今回は短めです。
「うぇーん!!カイト〜!!ボクを助けてくれニャ〜!!」
「……
鬱蒼とした森の中を駆け巡り、ネフェルピトーお得意の円で強いオーラの持ち主を探す。さすれば直ぐに強者の気配を感じ取った。こんな辺鄙な森の中に居るやつなんてカイトかチェンソーを振り回す事に快楽を感じている殺人鬼しかいない為、ネフェルピトーはそこに向かって一直線に進む。
そうして見つけた不審者っぽい背中に「助けて欲しい!!」とネフェルピトーは声を掛けたが、カイトは何故か念能力を発動した。
ポンッ、という音と煙と共にカ彼の右手に登場したイカれピエロ。
「気安く呼んでんじゃねぇ!!ったく、いい目がでろよ!!ドゥルルルル──4!!」
「うわぁぁぁあ待つニャ!!全面降伏だニャ!!ボクこんな所で殺されたくないニャ!!」
早速銃口を向けられてしまったので、何とか武器を収めてもらおうと必死になって声を張る。あんなもので撃たれたら痛くて泣いてしまう。そもそも出会い頭に銃口を向けるなんて頭がおかしいんじゃないだろうか。やっぱりハンターってのは狂ってないと成れない職業なのだ。
「語尾が“ニャ”の奴は信用出来ないな…」
「いやこれそういう仕様なんだよ!!ボクの意志関係なく発声してるから多分そういう制約と誓約とかだニャ!!」
「…色々と良く知っているな。オレの名前を知っているのもそうだ。一体何処で耳に入れた?ハンターには見えないが……多方尋問したりして情報を抜いたんだろう。全く嫌になる程小賢しい蟻だ」
「……へ?」
突如としてバンっという爆発音が銃口から発せられた瞬間、右腕が軽くなった感覚にネフェルピトーは襲われる。痛みに喘ぐ暇もなく2発目、3発目と銃声が続きやっとここに来るべきではなかったのだと気付いた頃にはもう遅く、ネフェルピトーは可愛らしいダルマになっていたのであった。
「……あ、あ、逃げなきゃ……」
視界に広がる美しい空の青に魅せられながらも、ネフェルピトーは芋虫の様に動きその場から逃げ出そうとする。しかし後ろからゆっくりと歩いてきた凶悪殺人者のカイトにしっぽを踏まれ「うギャッ」という呻き声を出すことしか出来ない。
後頭部に当てられた銃口の硬い感触はまるで心臓に針でも刺されたかのような気分であり、酷く冷たい痛みが心臓を伝い全身を走った。
「へ、?え、え、?」
「おい、まだ死ぬなよ。お前には聞きたいことが──ッ!?」
この時のネフェルピトーは四肢を捥がれた痛みや殺される恐怖等は感じておらず、ただ“死にたくない”という気持ちで思考が埋め尽くされていた。
そしてその意志は、キメラ=アントの本能のままに働き出す。
「____
「っくそ…!!」
突如としてネフェルピトーの体から溢れ出た凄まじい量のオーラに弾き飛ばされたカイトは、そのまま宙でくるりと回転して威力を殺し着地する。そこからまたひとつ飛んで近くの物陰に潜み、背中からバシャバシャと冷や汗を流した。
「……」
先程まではとんでもなく雑魚のキメラ=アントが来たと思っていたのに、今や自分よりも強い存在へと生まれ変わってしまったらしい目の前の怪物に警戒度をMAXまで上げる。多大なる恐怖が強さへと変換されたのかは分からないが、とにかく先程自分がした選択が失敗だったということだけはハッキリと分かった。
「……まずいな」
カイトの眼前には目にも止まらぬ速さで動く具現化した念能力により、ネフェルピトーの破壊された身体が元の姿に寸分たがわず修復されていく光景が広がっていた。体感時間は数分、しかし実際には数秒とかからず治しきってしまったその念能力の強さに二度足を踏む。
幽鬼の様にふらりと立ち上がってこちらを向いたネフェルピトーの顔には先程までのアホさ加減は一切無く、ただ目の前の脅威を退ける為に動く無感情な殺戮マシーンのような形相をしていた。
「鬼が出るか仏が出るか。…マァ、分かりきっている事だがな」
フッ、という軽い音と共に鼻先へと迫ったネフェルピトーの鉤爪に、カイトはすんでのところで右腕を犠牲にして間に差し込み頭が飛ぶのを回避する。ズチュッ、という肉が裂ける不快な音と右肩に走る激痛に奥歯を噛み締めながらも敵から距離を取ったカイトだったが、抵抗虚しく次の瞬間には脳が揺れる程の衝撃と共に地面へと叩き付けられていた。
「……形勢逆転だな、キメラ=アント」
甘かった。というのがカイトの後悔である。
こうも簡単に攻略されるかと、カイトは自虐するように鼻で笑った。
もしも最初のアレがこちらの油断を誘う為の作戦だったとしたら、自分はまんまとそれに嵌ったのだ。
敵をわざと優位に立たせ警戒心を解かせた後、尋問を開始しようとして隙が出たタイミングで一気に敵の命を刈り取る。
なんとも受け身なやり方だが、確実に敵の命は消せる手法であった。
故に己が四肢を捥ぐまで待ってくれた相手方に案外太っ腹なんだなお前、と言おうとしたカイト。
しかし結局は口を半開きにしたまま「……は?」という普段の態度からは想像できない程の間抜けな声を出したのである。
「う、うぅ、こわ…なんでカイトの腕取れてるんだ…?近くにヤバイのがいるんだったら直ぐに逃げないとボクも死ぬニャ……」
「……」
それもそのはず。
目の前のキメラ=アントは涙を流し心底カイトには死なれたら困る、という顔で先程自分で捥いだ敵の腕を念能力で治療し始めたからであった。
ネフェルピトーとしっぽで繋がった巨大な女性型の具現化能力の、その腹部にある小さな両開きの扉。そこがパカリと開いて様々な器具が此方に向かって伸びたかと思うと、次の瞬間にはカイトの腕は元通りになっていた。
一切の痛み無く筋肉や血管、重要な神経等を繋ぎ合わせ更には輸血まで同時に行っていたのか、今まで感じていた出血性ショックによる身体の震えや呼吸のしづらさも綺麗さっぱり消え失せていたのである。
「あ、うわ、治るの早っ…。原作だともっと時間かかってたような気がするけど……ま、まぁいいや、兎に角さっさとズラかるニャ……」
ネフェルピトーはカイトが目の前で起こっている状況を一生懸命理解しようとしているのに気が付いていない事に加え、そもそもカイトが目をかっぴらいてネフェルピトーを凝視している事にさえ視界に入らない程に混乱していた。
この猫は自分が玩具修理者ドクターブライスで捥がれた四肢を治療している間に、原作でネフェルピトーさえいなければ割と最強だった筈のカイトを一瞬にして塵にした化け物が近くに潜んで気を伺っているのだと思い込んでいたのだ。
「秘密基地作っといて良かった……」
ネフェルピトーはプルプルと子鹿のように震えながら涙を大量に流してカイトを腕に抱えると、2kmの距離をたった1秒という人間では到底真似出来ない速さで飛び事前に作っておいた安全地帯まで移動する。
優にマッハ1.4は出てそうなその移動スピードに、人間って生身でマッハ耐えられたっけ……とふと疑問に思ったネフェルピトーはおずおずといった様子で腕に抱えているカイトを見やった。
「カイト、大丈夫?」
ネフェルピトーは小さな女の子に話しかけるみたいな声色を出す。それは自己保身の表れであった。出来る限り自分の体でカイトを包み込んで防御したつもりだが、もしもあの移動のせいでカイトが肉塊になり念能力者特有の死後強まる念とかでパワーアップした
「ッひ、ひぇ」
「……お前、一体どういうつもりなんだ」
しかし予想に反してカイトは無事であった。マァ心の方は知ったこっちゃないが、全くもって理解不能というカイトの顔を見るに内心ぐちゃぐちゃなんだろう。命の危機と命の恩人というあやふやな立場にいるネフェルピトーに対し、カイトは容赦なく
眉間に硬く冷たい銃口をゴリっという音がしそうな程押し付けられたネフェルピトーは再び号泣。直ぐさま両手の掌を上に向けて敵意が無いことを表現しカイトに向かって頭を垂れて蹲るという、正しくプライドゼロの体勢を取る猫であった。
まぁこいつは蟻なので、見事な虫ケラっぷりである。
「お、ぉぉおおっ、い、いのちだけは、何卒……!!」
「……なんなんだ。何だ?お前は。二重人格か?どうしてそうオレに怯える。お前はさっきオレを殺せたはずだ。なのに何故オレを治療した。何故オレを守った」
「は、へ?あの、言ってる意味がよく分からないよ……」
「…それも、それも演技なのか?なぁ、またオレに瀕死にさせて油断を誘うつもりなんだろう。そしたらお前は一瞬にして傷を治しオレの隙を狙うんだ。そしてオレを傷付けて治療し、また繰り返す。それがお前の目的なのか?」
「こ、怖すぎるニャ……!!」
ゴツゴツと言葉に合わせて眉間に叩き付けられる銃口に、ネフェルピトーは吐き出す3秒前だった。銃も怖いが、何よりもガンギマリカイトが1番怖かった。
息継ぎなしで言葉を紡がれた挙句銃口をゴリっと眉間に押し付けられ、このままじゃ睫毛と睫毛がキスしちゃうんじゃないの?というくらいの距離でカイトから詰められる。開ききったカイトの瞳孔に合わせて自分の瞳孔も縦に伸びていくのが分かり、キメラ=アントの闘争本能怖……と必死に興奮を抑えた。
「ま、まって…!!」
このままだとカイトに殺される気がしたので早めに何とかしないといけないかニャ…とあんまりよく回っていない頭でネフェルピトーは考える。これがヤクザの尋問のやり方なんだとひとつ学びを得た猫は、大人しくコロンっと地面に転がってカイトに腹を見せた。
全生物共有、堂々とした敗北のポーズである。
「ボクはカイトに助けて欲しいだけなんだ!!ただ死にたくないだけなんだよ!!」
「……そ、れも。演技なんだろう…?お前のやり方は、何となく分かってきた。もう惑わされはしないさ、キメラ=アント。何故こんな洞窟の中にオレを連れて来たのか最初は理解出来なかったが、ここはどうせお前の遊び場だろ?いいさ、ヤろうぜ。オレひとりの命でお前の様な危機的存在を他のハンターから引き付けられるのなら……充分だろう」
「全っ然伝わってないニャ。これもう詰んでるニャ」
悲しいかな、ネフェルピトー屈指の本気謝罪は人殺しには通用しなかった。
何なら先程よりも俄然ヤル気を見せ始めているカイトに対し、あまりの絶望感でちいちゃな心臓が止まりそうである。むしろこのまま止まって全部無かったことになってくれないかなと思っていれば、痺れを切らしたらしいカイトに思いっきりぶん殴られた。
カイトは結構本気で殴ったらしく、ネフェルピトーは平衡感覚を失い呻き声を上げながら死にかけの虫のようにのたうち回る。
「ひギっ、いだ、痛いッ」
「どうした?反撃してこいよ。オレの腕を奪った時のようにな」
「…?な、何の話だニャ?」
「……もうオレは、お前の言う事を一切聞き入れないことにする。お前は信じるに値しない」
自分はまだカイトに何もしてないと思うのだが、既にかなり嫌われていることだけは理解したネフェルピトー。こっから挽回するにはどうすればいいのかと未だ揺れる脳みそを必死に動かして考える。
実は私たちって幼馴染で〜、あとお互いが初恋の人で〜、将来ケッコンする約束もしてるんだよね〜!!みたいな間柄だったら巻き返せる気がするが、今の所はただの人間と石の裏にうじゃうじゃいる虫である。
そもそも今までの暴力とてカイトが原作で主人公の味方ポジだから許している感覚がネフェルピトーの中にはあった。四肢を銃弾で吹っ飛ばされたのは痛かったし怖かったし、今も何故本気でカイトに殴られたのかも分からない。
故に目の前の人間を暗黒大陸とかにいる動物虐待の常習犯だと認識してみた。
すると途端に腹の底から苛立ちが湧いたネフェルピトー。
この世界の動物達を救えるのは自分しかいないのだ!!という正義感が死の恐怖を上回り、ここで初めて目の前の男と対峙する勇気が出た。
「ッもう!!キミ横暴すぎるよ!!今の所ただのサイコパスだよ!!キミ本当に主人公の味方!?」
「……は、はぁ?」
左頬を真っ赤に腫れ上がらせ瞳孔をこれでもかとかっ開いてぷんぷんと怒りながら地団駄を踏む猫の様子は……正直見るに堪えない。先程まで無様にも涙を流し地面にへばりついていたネフェルピトーは一転し、今やカイトの胸ぐらを掴んで抗議していた。
そんな猫の様子にカイトも混乱する。本気で怒っているのなら簡単に殺せる筈だ。なのにどうしてか目の前のキメラ=アントは胸倉を掴んだだけで終わり、後はスーパーでお菓子を買って貰えなかった女児の様に泣き喚いて文句を言うばかり。
こうしてカイトはやっと目の前のクソガキを「こいつもしかして敵じゃないのかも…?」と思ったのである。
ネフェルピトーの苦節十年の努力は決して無駄ではなかったのだ。
「……お前は、オレに敵意が無いのか?」
「だからボクは最初からそう言ってるだろ!?ただキミに助けて欲しいだけなんだ!!このままじゃボクは殺されるっ!!だからキミにどうにかして欲しくて会いに来たんだよ!!」
「…殺されるって、誰にだ?お前を殺せる奴なんてそれこそネテロ会長ぐらいだが……」
「え、いやまぁ。それは言えないニャ」
「……」
「うわっ!?キミの念能力は危険だからこっちに向けないで欲しいニャ!!そもそもボクにはキミと戦う気なんて一切ないんだよ、ほら、これ見て全部白旗……マァ今は赤いけど。でもボクは本当に、キミに助けて欲しいだけ…!!」
カイトはネフェルピトーの主張を確かめる為にじっくりと全身を見た。確かに身体に布が巻いてある。先程の戦闘のせいで真っ赤に染まってはいるが、元は白だったのだろう。
白旗のつもりなら普通に木の棒とかに括り付けて欲しかったな……と目頭を抑えながら大きなため息を吐くカイトであった。
とりあえず13話まで書いてみたんですが、あまりにも巫山戯た内容のものが出来上がってしまいました。本作品は何でも許してくれる仏の生まれ変わりみたいな人向けですね。