

 

「我らがペルソナクスの技術…ワルターをお見せしよう」

 

何それ!?そんなヨシノの心中。

仮面の男は彼女の疑問を無視して仮面を取り出す。

紫の隈取。そのようなペイントが施された仮面を持ちながら、

装飾のない、純白の仮面を被った男は宣言する。

そして、電気を流し込んだかの如く。

唐突に隈取の仮面は、隈取のラインに沿って、激しい光を放ち始める。

 

「行けワルター。この街の人間を襲いな」

 

モニター越しから、仮面の男は指示を出す。

その号令と共に、黒い影が物陰から飛び出す。

人型ではあるが、自分の倍の大きさはありそうなシルエット。

おおよそ、人間ではあり得ないサイズの不可解な巨人。

だが、ヨシノの思考は巨人への困惑や恐怖へと到達しない。

 

「仮面の…影?」

 

先程モニターに映った、隈取の仮面。それが体を成したもの。

形を持たないものが、無理矢理形を持ったような姿。

言ってしまえば、立体的な影そのもの。

次の瞬間、一目散にヨシノは走り出す。

理解不能と対峙したヨシノの直感と思考は、

ようやく恐怖という結論に辿り着く。

 

「市役所…公園…」

 

目に入った建物をそのまま呟く。

唐突さに頭が追いつかないまま、ヨシノは何kmも先まで飛ばしたことに気付く。

歩いていくにはそれなりの距離。いつの間にか辿り着いた、

観光名所たる公園付近。ヨシノは市内の観光案内施設の展望に立っていた。

 

「ゲッシーが助けを求めたのって…」

 

仮面の男が述べた、ワルターと言う単語。

状況からして、あの影の巨人の名前なのだろう。

ヨシノは逃げただけ。直接傷つけられたわけではない。

それでも、見かけ倒しではない威圧感。最初は頭で処理できなかったヨシノでも、

魔法素粒子界が受けた被害を想像できる。

 

「いるなら来てよ!ゲッシー!!」

 

叫ぶ傍ら、そこにゲッシーはいない。

言ってどうにかなるものではない。

ヨシノも分かってはいるものの、他に手段など何もない。

その替わりと言わんばかりに、ヨシノに叫びに応えるのは、

冬の屋根雪が間近に落ちてきたかのような衝撃。

 

「うわ…さっきの影!」

 

実体の曖昧な姿とは裏腹。

轟音とともに、影の巨人がヨシノの視界に入る。

観光案内所は、周辺道路を俯瞰できる高さに建てられている。

見晴らしはいいが、今のヨシノはそれを歓迎しない。

これじゃあどうしようもないよ…。そんな風に内心思うヨシノ。

 

「来るなら来てよ!ルミナキャストが相手になってやる!!」

 

内心とは裏腹。ヨシノは家から持ち出していた、

思い出のステッキを掲げ、叫ぶ。え、何やってんの私!?

ワンテンポ遅れ、その内心で、ヨシノは自身の行動に驚愕する。

更にもうひと間隔。ヨシノは記憶を呼び起こし、自分の行動に納得をする。

私は、テレビで見たスーパーヒロインに憧れていたのだと。

 

 

 

「それだよ、ヨシノ!」

「それだよ?」

 

突然のオーディエンス。

意味も分からず振り返った先にいたのはゲッシー。

ようやく見つけたハムスター。ヨシノが助けを乞おうとしたその瞬間、

おもちゃのステッキが激しい光に包まれる。

 

「いいかい、ヨシノ。これがルミナスコープだよ」

 

ゲッシーが嬉しそうに語るものの、

その眩い光に、ヨシノの思考は追いつかない。

光が消えたその先。瞑った目を開いた、ヨシノの眼前の左手首。

先程まで握っていたステッキの替わりに、

腕時計のようなアクセサリーがそこにはあった。

時針も分針も数字もなし。透明のガラスとジュエルの装飾。

 

「え、何この時計」

「ルミナスコープは時計じゃない。顕微鏡だよ」

 

唐突に現れた「ルミナスコープ」に、疑問だらけのヨシノ。

それに応えるように、ゲッシーの解説が始まる。

レンズを弾くように上げて、その手を顔に近づけ、覗き込む。

この一連の所作を行うことで、変身を可能にするのだと言う。

 

「変身?」

「もちろん、ルミナキャストにだよ」

 

このやり取りの間にも、黒い影の巨人は近づく。

ワルターを倒せるのはルミナキャスト。ゲッシーの言葉で、

影の巨人の名前はやはり「ワルター」であること。魔法素粒子界は、

ワルターに何らかの被害を受けたこと。自分なら戦えること。

ヨシノはそれを確認する。

 

「さあ行こう、ルミナタキオン!」

 

ゲッシーの掛け声と共に、ヨシノはレンズを覗き込む。

次の瞬間、ヨシノはレンズに吸い込まれる。

ルミナスコープの中。無数の光の奔流。

光の道に沿い、ヨシノはスコープの中の空を舞う。

先程まで着ていた制服。「光」そのものに変換される。

そこから更に、光は実体のあるフリルのドレスに。

そして、ドレスに合わせた新たなデザインのステッキを携え、

そのままヨシノは観光案内所の地に立つ。

 

「変身しちゃった…」

「その初々しい対応、いい画だよタキオン」

 

煌びやかな自分の姿。ゲッシーのカメラマンのような反応。

ヨシノの思考は未だ追いついていない。ルミナタキオン?

先程ゲッシーが述べたフレーズを不思議がるヨシノに、

君が変身する戦士の名前であると、ゲッシーは言う。

 

「ルミナキャストのルミナタキオン…私が戦わなきゃダメなんだね」

 

その矢先にワルターが、ヨシノ…もとい、ルミナタキオンに荒々しく飛び掛かる。

猛獣のような俊敏さ。タキオンは目を丸くするも、

その軌道を目で追えている事に気付く。

 

「ウソっ!速すぎない!?」

 

そう叫ぶのも、動きを捉えられているから。その突進を軽々ジャンプで躱すタキオン。

ヨシノは、運動が特別得意なわけではない。喧嘩が出来るわけでもない。

そんな自分が、2階建ての観光案内所よりも高い位置まで跳んでいること。

そして、すぐさま次の行動を思考できること。

そんな自分に、ヨシノは驚愕する。

 

「私、本当に魔法少女になっちゃったんだ…」

 

そのまま、魔法とはかけ離れた暴力的な鋭い急降下でワルターを踏みつける。

脳天に激しい一撃を叩き込まれ、大きく体勢を崩し、悶えるワルター。

ヨシノは、ルミナタキオンとして、破格の力を得たことを自覚する。

感慨とも混乱ともつかない心持ちのまま、ワルターを踏み台にして、

新体操を始めたかのように宙に返りながら着地。そのまま、

流れるようにファイティングポーズを取り、タキオンはワルターと相対する。

その直後、タキオンの背中は何度か聞いた薄ら笑いを耳にする。

 

「フフフ…遂にルミナキャストが現れたか」

 

名前はルミナタキオンだな。そう確認しつつ感嘆する、先程のモニターの仮面の男。

飛び上がり、走り、タキオンの足元に飛び込むゲッシー。

その後ろで、仮面の男を覗き込むように顔を出す。

 

「破滅劇団ペルソナクス!あいつらがワルターを使って魔法素粒子界を襲ったんだ」

 

声を震わせ説明するゲッシー。あの仮面の男はワルターを使役する、

幹部に相当する存在であると言う。ゲッシーが口を閉じたタイミング。

仮面の男は説明ご苦労と言いたげに、肩で笑いつつも、指先から毒々しい色味の光を発する。

光線が向かう先は、タキオンではなく、うずくまるワルターの元。

 

「ワルターに発破をかけた。先程までの無様な姿と思うなよ?」

 

その言葉に違わず。

暴力的な速度と勢いは「荒々しい」を通り越し、猛獣そのもの。

対応できないタキオンに飛びかかるワルター。猫がネズミを襲うように、

そのままタキオンの体を切り裂く。

 

「ッ!!」

 

ハサミで指をうっかり切ったような、そんな痛み。

それを指から胸部全体に移し替え、広がったもの。

目に見える裂傷こそないが、タキオンが感じる痛みに嘘偽りはない。

歯だけでは受け止められない。目と顔を食いしばり、

歪ませながら、背中で体を包むように姿勢を倒す。

 

「大丈夫、血は出ないから!」

「違う、痛いんだよ…」

 

ゲッシーの何処かズレたフォロー。

全くそれどころではないと、痛みを堪えつつも物申す余裕。

タキオンにはまだ、立ち上がるだけの力が確かにある。

何も、ルミナキャストの力が優れているからではない。

ゲッシーは不安そうにタキオンの顔を覗き込むも、予想外にタキオンは微笑んでいる。

バカみたいかもしれないけど、と言うのは、彼女が述べた前置きだ。

 

「今、すごくワクワクしてるんだ」

 

昨日、ゲッシーに遭った日の夜。

ヨシノがステッキを振り回しながら考えていたのは、かつてのヒロインのこと。

自分がそうなったら?自分が誰かを守る立場になっていたら?

少なくとも、大好きだったヒロインのように戦いたい。

理由は単純、そうじゃないと格好が付かない。誰も守れないから。

 

「フフフ…なかなか優秀な奴をルミナキャストに選んだようだな」

 

仮面の男がその戦いっぷりに感心する。ヨシノが内心で回顧しつつも、

タキオンとワルターの攻撃の応酬は続く。ステッキを盾がわりにして、

不定形の拳を受け止める。そのまま懐に潜り込み、地面に背をつけワルターを蹴り上げる。

柔道で言う巴投げ。タキオンは道路にワルターを思い切り投げ込んだ。

 

「逃がさないよ!ワルター!!」

 

大きくなったらヒーローになりたい。ヒロインになりたい。

小学校に通う前にほのかに抱く、そんな将来の夢。

今のヨシノはその頃の気持ちに回帰し、それを叶えている。

その勢いのまま、タキオンは一飛びで放り投げたワルターのもとへ。

そして、その付近にはゆっくりと歩くお婆さん。

状況を飲み込めていないのか、特に意に介さず。

それに気付かない仮面の男ではない。

 

「ワルター…ここはひとつ、その年寄りを攻撃しな」

「ウソだろ!?やめろ!」

 

タキオンよりも先に、声を荒らげるゲッシー。

独りで戦うなら余計なことは考えなくてもいい。しかし、人質がいたら?

庇護すべき対象がいたら?傷つけないフォローが必要となる。

即ち、戦況は先程までと比較しても一気に不利になる。これが仮面の男の戦略だ。

 

「ダメだ!まだタキオンは戦いを始めたばかりなんだぞ!絶対にそのお婆さんが傷つく!」

「フフフ…お前はわざわざ敵が強くなるのを待つのか?」

 

更に焦るゲッシーと、それを嘲笑う仮面の男。

確かに、私はまだ今日初めて変身したし、今が限界じゃないのかも。

タキオンも一瞬、そのように仮面の男に対して同意しかけるが、今は老婆の命の危機。

そして、意にも介さず攻撃を仕掛けようとするワルター。

距離があり、間に合わないかもしれない。そんな中、

タキオンが駆けると同時に、ゲッシーが叫ぶ。

 

「カット!」

 

「コンプラ的にまずいって!」

「え?」

 

 

 

コンプライアンスなどと口にする、ゲッシーの一言。

その言葉でワルターが制止したのと同時に、

老婆を助けようと駆け出したルミナタキオンもまた、

目を見開き、ヨシノは動きを止める。

老婆は、何事もなかったかのようにゆっくりと通り過ぎた。

ルミナタキオンにそれは見えなかった。

意味が分からず、信号の音しか耳に入らない。

仮面の男の、さっきまでの余裕はどこへ行ったのか。

困ったようにゲッシーに頭を下げる。

冷や汗をかきながら眉をひそめるゲッシー。

しかしながら、そんな間もなくルミナタキオン…もとい、

ルミナキャストの格好をしたヨシノに気付き、肝を冷やす。

 

「…バレた?」

「説明して」

 

ヨシノは一言問いただす。

さすがにこの空気だと誤魔化せまいと悟ったゲッシー。

そのまま、ヨシノに全てを話すことにした。

まず、これは「魔法素粒子ルミナキャスト」という

「番組」である事。

この町はその撮影を行うために、チューンナップされたロケ地となった事。

 

「オーディションで主演声優に選ばれた感じだね」

 

そして草之根ヨシノは、この市に住む人間の中で、

年齢・資質的に適性が高いとみなされ選出された事。

もちろん、ヨシノに自由意志があって選考に出たわけではない。

あくまでピックアップだ。

 

「じゃあ、あのモニターも」

「うん…」

 

演技であったと言う。あくまで、

草之根ヨシノを誘導する手段であった、と。

そもそも、彼女だけが見えるように誘導していたに過ぎない。

突然、観光案内所までやって来たこと。それも無我夢中で走ったのではなく、

都合のよさそうなスポットに、ヨシノの座標をワープのように移しただけ。

裏事情を淡々と語るゲッシー。解説は容赦なく続く。

 

「この地球で言うなら遊園地とかのヒーローショー、あるいはリアリティショー番組だね」

 

ゲッシーが言うに、非実在と実在も出力技術の差。

宇宙レベルにおいては特撮とアニメーションの区別は意外と曖昧だと言う。

 

「やっぱり演技じゃ出せないリアルってあるじゃん?それを出したかったんだよ」

 

本物の戦いに興じる心の動きを出せなければ、

面白い番組は作れない。そんな上層部の判断からだと。

 

「僕も事情を知ったら絶対降りると思ったから、上も間違ってはないんだけどね」

 

ヨシノを騙して茶番に巻き込んだ自覚はあるのか、

ゲッシーも語る内容は淡々としてるわりに、語り口にはあまり余裕はない。

だが、ヨシノが考えているのは事実の整理ではない。

ルミナタキオンとしてさっき受けた、敵からの攻撃の激痛は本物だ。

「番組」という茶番のために痛みを引き受けなければならないのか。

そして町が改変された以上、逃げ場はないだろう。

どうすればいい?そんな疑問だった。

 

「ふざけないでよ!」

 

草之根ヨシノでなくてもこう言うだろう。

それにヨシノだからこそ言えること。

いくら超常的な技術が使われているからと言って、

「自分も変身したい」という、蘇った幼少期の夢が単なるショー。

つまりは「偽物」で上書きされたのだ。弁解の余地がないのか、

ゲッシーも目を逸らすばかりだ。どんなに技術が進んでも、

価値観まではそのレベルについていけないのだろう。

この宇宙生物の心の背丈は、地球人と大差ない。

 

「フフフ…油断してる場合か?ルミナタキオン。俺のワルターはそんなに甘くはないぞ」

 

さっきまでの平謝りはどこに行ったのか、仮面の男は再び彼女を嘲笑う。

だが、これもお芝居なのだろう。侮りへの怒りや戦う決意など最早ヨシノにはない。

ルミナタキオンのコスチュームのさらに下。諦観が彼女を包む。

しかし、それでも仮面の男が指揮する怪人は襲ってくる。

番組都合は変えられないのだろう。

 

「タキオン!動かないと視聴者が困るって!」

 

仮面の男とは対照的に、ゲッシーの語り口はどこまでも第三者的、番組の外だ。

こんな有様では番組は成立するはずがない。しかし、ヨシノの反応は違った。

 

「…視聴者、いるの?」

 

番組だから当たり前だろう、とその目で語るゲッシー。

ヨシノは同じ言葉で再び質問する。今度はちゃんとその口で、

番組である以上視聴者はいる。子供達も応援してるよ、と語るゲッシー。

そして動き出したのは、草之根ヨシノではない。ルミナタキオンだ。

 

「なら、戦わなきゃ」

 

ルミナタキオンでなくてもこう言うだろう。

自分を応援してくれる者がいるなら、どんなくだらない茶番だとしても、

それを投げ出さない。受ける痛みが本物なら、痛みを打破する力も本物のはずだ。

ルミナタキオンの武装──ルミナステッキから光が放たれ、ワルターはその熱に悶絶する。

 

「これがルミナステッキのパワー、ルミナライトアップ!でも必殺技じゃない!ルミナキャストの本気はこんなものじゃないよ!」

 

今更マスコットぶって、基本技の説明をしても遅いだろう。

そう内心思うヨシノだが、そんな事は二の次だ。

今の彼女はただ、ゲッシーの解説に委ね、必殺技のプロセスを理解する、それだけを考える。

何かを守るために目の前の敵を倒すのに全力、それが私の見たヒロインたちだと。

守る対象がこの町からルミナタキオンを応援する子供に変わった、それだけである。

 

「そのステッキを握りしめて、真ん中にかざすんだ!」

 

自身の眼前、正中線にステッキをかざし、見開いた目で決意を爆発させる。

ルミナタキオンを中心点として、一面を光のドームが包み込む。

その光にワルターは定形を保てず光に溶け、

仮面の男はひび割れる仮面を押さえて悶絶する。

彼女が叫んだ技名。その名は

 

「タキオンフィールド!!」

 

飾り気がなくシンプルだが、今はこんなもの。

ゲッシーは、彼女が勝手に名乗り出した必殺技に対して何も言わない事にした。

これ以上口出ししても余計機嫌を損ねるだけだろう、と。

そんな彼女らを一瞥した仮面の男。静かな嘲笑を仮面の裏に浮かべつつ、

それでいて器用にも声を荒らげて名乗る。

 

「フフフ…俺は幻影紳士ムジカントム。この痛みは忘れんぞ」

 

この世界の主役は自分であり、お前は書割にすぎない。

そう言い残し、タキオンフィールドから脱出しつつ、虚空に消えていった。

あの様子では、一度や二度の激突で倒れるほど弱々しい存在ではないのだろう。

ルミナタキオンの最初の強敵になるであろう存在。

ヨシノは確かに、ムジカントムの名を記憶する。

 

「ゲッシー?」

 

呼びかけられたゲッシーは気まずそうだ。

さすがに詰められるだろうと。もしかしたら反撃を喰らうのでは?

などと言った恐れが言葉を発さずとも叫んでいる。

 

「続けるよ」

 

予想外の言葉に目を丸くするゲッシー。えらく呑み込みがいいな、

と今度は言葉を発してしまったがちょっと視線が気まずい。

今更遅いが交差した掌でその口を塞いだ。だがルミナタキオンはそのまま語る。

 

「私のことを観てる子もいるんでしょ?なら、私がその子たちの夢になる」

 

変身アイテムにコスチューム、そして怪人を倒す圧倒的なパワー。

それを扱う決意があるなら、誰もヨシノを偽物だとは思わないだろう。

紛れもなく、彼女はスーパーヒロインだ。

 

 

光の差さない劇場のステージ。

ガルニエ…すなわちオペラ座と言ったところか。

その中心にポツンと佇むテーブル台。そこで椅子に腰掛け、

セロハンテープで顔を覆った仮面を縫合する、

貴族風の紳士。そう、ムジカントムだ。

そんな彼を冷ややかな目で見つめる、

モノクロで構成されたフリルの衣装を身に纏った、どこか非人間な少女。

 

「そんなんで直るわけないでしょ」

「フフフ…ならボンドがいいか?」

 

そう言う問題ではないだろうと、雰囲気に反して世俗的な睨みを効かせる彼女。

歌劇令嬢・エゴシック。この滑稽な舞台で戦うのはヨシノだけではない。

魔法素粒子ルミナキャスト。それと相対するは、破滅劇団ペルソナクス。

 

「なにが"夢になる"、よ」

 

エゴシックは仮面を砕いた少女の決意を俯瞰し、一言つぶやく。

 




‭私、草之根ヨシノ!‬
‭新アイテム、「エクリプスベルト」のパワーを‬
‭引き出すため大特訓!一方のムジカントムも、‬
‭タキオンフィールドを打ち破るため‬
‭ワルターに改造を…?‬

‭次回、「Eclipse Drive, GO! 変身ベルトで大変身!」 ‬
‭届ける想いは光を超える!‬
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