魔法少女演ってます ~魔法素粒子ルミナキャスト~ …のショー!?   作:砕(サイ)

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「今年は行きたいなー、テレビ局のイベント…」

ルミナキャストとして、偉大な同業者からインスピレーションを得ようと、
現在放送中の変身ヒロイン番組を視聴していたヨシノとゲッシー。
その流れで画面を眺めていた中、二人を歓迎するように、
テレビの中で微笑む星のキャラクター。そして、
それに対して満面の笑みのヨシノ。‬‭宇宙を旅する二人にご満悦だ。‬

‭「ゲッ!ハニエル!」‬

‭ゲッシー、突然何を言ってるの?‬
‭謎の固有名詞とともに、画面の映像に気まずさを覚える彼に、‬
‭ヨシノは困惑するばかりだ。何の事か分からないのも当然。‬
‭彼女が愛好している地方テレビ局のキャラクターが、‬
‭自分の知己とそっくりなのだと言う。‬

‭「知らないよそんなの」‬

‭ヨシノがそんな事を言うのもごもっとも。‬
‭これは地球産のマスコット。まさかデザイナーや採用した地方局が、
宇宙からその知り合いの写真を撮ってくるはずがないだろう。
そう、他人ならぬ、他星の空似を笑って流す。‬

‭「何がそんなに苦手なの?こんなに可愛いのに」

‭勿論、ハニエルはこのモニターの奥の黄色い男の子ではない。
だけど、見た目が似てるなら会ってみたいのがファンというもの。
ヨシノのそんな問いに対し、ゲッシーは優しくていい奴だったからと答える。‬

‭「器小さっ!」‬

‭さすがにヨシノも一言こう言わざるを得ない。‬


第6話「パートナー解消!?ゲッシー、最大の危機!」 Aパート

‭「フフフ…コックもいないのによくもそんなものを用意できたな」‬

 

‭ ムジカントムとハラガヘッタの両名。ペルソナクスの男二人は、

‭エゴシックがテーブルにエクルビスとグルヌイユを並べ、‬‭食している様に魅入られる。‬

‭要するにザリガニとカエルなのだが、‬

‭フランスではこういった食材もまた、‬

‭相応に品のある料理として食されるのである。‬

 

‭「ガハハ!格好をつけるのも大概にしろ」‬

 

‭ ハラガヘッタは笑いながら、‬‭チーズかまぼこをつまみ、麦酒を飲む。‬

‭その様子を見るムジカントムも変わらず、‬フフフ…と仮面から声を漏らし、

お前はもう少し格好をつけろと、‬ハラガヘッタを嘲笑う。男二人には目もくれず。‬

‭エゴシックはナイフとフォークを巧みに連動させながら食事を嗜む。‬

‭余談ではあるが、彼女はこれら料理の食材を、‬

‭その辺のドブから探し出し、丹念に泥と寄生虫を取り除き、‬

‭自ら調理を行なった。自らを演出するのに余念がないのは、‬

‭何もムジカントムだけではない。ドブ周辺で野宿を行い、‬

‭数日間かけてその泥を取り除いた彼女。‬‭そんな事実は胸にしまい、‬

‭口をナプキンで拭くエゴシックである。

 

 

 ゲッシーは睨んでいた。

自分よりも小さく、それでいて、ふてぶてしくリンゴを齧るハムスターに。

まるで、自分の方が強いんだぞと誇示するが如く。

 

「何ぬいぐるみとにらめっこしてんの」

 

 こいつ僕よりイケメンじゃない!?と、ヨシノに怒りをぶつけるゲッシー。

まさか、私物のぬいぐるみに嫉妬を覚える奴が現れるとは。

ヨシノとしても、今まで考えもしなかったことである。

 

「僕の方が学歴はあるんだからな!」

 

 ゲッシーはヨシノ本人から、彼女の宝物へと矛先を方向転換。

一般的なジャンガリアン程度のぬいぐるみに対し、

自分より小柄なくせに生意気だぞと、サッカーボール大の体躯のゲッシーは怒り散らす。

全く、いじめないの。ヨシノはリンゴを齧る彼を抱きしめた。

 

「言っておくけど、いじめられてるのはゲッシーね」

 

 こんな可愛い子に勝手に傷つけられてるんだからと、

リンゴのハムスターを愛おしむヨシノ。それを見たゲッシーは、

何も齧ってないのに頬袋を膨らます。一方的に荷造りを始めるゲッシーだったが、

これは何も、拗ねたからと言うだけではない。前倒しにしただけで、

以前より、番組の上層部との報告と打ち合わせを行うと伝えていたのは、

当のゲッシーである。

 

「僕がいない間に他のハムスターを増やすんじゃないぞ!」

「あ、ゲッシー。コーラ冷やしてるから」

 

 風呂敷に荷物を詰めて、そそくさと部屋を後にする。

宇宙でも風呂敷って使うんだ…。そんな気の抜けた心持ちで、

ヨシノはひとまず馴染みのぬいぐるみに触ることにした。

 

 

‭「ヨシノ、ワルターについて色々聞かせてほしい」‬

‭「ワルターはね、人の心の闇の部分を無理矢理引き出したものみたいなんだ」‬

 

 翌日。ヨシノの部屋に帰ってきたゲッシーは、‬

‭信じられないものを目にした。‬

ハムスターとヨシノ。‬カップルと呼ぶにはアンバランスな両者が、

ベタベタとくっつき、‬楽しげに雑談を行っている。そして、‬

‭ヨシノの傍らの喋るハムスター。ゲッシーが敵愾心を覚えた、‬

‭あのリンゴのハムスターのぬいぐるみである。‬

 

‭「あ、ゲッシー帰ってきたんだ!」‬

 

 ‭ヨシノが振り向くも、既にゲッシーの姿はそこにはない。‬

‭何処へ行ったのかと身を乗り出す。‬リンゴのハムスターも、

そのままヨシノの肩によじ登り、‬ゲッシー捜索に参戦する。‬

 

‭「ウソだろ…降板!?」‬

 

 昨日のことである。‬ヨシノの立ち入れない、とある領域。‬

真っ白い風景が広がるようにも、宇宙空間が拡がるようにも解釈できる、

不可思議な領域にゲッシーは訪れていた。‭草之根家を不在にして、

番組サイドから命令を受ける際は、‭ここで食事を摂ったり打ち合わせをすることも多い。‬

‭要するに楽屋裏である。そこで、‬ゲッシーはとある相談事を受けていた。‬

 

‭「地球の経済に乗っかることも視野に入れた方がいいかもしれんな」

 

 魔法素粒子ルミナキャストはビジネスである。特に、辺境の惑星かつ、

経済・文化的特異点の地球でロケを行うことについて、

ゲッシーの上司は一つの番組の枠組みをも超えた、

一大プロジェクトと位置付けているとしても過言ではない。

 

「この番組のロケ地には経済機関も潜伏してるみたいだからな」

「ああ、地球(こちら)ではESGと名乗っているとか」 

 

 日本円の1円が、宇宙では5万円、10万円ほどの価値まで跳ね上がる。

そこまで極端なレートの飛躍があると言う事実は、

宇宙の放送局との交渉を試みた地球の女子中学生が現れるまで、

誰一人想定していなかったことであるが、それとは別のルートで、

貴重な文化資源である地球にて、ルミナキャストの撮影が行われると事前に察知し、

宇宙から派遣されたエージェントがヨシノの地元に入り込んでいたと言う。

 

「そう言った側面から…勝手ながら地球の経済と結びつけることができないかと思った」

 

 何か始めるんです?と尋ねるゲッシーではあったが、

"上司"も決めかねていると言う。ひとまずは、

地球の商品を番組内映像に組み込んで、売り込む。

ルミナキャストを視聴する富裕層に地球旅行に来てもらい、

そこで宇宙の経済的組織と提携を結ぶことで、莫大な利益を得る。

 

「…と言った寸法だ。うまくいけばいいが」

 

 特に、「お土産」たりうるもの。ESGも目を付けていると言う、

地球のローカルな商品に注目したい。そのような相談事である。

走るゲッシーは、昨日のやり取りを思い出し、確信する。

自分の替わりが現れたこと。地球のぬいぐるみを、

ルミナタキオンのパートナーとして売り出すことを。

 

 

「もしかしてだが…ゲッシーの奴は見捨てられたと思ったんじゃないか?」

「ええ…しゃくしゃくが新しいパートナーだと思ったってこと?」

 

 「しゃくしゃく」とは、リンゴのハムスターの名前である。

決して実際の商品名ではないが、ヨシノがそう名付けたのだ。

ゲッシーが、彼女のぬいぐるみたる「しゃくしゃく」に嫉妬し、

到底伝える空気ではなかったが、リンゴを齧るかのような在り方が、

その名前の由来である。

 

「俺の方がゲッシーよりもヨシノとの付き合いは長い…それで俺が喋り始めたとなると」

 

 しゃくしゃくはそのまま推測をする。自分が喋りだしたのも、

ルミナキャストという番組からの介入、不可思議な力が由来なのは間違いない。

そして、都合よく設定を改竄する形態である以上、

ゲッシーも例外ではないと思ったのではないか、と。

 

「なにをそんな…それで私がゲッシーをいらないと言うとでも思ってるの?」

 

 ヨシノが振り回され続けているのは事実。

ゲッシーに対して、腹が立ったり苛立ったりするのも事実。

しかし、ルミナタキオンとして一緒に戦う決意をしたのも、

また事実。馴染みのハムスターのぬいぐるみが喋ったこと。

彼女はそれが嬉しかっただけで、ゲッシーの存在意義とは別問題。

 

「どっちかなんて決めなくていいじゃん」

 

 相棒と走り抜くこと。少なくとも草之根ヨシノにとって、

その目標に「選り好み」などと言う選択肢は存在しない。

 

 

 

「ゲッシーどこ行ったんだろ…10円損だよ」

「10円?」

 

 コーラのお釣り。ヨシノが言うには、

自動販売機でゲッシーのために飲み物を購入した際、

エラー硬貨の10円玉が混じっていたのだと言う。

そんな災難の世間話をしつつも、ゲッシーもまだ、

そこまで離れた場所には行ってないだろうと、

学区内を回るヨシノ。傍らには、同行するしゃくしゃく。

ホームセンターでヒマワリの種を眺めていないか。

神社で神頼みをしていないか。旧宅を撮影スポットにしようとしていないか。

一通り巡るも、ゲッシーの手掛かりはない。

 

「ヨシノ…無理に捜す必要はない。あいつは簡単に諦めるようなタマじゃないだろう」

 

 身の丈ほどのハンカチを以て、ヨシノの汗を拭くしゃくしゃく。

ゲッシーが見せなかった気遣いに歓喜しつつも、喉元で閊《つか》える懸念。

エクリプスベルトの一件を考えると、ゲッシーの存在を抹消することもあるかも…。

ヨシノは以前の変身ポーズを思い出し、しゃくしゃくの前で実演しながらも、

どことなく不安を抱く。そんな中、「聞き覚え」がヨシノを呼びかける。

 

「ヨシノじゃん、どしたの」

 

 汗にまみれたヨシノの様子を案じるは、ヨシノの幼馴染、

バスケットボール部の節木(ふしのき)(なぎ)。疲れた様子の理由を問われるも、

普段使いの歩数アプリと最もらしい理由を付けつつ。

凪と町中(まちなか)を歩きつつ、ゲッシーを捜す事にした。

 

 

「どうにかして、僕が相棒だと示さないと…」

 

 恐怖と絶望。感情の混線に惑わされるがまま。

一心不乱に駆け抜けたゲッシーは、見知らぬ場所にたどり着いた事に気づく。

車飛び交う道路沿い。向こう側には緑色の看板が見える。

 

「地球の標識とかってまだよく分からないんだよな…なんだろあれ」

 

 知識にないものの意味を考えるのは二の次。

ルミナキャストを牽引する存在として、相応しい振る舞いとは何か。

自分一人で出来ることはないか。そう考えながら、

「ルミナストーンのすゝめ」をめくる。ルミナストーンを見つけ、

魔法素粒子界を救う手がかりを見出すために。ヨシノにとって、

それはなんの役にも立たぬ行為ではあるが、

番組(ルミナキャスト)の維持としては、目下の重要事項となる。

 

人を癒すは燃え盛る泉

水面の底にルミナストーンは眠る

 

「なんだこれ…」

 

 ヨシノを誘導する素振りが目立つ故、

何でも知っているように見えるゲッシーもまた、

番組に振り回される存在。決して全能ではない。

この古文書の記述にしても、文章は読めるとして、

ニュアンスまでは解せぬことがあるのは矛盾はしない。

 

具体的には地球で言う温泉という施設

 

「あっなんか前にヨシノが言ってた地球の風呂か」

 

 突如、古文書の記載の次行に浮かび上がり、追加される文言。

ゲッシーはその後付けの予言に導かれるまま、独り温泉施設を探す。

そういえば、ESGが目に着けている場所も、

オンセンが近くとか言っていたような…曖昧な記憶で思い出しながら、

タブレット片手にぶらりと始まる、ゲッシーの孤独な一人旅。

 

「開封してなかったパックがあったな…」

 

 まるで日常動作。当てのない探索に疲れ、

一か八かと取り出したのは、もしもの為にと保管していた隠し球。

カード型ルミナストーンの廉価版(コモン版)が封入されている、

明治大正の時代に作られた錬金術師のカードパック。

それら複数パックを、スナック菓子の袋を開けるように、

感動もなく開き、自身を導かないかと神頼み。

 

杜陵の地

レンタルショップの

カードコーナーのストレージで

レアカードが眠るであろう

 

「うおっマジか!」

 

 カードに記されていたのは、思ってもみなかった情報。

地名か、はたまた施設名か。読めない漢字と共に記されていたのは、

以前に探し損ねた、真のルミナストーン・カードの所在。

前回、アクアタキオンとしての姿に至らしめたその切り札。

それは使い捨てと言わんばかりに泡となって溶けていったものの、

今度こそヨシノ達の手元に渡るチャンスが訪れる。

余談だが、ゲッシーは地球の土地勘や地理に関しての知識などは皆無である。

この宇宙小動物単体では、示された情報を活かすことは未来永劫訪れない。

 

「でも今はオンセンの話だったよなあ…」

 

 主題はそこに無い事に気付き、ひとまず保留とするゲッシー。

その眼前で彼を見下ろすのは「天然温泉」の文字が記されし看板。

そして、ルミナストーンを収納する宝箱・ルミナボックスが、

通信機器の着信のように激しく震える。あった!

思ってもみなかった奇跡。ゲッシーは宝石(ルミナストーン)の獲得に向け、

そのまま勇み歩く。

 

「反応が特に強いのはお風呂の中…」

 

 店員の目を盗み、なんとか侵入に成功するゲッシー。

金銭の伴わない入場など御法度ではあるが、

ハムスターが経済取引をすることも番頭は想像していないだろうと、

忍び足で突き進みつつ。湯船の底で揺らぐ、

紅い輝きを目にして、そのままダイビング。

 

「うわっおめ何湯っこさ入っちゅうんずよ」

 

 脈絡なく、茶色い毛玉が湯船に乱入する異常事態。

老人の驚愕ももっともである。ゲッシーの方も、

見知らぬ一般人にその姿を見られたのは損失。

その場をやり過ごすために取ったのは、擬態。

 

「ワン!」

 

 無論、サッカーボール大の丸いフォルムのハムスターという生物は、

この地球に存在しない。犬の方がまだ近いのではないか。

そんな会話を以前ヨシノと交わしていたことを思い出し、

子犬のように吠え続ける。当たり前だが、犬が銭湯に入っていい道理はない。

 

「うえっすいません!」

 

 老人に思い切り湯をかけられて、たまらず塀を飛び越え脱出。

そして、それで諦めるゲッシーではない。即興で作り上げるは、

特製の釣竿。ルミナストーンをサーチして確実に回収する性質を持った、

錬金術師の弟子としての、ゲッシー謹製の秘密兵器。随分と都合のいい設定である。

そのまま勢いよく釣り糸を投げ込み、カラスが釣り針に食いつく。マジか。

不測の事態。カラスも興味を示したか、その嘴から離そうとしない。

引っ張ろうにも、ゲッシーの膂力ではカラスに敵わず。綱引きを早々に諦め、

思い切りその場で回転し、跳ね上がる。ジャイロ回転の遠心力と、その速度。

圧倒的な運動エネルギーを以てカラスと激突し、

そのままゲッシーは思い切り弾き飛ばされる。

 

「ウソだろあのカラス…化け物級じゃないか」

 

 どうした?こっちに来いよと、人間で言う手招きの仕草でその翼を動かすカラス。

番組が創り出したか、地球に元から存在する規格外の個体かは分からぬものの、

ワルターに匹敵する壁となるのは間違いない。そんな中、

カラスはゲッシーの懐から漏れる光を逃さない。アッと驚く。

そんな眼下のハムスターの表情を見て、カラスは確信に至る。

お前の大事なものはそっちの方か。陽射しの反射で煌めいたのは、

ゲッシーのお気に入りのヒマワリの種の袋。目にも止まらぬ速度。

そのまま、辻斬りの如くゲッシーを横切り、

盗人の如くその袋を掠め取る。太陽を背に舞い上がり、見下ろしたその先に、

激しく泣き喚く、弱々しいハムスターが地に伏せ項垂れている。

相手が悪かったな。彼の「本命」を掠奪(りゃくだつ)出来たことに満足し、

釣竿など最初から興味が無かったかのように、その場を去ってゆく。

 

「かかったな…知恵比べは僕の勝ちだ!」

 

 力で敵わないのならば。ヒマワリの種の袋からの一連の行為は全て、

カラスを誘導させるためのゲッシーの演技であった。

カラスのプライドの高さを察知し、咄嗟に自身の大好物をチラつかせる。

肉を切らせて骨を断たせない。釣竿を守るための捨て身の決断であったが、

その食い縛る歯から垂れる血液。それこそが、

勝利の代償たる、好物を喪った絶望を示している。

 

「捕まえたぞ…ルミナストーン!」

 

 圧倒的な強敵たる黒い鳥。カラスに対して、

多大な犠牲を払いつつも、何とか自らの使命を果たしたゲッシー。

吸い込まれるようにルミナボックスに嵌め込まれた宝石は、

ルビーのような紅い姿から、エメラルドの翠に色彩を変える。

 

「よし、いい魔力体反応だな」

 

 魔力体反応。平たく言えば、物質界の炎色反応の亜種である。

反応するエネルギー同士の反発や結合に応じて、

様々な輝きを見せる、といった代物。魔法素粒子界特有の現象である。

本来、賢者の石たるルミナストーンは赤い色を原則とするが、

それでは商品としてのメリハリがないと判断され、

ルミナボックスに嵌め込むと対応する色に変化する機能のために、

後付けされたのが由来の設定こそが、この緑玉の如き輝きである。

 

「疲れた…ちょっと休憩しよう」

 

 この時ゲッシーは、無意識下で最初から目標に向かっていた事に気付く。

歩いた先にあったのは、道の駅。そして、「ESG」がそこにいたのだ。

 

「…地球では見ない品種のハムスターだな」

 

 ハムスター扱いされてむくれるゲッシーの目の前に立つは、

荷物を運ぶ途中にある、エプロン姿の青年。地球人と遜色のないその容姿。

そして、話す言葉は暗号が如く。地球人の耳では知覚出来ない、

特殊な発声。宇宙の言語を以てして、二人は対話する。

Earth Strategy Government。日本語で「地球経済施策団」と言う。

彼らは地球の貨幣価値に優位性を見出し、この星に派遣された、

宇宙のエージェントとも言い換えられる存在だ。

 

「それがお土産屋で働いてるなんてね」

「そう不思議がるな…言わば異星の民族文化の発信地」

 

 それが道の駅。

初対面ではあるが、この星の人間ではないという共通項。

互いの素性を明かし合いつつ、ゲッシーとESGの男は話に花を咲かせる。

品出し、レジ打ち、清掃。ポップの作成、SNSの発信。

これでも、アルバイト代を仕送りするだけで馬鹿にならない金額になるのだ。

大層な肩書のわりに、やっていることはえらく地道だが、

得てして商売とはそんなものである。

 

「いらっしゃいませ〜」

 

 そう、冷徹な表情で熱弁するESG職員兼お土産屋さんのレジ担当は、

会計に買い物かごが置かれたその瞬間、再び地球の言葉を話す、バイトのお兄さんに戻る。

咄嗟に物陰に隠れ、そのまま場を去るゲッシーは、

彼のプロフェッショナルに笑えばいいか、感嘆すればいいか分からなかったが、

抽出された熱意のみを受け取った。

 

 

「あ、ヨシノも歩数気にしてる?」

 

 一瞬立ち止まり、スマートフォンを操作しつつ凪が語りかける。

「歩数」とは彼女らが利用するアプリの話である。

一定の歩数に達したら、何らかのポイントに変換可能。

そうすることで買い物もしやすくなる、といった構造だ。

 

「私は凪とは違うアプリだけどね」

 

 そんな風に、動画広告を尻目に彼女と歩き雑談しているヨシノ。

彼女は歩数をコンビニで使えるポイントとして貯め、

派手な結果主義の凪は、懸賞応募のポイントを適宜発散する。

そんな互いの性格の差が表れている。それなりに歩いた後、

彼女たちの地域に馴染んだクレープ屋に初めて行く。初めて、

と言うのは、以前は大型店舗の一角にあったクレープ屋であったものの、

事業再編の影響でそのテナントが様変わり。空中分解してしまったところを、

地域の無辜の鶴の一声で移転することになったからだ。

 

「うわうまっ!なんでもっと早く行ななかったんだろ私」

「一人で行くの大変じゃん。んなもんっしょ」

 

 チョコバナナとキャラメルバナナ。阿吽の呼吸で同時にかじる。

しゃくしゃくも食べる?とこっそり聞くものの、俺はいいと突き返す。

ぬいぐるみが動き出した存在とはいえハムスターである以上、

人間の食べ物を摂取するのはやはり問題。ゲッシーとは違う。

そうした現実的な観点のもと、しゃくしゃくはカバンに隠れてヒマワリの種をかじる。

 

「いやーでもヨシノがいてよかったわ」

 

 流れるように歩いて二人がたどり着いたのは、ボウリング場。

当初、凪はバスケ部の友人数人と一緒に出かける予定を立ててたところ、

都合悪く急用ができてしまったと言う。予約こそ入れてなかったが、

最初のプランの中にあったのがこのボウリング場とのことだ。

どうせならもっと大人数で盛り上がりたかったとは凪の弁だが、

わざわざみんなを呼び寄せる状況でもないなと訂正し、見送る。

 

「あと美術部の三鳥(みとり)とか?」

「み、三鳥さんか〜…」

 

 ヨシノ側の友人はどうだろうと、凪も一瞬話題に出すも、

当のヨシノの反応はこの通り。悪意こそ無かったものの、

自分の命を狙う彼女との距離感は、さすがにヨシノとて計りかねる。

先日のイーヴィルタキオンのような異常事態は一回限りと願いつつ、

華麗にガターを決めるヨシノ。雑念が入ってるんじゃないかと凪は笑う。

 

「ほら、私やり慣れてないから…」

「そんなのあたしも一緒だし、ホラ」

 

 そう言って、7本ほどのピンを薙ぎ倒す。なにが一緒じゃ!

凪も悪気があったわけではないが、このコントラスト。

ヨシノが自身と全然違うと、悪態をつく理由も分かると言うものである。

 

「あとは、雑念って言ったらまあ…」

 

 気を取り直して、ヨシノは先程の凪の言葉を振り返る。

イーヴィルとの激闘。賢界(のりか)は大いに喜んだものの、

ヨシノにとって、それは実力の勝利ではない。真正面から戦っても勝てない相手。

今後、ペルソナクスは勿論、バグのような存在との戦いが待ち受けるとなると、

どうやって戦えばいいのか。ゲームを続けながら彼女は考える。

そんな中、凪が叩き込んだストライク。ヨシノの視界は、

その光景に吸い込まれていく。

 

「(ボウリングって、真ん中を狙わなくてもいいんだ…)」

 

 球とピンの衝突が、乱反射の如くドミノ倒しを引き起こす。

凪が投げたボウルの軌道は、中心からはズレている。

しかし、伴っているのは速度と所作。二つが乗算された勢いは、

ピンを暴れさせるには十分であった。ルミナタキオンとして戦うにあたり、

常に正攻法を見出そうとしていたヨシノにとっては青天の霹靂。

彼女は凪のストライクにヒントを見出した。

 

「マグレにしちゃ上出来上出来」

 

 凪はヨシノの気付きなど露知らず。

自身の思わぬ会心の一投に浮かれるばかりだ。

腕を伸ばしハイタッチを求めるも、

自分の世界から抜け出さない相方にむくれる。

 

「ちょっと感動しすぎじゃね?」

 

 戻って来いと言わんばかりに頬をペチペチはたく。

沈黙が厳禁のラジオであれば、間違いなく放送事故だ。

我に帰ったヨシノはワンテンポ遅れて、慌てて調子を合わせる。

 

「骨董屋…」

 

 そんな二人のやり取りの中、そろりとヨシノのカバンから抜け出し、

外を散策していたしゃくしゃく。鼻を動かす彼が見つけたのは、あまりにも不審な店。

どこか昭和から平成初期の面影を残す、レトロな風景の残ったこの一帯において、

この骨董屋の佇まいは、それとも一線を画す外観を持つ。黒い塗装にゴシック調。

ひび割れた壁には大量の文字。呪術的とでも言うべきか。

物を売る行為には到底似つかわしくない、物々しい雰囲気を漂わせている。

 

「あっ、しゃくしゃく!そんな所にいたの?」

 

 ボウリングを終え、用事が出来た凪と一旦別れたヨシノが走り寄る。

自分が気付かぬ間に抜け出していたしゃくしゃくを叱ろうとしたのも束の間。

目の前の骨董屋に対して思わず声を上げる。何コレ!?

 

「入ってみよう。俺と同じ匂いを感じる」

「同じ匂い?」

 

 魔力のようなものの匂いではないかと、しゃくしゃくは言う。

ここで言う魔力とは、ルミナストーンのような、異世界のエネルギー。

自分が一人でに動き出したのも、恐らくはそれが由来。

 

「ゲッシーもルミナキャストと関係ない設定を付け加えるはずもないしな」

「ま、まあ…それはそうだね」

 

 こんな事を言えるのも、普段からぬいぐるみとして、

ヨシノとゲッシーのやり取りを見守ってきた、しゃくしゃくならでは。

今回ばかりはゲッシーも不可抗力だったのではないか、と言うのは心の片隅に置きつつ。

何か自身に近い気配を感じているしゃくしゃくと共に、ヨシノは骨董屋に入店する。

 

「無人なのかな…」

 

 黒いカーテン。黒い床に黒い壁。陳列される、甲冑やフスラコ。

お土産のように並び立つ、水晶で作られた髑髏。遮光器土偶。

外装が不気味なら当然内装も不気味に決まってるだろう。

そんな声が聞こえてきそうな、凄まじい自己主張のその店内。

 

「客人か」

 

 喧しい内装と相反した、呟くような低い声。バックヤードから現れたのは、

‭骨董屋の主人のようだ。その(あや)しい店内に違わず、あまりに異様な風体。‬

‭接客にも品出しにも、対応できるようには到底見えない、‬

‭黒いローブを纏ったその姿。不気味に輝く金属のアクセサリー。‬

‭そして、干上がったように皺の刻まれた、カエルの顔。‬

‭魔法素粒子界の住民だコレ!‬

 

‭「そなた…もしや当代のルミナキャストか」‬

 

‭ 思わず声を上げたヨシノに対しても、‬‭蛙男は冷静。‬

事情を知っているのなら話が早いと、骨董屋は草之根ヨシノに一つ、質問を行う。

そなたはペルソナクスを知っているか、と。ヨシノが知っている情報。

これは実質的には「敵であること」のみである。ゲッシーは教えないし。

 

「本来、科学も芸術も…人の営みにとってどちらかが欠けてはいかん」

 

 ペルソナクスはまさに後者。魔法素粒子界も単純な世界ではない。

様々な派閥が存在し、中には文化排斥派、とでも言うべき勢力も存在する。

それに反旗を翻した上で、野望を燃料にして突き進む存在。それこそが、

科学偏重の時代を壊して、世界を演劇に書き換えるのを目的とした、

破滅劇団・ペルソナクス。

 

「ルミナキャストはその調和を司る者…そなたも知っておろう」

 

 知らなかった。よりにもよって、最初の変身の際に、

世界(ルミナキャスト)の真実・番組撮影の事情を目の当たりにしたヨシノ。

ゲッシーが取り繕わずに、開き直って商売根性を以て振る舞う行為。

これも全て、こうした出会いが招いた側面があるからなのだろうが、

それにしたってもう少し話してもいいだろう。

 

「ゲッシーが帰って来たら叱ってやれ」

 

 一言、しゃくしゃくが微笑む。

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