魔法少女演ってます ~魔法素粒子ルミナキャスト~ …のショー!? 作:砕(サイ)
ある日の放課後。少女が市立図書館へ足を運び、
自身の学校の図書室には置いていないような美術書を借りた時の出来事である。
その帰り道に見かけた、不気味な影の怪物と、
奇妙な仮面の男。そんな奇怪な二者と釣り合わない、
ファンシーな丸いフォルムの大きなハムスター。
大道芸でも始めるかのような、異様な集団。
「るみな…きゃすと?」
そして一際目立つは、輝く色彩を纏った、フリルドレス姿の同級生。
好奇心に導かれるまま、死角を見つけ、物陰からその奇妙な一団の姿を覗き見る。
項垂れ、歯を食い縛る少女の同級生。そんな彼女を気遣う間もなく、
弁解するように宇宙の番組放送の世界を語るハムスター。
「ヨシノさん…」
その心配は杞憂だと言わんばかりに、彼女の同級生・ヨシノは力強く立ち上がる。
決意に満ちた瞳。最後に放った光のバリア。覚悟と希望を込めた、その言葉。
総天然色のヨシノの姿を目の当たりにして、少女は今まで、
自身がモノクロの世界にいたことに気付く。
「来たわね、ヨシノさん。こっちがイーヴィルタキオン」
時は現在。彼女の傍らに立つ、ペルソナクスをも凌駕する最強の存在。
もう一人のタキオンの名をサラリと紹介するのは、ヨシノの隣の席の賢界《のりか》。
1年間も戦いに付き合わされることに困惑したヨシノとて、
ルミナキャストとしての戦いはまだまだ序盤と感じていたところ。
このような自身の影、闇。表裏の「裏」と対峙するのは、
こんなタイミングでは決してないはず。
このプロットの番狂わせは彼女の脳をショートさせるには十分。
「三鳥さん!どういうこと!?」
そして何より、同級生がルミナキャストの存在を知っていたであろうこと。
今まで、賢界は何度かその要素を会話に被せてきたのは事実。
一体、いつからルミナタキオンに気付いていたのか。
ヨシノの困惑は、最初にルミナタキオンに変身した際、
ゲッシーに事実を伝えられた時に匹敵する。
「最初からよ、ヨシノさん」
ウソでしょ…。
さすがのヨシノも動悸の如く瞳を揺らし、言葉も発せず。
自分を弄んでいたのか。その目で訴えるが、
ヨシノが見る賢界の笑顔には、一点の曇りもない。
「公園の近くで、ルミナタキオンになったわよね?ヨシノさん」
「げっ!まさかジャミングがちゃんと機能していなかった!?」
今度はゲッシーが目を丸くし、思わず跳ね上がる。
ゲッシーの言うジャミング。これは、ルミナキャストの「撮影」が始まる際、
一般人への認識を阻害する、特殊な装置が稼働することを指す。
通り過ぎた老婆のように、意図的にオンオフを切り替えることも可能だが、
余計な干渉を避けるために普段は常時稼働していると言っていい。
例外を除き、この機能があるうちは地球人はルミナタキオンの戦いに気付けない。
「…そのわりに私の動画、ネットに上がってたんだけど」
「あ、それはワザと」
ヨシノは野球部員が廊下で花を咲かせていた話題を引き合いに出す。
しかし、図書室のやり取りが示したように、ある程度のラインにおける、
一定の困難は盛り上げるためのハプニングは最初から織り込み済み。
それで今、おかしなことになってるんだろうがい!ヨシノはなりふり構わず叫ぶ。
「ああそれそれ!ルミナキャストで観たヨシノさんだわ!」
何処かコントじみた、両者のやり取り。そんな芸を見せつけられる中、
己が両拳を絡ませ、満面の笑みで賢界は歓喜する。
そして、賢界はノートパソコンを取り出し、その液晶に映る画面を見せる。
宇宙の番組、魔法素粒子ルミナキャストである。
タキオンとムジカントムが所狭しと暴れる、ルミナキャストの映像。
BGMには編集が加わったであろう、ヨシノが発した事のないような、
毒気のないセリフの数々。それらを背景にして賢界は語る。
「私…あの時ヨシノさんがみんなの夢になるって言った時、本気で感動したの」
ヨシノが夢になると決意したその日。誰も気付かぬ間合いで、
その心意気を目の当たりにしたのが賢界であった。その直後、
彼女が出来るありとあらゆる手段を使い、宇宙との交信を果たしたと言う。
「宇宙では不正アクセスを防ぐために特定のプロテクトがあるのよね?ゲッシーちゃん」
「ああ…宇宙共通の規格だよ。基本的に通信機器にはどれも組み込まれてる」
そこまで言った瞬間、アッと大口を開けるゲッシー。
その反応こそが、何を以て賢界が宇宙との繋がりを得たかを示している。
ヨシノたちの地元有数の有力な家庭のお嬢様たる彼女。
「地球は一応未開の地でしょ?まだ宇宙の法律は私たちに適用されないわ」
端的に言えば、父の会社をきっかけとし、
そこでコネを得たエンジニアに協力を得て、
ゲッシーたちの利用する中継局にそのまま接続。
そこからWebサイトにアクセスする要領で、
宇宙の配信サイトへの会員登録等を完遂したと言う。
「地球の通信プロトコルにはプロテクトなんてないもの」
宇宙の通信機器からしたら、地球のそれは型落ちもいいところ。
それ故に、不正アクセス防止プログラムの対象から抜け落ち、
遠い星との接続が可能となる中継局に接続。そこから、
地球外生命体のWebサービスを利用するに至ったという。
「…御託はいい。ルミナタキオン。お前を斃し、私が本物となる」
割り込むように、イーヴィルタキオンが口を開く。
黒く反転した眼球に、金色に輝く瞳。禍々しい色彩の衣装。
纏う殺意は間違いなく本物。その横で首を傾げて微笑む賢界。
どう考えてもそれは同級生にぶつける殺意ではない。
「ヨシノさんならこれくらいの子、きっと打ち勝ってくれるはずよ」
マジか。ヨシノは賢界の狙いを漠然と理解する。
この少女は自分に試練をぶつけに来たのだと。
脚が震えるヨシノであるが、これも強さへの不安ではない。
賢界に対しての畏れである。一方のイーヴィルも、
禍々しい色味のルミナステッキを携え待ち構える。
「そんな偽者に負けるほど、私は弱くはない!」
既に逃げ場はなし。他に道はないなら前進あるのみ。
自身が憧れたヒロインたちもそうしたはずだと、
ヨシノはルミナスコープを覗き込み、吸い込まれていく。
「届ける想いは光を超える。ルミナキャスト――ルミナタキオン!」
「闇
開幕早々。ルミナタキオンは腰を落とし、
タキオンシフトによるスタートダッシュを決める。
一方のイーヴィルタキオンも、同じ構えのもと、
そのまま体を光へと変換していく。
その姿は瞬く稲光。二人のタキオンが、僅かな時間で、
姿形も持たずに幾度となく衝突を繰り返す。
「イーヴィルは単純なスペックなら本家の数倍よ」
賢界が放ったその言葉に違わず。
闇い稲光に弾き飛ばされ、タキオンシフトを解除。
そのまま勢いよく地面めがけて射出されたのは、
本家たるルミナタキオンである。
「そして、タキオンが出来ない事も可能なの」
地面に叩きつけられる間の僅かな時間。
四方八方。吹き飛ぶタキオンは、
自分の周りに光の球が向かうことに気付く。
「(タキオンシフトと同時に…ルミナライトアップ!?)」
ダメ出しと言わんばかりに、
イーヴィルが高速移動・タキオンシフトの最中に放った光弾・ルミナライトアップ。
前回のレンタルショップでムジカントムが指摘したように、
本来、タキオンシフトは素手の状態ではないと使用できない。
しかし、イーヴィルタキオンはその制約もなく、
難なくステッキと併用して使いこなしているのだ。
「させるか!」
タキオンが叫ぶと共に、
爆撃のような光と衝撃が辺りを包み、
その余波でゲッシーを吹き飛ばす。
近くの木に叩きつけられたゲッシーであったが、
そのまま転がり、なんとか受け身を取る。
「無傷か…だが、消耗はしているな」
ゲッシーには興味すら示さず。淡々と確認しながら、
禍々しい閃光のタキオンシフト──もとい、
イーヴィルシフトを解くイーヴィルタキオン。
そのまま軽やかに着地したイーヴィルは、
巻き上がった煙が晴れた先を見つめる。
爆心地には、華やかな灯りのドーム。
間一髪のタイミングで、タキオンは己が技、
タキオンフィールドで全弾を受け止めたのである。
「イーヴィルテレパス」
それでもなお、息継ぎなしにイーヴィルの攻撃は続く。
就職浪人の心を救い、節木凪
本質は対話であるルミナテレパスとは決定的に異なる要素。
「頭が…割れる!!」
それは、その性質が「拒絶」ということ。逃げ場の無くなった脳が、
頭で直接暴れ回るように、タキオンの心身を削り取る。
いくら頭を抑えても、鳴り止まない規格外の不協和音。
割れるような振動の中で、イーヴィルの言葉がタキオンの心に鳴り響く。
つくづく…正気ではない。
行き当たりばったり。設定も守らない。
販促も露骨すぎる。そのような、
商業展開ド下手のクソ番組に命を張るなど…
恥ずかしくならないのか
「いややかましいわ!」
思わず叫ぶ。
草之根ヨシノとしても、ルミナキャストの構造の破綻はわかりきったこと。
むしろ、最前線で戦う彼女だからこそ身を以て感じている感情。
本放送では編集されていると言えども、どこまで痴態が垂れ流されてるのか。
到底知れたものではない。だからこそ、ヨシノはルミナタキオンとして戦い続ける。
「ひどい内容だからって、逃げ出した方がみっともないでしょ!」
今度はタキオンが拒絶する。イーヴィルに対して流し込まれるは、
草之根ヨシノの激しい叫び。その心の音色は二人のタキオンの内側で完結し、
外には決して響かない。だが、賢界とゲッシーは確かに目撃する。
イーヴィルタキオンの頭蓋が激しく揺れ、そのまま一人でに吹き飛ぶ様を。
そして、イーヴィルテレパスから脱出し、タキオンは再びルミナステッキを構える。
「私が好きだったヒロインは、誰も逃げなかったからね」
「フフフ…お前らしくはあるが、余程苛立っているようだなあ」
光の差さないガルニエ。腕を組み、指をメトロノームの如く動かし、目を細める。
観客席に座るゴシックドレスの少女の有りように、
その後ろで寄りかかって佇む仮面の男は、どこか得意そうに嘲笑う。
「黙りなさい。やすやすとやられた分際で」
普段ならば、自らが立つはずの壇上と向き合い、特等席に座るエゴシック。
その舞台の上では、タキオン同士の戦闘が映像として投影されている。
偵察目的にチューンナップされた劇場に映るのは、
かつてない激闘。その様子を彼女は険しく睨むばかり。
余程機嫌を損ねているようだが、不安か、嫌悪か、
直接自分が戦いたくても戦えない無力感か。その理由は語らず。
「ハラガヘッタが言うように、漁夫の利でも狙っていいかもな…つまらなくはあるが」
先日、イーヴィルタキオンに敗北し、撤退したムジカントム。
療養中のこの男も席に着き、コーヒーカップを手に取り、観戦に興じる。
その熱を口元に持っていき、仮面とカップを衝突させながら、
ルミナタキオンとイーヴィルタキオンのぶつかり合いを高みの見物。
カチャカチャと仮面と陶器の演奏が続くばかりだ。
「そんな仮面外しなさいよ」
エゴシックもさすがに視線を回し、思わず呆れを漏らす。
ムジカントムの美学の一つは、仮面を外さないこと。
その意思を一貫することに全力な事に、エゴシックは決して否定をしない。
だが彼女は思う。ムジカントム。熱い飲み物じゃお酒みたいに、
目に入れ込むのが出来ないからって無理がありすぎでしょ。
彼女は声には漏らさないものの、冷ややかな視線をぶつけた後、観戦に戻る。
「確かにあんな奴に戦いの手柄を取られるようでは、苛立つのも当然だろう…」
ムジカントムはそんな間抜けな姿を晒しつつも、
エゴシックの感情を読み取ろうとする素振りを見せる。
もっとも、この男にとって、自分以外の世界は総てが書き割り。
彼女の真意にどこまで向き合うかは未知数だ。
「それにしても…どうやって番組を乗っ取ったんだ」
イーヴィルタキオンの攻撃の余波で負傷しつつも、ゲッシーの目下の心配事は、
異常事態中の異常事態を巻き起こした賢界
もしかして、全く別口の宇宙人なのかと問うも、自分はあくまで地球人とは彼女の弁。
では、何をしたか。答えは極めてシンプル。そのものズバリ「買収」であると言う。
「ゲームのキャラクターって、別に生きてはいないわよね?」
今回、賢界が買ったものは「番組の1話分の放送権」と、
「3DCGスタジオ」。ただし、後者はあくまで物の喩え。
地球に存在する一番近い表現の形態が3DCG、程度の意味だと言う。
賢界は一つ、ゲームを引き合いに出して説明を始める。
「あれはあくまでプログラムで動いているだけ」
「そりゃそうでしょ」
イーヴィルタキオンとの肉弾戦を繰り広げる最中。
不意にヨシノとしての顔を見せたタキオンの率直な反応が示すように、
多少なりともゲームなどのカルチャーに触れる中学生ならば、確認するまでもない内容。
ところが、宇宙ではそうとも言い切れない。そう賢界はヨシノの常識を否定する。
今回、イーヴィルタキオンの作成を依頼した製作所が作る、
「キャラクター」とは地球のそれとは全くの別物。
そこで作られるのは質量のあるホログラム。自律した人格を持つ存在。
すなわち、生きたフィクションである。
「宇宙じゃアニメのキャラクターも生き物に近い…実在する者も多いのよね?ゲッシーちゃん」
「確かにそうだけど…そんなところまで踏み込んでるのか!」
本来なら、地球人が知るはずのない情報。
それをベラベラと解説する様に対して、ゲッシーは驚きを隠せない。
彼女の喩えは続く。最近手に取った漫画のキャラクター。
或いは街角の看板に描かれたマスコット。ヨシノも何らかの形で毎日見かけるであろう、
それらキャラクターが実際に芸能活動をしている感覚こそ、賢界が地球人目線で、
種族としての「キャラクター」を見聞きした感想に近いと言う。
そして、イーヴィルタキオンの誕生の経緯を一通り語ったところ。
「どこからそんなお金用意したの君!?」
賢界のそれは女子中学生が放つものとして、あまりに身も蓋もない回答。
余計に深まった謎に対して、思わず身を乗り出し、問い詰めるゲッシー。
一体いくら積めばそのような行為が可能なのか。
そもそもどんな通貨を利用したのか。ゲッシーが困惑のループに陥るも、
それを脱する条件分岐
「10万円よ」
「10万!?」
今度はタキオンが叫ぶ。10万円。イーヴィルの攻撃の余波で吹き飛び、
一人と一匹の会話に割り込まざるを得なかったタキオンが声を張ったのも、
その金額が中学生のお小遣いとして破格だからではない。
その程度の金額で、宇宙のメディアをコントロールする異常事態に対してである。
そんな困惑に応えるが如く。畳み掛けるように、賢界は買収に至ったシンデレラストーリーを回想する。
「地球の貨幣価値ってものすごく高いのよ」
様々な創作物が宇宙の広域で人気を博したことがきっかけで、
地球の文化的価値が高いと言うのはゲッシーも述べた通り。
しかし、本格的に経済取引を行ったのは、賢界が実質的な第一人者となる。
その際に、地球の通貨のレートを算出したところ、
1円が何万倍もの価値になったのだと言う。
「この手の話で地球側の方が有利なの初めて見たよ!?」
同級生が一時的にとはいえ、どうしようもできなかった番組
荒唐無稽の極致。完全にタキオンは引っ込み、
草之根ヨシノを前面に出してしまうが、
交代した顔
「随分と余裕だな…ルミナタキオン」
二人と一匹の会話に光弾が混ざったところに、タキオンは即座に雑談の場を退室する。
イーヴィルの方も創造主を殺すわけにはいかないのか、
威力そのものは近くの賢界が身を逸らす程度で済むほど抑えられている。
「余裕ぶってるのはそっちも一緒でしょ」
そんな牽制を放ったイーヴィルの目の前には、本家タキオン。
間髪入れずに正中線にルミナステッキをかざし、タキオンフィールドを放つ態勢に入る。
しかし、それに対応できないイーヴィルではない。鏡合わせのように、
同時にステッキを掲げ、そのまま互いの全身全霊を展開する。
「心の速度で、光と闇を包み込む!覆い尽くせ!タキオンフィールド!!」
「破壊の速度は、光と闇をも閉じ込める!塗りつぶせ!ネガ・タキオンフィールド!!」
タキオンフィールドを同じ位置で、同時に放つとどうなるか。
誰も考えなかった疑問だが、賢界は先に、一つの結論を述べる。
「バリア同士が重なり合うの。どっちかが上書きするまで」
タキオンフィールド同士が、相手を掻き消そうと交じり合う。
本家タキオンフィールド。そして、イーヴィルタキオンによる、
ネガ・タキオンフィールド。最強の盾同士でも、矛盾は発生する。
双方が相手の技を上書きするのを繰り返し、何人たりとも通さない、
万物を遮る盾の座を奪い合う。
「タキオンフィールドって同時に放つとこうなるんだ…すごいなー」
「感心すな!」
あまりにも締まりのないゲッシーの感心。
外野の声など気にしている暇はないものの、相棒の他人事っぷりに、
ルミナタキオンとしても声を荒げずにはいられない。
「私のタキオンフィールドよりも強い…!」
しかし、本当にそれどころではないのだ。反発し合うこの力場。
いつ体細胞ごと焼き尽くされるか分からない、壮絶な圧力に対し、
その足裏に全体重を乗せ、タキオンは踏ん張る。
混ざり合いながら、激しく反発し合う二つの領域。
この鍔迫り合いに勝ったのは、ネガ・タキオンフィールドであった。
「ウソだろタキオン!!」
そのままイーヴィルの必殺技に弾き飛ばされ、
受け身も取れずに思い切り宙を回る相棒の姿。
普段はふざけた態度も混じるゲッシーとて、
絶望を感じざるを得ない。だが、
そのまま地面に叩きつけられたタキオンは、それでも立ち上がる。
自身の技
威力を減衰させたのは勿論。
「本物が偽者に負けてたら、みんなガッカリするでしょ?ゲッシー」
それ以上に、自分に負けてはいけないと、傷ついてもなお、諦めない。
草之根ヨシノが信じたヒロインの姿を瞳に映しながら、
タキオンはいまだ闘志を燃やしている。
「自分の心の闇にもこんなに果敢に…さすがヨシノさんだわ」
「何が心の闇じゃ!」
イーヴィルタキオンは草之根ヨシノの人格から派生した闇でもなんでもない。
三鳥
如何にしてイーヴィルが生まれたのか。賢界による台本を口頭で突きつけられるが、
ありもしない闇などルミナタキオンは望んでいない。
「ノリカ…何故君はそこまでヨシノに入れ込むんだ?」
数ヶ月分のお小遣いを出した価値はあったわね。
そう、自身の同級生を称賛する賢界に対し、ゲッシーは番組を乗っ取った理由を問う。
それを聞くの?と言った顔つき。そんな彼女の動機は単純。眩しかったから。
ヨシノがルミナタキオンとして戦い続けることを選んだ理由。
戦いを続けるか否かの選択肢を突きつけられたきっかけ。それらは必ずしも、
世界平和のためでもない。金銭のためでもない。
「そんな中、いきなり戦いの場に放り込まれて喜ぶ人がいる?」
「う…すいません」
謝るな!タキオンは、ゲッシーの不甲斐なさに思わず怒号の横槍を入れる。
しかし、賢界はむしろ、先に答えを言ってくれたと朗らかに笑みを浮かべる。
騙す側すら申し訳なくなるその構造。それこそが、
賢界がルミナタキオンに惹かれた理由である。
「私も、クラスメイトも…みんな投げ出すと思うわ」
ゲッシーのタブレット越しに見せられた、ファンの声援。
事故のように眼前に飛び込んできた、いかがわしいファンアート。
確かに、草之根ヨシノはルミナタキオンとして、視聴者からの声援を受けていた。
だが、面を向かって自分の歩みを肯定される行為。
無論、これは初めてのことである。
「だから、最強の壁たるイーヴィルタキオンを乗り越えて、輝いてほしいの」
「いやもっとやり方があるでしょやり方が!!」
草之根ヨシノに誰よりも希望を見出した少女。
そんな賢界が行っている事といえば、死の概念をダイレクトにぶつける事。
よもや、自分の覚悟が友人を狂わせたとは。そんなヨシノの動揺を許さぬように、
イーヴィルは正中線上にステッキを構え、ネガ・タキオンフィールドの次弾を装填する。
「まずい!ヨシノ、逃げるんだ!」
イーヴィルの位置関係を見るに、タキオンに対しての追撃は問題なく可能。
身の危険を案じ、逃走を促すゲッシー。だが、タキオンは逃げる素振りを見せはしない。
そのまま、ルミナステッキを前方に掲げ、伸ばし切った右腕の内側の肘。
肘窩
「まさか…新必殺技!?」
思わぬタイミング。ゲッシーすら予想外のこの事態。
ただの新技ではない。ゲッシーがその体毛で感じたのは、
タキオンフィールドをも凌駕する、敵を打倒する強烈な力。
あり得ざる最強の敵の存在。それこそが、タキオンの生存本能を後押しし、
草之根ヨシノの心を昂らせるトリガーとなる。
友達が応援してくれるんだから、ファンサービスの一つくらいはしないとね。
「タキオンレーン!!」
ネガ・タキオンフィールドと同時に放たれたのは、
前方一直線に突き進む光の線。輝く閃光がそのまま破壊のバリアに直撃する。
最強の盾と激突するは、最強の矛。この場にいる誰もが、
万物を貫くであろう、その威力を確信する。
「させるか!ルミナタキオン!!」
前振り一つ存在しない、未知のデータ。大腿筋、ヒラメ筋、アキレス腱。
常に優位に立っていたイーヴィルタキオンも、未知の力に対して、
その顔を四方八方に歪ませ、全身全霊で受け止めざるを得ない。
反発する光の奔流が溢れ出し、皆の視界を覆い尽くした。
「効いてない…」
最強の矛と最強の盾の激突は、引き分けに終わる。
タキオンフィールドから汎用性を取り除き、破壊力に特化させた、
タキオンレーンの威力はおおよそ数倍。だが、
それはネガ・タキオンフィールドと同程度に留まる。
「違うよ、ゲッシー。イーヴィルも消耗してるし」
タキオンの言う通り。先程までと比較し、汗ばみ、
その息は上がりつつある。しかし、一転。それで止まるイーヴィルではない。
間髪入れずに突っ込み、毒々しい色味のルミナステッキを以てして、
頭骨めがけて振りかぶる。タキオンシフトで間合いを取るのも叶わず。
タキオンは自身のステッキでその棍棒を受け止める。
「実はお金を稼ぐのもお坊さんが質素に生きるのも一緒。要するに見方の差って事なの」
脳にかかる負荷と刺激という意味では、
修行や禅問答も会社の仕事がきついと言った悩みも一緒。
すなわち出力の差。その人がどんな生き様を持っているか、
最終目標に何を求めるかの差だと言う。
「あんな素晴らしい目的を持ったヨシノさんだもの。絶対歴史に残るわ」
賢界の持論としては、誰かの為に戦えるヨシノがルミナタキオンとして頑張れば、
それは悟りや解脱の類に近い、ある意味では神の領域に近い存在になる。
あまりにも飛躍した理屈ではあるが、要するにヨシノが頑張る様が愛おしい、
と言った結論だ。
「いや何言ってんの!?」
さすがにヨシノもこう返す他ない。ただ彼女は視聴者の為に頑張っているだけで、
そこまで自分が頑張る根拠は求めていない。
ひとまずイーヴィルタキオンとの鍔迫り合いに戻った。
「それにしても、あんな小金だけある悪趣味の道楽小娘に番組をいいようにされるとは」
そんな事だからお前は私には勝てない。
イーヴィルタキオン版ルミナステッキ・イーヴィルステッキの、
異常なまでの馬力に押しつぶされそうになるルミナタキオン。
そのあまりにも強烈な膂力にふと目を逸らして視界に入った賢界は、
目を見開き眉を顰めた、あまりに悲壮な表情を一瞬浮かべていた。
「いや傷つくんかい!」
イーヴィルが言い過ぎなのは確かだが、
そうも言われるのはごもっともだろう。そんな風に、この絶望的な状況において、
ヨシノはツッコミと死闘の反復横跳びをする。だが、
そんな間もなくタキオンステッキは弾き飛ばされる。
望遠鏡の造形に似合わぬ鈍器として、イーヴィルステッキが頭蓋を割ろうとしたのも束の間。
体勢を器用に変えたタキオンは白羽取りで、色味の暗転した互換アイテムを受け止めた。
その瞬間。突如、破壊力を伴った光が両者を包む。
「なっ…暴発!?」
タキオンがルミナステッキから光の弾丸を放つ基本技、ルミナライトアップ。
もっとも、言い換えればイーヴィルライトアップか。
謎の発光で双方弾き飛ばされたところ、先に立ち上がって接近したのは
ルミナタキオンの方。意味不明な状況に直感的な違和感を覚えた彼女は、
そのままイーヴィルステッキを掴み、念じる。
「ちょっ…待」
イーヴィルタキオンが声にならない悲鳴をその顔で上げ、
そのまま光となり霧散した。この場にいる誰もが困惑、閉口する。
それもそのはず、ルミナタキオンは草之根ヨシノに戻る変身解除プロセスを、
そのままイーヴィルタキオンに実行してしまったのだ。
「本当に通ったんだ…」
これは何か。端的に言うならば、イーヴィルはヨシノとタキオンを解析し、
カタログスペックを底上げしてコピーアンドペーストしたような存在であるから。
すなわち、「同一人物」と見做されたのである。
つまり、イーヴィルタキオンは変身を解除されたに過ぎない。
「変身前」など存在しないパラドックスに見舞われ、消滅したのである。
「え…これどうしよう」
自分の闇…の捏造を覚悟の強さや力や技術ではなく、
「システムの穴」で倒してしまった事に、有り余る空虚さを覚えるヨシノ。
これで本当に視聴者は喜んでくれるのか?勝ったはいいが、
頭は真っ白。そんな彼女の雪を晴らすかのような拍手喝采。
「すごいわ!ヨシノさん!私が想像だにしなかった方法で攻略するなんて!」
敵の隙をついて倒したのは事実。賢界は目を輝かせ、
自分自身の闇を乗り越えたヨシノに最大の賛辞を送る。
この闇ってアンタが捏造した外付けだけどな。そう思いつつも、
とりあえず喜んでくれるだけマシかと、自分を納得させる他ないヨシノであった。
私、草之根ヨシノ…
いや三鳥さん!さすがに発想がヤバすぎるよ!!死ぬかと思ったわ!!
そして、最強の敵を倒したと思ったら、今度はゲッシーが降板の危機!?
私のハムスターのぬいぐるみが新パートナー!?
外側どころか内側もメチャクチャだよ!!
そんな中、ゲッシーが道の駅で見つけたものとは!?
次回、「パートナー解消!?ゲッシー、最大の危機!」
届ける想いは光を超える!