魔法少女演ってます ~魔法素粒子ルミナキャスト~ …のショー!?   作:砕(サイ)

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※今回から「Aパート・Bパート(前後編)」に分けて投稿します


第4話「ヨシノの休日!ストレージに眠る叡智」 Aパート

‭舞台の上に置かれたテーブル。

ジュースを飲みながら言う事でもないんだけど、と前置きし、

ワイングラスで唇と喉を潤しながらエゴシックは語る。

 

「知恵の実を食べないで楽園を出られたリリスってすごいと思わない?」

 

いわゆる聖書の解釈の一つの存在で実際の記載は無いが、

確かに彼女は自発的に動いている。優劣はともかく、

先に知恵を持っていた可能性すら考えられよう。

それを聞くムジカントムはただ薄気味悪い笑い声を発するのみ。

気取りすぎかしら?と自嘲するエゴシックに対し、

 

「フフフ…すごい」

 

私の解釈を褒めてくれるのは構わないが、もっといい語彙はないのか。

皮肉でも何でもいいから知的な回答を求めたかったがまあいい。

エゴシックは眉間に皺を寄せながら、すべてを忘れて、

琥珀色の果実を流し込むことに専念することにした。

それに相対する仮面の男・ムジカントムは、

テーブルの傍らに四合瓶を携える。日本酒だ。

彼はお猪口にそれを注ぐ。ここで何も思わないエゴシックではない。

仮面を外すのか、はたまた仮面を外さずに飲む方法があるのか。飲まないのか。

 

「フフフ…」

 

選択肢は二番目。彼はいつもの笑い声と共に、

その盃を持ち上げ、目薬を点眼するように、

その豊かな恵みを仮面の右視界部分の穴に流し込んだ。

さすがに言葉を失うエゴシックであったが、ムジカントムの喉は鼓動している。

普通に飲んだ方がはるかにマシとは思うが、

彼の美学だ。それに一応は飲み干している。

どういう軌道で口に入ったかのかまでは分からないが、

粗末に扱っているわけではないなら構わない、と思いつつも、

エゴシックの眉間には地殻変動のように亀裂が刻まれていた。

 

「ガハハハ!大道芸か?ムジカントム」

 

そして、スーツの男がスルメを片手にこの茶会に現れる。

ムジカントムはこの男の軽口に間髪入れずに煽り返した。

 

「フフフ…強いて言えば美学だよ、坊や」

 

恰幅のいい、禿げ頭のこの男。

エゴシックはこの空気に極めて強い不快感を示す。

小太りの男の名は「ハラガヘッタ」。ムジカントムは接待の如く、

日本酒をハラガヘッタ用の容器に注ぐが、

どうにも子供向けのコップである。

彼の言い分を聞くと、ハラガヘッタの情緒のなさを見下し、

子供のようだと彼を嘲笑っているのだ。

だから、ムジカントムにとって、

ハラガヘッタは「坊や」なのだ。

 

「コントをしに来たんじゃないんだぞ、下らん奴だ」

 

一方、ハラガヘッタの方も幻影紳士を名乗っておきながら、

むしろ大道芸人のごときムジカントムを軽蔑し、お互いに反目しあっている。

だがエゴシックとしては、それはどうでもよかった。

彼は、企画が流れ放送されなかった「没企画」の流用キャラクターである。

それ故に、自我(エゴ)と退廃(ゴシック)を司る彼女と、

音楽劇(ミュージカル)と怪人(ファントム)を司るムジカントムとは住む世界が違う。

 

「なんなの、この番組…」

 

彼女はこの老人の存在そのものよりも、制作体制の異常さを俯瞰し、嫌悪する。‬

 

 

「うう…あと5分」

 

こんなベタな寝言を言う子いるんだ!

たまたま教室を訪れた凪(なぎ)は、

机に突っ伏したヨシノの発言に驚愕。

その横にいる賢界(のりか)は、彼女も疲れているから、

ちょっと休ませてあげてと和やかに頼み込む。

 

「もっと第12胸椎あたりを…」

「整体!?」

 

女子中学生である彼女がこんな事を言い出すなんて、

一体何を抱え込んでいるのか。

ひとまず凪は彼女の疲れを汲み取り、放課後改めて

次の休みの相談をするつもりだ。夢の中で、ヨシノは

リラクゼーションの延長料金を払う。

 

「ヨシノ…老けたんじゃね?」

 

勿論、こう呟いたのも寝言を聞いた凪の冗談でしかない。

だが、廊下を歩きながら考えつつも、ヨシノの疲れの理由に答えは出ない。

もっとも、凪にはヨシノが、宇宙規模のヒロインショー、

ルミナキャストの撮影に巻き込まれているなど知る由もない。

ヨシノの人生経験はある意味数倍、もとい倍速だ。

 

 

「行くよ!ムジカントム!」

 

ルミナタキオンは叫ぶ。そして、いつもの嘲笑うような笑い声。

タキオンの闘志に応じる幻影紳士・ムジカントムは、

早速バッターボックスに立つ。赤いヘルメットに、

白い仮面のコントラスト。バットを小刻みに揺らしながら、

堂に入ったバッティングフォームでタキオンの投球に備える。

そんな最中、投手・ルミナタキオンのグローブから、

抜け出すように硬球が滑り落ち、地面に着地しようとする。

 

「ゴールに放つは速度の流星!タキオンストライク!!」

 

その刹那、タキオンは叫ぶ。思い切り後方に振り被った右脚を、

カタパルトのように前方に叩き込む。

ムジカントムの頭部に向かって放たれた、

硬球による必殺シュート。

 

「フフフ…俺にそんな球が通じると思ったか?甘いな!」

 

しかし、幻影紳士はこれを真正面で受けるほど無力ではない。

ボールの軌道に沿って首を回し、紙一重で正面衝突を防ぎ、受け流す。

ボクシングで言うスリッピング・アウェイ。超高速の硬球はそのまま球場を貫通。

ムジカントムの一瞬の反応に息を呑むのも束の間。ぐえっ!

そんなタキオンの情けない声をかき消すような、

激しい衝突音。地球を一周し、ルミナタキオンの背後に帰ってきた、

硬球から受けたダメージ。衝撃と共に、タキオンは思い切り吹き飛ぶ。

 

「夢か…」

 

後頭部に受けた衝撃で、机から転げ落ちたことに気づく。

野球でシュートなんかするわけないよね…。

ヨシノは自身の夢の行動に苦笑いする。

そんな荒唐無稽な夢を見るほど疲れているのも無理はない。

ゲッシーとの邂逅。エクリプスベルトの戦い。ルミナテレパス。

そこから現在。ほんの一、二週間のわずかな間にも

ルミナタキオンは戦いに身を投じていた。

 

「やっぱり着ぐるみショーが一番きつかったかな…」

 

意識を着ぐるみと同期させ、宇宙の某惑星のアトラクションに出た時の話である。

地理的な、言い換えれば「宇宙理」的な事情から、

簡単に地球の外に飛び出せないルミナキャストの撮影チーム。

そこで、遠隔操作が活用されたのだが、

インターネット回線の遅延のごとく肉体と着ぐるみのシンクロが遅れ、

一方的に痛めつけられるトラブルに見舞われたことを思い出す。

 

「あれで疲れがピークに達したのかも」

 

本体のヨシノは傷つかないが、痛覚だけは据え置き。

生々しい絶叫を披露しつつも辛勝したが、こうしたイベントの他にも

ホログラムでの撮影会、些細な悩みから生まれたワルターの露払い。

記すまでもない事象も含めた、大小問わぬフル稼働を強いられていた。

 

「ヨシノさん、凪さんが言ってたんだけど」

 

目覚めたヨシノに対して、賢界《のりか》の伝言。

日曜日は暇だし、遊びに行かないか?

そんな取り留めのない約束。

 

「本当は私も行きたいけど、その日は用事があるから」

 

残念がるも、自分の代わりに楽しんできてねと送り出す賢界《のりか》。

凪さんも、トークアプリにその内容を入れておいたって言うから、

しっかり確認して欲しい。特に、

古本コーナーなんかは要チェックねと、寝起きのヨシノに伝える。

 

 

「ゲッシー。いきなり飛び出たりしないでね」

 

日曜日。レンタルショップの駐車場にヨシノはいた。

彼女の手元、ファスナーを閉めた手提げ袋が蠢く。

そう、中にゲッシーが入っている。

ぬいぐるみって事で不問にしてくれないかな。

外に出たいゲッシーが、周囲に聞こえないように懇願する。

 

「バレたらどうするのさ…行きたいってワガママにこっちは応えてるんだよ」

 

勿論、ゲッシーが見つかった時のリスクは計り知れない。

誰から見ても、ただのハイテクグッズやペットでは、

到底説明できないような未確認生物。

警察や研究機関が黙ってはいないはず。

 

「研究機関ってどこなんだろうね…大学かな?」

 

そのような懸念を説明するヨシノだが、

具体例は思いつかない。将来の第一志望である、

地元の国立大学を連想する中、

ヨシノにとってなじみのある声が響く。

 

「あっヨシノ!よっす」

 

凪とその弟、順(じゅん)である。

週末、順が参加するカードゲームの大会がある。

そのついでに同じショップに寄っていこう。

そのような約束をヨシノと凪で取り決めていた。

 

「ホントによかったの?もっといい店あったんじゃね」

 

凪は、たまに家族のプレイヤーを拝借したり、

順のゲームに付き合ったりするなど、

ゲームも扱うこの店への適性は相応に高い。

一方のヨシノは配信派。

テレビ番組を視聴しても、DVDはさっぱり。

ゲームも動画配信を眺める、といった有様である。

 

「凪って部活で忙しいでしょ?一緒に遊べるなら別にいいよ」

 

間違いなく、ヨシノにとっての本音である。

しかし、傍らにいるのはゲッシー。

今の彼女は、脚本都合と言う名の打算を無理やり付与されている。

以下は、数日前のやり取りである。

 

「この街には古文書が何冊かあるんだよね」

「古文書?」

 

ヨシノの部屋での二人の会話。

‭その昔、魔法素粒子界で製本された書物。‬

‭ルミナキャストの必殺技の解明や、

ルミナストーンの在りかを指し示す、錬金術の秘伝の書。

‭それが地球・日本。ヨシノの住む地に眠っているという。‬

 

‭「今更そんな話をされてもね…」‬

 

‭もっとも、種明かしをされた後。こうした世界観もまた、‬

‭あくまでゲッシーら番組スタッフが仕込んだ‭「ネタ」に過ぎない。

街を改造される身にもなってよ。

市民として、どこか白けた反応をするヨシノ。‬

‭もっと真剣にやれ!乗り気ではなさそうなヨシノに対して、

ゲッシーはそう言いたげだが、最初に‬‭ヨシノの没入を削ぐような、

大ポカをやらかしたのは当のゲッシーである。‬

 

「ところで、どういうところにその古文書があったりするの?」

「え、レンタルショップの古本コーナーとか」

 

そんなの売り物にする!?仕込みにしても不自然極まりない。

万が一にも他人に先に購入されたらどうするんだ。

それに値段は?ヨシノの疑問は尽きない。

やる気になっただろ、と胸を張るゲッシーだが、

当のヨシノが抱いているのは好奇心ではない。困惑である。

 

「あ、100円」

「机の裏に落ちてたよ」

 

このやり取りの中、唐突に目に入る勉強机の上の硬貨。

ゲッシー、どうやって拾ったの?と問いかけるヨシノに対して、

説明がわりに、狭い隙間に吸い込まれるように器用に潜り込む。

そこからポンと飛び出すゲッシーの異様さに、思わず閉口。

さすが宇宙のハムスター、只者ではないと彼女が感じた矢先。

 

「これで古文書を買うお金の足しにしてよ」

「そんなんで買えんの!?」

 

どう考えても、100円で買えるような安い本ではないだろう。

古文書と言う厳かなイメージに相反する金銭感覚。

今度は口を大きく開くヨシノであった。

 

 

レンタルショップの店内にあるカフェで、

アイスカフェラテを飲むヨシノ。‭

一方の凪はミルクティー。その弟の順は、

別のフロアのカードコーナーで、

同世代の対戦相手を見つけ、手合わせを行っている最中だ。

 

「何そんな疲れてんの?ヨシノ」

 

現在、部活動にも参加していないヨシノが、

グロッキー状態を見せていたことに疑問を覚える凪。

古文書を探すと言うノルマを課せられつつも、

束の間の休息で羽を伸ばすヨシノであったが、

言い訳をする理由がイマイチ思いつかない。

 

「まあ…色々あるんだよ」

「彼氏とかできた?」

 

そんな訳あるかい!と思わず叫びそうになったが、

ここで突っつかれても困ると、ヨシノは何とか収める。

確かに、友人の気配がないまま疲れ切るとなると、

デートスポットを回り続けるような状況を連想することもあるのかもしれない。

 

「いやー、家の事情って言うかさ」

 

結局、いい回答は見つからず。

エクリプスベルトの一件で賢界に語ったように、

「親戚の男の子に付き合わされて大変」で誤魔化すことにした。

幸いにも、今度写真見せてよと要求するくらいで話題は完結したが、

勿論、ゲッシーの写真など見せられない。

 

「どうしたのヨシノ…ああ昔やってたやつ?」‬

‭「なんかすごい懐かしくなってさ」‬

 

一服を終え、場所を移した‭ヨシノが、凪との共通項に手を伸ばす。

‬‭およそ10年前の変身ヒロイン番組。そのレンタルDVDである。‬

‭性格や嗜好はそれぞれ異なるが、‬

‭彼女たち二人は保育園からの付き合い。‬

‭その時に一緒に語り、共有の話題となったものの一つ。‬

‭それがこのアニメである。‬

 

‭「あの時すごいごっこ遊びしたよねウチら」‬

 

‭凪の方から話題を発展させる。‬

‭ヨシノが明るい主人公の役で、凪がクールな相棒の役。‬

‭不思議と、今の彼女らの印象とは異なるものだが、‬

‭自分に無いものを追い求めていたのかもしれない。‬

 

‭「借りんの?ヨシノ」‬

‭「いや、私の家はプレイヤーないし…配信かな」‬

 

‭じゃあ、あたしが借りような。‬

‭そう思い出したようにカゴに入れる凪。‬

‭もっとも、彼女はバスケットボールに勤しむ身。‬

‭観る暇あるかな、と早速不安がるが。‬

 

‭「その思い出が原体験…ヨシノの原動力なんだね」‬

‭「あまり大きな声出さない」‬

 

‭タイミングを見計らい、抜け出した先。‬

‭外の駐車場のはずれでヨシノはゲッシーと語らう。‬

‭堂々と語るような場所ではない、油断しないでと、‬

‭ヨシノの思い出に馳せるゲッシーに対し、釘を刺す。‬

 

‭「うわー美味しい」‬

 

‭コーラに大喜びのゲッシー。‬

‭ヨシノと暮らす中、何度か彼女から飲み物を貰っているが、‬

‭その中でも炭酸飲料が好みらしい。‬

‭ヒマワリの種とは方向性が大違いだが、‬

‭こちらに関して言うなら、以前の彼の申告通り、‬

‭味覚は地球人のそれ──ホモ・サピエンスに近い。‬

‭やはり、地球のハムスターとは体の作りが違うようだ。‬

 

‭「ハムスターなのにシュワシュワした刺激が好きとは…すっごい不思議」‬

‭「だからハムスター扱いはやめてって!」‬

 

‭最初の出会いの時。ゲッシーが、‬

‭その時と同じ怒り方をしていることを思い出す。‬

‭またもや地雷を踏んでしまったヨシノだが、‬

‭ふと、疑問に思う。何がそんなに嫌なんだろう。‬

 

‭「僕がハムスターだからだよ」‬

‭「へ?」‬

 

‭結論から言うと、ゲッシーは宇宙基準でもハムスター。‬

‭要するに、「人間」として扱われないのである。‬

‭簡単に言えば、言葉を話し、大学を出ていてもペット止まり。‬

‭宇宙人と宇宙生物の差。後者にゲッシーがいるという。‬

 

‭「だからもっと人として認められたい!それが僕の目標なんだよ」‬

‭「宇宙人の感覚ってよく分からないな…」‬

 

‭ヨシノがゲッシーをハムスターと呼ぶのも、‬

‭あくまで地球の生き物のそれと容姿が一緒だからである。‬

‭色々な見た目の宇宙人がいる中で、‬

‭それだけ物を話すのならゲッシーも人でいいんじゃないのかな…。‬

‭宇宙の社会の難解さ。そしてゲッシーのコンプレックス。‬

‭内心でそう思い、遠い目で苦笑いをしつつも、‬

‭ヨシノはその奇妙な世界観をなんとか受け止め、呑み込む。

 

「そういえばさゲッシー。原動力って話、していたよね」

 

そしてヨシノは先ほどの、凪との取り留めのない会話を引き合いに出す。

一緒に入部して、今は県外に転校した同級生。卒業した先輩。

囲碁部に入部した初日、部活動の中で共通の話題がなかった中、

最初に盛り上がった話題の一つが「昔見ていたアニメ」だったと言う。

 

「全員が全員、知ってたわけじゃないんだけどね」

 

部員のうち、男子の先輩に関しては視聴歴がなかったために、

少しばかり置いてけぼりになったようだが、

今は誰もいなくなった囲碁部への繋がりを最初に作ったのも、

ヨシノにとってはその変身ヒロインであった。

 

「そういうのがあって、私、頑張りたいのかも」

 

ルミナタキオンとして初めて戦った時に決めた、視聴者の夢になること。

画面越しの体験でも、確かにそこにあった思い出。

思い出が人を繋げたり、人を救う事があるかもしれない。

何故、自分がタキオンを続けたかったのか。

ヨシノを突き動かす理由の一つが、そこにある。

 

 

順くんのカードゲームの試合は見に行かないの?‬

‭と聞くヨシノではあったが、凪もルールが分からない以上、‬

‭応援のしようがない。それに、観戦をするにも、‬

‭実況をしたり歓声を上げるような場所でも、‬

‭何なら試合の様子すら近くで確認しようがないが故に、‬

‭特に弟もそういった引率を求めてはいないようだ。‬

 

‭「もののついでって感じだけど…私は見に行こうかな」‬

 

‭実際、ヨシノもカードゲームのルールはさっぱりである。‬

‭しかしながら、最近企画を打ち切る羽目になった、‬

‭ひいきの動画配信者の男性「オヤマダ」も、‬

‭カードゲームにはいくらか触れている。‬

‭少しでも空気感を知れたならば、‬

‭予備知識が増えて動画が少しばかり面白くなりそうだと、‬

‭情報を仕入れたいのだ。あくまで、雰囲気を横目で見る程度だが。‬

 

‭「オヤマダってアレ?山田空港に今度来るってやつ」‬

 

‭凪の質問だが、当然ヨシノも把握済み。‬

‭およそ1ヶ月後、隣県の空港にて、‬

‭オヤマダのリアルイベントが開催予定である。‬

‭と、言うよりもヨシノが話題に度々出していた内容を、‬

‭凪が覚えていた、と言った方が近い。‬

 

‭「凪と話してた彼氏ってそのオヤマダ?」‬

‭「違うわ!」‬

 

‭突然、会話に割り込んだゲッシーに思わず怒る。‬

‭互いになんとか声を抑えつつも、‬

‭余計な茶々を入れるんじゃない、と叱りつけるヨシノ。‬

‭ヨシノもオヤマダに異性として好意を抱いているわけではない。‬

 

 

‭「あ!ヨシノじゃん!ほらコレ!うんこ!」‬

‭「は…はは…」‬

 

‭順の試合はまだ始まっていない。‬

‭そして、順もふざけてはいるが、狂ったわけではない。‬

‭ただ、自身が行なっているカードゲームの、‬

‭キャラクターカードを見せびらかしているだけだ。‬

‭児童向け漫画雑誌の付録についてきた、‬

‭排泄物をモチーフにしたモンスターか。‬

 

‭「バカ順やめろって!」‬

‭「はは…」‬

 

‭何だかんだで着いてきた凪が代わりに叱りつけるものの、‬

‭ヨシノもどう反応していいか分かったものではない。‬

‭愛想笑いでひとまずやり切る。と思ったのも束の間。‬

‭手提げ袋から漏れるのは笑いを堪える声。マジか。‬

‭唐突な下品なフレーズ。ヨシノの笑いのツボは刺激しなくとも、‬

‭小学生相当の感性であるゲッシーの琴線に触れてしまったのか。‬

 

‭「やばっ着信!待ってて凪!」‬

 

‭万が一にも、バッグから漏れる笑い声が、‬

‭本当に着信音だった場合の不気味さは計り知れないが、‬

‭その場を離脱することに成功。ゲッシー!‬

‭視聴者に対してもっと品格を持ちなさい!と、‬

‭手提げ袋を軽くはたくヨシノ。うげっ!‬

‭と声をあげるゲッシー。これでは焼石に水である。‬

‭そんなヨシノが走って逃げた先。‬

 

‭「あ、古本コーナー」‬

 

偶然か、はたまた自身の無意識がこの場を選んだか。‬

‭ヨシノは当初、ゲッシーが掲げていた古文書の件を思い出す。‬

‭いつか見つかればいいけど。その程度の軽い気持ち。‬

‭他には特に何も考えず、なんとなく本棚に手をかけるヨシノ。‬

‭手に取った本の名は「ルミナストーンのすゝめ」。‬

‭嘘でしょ…。あまりにも都合のいい状況。何の努力も感慨もなく、‬

‭目当ての書物を見つけたことに対し、‬

‭ヨシノは驚く段階にすら至らず、眉を顰める他なかった。‬

 

‭「何これ…読めない」‬

 

‭都合のいいことばかりではない。‬

‭日本語で書かれた表紙に対して、その本文は見たことのない文字。‬

‭魔法素粒子界の言語か、或いは宇宙のどこかの星の、‬

‭実在する言語なのか。ヨシノが知る由もないが、‬

‭そこで僕の出番だとゲッシーが名乗り出る。‬

 

‭「僕は魔法素粒子界の錬金術師の弟子だからね。これくらいお手のものさ」‬

 

‭初めて聞いたぞ、そんな設定。状況が状況だったからか、‬

‭裏事情ばかり聞かされてきたヨシノ。‬

‭「表側」の領域の話はもっと積極的に出していってよと、‬

‭歪な状況に付き合わされる彼女の内心も然りである。‬

店員の目を盗み、古文書の内容を確認し始める。

 

‭「エスペラントだったかな…」‬

 

‭地球で一番近い言語がそれだと、ゲッシーは言う。‬

‭書物に書かれているのは、錬金術師が使う人工言語。‬

‭自然に生まれたものではなく、普段使いの言葉ではないが、‬

‭錬金術師同士のやり取りで扱われる言語とのこと。‬

 

‭「全文じゃなくて要点だけど…内容を読み上げるよ」‬

 

‭賢者の石たるルミナストーン‬

‭その姿は石に限らず‬

‭形ではなく在り方を疑うべし‬

 

‭ルミナストーンは最初に見せた宝石型だけではない。‬

‭基本の宝石型とは別に、全く異なる見た目をした、‬

‭別形態のルミナストーンも存在しているという。‬

 

‭「確かに…ルミナボックスの窪みって色々な形をしてるんだよね」‬

 

‭ゲッシーが手提げ袋の中に入れていた、こっそり持ち込んでいた宝石箱、‬

‭ルミナボックスの中身のデザインを確認する。‬賢者の石。

石であるかも曖昧と言われている程の未知の概念であるが、

魔法素粒子界でもある種、それに沿った在り方をしている。

 

「わざわざこっちに来て探すってことは、簡単には作れないんだね、ルミナストーン」

 

ふと、ヨシノは考える。ルミナスコープが沢山あるなら、

魔法素粒子界でルミナキャストの兵隊集団を作ればいい。

あの時の博士が用いていたのもレプリカ。それ故、

そうしないだけの事情があるのだろうと。

 

「あっ、これ大事な文だ!」

 

そんな考察への回答を答える前に、ゲッシーは重要事項に思わず声を張る。

やめい!騒ぐなと慌てて口を塞ぐヨシノ。気を取り直して、

ルミナストーンの在処が予言として書かれていると、

ゲッシーはその内容を述べる。

 

とある日曜日のレンタルショップ

女子中学生とハムスターのような魔物が

カードショップのストレージコーナーに

紛れているルミナストーンを見つけるだろう

 

「ただの状況指定だよ!」

 

もう少しいい文章は無かったのか。

明治か大正。少なくともその時代に書かれたはずの、

錬金術の書物としての威厳の欠片も時代考証も何もない、

ふざけた文言にヨシノは思わず叫ぶ。

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