【クソアニメの主人公に人格あったらどうするよ!?】魔法少女演ってます ~魔法素粒子ルミナキャスト~ …のショー!? 作:砕(サイ)
「その娘、随分と若いが新人さんか?」
「似たようなものだ」
とある駅近くのホテルのパーティー会場。スーツ姿の男、フォーマルな女、
そしてハラガヘッタ。会合と言うにはあまりにも早い時間帯ではあるが、
この日、企業を背負う者たちが集い、語らう。老獪が服を着て着席するこの場に、
コントラストたりうるのは若き令嬢、エゴシック。
「アンタのためにわざわざ接待してんのよ……もうちょっとありがたがりなさい」
か細い声で、聞こえぬように耳打ちをしつつも、にこやかにラベルを示し、
経営者たちに酒を注ぐエゴシック。シニヨンの鋭い目つきの淑女が感心するように頷き、
無表情の初老の男が考え込むように黙り込む。単に、地方の上流層というだけでは足りない。
どこか怪しい経営者や資産家、権力者たちの会合。そんな領域にて、
率先して口を開き、話題を提供するのは、この場の主役たるハラガヘッタ。
「ところで、お前たちの業界で売った方がいい株があるか教えてはくれないか」
マジか。突如インサイダー取引が始まる。いくら悪の組織とはいえ、
同僚がノーモーションで他業界の未公開スキャンダルとそのリーク、
公表タイミングの情報収集を行い、それをビジネスの材料にし出すと言う絵面には、
彼女も注いだ酒を溢れさせるほどに思考を乱してしまう。
とはいえ、現状ペルソナクスの人財が足りているわけではない。
元より世界の上書きを望む、と言うのが破滅劇団のモットーなのだから。
ここで波風立てるわけには行かぬと己に言い聞かせ、エゴシックは接待に戻る。
知らぬ間にハラガヘッタが逮捕されてなければいいが。
「こんな姿を見たら……ルミナキャストもきっと絶望するわね」
少なくとも、悪の令嬢と、その同僚が示すべきシチュエーションでは決してない。
自身の置かれる状況に、エゴシックは惨めさを覚える。しかし、
彼女はまだ、草之根ヨシノは更なる文脈の崩壊の濁流を浴びている事を知らない。
サッカー部員がその足で叩き込むボールの雨は、さながら機関銃。
威力と速度の伴ったシュートが止め処なく放たれる状況に、
タキオンも次の一手を見いだせない。
「おいおい……睨むだけでいいのかよ」
速さと重さ、そして個数。拘束するかのように飛び交うサッカーボールの散弾銃が、
タキオンを攻め続ける。スポーツマンシップに則らない暴力的なまでの悪意の宣誓。
タキオンリジェクトで防御するのもままならない状況下。トラップ、ヘディング、
シュートを駆使して、タキオンはボールを捌き続ける。
「そんなんじゃトラップにもなんないよ?無駄にハンドは避けてるみたいだけどな、魔法少女さんよ」
もっとちゃんと受け止めたらどうだと言う、少年の軽薄な挑発に対し、
不適な笑みで彼女は応じる。サッカーならサッカーの流儀に多少は応えないとね。
じゃあ腕以外で受け止めなきゃ、と。それが草之根ヨシノ──ルミナタキオンである。
それも束の間。
「眩しっ!?」
突如、割り込むのは光。タキオンすら目を覆わざるを得ないほどの閃光が、
視界を奪い取る。これはチャンスである。なんらかの騙し討ちによる目眩し。
これを使うのは、現状のボールだけでは戦局が変わらないと相手も判断した証拠。
ならば、真っ直ぐ突き進む。タキオンはそのまま、
怯むべき一瞬すら置き去りにして、見えぬ視界ですぐさま体当たりを行った。
「しまっ……このタイミングで突っ込む奴があるか!!」
タキオンの目論見は見事大当り。弾き飛ばした質感が、
ジタバタと悶える音を立て、見えずとも状況を教えてくれる。
蘇った視覚で最初に目の当たりにしたのは、ライトの付いたスマートフォン。
目が慣れてもなお、改造を施さないと再現は不可能な、異常な光量の電灯。
そして、その傍らでサッカー部員が横たわりながら、動揺を振り回すジェスチャーで示す。
「消火器がふたつ……?」
タキオンが思わず呟く。虚な瞳のサッカー部員の横で転がる消火器と、
なんの変哲もなく所定の位置に収まる消火器。まるで、
増殖したかのように。増えるサッカーボール。圧縮したかのような胴体。
通常の何倍もの光量のスマートフォン。消火器。
「"数値"を増やす能力……!?」
「しまっ……!」
タキオンの呟きに、思わず焦りを零すサッカー部員。
彼の能力は、単なるサッカーボールを増やす力ではない。
「事象」の数値をコントロールする、「プログラミング」である。
その直後、タキオンは自分の骨が軋み、それ以上に足元が床を突き破り、
めり込んでいくことに気付く。
「沈みな!!」
サッカー部員は自身の質量を倍増させたのだと、タキオンは確信する。
この膨大な質量をまともに相手にしたら、間違いなく全身の骨が砕け散る。
サッカー部員がツボ押しで言う
定まらなかった焦点が、光こそ無けれど活力を取り戻す。まるで、
先程は視力をゼロにしたことで
「(もしかして……)」
ルミナタキオンは砕けそうな体をなんとか動かし、ルミナステッキをその額にかざす。
どこか頭を撫で回され、音にならない音がその脳裏で鳴る感触を覚えつつも、
サッカー部員はシュートのフォームで足元のボールを蹴り込もうとする。その瞬間。
「ルミナライトアップ!!」
背後から、熱と痛覚が自身を襲うこの感触。サッカー部員が振り向きざまに見たのは、
ルミナタキオンその人。背後には、何十倍もの重力を付与し、
潰れそうな彼女がいるのにも関わらずである。能力が解けたのか、
軽やかに突進する背後のタキオンが、前方のタキオンとともに、
サッカー部員の首筋にラリアットを叩き込む。勿論、手加減も込みで。
「ス……スワンプマンかよ……」
「"ガール"ね」
もう一人のタキオンが掻き消える事こそが、サッカー部員の敗北を物語る。
ルミナタキオンが行ったのは、「心の音」との対話を図る「ルミナテレパス」。
彼の心に語りかける事で、サッカー部員の注意を「サッカーボール」から、
「ルミナタキオン」に逸せ、増殖能力の対象を自分自身としたのである。
「あれ……元の姿に戻ってる」
いつの間に。
ルミナタキオンの姿から、草之根ヨシノの姿に戻っていることに彼女は気付く。
連戦の疲れが祟ったのか。体への負担を漠然と考えつつ、目についたのは教室の扉。
無人。誰の席かも分からない椅子に腰掛けつつも、
弱々しく震える自分の足を、他人事のように眺める。
「こんなところにいたのか!ヨシノ!!」
そんなヨシノの胸に飛び込んできたのは二足歩行のハムスター。
普段ならば無茶を投げ込むこのゲッシーも、そのまま抱きしめてしまう程度には愛おしい。
裏生徒会と戦わざるを得ない状況に持ち込んだのはむしろゲッシーであるのを、
ヨシノも少しばかり忘れる程度には。
「ゲッシーも裏生徒会や操られた生徒から逃げてたのか」
「さすがにビビったよ……これどう収拾つけるんだろう」
聞くな。ゲッシーが知らない以上、ヨシノは更に知る由もないのである。
そして、知る由がないと言うことは──熱を失ったその血流が、
ヨシノの肌を青く染め上げる。それはつまり、裏生徒会を倒しても、
エクステンド使いなる未知の能力者と戦う流れを延々続ける可能性すらあるのだ。
「ゲッシー!!どうするのさ!!」
飛んできた怒号をゲッシーはその視線で受け流し。
その逸らした目線が弾いた叫びが教室の扉へと届き。
その刺激に呼応するかのように、現れた何者かが扉を開き。
物陰に隠れるゲッシーと入れ替わるように現れたのは、
ヨシノにとって馴染みのある顔。
「ヨシノ!!大丈夫だった!?」
「凪!?」
疲弊しきったその足が、思考よりも先に凪に駆け寄っていたこと。
抱きしめ、凪と寄せ合ったその
一方の凪も、この状況になんとか逃げ仰せようとしていたのか。
その疲弊と恐怖を、汗ばんだ手足と
「なんとか逃げてきたけど……なんなん、あの裏生徒会って」
「大丈夫だよ凪。私が守る」
守る?予想外の言葉だったか、凪は少し不思議そうにヨシノの顔を覗く。
それでもなお、普段ほどの元気はないのか。凪の顔付きは、少しばかり頼りない。
思わずタキオン目線の決意を口走った事に慌てようとしたヨシノの思考も、
まず先に、大事な友達の弱々しさの方に注意が向かう。
「女の敵は女……などとは言うが」
突如。凪の声でもない。ゲッシーの声でもない。
仲のいい君たちに言うことではないかもしれんと前置きする、教室の外から聞こえる低音。
鳴り響く足音と声変わり途中の少年の声こそが、侵入者の存在を示すアラート。
「男は男で、男同士で足を引っ張りあったり、女が味方をしてくれるわけでもないなと、薄々と感じる」
凪が入ってきた扉とは逆方向。
振り向き様に見たのは、黒々とした短髪にメガネをかけた容姿。
細身の長身に白い学生服。まさしく、裏生徒会のファッションである。
「結局のところ、人間は敵だらけなんだろう。表計算ソフトの分類分けのように区別しなくとも」
その傍らに携えるのはノートパソコン。メガネの少年は、
ヨシノが割り込む暇もなく、己が諦観を述べ続ける。
「ところで……君たちは『敵』扱いしても良さそうだな。女だから、と言うわけではないが」
ヨシノと凪の反応を待つまでもなく、ノートパソコンを小説は開く。
次の瞬間。体が一切動かないことに二人は気付く。
溜息をつき、心底不愉快そうな表情で、裏生徒会の少年は次の言葉を述べる。
「本来、能力を語るのはやめておきたいが……俺の能力は『ラベリング』。
これはすなわち、特定のターゲットに何らかの効果を付与するもの。
能力の対象は、『裏生徒会に属さない、この学校に名簿のある生徒』
そして、その効果は『拘束』。痛めつけはしない。逃しもしないが」
裏生徒会への屈服の意を示さないのであれば、そのまま乾いてゆけ。
わざわざ能力を開示したのは、そんな降伏を促すためなのか。
そして、メガネの裏生徒会は、この学校のどこまでこの能力を展開できるのか。
動けない体で、ヨシノは考える。
「ふざけるな!!解きなよ!!」
幸いにも声は出るのか。考えるヨシノの隣で、凪は怒号を浴びせる。
一方のメガネの少年も、凪の威勢の良さに怯えた表情で眉間に皺を寄せる。いやビビるな!
このメガネの裏生徒会が気の強い女子生徒にビビるメンタリティだとしても、
今この場で思わずツッコミを入れる余裕がヨシノあったとしても、
裏生徒会の方が圧倒的に有利な条件なのは変わりない。
既にサッカー部員は操られ、
凪もそうなったら?ヨシノの答えはただ一つ。
「ゲッシー。出てきて。私の体、動かせる?」
「げっしー……?」
思わず復唱する凪と、第三者の可能性に険しさを帯びる裏生徒会の表情。
ヨシノの目論見を察したのか。申し訳なさそうに現れたゲッシーが、
校内見学に来て、年上の学生に怖気付く子供のようにお辞儀をしつつ、
ヨシノの手に触れるものの、ビクともしない。
「無理だ……その代わりに、ルミナスコープは開けるよ」
未知の生物に呆気に取られる凪と裏生徒会を他所に。
パーティ会場には到底行けない、その代わりに戦場で舞える機能的なフリルドレス。
まるでテレビから飛び出したようなヒロインの衣装。
その頭髪と瞳を光り輝かせる、裏生徒会以上に非日常のその姿。
「ヨシノ……?」
「うん。『ルミナタキオン』だけど」
あれほど正体を秘匿したがっていたはずのルミナタキオンに、
凪の眼前でヨシノが至ったこと。そのデフォルメチックの四肢においては、
何処にあるかも分からない膝から崩れ落ちるゲッシーを背にして、
そのままゆっくりと歩き出し、構えるはルミナステッキ。
「ルミナタキオンなんて生徒は、この学校にはいないよ」
「存在が書き変わったのか……!!」
次の瞬間。メガネの少年の
出力を弱めたルミナライトアップ。少年はそのまま吹き飛び、
先程まで一時停止状態だった凪の体は、再生ボタンを押したかのように動き出し、
そのまま膝をつく。能力が解除されたのだ。ちなみに、メガネとノートパソコンは、
タキオンが綺麗に避けたのか無傷。お高いからね。
「ヨシノも……エクステンド使いってやつ?」
「違うよ。なんて言えばいいのかな……?スーパーヒロイン?」
ヨシノはルミナタキオンの姿のまま、凪と語らう。
大事な人を守れない力なんて意味がない。ヨシノの中には、
凪を見捨ててまでルミナキャストの存在を隠すなどという選択肢は最初から存在しなかった。
裏生徒会ニ挑ミシハ
魔法素粒子界ノ使者タル者
草之根ヨシノ
ルミナタキオン
ソシテ
「えくすてんど」
至リシは
裏生徒会ダケニアラズ
次回、魔法素粒子ルミナキャスト、第11話。
「我ラ裏生徒会ナリ 其之弐 至ル力ハえくすてんど」