魔法少女演ってます ~魔法素粒子ルミナキャスト~ …のショー!? 作:砕(サイ)
ルミナタキオンの変身を解き、
草之根ヨシノに戻った彼女の疑問。
決意を固めたその瞳が、ゲッシーに問いかける。
当のゲッシーは目を逸らす。
「今更都合の悪いことなんてないでしょ。一番大事な秘密をバラしたんだし」
既に覚悟はできている。
言葉と瞳で訴えるヨシノであったが、
その主張を受け止めようとはしない。
もしかして、そんなに重要なことなの?
そう問いかけるヨシノに対して、ようやく口を開く。
「いや…むしろどうでもいいことなんだ」
「じゃあさっさと言いなさい!」
ここまで来て隠し事も何もないだろうと、
ヨシノの両手は丸いフォルムの肩を持つ。
こうなると答える他ない。
そう観念したゲッシーがその意味を告げる。
「初期案の名前なんだ…ルミナキャストの」
「何それ!?」
ルミナキャストと言う名前が決まる前、
名前の候補だったもの。
その時の名残をうっかり漏らしたのだと言う。
本当にどうでもいい話題。
ヨシノの先程の決意はどこへ行ったのか。
呆れたように肩を落とし、脱力。
「うえ苦!」
味覚は地球人と大体一緒。
そう言っていたからコーヒーを出したものの、いきなりの拒絶。
このハムスターは熱い泥水とでも解釈したのか、地球の事務応対に文句を言う。
「仕事のお客さんって言ったらコーヒーなんだけどね」
草之根ヨシノが渡したのが缶コーヒー、云々の問題ではないのだろう。
それに、彼女はこの宇宙生物・ゲッシーに働かされる身分だ。
家に招いたのは私とはいえ、もてなしてもらうのは、
こっちの方じゃないの?とヨシノは視線で語る。
それに対して、ゲッシーは隙間に挟まるハムスターのように背を向ける。
異文化交流は初っ端から最悪である。私は被害者。それに大体、
スタッフの癖に大人げなさすぎないか?とヨシノは問うものの、
そりゃそうだと応えるゲッシー。
「子供!?」
自分は「ヨシノより年下」だと言うのだ。
これはハムスターの寿命と言う意味ではなく、
人間で言うなら小学生やそこら、と言った意味らしい。
宇宙の主要な惑星による法律では、地球のような遠い星で、
テレビ番組を作るには特別な免許が必要。ゲッシーは、
そのための学科を飛び級で卒業した、天才スタッフ兼子役なのだと言う。
「じゃあ、ゲッシーは本名ではない?」
ヨシノがそう聞くと即答。
芸名は答えないと釘刺したが、なんと、ゲッシーは「役名」だそうだ。
「芸名は」ということは、本名は余計言う気が無いのだろうか。
そんな事を考えるなか、ヨシノは一つの疑問にたどり着く。
そんなに頭がいいなら勉強を教えてもらえるのでは?と。
「数学教えてよ」
シャープペンシルを握るゲッシー。
そこから数分。それっきりである。
もしかして、分からないの?そうヨシノは尋ねるものの、
地球の学問なんて分かるわけないだろう、
勉強していないんだからと弁解する。
「と、解けないのか…」
天才はなんでも出来るわけではないのだなと、
ヨシノは強がるゲッシーに対して申し訳なさを覚える。
それはそうと、と話題をぶった切り、
「作戦会議だ!」とゲッシーは誤魔化す。
真面目な話題と訂正しつつも、ヨシノに差し出したのは、
ふざけてるとしか思えない、メカニカルな物々しいベルト。
ゲッシーはこれを「ルミナタキオンの変身アイテムだ」と堂々と主張する。
「ちょっと待ってよ。私がこの前変身したのって手首に巻く腕時計みたいな奴だったよね」
矛盾への疑問としては極めて妥当。そんなヨシノの疑問に対しての、
ゲッシーの答えはただ一つ。「都合」だ。
「番組を作るのってさ、スポンサーからお金をもらわなきゃダメなんだよ…」
魔法素粒子ルミナキャスト。
この番組は、免許が必要な程度には比較的珍しい制作体系を取っているのは確かなこと。
だが「番組」という枠組みに関して言えば特別なものでは決してなく、
宇宙単位ではこの地球のテレビ番組、或いは配信動画と同様。
無数に存在するし、免許程度で優遇もされない。失敗する番組もあれば、
視聴率や再生数・評価的には成功しつつも、玩具展開などが、
スムーズに行かないものなどが存在するのだ。
「要するに、二年位前の在庫を処分したいんだよね」
そう語るゲッシー曰く、このベルトはヨシノの感覚で言えば、
ルミナキャストと時間帯が隣り合わせの番組のアイテムと言うわけだ。
こんなものを腰に巻いて本当に女の子は喜ぶのか?
と、ヨシノはさすがに疑問に思うが、
試しに子供のころ見たヒロインが、それをぶん投げる様を想像する。
彼女たちはイヤイヤやるにしても、投げて終わることは無かったんじゃないか?と。
彼女たちは私と同じ無茶ぶりに対しても、
「ベルトを着けてそのまま変身する」という結論に至ったに違いない。
練習開始。腕を交差、すかさず左へ。
ワンテンポでも遅れたら変身プロセスは作動しない。
ヨシノは意味も分からず指定された動きを行う。
前屈をした途端屈伸。体を捻る。
この全く頭に入らない動作をどうスタイリッシュに決めればいい?
そんな疑問すら抱く間もないまま、
宇宙式ラジオ体操を体に叩き込む。ところでゲッシー…
「ポーズが複雑すぎて売れなかったんだ」
なんでこんな動きをオモチャに取り入れた!
ヨシノはそう突っ込む他なかった。
子供の真似しやすいポーズにするか、
せめて誰でも変身出来るようにしろ。
宇宙レベルの技術力だと子供の玩具にも、
膂力の伴わない、ごっこ遊びレベルではあるものの、
番組同様に"変身"に至る機構がある。
それ故にこんな機能を付与したようだ。
「宇宙の子でも軽々こなせるわけじゃないんだね…」
何せ売れ残ったのだ。
身体能力は技術ほどには伴わないらしい。
宇宙は広いが人の殻は案外狭い。
「よくやるね、ヨシノ」
「お前がやらせとるんだろうがい!」
呆れるような、感嘆するような、そんなゲッシーのリアクション。
思わずヨシノも怒り出す。もっとも、あくまで怒るだけ。
練習の手を休む選択肢は、今の彼女には存在しない。
何をそんなに頑張るんだと、ゲッシーも少し不思議に思ったところ、
ヨシノは一言、こう答える。
「やっぱりさ…最後まで見たいもんだよ。観る方は」
ヨシノが思い出しているのは、数日前に打ち切られた動画企画。
よっぽどのことが無い限りは、やり遂げた方がみんな喜ぶはず。
私の好きだったヒロイン達は、最後まで戦っていたものね。
そんな心持ち。ヨシノの信念を以てして、夜通し無骨な演舞が行われる。
「ヨシノさん、お疲れね」
まさか変身ポーズの練習を夜通し延々していたとは夢にも思うまい。
週明けの学校。ヨシノは近くに座る三鳥さん。
そんな彼女の気遣いの言葉にも、弱々しく応じるのみ。
軽く微笑む彼女に、ギリギリ微笑み返すだけの余裕。
限界ギリギリの中ふり絞った力を見せる。
「新フォームが凄かったわね」
何でそんなピンポイントな話題が出るんだよ!
とヨシノは級友の意外な趣味に対して、
叫ぶ代わりに飛び上がるがすかさず訂正。
親戚の男の子が来てたんだけど、
その変身に興奮してずっとごっこに付き合ってたから
疲れてるんだよね、と。もっとも、ゲッシーは親戚ではないし、
「ずっと」の期間も、これまで、この先を考えると、
昨日の日曜日では到底収まらない。
そんなヨシノの泥臭い事情を、変身ヒーロー番組を無邪気に語る、
三鳥さんも知る由もないだろうが、とも彼女は思う。
ヒロインは自分が変身することをみだりに語らない。
「その子、面白いわね。会いたくなっちゃった」
会わせられねえよ!そんな心の声と共に、
ヨシノはゲッシーに対する愚痴を親戚の男の子に置き換え、
みだりに語ってしまった事を内心後悔する。
そんなヨシノの苦労を知る由もなく、
オペラ座の舞台が如き壇上に座る仮面の男。
エレキギターと共に、激しいメタルサウンドを響かせる。
その六弦を乗りこなす手捌きに反して、音源は彼の背後のCDラジカセ。
この男が行っているのは、単なるジェスチャーかパントマイムの類だ。
「ヒャハハハハ!ルミナキャスト!これは怒りの狂奏だ!!」
彼はルミナタキオン――ヨシノに敗北した男。幻影紳士・ムジカントム。
その様子を眺めつつ、威嚇のような眼光と歯ぎしりで彼を見つめるのは、
歌劇令嬢・エゴシック。似合わない真似はやめなさいよ、
と見てはいけないものを見たかのように刺々しく、その演奏を否定する。
演奏に水を差されたムジカントムは一旦、一時停止ボタンを押す。
「そう言うんじゃねえよエゴシック」
このガルニエに似合わないBGMに、燕尾服に似合わない粗野な口調。
一体どうしたの?といった質問すらせず、エゴシックはひたすら威圧するばかり。
仮面からは表情は分からないが、ムジカントムも納得したかのように、
右手を前に出し、彼女を宥める。
「ルミナタキオン対策は十分だ。安心しろ」
先日、ルミナタキオンに示したものと少し違う。
独特のペイントが施された仮面をどこからともなく出し、
それを見せつけながら、ムジカントムは自信満々に語る。
そういう問題ではない、と変わらず不機嫌なエゴシックではあるものの、
それを尻目にムジカントムは去っていった。しょうがないから片付けてやるか、
といった風にエゴシックは楽器をしまい始める。
「起きろ草之根」
「おわっ!」
近くの席の野球部男子に頬を軽くはたかれ、ヨシノは慌てて目を覚ます。
居眠りをしていたのか。そんな自分に驚きつつも、直前まで見ていた、
夢の内容を思い出す。夢と言っても、その内容は、昨日のヨシノの記憶の反芻。
深夜にまで及んだ地獄の練習と、ゲッシーに聞いた番組撮影のルール。
「今まで通りの振る舞いで問題ないよ、ヨシノ」
これは夢の中で再生された、昨晩のゲッシーが実際に語った言葉。
いくらルミナキャストの主人公になったからと言って、
学校生活や家での暮らしを変える必要もないと言う。
まず、自分の姿は常に撮影されてはいない。すなわち、
極端にプライバシーに関わる部分はまず触れられない。
もっとも、ゲッシーは「条件付きで」と釘を刺したが。
「映像はある程度編集されるから大丈夫」
滅茶苦茶な発言もリアルタイムで変換させ、最適なセリフになると言う。
ただ、あくまで「ある程度」。極端に調子が外れた事を言えば、
番組そのものに関わるノイズとして牙を向く。
これがゲッシーから示された、ルミナキャストの2つのルール。
「結局ヘンなことしたら晒されるってことじゃん…」
両方とも、気の抜けない状況に置かれた事に示しているに違いない。
ヨシノはゲンナリしつつも、先生に回答を求められた歴史の用語の説明を、
先程言ったぞ、という彼の説明など知らぬが故に答えられず大目玉、
思わぬ追撃に対して、更にゲンナリ。
ゲッシー、恨むぞ!ヨシノは内心怒りに燃える。
「ところで、ルミナステッキはどうなるの?」
「ああ、別売りだから大丈夫」
そして、これは同じく先程再生された、変身アイテムの因果関係の話である。
この日の授業を終え、帰路につきながら会話を思い出すヨシノ。
本来、ルミナタキオンへの変身と武装・ルミナステッキは、
ルミナスコープに備わった機能。どちらかが欠ける事はない。
という設定であるが、実際のおもちゃとしては別売りであること。
それ故に、今回の変身アイテム・エクリプスベルトでも、
ルミナステッキを何もない空間から、
オンオフで出し入れすることは可能といった理屈だ。
商売っ気に超技術が伴うとこうなるのか…と、
ヨシノはその時は考えたが、寝る暇を考えても良かったかも、とも後悔する。
「ぐえっ!」
ひとまず宿題をどう片付けるか、
と思いつつ背伸びをしようとしたところ、空に掲げた右拳に弾力が。
何すんのさ!ヨシノ!と飛来物が怒り出す。
そう、件(くだん)のゲッシーだ。ごめんと謝りつつも、
何を以て頭上から飛んできたのか、ヨシノは問いかける。
「ルミナストーンを見つけたんだ!」
「何それ」
ゲッシーが片手に持ったルビーのような色味の宝石。
それに対するヨシノのどこか煮え切らない返答も無理はない。
ルミナスコープが腕時計の顕微鏡、ルミナステッキが杖…
固有名詞ばかりで彼女の頭が追いつかないのは確か。
とはいえ、ゲッシーはこれでも、番組と商売に対して極めて真剣。
これは重要事項だからよく聞いてよ。そんな言葉を、
ゲッシーがヨシノの耳元に囁いたと思ったら、
すかさず前方へ。大袈裟に虚空に語りかける。
これは私に向けたものではない。「視聴者」に向けた、
ゲッシーによる解説ショーであるとヨシノは察する。
「ルミナストーンは、魔法素粒子界で出来た賢者の石なんだ!」
賢者の石。ヨシノの世界における錬金術の叡智である。
要点をピックアップすると、以下の通り。
ルミナストーンには、超常現象を引き起こす力がある。
例えば、ルミナスコープにとって、最重要の材料がルミナストーンである。
ルミナキャストに変身するには、この宝石が欠けていては成立しないのだ。
そして、ルミナストーンはヨシノの地元に偏在している。
「この賢者の石を集めることが、僕たちの目的の一つなんだ」
「いきなりそう言われても、よく分からないけどね…」
せめて、私に対して色々教えてよね…。自分に対して、
全く視線が向かっていないことに空笑いをしつつ、
何とか調子を合わせ、相槌をうつヨシノ。
そんなヨシノを置いてけぼりにして、さらにトークは弾む。
「ルミナストーンは悪者でも使えてしまうんだ」
ルミナストーンに善男善女しか使えない、と言ったルールはない。
ゆえに、破滅劇団ペルソナクスもルミナストーンを集めている。
強いワルターを作る。ルミナキャスト対策を行う。
その他にも、想像もつかないような行為にルミナストーンを使うかもしれない。
それ故に、ゲッシー達が先に回収を行う必要があるのだという。
「これをムジカントム達に渡しちゃいけない!僕たちが先に手に入れよう、ヨシノ!」
「もちろんだよ、ゲッシー!」
置いてけぼりにされそうな、ゲッシーの一人芝居。
なんとか追いつき、ルミナタキオン・草之根ヨシノとして、
彼女は意気込む。実際問題、目の前に立ちはだかる戦いは、
嘘偽りでもなんでもない。あの時、タキオンとして感じた痛み。
先日のワルターとの戦いが証明している。ところでゲッシー…
「ルミナストーンもおもちゃとして売るんでしょ?」
「うん…」
やっぱり気付いちゃう?そりゃベルトのことがあればね…。
そんな言葉を交わし合う二人の、どこか虚無的なやり取り。
流石のゲッシーも、ヨシノに申し訳なさを覚えつつ、
目を逸らしながら微笑むヨシノと一緒に、笑ったフリをする。
「ルミナスとストーン」
この流れのまま、ヨシノは一言呟く。
その直後に見せた、何かに気付いたような表情。
先程まで逸らしていた目を方向転換。
ヨシノは視線と疑問をそのままゲッシーに向ける。
「ルミナストーンって英語の組み合わせだよね…?本当に私の言葉って宇宙で通じるの?」
ヨシノがそう聞くのも不思議ではない。
宇宙の魔法少女・変身ヒロイン番組、「魔法素粒子ルミナキャスト」。
たったいま飛び交った単語、「ルミナストーン」は勿論、
前回の戦いでも彼女自身が感じた事だが、
作品周りのフレーズは全て、地球の言葉で構成されていると言ってもいい。
まずはタキオン。この星においては実在が証明されていない。
故にあくまで「架空」ではあるが、光よりも速いとされる素粒子。
少なくとも地球ではそう呼ばれている概念である。
「地球では」と言うのも、この星の外で同様の名前で呼ばれているか
定かではないから。それに彼女の必殺バリア・タキオンフィールド。
これはヨシノが咄嗟に叫んだネーミングであるが、そのまま「英語」である。
「むしろその方が助かるんだよ。ヘンに宇宙を意識されるよりもいい画になるからさ」
宇宙では適切な文脈にローカライズされる。
下手に放送される言語に準拠するよりは、そのままの言葉で
話したり、技を放ったりした方が、翻訳装置に通すには都合がいい。
それに、ゲッシーが語るところによると、
地球の文化を拡散するのにも意義があると言う。
つまり、言葉も感情も正確に変換されて、
ヨシノの活躍は伝えられるということ。ウケのいいように、
脚色も差しこまれるけどね、と最後に付け加えながら。
地球の文化、悪用しないでしょうね…。そう心で呟きつつも、
それなら問題ないと、少し眉と口角を上げる。
「信じていいんだね?ゲッシー」
先程の疑念のこもった心の呟きを、その一言で上書き、掻き消す。
このように問うヨシノも、彼を信じるわけではない。
仮にも自分を騙して戦わせようとした男…ハムスター。
今だって大事な宝石の話を、自分に向けて話してはいない。
知らない間に、恥ずかしい目にもあうかもしれない。
地球の文化にどんな手を加えられるかも未知数。
話半分とした方がいいと確信している。もっとも、
そんな彼と共に戦う決意をしたのも草之根ヨシノ──ルミナタキオンだ。
もう半分は信じる程度に覚悟を決めている。
「地球のヒロインの底力、宇宙のみんなに存分に見せてあげる」
たかが情報の伝わり方ひとつの話題に過ぎないものの、
彼女にとってはこれも戦いに興じるために大事な情報なのには変わりない。
「ヨシノ!そこの裏っ側!」
裏っ側?ゲッシーの突然の叫びに釣られ、
疑問を抱く間もなく、ヨシノは曲がり角の向こうへ飛び込む。
悪趣味なほど煌びやかな燕尾服。
微笑みを模った仮面。
幻影紳士・ムジカントムがそこにいた。
「ちょうど誰もいねえことだ…飾り気がねえ場所だが狂宴が始まるぜえええええ!!」
恐るべきテンション。
ムジカントムの有り余る叫びに圧倒されつつ、
ヨシノは出方を窺う。そのまま飛び込んでいいものなのか。
そんな疑問を抱く間もない。
ムジカントムの背後に、夕日を遮る黒い影が現れる。
「ペルソナクスの怪人、ワルターだ!」
打算なく脅威に警戒する演技を、打算的にゲッシーが行う。
不定形の肉体に、うすら笑いの仮面。ワルゥゥゥ…と唸るその呻き声。
最初に戦った時と同じ、ペルソナクスが作った怪人だ。
しかし、最初に見た怪人と比べ、そのフォルムは妙に刺々しい。
両腕と言うよりは前足を地に付けた様は、
オオカミやキツネといった獣のそれだ。
「行くよ!ゲッシー!」
叫び声とともに、ヨシノの腰に変身ベルトが浮かび出る。
足腰に負荷をかける、確かな質量がそこにある。
本当にこれ大丈夫なのかな…。
いざ自分の姿を顧みると、凄まじい違和感は否めない。
それでもなお、ヨシノは飛び込む。
自分の好きだったヒロインもそうしていたはずだから。
「ヒャハハハハ!来やがったなルミナキャスト!」
「(…この前、もっと薄ら笑いじゃなかった?)」
ペルソナクスに挑むべく、目の前に立ち塞がったヨシノ。
それに対して、ムジカントムは狂喜する。
前回ルミナタキオンと戦った時と比べ、笑い声の時点で妙に感情的だ。
復讐に燃えてのことか、それとも、脚本の連携が取れていないのか。
普通なら後者など選択肢には出ないが、状況が状況だ。
腰に巻いたベルトがそんなヨシノの質問に対し、
後者の方に首を縦に振りかけて、
それでも一歩踏みとどまっている気がする。
「変身してみろよ。安心しな、テメエの邪魔をするほど俺は狂っちゃいねえ」
前回はもっと余裕がある語り口だったが、
その無機質な微笑みの仮面から出るのは、美学こそあれども随分粗い。
なお、ムジカントムは草之根ヨシノの容姿など一切知らない。
彼が前回遭ったのはあくまで「ルミナタキオン」だ。
口調とは違い、こちらは間違いなく台本が狂ったのだろう。
ベルトも今度は首を縦に振る。
ゲッシーが気まずそうな顔で幻影紳士を見つめるが、
ムジカントムとしてもこれ以上、
場の空気を殺すわけにはいかないのだろう。一切動じない。
もうどうしようもないのか、そのまま押し通すようだ。
そして、ヨシノの声が響く。
「変身!」
Eclipse Drive, GO! 徹夜で練習した複雑なポーズを見事完遂、
フリルとパステルカラーの衣装で戦う女の子が変身するものとは到底思えない、
無骨な機械音声と共に草之根ヨシノはルミナタキオンに変身する。
やっとその姿になったか、と賞賛するムジカントムであるが、
そもそもお前は草之根ヨシノを知らないはずだろうと、
さすがに呆れの表情は隠せるほど、取り繕えはしなかっった。
「このワルターは特別チューンナップしてるんでね。てめえのタキオン=エリオチェントリズモ=ディ=ガリレイは効かねえぞ」
「え?」
ヨシノが驚くのも無理はない。純粋に何を言っているか全く分からない。
これも連携が取れないが故の結果なのか。
だが、そんな空気の中でもゲッシーはさっきと比べて意外と冷静だ。
あー、あれかと納得したかのようにルミナタキオンに語る。
「タキオンが直感でタキオンフィールドって技使っちゃったけど、あっちが公式で用意したネーミングなんだよね」
子供騙しにしちゃいけない。
地球の言語をしっかり勉強し、その上で意味を持つ名称にした。
スタッフが一丸となって練りに練った名前だと力説するゲッシー。
だがヨシノは視聴者がどう思うかを知っている。
「長すぎて覚えられないよ!」
突然の一言に息を詰まらせるが、確かにそうだと納得するゲッシー。
子供がこんな長い名前、本当に舌を噛まずに言えるだろうか。
試しに言ってみてとタキオンは彼に語るが、
どうにもタキオン=エリ…のところで噛むし、続きが分からないと言った具合だ。
「ムジカントム!そんなワルター相手にタキオンフィールドは破れないぞ!」
結局そっちで行くのか!と、あまりの無責任さに呆れるやら
腹を立てるやらしたいところだが、今はそんな暇はない。
目の前の敵をどうやって倒すかが先決だ。
「届ける想いは光を超える。ルミナキャスト――ルミナタキオン!」
前回、名乗り損ねた決め文句。特訓と共に考えたフレーズである。
せっかくだからと、ゲッシーも彼女自身にその心意気を考えさせたかったようだ。
ここで、彼女は草之根ヨシノである事を忘れ、臨戦態勢に入る。
ヨシノが改めてルミナタキオンの心構えになったのを察したのか、
ムジカントムも間髪入れずに攻撃を仕掛ける。
ワルターが左腕、もとい左前足でタキオンを薙ぎ払おうとするが、
地面に体を付け、うつ伏せの姿勢で回避。そのままタキオンは右手を軸に
跳躍、回転しながら足払いを行う。そのまま対になるワルターの右前足が浮き、
今度はそちらがうつ伏せに。タキオンはそのまま地面を蹴り、敵に視線を向けたまま
一気に後方に距離を取る。だが、ワルターも隙だらけと言うわけではなく、
なんと腹筋を使い跳躍。そのままバックステップを追跡し、覆いかぶさろうとする。
「エクリプスベルト展開!」
今の今まで消えていた、タキオンの変身ベルトが腰に顕わになる。
ワルターは自身の勢いが仇となり、逆に金属の硬さをカウンターとして喰らう。
すごい絵面だな、とヨシノは変身ヒロインとは思えない状況に
内心笑いつつも、すぐさま思考を切り替え、
ルミナタキオンにのしかかろうとしたワルターに対して掌底、
すなわち張り手のアッパーカットを浴びせる。
「ルミナライトアップ!」
その掌でワルターを浮かせたタキオンは、棒を回すジェスチャーで
その右腕にルミナステッキを呼び出し、そのまま光弾・ルミナライトアップをぶつけた。
ワルターにそのまま追撃しようとするタキオンであったが、
ムジカントムは彼女の戦意を、粗暴に、冷ややかに分析する。
「もしかして、タキオン=エリオチェントリズモ=ディ=ガリレイを使うつもりか?」
アンタはまだそっちの名称を使うつもりなんだね…
ムジカントムの語りに呆れて、冷ややかに分析するタキオンであったが、
彼の男は確かな根拠を以て語り続ける。このワルターは、
ルミナステッキから発せられる光のエネルギー…すなわち、
ワルターやペルソナクス幹部に効く浄化の力を中和可能――
つまりは効き目が弱いと言うのだ。特に、タキオンフィールドを、
完全に無効化する仕組みを作っていると言う。
「タキオン!ムジカントムの言うことは本当だ!」
ゲッシーの切羽詰まった合いの手と並行して、
ムジカントムの申告通りの余裕を保ちながら、
ワルターは即座に立ち上がる。それを待たずに、
タキオンは拳を振りかぶり、ワルターの眼前に飛び込む。
「光に強いなら、光を使わなければいい!」
ルミナタキオンの武器は、光線だけではない。
テレフォンパンチと呼ぶに呼べない。圧倒的な勢いを伴った、
タキオンの隕石のような激突をワルターはなんとか受け止め、
そのまま肉弾戦での競り合いが始まる。
前足と頭突きによる獣の猛攻に、拳に脚にと、サンドバッグの替わりに、
眼前の敵のボディを用いた暴力的なボクササイズで対処していくタキオン。
「チューンナップって言うのは、ビーム相手にだけなの?」
タキオンも息が上がり、消耗し始めている。
だが、この状況下においても不敵にも挑発を行うのにも根拠がある。
ワルターも肩で息をしているのだ。
このような不定形を無理やり固めたような怪物にも、疲労の概念があるという、
不可思議な世界観を観察しつつ、そのチャンスを見逃さない。
「ゲッシー、ワルターはどうしたらやっつけられるの?」
視聴者に自分の勝利条件を示しつつ、私自身も確認しておきたい。
聞きそびれていた質問を信頼できない相棒に投げかける。
ワルターにトドメを刺す条件は、シンプルに「ルミナキャストが倒す」こと。
それが浄化の光といったエネルギー体か、肉弾戦によるダメージによって、
ワルターの肉体に限界を迎えさせるかは問わないという。しかし、効率を考えると、
タキオンフィールドのような必殺攻撃の方が圧倒的に有利である…
そうゲッシー流ルールブックが口頭で語られつつも、ワルターの不定形の体表。
その体色のような色彩の光と空間が軋むような音が辺りを包む。
「ヒャハハハハァ!さしずめワルターライトアップといったところか!」
実際に口腔に相当する部位があるかは不明なものの、獣型ワルターの仮面の口元部分に、
激しい光量の力場が発生する。ムジカントムの宣言を考えると、
ルミナライトアップのような強烈な光弾が発せられるようだが、視覚は勿論、
聴覚・触覚を含めて桁違いの攻撃が発せられる予兆であると、
タキオンは言葉にならない緊張を覚えるも束の間。極端な高音に加工したような銃声。
そんな風に喩えられそうな発射音の弾丸が彼女に向かっていくが、
そうはさせないと、反射的。本能的に体を動かす。
「心の速度で、光と闇を包み込む!覆い尽くせ!タキオンフィールド!!」
ステッキを握りしめて、真ん中にかざす。「無駄」と切り捨てられた直後に、
このような行為をするのも矛盾しているが、タキオンに残された手段は他に無かった。
たとえ無駄な行為であっても、やれるだけのことはやる。そう思った矢先である。
「え、消えた」
これは、衝撃の余波で転げまわったのち、立ち上がりつつ発せられた、
ゲッシーの一言。拍子抜けしたような言葉に違わず、表情も虚無的。
ワルターライトアップごと、獣型ワルターが、
タキオンフィールドの圧倒的攻撃に掻き消え、浄化されたのである。
「バカな…タキオン=エリオチェントリズモ=ディ=ガリレイを無効化するはずだ!!」
ムジカントムの絶叫。大袈裟な手振りで、虚空をかき混ぜる所作。
その口ぶり、ジェスチャーからして、本気で困惑している。
そして、先程の虚無的な表情と打って変わって、
眉間に僅かにシワを寄せ、どこか焦燥したような表情を見せるゲッシー。
勝利の喜びとは到底言い難い、気まずそうな顔つきである。
この両者の反応に、タキオンは不自然さを覚える。
本当にタキオンフィールドが効かないはずだった、って事?
そんな内心に応じるように、ゲッシーはあっと驚き、
タキオンの耳元まで近づき説明する。
「あの技、”タキオンフィールド”だろ?」
彼が語るところ、ムジカントムは本当にワルターへの改造を施していた。
それは「タキオン=エリオチェントリズモ=ディ=ガリレイ」
という技を無効化する、特殊な力場を設定していたという事。
仮面男の申告通り、効き目が弱かったこと自体は本当。
しかし、それは限定的な効果であり、あくまで本命は、
タキオンの必殺技を無効化するところにあったと言う。
「え…じゃあ名前が違うから、別の技って事になって無効化されなかったってこと?」
「うん…」
改造した程度では、必殺バリアを中和し、耐えるだけの能力は備わらない。
ヨシノの心持ちに戻り、眼と瞼を座標のX軸に並行にしたような目つきで、
決着に至ったバカバカしい真相に冷や汗すら流すタキオン。
とはいえ、そのような事実は夢の場には持ち込まない。
「私の想いのパワーが、あなたに勝ったってことだよ、ムジカントム!」
タキオンフィールドは、町を、みんなを守るためのバリア。
その力を簡単に砕くわけにはいかない。そんなもっともらしい理由を以て、
情けない状況を見事フォローした。
「フフフ…大したものだなルミナキャスト。だがここで終わると思うなよ?」
改造ワルターを倒したルミナタキオン。
そんな彼女に対して、どこか皮肉を込めた口調ではあるものの、
ムジカントムは賞賛の言葉を贈る。先程まで、
狂気を帯びた笑いで対応していたはずであるのは言うまでもない。
そして、忘れるなと前置きして言い放つ。
「この世界の主役はこの俺。世界よ、我が書割たれ!」
雨雲から光が差し、そのまま見上げる一面に空が見える時の如く。
ムジカントムはいつの間にか、最初からそこにいなかったかのように消えていた。
それよりも、あの仮面の男の異様なテンションの落差に。
タキオンは目を点にするばかり。そんな顔つきのまま、
彼女はゲッシーの顔を覗く。ゲッシーの答えはこう。
世界よ、我が書割たれはムジカントムのモットー。
「あの一連の流れがテンプレのセリフ…毎回言う発言なんだ」
つまり、最後のムジカントムだけが正しい姿で、ずっとおかしかったと言う。
やっぱり脚本が連携していなかったんかい!
自身の懸念が当たっていたこと。そして、そんな現場に身を委ねること。
今後に対して不安を覚える草之根ヨシノである。
「そういえば、ムジカントムとかを倒せば死ぬの?」
「そこは安心していいよ」
その日の夜。
ヨシノはゲッシーに対し、ド直球とでも言うべき質問を投げかける。
お芝居で人の命を奪うような真似をするのは、
彼女としてもたまったものではない。
僕もそうだから、とゲッシーは自分を例に挙げつつ、
ルミナキャストに関わる存在は二つのタイプに分かれると語る。
まず一つが「役者タイプ」で、血肉の通った人間。
ヨシノ達から見た宇宙人であると言う。
「さすがに宇宙の放送倫理でもマズいからさ…」
死亡しないようなセーフティを用意していると断言した。
それを聞いたヨシノは、それでも痛いんでしょ?と
自身の置かれた状況に対して苦い顔をする。ムジカントムは
正式な契約を結んだ役者だから安心して欲しいと、
ゲッシーはヨシノの戦いを肯定する。
「よ、ヨシノ!そんな怖い顔で見ないで」
私と一緒で、あの仮面男も騙してないだろうな?と威圧するものの、
ゲッシーは涙目になりながら必死に否定する。
彼が嘘を言っていない事を察して、ヨシノは心の拳を収める。
これすら演技だったらおしまいだけども…
と、内心思いつつ、ではあるが。
安心からか、取り留めのない話題に切り替わる。
「そういえばゲッシー、好きな食べ物とかはあるの?」
「人間の食べ物には興味がないね」
ふとした雑談のはずが、質問したヨシノとしては、
その異様さに思わず睨まざるを得ない。
ヨシノが先日、缶コーヒーをもてなしたのは、
その直前、確かにゲッシーの味覚は君たち人間と一緒、
と述べたからである。
「ああ、それか」
何かに気付いたようにゲッシーは訂正する。
食べ物に関しての嗜好に嘘偽りはないが、
それは「ゲッシーを演じる宇宙ハムスター」として。
「ゲッシー」としては些か事情が異なると言う。
「し、屍肉!?」
ゲッシーは何も齧歯類、という意味合いではない。
「死肉を喰らう外道たる魔物」。それが彼の名の由来である。
嘘でしょ、それ!?そんなヨシノの困惑に対し、
初めて出会った時にホログラムを出した、
リンゴ型タブレットを取り出し説明をする。
「え、何この画面」
「ルミナキャストの公式サイトだよ」
正面、側面、背面。画面に映るは、ゲッシーのブロマイド。
もとい、「ゲッシー」のキャラクター紹介のページ。
地球からはアクセスできない、ヨシノにとっての極秘情報。
今回は特別に提示するという。ご丁寧に日本語訳までされている中、
自分の相棒の記述を見たところ、
◆魔法素粒子界からヨシノの街に訪れた、
とても真面目なハムスター。
その名の由来は屍肉を喰らう外道たる魔物。
とある。真面目なのは商売根性だけじゃないの?
そんな疑問も一瞬抱いたが、それよりもまずその名前の由来。
丸みを帯びたぬいぐるみのような見た目とのギャップ。
困惑するヨシノに対し、その理由を述べる。
「裏設定を盛った方が考察班が盛り上がると思って…」
「意味もなく過激な要素を盛るな!」
要するに、思わせぶりなだけのハリボテ。視聴者を煽るために、
何の理由もなくそれっぽい内容を付け加えただけである。ヨシノが怒り出すのも無理はない。
自分の一存で記述を消すに消せないから勘弁してよと、
その剣幕に怯えるゲッシーだが、ふと、鼻を動かす。
「ヨシノ、これなんの匂い?」
そういえばと、缶コーヒーの件もあり、
ゲッシーに何を渡せば喜ぶのか悩んでいた中、
ゲッシーにぶつかり、ムジカントムとワルターと戦う前に、
ホームセンターに立ち寄り、
購入していたものがあったのをヨシノは思い出す。
「うまい!やっぱりこれだよ、これ!」
総当たりで行ってもダメだった場合はこれしかないと、
最後の手段として事前に購入したものが、
まさかの大当たり。ゲッシーは、
ヒマワリの種を満面の笑みで頬張る。
これで動物扱いするなは無理があるだろう。
とはいえ、満足そうだからいいか。
ヨシノはそう納得することにした。
私、草之根ヨシノ!
ゲッシーが魔法素粒子界の博士から受け取った、
新アイテム!そして、特訓の末新たに編み出す、
新たな必殺技!そして、ワルターの正体が明かされる!
こんなにいっぺん、私で処理できるかな…
次回、「聞かせてください!心の音色・ルミナテレパス」
届ける想いは光を超える!