「いやぁ、アレは本当に爽快じゃった!毎日寝物語として読み聞かせてもらいたいぐらいじゃわい!」
「そう。じゃあ毎晩カクの枕元に化けて出て話してあげようか?そういう念能力を作れば本当にできるよ」
「さっきのは全部嘘じゃ。わしはそもそも寝付きが死ぬ程いいんじゃった。それにしても色々と大変じゃったなお前さん。さ、呑め呑め。たらふく呑んで忘れろ」
「相変わらず早口だねキミ」
カクはラッパーみたいに早口で喋ると、ネフェルピトーのグラスにワインを注いだ。今日でやっと隣にいる問題起こし屋さんとお別れできるのに、自分から化け物を招くなどアホのする事だと冷や汗を流しながら。
「ほれ、ツマミも食え」
「甲斐甲斐しくて逆に気持ち悪いニャ」
出航前の宴の場にてスペード海賊団はルッチにもきちんと謝罪をしており、そのお陰で何とか彼の腹の虫がおさまったのだ。なのにこれ以上の面倒事を呼び寄せたのが自分だとルッチにバレれば命は無い。
同じネコ科なのに仲が悪いのか未だにお互い睨み合っているので、カクはいつふたりが殺し合いを始めるのかと常に恐怖していた。
「で?この後お前さんらはどこを目指すんじゃ?」
「ンーとね、とりあえずは
「そんならお前さんの存在は隠しておいた方が良いのう。こんな奴と仲間になるぐらいなら死んだ方がマシじゃわい」
「ふふ、殺すよ?」
「ほらな……」
ネフェルピトーは「キミの真似だニャ」とケラケラ笑いながらカクに向けていたピストルを懐にしまう。日が暮れた頃になってもふたりは呑んでいた。部屋の中にはワイン独特の甘い匂いが漂っており、酒の弱いものならそれだけでも酔えそうである。
「にしても最初の頃に比べたらお前さんも大人しくなったもんじゃ。わしお手製のハーネスが相当効いたらしいのう」
「……デュースがね、気に入っちゃってね……お陰で電気耐性がついた気がするニャ」
あの時エースからのお仕置だっちゃ!を喰らって意識を失った後、ネフェルピトーは気が付くと宿のベットに転がされていた。そしてベット横にある椅子にパチパチと計算機を鳴らすデュースが座っており、妙に機嫌が良さそうな顔をしてハーネスと繋がるスイッチを片手に持っていたのである。
「デュース……?」
「…あぁ、目が覚めたのか?色々と大変だったな、エースから聞いたぞ」
そう言ってニコニコと笑うデュースの顔は実に不気味だった。まだ彼とは出会って三日目だが、こういう人間は怒らせると後が怖い。その事を既にその身で体験していたネフェルピトーは、恐る恐るに頷いて答えた。
「そ、そうなんだ…!!もうほんと、ボクじゃなかったら危ない場面が何かとあって…!!」
「カクさんやルッチさんに随分と迷惑かけたんだろ?」
「……え?やだなぁ、迷惑ってそんな、ボクはただ友達としての交流をね…?」
「初対面で攻撃する事が友達とする事か?」
「……」
「どうした、答えろよネフェルピトー」
「…マァ、ちょっとやりすぎたかもなって思ってはい___ン”ミ°ッ!?」
「ハハ、これいいな」
と、このような感じでデュースからの尋問を受けることになったのだ。その後も強制的に意識を覚醒させられ、ネフェルピトーは洗いざらいやらかした内容を話す事となる。
猫はこの時ばかりはデュースが医学生な事を恨んでいた。
なまじ医者の知識やストライカー号を1から作れる程の技術力があるお陰で、ネフェルピトーが直ぐに意識を取り戻せる強さの電圧に設定を弄って変えていたのだ。
「ちょ、ちょっと一旦休憩させ…」
「お前やエースが遊びに行ってる間な、おれはガレーラカンパニーでアイスバーグさんと色々話してたんだよ。そしたら5人で形成されたとある海賊団が姿を消したという報せが入ったんだ。船は造り終わって後は金を受け取る段階だったらしいが未だに姿を消してるんだとさ……お前、何か知ってるか?」
「……いやぁ?そんなのボクには関係ないよ?だってボクは昨日ずっとカクと一緒に…」
「それからな。突然船大工の奴らがおれとエースの元に来て、同僚の命を救ってくれてありがとうって言いに来たんだ。御礼に船大工総出でおれたちの船を優先して造るって言ってな、予定だと2日足らずで完成するらしいんだが……お前、何か知ってるか?」
「……その、ボクは…」
「後な、カクさんも御礼を言いに来てくれたんだ。“5人の海賊”に囲まれた時に、お宅の船員に助けて貰ったとな。ネフェルピトー、お前そいつらを何処にやった?」
「…カクを助けたのは本当だよ?でもそいつらが何処で死んだのかはボクの知る所じゃな__」
「その5人の海賊が“死んだ”なんて……おれがいつ言った?なぁ、ネフェルピトー。お前なんだか随分と顔色が良いな。それに体重も変わってる。一日で10kgくらい増えたってのに、見た目が一切変わってないのは変な話だよな。まるで“中身だけが増えた”みたいだが……お前、まだシラを切るか?」
「か、勘弁してください…!!」
デュースは検挙率100パーセントのベテラン刑事みたいに喋った。よって彼に着々と逃げ場を奪われたネフェルピトーは本来知るはずの無い情報を言ってしまい、見事に悪事を見抜かれてしまうのである。
よって猫はひんひん泣きながら全てを白状した。
体が本調子ではなかったので回復する為に食べ物を大量に買い込んだが、金貨1枚程度で買える分では足りない。そこでやむなくVADファミリーの構成員から盗っていた臓器を移植し、効率良くエネルギーを摂取する為に路地裏に居た5人の輩を殺害してから腕いっぽんだけ食べ、恩着せがましくカクに強請り膝関節部分を作って貰った。
…ということを、馬鹿正直に暴露したのである。
「はぁ……お前は、本当に目を離すとろくな事をしない……」
「ごめんニャ……もうしないニャ……」
深い溜め息をついてサイドテーブルに項垂れてしまったデュースに、今回ばかりは自分が悪いと謝罪をしたネフェルピトー。しかしデュースは首を振る。
それを目にしたネフェルピトーは謝罪を拒否されたと思ったので死を覚悟したが、彼はただ悲しそうな顔をして猫の頭を撫でたのであった。
「本調子じゃないなら頼ってくれ。おれたちは仲間だろ?」
「デュ、デュース…!!」
突然の優しさに触れたネフェルピトーはコロンと態度を変える。恐怖で緊張させていた身体を元に戻し、毛繕いをしながら適当に喋った。
「なぁんだ、ビビって損したニャ。じゃあ殺した海賊の死体食べてもいい?まだまだ喰べ足りないしお腹も減ってるから。ていうかデュースさ、あんまりこういう特殊なプレイをするのは良くないよ?ボクだったから耐えられたけど、普通の女の子は死ぬと思__」
「と、言ってるぜ?エース船長」
ギギギ、と宿の扉がゆっくりと開く。するとそこにはもしや殺人鬼か!?と叫びたくなる程に恐ろしい般若の顔をしたエースが立っていたのである。背後には重たい気配を揺らめかせており、そのあまりの圧力で空間がピシッと歪む音が辺りに響いた。
「ネフェルピトー…?」
「ひっ!?エース!?盗み聞きしてたの!?」
ネフェルピトーには扉の前に立つエースの気配が感知出来ていなかった。度重なる電撃により感覚神経が麻痺し、円が使い物にならなくなっていたのだ。そのことに気づいたネフェルピトーはボクって意外と電撃攻撃に弱かったんだな……とヘコむ。
もっときちんと特訓を積んでおけば、今みたいにやらかした事諸々の帳尻合わせをしなくて済んだのに。
「おれはあんまし船員に手をあげたくはねぇ。だが言葉で言っても伝わらねぇんなら、殴るしかねぇよな…?」
「エース、おれも手伝う」
「ぼ、暴力反対だニャ!!」
その後ネフェルピトーは抵抗虚しく、エースとデュースから躾という名のガチ暴力に遭う羽目となった。逃げ出そうとするネフェルピトーを、スイッチを押して電気を流し大人しくさせる役目のデュース。
それから「人を殺すにしても痛め付けるやり方は辞めろ!!」と言いながら問答無用で殴ってくるエースのふたりから同時に痛め付けられ、ネフェルピトーは泣いた。
拷問は痛いし、その上仲間から攻撃されるというのが猫のトラウマを刺激したのだ。エースとデュースが何故かゴンとカイトに見えてしまい、思わず猫は「い、生きてたんだねふたりとも…!!」という歓喜の声を上げた。
そこで電流の流しすぎと殴りすぎでネフェルピトーの頭がおかしくなったと判断され、お仕置は無事に終了したのである。
「あの時は死んだかと思ったよね。まだ全快はしてなくて弱かったし、でも仲間だから反撃は出来ないし。ボクも流石に反省したニャ」
「甘いのう……わしなら息の根を止める」
「はは、出来ないって。それよりもさぁ、キミにお願いがあるんだよね」
「……お願いじゃと?」
カクはそう言ってネフェルピトーをジト目で見詰めた。殺しておきたいのは本当なんだろう。彼からは合理的な殺意と利己的な殺意が伝わってくる。ネフェルピトーはふぅ、と息を吐いた。
「あのね____」
サイドテーブルに空になったワイングラスを置いて、本題に入るためにカクに向き直る。
「ポートガス・D・エースが海賊王の息子だという情報を、世界政府に伝えないで欲しいんだ」
「……は?」
ネフェルピトーは囁く様にその言葉を零した。途端に部屋の中の温度が下がり、無音空間へと変化する。サイドテーブルに置かれたワイングラスの水滴が落ちる音が聞こえてくる程に。カクは自分の耳を疑った。
今この女、一体何を口走った?と。
「CP9さ世界政府のわんちゃんだもんネ?」
尻尾を左右に大きく揺らめかせながら、ネフェルピトーはカクに近づいていく。同時にズン、という音が鳴ったと錯覚してしまう程の重い覇気が部屋の中に満ちた。カクはそれによって動きを止められてしまう。今すぐにこの目の前の危険人物を殺さなければならないというのに、だ。
やはりあの時の自分の勘は正しかった。出会った当初なら、まだ勝てる可能性があったのに……と、カクは酷く弱気になる。
「……わしだけを殺しても意味はない。そもそも既に情報を流しているやもしれんじゃろう…」
「ほんとはね、この島に来る前からキミ達の“正体”を知っていたんだ。だからキミと別れた後、ボクは海賊の死体を操って各々見張りをさせた。キミを除いた6人のCP9全員をね。勿論ひとり足りないからボクも働いたけど。……ボクが終始巫山戯てるだけに見えたでしょ?間抜けな怪物とでも考えて気を抜いてたでしょ?」
カツン、カツン、と履いている蒼い革靴でわざと音を立て、ネフェルピトーはカクの恐怖を仰ぐ。一歩進む事に瞳孔は開いて縦に伸び、獲物を捉えた野生動物の様に鼻をひくつかせた。
それはまるで、死という概念が肉の衣を借りて目の前に現れた気分である。カクは自分の心臓の脈が早くなっていくのを感じ取り、思わず胸を抑えた。
「エースの正体を知っているのは今の所キミとカリファって名前の女だけだ。CP9の中だと彼女は最弱だから簡単に殺せるよ。いちばんの懸念点はルッチだったけど……彼ってどうしてもボクを殺したくてしょうがないみたいでさ、エースのことなんか眼中に無いんだ。多分彼って、まだエースの顔も見てないんじゃないかニャ?」
はめ殺しの丸窓から船着場を見下ろす。すると予想通りこちらを見ていたロブ・ルッチに、ネフェルピトーは満面の笑みと共に中指を立てて挨拶を贈った。それを異常に発達した視力で捉えたらしい彼はピキ、と額に血管を浮かび上がらせた。
「ほら、彼はボクに夢中だ」
エースから意識を反らせるためにあの時は咄嗟に攻撃したが、やはり正解だった。あれ程の執着心。同じ猫だからかよく分かる。
一度狙った獲物は息の根を止めてやらなければ気が済まないだろう。
「エースはさ、本当に良い奴なんだよ。ボクみたいに面倒な奴なんて見捨てればいいのに……絶対にそれはしないんだ」
ネフェルピトーはそう言いながらカーテンを閉めた。すると部屋の中がフッ、と暗くなりカクを振り返った彼女の紅い瞳が光って見え、カクはいよいよ我慢できない。今すぐに此奴を殺さなければ!!と袖からピストルを取り出して目の前の怪物に向ける。
チャキ、と音を立てて引き金に指をかけた。
……しかし。
「っ……!?」
気付いた時には瞬きひとつさえカクは出来なかった。辛うじて呻き声が出せると言った所。既にMAXの警戒度を更に押し上げ、なんとかキラリと光る物体を視界の端に見つけた。
「ネフェルピトーという存在は玩具に着想を得てるみたいなんだよね。マリオネットって知ってる?人形を糸で操って踊らせるやつ。正しくボクはそれなんだ」
それは部屋の中に大量に張り巡らされた透明な糸であった。ネフェルピトーから未だに発せられているどす黒い覇気のお陰で浮き出て見えているだけであって、本来なら視認する事さえ出来ないだろうとカクは直感する。
「だから、こんなことも出来るよ……」
「っ」
ネフェルピトーが徐にクイ、と指を動かした瞬間。カクの身体が勝手に動き出す。猫に向けていた筈の銃口が自分のコメカミへと押し付けられた。冷たい鉄の感触を一気に感じ取り、思わず呼吸が跳ねる。
「キミという存在はもしかしたら“彼等”の為に必要不可欠なのかもしれない。けれど、エースの邪魔になるんなら殺すよ。とても心苦しいけどね。ボクはキミの事を、本当に友達だと思っていたから……」
それは嘘であった。カクはとても上質なオーラを持っているので、彼が“主人公チームの経験値”でなければ直ぐにでも殺して喰べている。しかしネフェルピトーは「キミを失いたくないんだ」と至極悲しそうに独り言ちた。
しくしくと泣き真似をしながらカクの膝の上に真正面からストン、と座る。それからゆっくりと顔を近付け、棘付きの舌で彼の頬をざりざり舐めだした。
柔肌が削り取られ、血が滲む。まるで中世の拷問のようだ。
「可哀想に……どうして泣いてるの?」
「……」
気味の悪い言葉であった。
涙の様に垂れ落ちる血液を舐めとって笑う猫は随分と興奮しているのか、顔を上気させて頬から滲み出る血をちゅうちゅう啜っている。傀儡師から動く許可が与えられていない哀れなマリオネット状態のカクは、それを静かに受け入れるしかない。
ぴちゃぴちゃという水音と、はぁはぁというネフェルピトーの乱れた呼吸に、部屋の中には官能的な雰囲気が生まれていた。
「…で?黙っててくれるの?キミは遠回しにボクが金を払わずに姿を消した海賊達と関わりがあるという事をデュースに伝えていたね。もしエースの秘密を似た手口で誰かに漏らしたら……ボクは必ずキミを殺しに行くよ」
ネフェルピトーは様子を一転させ、凄まじい殺気を込めてそう言った。それは正しく“断ったら今すぐ殺す”という警告だ。酷く怯えた表情をしているカクの瞳をギロ、と見詰める。
「っ…!!」
両手を頬に添えられて鋭い爪が皮膚に触れたその瞬間。身体を縛っていた拘束が解け、口のみを動かせるようになった。
「ボクの願い、カクなら叶えてくれるよね…?」
彼はずっと考えていた。恐怖の間もきちんと思考を回していたのである。
強敵と対峙している時に頭が真っ白になったら終わりだ。
それは直接的な死を意味する。
「……勿論じゃ、わしはお前さんの友達…じゃからな」
よってカクの口から出たものは、そんな保身の言葉であった。ネフェルピトーはその言葉を噛み締めるかのように瞳を閉じ、次の瞬間にはパッと笑って糸を全て消す。
それから「怪我してるの?ボクが治してあげる」と白々しく言って
「じゃあ、宴を続けよう。きっと夜通しやるだろうし、出航は明日の朝かニャ?それまでたっぷりと時間があるから……ふたりで楽しもうね、カク」
きゅ、と手を繋ぐ。カクの手は氷のように冷たくなっていた。その上心做しか震えが残っているのである。ネフェルピトーはそれに気付くと怖がらせ過ぎちゃったかな……?と申し訳なく思ったが、3秒後には忘れてしまいサイドテーブルに置いてあったおつまみをポリポリと食べ始めていた。
「……はぁぁぁぁぁ。ひとまず離れてくれんか?お前さんが怖くてうっかりすると殺してしまいそうになるんじゃ…」
そう言うと、ネフェルピトーはあっさり手を離してくれた。それから隣の椅子に座り、サイドテーブルから空っぽのグラスを手に取ってワインを注ぎ始める。
「カクって人殺し童貞みたいなこと言うネ」
「そんなもんはないわい………後、それで言うならわしは非童貞じゃ」
再び巫山戯たことを言い始めたネフェルピトーに対し、カクはツッコミを入れながら自分の顔を大きな手で覆って椅子に項垂れた。そうして残った片方の手でグラスにワインを注ぎグイ、と一気に煽ぐ。酒を飲まないとやってられない。
今しがた殺されそうになった相手と、次の瞬間には笑いながら話せる程……自分は狂ってはいないのだから。
「フフ、CP9として育てられたから感覚がボクと似てるのかな?怖いものは消しておきたいっていうの、よく分かるよ」
「……お前さん、一体どこまで知っとるんじゃ…?いやそもそも、何故わしらの事を…」
そこまで言ってから、カクは口を閉じた。
ネフェルピトーが哀愁じみた顔をしてこちらを見ていたからである。いつもの様な人外めいた雰囲気はない。ただ浜辺に立って海を眺め、島を出ていったっきり戻らない夫を憂う女の様であった。
「お前さんは……」
その顔は親を亡くした幼子の様にも見えてしまい、カクでさえ酷く哀れに思ってしまう程である。そういう表情をする幼子はこれまで幾度となく目にしてきたし、させてきた。しかしそれでも彼女から醸し出される空気は群を抜いている。
人殺しのカクでさえ……情けをかけたくなる気分にさせられた。
「わしには、救えないのう」
この時カクは、改めてネフェルピトーの事を“かいぶつ”だと認識した。正体の分からない不気味な生き物。それを世間では怪物と呼ぶが、正しくネフェルピトーを指す言葉なのだろう。先程までは戦争で1000人殺した英雄のように猛々しかったというのに、今じゃ迷子の子猫ちゃんだ。
その歪な成り立ちは、彼女もまたカクと同じく誰かによって“作られた存在”だからであろうか。
「……そう。友達なのに、冷たいンだね」
ネフェルピトーは特に何も考えていなさそうな間抜けな顔に戻ってそう言った。しかしその背後には無視できない程の濃い悲壮感が漂っている。白と黒の絵の具の何方にも属せぬ。故に、何方にも成りきれない灰色に収まるしかなかった。
そんな名前のない怪物を、どうやって救えばいいのだろう。
「わしは人間じゃからな…」
人間を救えるのは人間だけ。
同様に“怪物”を救えるのは、これまた“怪物”だけなのだ。