女の子の心理描写なんぞ分からなすぎてウタ編書き終わるのに大分時間がかかってしまいました。
それもこれも全部ヤソップのせいだ!!
「ヤソップは子供を捨てるの“2回目”だし、皆よりもベテランだろ?だから今回はキミがリーダーになりなよ」
「カハッ」
「ヤ、ヤソップ……」
「哀れ…」
ネフェルピトーの唐突な言葉に刺されたヤソップは死んだ。血反吐を吐いて地面に蹲った彼の事を慰めてやれるものは、残念ながら今はこの場にひとりも居ない。何故なら幹部連中はこの無慈悲なネフェルピトーのせいで心が疲弊していたのである。ヤソップが死んだことにより、これで全員が使い物にならなくなってしまった。
「で?どうするの?ウタとは会ってあげるの?」
「……」
「早く生き返ってよシャンクス」
特にシャンクスはベットの上で枯れ果てた大根のようになってしまい先程から一言も喋れていない。ベックマンに関しても本日200本目の葉巻に火をつけており、一日に吸った葉巻の本数の記録を塗り替えていた。
「じゃあ……ボクがさっき出した案にしちゃうよ?船から落ちてエレジアに流れ着いたっていう設定で、ウタに近づいて記憶を消したいかどうか聞く……でいい?」
ネフェルピトーの言葉を聞いた全員が頭を抱えて何も喋らなくなってしまう。先程からずっとこうだった。情けないばかりにここにいる男たちは皆怖くなってしまったらしい。ウタを救ってやりたい、けれど記憶を消す事が正解なのかは分からない……だがもうそれしか方法が、というように悩みまくっているのだ。
「ンー。とりあえずウタと仲良くなってお互いの悩みを話せるようになるまでは時間かかると思うし、みんな大人しく待っててニャ」
「……一日ごとに連絡してくれよ、お前エースには毎晩してるじゃねぇか」
久しぶりに声を出したシャンクスの声はしゃがれていた。馬鹿みたいに酒を飲んだせいで喉が焼けてしまったらしい。普段ならホンゴウが止めているが今はここにいる全員が似たような状態なので間に合わないのだ。
そのホンゴウとて幹部連中の武器を奪ったっきり部屋の片隅で分解しては再構築する、という謎の行動を繰り返している。加えてブツブツと何かよく分からないことを言っているのでネフェルピトーは目を合わせないようにしていた。
「ちょっとくらい待てないの?女の子って意外と周りを見てるんだ。誰かと電話してるのがバレたら失敗しちゃうよ」
「けどよ……お前がウタに何かしでかさねぇか心配なんだ」
「7年もひとりぼっちで待たせておいた奴がよく言えたネ」
「グハッ」
シャンクスに背信行為を疑われた為思わずそう言った。すると生き返ったシャンクスが再び死んでしまったので、ネフェルピトーはとても疲れたような溜息をこぼす。最早まともに話せるものはこの場にいないだろう。
一番マシだと思ってたオカンベックマンでさえ先程から一言も喋らずに葉巻に火をつけるだけのマシーンになってしまっている。
「はぁ、もういいよ。そもそもキミ達っておじさんだしさ、年頃の女の子と話が合うわけないんだよね」
と、この言葉で見事に全員が玉砕されてしまった。よって今回の作戦はネフェルピトーが立てて実行する運びとなる。シャンクスが彼女の頬を殴ってから数週間、明日にはエレジアにつく。だというのに結局最後まで彼らは結論を出せないままでいた。
「お前らー!!夕飯でき……っみ、みんな死んでるっ!?」
「あ、ルゥさん。ボク今から海に落ちて遭難するからよろしくだニャ。荷物には触らないでって皆にも後で言っておいてね、じゃっ」
いつまで経っても食堂に来ない幹部らと船長を呼びに来たルゥだったが、扉を開けた先にあったのは床に蹲る死体ばかりであった。彼は女の子が苦手なのでこの作戦会議には一度も参加したことがない。
とりあえずウタにもう一度会えるということは聞いていたので、今はケーキ作りの練習に勤しんでいる。
つまり無傷だ。
「え、ちょ、え……?」
ネフェルピトーはそのまま船長室を出て甲板まで真っ直ぐ歩くとポチャンッ、という軽い音を立てて荒れ狂う海の中に飛び込んだ。太陽は既に姿を隠している為外は真っ暗。普通に考えれば自殺行為なのだが、彼女ならばなんやかんや生き残りそうだという確信をもてる。
「……とりあえず飯食お…」
ルゥは海と船長室を交互に見つめ、最終的に飯を選んだのであった。
■
「ねぇピトー!!次は?どんなお話してくれるの?」
「ンー。じゃあ、よだかの星っていう童話を話すよ。少し前に読んだから完璧に記憶してるニャ」
あれから荒波に揉まれながらも途中海の中で出会ったサメと戦い無事に移動手段を確保したネフェルピトーは、エレジアが見えてきたところで海の中へと舞い戻り大量に海水を飲んだ後に浜辺へと打ち上げられた。
そのままジッと死体のように動かずに数時間待っていれば、遠くの方から美しい歌声が聞こえてきたのである。シャンクスの話によるとウタは名前の通り歌うことが好きらしいので、恐らくは彼女だ。
「っ嘘!?大丈夫!?」
ウタはネフェルピトーの姿を遠目に確認した瞬間、悲痛な声を上げながら駆け寄ってきた。顔をぺちぺちと叩いたり肩を揺らしたり。
その純粋な救命行為に対しネフェルピトーは計画通り、という顔をしたかったがそうしてしまうとバレてしまうので、大人しく今起きました、といった風に目を覚ます。
「ん、ここは……?キミ、誰なの……?」
正に悲劇のヒロイン。長い睫毛を震わせて、怯えたような顔で隣にいる女に視線を向けた。そしてネフェルピトーはギョッとする。頭のてっぺんで赤と白に別れてる特徴的な女の子髪色に驚く。
とても縁起がよさそうだなデザインだと思った。
「あっ、えっと、私はウタ!!貴方は、ここに倒れてて…」
キュルルン、という音が出そうな程に目を輝かせているネフェルピトーに対し、ウタは頬を赤くしながら答える。彼女にとって生まれて初めての同性の存在。
「っそれで私が、助けたの……!!」
頭から猫のような耳は生えてはいるが、歳も近そうだしもしかしたら仲良くなれるかもしれないという期待に胸を膨らませていた。
「ならキミはボクの命の恩人だ。助けてくれてありがとう。ウタ」
と、ネフェルピトーのその言葉にウタは全身を真っ赤に染め上げた。ジャンクス達に置いていかれて7年。久しぶりに誰かに感謝されたので抗体が死んでいるのである。
よって真っ直ぐにその感情を受け取ったウタはまるで高熱が出ているかのような顔をし、「う、うん…!!」と目を逸らして答えた。そんな彼女の様子にネフェルピトーは上々だ、と義務的に思う。
やはり孤独だったからか、相手に対しての疑いなどが一切ない。
「あ、ねぇ!!お腹すいてない?ちょうどゴードンさんがお昼ご飯を作ってくれる時間なの!!一緒に食べよ!!」
そう言って手を引いてくる彼女を見て、少しだけ胸がチクッと痛んだ。その痛みにネフェルピトーは不思議そうな顔をする。なぜ今会ったばかりの目の前の人間に対し、同情的な感情を持ったのかが理解できなかった。
「…ボクの名はネフェルピトーだ。心遣い感謝するよ」
胸を抑えながら名を述べる。するとウタは「…なら、ピトーね!!」とドキドキしながらあだ名を付けた。これで少しは仲良くなれたかな……と興奮しているが、残念なことに彼女が今手を握っている先にいるのは名前のない怪物である。
つまり、この先何が起こるか分からないカードをウタは引いてしまったのだ。
「君は海賊なのかい?その歳で?」
「はい。ピースメインの海賊です。世界中をこの目に焼き付けたいから、海へ出ました」
大きな城の中にある食堂にてネフェルピトーは美味しい料理を食べていた。ウタから紹介された彼女の世話をしてくれているらしいゴードンという男に「普段は何を?」という合コンで聞くような内容を問われ、印象良く思われそうな回答をする。
「……ピトー、海賊なの?」
「ウン。元々は王直属護衛軍をしてたんだよ」
「っえ…!?なら、なんで海賊なんかに…!!」
しかし、ネフェルピトーが海賊であるということを知った途端にウタの態度が一変した。顔を険しく歪め、なぜ海賊なんかになったのだという負の感情をビシビシと発する。
「どうしたの?」
「っ私、部屋に戻る…!!」
そう言うとウタは食堂を飛び出してしまった。その場に残されてしまったネフェルピトーは訳が分からない、という顔をしてゴードンを見やる。彼の父親が海賊だから、自分も海賊だということを全面に押し出せば早く仲良くなれるかと思って言ったのに。
「……すまない、ウタは海賊の事があまり好きではないんだ。昔色々あってね」
「色々、とは?」
「…彼女の父親は海賊でね、もう7年も会っていないんだ……話も、していない」
そんなゴードンの言い分に、ネフェルピトーは失敗したと確信する。彼女は勘違いをしていたのだ。7年も親元から離れてるとはいえ、月に何回かは連絡を取り合っていると思っていた。
これは常識的な親子関係を元に予想していた為に起きたミスである。
「ウタの部屋は、どこに?」
「東の棟にあるが……追いかけるのかい?」
「えぇ、傷つけてしまったみたいですから」
シャンクスは思っていたよりも父親失格なのかもしれないな、と怒りを込めながらネフェルピトーはゴードンに問う。このままでは関係が拗れてお互いの悩みを話す、なんていう普通の女の子がする行為が遅れてしまうではないか。
「……そうか、よろしく頼む」
強い感情の籠った彼の言葉にネフェルピトーは片眉を上げる。シャンクスの話によれば彼は完全な被害者だが、今はウタに対して純粋に心配をしていた。それは親の様な姿であり、ネフェルピトーの頭の中にあるロジックが崩れ始める。
「はい…」
きっと彼は、赤髪海賊団が恨めしくてウタの面倒を見ているんだと思った。如何に彼らが寛容だとしても海賊は海賊。その上ゴードンという男は彼らによって滅ぼされたエレジア国の王なのだ。
だからウタが1番幸せだと思った瞬間に殺し、赤髪海賊団へ復讐をする為に世話係なんぞをしているのかと思ったが……ゴードンには縁側で茶をシバいてそうなおじいちゃんみたいな雰囲気が漂っていた。
「お任せ下さい」
だというのにその姿が妙に似合っているように感じ、ネフェルピトーの中に不気味な違和感が生まれる。まるで自分からウタを守ることを望んでいるみたいで、気味が悪かった。
ゴードンは王の癖に、優しすぎる。
■
「シャンクスは私を海賊にしてくれなかったんだ。家族だって言ってた癖に、私だけ仲間はずれ……はは、こんなこと急に言われても困っちゃうよね。ごめん」
ウタの部屋はとても広くまるでお姫様の住処みたいだった。ベットには上からピンクのレースがかかり、部屋の隅には白くて荘厳なピアノだって置いてある。これは愛されてる人間の部屋だ。ゴードンはウタを憎んでいないのだと、ネフェルピトーは確信する。
「そんな事ないよ。実はね、ボクはシャンクスと話した事があるんだ」
ゴードンから教えられた道を進み無事にウタの部屋の前へとたどり着いたネフェルピトーは、嫌がる彼女を諭して室内に侵入した。そこでなんと、女の子らしい会話をする事に成功したのである。
「えっ!?ほんと!?」
「ウン。偶然冬島で会ってね、そこで彼はキミの事ばかり話してたよ」
「ど、どんな話?」
お互いの悩みを打ち明けて仲良し度アップ!!という年頃の子が皆やる行為に、ネフェルピトーは少し胸を高鳴らせた。こんなのまるで人間みたいじゃないか、と不気味な自画自賛をしながら。
「ウタの事が心配で心配で堪らないんだ〜って言ってたよ、カビの生えた雑草みたいになりながらね」
「……そう、なんだ」
ネフェルピトーは一応シャンクスの体裁を保つ為、道端に落ちてる犬のフンみたいだったとは言わなかった。しかし、彼女の例えがあまり理解できなかったウタは微妙な顔をする。
「彼の部屋には小さなオルガンがあったけど、あれはキミのだったんだね。ウタ」
「…まだとっておいてくれたんだ」
だがその傍らで、ウタの心にちいちゃな火が灯った。他人の口から語られる父親の姿は、彼女の記憶に残る印象とは少し違う。それが余計に距離を感じさせられた。心の奥底に隠していた孤独感が、再びウタの目の前に現れる。
「ねぇ、ピトーにもさ……自分の命よりも大切な、かけがえのない人っている?」
「え?」
会話内容がシャンクスの悪口へと移行していた時、不意にウタがそんなことを言った。彼女の顔には先程よりも深い影がかかっておりこれは話題を変えた方が得策かな、とネフェルピトーは視線を切る。
「うん……いるよ」
「その人って、どんな人なの?」
ウタの言葉に、ネフェルピトーは険しい顔をした。彼女の中にあるカイトのイメージ像は父親であり母親であり、時には兄弟のような存在だ。キメラアントに憑依したせいで人としての何かを失くしてしまったネフェルピトーに、カイトは優しく寄り添ってくれた初めての人間。
「カイトっていう名前の男の人。ボクに最低限の常識や礼節を教えてくれた……恩人だニャ」
「それってすっごく素敵!!カイトさんとは何処で出会ったの?どんな所が好き?」
一方でウタはテンションが上がったらしく、顔を上気させてネフェルピトーに問いかけた。そうして恋バナへと移行する為巧みな技を見せつける。しかしそんな質問攻めなどされた事がないネフェルピトーは目をグルグルと回した。
「えっと、森の中で初めて出会って殺されかけたんだけど何とか和解して親友になったんだ」
「っえぇ!?殺されかけたの!?」
「ウン。後は……カイトの好きな所だっけ?たまにタイプライターで書いた手紙をくれる所かな。内容はほとんどボクに対する愚痴ばっかだけど」
「……へ、へぇ?仲良いんだ…ね?」
そうしてネフェルピトーは混乱したままに脳みそと口を直接繋げて、思った事を全て話すのである。彼女から告げられた物騒な始まり方に、ウタは口を引きつらせて笑った。その後も止まらないネフェルピトーの話は後半になると盛り上がりをみせ、まるで壮大な物語のように変わっていく。
人間の世界を守る為に自分の王を裏切って、カイトと共に戦ったという話は特にウタの興味を引いた。ネフェルピトーが全てを捨てて戦った理由は、ひとりの男の為だった。それは何ともロマンチックであり、少し羨ましい。
「じゃあ、早く帰らないとだね……」
私もそれ程までに、誰かに愛されてみたい。
「…?なんで?」
「だってさ、きっとカイトさん心配してるよ。ピトーが死んじゃってるかもしれないって不安がってるはずだよ」
ウタのその言葉に、ネフェルピトーは随分と間抜けな顔をした。彼女は今この瞬間自分の立場を忘れ、深夜にやっているラジオのようにカイトの事だけを考えて話していたのだ。その上船から落ちてエレジアに流れ着いた、という大前提の設定も忘れているのである。
「それはないニャ」
「え?どうして?」
よってネフェルピトーは心底わけが分からない、という態度でウタに向き直った。耳と尻尾をグニャリと曲げ、感情の抜け落ちた能面のような顔をする。
「だって、カイトはこの世界にはいないもん」
「っ……」
「生きてるのかどうかも分からないんだ。ボクのせいで、死んでしまったかもしないし…」
「ご、ごめんっ!!私…その、嫌な事聞いちゃったよね、ごめんなさい」
ウタは酷く後悔した。まさか、まさか生死不明だったなんて思わなかった。そんなの自分より残酷な立場じゃないか。命よりも大事な人が生きているのか死んでいるのかも分からないという悲惨な状況で、どうしてそうも笑っていられるのだろう。
「何で謝るの?キミは悪い事なんてしてないじゃないか」
「…え?」
「そもそも謝るならボクの方だよ。キミが海賊の事を嫌いなのを知らなくて悲しませちゃっただろ?キミはボクを助けてくれたし、その上優しくしてくれたのに」
「……ううん、ピトーは別なの」
後悔した理由はもう一つある。ネフェルピトーを助けた時、心から彼女を心配して助けた訳じゃない。故にウタはぼんやりとした顔で座っていたベットから立ち上がると、傍にあるカーテンを引いて大きな窓を開けた。
「友達、だから。ピトーは特別なんだよ…」
吹き込んできた潮風を受けながら、遠くの海を見た。かつて自分を置いていってしまった人達が愛した海を、ウタは誰よりも恨んでいる。もしもそこが地面だったなら、去ってゆく彼等の背を追い続けられたのに。
■
「今日も丘の上に登るのなら、ランチボックスを持っていきなさい」
「うん!!ありがとうゴードンさん!!」
「ネフェルピトー、ウタを頼んだよ」
「んニャ」
ネフェルピトーがこのエレジアに流されてからの一週間という短いようで長い時間を、ふたりは太陽が出ては沈むまでの時を共にしていた。それはもうゴードンがドン引きするレベルで一緒にいたのである。
勿論風呂は一緒に入るし、トイレも一緒に行くし、同じベットで寝るし、日課の音楽の授業にだってネフェルピトーを連れてきた。永遠と隣に連れ添って歩き、まるでふたりで一つの生き物みたいに動くのである。
最初は勢いよく縮まったふたりの距離感に驚きはしたが、次第にゴードンもウタの笑顔が増えた事を嬉しく思いネフェルピトーに「エレジアに住まないか」と言った程だ。ウタもそれに乗り気であり、ネフェルピトーは冷や汗を流しながら回避していた。
「…ここもハズレか」
マ、しかしネフェルピトーはウタが眠った後にベットを抜け出してこのエレジアを探っていたのである。今回の件は赤髪海賊団から金を貰って受けている仕事である為、そこはきちんと分別していた。
「トットムジカ、キミは一体何処にいるんだ?」
ネフェルピトーは夜な夜な瓦礫の中を歩き回り、シャンクスが語っていた“エレジアの悲劇”について調べていた。ウタウタの実の能力者だけが呼び起こせるという恐ろしい悪魔。その名をトットムジカというが、その楽譜さえなければウタの危険度は下がるのだ。
「……そろそろシャンクスに報告しないと駄目だ。トットムジカ捜索は諦めるニャ」
だが残念なことにネフェルピトーは楽譜を見つけられなかった。毎夜毎夜一睡もせずにエレジアの隅という隅まで探し続けたが、トットムジカは何処にも無い。ということはウタかゴードンのどちらかが持っているということだ。
「眠い…」
しかし、ネフェルピトーがトットムジカについて唐突に聞いたとしても、彼等には楽譜を悪用しようとしていると疑われるだけ。
結局は諦めるしか無かったのだ。
「ねぇピトー!!なんか変なの落ちてた!!」
とある日の夜。夕餉を終えたふたりは仲良く並んで浜辺を歩いていた。そしてそこでウタがヘンテコな電伝虫を見つけたのだ。どうやら砂の中に埋もれていた物らしく、波にさらわれて先っぽが露出してい為に発見したのである。
「ンー?電伝虫かニャ?それにしては変な模様があるけど」
新種か、はたまたただのカタツムリか。ネフェルピトーがウタの手の中にあるそれを凝視した瞬間、カチッという軽い物音と共に上空へと映像が映し出される。
「……なによ、これ」
それは正しく悲劇だった。謎の怪物によって破壊されていくエレジア。倒壊した建物に押し潰されて息絶える人々。そしてその多くの人間がウタの名を呼んで死んでいくという、あまりにも惨いものである。
「…私が、やったの?」
「ウタ、もう見ない方が__」
そう言ってウタを宥めようとしたが、ネフェルピトーは最後まで言葉を紡ぐことは出来なかった。それは彼女の表情が段々と陰り、絶望の一色に染まってしまったからだ。ネフェルピトーはそういう人間に会ったことは沢山あるが、救い方は分からぬまま。
寧ろ余計な事を言ってしまい二度と正気に戻らないことの方が多かった。
「じゃあ、シャンクス達も……私のせいで」
故にネフェルピトーはあんまりにも間抜けな顔でウタの隣に立つことしか出来ない。どう声をかければいいのかは分からないが、とりあえず気絶させて今すぐにでも記憶を抜いた方がいいのかもしれないな、と思ったネフェルピトーは
「ウタ、何処に行くの?」
「っ来ないで!!ひとりにして!!」
「…」
だが突然城に向かって走り出してしまったウタに「来るな」と止められてしまい、彼女によって弾かれた己の手を見続けることしか出来なかった。多分、あの子をこのまま独りにしてはいけないのだろう。だが今のネフェルピトーには他者を慰める言葉を持っていない。
「なんで、ウタは泣いてるんだ…?」
寧ろ、それがどうした?としか思わないのだ。シャンクスの話によればウタはただ歌っただけであり、彼女に落ち度はない。そもそも問題があるとすればトットムジカの方だろうがそれをウタにどう説明すればいいのやら。
「ネフェルピトー」
「…え?ゴードン?」
それから数時間程同じ場所に立ち続けていたネフェルピトーに城から歩いてきたゴードンが声をかけた。もう夜も遅く、辺りは冷たい空気で溢れている。
「ずっとここに居たのかい?夜は冷えるから早く部屋に帰りなさい」
「なんでキミがここに来るの?」
「…なんでってそれは、私は君の事が心配で」
「キミがここに来ちゃ駄目だろ。もうキミしかあの子の心に寄り添える人間は居ないのに」
心配してくれているのは本当だろうが、今はウタの傍に居てやって欲しいという気持ちでネフェルピトーはいっぱいだった。この広い島には人間がふたりしか居ないのだ。怪物には人の心なんて分からない。だからお前が何とかしてくれよ、という一方的な感情をゴードンへとぶつける。
「……そうしたいのは山々なんだが、今のウタに私の言葉は届かないんだ。何を言っても『ごめんなさい』としか返しくれなくてね…」
ゴードンは酷く辛そうな声で言うと、ゆったりとした動作で砂浜に腰を下ろす。それから隣を数回叩きネフェルピトーにも座るように促した。
「…あの日、一体このエレジアに何があったのかを教えて欲しいニャ」
大人しく隣に転がった後、ネフェルピトーはそう聞いた。兎も角話を聞かなければならない。今彼女の頭の中にある情報源はシャンクスから伝えられた話のみ。なるべく良い道に行く為には多方向からの視点が必要なのだ。
「……あぁ、そうだったね。君にも是非知ってもらいたい、7年前の出来事を__」
ゴードンは深く息を吸い込むと、意を決して語り始める。エレジアを襲った悲劇と、ウタが人を殺す羽目になったあの日の事を。