魔法少女演ってます ~魔法素粒子ルミナキャスト~ …のショー!?   作:砕(サイ)

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第6話「パートナー解消!?ゲッシー、最大の危機!」 Bパート

 そなたの用いる道具。すなわち、ルミナスコープを見せてくれと、

蛙男の骨董屋がヨシノに対して切り出す。素性を知っている人なら…

ヨシノの方も躊躇しない。骨董屋は差し出された左手首を観察し、

今度はとある確認をする。誰かを捜しているのかと。

 

「こうして、占いの館の看板を掲げているのも酔狂ではない」

「ここアンティークショップだったよね」

 

 相方であるゲッシーを捜していることを言い当てた骨董屋は、

そのままルミナスコープの機能を彼女に教える。

本来、その顕微鏡が覗き込めるものは、

ルミナキャストとしての自分の姿だけではない。

例えば、近いうち自分に訪れる未来や、過ぎ去った過去。

そして、遠く離れた今をも覗ける、「現在」の望遠鏡にもなりうると。

蛙男の話に対して、ヨシノは思い出したように目を開く。

 

「前、ゲッシーが言ってたんだけどさ」

 

 ルミナスコープ。ルミナタキオンに成る際に、

コンパクトのように開き、覗かれるばかりであったが、

実はこのアイテムは単なる変身装置ではない。

そのレンズを覗き込む。そのことで、

スコープに登録しておいた親しい人物の情報、

例えば現在位置などを知らせてくれるのである。

 

「具体例って言うか…こうやって使えるんだ、これ…」

 

登録方法などはゲッシーも説明等をしなかったため、

ヨシノ自身も一切意識していなかったことだが、

ルミナスコープを魔法素粒子界から持ち出したのがゲッシーならば、

初期設定のようにかのハムスターの情報が登録されてもおかしくない。

 

「うぇっ道の駅じゃん…よくそこまで行ったなゲッシー」

 

 覗き込んだ瞬間、眉間に皺を寄せるヨシノ。その距離、およそ10km弱。

高速道路のインターチェンジ付近にある、道の駅。

ゲッシーがそこまで飛び出していった事に対して、

地元民たるヨシノがこのような反応をするのもある意味必然。

なにぶん、単独で迎えに行くには、

現在地とはあまりに遠すぎる位置にあるのだ。

 

「自転車引っ張ってこないと」

「家まで入らなくてもいい。チャリ鍵くらいは俺が運ぶよ」

 

 早速、出動…と言いたいところだが。

先程のボウリングのせいか、今の自分には、

直行する体力がないことにヨシノが気付く。

ひとまず休憩をしてから現地に赴くことにした、

ヨシノとしゃくしゃくであるが、最後にヨシノは、

蛙の骨董屋に一つ、大事な話を問う。

ルミナキャストのその成り立ち。そして、

魔法素粒子界は、いかなる世界なのかと。

 

「話せば5時間ほどになるぞ」

「ありがとう、また会おうねおじいさん!」

 

 骨董屋を背にして、ヨシノは駆ける。

 

 

「げっ!ハムスター!!」

 

 お前もハムスターだろう。砂利が敷き詰められた、

道の駅の駐車場。ヨシノよりもずっと幼い少女が、

石を踏みつけ、何かに向かって走り抜く。その傍らには、

リンゴを抱えた、桜色のハムスターのぬいぐるみ。

デザインはそのまま一緒。まさに、しゃくしゃくの色違いである。

マトリョーシカのように同じポーズを取りながら、

大事そうに抱える少女のその姿。そして、それを眺めるのは、

しゃくしゃくに多大な嫉妬心を抱いたゲッシーである。

 

「ヨシノもここで買ったのかな、あのぬいぐるみ…」

 

 確かに、おみやげとしてはコンパクトにまとまっており、

その上地元の住民が普段遣いのアクセサリーとして買うにしても、

優秀なデザイン。独りで駆け抜ける女の子――もとい、

少女が抱える作り物のハムスターを、宇宙ハムスターが眺める。

 

「えっ、あの子のお父さんたちどうしたんだろう」

 

 一人でいる時間が妙に長いことに、ゲッシーが気付く。

そのまま駐車場の区画内を脱出し、バイパスの歩道に突入。

そこまでは辛うじて許容範囲だったものの、まさかの転倒。

 

「嘘だろ!?あの子、死ぬ!!」

 

 転げまわるハムスターのぬいぐるみを追いかけ、

道路に飛び込む少女。将棋で敵の駒を討ち取るように、

重なろうとする乗用車。この危機的状況を目の当たりにし、

ゲッシーはなりふり構わず飛び込む。奥義・ゲッシードリフト。

 

「助かっぐべっ」

 

 一瞬で駆け抜ける速度と、その反動で全身に多大な反動を強いる、

ゲッシー――より厳密に言うなら、ゲッシーを演じる宇宙ハムスターが持つ、

種族特有の命を削った高速移動技。内臓に多大な負荷をかけ、

血を吐きながらも、見事、少女を救出した。

 

「おい君危ないだろ!そんなにこのハムスターが大事なのか!」

「うん、お父さん買ってくれた」

 

 自身の姿を隠蔽しなければならない、

その立場を忘れて思わず説教を行うゲッシーに、

あまりに率直な返答を行う女の子。

いくら自分の言い分が正しいからと言って、

ここまでストレートに言い放たれては返す言葉もない。

 

「あっお父さんお母さん!」

 

 ヨシノがしゃくしゃくと呼ぶ、ハムスターのぬいぐるみ。

ゲッシーは彼の人となりどころか名前すら全く知らないし、

ヨシノがどのような経緯で彼を購入したのかも知らない。

両親ではなく、ヨシノ自身が購入したのかもしれない。

 

「…これじゃあ、あのハムスターに勝てないのかも」

 

勿論、ヨシノは轢かれそうになった少女ではない。

それでも、自身が体を張って救出した少女が、

両親に駆け寄っていく姿。それを見て、

ゲッシーは物に宿り得る思い出を、何となく察する。

 

「ワルター反応!?」

 

 突如、タブレットがその振動を以て、SOSの通知を寄越す。

距離こそ遠いが、今こそ上層部を見返し、

自身をルミナタキオンのパートナーとして証明する瞬間。

好機だと言わんばかりに、ゲッシーは駆け抜ける。

 

「待ってろヨシノ!ルミナキャストの相棒としては僕だってやってやる!!」

 

 その場で丸まり、スタンドを上げて、

後輪だけ無理やり回した自転車のように高速回転を始める。

その「タメ」の回転が最高速度に達した時、ゲッシーは、

一気にエネルギーを放出し球体のまま音速で駆け抜けた。

 

 

 ゲッシーを連れ帰る作戦の前に、

空腹に耐えかねたヨシノが入ったのは、ラーメン屋。

知らぬ店ではあるものの、外装はそこそこ古めかしい。

歴史がある店なら、味は問題なさそうだ。

店に入って最初に目に入ったのは店主。黒いシャツにバンダナと言う、

きわめてオーソドックスなラーメン屋の格好、それに白い仮面。

そう、ムジカントムだ。

 

「フフフ…へい!らっしゃい!見ない顔だね」

 

 その薄ら笑いは聞き飽きたぞと言わんばかりに、

ヨシノは呆れと驚愕をその顔で浮かべながら、

ムジカントム!と声を上げる。

 

「フフフ…完璧な変装だっただろう?」

「バレバレだよ!」

 

 咄嗟に口に出るのも無理もないが、

ムジカントムはそんなヨシノの即答に対しても、

いつものように笑って誤魔化すのみ。だが、

ちょっと目線は下がっているし、肩の角度も弱弱しい。

本気でバレないとでも思っていたのだろう。

いくらお約束だからと言っても、いい加減学習した方がいい。

ヨシノはそんな風に呆れた様子を見せながらも、

ルミナスコープを構えて、早速、臨戦態勢。

そんなヨシノを尻目に、ムジカントムはそば揚で麺を華麗に掬い取る。

その手捌きには感嘆するばかりだが、

その前に変装をもっと上手くした方がいい。

 

「フフフ…お前が勝ったらこのラーメンをタダで食べさせてやろう。だがお前が負けたら分かるな?」

 

 と、どんぶりをカウンターに置きながら語る。断っておくが、

別にヨシノがムジカントムに中華そばを頼んだという事実はない。

そして、テーブルの上に置かれるは、

煮干しの効いた濃厚な香り。ヨシノとしても、

何をこの男は地元の味まで学んできたんだと笑うしかない。

 

「出てこいワルター!今日こそルミナタキオンに引導を渡せ」

 

 キッチンから出てきたのは、筋骨隆々の奇怪な大男。

ワルターが今まで身に着けていた仮面は見受けられない。

その替わりと言わんばかりに、自己主張するのは(どんぶり)

頭蓋の替わりにラーメンが載ったその姿。ご当地キャラクターの類を、

極限まで誇張したようなその容貌。

 

「敵はルミナキャストばかりではない…となると」

「今のままではまだ不足、と言うわけだな…フフ」

 

 数日前の出来事である。ペルソナクスのアジトで語らう、

エゴシックとムジカントム。イーヴィルタキオンに対して、

完膚なきまでに叩きのめされたこともあり、

現状に強い懸念を抱くのは当然の帰結と言えよう。

 

「ワルターだけじゃ足りなさそうね。ルミナストーンがあればいいのだけど」

 

 ワルターもピンキリ。仮面への特別なチューンナップ、

素体の精神状態、そして生成の際の工夫。

さまざまな要因で強弱は変わっていくものの、

ペルソナクスは強力なワルターを生み出すことに余念がない。

ルミナストーンを求める理由も、その石があればより効率的に、

強いワルターを開発できる。或いは直接、

改造を施したワルターに組み込む材料になり得るからだ。

 

「そんな雑兵、いたところでどうにもならんわ」

 

 異議を唱えるのはハラガヘッタ。確かに、

イーヴィルのようなイレギュラーを考慮せずとも、

ワルターは今のところ全敗。(ルミナキャスト)の戦闘能力には、

到底及ばないのも事実である。元がダメでは、

強くしたところでどうにもならないと言うのも一理はある。

 

「ダメ出しなら誰でも出来るわよ」

 

 代案を出しなさいよ。エゴシックはすかさず反論するが、

ハラガヘッタが出した答えはシンプル。ワシの怪人を出撃させる。

この唐突な提案。仮面男とゴシックドレスの少女の二人組は、

思わず互いの顔を覗き込む。大言壮語か、確信か。

大仰な見栄を切った太った男の方も、自身の配下にある(つわもの)は、

お前たちの扱う烏合の衆の比ではないと、確かな自信を覗かせる。

 

 

「我が名はラーメン怪人・チュウカソバンなり!!」

「何それ」

 

 ワルターですらない。ハラガヘッタが用意した、

不可解な怪人。さすがのムジカントムとて頭を抱える。

ヨシノが漏らした率直な対応も、

この拉麺怪人が持つ違和感を漠然と察しているが所の物だろう。

 

「フフフ…こいつはワルターだぞ?」

 

 情報は決して対称ではない。

草之根ヨシノがハラガヘッタの存在を知らないのをいいことに、

ムジカントムはこの拉麺は自分の舎弟だと主張する。

拙はハラガヘッタ社長の部下である。そう拉麺が訂正しようにも、

口を塞ぎ、場の主導権を握らせるのを決して許さない。

 

「行け、チュウカソバン。そいつの持つルミナストーンを奪い取れ」

「え?」

 

 唐突なムジカントムの発言に、ヨシノが目を丸くする。

その唐突なヨシノの反応に、ムジカントムは思わずえっと声を出す。

お前まで驚くな。そうヨシノが感じた矢先、カット編集でもしたかのように、

取り繕った冷静な姿を取り戻す。試しに、財布の中身を確認してみろ。

そう言われるがままに、小銭入れを覗き込むヨシノに飛び込んだのは、

光り輝く赤いメダル。変則型のルミナストーンである。

 

「そうか、ヨシノ…俺が動き出したのはその10円のおかげだ」

 

 しゃくしゃくは自分が意思を持ち、動き始めた意味を知る。

偶然、自動販売機から出てきた不可思議な釣銭。

ヨシノがエラー硬貨と思っていたそれは、賢者の石。

今更気付いたのは、普通の硬貨に擬態しきれていたから。

俺達のような、強い魔力を有する存在と対峙することで真価を得る、

いわば一種の魔力体反応。そうムジカントムは予測するものの、

ヨシノにとっては未知の単語。

 

「ムジカントム殿…拙は魔力を持ちませぬ」

「黙りな?」

 

 ムジカントムに命じられるがまま、ヨシノめがめて突っ込むチュウカソバン。

そんなヨシノがルミナスコープを覗き込んで、至る姿はルミナタキオン。

そのままタックルを受け止めるものの、タキオンの視界は大きく揺れる。

 

「ヨシノ!無理に組み合おうとするな!そいつ、体格に見合った力があるぞ!」

 

 ゲッシーは不在、ワルターも不在。そして、

この変則的な戦いのセコンドとして立つは、しゃくしゃく。

タキオンに変身したヨシノにアドバイスを行いつつも、

彼女の財布からルミナストーンを抜き取り、走り抜ける。

 

「フフフ…抜け目ない奴だな」

 

 そのまま身を乗り出し、追いかけるはムジカントム。

戦いの隙に硬貨型ルミナストーンを盗み取る可能性を想定し、

咄嗟にそれを保護しようと駆け抜ける。

仮に奪い取られたとしても、それは今であってほしくない。

ゲッシーとまだ正式な会話を行っていない事を思い出つつ、

しゃくしゃくは人の入れぬ隙間を潜り抜ける。

 

「2VS1ではさすがに格好がつかないな…」

 

 しゃくしゃくに逃げられ、ムジカントムは途方に暮れる。

ワルター…もといチュウカソバンと一緒に戦う行為は、

彼の美学においては決してありえない。

この男がルミナキャストと行っているのは、

単なる生存競争ではなく、自身を主役と誇示する行為に他ならない。

戦いをワルターや不気味な麺類に任せても、

自身の戦いに補助輪を付けてもらうような感性までは持ちえない。

 

「そんなに言うならタッグマッチにしてやるよ、ムジカントム!」

 

 今度は聞き覚えのある声だな。

嘲笑うように確認するムジカントムの眼前に現れたのは、

泥にまみれて薄汚れた毛玉。ゲッシーである。

必死に駆け抜けたことが伺える、その車体(すがた)

そしてその傍らに掲げるは、ルミナボックス。

ムジカントムも一目見て宝石箱の意味を理解し、

ゲッシーに対してひとつ推測をする。

 

「そこに入っているルミナストーンでタキオンを強化されるわけだな」

 

 そのままゲッシーがルミナボックスを展開して、

ルミナストーンを激しく輝かせる。その光を吸い込むように体に纏い、

そのまま体を丸めて、砲弾のように仮面に突っ込む。お前が戦うのか。

ムジカントムもたまらず仮面を抑えるものの、攻撃としては効いていないのか、

勢いを維持しつつも、顔を抑えて得物のナイフを振り回す。

 

「は…速い!やばいぞコレ」

 

 体に鞭打ち。ゲッシーも無理を強いれば、

相応の速度で周囲を翻弄できるのだが、ムジカントムはそれを上回る。

自分よりも足が速いと言うよりも、不思議な引力で近づいていくような、

奇妙な威圧感。この不気味な触感から逃げ出すように、

ゲッシーは空中前転で思い切り突っ込み、ラーメンの湯船に思い切り飛び込む。

 

「ゲッシー!」

 

 思わぬタイミングでの再会に、タキオンは思わず叫ぶ。

チュウカソバンの頭から顔を出す、スープまみれのゲッシーに、

呆れと笑顔を交えつつ。戦闘の最中ではあるものの、

今のヨシノに不安はない。

 

「ゲッシー!帰ってきたか!」

「うわっ!リンゴ野郎!」

 

 先程まで身を潜めていたしゃくしゃくが駆け寄るも、

ゲッシーは相も変わらず。もっとも、

スープに濡れた自身のその姿を見かねて、

どこからともなくタオルを持ち出したと思ったら、

健気に拭き取る彼の姿を目の当たりにしたとなれば、

ゲッシーも気を許さずにはいられない。

 

「何だよお前!人間できすきだろ!」

「俺達はハムスターだ」

 

 返す言葉もない。その間にもしゃくしゃくは、

言われずとも手際よくルミナボックスの窪みを探し、

流れるように賢者の小銭を嵌め込む。ゲッシー。

こうやってルミナストーンを嵌め込めば、どんな効果があるんだ?

そんなしゃくしゃくの質問に対して、ゲッシーの答えは「何も」。

 

「何のために集めてんのそれ!!」

 

 タキオンが思わず横槍を入れるのもごもっとも。

しかし、長期的に見たら何もないわけではないと、

その剣幕に対して訂正しつつ、涙を浮かべて震えるゲッシー。

一定ラインに到達するまで宝石箱(ルミナボックス)の反応を待つのが基本だが、

いざ閾値(一定ライン)に到達した時は、

特殊な機能が解放され、様々な効能を得るのだと言う。

 

「だからタキオン!そのコインのルミナストーンを使うんだ!」

「使うってどうやって!?」

 

 そして、以前ルミナストーンもどきのカードを使った際、

水の力をタキオンが得たように。あるいは現在、

しゃくしゃくが喋り出したように。再度の確認にはなるが、

宝石型以外の形を成したルミナストーンは、

短期的に奇跡の力をもたらす作用がある。

 

「うぬらをここで始末すれば、その石は我らがもの!」

 

 このやり取りの間にも、チュウカソバンは鉄のような体を以て、

タキオン目掛けて思い切り突っ込む。

タキオンシフトで躱すことは可能なものの、

それは彼女単体の話であり、しゃくしゃくを護れない。

ゲッシーは必死に「ルミナストーンのすゝめ」をめくり、

そのまま思い切り指示を出す。

 

「"ベットイン"と叫ぶんだ!タキオン!」

 

 その言葉の通りに、タキオンは思い切りコインを投入(ベットイン)

そのままルミナストーンは光り輝き、辺り一面を包む。

だが、何も起こらない。

 

「もしかして、俺が動き出すことそれ自体が10円の力だったのか?」

 

 しゃくしゃくはそう推測をするものの、

ゲッシーはそれを否定する。少なくとも、

ルミナボックスに宛がわれるルミナストーンには、

ルミナキャストの戦闘の助けになるような効果があり、

ぬいぐるみが動き出すと言うだけでは説明として弱いのだと言う。

そんな流れの中、突如ラーメン屋の暖簾をくぐる小柄な黒い影。

 

「助けに来たよ!ヨシノさん!」

 

 聞き覚えの無い声であるが、確かに見覚えがある。

地面を滑って来るは、ボウリングの球。それもまさに、

凪とゲームを嗜んだ際に、ヨシノが利用したボウリング球である。

相棒はゲッシーでもしゃくしゃくでもない。自分だと主張するかのように、

勇敢にチュウカソバンの膝下に特攻する。

 

「ぐああ!我がラーメンが!!」

 

 もはや立っていられず。チュウカソバンが膝をつき、

そのまま崩れ落ちる。しかし、食べ物を粗末にする事が禁忌なのは、

宇宙の共通項なのか。零れ落ちる頭部の麺を、

そのまま別の容器(どんぶり)に移し替える。

 

「今だ、タキオン!このまま必殺技を叩き込もう!」

「え…いいの?」

 

 ゲッシーの唐突な発言。

もう少し技を撃つ根拠がない限りは、迂闊な真似は行いたくない。

そして、まだ戦いらしい戦いをしていないと胸中で考えていたタキオン。

ある種、戦略の否定に近しい発言ではあるが、彼の答えは「尺」。

このままでは放送枠に間に合わないため、

ルミナストーンで奇跡を起こしてそのまま決着をつけたいと、

上層部から指示があったのだと言う。

 

「そんな簡単に出し入れできる奇跡ってなんなの…」

 

 だが、チュウカソバンが大きな隙を見せているのは事実。

そのまま、ゲッシーが回収した翠のルミナストーンと、

10円が変質したルミナストーン――蒼の宝玉は、

ルミナボックスで光り輝き、そのままタキオンフィールドと結合。

それはまさに、イルミネーションの如く。その色彩は、

光のドームに包まれていく中、そのエネルギーに掻き消え、

溶け込んでいくチュウカソバンをも魅了した。

 

 

「コイン型ルミナストーンの効能は、"交流"の力…」

 

 先程までチュウカソバンの形をしていた、

煮干しの効いたラーメンをすすりつつ。

小学生が国語の授業で、教師の後に続いて音読を行うかのように、

ゲッシーの言葉を復唱するヨシノ。「ルミナストーンのすゝめ」によると、

交流とは、無生物との会話をも可能にする行為を指すと言う。

 

「それでボウリングのボールが援護しに来たんだね」

 

 戦いを終えて、一仕事終えたような心持で去っていた、

ボウリングの球と、彼の去り際の言葉をヨシノは思い出す。

また君と戦いたい。それはルミナキャストの戦いのことなのか、

ボウリングのことなのか。彼女が知る由もないが、

今はそれよりも大事な事がひとつ。

 

「しゃくしゃくともうちょっと話したかったな~」

 

 ルミナボックスにコインが収まる以上は、

しゃくしゃくはまた、物言わぬぬいぐるみに戻るのだと言う。

だが、それでもヨシノはあまり寂しそうではない。

しゃくしゃくはただ、喋り出しただけ。元より、

ヨシノとゲッシーを見守る意思は備わっている。

 

「お前にならヨシノを任せられるな」

「当たり前だろ」

 

 ヒマワリの種をともに齧りながら、ゲッシーは目を逸らす。

ヨシノをよろしく頼む。しゃくしゃくはそう言うと、

黙々とヒマワリの種を食べる作業に集中する。

隣り合って、同じ食事を楽しむハムスターに対して、

一番伝えたかった言葉を届けて満足したのか。

今まで見せた中で一番穏やかな表情を、確かに見せている。

 

「動かなくなる前に、リンゴも一緒に食べない?」

「いいぞ。俺の方は分量を守らないとだけどな」

 

 今度はゲッシーの方から提案する。ぬいぐるみなんだから、

それくらい問題ないだろと茶々を入れるゲッシー。それに対して、

せっかく動けたんだから、もう少しハムスターらしく振舞いたい。

そう結論づけて、微笑むしゃくしゃく。

 

「もしも、本当にゲッシーを消すって言うならさ、私が戦うよ。上層部と」

 

 その様子を見て、最後に〆るのは草之根ヨシノ。

彼女を利用して、番組制作に巻き込んだ一人は勿論ゲッシー。

何故、ヨシノがそこまで言い切ってくれるかは現時点の彼にも分からないが、

今はただ、ヒマワリの種を友人と食べる行為のみを考えるにした。

 

 

 とある夜。川の流れを劇伴がわりに、

水筒の蓋を回して開けるはエゴシック。

綺麗に刈り取られた雑草の山を小道具にして、

お気に入りのアンティークチェアに腰掛ける彼女が、

古めかしい本をめくる。

 

「ルミナストーンはここにありけり…」

 

 昭和某年。ヨシノの学区と離れたこの河川敷にて、

眩い光が川から発せられる、不可解な現象が確認されたという。

エゴシックは指を弾く。合図とともに、

掌に乗るほどの大きさの、一際小さいワルターの群体が、

椅子の物陰から走り、川に飛び込む。

 

「行きなさい」

 

 エゴシックの開発した、ワルターもどき。

本来、ワルターは人の精神の影から生まれるもの。

「もどき」はその場に留まった、嫌な空気。

雰囲気の悪さ。そんな曖昧な澱みをかき集めた、

戦闘能力を持たない廉価版である。

 




私、草之根ヨシノ!
タキオンフィールドにはもっと可能性がある。
そう信じて、特訓をすることにした私。
そして、ムジカントムが必殺技を引っ提げて、
私と勝負をしたいと挑戦状を突きつける!

‭次回、「直接対決!ヨシノVSムジカントム」
‭届ける想いは光を超える!‬
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