【クソアニメの主人公に人格あったらどうするよ!?】魔法少女演ってます ~魔法素粒子ルミナキャスト~ …のショー!? 作:砕(サイ)
盛岡旅行、楽しかったなー……。
今度の夏休み、北上とか花巻とかにも行こうってあかりに言われたけど、
ペルソナクスはもちろん、あかりの方のモノリスの邪魔も入ったら嫌だな……。
だけど、二人揃ったら百人力!ルミナタキオンと、スターゲイザー。
私たちなら、足し算じゃなくて掛け算のパワーアップだから!!
「は、何これ」
「裏生徒会編は視聴者からの評判が悪かったから無かったことになったというか……」
困惑すら通り越したヨシノと、申し訳なさそうに語るゲッシーのコントラストが、
空虚がなんたるかを物語る。
「バカ!!!!!!!!!!」
ヨシノの怒号の勢いも、裏生徒会のテコ入れが発覚した時以上である。そりゃそうだ。
「やばい!魔法素粒子界から監査が来る!」
「へ?監査?」
慌てふためく素振りで、転げ、暴れ回る動きをするゲッシー。
このようなオーバーリアクションをするとて、どこか感情は乗っていない。
なにぶん、そう言った「設定」に過ぎぬのだから。
「僕って魔法素粒子界の錬金物理学の教授の助手、弟子らしいんだよね……」
「何が『らしい』じゃ!」
曖昧な返事をするな!本来ならばこの特大サイズのハムスターは、
ルミナキャストの世界とその外側の撮影現場において、
ヨシノを導く立場であるはず。ヨシノがゲッシーに求めるのは、
没入に専念する行為と親切さ。それがとうの本人は「らしい」で済ませるという、
番組とゲッシーの連携のチグハグさに呆れ返るばかりである。
「その監査の人ってあの、わんこのゲッシーの師匠?」
「それが、違うんだよ……」
師匠といえば、以前から度々タブレットで通信を行なっていた犬の老紳士。
ルミナボックスの提供など、ヨシノ達のサポートを行っていた人物、
あるいは犬である。
と言うのを、直接ヨシノの世界に訪れて見守ると言うわけではないらしい。
「前に、ヨシノが骨董屋さんから聞いたって言う話の続きなんだけど」
錬金術のような前史的な科学と、ルネサンス的な芸術。
それら二つをそのまま維持しつつ、21世紀の地球をはるか凌駕する、
独自の文明を得た異世界。それが魔法素粒子界である。
しかし、倫理までもが正しく進化し、凌駕しているわけではない。
「ペルソナクスを誰が倒すか、で揉めていてさ……」
「内ゲバ!?」
破滅劇団ペルソナクスは魔法素粒子界においてもワルターを行使し、
様々な被害を与えていく、まさしく危険因子である。当然、
ペルソナクスを壊滅、あるいは無力化させるのが目下の課題なのだが、
司法、行政、研究機関、企業、はたまた配信者までもが、
我先にと手柄を求め、足並みが揃っていない。
「ペルソナクスとは別の悪者が来たら大変だからね」
魔法素粒子界でゲッシーが属する大学が最初にペルソナクスの居所を探し当て、
その上で余計ないざこざを避けるため。今回、ゲッシーの元に訪れるのは、
彼の大学に所属する別の研究者であるらしい。
「って設定なんだよね……」
「いちいちやかましいわ!」
そんな事は言わなくても分かっている。いくらお芝居だからと言って、
そう言う気の使い方はしなくていいわい!思わずひっくり返りつつも。
このような会話を交わした後、通学路を歩くヨシノであるが、珍しく、
教室よりも早く
緩んだ表情。何かいいことがあったのかとヨシノが挨拶がわりに質問するなら、
「昨日の夜……すごく面白いトーク参加したの」
と笑顔で答える賢界。曰く、とある脚本家による配信フォーラムがあり、
その中で、リスナーたる賢界が自分の興味関心をぶつけるような機会が。
思いの丈を語り、大いに沸かせた……という流れを聞き、
ヨシノは何気なく相槌の声を出す。へー……脚本家。
「ルミナキャストのじゃないよね!?」
「えっ、そうよ」
血相を変えるヨシノに、平然と受け流す賢界のコントラスト。
ふたらの空間のカラーを一気に塗り替えるほどの緊張が走るものの、
賢界もさすがにイーヴィルの件はバツが悪かったのか、
今回は本当にただの雑談だったわよと、ヨシノに対してのフォローは欠かさない。
「ただヨシノさんの怪人体があったら見てみたいわ……とか言っただけよ」
「何が目的!?」
それは番組が違うのではないだろうか。少なくとも、
それはルミナキャストの文脈ではないと確信しつつも、
戦々恐々の足取りでヨシノは通学路を歩く。変わらぬ笑顔の賢界と一緒に。
「ヨシノさんなら、どんな困難でも乗り越えられるもの」
「だからって困難を付け足そうとせんでいい!!」
騒がしく掛け合う二人の背中。それを睨むは一人の少女。
まさしく、エゴシックその人である。揺らぐ眉間。震える瞼。
どこか嫌悪の視線が睨む先は何処へ。一通り睨んで満足したのか、
その場を去るように振り向いた
同じく、少女二人の背中を睨むロングコート──もとい、
金の刺繍と赤いエナメルコーティングの白衣を纏った、研究者風の男。
「魔法素粒子界の回し者?」
「まるで『我々は魔法素粒子界の枠組みに交れません』かのような言葉だな」
疑う余地もなく。険悪に牽制し合う、異界の男女。まさしく。
エゴシックと対峙するこの男こそ、魔法素粒子界の大学の研究者。
登場人物としてのゲッシーの同胞とでも言うべき存在である。
「あんたはルミナキャストの味方でしょ?もう少し優しく見守ってあげたらどうかしら」
最初に釘を刺すのは、意外にも、
一方の研究者の男は、意にも介さず。変わらず、ヨシノが通った道を睨むのみである。
敵対関係にある者に礼儀を払う必要もない。そう主張するかのように、
横から手を伸ばし、紫電の力場を掌に作り出すエゴシックすら研究者にとって眼中にはなし。
「草之根ヨシノ……ワルター・オリジンよ」
「は?」
研究者の一言に、エゴシックは思わず声を出す。
困惑と言うよりは、唐突な
:
:
:
授業中。特に何をするでもなく、教師の話を聞き、黒板の文字を書き写し、
見直した時に役立ちそうな補足を書き綴る、ヨシノの日常風景。
先生に当てられたら困るな。人間への憎しみが限界に来たら困るな。
頭の中でぼやきながらも、裏生徒会のようなノイズもなく、平穏な日常を享受する。
憎しみ?
「三鳥さん、本当に何もやってないよね!?」
「本当よ……配信でコメントをしただけだもの」
私の中の黒き心を表に出させないよね。
賢界の潔白をイマイチ信じられないヨシノの立場としては、
疑わざるを得ないのは確かである。当の賢界は、
むしろヨシノに違和感を覚えている素振りを見せるのだが。
「黒き心……?」
「やばっまた変なこと口走っちゃった!」
普段の自分の言動ではないことを、さすがのヨシノも自覚している。そして、
賢界の困った表情を見る限り、本当に介入はしていないのだろう。
ヨシノはひとまず彼女への疑念を捨て、この違和感とどう向き合うか考えることにした。
:
:
:
「精が出るな。屍肉を喰らう外道たる魔物──ゲッシーよ」
「うわっ!なに人の家に勝手に上がっているのさ!!」
タブレットのライトを用いて、レーザープリンターか何かのように、
郵便ハガキに文字情報を転写する、さりげなく魔法素粒子界の技術を示すゲッシー。
懸賞応募用のハガキを書き記してる最中のゲッシーの前に現れたのは、
エゴシックと対峙した研究者の男。まさしく魔法素粒子界の監査員である。
「魔法素粒子界の使者ともあろう者が……すっかり地球の文化にかぶれてしまったようだな」
そう吐き捨てつつも、監査員は正座で着席。万年筆を使いつつ、
同じ宛名を明瞭な日本語で書き記す。間違いなく魔法素粒子界の文化ではない。
どのようにして監査員がヨシノの部屋まで入って来たのか。
そのような疑問すら気にする隙も与えず。唐突に日常に割り込んできた監査員は、
「本題」をゲッシーに叩き込む。
「草之根ヨシノは、実は一度命を落としていたことを知っているか?」
「は!?」
ゲッシーすら知らないヨシノの真実。驚くのも当然。
何せ、そんな事実は存在しないのだから。
およそ3年ほど前の話である。草之根ヨシノは両親に連れられ、
交通事故に遭い病院に搬送。驚くことに外傷はなく、
数時間意識を喪っていたに過ぎなかったが、実はこの時の自家用車により即死。
これが草之根ヨシノの最期である。
「ワルター・オリジンとは『生』の替わりに、『死』が人を動かすもの……」
本来喪うはずの命は、その死を拒んだ。しかし、魂は不可逆である。
人間としての生を終えたのち、ヨシノの影は彼女自身として、その体に入り込んだ。
動かざる心臓を動かし、思考を持たぬ脳を働かせ、元の草之根ヨシノを演じ続ける。
元の彼女とは、心も記憶も連続していない、決して相容れぬ別の存在でありながら。
「草之根ヨシノの傍らには、いつも影が無かっただろう?」
「あったけど」
そう言う時は番組の調子に合わせろ。監査員の男・プラティノが激しくゲッシーを睨むが、
ヨシノが圧をかける時とは訳が違う。普段とは逆で、
睨む側が
なりふり構わずタブレットを開き、検索をかけようとする直前。
ゲッシーは突如、脚本担当から届いた通知で確信する。
◆地球人のスポンサーから
「ルミナタキオンの怪人体が見たい」
と要望があり
今回の展開に導入いたしました
ウチの番組の首を握られてますし……
「ノリカ!!!!!!」
先にネタバラシをするならば。賢界は本当に、
「ヨシノが怪物の姿になるような闇を抱えても、それを乗り越える姿を見たい」
などと恐ろしく強烈な妄想を思いの丈として述べただけ。
圧力というのは脚本家の勘違いである。しかしながら、そのスポンサーが圧倒的な財力を持ち、
実際に現場に介入し、コントロールした過去があるとしよう。
このような致命的なすれ違いは起こり得るのではないだろうか。
:
:
:
「いやー……楽しみだなあ秋田旅行」
「つっても能代に行くだけって言うじゃん」
昼休みに出会す、ヨシノと凪。先程脳裏に走ったノイズを忘れて、
今は友に話したプランに浮かれるのに夢中な様子。何かと言えば、
もう少ししたら、秋田・山田空港にて、配信者オヤマダのイベントが開催されるのである。
盛岡旅行とは別に、前々から家族で観光がてらドライブに行こうと計画をしていたのだ。
「仲いいなーヨシノん家は」
「凪の家だってそんな仲悪くないでしょ」
父親の仕事が忙しいのもあってか、5年前に県外旅行に行ったきり、
長期の宿泊という経験はなかったヨシノ。今回は日帰りのドライブの予定ではあるが、
家族と一緒に遠出をするのも悪くはない。この心が擦り切れる前に、
草之根ヨシノの意思が潰える前に、思い出を作らなきゃ。
「またヤバいノイズが……」
「電波悪いん?」
思考を乗っ取る謎の意識が介入する、この奇怪な状況。
たまたまスマートフォンを開いていたから助かったものの、
いつこの意識がトラブルを巻き起こすか知れたものではない。
自身のスマホキャリアを引き合いに出して誤魔化すものの、ヨシノの気は休まらない。
「さすがにこればかりはヨシノに伝えた方がいいな……」
街中の昼光を横切るように、サッカーボール大のハムスターが疾走する。
今回に限ってはアドリブでヨシノに対応してもらおうとは思えない。
ゲッシーの直感が、駆ける己が体に鞭打つように訴えかける。
「……行ったか」
監査員・プラティノは今もなお、ヨシノの部屋で懸賞の宛名を書き続ける。
祈るように、あるいはこれから起こる惨劇を嘲笑うように。
せめてもの手向けが、これから当たるかもしれない賞品であると主張するように。
一通り作業を終えた後、立ち上がろうとしたその瞬間。
「まずい……草之根ヨシノの親族か!」
扉が開く音に、プラティノは四肢を振り回し、カニのように横方向に右往左往する。
しかし、そこはゲッシーを監査しに来た男。窓の隙間に気付くと、
慌てるそぶりも止め、すかさず吸い込まれるように器用に潜り込む。
そこから窓の外からポンと飛び出し、口から血を噴き出すこの男の放った奥義。
「プラティノドリフト……」
余談ではあるが、ゲッシードリフトはゲッシー──
ゲッシー役の宇宙ハムスターの種族独自の技術に、
作劇上の固有名詞を引用したものである。プラティノドリフトはそれから更に、
ハムスターの動きをラーニングした完全なるフィクションの技、番組上の誇張となる。
「死を克服する力、ワルター・オリジン……そして、ルミナストーン」
ペルソナクスが産み出す、魔法素粒子界に現れた未知の敵・ワルター。
必然な材料と資源が減りつつある魔法素粒子界では精製が困難な、
賢者の石・ルミナストーン。その二つの力に連なる、草之根ヨシノ。
ルミナキャストの活躍を待つ必要はない。
「私がワルター・オリジンの力を得て、ペルソナクスを打倒する」
表情を変えなかったプラティノは不敵に笑う。監査員として、
この物質界に来た理由。ゲッシーとルミナタキオンなど、眼中になし。
目的はただ一つ。圧倒的な力である。
「フフフ……その花は『ばら』と言うのか」
「は……はい」
街角の花屋。薔薇を知らないような者がいるのは想定外だったのか、
店主も客の思わぬ言葉に面食らう。
「俺の故郷にはこのようなものは無かったからな」
白い仮面を堂々と付けて出歩く不審な格好も、
あくまで異国の文化だと言うことか。花屋の店主もひとまず納得し、
薔薇の在り方と、その意義を仮面の男に示す。
しかし、クリスティーヌと言うからにはオペラ座の怪人は知っているようで。
そんな人が薔薇を知らないって事あるのかななあ……?
終始。頭の片隅で、そのような疑問を抱き続けたまま。
「ムジカントム。あんた、薔薇も知らないのね」
「無知は恥ではない。この星に来て良かったと俺は思うぞ?」
少なくとも、中間テストで撃沈したことは恥じなさい。
エゴシックの無言の侮蔑とは対照的に、幻影紳士・ムジカントムは、
薔薇の存在を知れたことに、どこまでも満足げ。
しかし、当のエゴシック自身も知らないことだらけなのは織り込み済み。
本題は決して、ムジカントムの地球の知識の偏りなどではない。
「来たわ。魔法素粒子界の刺客が」
「その様子……ルミナキャストに手助けをするという風でもなさそうだな」
何処か濁ったようなエゴシックの声色。ムジカントムも、
ルミナタキオンの味方がやって来たような単純な話ではないと理解する。
ならば、その使者を使ってワルターを作ればいいとも考えるも、
それこそが問題と言いたげに、エゴシックは更に表情を歪める。
「あんた……ワルター・オリジンって何か分かる?」
「フフ……知らん」
:
:
:
昼休みが明けても、ヨシノのクラスはいつになく落ち着きがない。
何らかの事情で自習になったが故に、生徒たちも気を緩めているのだが、
それと対比するかのように、ヨシノは曖昧な意識で静かに
何か黒いモヤが、その思考を上書きするかのように。
「草之根ヨシノ。屋上へ来い」
「へ?」
少なくとも教師の声ではない。生徒の声でもない。
聞き覚えのない低い声が、何処からともなく響いてきたことにヨシノは気付く。
自習というタイミングが功を奏したのか。幸いにも、生徒ひとりが抜け出したことに、
クラスメイトは誰一人気づいていない。賢界《のりか》以外は。
「来たようだな……草之根ヨシノ」
本来、閉鎖されて然りの学校の屋上であるが、ご丁寧に開放された状態。
普段ならこの不自然にも疑問を持つであろうヨシノだが、目の前に立つ赤い白衣の男、
プラティノのテレパシーに導かれるがまま、空の下へやって来る程度には、
今の思考は無防備に近い。そんな丸腰の心とは正反対の、コートのような不可解な白衣。
そのポケットから、プラティノが取り出したのはまさしくルミナストーン。
「我々の世界には一つ分の場所しか記録が残っていなかったが……探し当てた甲斐がある」
「誰!?ペルソナクス!?」
ルミナキャストとして、ヨシノの思考が黒いモヤを凌駕する。
ノイズのかからない頭と五感で耳にした、目の前の男が名乗る肩書きは、
魔法素粒子界の研究者。できそこないのハムスターの先輩のようなものだと、
ペルソナクスとの関与を否定しつつも、ヨシノと歩み寄ろうとする姿勢も見受けられない。
「あなたがゲッシーの言ってた監査員?」
「そうだ……そして、君の真実を伝える時が来た」
私が魔法素粒子界から物質界にやって来た理由。ゲッシーが真面目に働いているか、
ルミナキャストがいかに戦闘データを紡いできたかなどと言う領域にはない。
草之根ヨシノに宿る魂がワルターの始祖、ワルター・オリジンであること。
ワルター・オリジンの力を用いて、ペルソナクスを凌駕する力を得ること。
今こそ、忘れていた君の過去を思い出す時が来たのだ、草之根ヨシノ。
「3年前、不知火県の焔町に行ったことを覚えているか?」
「知らないし行ったことないよ!?何その都道府県!?」
四十七の都道府県に、不知火県などという地は存在しない。
前提からして破綻した過去を、プラティノは冷酷に語り始める。
草之根ヨシノは交通事故に遭ったこと。その時に命が潰えたこと。今のヨシノは、
ヨシノの影が本人の代役を務める「偽者」であること。あまりにも冷たい、暗き闇。
「なにその設定!?私、入院したことなんかないんだけど!!」
実態がない以上、アテになるような灯しも同じく存在しない。暗いのは当然である。
一通り、ありもしない過去を語ったプラティノと、ひたすら困惑の罵声を浴びせたヨシノ。
しかし、激しく輝くルミナストーンが、ヨシノに一息をつかせない。
ゲッシーは話していなかったようだがと、魔法素粒子界の研究者として、
プラティノはルミナストーンの効能を話す。
「実は、使い方次第ではルミナストーンを直接使えるのだ。人の体にアクセスさせてな」
ルミナストーンと同様に、プラティノの瞳が光り輝く。
頭を抱え、膝から崩れ落ちるヨシノの体から噴き出る黒い影を、
その光を帯びた眼で、捻り出すように見つめながら。
「限界のない可能性が、ここにある──」