【クソアニメの主人公に人格あったらどうするよ!?】魔法少女演ってます ~魔法素粒子ルミナキャスト~ …のショー!?   作:砕(サイ)

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‭「そういえばさ、ゲッシー以外にスタッフっているの?」‬

‭ 荷造りを行いながら、タブレットをいじるゲッシーに対して、‬
‭質問を投げかけるヨシノ。役者、と言うことであれば、‬
‭ムジカントムや蛙の骨董屋など、魔法素粒子界の住民の体で、‬
‭既に複数の者たちと出会ってはいる。しかし、例えば照明担当であったり、‬
‭撮影担当であったり。そのような存在を、ヨシノは一度も目にした事がない。‬

‭「いるよー…ただ普段は目に見えないかも」‬

‭ 地球外で業務を行なっている編集スタッフ等は別として、‬
‭確かにルミナタキオンの勇姿を地球でいうカメラを用いて、‬
‭撮影しながら宇宙に届ける担当は存在するのだと言う。‬
‭そして、彼らをケアするための福利厚生スタッフもいるのだとか。‬

‭「ケアって?」‬
‭「んー、マッサージ」‬

‭ ボディケアはあくまで一例。スタッフの食事を考えたり、‬
‭睡眠の質向上を試みたり。地球という辺境の星で、‬
‭いかに効率的に活動すべきかは相応に考慮されているようだ。‬
‭そのようなゲッシーの裏話に聞き入りつつも、‬
‭ヨシノはしゃくしゃくをカバンに詰める。‬


第9話「盛岡旅行!再会と出会い」 Aパート

 愚か者め!己が目的を見誤るな。

本当に、我々に予算を割いていいのか。

よく考えよ!

 

「う……ごめんなさい」

「何やってんのヨシノ」

 

 サービスエリアにて繰り広げられる、一人芝居。

片隅に置かれた子犬のぬいぐるみに喝を入れられ、

ヨシノは思わず首を垂れる……という妄想劇である。

土曜日の朝、ヨシノとゲッシーは高速バスに乗り、

盛岡へ向かっている最中。乗客のトイレ休憩のため、

今回乗車したバスは必ず特定のサービスエリアに停車する。

 

「このわんこがほら、何か私の意思の弱さを叱りそうだったから…」

 

 盛岡に一切ゆかりのない、ありふれたぬいぐるみ。

各地のお土産屋に置いていそうなマスコットを購入するのは、

些か悪手である。そんな購入欲とのせめぎ合いが、

人格を成してヨシノを静止したのである。

 

「どんだけぬいぐるみが好きなのさ、ヨシノは……」

 

 ハンドバッグから顔を出し、呆れ返る球体。

普段ならヨシノが向けるような冷ややかな視線を、

今回ばかりはゲッシーの側が彼女に対して投げかける。

仕方がないからとヨーデルを口ずさみながら、

バスへとUターンしようと振り返った一瞬。

ヨシノに気付かれぬよう、

カバンからスルリと抜け出したのはゲッシー。

 

「ESGじゃん!どうしたわけ?」

 

 染色した頭髪と、若々しい顔との対比が著しい、

背広姿と威厳のある表情。道の駅のアルバイト兼、

賢界(のりか)の家族の経営するグループの弁当屋。ESGの男である。

見慣れた顔との、意外な場所での遭遇。

思わず飛び出さずにはいられなかった。ノリカの頼み?

盛岡旅行への同行を拒否された彼女の代理として、

撮影やら何やらを指示されたのかと想像するが、

ESGの男の答えは違う。

 

「お前のところのテレビ局絡みだ」

 

 ルミナキャストのタイアップかな?ゲッシーも、

今回は事前に上司から伝えられている情報はさして多くなく、

突然の内容に疑問を覚える。それよりもゲッシー。

 

「うわあ!バスが発車しちゃう!」

 

 ESGへの挨拶もなしに、転がりながら一直線。

慌ててその場を去ったゲッシーに呆れ返りながらも、

バスを追いかけるように車に乗車。そのまま法定速度で突き進む。

 

「あ…ここは高速道路か」

 

 車に刻まれるは若葉の紋章。

懐に隠すは取りたての普通自動車免許。

付け焼き刃の地球の交通知識をもってして、

アクセルを踏みつけ、時速100km/hで突き進む。

その速度感に怯え、震えながら。

 

 

「うわー…すごいおっきいビル」

 

 岩手県盛岡市へ、高速バスで一直線。

駅のバスターミナルに一人と一匹。

ハンドバッグにゲッシーを詰め込んだヨシノは、

周囲の建築物に圧倒されるばかり。

 

「これで仙台の方が都会って…想像できないかも」

 

 これもまた、都会としては遥か序の口であるらしい。

地方都市の在り方にすっかり慣れたヨシノにとっては、

半ば恐怖に近い事実である。感動とも困惑ともつかない感情。

それを処理できぬ彼女を尻目にハンドバッグはボコボコと暴れまわる。

 

「とりあえず時間はまだあるんでしょ?はい、これ」

 

 ハンドバッグからゲッシーが手を伸ばす。

ヨシノが受け取ったのはチケット。マッサージ――

もとい、整体の施術を行う店舗の無料券のようである。

懸賞をコツコツ送っていた甲斐があったと、

どこからこんなものを手に入れたんだと訊ねるヨシノに対して答える。

 

「魔法のヒロインのマスコットがやるサポートが、懸賞って…」

 

 夜なべか何かをして、必死にハガキを送るか、

インターネットサイトへの応募を繰り返したとなると、

いささか世俗的すぎるのは確かである。

ヨシノが苦笑いをするのも致し方ないのかもしれない。

 

「ほらコレはさ!普通にお金で給料払えないんだし」

 

 視聴者に夢を与えるとて、無償で戦うには限界があると言うのは、

かねてから双方認識していたことである。以前、

ヨシノの父の会社のシステムを改善したように、

今度はヨシノ自身の体をケアしてあげるのが給料がわり。

 

「そういう事なら受け取らないとね」

 

 ここで快く受け取らないのはゲッシーにも失礼だよね。

ヨシノは友人と会う前の時間潰しとして、

チケット裏の案内に沿いながら、民間の整体院に足を運ぶ。

 

「あ゛あ゛~気持ぢい゛い゛」

 

 背筋が刺激されて、ヨシノはたいそう汚らしい恍惚の声を上げる。

多層的に疲労感を積み上げていた彼女が、この革新的なまでの解放感を体験したら、

取り繕った綺麗さなど維持できないといったところか。

広背筋を起点に、腰、四肢も刺激され、ヨシノの脳に快感の信号が走る。

まるで四本、六本、八本の腕で同時に体をほぐされているような、

そんな満足感があった。

 

「地球人の筋肉構造ってこれでいいんだっけ…」

 

 スタッフじゃねーか!ヨシノは急に割り込んだ施術者の独り言に、

心のオーディオミキサーを思わず最大音量にする。

わざわざ地球人の筋肉を知らないとまで言い出した以上、

人の皮を被っただけで真の姿は全く別のフォルムをしているかもしれない。

女子中学生が無料で整体を受けられる言うまたとない機会であったものの、

さっきまでとは一転、途端に不安になる。

 

「ちょっと発言には気をつけてよ!ヨシノが驚いてるじゃないか」

 

 やっぱりスタッフじゃねーか!

ボールのように転がり込んできたゲッシーの介入に対して、

今度は己が腹と声帯の音量を直接上げる。

そんなヨシノに向けてゲッシーが言うには、

この整体師らルミナキャストの福利厚生担当でもなんでもなく、

彼女の言う「スタッフ」は誤り。これは宇宙における整体従事者のロケ。

未知の人種にも対応可能という、PRの撮影を行なっていたらしい。

腕は確かだから安心してほしい、とヨシノに断るものの、

最初から言いなさいよ!と彼女は返す。バレてしまえば。

二人のやり取りを見ていた整体師の姿が、一本の腕が左右についた、

ホモ・サピエンスの姿から乖離していく。突如、新たな腕が生え始め、

肩を軸に四本ずつ、計八本の腕に。

 

「こう言うのは地球ではタコと言うんでしたっけ」

 

 冗談を交えながら自分の身体的特徴を語る宇宙整体師の姿に、

ヨシノは顎が外れるほど口を開く。ご安心してください、

と言わんばかりに整体師は彼女の右掌の筋肉と神経を揉みほぐし、

再度リラクゼーションの世界に没入させる。あ゛あ゛~。

 

 

「あの整体師さん、どっちかって言うとイカだよね」

 

 わざわざ自身をタコに喩えた八本腕の宇宙整体師。

すっかり体をリフレッシュさせたヨシノは、

集合場所の駅構内に向かうために駅前のショップ群を歩きながら、

無礼にも体をほぐした恩人に茶々を入れていた。確かに、

足を加えたら十本の肢(てあし)があることとなる。

 

「地球人から見た多肢の知的生命体って言うのは意外と多いんだよ」

 

 ヨシノ自身、失礼すぎたかな?と気まずくなる軽口に対しても、

この程度はマクロな視点では失礼にすら当たらないよ、

とでも言わんばかりに受け流すゲッシー。

中には37兆から60兆の間ほどの腕の数の宇宙人もいるよ、と付け加えながら。

 

「いや想像できんわ!」

 

ヨシノが思わずゲッシーの秘匿を忘れてしまうほどに声を張るも、

地球の人間の細胞もそれくらいの数って聞いたけどなあ、

と肝心のゲッシーの方はあっけからん。そんなやり取りを交えつつ、

さすがに細胞と腕には差がないか、と思考を巡らす直前。

思い切りブレーキを踏んだかのようにヨシノは急停止。

 

「え、ちょっと待ってゲッシー…ルミナキャスト以外にも番組撮影やってるの?」

「あ…マジか」

 

 こっちがマジかだよ!ゲッシーのあまりに無責任な発言に、

再びヨシノは叫ぶ。下手したらこの盛岡市、

あるいは他の都市や町村などもヨシノの地元のように、

何らかの介入を受けている可能性すらあるという事になる。

宇宙のテレビクルーがふざけた真似をしていないことを祈りつつも。

 

「あ!ヨシノ!何十年ぶり!?」

 

 ヨシノにとって聞き覚えのある声が響く。誰?と言う表情で、

ハンドバッグに隠れつつ、聞いたことのない声と顔に不思議がるゲッシー。

ふた呼吸ほど置いて、この子が転校した同級生か!と、心の豆電球を点灯させる。

 

「数ヶ月しか経ってないわ!」

 

 宇宙でも「ひらめいた」の感情表現に豆電球を使うのか……と、

怪訝な顔でゲッシーの心に一瞬介入するヨシノ。

しかし、今はそれよりも部活仲間と再会した方が大事。

久しぶりに聞く友人の生の声に、満面の笑みを浮かべる。

ついでに、友人のふざけた冗談にツッコミを吐きながら。

 

「なんだか凄く元気そう」

 

 ほぐしたての軽やかな関節。動かす足もキレがある。

春先に会えなくなった友人、ヨシノの元気そうな様子に、

阿保(あぼ)あかりもたいそう嬉しそうである。

 

 

「ほらヨシノヨシノ!ここの本屋!」

 

 駅ビル構内。

走ると言うにはあまりに落ち着いた歩幅ながら、

ヨシノとあかりは目的地を捉えて、一直線に突き進む。

何も、本を購入するわけではない。

岩手にまつわるぬいぐるみのマスコットが、

丁度ここで販売しているというのである。

 

「うおー、かっぱ!」

 

 きゅうりを愛おしそうに抱えた、緑色のフォルム。

並べたらしっくり来そう。自身の持つハムスターのぬいぐるみ、

しゃくしゃくと一緒に飾りたいというヨシノの情熱が刺激される。

いいでしょう?自慢げにあかりは微笑み、

私はもうそっちの河童(かっぱ)は持っているからと、

色違いのぬいぐるみを手に取り、一緒にレジに向かう。

 

「いや~、いいですね、キャッシュレス」

「どんな反応?ヨシノ」

 

 地元ではまだまだ現金対応専用の店舗も多いことを思い出しつつ、

ヨシノはスマートフォンの画面をかざして会計を行い、ご満悦。

そのような部分で盛岡に来たことを堪能するのはいかがなものか。

いやいや!それがいいんだよ。と、あかりの疑問にも軽やかに返しつつ、

ヨシノは新たなパートナーをハンドバッグに入れる。

 

「ちょっ……動かないで」

「あかり?」

 

 いやいや!何でもないよと、今度はあかりの方が咄嗟に応える。

突然放たれたあかりの独り言。まさか、以前のしゃくしゃくのように、

勝手にかっぱのぬいぐるみが動き出したのだろうか。そう咄嗟に身構えつつも、

今日買ったばかりのぬいぐるみが知己のように振舞うわけがないかと、

ヨシノは自身の番組(ルミナキャスト)脳を反省し、緊張を解く。

 

「念の為だけど、僕らがモリオカに来た目的、忘れないでね」

「今言わんでいい!」

 

 手番(ターン)制のゲームか。ハンドバッグの中のゲッシーの唐突な釘刺し。

今は少し空気を読めとヨシノが軽く喝を入れつつ、

彼女の掌で軽く叩《はた》かれた手提げの中、ぐえっ!とゲッシーは声をあげる。

以前もこんなやりとりがあったなと回想しつつも、

この不可解な挙動はタブレットの通知であると、なんとか誤魔化す。

 

「うわっ!ごめん、ちょっと用事できたから待ってて」

 

 唐突な一言。最後はあかりの方が走り去り、

ヨシノは置いてけぼりに。いったい何があったと言うのか。

その隙を見て、いかにもハムスターのぬいぐるみです、

と言わんばかりに、ゲッシーは盛岡の駅ビルの店内を見回す。

 

「明日、レンタルショップのストレージでカードを見つける」

 

 それが僕たちの第一の使命。魔法素粒子界の使者・ゲッシーとして、

陳列されたマスコットの造形に、ガンをつけ威圧しながらも再確認をする。

いちいちぬいぐるみのかわいらしさに嫉妬をするな。

カバンの中に押し込むことで、言わずともその意思表示を行うヨシノ。

短いやり取りではあったが、そうしている内にあかりが先ほどの路を逆走し、

此方へ帰って来る。

 

「いや~……ちょっと銀河鉄道に用があって」

「銀河鉄道!?」

 

 どうと言うことはない。空の向こうまで、

カムパネルラを連れていくような列車が走っているわけではなく、

あくまで岩手県で走る路線の一つである。

あかり曰く、盛岡の友達が預かっていた忘れ物を、

該当する路線のホーム付近で受け取った、

とのことで、隠し事は何もないと強調する。

 

「すごい汗だけど……大丈夫?あかり」

 

 息も絶え絶え。余程急いで用事を済ませたのか、

はたまた冷や汗をかくような事情でもあったのか。

何はともあれ、このままの状態でいるのも。

特別、プランを固めていなかった二名は、そのままビルを背にして、

市内を走る路線へ乗車。隣の駅まで着いたのち、

そのまま歩いた目的地は、町に陣取る温泉施設。

 

「ここって、結構若いお客さんも多いんだよ」

「へー……なんか意外かも」

 

 ヨシノの住む地方都市では、たまに家族と銭湯に行っても、

周りの客は専ら中高年。ヨシノとあかりがわざわざこんなやり取りをするのも、

どうにも先入観とのギャップがあるからである。

数階建ての外観、というのも地元じゃ見たことないかも。

そんな事を考えながら、ひとまず休憩をすることにする。

 

「じゃーん」

 

 ひと風呂を終え、館内着を身に纏ったヨシノとあかり。

そんな中、あかりが用意したのは碁盤である。こと、

対面においては久しぶりの対局。囲碁部同士。

コミュニケーションの手段は、何も会話に留まらない。

 

「なんか、入りやすくてすごいいい感じだったかも」

 

 無言で碁石を運ぶのを繰り返していく中、

最初に言葉を発したのはヨシノの方である。特に、

地元の温泉は温度が高い。それと比較すれば、

相当に優しい入り心地であると、体を温めたヨシノは考える。

 

「そうかもね……盛岡の方が立派ではあるかも」

 

 ヨシノの碁石を取りつつも、あかりもヨシノの感想に理解を示す。

普段使いの銭湯としては、値段も手ごろで、

日常の延長にあった、かつて住んでた地の温泉の方が安心はするが、

レジャーと言う観点においては、炭酸泉や壺湯、

電気風呂などが充実しており、設備も目新しい盛岡の温泉は見逃せない。

 

「他のところも行ったりしたんだけど、結構いいところだよ、盛岡のお風呂」

 

 盛岡の市内の温泉施設は、ヨシノと地元と比較して、

日常よりも非日常的な雰囲気に近い、というのは共通項のようである。

そんなやり取りの中、一局を終え、折り畳み式の碁盤を片付けつつ、

せっかく色々あるんだからと、棚から取り出したのは漫画本(コミックス)。

 

‭「うわ〜!やばいやばいやばい!‬

 ‭これ絶対負けるって!‬

 ‭こんな技食らったら立ってられないっしょ!‬

‭ 体を巡回する鉱力(ジェム)を‬起爆させて

 爆発を起こす技なんでしょ!?

‭ 無理無理無理無理!!死ぬ〜」‬

 

 ‭これら全て、‬

‭実際には口に出してはいない。‬

‭ヨシノの心の歓声である。‬

 

‭「よかったああああ……!‬まさか一回自分から死んで、

 攻撃のタイミングをずらした上で、事前に仕込んだ技で

 心臓マッサージをして回避するなんて、すごすぎるよ……!」

 

 無論、これらもすべて、‭実際には口に出してはいない。‬

‭ヨシノの心の歓声である。‬コロコロ変わる表情。

自分が手に取った漫画よりも、その顔面実況の方が面白いと判断したのか。

あかりも目を丸くし、驚きつつもその表情に魅入っている。

 

「ヤバッ、恥ずかしっ」

 

 いくらルミナタキオンとして、

自分の戦いが宇宙で放送されるヨシノとしても、

友達に自身の滑稽な姿を見せるのは、赤面をするのに十分。

そんなに面白いバトルものなら、今度は私に見せてよと、

あかりは屈託のない笑顔を見せるものの、

グチャグチャの感情を纏めるのには時間がかかる。

 

「いいじゃない、殊勝な事よ。物語にそこまで感情を働かせられるのは」

 

 突然、二者に割り込んできた聞き慣れぬ声。

顔を回した先には、ヨシノとあかりに近い背格好と、

さして遠くない年齢であろう、年若い娘。

同じ館内着をまとっているが、以前、

レンタルショップのストレージコーナーで鉢合わせた、

ゴシックドレスの少女である。

 

「でも、もうちょっと品は持った方がいいわよ、あんた」

 

名は、歌劇令嬢・エゴシック。

ヨシノはまだ、そのペルソナクスの幹部たる少女の名前を知らない。

 

「誰、知り合い?ヨシノ」

「いや、知らないけど……」

 

 ワンテンポ遅れて、眼前の少女を思い出すヨシノ。

以前、ストレージコーナーにいた、ゴシックロリータの娘である。

学校は知らないけど、たぶんウチの地元の子だよ。

そう、あかりに対して嬉しそうに語り掛けるのに対して、

館内着を身に纏った件《くだん》の少女はどこか気だるげ。

 

「もうちょっとムッとしなさいよ」

 

 初対面も同然の状況。いきなり態度を改めろなどと言われたら、

確かに面食らうだろうが、ヨシノとしても凄まじい実況を行っていたのである。

誰かから文句を言われても致し方ない部分はあるだろうと、

無意識に感じていたのだろうか。むしろ納得を優先している。

 

「まあいいわ。せっかくだし、私もあんたたちが遊んでた白黒の奴、やらせて」

 

 白黒の奴。囲碁であることは間違いないのだが、やったことがないならともかく、

こんな言い回しをする程度に囲碁を知らないなどという事、

ありえるのだろうか。ヨシノとあかりは互いの顔を見合わせ、

奇怪な発言を訝(いぶか)しむが、邪険にする必要もないと考え、

そのまま対局を行う。ルールを説明しながら。

 

「あ、碁石は面に置くんじゃなくて……線上の点、というかさ」

「は?ややこしいわね」

 

 少女は眉間に皺を寄せつつも、素直に聞き入れる。

距離の詰め方や、その態度はどこか違和感こそあれども、

同世代の女の子と共通の話題を模索する程度の協調性はあるようだ。

 

「どこの中学通ってるの?高校だったりする?」

「今は別に」

 

 複雑な事情があるのかな?ファッションなどは堂々としているが、

人付き合いの部分で悩みがあるのだろうか。ヨシノは内心考えるものの、

本人も特に負い目がなさそうな、棘はあるものの、

どこか穏やかそうな顔つきをしているのを見て、深く追求しないことにした。

 

「……よくわかんないわね、このゲーム」

 

 雪が降ったかのように、純白の盤面。

後攻のヨシノもある程度手加減したものの、

やはり全くの初心者にはハードルが高かったのか。完敗である。

こんな状況においても、意外なほど満足そうに口角を上げる少女であったが、

そのまま席を立ち、場を立ち去る。

 

「またこのゲーム、遊んでみてもいいかしら?」

「いいよ、また会ったらね」

 

 大敗を喫したとは思えないほど、威風堂々としたその背中。

唐突に割り込んだ不可解な少女に、あかりは鯉のように口を開ける。

なんか変わった子だったよね。その困惑に同意するように、

ヨシノも感想を一言述べるが、対局をする相手が地元にいない今、

心の片隅で、対局相手との再会を期待する表情はどこか柔らかい。

 

 

「オイ……ただボードゲームをやっただけか?お前は」

「いいでしょ?興味深かったわ」

 

 銭湯の外観を背にして、いつもの衣装(ドレス)を纏うはエゴシック。

連敗中のアンタが、私の行動に口出しする資格はないわよ?と、

幻影紳士・ムジカントムに釘を指すも、仮面越しにフフフと笑うのみ。

それにね、ムジカントム。

 

「人となりの分からない人間を斃しても、何も面白くないわ」

 

 エゴシックは決して、

ヨシノと仲良しこよしのお友達になりたいわけではない。

しかし、拒絶を示したいわけでもない。理解した上で、

否定したいのである。ペルソナクスの使命のため。

そして、魔法素粒子ルミナキャストという番組構造を知ってもなお、

戦い続けると誓った草之根ヨシノを打倒するため。

 

 

 

「デカイジャスコかー……あかりはいいよね、毎日行けるし」

「毎日は無理だよ」

 

 巨大ショッピングモール・デカイジャスコ。ヨシノの住環境においては、

数個隣の市町村まで車を走らせないと辿り着けない程度には非日常である。

その気になればフラッとショッピングを楽しんで帰宅する。

ヨシノにとっては神業的芸当。

 

「向こうにもデパートはあったでしょ?」

「そうなんだけどさ〜……」

 

 駅周辺に2つの大型店舗こそあれど、ヨシノの地元ではカバーできないものも確かにある。

ある種、贅沢な悩みではあるのかもしれないが、人の生活の尺度、

満足度は個人個人の内心が決めるものなのだ。そして、ハンバーガーを食べつつも。

 

「遊びに来た理由ってなんかあったりする?」

「ちょっと忙しいのが片付いたとかかな……」

 

 明日、いかにして当初の目的であるレンタルショップに行くか。

いかにしてあかりを説得するかを、ヨシノは考える。

勿論、あかりと別れてから向かってもいいのだが、月曜日の投稿に間に合うのか。

観光客としての悩みである。そんな思考を巡らせてる中。

 

「は……?」

 

 ヨシノの視線が向いているのは、レストランが並ぶ通路。

そこで飛び込んできたのは四角形。人混みの中に混じるは、人間の顔ほどのサイズの、

角ばった水晶状の物体。プカプカと浮かびながらも、歩く人々の速度に調子を合わせ、

あたかも地球の常識のように溶け込むその様は、

ショッピングモールを巡っているかのよう。

 

「何アレ……ペルソナクス!?」

「うえっ!モノリス!?なんでヨシノがいる時に!」

 

 ヨシノとあかり、顔を見合わせる二人。互い違いに言い放った、

謎のフレーズに対して、それぞれ思考を止める。

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