金の価格に関してはホラ吹いてます
「…とりあえず、お前が助けを求めてるのは分かった。だがお前より弱いオレが一体どうやってお前を守りゃあいいんだ」
「えっと、仲介者?弁護士?兎に角ボクは味方なんだよ〜ってみんなに教えるNPC的な感じでかニャ?」
「……その“みんな”って誰だ?」
「もちろんハンター達だよ!!間違って他の蟻と一緒に駆除されたら困る!!ボクは必ず生き残って……金持ちからグリードアイランドを奪って思う存分遊ぶんだニャ!!」
仄暗い洞窟の中、ふたりは向かい合って会話する。もう殺される心配が無いと分かったネフェルピトーは普段の調子が戻ったらしく、ふがふがと鼻を鳴らしながらこれから起こることの詳細をカイトに語った。一方で目の前のクソガキがただのクソガキではなく、手に負えない程の馬鹿だと悟ったカイトは意気消沈。
「でね〜?ゴレイヌさんって人が居てさぁ、一緒に写真撮りたいなって。ストーリーに上げたら伸びそうだし」
「……はあ」
今も既にキメラ=アントとハンターの全面戦争の話には飽きたのか、ジンさんが他の仲間たちと作ったというグリードアイランドの話しかしていない。「カイトも一緒にやる?面白いよアレ」と言いながらそこら辺に落ちていたドングリをポリポリと食べ始めて「あ、ラッキー!!これ虫入りだニャ!!」と猫が笑った瞬間、カイトは今度こそコイツ本気で殺してやろうか…と思った。
「…兎に角、お前の話は理解した。信じたくはないがお前の持ってきたこのアホみてぇな写真を見るに全て事実なんだろう」
「アホってなんだよ。バレないようにするにはこうするしかないじゃん」
他のキメラ=アント達と変顔をして写っているネフェルピトーの写真をそこら辺に適当に放り投げたカイトは、目の前のアホが語ったこの先起こる全面戦争の全てをハンター側に有利に持ってく為に信頼出来る仲間を頼る。そして集まったハンター達とネフェルピトーは親交を深め、何とか協力体制を得る事に成功したのだ。
「っなんて、オーラの量だ…!!」
「これが、キメラ=アント…!!」
「わーい本物のハンター達だ!!サイン頂戴だニャ!!」
「……ン?」
「え?サインが欲しいの?」
「ウン、ボクってキミらのファンなんだよね。あそうだ!!その煙草ボクにも吸わせて!!ボクもウサギ出したいニャ!!」
「……おい、カイト。こいつ…」
「よせ。何も言うな」
当初ネフェルピトーと対峙したハンター達はキメラ=アント由来による猫のデタラメの強さに圧倒されたが、肝心の中身があまりにもカスだったので直ぐに“敵”から“協力者”へと格下げされた。よってネフェルピトーこと中の憑依転生者は救いのヒーローカイト様のお陰で、無事この先の生命線を確保することに成功したのである。
「ねぇねぇ見てカイト!!でっかいカブトムシ捕まえたニャ!!」
「…はいはい。オレは今忙しいからあっちで遊んできなさい」
「えー?……仕方ないニャ」
キメラ=アント側のスパイとして内情をハンター側に流しつつ、次いでに念能力をカイトが暇な時に見てもらったり猫じゃらしで遊んでもらったりしていた猫は「仲間ってこんな感じか…!!」と過去に得られなかった友との青春を取り戻せた事に歓喜していた。
それからも特にこれといった仕事がなかった猫は「ボクとキミってもう親友だよね!!ズッ友ってやつ!?今度一緒に旅行いこーよー!!」とカイトにだる絡みをする。その都度カイトから「ったく毎度毎度うるせぇな、全面戦争が終わったら行ってやらんこともないが…」と言われながらボコられていたが、ついに全面戦争に入るという所で合流した大御所のゴンさんとキルアさんとも友達になれた事によりネフェルピトーは有頂天。
人生全てが上手くいっているような気がした猫は、もうこのままボクもハンターになっちゃおうかな〜……なんて、その時は呑気に考えていた。
「……な、なん、で…?」
しかし。現実はそう甘くは無いのである。
「なんでカイトが、“死にかけてる”の…?」
ネフェルピトーの視界の先には、瀕死状態のカイトを腕に抱えて立つゴンの姿があった。そしてネフェルピトーの腕の中にもまた瀕死状態のコムギがいたのだ。原作よりも多くのハンターを招集して挑んだキメラ=アントとの全面戦争。
猫ちゃんスパイによって入念に練られた作戦は最初こそ上手く進んだが、規格外の強さを持つ王メルエムが現れたことにより戦況は傾き、ハンター達もそれぞれ苦戦を強いられる事となった。
ネフェルピトーもバレないようにハンター側を支援していたが戦況が変わる様子はなく、原作通り瀕死状態となってしまったコムギを王メルエムからの命令で治療しようと離れの塔に移動していた時のこと。
それは起こった。
「……に、ゲテ、ピトー…」
「ゴン?どうしたの?早くカイトも治さなきゃ…」
「もう…コレ以上は……耐えられ…ナイ……!!」
「ッガハ!?」
突如としてオーラの量が爆発的に増えたゴンにより腹部を蹴り上げられたネフェルピトーは、塔の壁を突き破り森の中へと吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を降りながらも体制を整えるが、次の瞬間には目の前に現れていたゴンの拳で顔面を叩き潰された。
何故自分は今友達に殺されかけているのか…?と、まるで“原作通り”であるかの様な流れにひゅーひゅーと荒い呼吸を繰り返しながらも、遙か遠くの方にいる初めて出来た親友に向けて
「そんなにお友達が大事ですか?ピトー」
「……プフ?」
「全部見ていましたよ。貴方が大広間で吐き散らしていた時からね。様子がおかしいと思ったら……まさか王を“売る”だなんて大罪を、私の姉弟がしでかすとは想像もしていませんでした。あぁ、実に憎たらしい…!!」
右耳の辺りでブンブン五月蝿く喚いているプフを叩き落とすとそのまま距離を取りここから遥か遠方に位置している
明らかに正気ではないゴンの近くに佇む血を分けた弟、プフの姿。確実に此奴がゴンに何かしたのだと当たりを付けたネフェルピトーは毛を逆立てて牙を剥く。
「ゴンに、何をしたんだ…!!プフ…!!」
「……本当に彼等の事が大切なんですね。兵隊蟻の分際で王を蔑ろにするなんて、反吐が出ます」
「ウグッ!?」
徐に指を動かしたプフに合わせてゴンが動き出し、既にボロボロのネフェルピトーを追撃する。これに猫はほとほと困り果てていた。何せ友達だと思っていた存在にこうも袋叩きにされてしまえば、どんな虫でも心は痛むのである。
「何を、した…!!」
「あら?まだ分かりませんか?私も貴方と同じ様に“人を操れる”んですよ。マァ、目に見えない糸で操るのではなくて鱗粉で惑わせるやり方ですが……貴方の念能力から着想を得ましてね。ありがとうございます、お陰で良い参考になりました」
「ッお前…」
「それにね、貴方の様に人間にも友好的なキメラ=アントが居るんだと知った彼は……私とも友達になってくれようとして色々と励んでくれたんです。やれ世界は素晴らしいだとか、やれ君達は悪くないだとか、ふふ。……本当に虫酸が走りました」
変わらずゴンに指示を出し続けるプフは貼り付けたような笑顔のまま、地面に死にかけの状態で蹲っている猫に近付きグイッと、その小さな顔を掴んで上げさせた。悲しいかな、ビスクドールの様に美しかったネフェルピトーの顔は今や醜いじゃがいもとなっている。
しかし王メルエムを裏切ったとはいえ、ネフェルピトーのした選択はプフにとっては都合が良かった。何故ならこれで王と自分だけの夢の国が手に入るのだから。故に彼は理想郷を創り出す為に働いてくれた立役者の虫ケラに引導を渡す。
それは確かに慈悲であり、血を分けた姉に対する最期の償いでもあった。
「……貴方はね。産まれてくるべきでは無かったんですよ、ネフェルピトー」
「イヤ…だ…ニゲテ、ピト…」
「ッミ°」
プフが手を叩くと同時に大粒の涙を流したゴンが眼前に迫る。圧倒的な質量のオーラを纏ったその拳がネフェルピトーの全体を包み込み、身体の節々が消滅していく感覚を既に薄らとした意識で認識しながら…深い眠りにつく。
全てが無に帰すその瞬間、
「……ゴン」
ただいつまでも、泣き叫ぶゴンの声が聞こえていた____
■
「へ?アレ夢じゃなかったの?じゃ、じゃあボクが路地裏に居た浮浪者から毟りとった四肢も本物なの?一発ヤろうぜとか言われたから普通に四肢盗ったけど、その後苦しんでたからそこら辺で死んでた野良犬の脚を代わりに付けたりしちゃった……ナニコレ、全部夢であってくれニャ」
とマァ、色々と長くはなったがこれがネフェルピトーのエンディングノートであった。そしてこれから再び猫のプロローグが始まろうとしているのである。
「どうしよう……カイトも、コムギも、助けられたか分からない……」
あまりにも辛い終わり方に夢だと思い込むしかなかったネフェルピトーこと中の憑依転生者は、何故自分が未だ生きながらえているのかも分からずただ幽霊の様に彷徨ってこの島まで辿り着いた。
そして偶然見付けたレストランにて相席したポートガス・D・エースというよく知った存在に、やっぱりコレ夢なんじゃん!!と相変わらず簡単に調子が戻った蟻はペラペラと酷すぎるエンディングノートを彼に語った。
心理カウンセラー然りセラピスト然り、ただただ死ぬ程聞き上手であったエースに根掘り葉掘りと余計なことまで口ずさんだ結果、彼の地雷を見事刺激したのである。
「弟に…裏切られて、弟に親友と仲間を殺されて…。最後には弟が操った友達に、お前殺されたのかよ。なんだ、それ。そんなの辛すぎるだろ…」
「でも最初にプフ裏切ったのはボクの方だからね。あの時ボクが何もしなければカイトもゴンも無事だった筈なんだ。他のハンター達も死ぬ事はなかった。ボクが勝手な事をしたから皆が地獄に堕ちたんだ。ボクさえ居なけりゃ皆今も変わらず笑ってたんだろうね」
賑わうレストランの店内。散乱した話し声がネフェルピトーとエースの周りを包み込む様に廻る。隣に座る男に誘われるがままに、教会の神父に罪を告白するかのように……猫は身に起きた全てを洗いざらい話してしまった。
「プフの言う通り、ボクって“産まれてくるべきじゃなかった”のかな……」
そうして長い話の締めにと、そんな言葉を選んだ。不満げに言う訳でもなく、ただ揺りかごで眠る赤ん坊に話しかけるみたいな音を口から零した。しかしその言葉は何故か重圧に響く。
周囲の音が綺麗さっぱり消え去り、隣に座る男の心音が聞こえてきそうな程に静まり返る。まるでこのテーブルだけが次元から切り離されてしまったような感覚に、ネフェルピトーは小さな悲鳴を上げた。
「なんで」
「…へっ?」
「何でそう思った」
「……だって、もしボクが存在していなかったら今も生きている人達が大勢居るんだよ。ボクという存在のせいで、その先続くはずだった誰かの人生が枯れた。だったら普通にさ、ボクみたいなのが産まれてこない方が…世界からしてみれば“良い事”だろ?」
終始物凄くバカっぽい声で、ネフェルピトーは言った。猫の中ではこのレストランでの会話も夢の世界のひとつである。本当の自分は吐瀉物の中で未だに眠り続けているのだ。故にこの夢から覚めた後もネフェルピトーのままであるならば、原作通りにカイトを殺しに行こうと思った。
あの悪夢はきっと神様からの贈り物なのだ。それか原作を破壊しようとする転生者共を懲らしめたい悪魔からの祝言だろう。
夢は深層心理が反映されるというし、あの悲惨な出来事は原作を変えることを恐れた自分が見せた幻だ。そしてこの夢もポートガス・D・エースという姿形をした神父に失敗を告白する場であり、賑わうレストランも恐らくは告解室を一度も見た事がない主の為に夢の番人が急遽作り出したお粗末な舞台セットであった。
「……おれも、おれも昔にお前と同じ事を思った時がある。おれもお前と同じなんだ、おれが居なけりゃ死なずにすんだ奴らがいるんだよ。おれはこの血筋や忌まわしい過去を乗り越えて……おれの実力が世界に通用するのか、おれという存在は生まれてきてよかったのかを証明してぇんだ。だからおれは自らの手で名を上げるために海に出た」
エースは突然ネフェルピトーの近くに寄り、大きな瞳でギラッと見詰めた。それは轟々と燃え盛る太陽のようで恐ろしく思わずひっ、と声を漏らす。ネフェルピトーの背筋に冷や汗が伝った。彼と瞳を逸らさなければ全てを燃やし尽くされてしまいそうなのに、動くことは出来ない。少しでも動けば死んでしまうような気がしたのだ。
ゴクっと怯えたように猫が喉を鳴らす。
するとエースは途端にカラッと笑い、性格がまるまる変わってしまったかのように、夏風のように笑った。
「だからよ、お前もおれと海に出て一緒に海賊やろう!!世界におれ達の存在を知らしめてやろうぜ!!」
「……いいの?ボクもう死んでるよ?」
「けど生き返ったんだろ?ならいいじゃねぇか、今度は死なねぇ様に気をつけりゃいい」
「……そうだなぁ。王もどうせ死んじゃうし、あの後カイトも生き残れたのかは分からないし、グリードアイランドにも行けなさそうだし……うん。いいよ」
「ボク、キミと海賊やるよ」
皿に乗った最後の肉を口の中に放り投げながら、ネフェルピトーはそう言った。再三言うがこの猫は今も夢の中にいると思い込んでいるのである。故に詐欺師だと分かっている相手からわざと騙されたフリをしていちばん高いツボを買うように、ただ目の前の男を喜ばせる為に猫は自らその罠に引っかかる。
ネフェルピトーから良い返事を貰えたエースはわっ、と嬉しそうな声を出して肩を組み、今度はお返しに自分の秘密を話してくれた。
「あのな……」
彼の口から直接語られる出生の話はどうもボヤけて聞こえる。よく知っているその秘密を本人の口から聞けるなんていう貴重な体験は二度とできないと思ったので、猫は静かに聞いていた。他の誰にも聞かれないようにコソコソとふたりで身を寄せ合うと、まるで悪巧みでもしているかのような気分になった。
「そ…うか。それは、お前…悪くねぇよ。人間からしてみれば危険な種族だからって一方的に滅ぼされちまうなんてのは酷ぇ話だ。大変だったろ?おれ、なにか出来ねぇか?」
そして再びネフェルピトーの話へと戻り、そのあまりの悲惨な人生にエースは猫の手を握って辛かったね、横になって休む?と気を使ったのであった。キメラ=アントという種族、他者を喰いその力を奪う怪物。人でさえも喰らうのだと話したネフェルピトーの横顔を、エースはじっと見ていた。
朝食の席でする下らない話みたいに、物騒な話題を食卓に並べる彼女があんまりにも美しかったからである。透き通ったその青白い肌、煌めく銀の睫毛、角度を変える事にキラキラと色を変えて光る大粒の瞳は正しくバケモノの証明であった。
「じゃあ人間も食ったことあんのか?」
「ウン、肉団子になってるけどね」
「それって美味いのか?どんな味?」
「食べ物って感じはしないかな…。ただ力を得る為に食べてただけだし、味は最低だったよ」
「へー」
エースはアァこいつ本当に人間じゃないんだな、と思う。人じゃないから人を喰えるのだ。甘美な蜜で哀れな虫達をおびき寄せ、人も殺せなさそうな小さな身体で沢山喰ったのだろう。
ネフェルピトーからは人殺しの匂いがしていた。それと同時に彼女からは涙の匂いが香ってくるのだ。なんて事ない顔をしているのに、彼女の背後からは全てを喪った人間の絶叫が今も聞こえてくる。
そのアンバランスな立ち振る舞いに、エースは酷く焦がれていた。直ぐにでもこの歪な生き物を自分の中に引き入れてしまいたかった。王直属護衛軍という生まれに従い盲目的に王にひれ伏しながらも、人間という名の食料の為に自らの危険を冒し人間の親友に手を貸したその豪胆さに惚れ惚れする。
「カイト、ボクさえ居なけりゃ今頃TS転生してた筈なのに、悪いことしちゃったニャ…」
「てぃーえ…?なんだそれ、美味いのか?」
「人によっては美味しいらしいよ」
「へー!!おれも食ってみてぇなぁ!!」
「えっ……TSしたカイトを……?」
「なんでだよ!!おれは人間を食わねぇ!!」
「そりゃあそうだよ。人を喰うなんて化け物のする事をエースがするはずないニャ」
「う、うん……?」
この女は自分と同じだ。世界から疎まれ、人々から疎まれ、死を望まれる存在だった。死に方も酷いもんだ。弟よりも仲間や友を優先した行為そのものが裏切りになってしまう危うい立場に生まれ、それでも彼女は友の手を取り、瀕死の親友でさえ必死に救おうとしてみせた。
未だに気が抜けると「カイト…」という惨めっぽい声を漏らす彼女からは酷い悲壮感が漂っている。
まるで未亡人だ。それか飼い主を失ったペットかな、と考えながらエースも最後の一口を頬張った。
■
「で?宿泊まるのは構わねぇけど…おれとデュースは一文無しなんだ。漂流した時に荷物殆ど失くしてっからさ」
「安心してよ。ボクって友達が多いんだ」
ネフェルピトーはそう言うと懐から大量の金貨が入った麻袋を取り出し、ピンッと一枚指で弾いてエースに飛ばした。彼はそれを受け取ると手の中でしばらく転がす。金貨を見たのは初めてだったからだ。肩にデュースを背負ったまま、ネフェルピトーはフフンと上機嫌に鼻を鳴らす。
「路地裏にはさ、浮浪者の他にも色々な奴が潜んでるんだよ。表社会では到底生きていけないような悪者が負け犬のフリをして隠れてンのさ」
「…そりゃお前、盗ったのバレたら殺されるぞ?顔が割れてるんなら何処まで逃げても奴ら追ってくるぜ」
どうやら彼女の言う友達というのは“悪いオトモダチ”の事だったらしい。エースはそういうお仕事をしている人達から物を奪うとどういう報復をされるのかをよく知っていたので、冷や汗を垂らしながら隣を歩く猫を見た。
「えー!?もう全員死んでるのに!?」
しかしネフェルピトーは欲しかった商品が売り切れていた時のJKみたいな情けない声を出した。心底意味が分からないといった感じで人差し指を唇まで持っていき、ムニムニとその柔らかい肉を爪でつつく。
一体自分はどうやって殺されてしまうんだろうか…と本気で考えていそうなネフェルピトーの表情を見て、本物の悪党ってこういう顔をしてたんだなぁとエースは思った。
「…マァでも、お前の事は多分追わない」
「なんで?」
「お前が追う側だから」
「ふふ、何それ」
「そうだろ?ハンター」
「ひっ、アはは」
ふたりは楽しそうに肩を組みながら商店街を歩く。先程のレストランで酒をしこたま飲んでいたから、どんなにくだらない事でも今のふたりにとっては世界がひっくり返ってしまう程に面白いのである。
「あ!」
「え?なに?」
「笑ったら腹減っちまった…」
「は?もう?まだ店出て10分も経ってないのに?」
「ウン」
「……そっ、かぁ」
あれだけ食べたのにもうお腹がすいてしまったらしいエースの為に、ネフェルピトーは道すがらにあった屋台へと戻り大量に食べ物を買い込んだ。串焼き肉をエースの口元に近付ければバキュームのように手から消えていくので、面白がったネフェルピトーは肉の在庫が無くなるまで買ってしまった。
それでも金貨1枚に及ばない金額に、猫はオタトダチからお金を貰って正解だったと思うのである。
「おいそこの子猫ちゃん。ここはVADファミリーの縄張りなんだ、勝手に入ってこられちゃ困るんだよ」
「なに?急に。おじさん達ダレ?」
「取引を見られちまったんならしょうがねぇ。悪ぃがここで死んでもらう」
「えー?それなら先に死んでもらうしかないかニャ…」
「ぎゃっ」
ただ路地裏を歩いていただけで何故か銃口を向けられたので、仕方なく殺した後に死体からお金をプレゼントして貰った。しかしその金だってどうせ誰彼から奪ったものだ。つまり誰のものでも無い金の筈なので有効に使ってやるかぁ、と思いながらひっくり返した石の裏にいる虫みたいにわんさか湧いてきた他のチンピラ連中も殺した。
「ひっ、か、金なら好きなだけやるっ!!だから…ッギャア!?」
「ンー…義手の調子が悪いからかニャ?即死させてあげられなくてごめんね」
「うギッ」
ひとりぼっちになって泣いてしまわないよう、キチンとお友達の家まで行って中に居た人間も皆殺しにしてあげたのだ。厳格なお父さんらしき人の部屋にあった大きな金庫の中身は取らなかった。
中に入っていたのは、知らない人間の生首ばかりだったから。
「…この俺を殺すか、小娘」
「ウン。じゃないとボクの生首もココに飾るでしょ?」
「……ハハ、ワハハ!!化生の頸を取れなかったのは実に惜しい!!いやぁ無念無念!!」
「うわっ、自殺しちゃった」
それに反して
ともすれば死体が持つよりも、気味の悪い猫が持つ方が幾分か良い。
「んん、うめぇなこりゃ」
「まだお腹減ってる?他の屋台の人達も定時前に帰らせてあげようよ」
「賛成」
お揃いの物が好きなのか皆してポケットに金貨を忍ばせていたお陰で、今や猫の懐はホクホクだ。よって新たに船長となったエースの為にあしながおじさんになってやろうと思い立ったネフェルピトーは、他の屋台からも食べ物を買い切りみんなを暖かいお家に帰らせるという嫌がらせに勤しむのであった。